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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない 042
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない 042
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない 042
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない 042
審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない 042
管理番号 1064706 
審判番号 無効2000-35444 
総通号数 34 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2002-10-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-08-24 
確定日 2002-08-07 
事件の表示 上記当事者間の登録第4207374号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4207374号商標(以下、「本件商標」という。)は、平成6年12月20日に登録出願、商標の構成を後掲に示すとおり、「SALVATORE」の欧文字及び「サルヴァトーレ」の片仮名文字とし、指定役務を第42類「飲食物の提供」として、平成10年11月6日に設定の登録がされたものである。

2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める、と申し立て、その理由及び請求人の答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第8号証を提出している。
(1)本件商標は、イタリー料理人として日本国において業界および顧客の間で著名な存在である請求人サルヴァトーレ・クオモ(日本名:重田サルバトーレ(甲第3号証)の著名な略称である「SALVATORE」ないしは「サルヴァトーレ」を含み、請求人が嘗て被請求人の事業展開に協力したことを奇貨として請求人の承諾を得ることなく商標登録出願され、登録されたものである。
(2)請求人がイタリー料理人として、日本国において著名な存在である事実は、例えば、次の資料等により確認することができる。
(ア)イタリー料理に係る著書「NAPOLIナポリの食卓へようこそ」株式会社柴田書店1995年12月15日初版発行(甲第4号証)
(イ)イタリー料理に係る著書「VIVALAPASTAパスタは陽気に」株式会社柴田書店1997年1月20日初版発行(甲第5号証)
(ウ)イタリー料理に係る著書「La Cucina del Sole太陽の食卓」株式会社マイストロ1999年2月15日初版発行(甲第6号証)
(エ)WOWOW料理番組「ボナセーラ!サルヴァトーレ・クオモの本格イタリアン」平成11年3月ないし平成12年3月までの毎週月曜午後7時30分放送を紹介するインターネット・ホームページ(甲第7号証)。なお、必要であれば放送された同番組を録画したビデオを提出する用意がある。
(オ)テレビコマーシャル「ブイトーニ フライパンでイタリアン」シリーズ平成11年10月ないし平成12年3月までの放映を紹介するインターネット・ホームページ(甲第8号証)
従って、「SALVATORE」ないしは「サルヴァトーレ」は、イタリー料理人である請求人の著名な略称である。
(3)それ故、被請求人がイタリー料理の提供に本件商標を使用するとき、請求人の料理の提供を信じる顧客に著しい不利益を与えることになり、顧客の利益の保護を目指す商標法第1条の法の精神に反するから、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号の規定に違反する。
(4)さらに、先に指摘した通り本件商標は、請求人の著名な略称を含むものであり、しかも請求人が被請求人に対し商標登録の許諾を与えた事実もないから、本件商標は、商標法第4条第1項第8号の規定に違反する。
(5)また、「SALVATORE CUOMO」ないしは「サルヴァトーレ・クオモ」は、イタリー料理の提供者である請求人の商標として需要者の間に広く認識されている商標であり、本件商標はこれに類似するものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号の規定に違反する。
(6)そして、イタリー料理の提供に関し、請求人の周知著名な商標を被請求人が同じくイタリー料理の提供に使用することにより、請求人の料理提供サービスと混同を生ずることになり、従って、本件商標は、商標法第4条第1項第15号の規定に違反する。
(7)加えて、イタリー料理の提供につき、請求人の周知著名な商標を被請求人が同じくイタリー料理の提供に使用すれば請求人に著しい不利益が生ずるから、このような商標の登録は、商標法第4条第1項第19号の規定に違反する。
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号、同第15号及び同第19号の各規定に違反してされたものであるから、同法第46条第1項第1号によりその登録は無効とされるべきである。
(8)被請求人の答弁に対する弁駁
(イ)被請求人提出の答弁書中、最も重要な内容は、下記3(3)(a)ないし(c)の項において述べる部分である。
(ロ)被請求人提出の乙第2号証(「件外異議申立事件」)をみると、同異議申立手続の代理人は本件無効審判請求事件の被請求人の代理人と同一人物であり、同人が本件無効審判請求人の代理人として手続を代行した異議申立事件(以下、「件外異議申立事件」という。)の理由補充書において、「商標登録異議申立人である『重田サルバトーレ』氏は、イタリア料理に精通しているシェフである。この事実については、レストランのちらしを甲第2号証として提出する。そして、本願商標の構成中には、イタリア料理に精通している商標登録異議申立人の氏名の一部である『サルバトーレ』が実質的に含まれている事から、本願商標の登録には『重田サルバトーレ』氏の承諾が必要であり、その承諾のない本願商標は、商標法第4条第1項第8号の規定に該当してその登録が拒否されるべきものである。」と主張し、かつ、その立証を試みていることが窺われる。
つまり、被請求人の代理人の認識においても、本件無効審判請求人は著名なイタリア料理人であり、請求人の主張および立証は奇しくも被請求人の提出にかかる乙第2号証により裏付けられたと云える。
したがって、被請求人の主張する通り、請求人の活動実績、活動期間、活動地域、マスコミの反応等を総合的に勘案すれば、請求人が特定の他人を認識させるものとして広く認識されていたことは明らかである。

3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第5号証を提出している。
(1)本件商標は、欧文字の「SALVATORE」と片仮名文字の「サルヴァトーレ」を併記して構成され、第42類の「飲食物の提供」を指定役務とする。
(2)請求人は、イタリー料理人として、日本国において著名な存在である事実を立証するとして甲第4号証ないし甲第8号証を提出しているが、これらの甲各号証から、請求人であるサルヴァトーレ・クオモ(日本名:重田サルバトーレ)が日本国内において著名な存在であるとは認めることができない。
(3)同様に、本件商標を構成する「SALVATORE」ないしは「サルヴァトーレ」がイタリー料理人である請求人の著名な略称と認めることもできない。
(a)請求人が無効理由の1つとして掲げている商標法第4条第1項第8号に規定する「他人の氏名の著名な略称」であるか否かは、当該他人の活動実績(活動開始時期、活動期間、活動地域、マスコミ等における取り上げ実績、本人や関係者等の宣伝実績、等々)を総合的に勘案し判断するものであり、その結果、当該略称が既に特定の他人を認識させるものとして、広く一般的に認知(周知著名化)されている場合に限り、本号が適用されるものである。
(b)そして、請求人の提出した甲第4号証ないし甲第8号証によっては、どのような事実や実績によって、何時より、「SALVATORE」や「サルヴァトーレ」が、審判請求人氏名の「著名な略称」となったのか一切示されておらず、被請求人の調査によっても、このような事実は発見できない。
よって、本件商標が商標法第4条第1項第8号に規定する「他人の氏名の著名な略称を含む商標」に該当しないことは明らかである。
(4)本件商標は、当初、本件審判請求人である重田サルバトーレ名義で出願されたものであるが(該出願は、その後、平成10年3月27日付「商標登録出願人名義変更届」により本件審判の被請求人である「株式会社ベラヴィータ」に権利譲渡され、現在に至っている。)、結果的に審査手続において商標法第4条第1項第8号を適用されることなく登録された経緯がある。
また、乙第2号証は、件外第三者による商標出願(「DA/SALVATORE/RISTRANTE」,商願平4-260947号)に対して当時の登録異議申立人であり本件審判請求人である重田サルバトーレが行った商標法第4条第1項第8号該当を理由とする商標登録異議の申し立て並びに同申立書写しであるが(以下、「件外異議申立事件」という。)、乙第3号証(件外異議申立事件に係る登録異議の決定謄本写し)にあるとおり、同法条の適用は認められなかった経緯もある。
(5)このほか、請求人は無効理由を種々述べているが、本件商標が請求人の著名な略称を含むものとは認められないため、本件商標はそのいずれの規定にも該当するものではない。そして、本件商標「SALVATORE」は、「救世主」との意味を有し(乙第5号証)、商標としての適格を充分に備えている。
また、本件商標を構成する「SALVATORE」や「サルヴァトーレ」から、一般の需要者が請求人であるサルヴァトーレ・クオモ(日本名:重田サルバトーレ)を認識するという事実も存在しない。

4 当審の判断
(1)本件商標について
本件商標は、後掲したとおり、「SALVATORE」、「サルヴァトーレ」の各文字を上下二段に表してなるものであるところ、伊和辞典を繙いてみるに、該文字は伊語において「救済者、救世主」等を意味する語(株式会社白水社1989年発行新伊和辞典「salvatore」の項より)と認められるとしても、その意味合いをもって一般に親しまれ馴染まれている平易な外国語または外来語とはいい難く、その証拠も見出せないから、これに接する取引者・需要者は、むしろ、ある種抽象的固有名称の如く理解するに止まり、専らその外観構成とこれに相応して生ずる「サルヴァトーレ」または「サルバトーレ」の称呼をもって取引に資するとみるのが取引の経験則に照らし相当である。
(2)無効理由(条項)の判断の基準時について
請求人は、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号、同第15号及び同第19号該当(違反)を理由に本件商標の登録の無効を述べている。しかして、これら無効理由のうち、商標法第4条第1項第7号を除く他の法条の規定については、登録時に該当していても出願時に該当していないものは不適用とする旨定められているから(商標法第4条第3項)、この点に留意しつつ、請求人主張の当否について、以下、検討する。
(3)請求人提出の甲各号証について
(ア)甲第3号証は、請求人「重田サルバトーレ」(SHIGETA SALVATORE)の旅券(パスポート)写しであって、同記載によれば、請求人は、伊語名を「Salvatore Cuomo(サルヴァトーレ・クオモ)」とし、1972年生まれの日本国籍を有する者と認められる。
(イ)甲第4号証は、請求人「重田サルバトーレ」著述,柴田書店1995年12月15日発行に係る「NAPOLI ナポリの食卓へようこそ」と題する出版物と認められる。同書の著者紹介として、「サルヴァトーレ・クオモ(Salvatore Cuomo):ナポリ育ち、父が料理人だったため、11歳の時にピザ職人に弟子入りし、料理の世界に入る。14歳からイタリアと日本を行ったり来たりの生活をしてきたため、2カ国語とも堪能、いずれの国でも料理の修業をしている。現在、『リストランテ・ピッツェリア サルヴァトーレ(Ristorante-Pizzeria Salvatore),東京都港区東麻布2-23-14-B1F』店のオーナーシェフであると同時に、イタリア料理のコンサルティングや講師を務める。」との記載が認められる。
(ウ)甲第5号証は、請求人「重田サルバトーレ」及び「ジローラモ パンツェッタ」共著,柴田書店1997年1月20日発行に係る「VIVA LA PASTA パスタは陽気に」なる表題の出版物と認められる。同書の著者紹介として、「サルヴァトーレ・クオモ:1972年、イアタリア人の父と日本人の母の間に生まれたナポレターノ。父が料理人だったため、11歳の時にピザ職人に弟子入り、14歳からはイタリアと日本を行ったり来たりの生活をし、料理の修行を積む。1995年4月、東京・中目黒にナポリらしいガヤガヤした雰囲気と味の『リストランテ・ピッツェリア・サルヴァトーレ』を開店し、大繁盛。メーカーやレストランのコンサルティング、料理教室の講師など方々で活躍する。・・・」等の記載が認められる。
(エ)甲第6号証は、請求人「重田サルバトーレ」著述,株式会社マイストロ平成11年2月15日発行に係る「La Cucina del Sole(太陽の食卓)」なる表題の出版物(抜粋)であって、同書は、請求人による各種イタリア料理の解説書と認められる。
(オ)甲第7号証は、「(c)2000 WOWOW Japan Satellite Brordcasting,Inc.」の提供に係る毎週月曜午後7時30分放送のWOWOW料理番組「ボナセーラ!サルヴァトーレ・クオモの本格イタリアン」に関するインターネット・ホームページ情報と認められる。同情報によれば、請求人が「リストランテ・ピッツェリア・サルヴァトーレ(東京・東麻布)」のオーナーシェフであること、その他、同氏による料理番組の特長等が写真入りで紹介されており、その時期は、前記提供主体(日本衛星放送)に係る表示からみて少なくとも2000年次(平成12年)のものと推測される。
(カ)甲第8号証は、「Copyright(c)1999 Nestle Japan Limited」の提供に係る1999.10.15付「ブイトーニ フライパンでイタリアン」とする当該製品広告に関するインターネット・ホームページ情報と認められる。同情報によれば、ネスレ日本株式会社が9月(平成11年と思われる)に新発売した製品を使った料理のテレビコマーシャルにサルヴァトーレ・クオモ氏(請求人)を起用したこと、当該CM放送が同年10月以降関東・関西地区で放送予定であること、当該料理の特長及び「東麻布に『リストランテ・ピッツェリア サルヴァトーレ』を経営するオーナーシェフである」こと、その他前述同旨の請求人に係るプロフィール情報が認められる。
以上の(ア)ないし(カ)の各認定によれば、イタリア名を「サルヴァトーレ・クオモ」とし、早くからイタリア料理に志した請求人「重田サルヴァトーレ」は、いくつかの著作物を著し、また、イタリア料理の放送番組(衛星放送)及びテレビコマーシャルに一時期出演し、さらには、「リストランテ・ピッツェリア・サルヴァトーレ」とするイタリア料理店を経営するなどして(店舗所在地が東京・中目黒及び同・東麻布の両所であるのか、或いはその一方であるのか、はたまた、現在は別の地にあるのか等、提出証拠によっては同店舗の現在の状況は必ずしも定かでない。)、主としてわが国のイタリア料理の嗜好者ないしは一定の地域範囲の需要者間において、いわゆるイタリアン・シェフとして一定程度知られる者であることが認められる。
しかしながら、次項に述べるとおり、それら請求人標章の周知性は俄に認め難い。
(4)請求人標章に対する需要者の認識の程度等について
請求人「重田サルバトーレ」または「サルヴァトーレ・クオモ」(Salvatore Cuomo)の姓名ないし標章が飲食物の提供の役務の分野に関し本件商標の登録出願時である平成6年12月(20日)においてわが国の不特定多数の需要者間に広く認識せられたものとする点については甚だ疑問であって、提出証拠によっては、その著名性は客観的に明らかでなく、況や、同氏の略称であるとする「サルヴァトーレ」(Salvatore,SALVATORE)等の標章が前記分野・時期においてわが国の需要者間に広く認識せられたものとみるのは到底困難といわなければならない。
すなわち、
(a)甲第4号証ないし甲第6号証は、請求人がイタリア料理に関する著作物を1995年(平成7年)、1997年(平成9年)及び平成11年にそれぞれ書き著した(共著を含む。)ことを示すに止まり、その出版・購読事情、すなわち、出版部数・販売地域・書評ほか関連諸事情は全く不明であって、その量的、時間的または地域的購読事情を具体的に把握することができないから、これら証拠をもって直ちに請求人「重田サルバトーレ」または「サルヴァトーレ・クオモ」(Salvatore Cuomo)の姓名ないし標章が本件商標の登録出願時において著名性を有していたものということはできない。また、その略称とする「サルヴァトーレ」(Salvatore,SALVATORE)等の標章についても同様であって、その著名性は客観的に証明されない。
(b)甲第7号証及び甲第8号証は、請求人が2000年(平成12年)にテレビ放送された特定の料理番組に出演したこと、また、1999年(平成11年)に特定食品メーカーのいわゆるCMキャラクターに起用され、同CM放送が同年10月以降放送予定であること等、同氏が平成11年の後半から同12年にかけていわゆるイタリアン・シェフとして注目されるに至った状況が一定程度認められるとしても、それ以前の周知事情は不明というほかはないから、「サルヴァトーレ・クオモ」(Salvatore Cuomo)の姓名ないし標章が本件商標の登録出願時において需要者間に広く認識せられたものということはできない。そして、これら放送メディアに登場する請求人は常に「サルヴァトーレ・クオモ」または「Salvatore Cuomo」のいわゆるフルネームにより紹介されており、その略称とする「サルヴァトーレ」(Salvatore,SALVATORE)等の標章の表示例は全く見出せないから、本件商標の登録出願時において、「サルヴァトーレ」または「SALVATORE」の標章が請求人姓名の著名な略称であったということもできない。
(c)前記認定の出版物(甲第5号証、甲第6号証)及びインターネット・ホームページ情報(甲第8号証)を通じて掲載されたプロフィール紹介により、請求人が「リストランテ・ピッツェリア・サルヴァトーレ(Ristorante-Pizzeria Salvatore)」なるイタリアン・レストランのオーナー・シェフであり(同店舗の現在の状況が必ずしも定かでないとしても)、また、同名称または標章(以下、「店舗商標」という。)の下に当該「イタリア料理の提供」の業務を行っていること等の点は認め得るとしても、同店舗に関する営業規模、売上げ実績その他取引状況を具体的に示すものでなく、また、同店舗の広告・宣伝の実績(広告の方法・期間・地域・費用等)も不明というほかはなく、ほかに同店舗または店舗商標の周知・著名性を具体的かつ客観的に示す証拠は見出せないから、結局、それら甲号証をもってしては、本件商標の登録出願時において、請求人店舗または店舗商標が当該「イタリア料理の提供」の役務について、取引者、需要者間に広く認識されたものということはできないし、況や、「サルヴァトーレ」または「Salvatore」が同店舗名称または店舗商標の略称として周知・著名であったものとは到底認めることができない。
そして、このほか述べる請求人の主張は、いずれも論拠を欠くものであって、前記認定を左右するに足りない。
以上、(a)ないし(c)に認定したとおり、請求人提出の甲各号証をもってしては、請求人「重田サルバトーレ」または「サルヴァトーレ・クオモ」(Salvatore Cuomo)の姓名ないし標章が飲食物の提供の役務の分野に関し本件商標の登録出願時である平成6年12月(20日)時点においてわが国の不特定多数の需要者間に広く認識せられたとする状況はなく、また、その略称であるとする「サルヴァトーレ」(Salvatore,SALVATORE)等の標章についても同様であり、かつ、その経営に係りオーナーシェフであるとする料理店名または店舗商標「リストランテ・ピッツェリア・サルヴァトーレ(Ristorante-Pizzeria Salvatore)」またはその略称とする「サルヴァトーレ」または「Salvatore」の周知事情も全く不明というほかはないから、それら姓名ないし標章並びに料理店名または店舗商標及びそれらの略称(以下、これら請求人に係る標章を一括して「請求人商標」という。)の周知・著名性は客観的に証明されない。
(5)無効理由の当否について
(A)請求人は、本件商標を使用すると請求人提供の役務を信ずる顧客に対して著しく不利益を与えるとし、また、請求人が嘗て被請求人の事業展開に協力したことを奇貨として請求人の承諾を得ることなく商標登録を受けた旨述べ、本件商標の商標法第4条第1項第7号該当(違反)を主張している。
しかしながら、「SALVATORE」、「サルヴァトーレ」よりなる本件商標からは、ある種抽象的固有名称の如く理解される程度のものであって、専らその外観構成とこれに相応して生ずる「サルヴァトーレ」または「サルバトーレ」の称呼をもって取引に資されるものであること前記4(1)に示すとおりであって、それ自体は何ら公序良俗に反するものでないし、また、これを使用することが社会公共の利益・一般道徳観念に反するものともいい難く、さらに、他の法律によってその使用が禁止されているものということもできない。
そして、請求人店舗及び店舗商標に関する事情は前記認定のとおりであって、その著名性は客観的に認め得るところでなく、また、本件商標が顧客に対して著しく不利益をもたらす旨述べる請求人の主張は、これを理由づけるべき具体的事実関係ないし取引状況等が全く示されていないから、俄に首肯し得るところでなく、採用の限りでない。
さらに、請求人が嘗て被請求人の事業展開に協力した旨述べる事情については、具体的な事実関係が全く明らかでなく、被請求人が本件商標の商標登録を受けるについてこれを極めて不当とするような特段の事情は見出せない。また、この点に関し、被請求人が前記3(4)において述べた本件商標の出願手続中における譲渡事情について、請求人は何ら反論ないし意見を述べていない点を推測するに、当事者間の真意が何であったのかという事情はともかく、少なくとも、請求人が被請求人による本件商標の商標登録を容認した事実を認めるのに十分であるから、これら事情を併せ考慮するに、被請求人による本件商標の取得ないし使用を論難する請求人の主張は、合理性を欠くものといわなければならない。
以上のとおり、本件商標の商標法第4条第1項第7号違反を述べる請求人の主張はいずれも妥当でなく、その理由をもって本件商標の登録を無効とすることはできない。
(B)請求人は、請求人商標(「重田サルバトーレ」、「サルヴァトーレ・クオモ」、「Salvatore Cuomo」、「サルヴァトーレ」、「Salvatore」、「SALVATORE」、「リストランテ・ピッツェリア・サルヴァトーレ」、「Ristorante-Pizzeria Salvatore」)の周知・著名性を理由に、本件商標の商標法第4条第1項第8号、同第10号、同第15号及び同第19号違反を主張している。
しかしながら、前述4(4)(a)ないし(c)に認定したとおり、請求人提出の甲各号証をもってしては、本件商標の登録出願時における請求人商標の周知・著名性は全く明らかでなく、該事実は客観的に証明されないから、これを理由に述べる請求人の主張は、いずれも妥当性に欠けるものであって、採用することができない。
そうとすれば、本件商標は、当該他人の氏名またはその著名な略称を含むものとはいえず、また、他人の業務に係る役務を表示するものとして需要者間に広く認識された商標ともいえず、かつ、他人の業務に係る役務の如くその出所について混同を生ずるおそれもなく、さらに、前記事情よりして不正の目的をもって使用するものということはできないから、結局、本件商標は、請求人主張の各法条の規定のいずれにも該当するものということはできない。よって、これらの点を述べる請求人の主張をもって本件商標の登録を無効とすることはできない。
請求人は、被請求人代理人が件外異議申立事件(乙第2号証)の代理人であった事情並びに同事件において請求人名称ないしその略称である「サルヴァトーレ」(Salvatore,SALVATORE)標章の著名性を理由に商標法第4条第1項第8号該当を主張した事実は奇しくも請求人が当該特定の他人を認識させるものとして広く認識されていたことの証しである旨述べているが、件外異議申立事件は、商標法第4条第1項第8号該当の当否について「登録異議申立は理由がない」旨の登録異議の決定の下にすでに終了した(決定謄本発送日:平成9年5月30日)事件であり、また、そもそも代理人は当該出願または審判事件(異議申立事件を含む。)に関し専ら当事者本人の意思の下に代理業務を任ずる者であるから、たとえ、本件審判において被請求人代理人が件外異議申立事件と相反する主張をしたとしても、それ自体は何ら違法なものとはいい難く、本件審理に何ら不都合を来すものではない。よって、この点を述べる請求人の主張は妥当でなく、採用の限りでない。
このほか述べる請求人の主張をもって前記認定を覆すことはできない。
(5)結語
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号、同第15号及び同第19号のいずれの規定にも違反して登録されたものとはいえないから、その登録は、同法第46条第1項により、これを無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 本件商標


審理終結日 2001-11-21 
結審通知日 2001-11-27 
審決日 2001-12-13 
出願番号 商願平6-127808 
審決分類 T 1 11・ 23- Y (042)
T 1 11・ 25- Y (042)
T 1 11・ 222- Y (042)
T 1 11・ 22- Y (042)
T 1 11・ 271- Y (042)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 巻島 豊二柳原 雪身 
特許庁審判長 原 隆
特許庁審判官 高野 義三
野上 サトル
登録日 1998-11-06 
登録番号 商標登録第4207374号(T4207374) 
商標の称呼 サルバトーレ 
代理人 神崎 正浩 
代理人 浜田 治雄 

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