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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない 107
審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない 107
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない 107
管理番号 1063091 
審判番号 審判1999-35757 
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2002-09-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-12-20 
確定日 2002-07-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第2712198号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第2712198号商標(以下、「本件商標」という。)は、昭和62年6月6日登録出願、商標を後掲(1)に示すとおり「力王」の文字とし、指定商品を第7類「金属製の建築又は構築専用材料」として、平成8年1月31日に設定の登録がされたものである。

2 請求人の主張 請求人は、本件商標の登録はこれを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めると申し立て、その理由および被請求人の答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第70号証を提出した。 (1)請求理由の要約
本件商標はその指定商品の需要者の間で著名な請求人の略称からなるにもかかわらず、同人の承諾を得ることなく登録されたので、商標法第4条第1項第8号に該当する。また、「力王」は請求人の地下たびの商標としてその指定商品の需要者の間で著名なものであったので、本件商標がその指定商品に使用された場合には出所の混同が生じる。したがって、本件商標は商標法第4第1項第15号に該当する。さらに、本件商標は著名な会社名の略称及び商標である「力王」を不正の目的をもって出願したものであるから、商標法第4条第1項第7号にも該当する。よって、その登録は、同法第46条第1項によって無効とされるべきである。
(2)総括的理由
(イ)請求人会社の沿革
請求人会社の沿革は、甲第2号証「力王25年のあゆみ」に示すとおりである。すなわち、昭和23年10月に行田ゴム工業(前身)株式会社を設立して以来、昭和24年5月に地下たびの生産を開始し、昭和26年に跣たびを開発,商標「力王」の使用を開始した。その後も「力王跣たび」は利用者の注目を集める一方で他人による類似品も出回った。昭和34年に星王縫工株式会社・力王商事株式会社を設立した。昭和37年に「力王跣たび」の農林大臣賞・ブルーリボン賞を受賞した。昭和39年に「力王たび(縫い付けたび)」を完成し、ゴム底踏まず部の湾曲のアイデアが好評を博し、縫い付け地下たびに新風を起こした。昭和42年に社名を「力王ゴム株式会社」と改称し、昭和43年に台湾力王を設立した。次いで昭和48年1月に社名を「株式会社力王」と改称した。昭和48年7月に韓国力王の創業を開始した。昭和49年1月に石材「キングストン」を発売した。昭和54年にフィリピン共和国セブ市に力王東南アジア株式会社を設立・創業した。昭和57年11月に中国南通力王有限公司工場が竣工し、昭和58年1月に中国工場での生産を開始した。
(ロ)請求人に係る「力王」標章(商標)の著名性
(a)需要者の共通性
本件商標の指定商品である金属製の建築又は構築専用材料は土木・建築関係者が需要者となる。一方、請求人が取り扱っている地下たびも土木・建築関係者が需要者となる(甲第3号証)。土木・建築関係者にとって土木・建築工事現場で履く地下たびは必要不可欠のものである。このように、本件商標の指定商品と請求人の商品とは需要者を共通にしている。
(b)商品面からの浸透
上述したように、請求人は昭和26年から商標「力王」を地下たびに継続的に使用してきたものであり、「力王跣たび」は昭和30年頃すでにその優秀性が広く認められ、また、「力王たび(縫い付けたび)」は、縫い付け地下たびの分野において大きな評価を得ていた。そして、請求人は、昭和42年から「力王ゴム」、同48年から「力王」の社名を使用している。すなわち、請求人は本件商標の出願前36年以上に渡って商標「力王」を使用し続け、また、20年もの間「力王」を社名として使用し続けていた。また、請求人は昭和43年に海外進出しその成功もあって地下たびの分野では市場占有率60〜70パーセントを占めるに至った。
(c)宣伝広告による浸透
請求人は業界紙たる「シューズポスト」及び「ゴムタイムズ」に、昭和49年、50年頃から現在に至るまで、継続して広告を掲載し、また、昭和33年7月から現在に至るまで30年以上に亘る間、日本経済新聞夕刊第1面の題字下広告を1ヶ月に1回の割合で行ってきており、これら広告活動により「力王」商標が多くの読者に浸透し企業としてのステータスがすでに確立しているものである。このほか、請求人は製品広告をラジオ放送、テレビ放送、ポスター・看板等を用いて頻繁に行った。
(d)海外進出の経営戦略による著名性
請求人が昭和43年以降行った海外進出の成果は、本件商標の出願の前後頃に海外進出のパイオニアとして数多くの経済関係の雑誌、新聞を中心に全国紙・地方紙に紹介され、或いは講読者の多い文芸春秋においても取り上げられた。
(e)企業としての優秀性による著名性
海外進出事業により、請求人が1985年当時すでに社員1人当りの売上高が2億4千万円という驚異的な利益率を挙げる結果をもたらしたことは海外投資ガイド1985年3月号(甲第4号証)に示されている。
(f)まとめ
以上述べた如く、「力王」は、本件商標が出願された昭和62年6月当時には、永年に渡る商品販売、商品の市場における寡占とも言える占有率の高さ、永年に渡る宣伝広告活動、海外進出の先駆者及び成功者、企業としての優秀性によって、請求人のハウスマーク及び請求人の商号の略称として、本件商標の指定商品である土木・建築関係者の間で知らない者がいない程著名なものとなっていた。
(3)具体的理由
(a)商標法第4条第1項第8号
「力王」の文字よりなる標章(以下、「請求人標章」という。)は請求人の商号の略称として、本件商標が出願された当時その指定商品の需要者の間で著名となっていた。また、本件商標の出願後、その登録時を含む現時点においても著名なものである。本件商標は、この請求人標章と全く同一のものであるから、その登録に際しては、請求人からの承諾が必要であったにもかかわらず、本件商標はこの承諾なしに登録された。したがって、本件商標は商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものとなる。
商標法第4条第1項第8号は文理解釈上、問題となる商標が著名な略称を含んでいれば、出所の混同を生じるか否かにかかわらず、適用されるべきである。また、出所の混同の発生をこの規定の適用の要件とした場合には、著名な略称が往々にしてハウスマークであることが多い実情の下では、商標法第4条第1項第15号以外に該規定を設けた意味がない。商標法第4条第1項第8号は、著名な略称となっている者の人格権を保護する規定であり、その人格権が毀損されるおそれがある場合には、出所の混同を生じるか否かにかかわらず、適用されるべきものと解される。
地下たびの「力王」という認識で本件商標の指定商品の需要者の間で広く認められ、加えて、海外進出の成功・従業員一人当たりの収益性の高さから優秀な企業(いわゆるエクセレントカンパニー)として認められている請求人は企業としての高い人格権を有していると言える。この点で、本件商標の指定商品との関係で請求人の企業の人格権は保護すべき要請が高く、もし、請求人標章が何ら関係のない第三者に無断で使用された場合には、企業イメージが希釈化され人格権が毀損されることは明らかである。
とりわけ、上述したように、「力王」は造語であって、請求人標章及び請求人のハウスマーク以外の意味合いしかないので、「力王」に接した需要者はこれから地下たびの「力王」という意味以外を感得することはない。この点で、本件商標の使用により請求人の人格権が毀損されるおそれは大きいものと言わざるを得ない。このように、商標法第4条第1項第8号の趣旨からしても、該規定が適用されるべきである。
(b)商標法第4条第1項第15号
上述したように、請求人がその取り扱いに係る地下たびについて一貫して使用してきた「力王」商標(以下、「請求人商標」という。)は、請求人のハウスマークとして本件商標の指定商品の需要者の間で著名なものとなっていた。本件商標は請求人商標とは全く同一のものと認められる。近年は企業は子会社を通じてその業務を多角化する傾向がある。現に、請求人自身、地下たび以外に土木・建築材料の一つである石材を取り扱っていた(甲第2号証「力王25年のあゆみ」192頁及び193頁)。また、著名商標はそこに化体する業務上の信用が高く、そのため、顧客吸引力に優れている故に、本来の分野とは無関係な分野で使用を許諾されることが多い。
特に、請求人商標は請求人の創作にかかる造語であって、「力王」に接した場合には、本件商標の指定商品の需要者はこれから請求人のハウスマーク及び請求人商標以外の意味合いを感得することはない。
以上述べた事情に鑑みると、本件商標がその指定商品に使用された場合には、需要者は当該商品が請求人と人的ないしは資本的に関係のある者ないしは請求人から使用許諾を受けた者の業務に係るものであるとその出所について混同するは必定である。したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものとなる。
(c)商標法第4条第1項第7号
本件商標の商標権者はその商品を通して土木・建築関係者と取引するものであるから、必然的にこの業界の取引事情には精通していたと言える。そうであるとすれば、本件商標の商標権者は土木・建築関係者が履く地下たびの「力王」の存在を知り得ていたことは疑いようもない。そして、請求人商標が造語であることからして、たまたま同じ商標が採択されたとは考えられない。
一方、請求人商標が請求人による永年の企業努力により、本件商標の指定商品の分野では顧客吸引力の大きい財産的に極めて価値のあるものとなっている。これを勝手に採択し使用することはその財産的価値を損なう。商標採択は本来は自由であるとしても、商業道徳に反するような採択は許されないと言わざるを得ない。仮に、不正の目的がなくとも、商業道徳上産業界に属する者としては財産的価値の高い他人の著名な造語からなる商標の採択は商業道徳上避けることが求められていると言える。
また、商標法が取引秩序の維持を目的とする以上、商標法第4条第1項第7号の「公の秩序」とは取引秩序を含むと解される。であるとすれば、取引の秩序を乱す商業道徳上に反して採択された商標はこの規定に該当すると言える。
以上述べた如く、本件商標は商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものといえる。
(4)被請求人の答弁に対する弁駁の理由
(ア)商標法第4条第1項第8号違反
(a)請求人標章(商標)の著名性
被請求人は、請求人が提出した証拠中の大多数が請求人が海外に生産拠点を移して事業を成功させた企業として紹介されている新聞・雑誌記事等であって、これをもって直ちに請求人標章が著名であるとは言えないと主張するが、日本独特の商品である地下足袋を製造・販売していた請求人が当時どこの企業も行っていなかった海外に生産を一本化し、これに成功し、海外生産のパイオニアとして世間の注目を集め、その結果、数多くの新聞・雑誌に取り上げられたものであるから、それら紹介記事の反響・効果を過小評価すべきでない。
また、被請求人は、請求人が地下足袋の専業メーカーであって、地下足袋はトビ職人や土木作業員を対象としたものであって請求人標章は広く一般には知られていないと主張するが、請求人が証拠方法として提出した新聞・雑誌はトビ職人や土木作業員を対象としたものではなく、広く一般人が購読しているものが多数含まれており、そもそも、商標や略称を含めて会社名は、その商品の性能及びデザインによって商品が需要者に受け入れられることによって著名となるのみならず、当該企業の社会的な評価や関心度の高さによっても著名となることは経験則上明らかである。社会的な評価や関心度の高さを示す尺度は一般人向けの新聞・雑誌において取り上げられた頻度で計ることができる。しかるに、請求人はこれら新聞・雑誌に頻繁に取り上げられてきた。それ故、請求人に対する社会的な評価や関心度は極めて高いと言える。であるとすれば、請求人標章の著名性がトビ職人や土木作業員に限られるのものとは到底考えられない。むしろ、請求人標章は広く一般に著名なものとなっていたと言える。
さらに、地下足袋は、トビ職人や土木作業作業員に限られず農園芸業分野さらには、祭りの際の装束の一つとして履用される如く広く一般人にも履用されてきた。この点で、地下足袋の需要者は広範囲に亘るものであって、現在の原形をなす地下足袋自体も、大正12年に石橋徳次郎、正二郎兄弟によって考案・発売されて以来80年近くに亘ってわが国において営々と履用されてきた履物であって、各種作業者の間では広く認識されており、該商品が限られた職種のみにしか使用されないとする被請求人の主張は妥当でなく、「認知度の低い極めて特殊な商品」でないことは明らかである。
仮に、被請求人の主張するように、請求人商品がトビ職人・土木作業員・建設作業員・大工等の建設・建設関係者に限定されるとしても、これらの者は、本件商標の指定商品である金属製の建築又は構築専用材料の需要者ないし作業者である。因みに1996年版シューズブック(甲第64号証)によれば、地下足袋がワークシューズの一つとして農業・土木・建築の作業員の間で広く履用されてきたことが判る。
そして、少なくとも、トビ職人・土木作業員・建設作業員・大工等が建物の鉄鋼枠・壁板・天井板・戸車・蝶番・取っ手・引き手等の金属製の建築又は構築専用材料を使って作業を行うものである。であるとすれば、本件商標の指定商品の分野においても請求人商標が著名であることは明らかである。したがって、被請求人の主張するように、商標法第4条第1項第8号違反の有無の審理に際し商品との関係を考慮したとしても、本件商標の指定商品を使って作業を行うトビ職人・土木作業員・建設作業員・大工等が請求人商標を知っている以上、本件商標の使用によって請求人の人格権が毀損されることは明らかである。
また、地下足袋は、戸車・蝶番・取っ手・引き手等の金属製の建築又は構築専用材料を取り扱う金物店・大工道具店・建材系のホームセンター・DIYでも販売され、しかも、売り場においても両者は近接している(甲第65号証及び同第66号証)。ホームセンター内においては、安全靴、安全スニーカー、地下足袋等の作業用の履物(ワークシューズ)と、戸車・蝶番・取っ手・引き手等の金属金具が同じフロア一で互いに近接して販売されていて、両商品は販売店・販売場所を共通にするから、本件商標の使用によって請求人の人格権が毀損されることは明らかである。
(b)本件商標の非著名性
被請求人は本件商標の著名性を主張し、昭和35年、昭和40年、昭和46年、昭和59年、平成5年、平成9年の同人の総合カタログ、1986年、1988年、1994年、2000年の積算資料ポケット版、2000建築資材データベース、輸入品受注確認書、同人の商品台帳、お買い得商品一覧表、総合展示会特別前売表、商品包装用容器に貼付するレッテル等を提出しているが、本件商標に係る戸車・蝶番・取っ手・引き手の販売実績・市場占有率等が不明であって、それら総合カタログ等の取引上使用する印刷物の頒布数も定かでなく、さらに、建築資材関連印刷物へは単に掲載されているのみであるから、これら印刷物によっては本件商標の著名性は明らかでなく、また、その他の証拠によっても本件商標の著名性は明らかにされない。
以上述べた如く、被請求人が提出した証拠方法からは本件商標が著名であることを何ら立証するものではないから、本件商標の著名性をもって、商標法第4条第1項第8号違反を免れることはできない。
(c)商品との関係
被請求人は商標法第4条第1項第8号の規定の適用にあたっては、商品との関係を考慮すべきである主張するが、商標法第4条第1項第8号の規定中には文理上、該規定の適用にあたり、商品との関係を考慮すべき旨の記述はない。さらに、商標法第4条第1項第8号の規定の適用にあたり、商品との関係を考慮するとしても、上述したように、本件商標の指定商品の需要者となるトビ職人・土木作業員・建設作業員・大工等の建設・建築関係者が地下足袋を履用する以上、本件商標の指定商品で請求人標章又は請求人商標は著名であることは明らかである。
被請求人は請求人商標は地下足袋の分野で著名であり、本件商標の指定商品の分野では著名ではないと主張するが、実際は、本件商標の指定商品の需要者が地下足袋を履用することが多いものであって、両商品の需要者は同じなのである。これに加えて、上述したように、地下足袋は、金物店・大工道具店・健在系のホームセンター・DIYにおいて互いに近接されて販売されることもある点で、本件商標の指定商品とは販売店・販売場所を共通にしている。したがって、仮に、商品との関係を考慮するとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第8号の規定に違反して登録されたものとなる。
(d)先登録商標の考慮
被請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第8号の規定に該当するか否かの検討にあたり、上述した、存続期間の満了により登録第510436号商標「RIKIO/力王」を考慮すべきであると主張するが、この主張は自己の都合を単に披瀝するだけであって、本件商標は商標法一旦消滅した登録第510436号商標とは無関係であり、また、商標法上、該規定に該当するか否かはあくまで本件商標についてのみ考慮すべき事柄であるから、その主張は到底受け入れられない。このように、本件商標の著名性は否定されるべきである。
(e)以上述べたことから、本件商標は商標法第4条第1項第8号の規定に違反して登録されたことは明らかである。
(イ)商標法第4条第1項第15号違反
(a)請求人商標の著名性
被請求人は、請求人商標として表示されている証拠方法は12件に過ぎないと主張するが、それら証拠方法中には、この地下足袋の驚異的な市場占有率を述べているものが多数含まれている。これらの証拠方法から、「力王」が地下足袋の商標として使用されその地下足袋が永年に渡って驚異的な市場占有率を誇っており、自ずと請求人商標が地下足袋の商標として著名であることは明らかである。
また、被請求人は、30年以上に渡って新聞の題号下の広告の欄に「力王」を掲載して来たことをもって直ちに請求人商標が著名とされるものでなく、商標が著名であるかどうかは総合的な判断が必要であると主張するが、請求人商標に係る商品が掲載された新聞は全国紙で150万部程度の購読量を誇る日本経済新聞であり、特定の業界向けの専門紙ではない。新聞の顔とも言える全国紙の第1面に30年以上に渡って広告が掲載されたことからして、この広告を目にした者は膨大な数に及ぶことは言うまでもないことである。しかも、この広告は地下足袋の需要者に限られず不特定多数の者の目に触れたことは明らかである。したがって、少なくとも、この新聞の題号下の広告は請求人商標が著名となる有力な手段であったことは明らかである。
そして、被請求人が主張するように、商標が著名であるかどうかは総合的に判断すべきものであり、永年に渡る驚異的な市場占有率及び全国紙の広告等を総合的に勘案すれば、請求人商標は同人の商標として、被請求人が言う相当程度周知度の高い著名なものとなっていたと考えられる。
また、請求人商標は長靴(甲第3号証)にも使用されており、被請求人の主張する如く地下足袋のみに特化されたものではなかった。この点でも、被請求人の主張は妥当性を欠く。
(b)商品との関係
被請求人は、請求人商標が地下足袋の商標として長い間醸成されてきた故に、本件商標の指定商品について請求人商標を直ちに想起しないと主張するが、商標は商品の識別標識として商品に使用される以上、いずれの著名商標であっても商品との関係でもって認識されるものであるから、被請求人の主張は妥当性を欠く。
(c)地下足袋分野を超えての著名
被請求人は、特許庁の審査基準を引用して商標の著名性はその商品との関係を考慮して決められるべきであると主張するが、請求人標章は同人の略称からなるハウスマークであり、上述したように、社会的な評価・関心度の高さ故に、会社名は一般にその特定の取引分野を越えて著名となるものであり、併せて会社の略称からなるハウスマークも会社名とともに両者の相乗効果によりその商品分野(地下たび)を越えて広く著名となったものである。
現に、審査例によっても、第9類及び第25類の全商品を指定した請求人の商願平11‐87799号において「商標中の『力王』は出願人の商品『地下足袋に使用して取引者・需要者にある程度知られている商標」と述べているように、商標「力王」が第9類及び第25類の商品全般に渡って著名であることを認めている(甲第68号証)。
(d)商品の近似
仮に、「力王」が地下足袋分野でのみ著名であったとしても、再三再四述べてきたように、請求人に係る地下足袋と本件商標の指定商品とは需要者を共通にしており、更に、販売店・販売場所も共通にしている。
(e)出所の混同の発生
以上述べたように、請求人標章のハウスマークとしての著名性の高さ及び請求人商標の著名性が地下足袋の分野を越えていること、需要者・販売店・販売場所の共通性からして、本件商標がその指定商品に使用された場合には、当該商品が請求人ないしは請求人と人的又は資本的に関係のある者の業務に係るものであるとその出所が混同するは必定である。
(f)まとめ
以上述べたことから、本件商標が商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたことは明らかである。
(ウ)商標法第4条第1項第7号違反
被請求人は本件商標を独自に選択したものであると主張するが、単に主張するのみでこの事実を裏付ける証拠方法を何ら提出していない。前出被請求人に係る登録第510436号商標の出願当時(昭和32年)においてもすでに請求人商標は著名であったから、被請求人がこの存在を知っていたと考えられる。よって、本件商標が商標法第4条第1項第7号の規定に違反して登録されたことは明らかである。
(5)その他の弁駁の理由
請求人は同人の略称並びにハウスマークとしての「力王」の著名性を立証する証拠方法として、第三者が登録したドメインネームの「rikio,com」を請求人に移転すべきものとしたWIPOの裁定の写し及び裁定の通知の写しをここに提出する(甲第69号証)。この裁定からも「力王」の著名性が立証されたと言える。

3 被請求人の答弁 被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第52号証及び参考資料を提出した。
(1)請求人は、本件商標は商標法第4条第1項第8号、第15号及び同第7号に違反して登録されたものであるから、本件商標の登録は同法第46条第1項によって無効とされるべきである、と主張しているが、かかる主張は何ら根拠がないものである。以下にその理由を詳細に述べる。
(2)商標法第4条第1項第8号について
請求人は、本件商標はその指定商品の需要者の間で著名な請求人の略称からなるにもかかわらず、同人の承諾を得ることなく登録されたので、本件商標は商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものであると主張しているが、その主張は何ら根拠がない。
(a)-1,請求人は「力王」の標章(請求人標章)が請求人(株式会社力王)の著名な略称であることを立証しようとして種々の証拠を提出しているが、それらの証拠は「力王」(請求人標章)が請求人の著名な略称に相当するものであることを十分に立証するものではない。
即ち、各証拠を精査するに、請求人会社の社史(甲第2号証)及びパンフレット(甲第3号証)並びに新聞の題字下広告を証明する書面(甲第34、35、37、38各号証)、更には「力王」商標(請求人商標)が掲載されていると認められる新聞、雑誌等の記事(甲第21・39・40・41・43・51・59各号証)を除けば、大多数の証拠が、請求人会社が海外に生産拠点を移した内容の会社紹介記事及びこれに関連した記事に関するものである。つまり、同記事は、海外に生産拠点を移して事業を成功させた請求人会社を紹介している訳であるが、このような成功例を持つ企業はもとより請求人会社に限られたものではなく、他にも同様な成功例を持つ企業は存在するのであり、一人請求人会社のみが脚光を浴びているものではない。
要するに、或る会社の事業成功話を記事として紹介したからといって、そのことをもってその会社が著名になったり、その会社の略称が著名になったりするというものではない。請求人の立証の仕方には無理があり、これをもって「著名な略称」を裏付けるものとは到底いえない。
(a)-2,請求人は地下足袋の専業メーカーであるところ、そもそも地下足袋はいわゆるトビ職の人や土木作業員といった極く限られた職種において利用されているだけであり、一般の人にはまず利用されることがないのが実情である。従って、地下足袋の取引者、需要者は極端に限られた範囲に止まっており、一般の取引者、需要者にとっては地下足袋はなじみが薄く、認識度の低い極めて特殊な商品といえる。そのため、「地下足袋の力王」を知っていると答える人がいるとしても、それが著名であるとの認識までは持っていないのが実情である。従って、「力王」(請求人標章)は請求人の著名な略称といえるものではなく、本件商標は商標法(以下、法というときがある)第4条第1項第8号の規定に何ら該当するものではない。
(2)また、次のような理由によっても本件商標に法第4条第1項第8号を適用することは不合理である。
(b)-1,本件被請求人会社である株式会社ノグチは、その前身を「野口金物株式会社」と称していたところ(乙第1号証)、野ロ金物株式会社は、建築金物としての戸車等の商品について「力王/RIKIO」商標を昭和32年頃から使用しており、昭和32年3月14日には同商標について旧々第7類、建築用金物その他本類に属する商品を指定商品として商標登録出願(商願昭32-7558号)を行い(乙第2号証)、同32年5月31日付けで出願公告決定がなされ(乙第3号証)、同年11月27日付けで登録第510436号として商標登録がされた(乙第4号証)。
(b)-2,その後、被請求人は上記登録第510436号商標と類似関係にある「力王」商標について連合商標登録出願を行い(乙第5号証)、この間、登録第510436号商標権は存続期間満了により消滅したものの(乙第6号証)、上記連合商標登録出願を独立の商標登録出願に変更し(乙第7号証)、その結果、商標登録されたものが本件商標である(乙第9号証)。
(b)-3,上記したように、本件商標は「力王/RIKIO」商標(登録第510436号)の連合商標として出願されたものであって、これを出願の基礎においたものである。そして、被請求人は昭和32年に登録された「力王/RIKIO」商標を用いて商品展開を図り、昭和32年から現在に至るまで「力王」商標を商品建築金物について永年継続して使用してきた。この点は東京金物連合卸商業協同組合の証明書(乙第10号証)、東京建築金物卸商業協同組合の証明書(乙第11号証)及び東京建築金物工業協同組合の証明書(乙第12号証)により立証する。「力王」商標が使用されている商品建築金物としては、例えば、戸車、取っ手、引き手、旗蝶番、溶接蝶番、戸当り、棚ダボ、柱受け等がある。
(b)-4,被請求人会社は明治31年に建築用金物等を取り扱う野口茂助商店として開業したのが始まりであり、昭和27年に野口金物株式会社と改称し、同33年に下請け、建築金物メーカー約30社を集めて野口王冠会を組織し、当時の取締役社長野口嘉雄が会長に就任している。また同44年に社名を株式会社ノグチと変更し、平成10年に創業100周年を迎えるに至った。現在、得意先は関東一円、北海道、東北、信越、中部、東海、関西地方に千数百社を数えるまでになっている(乙第13号証)。
このように被請求人会社は長い歴史を有し、建築用金物の製造販売を通して建築金物業界における高い信頼を獲得しており、今や「建築金物のノグチ」として不動の地位を築いている。そして建築金物の取り引きに当たって「力王」商標を永年に亘って用いており、「力王印」といえば直ちに「ノグチの建築金物」を観念する程に「力王印」は取引者、需要者間に定着している。
(b)-5,ここで被請求人における「力王」商標の使用状況を概観するため、被請求人に係る製品カタログ、建築材料収載資料類、製品広告物、受発注書類、商品台帳、展示会用商品一覧表、価格票、商品包装用レッテル等の証拠(乙第14号証ないし乙第47号証)を提出する。
(b)-6,上に見たように、「力王」商標は被請求人が建築金物について永年に亘って使用してきたものであり、昭和40年頃には建築金物業界において広く知られた商標となっていた。この点は、前出組合の証明書(乙第10号証ないし第12号証)によっても明らかである。従って、本件商標には既に業務上の信用が化体されており、本件商標をもって行われる商取引には取引者、需要者に信頼感、安心感を与えており、一定の商品流通秩序が確立されているものである。
(b)-7,本件商標の使用実績を考えるとき、昭和32年に登録を受けた前記「力王/RIKIO」商標(以下、先登録力王商標という)の存在を無視することはできない。本件商標は先登録力王商標によって築かれた業務上の信用を受け継いでいることは確かである。
このような理由からも本件商標は法第4条第1項第8号に該当するとすべきではない。
(3)更に以下のような理由によっても本件商標は法第4条第1項第8号に該当するとすべきではない。
(c)-1,「力王」(請求人標章)が請求人の著名な略称に相当しないことは前述した通りであるが、ここで仮に百歩譲って著名な略称であると仮定したとしても、そのことをもって直ちに本件商標は法第4条第1項第8号に該当するということにはならない。
請求人は地下足袋の専業メーカーであり、「力王」商標(請求人商標)も当然ながら専ら地下足袋にのみ使用されている。請求人商標はあまりにも地下足袋との結びつきが強いため、地下足袋以外の商品にそれらの商標が使用されてもそれが請求人会社(株式会社力王)の出所に係わる商品であると取引者、需要者に認識されることはおよそ考えられないのである。取引者・需要者の誰もが、上記商標は地下足袋に特化された商標であると認識していることは間違いない。
してみれば、地下足袋とは商品の種類、性質、用途、流通経路等において全く相違する建築金物について「力王」商標を使用しても、また該商標につき登録を受けても、何ら請求人会社(株式会社力王)の人格権を段損することとはならないというべきである。
(c)-2,特許庁に係る商標審査基準によれば、法第4条第1項第8号に規定されている「著名」に関して、「本号でいう『著名』の程度の判断については、商品との関係を考慮するものとする。」との基準を示している(乙第48号証の1)。
(c)-3,請求人の略称「力王」(請求人標章)が著名であるとは認められないことは上記した通りであるが、ここで仮に著名だと仮定したとしても上述したように、それは地下足袋についてのみ著名であるということになり、それ以外の商品については著名でないこと明らかであるから、地下足袋とは全く異なる「第7類 金属製の建築又は構築専用材料」を指定商品とする本件商標には、上記審査基準に照らして法第4条第1項第8号は適用されるべきでないといわなければならない。
(c)-4,請求人は甲第65号証及び同第66号証を提出し、ホームセンターの店内レイアウトから明らかなようにホームセンター内においては、作業用の履物(ワークシューズ)と戸車・蝶番・取っ手・引き手等の建築金具が同じフロア一で互いに近接して販売されており、地下足袋と本件商標の指定商品とは販売店・販売場所において共通しているから、本件商標の使用によって請求人の人格権が毀損されると主張しているが、販売店・販売場所の共通項を基準とするとした場合、これはあまりにも人格権保護が過大にすぎ、衡平の原則を失うことになり、許されるべきでない。商標法第4条第1項第8号に規定される著名な略称の保護は、商品との関係において特定人の同一性を認識できるかどうかを問題とすべきであって、商品との関係を無視して全て保護を与えるという考え方はとるべきでない。商品によっては特定人の同一性を認識できない場合があるからである。
(3)商標法第4条第1項第15号について
(ア)請求人は、請求人の商標「力王」(請求人商標)は著名商標であるので、本件商標は商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであると主張しているが、この点も何ら理由がない。以下に詳述する。
(イ)請求人は、請求人商標が著名商標であることを立証しようとして多数の証拠を提出しているが、各証拠を精査するに、請求人商標が商標としての態様で表示されていると認められる証拠は少なく、これが掲載されていると認められる証拠は、甲第2、3、21、34、35、38、39、40、41、43、51、59各号証の計12点にすぎない。あとは請求人会社の紹介記事、海外に生産拠点を移したことの記事に関する証拠がほとんどであり、請求人商標がどのように使用されて著名になったかを説明するには証拠としては不十分である。
請求人は、本件商標の出願前約30年以上にわたり新聞の題号下の広告の欄に「力王」の広告を掲載してきたと主張しているが、題字下広告は広告の一手段にすぎず、題字下広告が唯一尊大な広告手段という訳ではないのであって、上記題字下広告を永年継続してきたからといってそのことによって直ちに商標が著名性を獲得するということにはならない。商標が著名であるかどうかは総合的な判断が必要である。
また、請求人はラジオ放送における広告、テレビ放送における広告及びポスター・看板による広告を行ってきた旨、主張するが、甲第2号証の「力王25年のあゆみ」を参照して主張しているだけであって、その主張事実の立証が何らなされていない。著名商標というためには、単に取引者、需要者間に広く認識せられる周知商標の程度では足りず、相当程度、周知度の高いものであることが必要である。請求人商標は証拠に照らし、周知商標と認められるとしても、いまだ著名商標というまでには至っていないというべきである。
(ウ)また、請求人商標の使用態様に注目する必要がある。証拠によれば、請求人商標は「力王太郎」、「力王スパーク」、「力王ファイター」の使用が極く一部に見られるだけで(甲第3号証)、ほとんど全部といってよいほど「力王たび」(一部に「力王跣たび」)の態様で使用されていることが判る。このことは「力王」と「たび(地下足袋)」との結合関係がいかに強固であるかを物語っており、この「力王たび」の商標に接する者は常に「たび(地下足袋)」と関連づけて請求人商標を認識するものである。
ここで更に着目しなければならないことは、「力王たび」の商標は必ず地下足袋の図形を伴って表示されているという点である。このように「力王」と「たび」との結合関係に加えて、「力王たび」と地下足袋の図形との結合関係を考慮すれば、「力王」は地下足袋と一体に融合した形で観念されていることは間違いない。商標使用者(請求人)も「力王」と地下足袋との一体融合関係を強く前面に打ち出そうとしている意図が明らかに読みとれる。
そうすると、請求人商標を見る者はそこから必然的に商品として地下足袋を想起することが(換言すれば該商標から地下足袋以外の商品を想起し得ないことが)長い間の内に醸成されてきたというべきである。請求人が地下足袋専業メーカーであることを勘案しても請求人の「力王」から想起される商品は地下足袋のみであって、地下足袋以外の商品を想起し得ないことは明々白々である。してみれば、請求人の「力王」からは建築金物の如き金属製の建築又は構築専用材料を想起することは不可能であり、この意味において被請求人が金属製の建築又は構築専用材料に「力王」商標を使用しても何ら出所につき混同を生じる虞れはないというべきである。
(エ)請求人商標が付される地下足袋は前述したようにいわゆるトビ職の人や土木作業員といった、極く限られた職種において利用されているだけであり、一般の人にはまず利用されることがないのが実情であり、地下足袋の利用者層即ち需要者層は極めて限られているといってよい。このように需要者層が極く限られた範囲においてのみ存在する場合は、著名性も限定された範囲内のものとして把握すべきである。更に地下足袋が履き物に属する商品であり、戸車、蝶番、取っ手、引き手等の金属製の建築又は構築専用材料とは商品の種類、性質、用途、流通経路等において著しく相違するものである。
これらの点を考慮すると金属製の建築又は構築専用材料の取引者、需要者が本件商標から地下足袋の力王を想起し、地下足袋の力王と関係ある商品としてその出所につき混同を起こすということはおよそ考えられないことである。
(オ)本件商標には、被請求人の永年の実績によって業務上の信用が化体され、建築金物業界において広く知られていることは前記(2)項で述べた通りであって、本件商標に接する取引者、需要者はそれが株式会社ノグチの商品建築金物に付された商標であるとして商品の出所につき明確に認識できるものであり、このことからも地下足袋の力王との間で出所混同を起こす虞はないというべきである。
(カ)以上の如く、仮に請求人商標が著名商標であると仮定したとしても、本件商標は請求人の業務に係る商品と混同を生ずる虞れがある商標ということはできないから、本件商標は法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものではない。
(キ)請求人は、本件商標の指定商品である金属製の建築又は構築専用材料は土木・建築関係者が需要者となり、一方、請求人が取り扱っている地下足袋も土木・建築関係者が需要者となり、本件商標の指定商品と請求人の商品とは需要者を共通にしている、と主張しているが、地下足袋を履いた例えばトビ職の人が建築現場に出入りするからといって、戸車等の建築金物の需要者と地下足袋の需要者が共通するとするのはあまりにも飛躍した論理である。建築現場にはその他、電気配線工事作業者もいれば、ガス配管工事作業者もおり、請求人の上記論理によれば、それらの者が取り扱う電気コード、ソケットや、ガス管、ガス栓等についても地下足袋と需要者を共通にするということになり、不合理な結果となる。従って、上記請求人の主張は何ら理由がない。
(ク)請求人は、請求人商標「力王」は請求人の創作にかかる造語であって、請求人のハウスマーク及び請求人の商号の略称以外の意味はない、と主張し、「力王」はあたかも請求人のみが独自に選択したかの如き主張ぶりであるが、それは全くの誤りであり、被請求人もまた独自に「力王」を選択したのである。被請求人は昭和32年に「力王/RIKIO」商標を出願し、登録を受けたことは前述した通りであり、従って、被請求人は既に昭和32年に「力王/RIKIO」を商標として独自に選択していたのである。あたかも被請求人は請求人商標を真似たかの如き印象を与えようとしているが、事実は全く相反するのである。「力王」は力の王、即ち、力強いものを象徴する意味があるものと思われる。決して突飛な言葉ではないと考える。
このように「力王」を選択したのは、一人、請求人に限ったことではなく、請求人のみがなし得た選択事項ではないのである。
(4)商標法第4条第I項第7号について 請求人は、被請求人が地下足袋の「力王」の存在を知って本件商標を採択したものであり、これは商業道徳に反する採択であるから、取引きの秩序を乱すものであり、このことから本件商標は商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであると主張している。
しかしながら、被請求人が「力王」を商標として選択したのは全く独自の選択行為によりなされたものであることは前記(3)の(ク)項で詳しく述べた通りであるから、請求人の主張が事実に反するものであることは多言を要しないものである。従って、被請求人の選択行為は何ら商業道徳に反するものではなく、取引きの秩序を乱すものではないこと明らかである。故に、本件商標は商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであるとの請求人の主張もまた何ら理由がないものである。
(5)結び
以上みてきたように、本件商標登録は商標法第4条第1項第8号、第15号及び同第7号の規定のいずれにも該当しないこと明らかであるから、本件商標の登録無効を述べる請求人の主張は全く根拠のないものである。

4 当審の判断
請求人は、本件商標の登録無効を述べる理由に商標法第4条第1項第8号、同第15号及び同第7号該当を挙げている。
本件における請求人・被請求人両当事者の主張の論点は、(a)請求人会社名称の略称としての「力王」標章(以下、「請求人標章」という。)の著名性如何、(b)請求人に係る商標(以下、「請求人商標」という。)の周知・著名性如何、(c)請求人に係る商品(「地下たび」)の特殊性如何、その他、被請求人に係る商品との関係の有無、本件商標の周知性如何、「力王」標章の独創性如何、等の点にあるといえるから、これら論点と無効理由の存否について判断する。
(1)請求人会社名称の略称としての請求人標章の著名性について
商標法第4条第1項第8号の法条の趣旨が人格権保護にあると解されること両当事者に争いのないところ、そもそも商標の機能・役割は自他商品(または役務)を識別するための標識として使用することにあり、商標が当該特定の商品(または役務)について具体的に使用されることを前提とするものであってみれば、その登録の適否の判断は、商標自体と当該使用に係る商品(または役務)との関係並びにそれら商品(または役務)に接する需要者の認識の程度等取引の実情と遊離してはその判断の衡平性を担保することは困難といわざるを得ないから、この点において、本条項においていう著名な略称の「著名」の程度の判断に当たっては、当該商品(または役務)の性質その他取引事情等を参酌の上、人格権保護の法目的との整合性を図るべく総合勘案することが必要と解される。
したがって、特定の商品分野において著名な名称(略称)として周知せられたものであるからといって直ちに全産業分野を横断して著名な略称として取り扱うべきものとするのは些か無理があり、前記法目的と商標本来の実体面に照らし、当該商品の指定商品との関係を考慮すべきこと、むしろ、当然といわなければならない。
そこで、両者の取り扱いに係る商品及びそれら商品の取引事情についてみるに、請求人に係る「地下足袋(じかたび)」は、一般に「(「地下」は当て字。直(じか)に土地を踏む足袋の意)丈夫な布と厚いゴム底から成る主として労働用のはだしたび。」(岩波書店発行広辞苑「じかたび」の項より)との解説にみられる如く、主として高所作業者、土木作業員または農園芸分野において着用されるわが国固有の商品であって、その用途特性、機能特性において、他のはきもの類とは別個の商品分野を形成する一種独特の商品といえるものである。
因みに、請求人の提出に係る株式会社ポスティコーポレーション発行1996年版シューズブック「地下たび」の項(甲第64号証)によれば、次の点が認められる。
(a)地下たびの種類は、「足袋に底を縫い付けた縫い付け地下たびと、両者を貼り付けた貼り付け地下たびのほぼ2種類がある。縫い付け地下たびは、手間がかかりコスト高である。コハゼの枚数は5〜12枚と多く、脚絆代りになって足首をよく締める。底ゴムが薄くなっているので、足裏の感触がよく、高所作業に用いられる。主な使用者は土木作業者、建築作業者。貼り付け地下たびはコハゼの枚数の多いもの(軽装地下たび)と3枚を標準とするもの(普通地下たび)がある。軽装地下たびの用途は、縫い付け地下たびと同じで、縫い付け地下たびが量産し難いため、これで補っている。」旨解説されていること。
(b)需給状況は、「国内生産と海外の生産基地からの輸入があるが、大半は輸入品が占めている。1994年の国内向け生産は61万足、輸入は639万足の計700万足が供給された。このほか、埼玉県行田地区の手縫付地下たびの生産分を主とする約43万足があり、全体で約740〜750万足となり、これがわが国の供給規模とみられる。」旨解説されていること。
(c)輸入の状況については、「1968年に力王が台湾に工場進出して以降、安価な労働力を求めて各社が輸入政策を進め、年を追って台湾、韓国、フィリピンからの輸入量が増大した。その後、1970年代後半には、中国からの輸入量が増大しはじめ、1985年は総輸入量の70%となり、90年代に入ってからも60%台と高水準を保っている。また、フィリピンからの輸入は93年まで増加を続けてきた。」とあること。
(d)海外生産基地の動向をみると、「縫い付け地下たび専業の力王が、中国上海に隣接する南通市に合弁企業『中国南通力王公司』(生産能力160万足)を設立、83年3月から本格生産に入っている。また、力王はすでに79年フイリピンにも合弁企業『力王東南アジア』(生産能力250万足)を設立、稼働している。・・・92年の国別輸入をみると、中国、フィリピンからの輸入比率が依然として高く、その輸入量は輸入総量と平行する形で推移している」旨解説されていること。
以上、要するに、わが国における地下たびの需給状況は、国内企業が中国、フイリピンに生産拠点を置く海外からの輸入品により国内需要の9割近くが占められている状況で、国内産業としては、コスト的要因等から狭小傾向にあるというのが実情である。また、それら海外の生産拠点の確保及び運営に当たっては、請求人会社が先駆的に現地と合弁事業を展開するなどして当該産業界において主導的役割を果たしてきたことが認められる。
そして、地下たびメーカーとして昭和23年10月創業以来現在まで約半世紀に亘って地下たび一筋に事業を展開してきた請求人会社(「株式会社力王」)は、日本経済新聞社1990年発行「小さなトップ企業」(甲第61号証)によれば、a)国内に一切生産拠点を持たず、全製品を海外で行う独特な生産体制を持ち、従業員は昭和63年次において27名と極めて小規模である一方、年間売上げは同年次頃すでに約40億円に達していて、昭和63年度「貿易貢献企業」として、ときの通商産業大臣より表彰を受けるなど(甲第45号証)、極めて合理的かつ特異な経営手法をとっていることで知られていること。b)同社は、数多くの特許、実用新案を権利取得するなど技術的裏付けと相俟って軽量地下たび(跣たび)、貼縫式地下たびを相次いで開発・製造し、好評を博したことが端緒となって、以降、現在に至るまでの長期間、市場占有率60パーセントを維持する地下たび業界トップの企業であること。c)コスト的要因から国内製造に見切りをつけ、早くから海外に生産拠点を求め、昭和42年に「台湾」に合弁企業を興したのを手始めに、同48年に「韓国」へ進出、同年に社名を現在の「株式会社力王」に改称、同54年に「フィリピン」において創業開始し、次いで同57年に「中国」(南通市)に拠点を築き(同58年に生産開始)、この間、同57年、同59年と前後して「台湾」、「韓国」の工場をそれぞれ閉鎖し、以後、現在は「フィリピン」、「中国」の各工場による生産体制を保持しており、この2拠点からの海外輸入品がそのまま請求人会社に係る商品として国内の需要に供されている状況であること。d)同社の取り扱い・販売に係る地下たびは、創業間もない昭和26年より一貫して「力王跣(はだし)たび」又は「力王たび」の商標(請求人商標)の下に市場の流通に供されてきたものであり、また、「力王」の標章(請求人標章)は請求人会社の会社名称の略称として、或いは、その事業全体を表彰するハウスマークとして、地下たびの業界の需要者間に広く認識せられていたこと等の点については、請求人の主張に徴するまでもなく、すでに顕著な事実と認められる。
また、この間、請求人が地下たび及びその他の履物類等を指定商品として、「力王」、「リキオー」、「RIKIO」の各文字またはこれら文字を主要部とする各商標について、昭和26年という早い時期に商標登録を受けたのを手始めに、引き続き同様の多数の商標について商標登録を受け(商標登録第411154号,同第416635号,同第439126号,同第450410号,同第561599号外多数)、使用権の確保を図っていたことは当庁において顕著な事実である(なお、これら登録商標の商標権者はすべて請求人関連会社と認められる「株式会社一徳」がその登録名義人となっている。)。
以上の点よりして、請求人会社は早くから海外に生産拠点を築きその体制を確立したいわば異色な企業として屡々経済誌、業界紙等において取り上げられ、注目される存在であったものであり、同社が地下たび業界を主にそのほか履物類、作業用品類等の一定範囲の業界ないし取引界において相当程度の知名度を有する点は否定し得ないとしても、それをもって直ちにわが国産業分野の全域に亘ってあまねく知悉せられているとみるのは些か疑問であって、これを理由に本件商標の商標法第4条第1項第8号該当を述べる請求人の主張は妥当でなく、採用することができない。
すなわち、請求人会社は、昭和63年次の従業員が27名と極めて小規模であって、その後急激に事業規模を拡張したことを窺わせるような事情もなく、また、その取り扱いに係る商品は「地下たび」のみであって事業規模としての多様性はなく(請求人主張の「長靴」「石材」に関する取引事情は全く明らかでない。)、商品自体も一般に馴染みの薄いやや特殊なものであって需要者も一定範囲に限定されるものであり、その需給バランスも今や一定程度に保たれているいわば成熟市場にあるといえるものである。
そうすると、この間、如何に請求人会社の名称またはその略称として請求人標章が使用され、或いは業界誌、産業紙等に屡々掲載されたものとしても、当業者ないし当該関連事業者であればともかく、一般の購読者にとっては、それら報道または広告記事は時々刻々として様々に報道される幾多の報道記事または広告記事の一つとして認識するに止まり、それ以上に特段の注意力をもって常に明瞭に記憶し印象に止めるとみるのは困難というべきである。そして、たとえ、それ自体は希有な事柄ではあっても、今日の肥大化した経済社会にあって極めて狭小かつ特異な業種分野に係る生産事情として、すなわち、当該業種に係る商品(地下たび)を離れては存在しない特殊事情として理解するとともに、ある種の先入観念をもってこの種報道に接するとみるのが通例であって、かかる特殊条件下に係る事情に照らし、請求人標章と当該業種ないし商品とは不離一体のものというべく、請求人標章の知名度は自ずと一定の限界があるといわなければならない。
また、「力王」の文字(標章)についてみると、これを構成する「力」(「チカラ」、「リョク」または「リキ」)、「王」(オウ)の各文字(漢字)は、それぞれ世人一般に極めて親しまれ馴染まれている平易な漢字である。そして、たとえば、「力泳」、「力学」、「力説」、「力走」等の邦語の用例に倣って、これを全体として「リキオウ」と読み、「力(ちから)の王、力の最も優れた(強い)者」の如き意味合い(イメージ)を容易に想起・感得するというのは見易いところであって、該標章は、たとえば、飲食店(ラーメン屋等)の名称またはいわゆるゲームソフトの登場キャラクター名として屡々見かける文字(語)といえるものである。
そうすると、かかる邦語事情を有する本件商標は、たとえ、請求人により会社名称としてあるいは商標として最初に採択・使用せられたものとしても、該文字自体は必ずしも独創性に富むものでなく、むしろ、比較的着想容易なものというべきものであるから、この点に関し、「力王」は造語であって請求人の商号の略称またはハウスマーク以外の意味合いしか想起しない旨述べる請求人の主張は、必ずしも妥当でなく、採用の限りでない。
してみれば、請求人会社の名称またはその略称としての請求人標章に対する需要者一般の認識の程度は、商標自体と前記請求人に係る商品の特殊事情よりして、自ずと一定範囲の商品分野に限られるとみるのが相当である。
請求人は、業界紙たる「シューズポスト」及び「ゴムタイムズ」に昭和49年、50年頃から現在に至るまで継続して広告を掲載し(甲第34号証、甲第35号証)、さらに、昭和33年7月から現在に至るまで日本経済新聞夕刊第1面の題字下への広告を一ヶ月に1回の割合で行ってきている(甲第36号証ないし甲第42号証)旨述べているが、それら広告記事掲載の標章は、足首からふくらはぎ部までを一体構造にした一足の地下たびの図柄とともに、「特許10枚・12枚コハゼ」の表示及び「力王たび」の文字を縦書きまたは横書きに表してなる標章が一様に用いられていて、日本経済新聞(夕刊)の場合についてはさらに最下部に小さく「株式会社力王」の表示がされていることが認められるものの、これら標章は、購読者に対し「力王」の商標を印象づけることに主眼があるといえるものであって、大新聞の題字下広告中に前記社名の表示が反復掲載されたからといって直ちに会社名称の略称として需要者一般に広く認識されたものとはいえないから、結局、それら広告記事をもって請求人標章の請求人会社名称の略称としての著名性は客観的に明らかでなく、該事実を認めるに十分でない。
また、請求人は、企業としての優秀性、海外進出の経営戦略等により請求人標章が請求人会社名称の略称として著名性を獲得して旨述べているが、なるほど、請求人会社が海外進出(昭和43年)のパイオニア的存在として時々の業界紙、経済誌等において報道され、或いはその業績故に時の通商産業大臣より表彰されるなど、一定の経済分野において注目される存在であったこと(甲第4号証、甲第9号証、甲第10号証及び甲第45号証)、或いは、いわゆる一所集中型の特定商品(地下たび)についてその生産拠点を専ら海外に求めたという事業運営の斬新さにおいて特筆されるべき事柄であったこと等の点は認め得るとしても、一方において、取り扱い商品を離れてはその経営手法が成り立ち得なかったであろう点で、先入観念として地下たび専門事業者との感を払拭し得ないことや、また、今や海外に事業進出する企業は多数に上る状況下、草創期の一、二の企業の世評ないし注目度も時間的経過とともに徐々に低減化するであろうこと等の事情よりして、本件商標の登録出願の時点(昭和62年6月6日)からその登録査定時(平成7年7月27日)に至る間、引き続き、請求人会社名称の略称としての請求人標章の著名性が地下たび以外の商品分野、たとえば、土木用資材、建築材料等の商品分野まで及んでいたとすべき合理的理由は希薄といわなければならない。
さらに、後述(2)に述べるとおり、被請求人「株式会社ノグチ」は、明治31年創業と歴史が古く、以来現在に至るまでの間、主として建築金物、建具金物、DIY用品、エクステリア製品、アルミ建材、プラスチック建材等の商品分野において事業を永続させている事業者であって、東京本社を中心に仙台、横浜、足利、千葉等に事業所を置き、取引先は関東一円、北海道、東北、信越、中部、東海、関西地方等広範な地域に及んでいて、従業員数は平成9年次において110名を数えることが認められ(乙第13号証)、また、被請求人会社は、昭和32年に商標登録を取得した「力王/RIKIO」商標を以後現在に至るまで一貫してその取り扱いに係る建築金物(戸車、取っ手、引き手、旗蝶番、溶接蝶番、戸当り、棚ダボ、柱受け等)の商標の一つとして永続的に使用してきたものであって、被請求人会社は建築金物業界においては相当程度の知名度を有していたものであり、かつ、当該被請求人に係る「力王」商標(本件商標)も相当程度の周知性を有していたものと認められる。
したがって、本件商標の指定商品(「金属製の建築又は構築専用材料」)の取引分野における取引者、需要者は、「力王」の標章に接した場合、むしろ、被請求人に係る建築金物の商標として認識し把握されるものとみるのが相当であって、これより直ちに請求人会社(名称)または請求人標章と関連づけて想起するとみるのは困難といわなければならない。
そうすると、前記各事情と被請求人に係る「力王」商標の使用事情も併せ考慮するに、本件商標の登録出願時における請求人会社名称の略称としての「力王」標章の著名性は、本件商標の指定商品とする「金属製の建築又は構築専用材料」には及んでいなかったというべきである。したがって、本件商標をその指定商品に使用しても、請求人会社の人格権を毀損することにはならないものと判断するのが相当である。
請求人は、法第4条第1項第8号の解釈論に言及しつつ、請求人標章の会社名称の略称の著名性に関し、a)地下たびの需要者である土木・建築作業者と建築金物類の需要者とが共通すること、b)地下たびと建築金物はともにいわゆるホームセンター等の店舗において取り扱われる商品であって密接に関連すること、等の点を挙げ、本件商標の使用により請求人の人格権が毀損される旨述べているが、本件商標の指定商品の分野固有の業界事情、被請求人に係る固有の商標事情及びこの種商品の取引事情に照らし前記認定を相当とするから、この点について述べる請求人の主張は、業界固有の事情を無視しまたは軽視したものであって妥当でなく、採用の限りでない。
そして、このほか、請求人標章の著名性が本件商標の指定商品の分野に及ぶ旨述べる請求人の主張は、いずれも妥当性を欠くものであって、採用の限りでない。その他、請求人の述べる主張は前記認定を覆すに足りない。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第8号に該当するとはいえないから、その理由をもって、本件商標の登録を無効とすることはできない。
(2)請求人商標の周知・著名性について
商標法第4条第1項第15号においていう「他人の業務に係る商品等と混同を生ずるおそれのある商標」の「混同のおそれ」の判断に当たっては、商標自体と当該商標の著名性、当該商品の分野における需要者一般の注意力その他諸般の事情を考慮の上、取引の実情に照らし具体的に判断することを要するものと解される。
これを本件についてみるに、本件商標は、それ自体が平明な漢字よりなるものであって、ある種の意味合い、イメージ等を容易に想起させる点で必ずしも独創性に富んだものでないこと前記のとおりである。
本件商標権者である被請求人会社(「株式会社ノグチ」)は、明治31年創業と歴史が古く、以来現在に至るまでの間、主として建築金物、建具金物、DIY用品、エクステリア製品、アルミ建材、プラスチック建材等の製造、販売を業とする建築金物関連事業者であって、東京本社を中心に仙台、横浜、足利、千葉等に事業所を置き、取引先は関東一円、北海道、東北、信越、中部、東海、関西地方等広範な地域に及んでいて、従業員数は平成9年次において110名を数えることが認められる(乙第13号証)。
また、被請求人会社は昭和32年という早い時期に「力王/RIKIO」商標について商標登録を取得して(商標登録第510436号:平成1年3月2日存続期間満了により権利消滅)以来、引き続き、現在に至るまでの間、「力王」の文字よりなる商標(本件商標)(以下、「被請求人商標」ともいう。)をその取り扱いに係る建築金物(戸車、取っ手、引き手、旗蝶番、溶接蝶番、戸当り、棚ダボ、柱受け等)について永続的に使用してきた状況は、被請求人提出に係る関連事業3団体(組合)の証明書(乙第10号証ないし乙第12号証)、被請求人会社の昭和35年、同40年、同46年、同59年、平成5年及び同9年とほぼ一定期間毎に継続発行された商品カタログ類(乙第13号証ないし乙第19号証)、財団法人経済調査会の昭和61年、同63年、平成7年及び同12年発行に係る建築資材関連出版物「積算資料」(乙第20号証ないし乙第24号証)、その他、被請求人に係る受注書類、商品台帳、商品一覧表、展示会パンフレット、ラベル類等(乙第25号証ないし乙第47号証)に徴して十分認め得るところである。
そして、これら状況よりして、被請求人商標(本件商標)は、その出願時はもとよりその登録時までの間も建築資材分野において終始相当程度の周知性を有していたであろうことを認めるのに十分である。
さらに、被請求人に係る建築金物を含む本件商標の指定商品「金属製の建築又は構築専用材料」は、専ら建築・構築用に供される商品であって、これら建築関連資材と前記請求人に係る「地下たび」とは、その原材料及び生産者を異にするばかりでなく、その用途、機能または使用の方法も明らかに相違し、かつ、需要者の範囲も自ずと異なるから、両商品は異種・別個の商品といえるものである。
そうすると、たとえ、請求人商標がその取り扱いに係る地下たびについて永続的に使用され、かつ、該地下たびが終始わが国において市場シェア60ないし70%を占めていて、時々の新聞・雑誌等に頻繁に宣伝・広告されてきた結果、取引者、需要者間において広く認識せられるに至ったいわゆる周知な商標であるとしても、商標自体とこの種商品分野における需要者一般の注意力、請求人商標の著名性、建築金物関連の分野における取引事情その他、請求人会社の事業規模からみた多角経営の可能性等を総合判断するに、請求人商標の著名性は地下たびを含む履物類ないし作業用品類に止まるものとみるのが相当であって、本件商標の指定商品の分野に及ぶとみるのは到底困難といわなければならない。
してみれば、本件商標をその指定商品について使用したとしても、これに接する需要者が請求人に係る商品の如くその出所について混同を生ずるおそれはなく、したがって、本件商標は、他人の業務に係る商品等と混同を生ずるおそれはないというべきであるから、商標法第4条第1項第15号該当を理由にその登録を無効とすることはできない。
そして、この点について、請求人商標の著名性が本件商標の指定商品の分野に及ぶ旨述べる請求人の主張はいずれも妥当でなく、採用することができない。
すなわち、請求人は、地下たびのほか、石材、長靴等の製造・販売を行っているとし、請求人商標の著名性が地下たび以外の他分野の商品へも及ぶ旨述べているが、提出証拠(甲号証)による限り、それら商品と請求人商標との関係及びそれら商品の量的、期間的、地域的な生産・販売事情は不明であって、取り扱い商品の拡がりを客観的に判断することができないから、その主張は根拠に乏しく採用することができない。
また、請求人は、地下たびと建築金物はともにいわゆるホームセンター等の店舗において取り扱われる商品であって密接に関連するものであるから、請求人商標の著名性は本件商標の指定商品である「金属製の建築又は構築専用材料」に及ぶ旨述べているが、昨今のこの種の小売店は大規模化している傾向が顕著であって、取り扱い商品も日用品、衣料品その他の雑貨用品から食品に至るまで家庭用品全般に亘って広範な種類のものを取り扱っているのが実情である。そして、両商品が同一店舗内において取り扱われる場合があったとしても、予め多種類の商品を揃え広範な需要に応ずべく運営される大規模小売店(百貨店等)と同様、それら商品は偶々同一店舗内に品揃えされているにすぎず、それをもって直ちに両者が密接に関連する旨述べる請求人の主張は必ずしも妥当でなく、採用の限りでない。
さらに、請求人は、地下たびの需要者である土木・建築作業者と建築金物類の需要者は共通するとして両商品の関連事情を述べているが、両商品がそれぞれ異種・別個のものであること前記のとおりであり、かつ、その需要者はいわば当該土木工事・建築工事の設計・施工業者と当該作業従事者という点で必ずしもその範囲が一致するものでなく、また、そうとすれば、両商品に接する取引者、需要者は、前記各々の商品分野における取引事情よりみて、むしろ、その出所について何ら紛らう(混同する)ことなく、峻別容易とみるのが相当である。よって、その主張は妥当でなく、採用することができない。
また、請求人は、第三者による「rikio.com」なるいわゆるドメインネームの登録に関し、「力王」「RIKIO」商標の著名性を理由とする請求人関係者による移転申立が容認された事情を述べ、当該WIPO機関による裁定書写し(甲第69号証及び甲第70号証)を提出しているが、同裁定文によれば、相手方の悪意の存在、すなわち、不正競争の目的の存在を理由に裁定されたものであって、当事者等の点で本件審判とは無関係のものであり、かつ、その裁定が直ちに本件審判の審理に影響を及ぼすものともいえないから、これを根拠に請求人商標の著名性を述べる請求人の主張は妥当でなく、採用の限りでない。
そして、このほか、請求人商品と被請求人商品の両商品に接する需要者が現実の商取引においてその出所について混同を来したとする事実はなく、また、そのような状況を窺わせるに足りる証拠も見出せないから、それら具体的な取引事情を併せ考慮するに、なお、その混同可能性は認められない。その他、請求人の述べる主張は前記認定を覆すに足りない。
したがって、本件商標を前記法条の規定に該当するものとしてその登録を無効とすることはできない。
(3)本件商標の独創性如何と商標法第4条第1項第7号該当の蓋然性について
請求人商標が昭和26年以来現在までその取り扱いに係る地下たびを表示するものとして一貫して使用され需要者間において広く認識せられたいわゆる周知商標といえるのに対し、一方の被請求人に係る「力王」商標は昭和32年に商標登録を取得し、それ自体はすでに権利消滅したとしても、当初より現在まで引き続きその取り扱いに係る建築金物を表示するものとして使用され相当程度の周知性と業務上の信用を獲得したものであること、それぞれ前記認定のとおりである。
そして、たとえ、地下たびの商標として最初に使用した者が請求人であったとしても、両者の取り扱いに係る商品はそれぞれ前記したとおり異種・別個のものであって、相互の業種間に何ら関連性がなく、その使用開始年月の差も僅か数年(6年)であり、また、商標自体が比較的着想容易な部類のものであってみれば、これらを総合するに、両者は各々の商品分野において相前後して独自に採択せられたものが偶々一致したものというべく、作為的意図を窺わせるような事情はなく、また、その証拠も見出せない。
してみれば、本件商標の採択の意図に関し、商標権者が地下たびの「力王」を知っていたとし、或いは、地下たびの「力王」の顧客吸引力に只乗りするものであって商取引の秩序を阻害し商道徳に反する旨述べる請求人の主張は、何ら根拠に基づくことなく推論を述べるに止まるものであって妥当でなく、採用の限りでない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものとして、その登録を無効とすることはできない。
(4)結語
以上の(1)ないし(3)に述べたとおり、本件商標は請求人適示の法条のいずれの規定にも該当するものでないから、その登録は、商標法第46条第1項により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 (1)本件商標


(2)引用商標


審理終結日 2001-06-20 
結審通知日 2001-06-28 
審決日 2001-07-13 
出願番号 商願昭62-66570 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (107)
T 1 11・ 22- Y (107)
T 1 11・ 23- Y (107)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今井 信治竹内 弘昌 
特許庁審判長 原 隆
特許庁審判官 野上 サトル
小林 由美子
登録日 1996-01-31 
登録番号 商標登録第2712198号(T2712198) 
商標の称呼 リキオー 
代理人 青木 篤 
代理人 石田 敬 
代理人 細井 勇 
代理人 勝部 哲雄 
代理人 田島 壽 
代理人 宇井 正一 

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