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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求一部成立)取り消す(申し立て一部成立) 121 |
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管理番号 | 1063040 |
審判番号 | 審判1998-35382 |
総通号数 | 33 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2002-09-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 1998-08-20 |
確定日 | 2002-07-15 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第2099693号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第2099693号の指定商品中「バンド類、ボタン類、宝玉およびその模造品、造花」についての登録を無効とする。 その余の指定商品についての審判請求を却下する。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1 本件商標 本件登録第2099693号商標(以下「本件商標」という。)は、昭和61年5月21日に登録出願され、「レールデュタン」の文字を横書きしてなり、第21類「装身具、その他本類に属する商品」を指定商品として、同63年12月19日に設定登録されたものである。 なお、本件登録については、その指定商品中の「化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物」について、商標登録無効審判事件(平成4年審判第12599号)が請求され、「請求不成立」の審決がなされ、東京高等裁判所(平成9年(行ケ)第164号審決取消請求事件)において「請求棄却」の判決がなされたが、最高裁判所(平成10年(行ヒ)第85号事件)において「審決取消」の判決がなされた。これを受けて、平成13年2月14日に、指定商品中の「化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物」についての登録を無効とする審決がなされ、その確定の登録が同年8月8日になされている。 2 請求人の引用する商標 請求人の引用する登録第661424号商標(以下「引用商標」という。)は、「L’AIR DU TEMPS」の欧文字を横書きしてなり、昭和38年11月30日に登録出願、第4類「香水類、その他本類に属する商品」を指定商品として、同39年12月12日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。 3 請求人の主張 請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第6号証(枝番号を含む。)を提出した。 (1)本件商標は、請求人であるニナ リッチ(Nina Ricci)社の香水類等の商標として本件商標の出願日以前より、請求人の母国フランスはもとより国際的に周知著名となっている引用商標の称呼をそのまま仮名表示したものである。 (2)本件商標登録に対しては、先に、商標法第4条第1項第10号、同第11号及び同第15号に該当するものとして、平成4年審判第12599号の無効審判請求をしたが、その審決及び東京高裁に対するこの審決取消請求訴訟(平成9年(行ケ)第164号)の判決(甲第1号証)において、引用商標は一般に「レアー ドゥ テンプス」の英語の称呼を生ずるから、引用商標とは非類似であり、指定商品についても出所の混同を生じないとしている。請求人は上記判決の認定を不服として最高裁に上告中である。 (3)引用商標は、請求人の国籍からも明らかな通り、フランス語であり、その意味するところは直訳すれば「時の雰囲気」すなわち「時代の雰囲気」であるが、請求人はこれを「時の流れ」と詩的に翻訳している。いずれにしても、その意味を正確に理解し得なくても、これがフランス語であることは、平均的な日本人が容易に認識し得るところである。その理由は、フランス語では名詞の前に冠詞「Le」(その略語「L’」)や「La」がつくことは「Le Japon」(ルジャポン)、「Le Mans」(ルマン)、「La Seine」(ラセーヌ)等により周知であり、「du」(デュまたはドゥ)や「de」(ド)が名詞2語の間に使用され、「・・の・・」を意味することは、「Chanson de Paris」(シャンソン ドゥ パリ)、「EAU DE TOILETTE」(オー・ド・トワレ)等によって周知だからである。上記は一般的な日本人が誰でも知っているフランス語的表現である。さらに、「AIR」(エール)についてもフランスの航空会社「AIR FRANCE」(エールフランス)の社名により周知である。 してみれば、引用商標の周知性や引用商標にかかる香水(引用商品)の分野の特殊事情に言及するまでもなく、一般論として、引用商標がフランス語の商標として認識されること、そして、その要部として、「レールドゥ・・」のような称呼を生ずるであろう程度の認識は、特にフランス語が得意ではない平均的な日本人でも可能なところである。 (4)香水の分野では、フランス香水が代表的であり、また、かかるフランス香水の代表的なものとして、引用商標にかかる香水(引用商品)の著名性は、本件商標の出願日である昭和61年5月当時、すでに、わが国において確立されていたことは、上記高裁判決も認めるところである。 (5)香水は、商標によるファンタジックなイメージがその香りとしての商品の重要な要素である。その点で、同様にイメージ的な創作である他のファッション製品と緊密な関連を有する。それどころか、フランスでは香水は、ファッション商品そのものであり、その代表的なものである。それ故に、有名なファッションデザイナーの大半は衣服や身回品類とともに香水を創作対象としているのである。すなわち、香水と他のファッション製品は、一体のファッション分野を形成しており、香水について周知な商標は他のファッション商品分野でも同様に周知認識されていると言うことである。 本件商標の指定商品である装身具、かばん類、袋物、化粧用具等についても、これらが、上述のいわゆるファッション商品であることは明かである。これらの商品分野では、香水と同様、あるいはそれ以上にフランス文化の影響が大きく、フランス語が広く使用され、認識されている。参考資料として、弁理士会発行の昭和59年、60年、61年度の公告商標集から、第4類(香水、化粧品類)及び第21類(指定商品は本件商標と同一)におけるフランス語またはフランス語的商標を取り出してリストしたものを甲第5号証として提出する。わずか3年間でこの数であり、フランス語の定着ぶりが明白である。 (6)一般に、日本人、特に若年層と中年女性層のファッション商品に関する外国の有名ブランド指向は非常に顕著なもので、このような外国ブランドに対する知識も驚くほどに高度である。その傾向は、61年以前から顕著であったが、特にいわゆるバブル景気の時代に向けて、我国経済が右肩上がりの上昇を続けていた昭和60年頃から、日本人が大挙して海外旅行に出かけ、高級ブランド商品(特にフランス商品)を買いあさったことが国際的に大きな話題となった。このような若年層や中年女性層が特に外国語の能力に優れているわけではない。しかし、彼らのブランドに対する関心の高さがブランドに対する高度の認識力(ブランド認識)を生み出しているのである。 引用商標を検討するときも、上記のような事情を考慮すべきである。ここでは、外国ブランドは単に外国語の表示として認識されるのではなく、彼らが憧れるもの、すなわち、外国の文化や生活、ステイタスのシンボルとして認識されているのである。すなわち、たとえ、ブランドに使用されている外国語の意味や発音を正確に理解していなくても(それが大半と思われる)、フランス語のものはフランス語的音感によって、長めの商標はその特徴的な部分(要部に該当する)によって、商標を認識しているのである。すなわち、他の分野に比較して、外国ブランドの認識力、理解力がより高度な分野である。 以上、香水や本件指定商品のいわゆるファッション商品の分野では、取引者及び需要者のフランス語の理解力が他の分野の者よりも高いうえ、さらに、外国ブランド認識力も他の分野よりも高いのであるから、彼らの認識を基準にすれば、引用商標が英語的に「レアー ドゥ テンプス」等と発音されるということは有り得ないのである。 (7)したがって、本件商標は、引用商標のフランス語の称呼「レール・デュ・タン」を一連に片仮名表示したに過ぎず、明らかに引用商標と類似する商標であり、引用商標及びその音訳である「レール・デュ・タン」は、我が国の香水の分野において、本件商標の出願時、請求人の香水の商標として取引者・需要者の間で著名になっていたものである。 そして、上記判決も認定しているように(甲第1号証第19頁及び第20頁)、被請求人は、引用商標の存在を知っており、かつ、その称呼は「レールデュタン」であることを知って、本件商標を出願・登録したものである。これは、その発売以来50年を経ている引用商標の著名性にあやかり、これにフリーライドしてその典雅なイメージを利用しようという意図に他ならず、商標法第4条第1項第19号にいう「不正な目的」に該当する。 したがって、本件商標は、周知著名な引用商標に類似する商標であって、商標法第4条第1項第19号の規定に該当するものである。 (8)更に、甲第1号証第20頁において高裁判決も認めている通り、被請求人は、本件商標の他に、「カボシャール」、「ナルシスノワール」、「ファルーシュ」、「インティメート」等、グレ社の「Cabochard」、キャロン社の「Narcisse Noir」、ニナリッチの「Farouche」、レブロン社の「lntimate」といった相当程度に名の売れた香水の名称を片仮名表記したものを数多く出願していた。 かかる行為は、そうした商標に蓄積・化体した他者の業務上の信用にただ乗りせんという意図に相違ない。しかしながら、こうした業務上の信用は、商標権者による長年の商品の品質改善、宣伝などの企業努力の成果であるから、何等関係のない他人がこれを利用することは、それ自体が社会正義に反する権利の乱用とも言うべき不当な行為であって、これを放任すれば公正な取引を阻害し取引秩序を破壊することにもなりかねない。 本件商標もこうした意図で出願された商標であって、その登録をこのまま黙認することは、我が国社会秩序を乱す行為であるから、商標法第4条第1項第7号の規定にも該当するものである。 上記の理由により、本件商標登録は、商標法第46条第1項第1号の規定により、無効とされるべきである。 4 被請求人の答弁 被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べている。 (1)不適法な審判請求 (ア)請求利益の不存在 請求人は、本件商標登録の無効を請求することについて、正当な法律上の利益(請求適格)を有さず、かかる請求適格を欠いた者による本件審判の請求は、不適法な請求として却下されるべきものである。 (イ)不適法な請求理由 請求人は、本件審判における請求理由として、商標法第4条第1項第19号の規定に違反して登録されたことを主張しているが、同号は平成8年法律第68号によって追加された規定であり、本件商標は、昭和63年12月19日に登録されたものであって、同号の適用を受けるものではない。 即ち、現行商標法第46条第1項本文は、平成3年法律第65号によって改正された規定であり、同法律65号附則第2条第3項の定め「この法律の施行前にした商標登録出願・・に係る登録の無効の理由については、なお従前の例による。」からして、平成8年法によって追加された無効理由は、本件商標の無効理由とはならない。 平成3年法律第65号施行前に登録された商標権の無効理由として第19号を適用することは、既得権の侵害のみならず権利の法的安定性を損なうこととなり、また、審判請求の除斥期間(第7号と第15号で異なる。)や、一事不再理の原則の適用等について法的整合性が保てないことともなる。 (ウ)一事不再理の原則に違反 請求人は、本件審判における請求理由として、商標法第4条第1項第19号及び同第7号の規定に違反して登録されたことを主張し、甲第1号証ないし同第6号証の4を提出するものであるが、請求人は、平成4年に、本件商標は商標法第4条第1項第11号及び第15号に違反するものとして登録無効審判(平成4年審判第12599号事件)を請求しており、当該審判ないし審決取消請求訴訟(平成9年(行ケ)第164号事件)において主張した事実及び提出した証拠(甲第1号証)は、実質的に本件審判請求における事実や証拠と同一であって、本件審判の請求は、一事不再理の規定(商標法第56条で準用する特許法第167条)に違反する。 (2)予備的答弁 (ア)商標法第4条第1項第19号 被請求人の反論は、平成4年審判第12599号審判事件(以下「前審判」と称す。)並びに平成9年(行ケ)第164号審決取消請求事件(以下「取消訴訟」)において既になされているところであり、請求人が主張する事実や法の適用解釈についての東京高等裁判所の認定判断も既に出されており、被請求人としては、答弁の必要性すら疑問のあるところであるが、以下の如くの答弁を予備的に行う。 (a)本件商標と引用商標との類否 本件商標より生じる称呼が「レールデュタン」であることは認めるが、引用商標からも同一の称呼が生じるという主張は認められない。 商標の類否判断は、一般の取引者、需用者が誤認混同をするか否かを基準として為されなければならず、よって商標の称呼についても、純語学上の見地からではなく、当業界の一般取引者や需用者が、該商標を如何様に称呼するかの見地から検討されなければならない。 してみると引用商標「L’AIR DU TEMPS」は、フランス語で「時の流れ」を意味し、フランス語的読みをすれば「レールデュタン」なる称呼が生じるとしても、これを以て直ちに、引用商標から「レールデュタン」なる称呼が生じるということにはならない。 我が国における外国語にあっては、英語の普及度が最も高く、その使用頻度からして、引用商標のような欧文字綴りは通常英語的な読みがなされるもので、引用商標を敢えて読むとすれば、英語的に「レアーデュテンプス」と発音するのが自然である。 請求人は、香水についての商標採択事情を挙げ、引用商標からはフランス語的称呼が生じる旨を主張するものであるが、本件商標に係る指定商品業界においてこのような特殊事情は存在しないことはもとより、請求人が強調する香水業界の事情を仮に考慮するにしても、フランス語的商標の採用例が他業界に比して多くあるという程度であって、それが一般的であるという事実はない。 しかも、フランス語的な商標が採用されている場合であっても、それは単に商標採択者の主観的な意思、又は純語学上の問題であって、フランス語綴りの商標を一般取引者や需用者が、自然的にフランス語読みをするというものではない。 このことは、通常フランス語的商標が使用されている場合、その綴りに仮名を振っている例が多くあることからも窺い知れるところであり、これはフランス語特有の語感を商品イメージに結びつけようとする商標採択者の主観的意思を、単に取引者や需用者に強いているにすぎないのであって、むしろフランス語的綴りからなる商標の称呼が、一般的にはフランス語的読みから生じ難い実情を裏付けているものである。 請求人は、いくつかの他事例があることを理由にして、「引用商標がフランス語綴りであることは平均的な日本人が容易に認識し得るところである。」と主張するものであるが、フランス語綴りであることを認識することとフランス語的な自然称呼(発音)が生じることとは全く別のことであり、仮に、取引者や需用者が引用商標をフランス語綴りと認識し得たとしても、必然的に引用商標を「レールデュタン」と称呼(発音)するものではない。 また、請求人は、「平均的日本人の感覚として・・引用商標の ”L’AIR DU”の部分を ”ル エール ドゥ”、”レールドゥ”と称呼するもので、該部分は要部である。」と主張するが、引用商標の ”L’AIR DU”の部分がこのように称呼されるか否か、或いは該部分が引用商標の要部であるか否かに拘わらず、本件商標からは「レールデュタン」という一連称呼のみが生じるものであって、引用商標と共通の称呼は生じ得ない。 商標の類否を判断するうえで、商標の著名度によっては使用商品の如何に拘わらず、その称呼がフランス語的読みによって生じることもあり得ることを特に否定するものではないが、引用商標は非類似商品の一般取引者や需要者にまで、フランス語的に称呼される程著名なものではない。 請求人提出の甲第3号証ないし甲第4号証については、本件・引用商標と事案・事例を異にするもので関係がなく、引用商標の称呼の認定に何等影響を与えるものではない。 また、甲第5号証にあっては、請求人の認識とは逆に3年間でこの程度(対総件数からみて極めて僅か)しか存在しないことを証明するもので、しかも、これらの商標の称呼が全てフランス語的発音をもって認定されたことを証明するものではない。 (b)引用商標の周知著名性 引用商標が本件商標の出願日前より、日本国内又は外国において周知著名であったという事実はなく、甲各号証からも立証されていないのであるから、かかる請求人の主張は認められない。 請求人のハウスマーク「ニナリッチ/NINA RICCI」が、我が国のみならず外国に於いても著名商標としての地位を得ていることは否定するものではないが、当該著名商標下にあって、多数の商品群中の一香水を個別化するために使用される引用商標「L’AIR DU TEMPS」は、本来限定された特定商品にその印象や記憶を収斂させることによって有効にその識別機能を発揮し得るもので、前審判において請求人が提出した証拠資料(Notes du Parfum:前審判甲3号証の3)によれば、「ベストパルファム」として紹介された香水の商標だけでも63種以上に及び、引用商標はその内の一つにすぎず、仮に、これらの全てが香水の商標として一定程度の認識を獲得しているとしても、これら全ての商標が周知商標又は著名商標と考えるのは、余りにも不自然で合理性を欠くものと言わざるを得ない。 請求人は「前審判の審決取消訴訟高裁判決(甲第1号証)では、引用商標にかかる香水の著名性を認めている。」と主張するが、同判決は「各事実を総合すると、・・香水を取り扱う業者・香水に関心を持つ需要者には、香水のうちの一つを表示するものとして著名であったと推認されるが、・・原告商標”ニナリッチ”であればともかく、引用商標が原告の香水を表示するものとして一般的に周知著名であったとまでは認め難い。(17頁)」とし、引用商標の周知著名性を否定しているのである。 そして、請求人が甲第1号証の一部として提出した審決取消訴訟での甲各号証(以下「訴訟甲号証」という。)の内、「訴訟甲第2号証、訴訟甲第4号証ないし訴訟甲第9号証、訴訟甲11号証ないし訴訟甲第15号証、訴訟甲第17号証、訴訟甲第20号証の各、訴訟甲第23号証の各ないし訴訟甲第25号証」の使用実績を示す資料の何れもが、本件商標出願後の資料であって、訴訟でも周知著名性を立証する根拠資料として採用されていない。 採用された「訴訟甲第3号証の各」は、何れも同一のファッション雑誌「モードエモード」に掲載された請求人商品(香水)の広告であることは認めるが、当該雑誌は年2回しか発行されない季刊誌で、婦人服デザインに特別関心を持つ購読者を対象とした特殊性・専門性の高いもので、広範囲な読者層を対象とした一般的雑誌とは言い難く、しかも請求人の広告掲載回数は極めて僅かで、その発行部数も定かではない。 このような雑誌にしたこの程度の広告実績をもって周知又は著名商標とするならば、既使用商標の多くは周知又は著名商標と言うこととなり、到底認められるところではない。 更に、本件商標との類似関係で言えば、採用された訴訟甲各号証は、「レールデュタン」の片仮名表記すらないもの、或いは片仮名表記があったにしても、商品種類等を示す箇所にあって極めて小さく書されているものであり、本件商標と類似する商標を使用したことの実績、ましてや周知又は著名化の根拠とする実績には到底なり得ないばかりか、引用商標を「レールデュタン」と称呼させようとする請求人の意図又はその努力すら窺い知れないものである。 請求人提出の甲第6号証の1は、請求人が所属し、請求人と利害を共通とする香水協会会長の供述書であって、引用商標が周知又は著名商標であったことの根拠証拠としては認められない。 そもそも、「1980年代始めより・・周知著名」と供述するが、今から大凡19年前の状況を同協会会長が証明できるのか、その根拠も事実も示されておらず、極めて不可解である。 請求人提出の甲第6号証の2・同号証の3は、単に引用商標「L’AIR DU TEMPS」の出願又は登録の事実にすぎず、周知・著名化の事実とは全く関係しないことである。 ましてや、非類似である本件商標に関係する事実でもなく、また、その多くは本件商標の出願後の事実であり、到底周知著名化の証拠として採用することは認められない。 請求人提出の甲第6号証の4は、何れも本件商標の出願後に発行された印刷物であり、論外である。 (c)不正目的 被請求人に不正目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的、他の不正の目的)など全くないのであり、その前提すら認められない。 先に述べたように、引用商標と本件商標とは非類似で、しかも引用商標が本件商標の出願日前より、日本国内又は外国において周知又は著名であったという事実はなく、かかる事実を前提に何をフリーライドするのか、或いは如何なる不正目的を持ち得るのか、請求人主張は全く理解できないところである。 請求人所有のハウスマーク「ニナリッチ/NINA RICCI」が著名商標であるとしても、引用商標は、請求人商品「香水」について使用されていたことを窺い知れる程度の使用実績しかない商標であって、被請求人が非類似商品につき本件商標を登録し、使用したからといって、請求人の有する何等かの利益を得られる(又は、請求人に損害を与える)というものではなく、しかも、本件商標と引用商標とは外観・称呼・観念の何れにおいても類似するものではないのであるから、被請求人の本件商標の採択には、引用商標の営業上の価値を盗用又は流用せんとする意図すら感じられない処である。 即ち、請求人のハウスマーク「ニナリッチ/NINA RICCI」が著名商標であるとするならば、同様に、被請求人所有のハウスマーク「マドラス/madras」も著名商標であり、このような被請求人ハウスマークの下で、本件商標を採択使用するに当たって、周知・著名でも類似でもない引用商標の如何なる要素をフリーライドするのか、その必然性すら存在しない。 仮に、本件商標の採択が香水の名称にヒントを得たものであるとしても、それをもって直ちに不正な目的があったということにならないことは謂うまでもなく、元来商標の採択は商品の特性、採択者の嗜好あるいは何等かの思い入れ等に基づく既存事実の選択行為にあるのが通常で、これら採択者の主観的要素が問題とされることは原則的にはない。 特に本件商標の如く既に社会的共有物ともいうべき文字商標にあっては、それが如何なる事実にヒントを得たものであっても、商標として採択すること自体に何等制約を受けるものでないし、ましてや、周知でも著名でもなく、類似でもない引用商標の存在をもって本件商標の登録適格が否定され理由は存在しない。 (イ)商標法第4条第1項第7号 請求人は、本件商標の登録をこのまま黙認することは我が国社会秩序を乱す行為であるから、第7号の規定に該当すると主張するものであるが、本件商標の登録や使用が「公序良俗」を害するものでないことは、上述の事実からも明白である。 以上、本件審判の請求は不適法なもので、請求人の主張には何等根拠がなく一切の無効原因は存在しない。 5 当審の判断 本件商標登録については、前述のとおり、別途請求された平成4年審判第12599号の審判において、平成13年2月14日に、その指定商品中の「化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物」について、その登録を無効とするとの審決がされ、その確定登録が同年8月8日になされている。 そうすると、本件商標に係る商標権のうち、上記指定商品に係る部分は初めから存在しなかったものとみなされる結果(商標法第46条の2)、本件審判の上記指定商品に係る部分についての請求は、既に、その対象物が存在せず、もはや、その請求は不適法なものとなったといわなければならない。 よって、本件審判は、請求に係るその余の指定商品である「バンド類、ボタン類、宝玉およびその模造品、造花」について判断する。 (1)本案前の主張について 本件審理に関し、被請求人は、請求人の請求適格等について争っているので、まず、これらの点について判断する。 (ア)被請求人は、請求人が本件審判の請求をすることについて請求適格を有しない旨主張している(具体的な理由は何ら示していない)。 しかしながら、請求人は、著名な引用商標と類似する本件商標は公正な取引を阻害し取引秩序を破壊するものである等の理由から、本件審判を請求しており、請求人には、本件審判の請求をすることについて、重大な利害関係があるものといわなければならず、他に請求適格を欠くことになる理由は見当たらない。 (イ)被請求人は、本件審判請求が一事不再理の原則に反する旨主張している。 しかしながら、商標法第56条において準用する特許法第167条でいう一事不再理の原則とは、審判の確定審決の登録後、「同一の事実」及び「同一の証拠」に基づく審判手続の繰り返しを禁止することをいうものであるところ、本件審判請求の理由は、平成4年審判第12599号とは異なるものであるばかりでなく、平成4年審判第12599号では、「バンド類、ボタン類、宝玉およびその模造品、造花」については、そもそも請求の対象にもなっていなかったものであるから、本件審判請求は、一事不再理の原則に反することにはならない。 (ウ)被請求人は、本件商標登録は昭和63年12月19日に登録されたものであるから、平成8年法律第86号によって追加された商標法第4条第1項第19号の適用を受けるものではなく、同号に該当するとの請求理由は不適法なものである旨主張している。 しかしながら、法律改正がなされた場合、その改正の効果は、同法律体系全般に及ぶのが原則であり、例外は、同法律の附則や経過措置によって明文を以て規定された個々の条文の場合に限られるものというべきである。しかるに、平成8年法律第86号の附則・経過措置規定のいずれにも商標法第4条第1項第19号について、被請求人主張の如き例外的取扱いは規定されていない。 したがって、平成8年法律第86号が施行された平成9年4月1日前に登録された商標登録の無効審判についても、商標法第4条第1項第19号の適用自体は可能なものと解されるから、この点についての被請求人の主張にも理由はない。 (2)商標法第4条第1項第7号について 本件商標は、前記のとおり、「レールデュタン」の文字を書してなるものであるところ、請求人は、本件商標は商標法第4条第1項第7号にも該当する旨主張しているので、この点について判断する。 (ア)引用商標等の著名性 請求人の提出に係る甲第1号証ないし同第6号証に東京高等裁判所 平成9年(行ケ)第164号審決取消請求事件において認定された事実及び最高裁判所 平成10年(行ヒ)第85号事件の判決をも併せ考慮すると次の事実を認めることができる。 (a)甲第1号証に添付の甲第3号証の1ないし8によれば、ファッション雑誌「MODE et MODE」(モード エ モード)の1973年4月号、1974年10月号、1978年10月号、1979年4月号、1982年4月号、1983年10月号、1984年10月号、1985年4月号の広告頁には、請求人の製品である香水の一つが「L′AIR DU TEMPS」、「L′air du Temps」又は「レール・デュ・タン」と表示して広告されていることが認められる。 (b)甲第1号証に添付の甲第10号証によれば、「ヨーロッパの一流品 1986年版」(昭和60年12月1日 日本交通公社発行)の広告頁には、請求人の製品である香水が「L′AIR DU TEMPS」と表示して広告されていることが認められる。 (c)甲第1号証に添付の甲第16号証の1・2によれば、堅田道久著「香水一世界の香水のすべて-」(昭和40年7月1日初版、昭和53年10月1日重版、昭和59年11月1日重版 株式会社保育社発行)には、請求人の香水の一つとして「レール・デュ・タン」(L′air du Temps)が紹介されていることが認められる。 (d)甲第1号証に添付の甲第22号証によれば、「服飾辞典」(昭和55年3月1日 文化出版局発行)には、ニナ・リッチの項に、「メゾンの名前を国際的にしたのは息子のロベール。彼は経営面を担当し、香水『レール・デュ・タン』を手はじめに、時代の好みに合わせて新作の香水を次々に打ち出した。」との記載があることが認められる。 (e)甲第1号証に添付の甲第28号証の1ないし3によれば、「世界の一流品大図鑑」(株式会社講談社発行)の1980年版、1981年版、1982年版中の香水の欄には、請求人の香水が紹介され、「中でも2羽の鳩に象徴されるレール・デュ・タンはフローラルブーケ・モダンブレンドとして、世界的な名声を博しています。」(1980年版)、「フローラルブーケ・モダンブレンドの名品『レール・デュ・タン』・・・をはじめ、世界的に有名ないくつかの名香を世に送り出し、ニナ・リッチの名を不動のものとしたのです。」(1981年版)、「永遠の香りと讃えられる、『レールデュタン』」(1982年版)などと記載されていることが認められる。 (f)甲第1号証に添付の甲第29号証によれば、「世界の特選品 84年版」(株式会社世界文化社発行)の「ニナ・リッチ」の項には、「1948年にレール・デュ・タン(時の流れ)を発表。2羽の鳩がたわむれているような塑像つきの香水びんは、ラリック社製で、香水とともに半透明の美しいびんが評判を呼びました。」と記載されていることが認められる。 (g)甲第1号証に添付の甲第30号証ないし甲第40号証(フランス大使館等からの陳述書)によれば、請求人の香水「レール・デュ・タン」(L′air du Temps)は、1948年に発売されたこと、「レール・デュ・タン」は、1964年(昭和39年)に日本への輸入が開始され、昭和40年頃から我が国の主要な空港の免税品店において、昭和48年頃からは百貨店や化粧品小売店でも販売されたこと、昭和61年頃の日本国内における請求人の香水の販売高はシャネル社に続き2番目であったが、「レール・デュ・タン」は請求人の香水を代表するものであって、請求人の香水の売上高の7割ないし8割を占めていたことが認められる。 (h)甲第1号証に添付の甲第18号証によれば、「英和商品名辞典」(1990年株式会社研究社発行)の「ニナリッチ」の項には、「1948年に半透明ガラスの鳩をあしらった美しい瓶に入ったL′Air du Tempsを大ヒットさせて、一躍Nina Ricciの名を高め、」と記載されていることが認められる。 (i)甲第6号証の1及び2によれば、請求人は、「L′AIR DU TEMPS」の商標をフランスにおいては1944年に登録しており、その他、英国、カナダ、アメリカには1945年、ノルウェーには1948年、スエーデンには1953年、コスタリカには1952年、チリには1960年、アルゼンチン、メキシコには1962年、香港、シンガポールには1964年、タイには1965年、オーストラリアには1967年、フィリピンには1968年、ニュージーランドには1969年に登録する等、早いものでは、本件商標の出願日より40年も前から登録されており、「L′AIR DU TEMPS」の商標は、半世紀の永い間継続して使用されてきたものであることを認めることができる。 (j)甲第6号証の4によれば、請求人の業務に係る「L′AIR DU TEMPS」の香水についての記事並びに広告は、多くのフランスの代表的な定期刊行物に掲載されており、例えば、「POUR VOUS MADAME(1996年12月号)」には、「”レール・ドユ・タン”は、繊細で柔らかな春を思わせる香水であり、戦後、フランス香水の世界的名声を高めるのに貢献したことは誰もが認めることである。1948年に、かの高名なルネ・ラリックが、ニナ・リッチ社から二つの鳩で飾られたボトルを作るよう命を受け、クリスタルを使って製作したものだ。」と記載されており、「L’ARGUS DE LA PRESSE(1992年9月12日号)」には、「世界的な成功を収め、未だにその座に止まっているのはただ一つの香水しかない。繊細でロマンチックで官能的なレ一ル・デュ・タンは、みずみずしくバランスのとれた不偏の香水である。」と記載されており、又、「VOGUE(1996年9月号)」には、「リッチはいつもレール・デュ・タンの中にある。レール・デュ・夕ンのボトルは、1948年の発売以来、世界で毎秒2億瓶も売れている。あなたがレール・デュ・タンがどういうものか知らないと言っても、誰も信じないでしょう。」と記載されていることが認められる(なお、上記各文献が本件商標の出願日以降に出版された雑誌等であるとしても、それらの記載内容等は、本件商標の出願日以前からの引用商標に関する事情が掲載されており、本件審判事件の判断にあたり、十分斟酌し得るものである)。 上記認定の各事実を総合すると、本件商標の出願時である昭和61年当時、我が国においては、「L′AIR DUTEMPS」の引用商標及び請求人の使用に係る「レール・デュ・タン」、「L′air du Temps」の商標(以下、併せて「本件各使用商標」という。)は、香水を取り扱う業者や高級な香水に関心を持つ需要者には、請求人の香水のうちの一つを表示するものとして著名であり、かつ、独創的な商標と認められる。 (イ)本件商標と引用商標等の類否及び商品の関連性 本件商標と引用商標及び本件各使用商標とは、上記に示したとおりの構成よりなるものであるところ、本件商標は、本件各使用商標のうち「レール・デュ・タン」の商標とは少なくとも称呼において同一であって、外観においても類似しており、しかも、引用商標の表記自体及びその指定商品からみて、引用商標からフランス語読みにより「レールデュタン」の称呼が生ずるものといえるから、本件商標は、引用商標とも称呼において同一である。 そして、本件商標の指定商品のうち「バンド類、ボタン類、宝玉およびその模造品、造花」と香水とは、いずれも広義におけるファッション製品の範疇に属するものであるということができる。 (ウ)4条1項7号の該当性 甲第1号証に添付の甲第19号証の1ないし4、甲第20号証の1ないし3によれば、被請求人は、昭和61年5月21日、本件商標のほか、指定商品を第21類「装身具、その他本類に属する商品」として、「インティメート」、「カボシャール」、「カランドル」、「ナルシスノワール」、「ファルーシュ」、「ランテルディ」につき商標登録出願しているが、これらの商標は、レブロン社の「INTIMATE」、グレ社の「Cabochard」、パコ・ラバンヌ社の「Calandre」、キャロン社の「NARCISSE NOIR」、請求人の「FAROUCHE」、パルファム ジバンシイ社の「L′INTERDIT」といった香水の名称をそれぞれ片仮名表記したものであること、被請求人は、同様に、「カシェイ」、「アンブッシュ」、「ウィンドソング」、「シアレンガ」、「シャンダローム」といった外国語を片仮名表記したものについても商標登録出願していることが認められる。 このような、被請求人の商標採択の実情に前記認定の事実を総合してみれば、被請求人は、香水の商標として著名な引用商標の存在を知っており、かつ、その称呼は「レールデュタン」であることを承知のうえ、引用商標と類似する本件商標を採択し、その登録を受けたものといわざるを得ないところであり、このことは、前記高裁判決においても認定されているとおりである。 してみれば、被請求人のかかる行為によって登録された本件商標は、国際商道徳に反するものであって、公正な取引秩序を乱すおそれがあるばかりでなく、国際信義に反し、公の秩序を害するものといわなければならない。 (3)むすび したがって、本件審判の請求中、「化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物」についての登録を無効にすることについての請求は、商標法第56条第1項において準用する特許法第135条の規定により却下し、その余の指定商品である「バンド類、ボタン類、宝玉およびその模造品、造花」についての登録は、商標法第4条第1項第7号に該当するものであるから、同法第46条第1項の規定により無効とする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2002-02-18 |
結審通知日 | 2002-02-21 |
審決日 | 2002-03-05 |
出願番号 | 商願昭61-52335 |
審決分類 |
T
1
11・
22-
ZC
(121)
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最終処分 | 一部成立 |
前審関与審査官 | 吉村 公一 |
特許庁審判長 |
三浦 芳夫 |
特許庁審判官 |
中嶋 容伸 滝沢 智夫 |
登録日 | 1988-12-19 |
登録番号 | 商標登録第2099693号(T2099693) |
商標の称呼 | レールデュタン |
代理人 | 照嶋 美智子 |
代理人 | 野原 利雄 |
代理人 | 神林 恵美子 |