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審決分類 審判 判定 その他 属さない(申立て成立) 117
管理番号 1060214 
判定請求番号 判定2001-60135 
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標判定公報 
発行日 2002-07-26 
種別 判定 
2001-11-15 
確定日 2002-05-02 
事件の表示 上記当事者間の登録第1995400号商標の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 商品「再織を使用した被服、再織を使用した布製身回品」に使用するイ号標章は、登録第1995400号商標の商標権の効力の範囲に属しない。
理由 1 本件商標
本件登録第1995400号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)に示すとおりの構成よりなり、第17類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品として、昭和60年11月26日に登録出願、同62年10月27日設定登録され、その後、平成9年11月25日に商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。

2 イ号標章
請求人が商品「再織を使用した被服、再織を使用した布製身回品」に使用するイ号標章は、別掲(2)に示すとおりの構成よりなるものである。

3 請求人の主張
請求人は、商品「再織を使用した被服、再織を使用した布製身回品」に使用するイ号標章は、その商品の品質、原材料を普通に用いられる方法で表示するものであり、商標法第26条第2項(「第26条第1項第2号の誤記と認め判断する。以下同じ」)に該当するのであるから、本件商標の効力の範囲に属さない」との判定を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし同第17号証を提出した。
(1)判定請求の理由の要約
商品「再織を使用した被服、再織を使用した布製身回品」に甲第12号証及び甲第13号証に示す使用態様にて使用するイ号標章は、前記商品の品質、原材料を普通に用いられる方法で表示するものであり、すなわち商標法第26条第2項に該当するものであるので、本件商標の商標権の効力の範囲に属さない。
(2)判定請求の必要性
請求人は、商標法第7条第1項に規定する法人であり、その構成員である組合員に、商品「再織を使用した被服、再織を使用した布製身回品」にイ号標章を使用させるものであるが、イ号標章と本件商標とは商品が同一又は類似し、且つ標章が類似している恐れがあるため、本件判定請求をするものである。
(3)イ号標章の説明
イ号標章は、「再織」の漢字を横書きしたものであり、商品「再織を使用した被服、再織を使用した布製身回品」に、前記商品の品質・原材料の表示として常識的な方法で使用するものであって、甲第12号証や甲第13号証にあるような形で使用するものである。
(4)イ号標章が商標権の効力の範囲に属さないとの説明
イ号標章を使用する商品「再織を使用した被服、再織を使用した布製身回品」の「再織」という織物について、以下に具体的に説明すると共に、「再織」の語句が「再織」という織物を示す名称としてどの程度定着しているかについても述べる。
(ア)甲第3号証は「再織」を使用した実際の製品であって、上から帽子、ハンカチ、マフラーであり、巷でよく見かける製品である。
(イ)甲第4号証の「JIS工業用語大辞典」(1982年(昭和57年)12月6日第1版、第1刷発行、1983年(昭和58年)2月1日第3刷発行、財団法人日本規格協会発行)によると、「再織」とは、「たて糸に綿糸20s(30tex)程度。よこ糸にシェニール糸を使用し、表裏両面にパイルを形成した文様を現した織物。」というものであって、この「JIS工業用語大辞典」によるとその発行日である1982年(昭和57年)12月6日には、JIS工業用語として「再織」の語句が使用されていたことがわかる。
(ウ)また、甲第5号証の「服飾辞典」(昭和54年3月5日第1刷発行、昭和59年1月10日第6刷発行、文化出版局発行)によると、次のように「シェニール」の項目に「再織」が載っている。シェニール〔chenille〕/毛虫糸,モール糸ともよばれる飾り撚(よ)り糸の一種であるとともに、これで織った織物のことである。シェニール糸は、綿糸、レーヨン糸,亜麻(あま)糸などを2〜6本一組みとして、他の組みとある間隔をおいて配列し、これに太い甘撚りの糸を打ち込んで織る。織り上げたものは、シェニール・ブランケットといわれ、すだれを小さくしたように見えるが、このブランケットの緯(よこ)糸を経(たて)糸の各組みの中央で、縦方向に切り、切り離したものに片撚りをかける、綿糸2〜6本が芯となり、切られた短い緯糸がそのまわりに直角に出て二毛虫のような形となる。これがシェニール糸である。織物のシェニールは,このシェニール糸を緯に使い,経には綿糸、人絹糸、絹糸,そ梳毛糸(そもうし)などを粗く配列して、多くは平織りにしたもの。チンコール、再織(さいおり、またはモール織りなどともいわれる。柔らかい深いけばで覆われた厚地であり、トリミング、テーブル・センター、タオル、膝掛け、カーペットなどに使われる。」このように「再織」とはシェニールの別名でもあり、その製法・形態が詳しく述べられており、この「服飾辞典」によると、その発行日である昭和54年3月5日には、服飾用語として「再織」の語句が使用されていたことがわかる。
(エ)また、甲第6号証の日本における「再織」の発祥の地とされる和歌山県伊都郡高野口町のインターネット上におけるサイト(URL http://www.town.koyaguchi.wakayama.jp/hp/home/)を見ると、「パイル織物の元祖をなす再織は、明治10年高野口町の前田安助氏によって創案された類のない特殊織物であります。 明治20年代には、神戸の外国商館よりカーテン、テーブルクロス、壁掛、チーフなどの注文を受け、米国に輸出し好評を博しました。しかしながら、手織機による手工業的製織技術に頼り機械化の研究が行なわれなかったため、昭和35年頃を境に姿を消すこととなりましたが、昭和58年、紀州繊維工業協同組合の振興対策事業の一環として先端技術を導入し再織製織技術の近代化に取り組み昭和61年パイル織物開発センターを建設し、以来今日まで苦心研究を重ねて、ようやくコットンの暖か味のあるモダンでフレッシュな再織が新しく誕生し、これを機にファッション、寝装、インテリア用商品への展開が進められています。」とのこと。
(オ)さらに、甲第7号証、甲第8号証、及び甲第9号証は特許明細書であって、織物に関する技術内容が記載されたものであり、それぞれ明治18年、明治39年、昭和11年の出願に係るものですが、既に「再織」の語句が登場している。
(カ)これら甲第4号証ないし甲第9号証からすると、「再織」の語句は、シェニール織り等の別名であって、少なくとも明治中頃には該織物を示す名称として一般的に使用されはじめ、現在に至るまで該織物を示す名称として定着していることがわかる。
(キ)上記の甲第4号証ないし甲第9号証によって「再織」の語句は、シェニール織りとも呼ばれている「再織」という織物を意味する語句として定着しているという事実を証明するに十分であると考える。
(ク)甲第10号証は、本件請求人である紀州繊維工業協同組合発行の「パイル織物百十年史」であって総べ一ジ数535ページからなる中の、目次部分、第2章「再織」部分(120ページから200ページ部分)及び534ページ、535ページを抜粋したものである。
甲第10号証は、本件請求人の発行に係るもので本件における証拠として、その証拠能力を判断するにおいて、懐疑的にならざるを得ないことは理解している。
しかしながら、甲第10号証中の特に以下に示す箇所は、客観的資料に基づいて編纂されていることから、十分に証拠能力のあるものであり、また甲第10号証全体を通しても、その内容には恣意的なところはなく、「再織」の発祥の地といわれる和歌山県伊都郡高野口町において「再織」という織物がどのように発展し、広まったかが客観的に記載されているものである。
甲第10号証の138ページから186ページの「第2節 再織の研究」では昭和27年3月、和歌山大学助教授、南 清彦氏の「高野口特殊織物-再織の研究」なる論文を引用しており、これは第3者による客観的な研究であり、その内容は和歌山県伊都郡高野ロ町で発達した「再織」についての詳細な研究である。
また、甲第10号証の193ページから199ページの「まぼろしの再織-原田晴代さん」では昭和57年2月発行の「月刊染織α」(染織と生活社)より引用しており、この内容もまた第3者による客観的な雑誌記事であり、その内容は産業としてはその幕を閉じていた「再織」の技法を守り伝える一人の女性が紹介されている。
また、甲第10号証の121ページには再織の創案者といわれる前田安助氏の碑の写真が掲載されている。
(ケ)甲第11号証はその碑を写し取ったものであり、表側にはカタカナと漢字混じりで「サイ織發明」の文字が見え、裏側にはおそらくこの碑が建立された時期である「明治二十九年六月」の文字と、その碑の建立の発起人の名が見える。
甲第10号証の132ページには、亀岡浅松氏製造の再織卓掛(テーブルクロス)を、当時皇太子であった昭和天皇が大正11年12月に和歌山県への行啓の際に購入され、また昭和4年6月13日に和歌山県への行幸の際には、同じく亀岡浅松氏製造の再織卓掛を献上した旨の内容が記載されており、133ページにはその献上の再織卓掛に従事した人々の写真と、おそらくその写真の裏書きと思われる、「今回 聖上陛下本県行啓に際し、県自治会より献上したる再織卓掛の謹製に従事し幸に御嘉納の光栄に浴す。依って記念の為之を写す昭和四年六月十三日…。」という記述が掲載されている。
上記のように甲第10号証からは「再織」という織物が.和歌山県伊都郡高野口町にて明治十年頃に前田安助氏により創案され、明治末期から大正、昭和にかけて発展を遂げ、昭和天皇への再織卓掛の献上の事実は、和歌山県の特産物として「再織」はその地位が認められていたものといえ、産業としては昭和38年に産地から姿を消すこととなったが、その後も「再織」という織物の技法は守り伝えられ、昭和60年になり再び「再織」という織物の技術・近代化の事業がおこり(甲第10号証、200ページ)現在に至ることが理解できる。
以上述べた如く、「再織」とはシェニール織りとも呼ばれ、該織物を意味するものとして定着していることは甲第4号証ないし甲第11号証により理解できるものと考える。
そして、「再織」の織物は、その織物を生地に用いることによって、様々な製品に利用され、例えば、甲第3号証に示した帽子、ハンカチ、マフラーはその例であって、商品「再織を使用した被服、再織を使用した布製身回品」とは、生地に「再織」を使用した「被服、布製身回品」である。
(コ)甲第12号証、及び甲第13号証に示すものは、イ号標章の使用態様を示すものであり、甲第12号証は商品「再織を使用した被服、再織を使用した布製身回品」を含む商品の紹介のカードであり、同商品を含む商品の紹介のリーフレットであり、同商品へ付すタッグであり、甲第13号証は同商品を含む商品のカタログである。
甲第12号証、及び甲第13号証にはそれぞれに矢印部に見えるようにイ号標章が表示されており、イ号標章はこの甲第12号証、及び甲第13号証に示すような状態で使用するものであって、商品「再織を使用した被服、再織を使用した布製身回品」の品質・原材料の表示として常識的な使用方法にて使用するものである。
よって、商品「再織を使用した被服、再織を使用した布製身回品」に使用するイ号標章は、単に商品の品質・原材料を表示するに止まるものであり、敢えて付言すればイ号標章の商品「再織を使用した被服、再織を使用した布製身回品」への使用は、商標法第26条第2項に明記された商標権の効力の及ばない範囲に該当するものであり、本件商標の効力の範囲に属さないものと考える。
(サ)また、甲第14号証は商願平6-102534号「再織/サイオリ」第25類「履物」のコンピュータデータであって、この出願商標は本件被請求人の出願に係るものであるが、審査において拒絶理由が通知され、最終的に拒絶査定となったものである。
(シ)甲第15号証はその拒絶理由通知であって、その内容は、『この商標登録出願に係る商標は、服飾分野において、「シェニール織物」を意味する「再織」「サイオリ」の文字を普通に用いられる方法で書して成るものであるから、これを本願指定商品中「再織を使用した履物」に使用するときは、単に商品の品質・原材料を表示するに止まるものと認める。』というものであって、「再織」を使用した商品に「再織」から成る文字を使用したとしても自他商品識別の機能を有することはないという旨の拒絶理由である。
これは本件商標についても本来このような理由により拒絶されるべきものであったことの証左でもあり、本願商標は本来登録される類の商標ではなく、過誤登録されたものと考える。このような場合の第三者への救済規定でもある、商標法第26条第2項により、本件商標の効力は商品「再織を使用した被服、再織を使用した布製身回品」に使用するイ号標章には及ばないものと考える。
(ス)さらには、本件商標と並行して甲第16号証、および甲第17号証の登録証に示す商標が登録されている。この事実は、商品「再織を使用した被服、再織を使用した布製身回品」と、実質的に同商品である商品「再織生地を使用した布製身の回り品」、及び商品「再織生地を使用した被服」においては、「再織」の文字は自他商品識別の機能を有するものでは無いということの証左であると考える。
そしてこの事実からも、自他商品識別の機能を有することのない文字のみから成る本件商標は、本来登録される類の商標ではなく、過誤登録されたものといえ、同じく商標法第26条第2項により、本件商標の効力は商品「再織を使用した被服、再織を使用した布製身回品」に使用するイ号標章には及ばないものと考える。
(5)以上のとおり、商品「再織を使用した被服、再織を使用した布製身回品」に使用するイ号標章は、本件商標の効力の範囲に属さないものである。よって、請求の趣旨とおりの判定を求める。

4 被請求人の答弁
被請求人は、「本件判定請求を却下する。」との判定を求め、その答弁の理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証を提出した。
(1)本件判定請求は、商標法第26条第1項第2号に基づき、イ号標章を特定の商品について使用することは、「商品の…品質、原材料…を普通に用いられる方法で表示する」ことに該当するから、本件商標権の効力の範囲に属しないとの判定を求めるものであるが、商標法第26条第1項第2号における「商品の・・・品質、原材料…を普通に用いられる方法で表示する」ことに該当するか否かは、当該標章の具体的使用態様との関連において判断されるべきものである。
しかし、本件判定請求においては、請求人によるイ号標章の現実の使用態様は、全く立証されていない。当事者による現実の使用態様が立証されていない標章について、商標法第26条第1項に規定する商標権の効力範囲について判定を求めることは不適切である(なお、判定請求書の各所に「商標法第26条第2項」と記載されているのは、「商標法第26条第1項第2号」の誤記であろうと、善解した。)。
(2)請求人は、「請求の理由」の「(3)イ号標章の説明」において、「イ号標章はこの甲第12号証、及び甲第13号証に示すような状態で使用するものであって」と述べているが、甲第12号証及び甲第13号証は、いずれも、請求人の商品に関する広告文書ではない。被請求人の調査によれば、甲第13号証は、堺市所在の「ワールドリビング株式会社」なる会社の販売商品の広告文書であり(乙第1号証)、甲第12号証も、同社の広告文書であると推認される。
しかも、甲第12号証及び甲第13号証において用いられている標章は、「幻の織物”再織”」(横一連の表記)、「幻の織物/再織」(上下2段の表示)又は「春夏に楽しむ『再織』」なる表示であって、イ号標章と同一ではない。
請求人でも被請求人でもない第三者による、しかもイ号標章とは相違する標章が表示されている文書をもって、イ号標章の効力判定請求の基礎とすることはできないと解され、したがって、本件判定請求は、請求の必要性を欠くものである。
(3)請求人は、「請求の理由」の「判定請求の必要性」において、「その構成員である組合員に、商品「再織を使用した被服、再織を使用した布製身回品」にイ号標章を使用させるものである」と述べており、そのことをもって判定請求の必要性の根拠としているようであるが、もとより請求人は、イ号標章の商標権者ではないのであるから、イ号標章の使用を他人に許諾する如何なる権原も有していない筈である。
また、そもそも本件判定請求の趣旨及び理由に従えば、イ号標章は何人も使用しうる標章となる筈のものである。何人も使用しうると自ら主張するイ号標章を他人に「使用させ」ていることを、本件判定請求の必要性の根拠とするのは、いささか奇異な主張であるといわざるをえない。
甲第16号証及び甲第17号証によれば、請求人は、「再織/紀州繊維工業協同組合」(上下2段表記)なる商標について商標権を有しているようである。これらの商標登録は、先願である本件商標権の商標に基づいて無効とされるべきものと考えるが、かりにそれらの商標登録が現在の時点においては有効であるとしても、それらの商標権に基づいて請求人が他人に使用を許諾しうるのは、当然のことながら、上記の登録商標の使用についてであって、本件イ号標章について請求人が使用許諾の権原を有しているわけではない。
かりに、請求人が、一方においてイ号標章の使用は本件商標権の効力範囲外であるとする本件判定を請求しながら、他方において、組合員その他の第三者に対し、甲第16号証及び甲第17号証の商標権に基づいて、イ号標章そのものの使用を制肘しているとすれば、そのような姿勢は、商標法の法意にもとる違法な姿勢であるといわざるをえない。
(4)以上のとおり、イ号標章は、請求人によって現に使用されている標章ではなく、その現実の使用態様が不明確なものである。したがって、そのようなイ号標章について商標法第26条第1項に基づく判定を求める本件判定請求は、請求の必要性を欠く不適法な判定請求として、却下されるべきである。
(5)なお、被請求人は、上記のとおり、本件判定請求については、不適法な請求として却下を求めるものであるが、請求人の本案主張、すなわち、イ号標章を「被服、布製身回品、寝具類」等の製品について使用すれば、当然に当該製品の「品質、原材料」の通常の表示となるかの如き請求人の主張に対しても、争う用意のあることはもとよりである。
甲第6号証(高野口町ホームページのコピー)の4枚目に要約記載されているように、明治時代に「高野口町」という特定の地域において、パイル織物織成法の一種について「再織」なる用語が用い始められたものの、昭和35年頃を境に、当該織成法の衰退と共に「再織」なる用語も用いられなくなり、その後、その織成法が再び採用されるに至っても、「再織」なる用語が用いられた範囲や普及の程度は、請求人自身が作成した文書(甲第10号証)における詳細な記述によってさえ、甚だ不明確である。
すなわち、「再織」なる用語は、あくまでも、和歌山県内の一地域において、嘗て用いられていたことがあり、長期間の不使用の後、最近に至って再び同地域内において1部の業者が用い始めたという程度の用語である。
同種のパイル織物を指す用語としては、請求人も認めているように、「シェニール織」という呼称が一般的であって、甲第5号証(服飾辞典)にも、シェニール織の特殊な呼び方の一例として、「チンコール」、「モ-ル織」等の、余り耳慣れない用語と並列して「再織」なる用語が紹介されているにすぎない。
被服、布製身回品、寝具類の製品に、卒然と「再織」の文言のみを表示した場合に、それが直ちにその製品の品質、原材料の通常的な表示であると直ちに認識しうる程に、普及している用語では決してないのである。

第5 当審の判断
(1)利害関係について
被請求人は、「イ号標章は、請求人によって現に使用されている標章ではなく、その現実の使用態様が不明確なものであり、本件判定請求は、請求の必要性を欠く不適法な判定請求として、却下されるべきである」旨主張する。
しかしながら、判定は特許庁の公式的な見解の表明であって、鑑定的性質をもつにとどまり、それには、なんらの法的拘束力はなく、行政不服審査法における行政庁の処分その他の公権力の公使に当たる行為にあたらないものであるから、法律上の利害関係を要件としないものである。
そして、請求人若しくはその構成員はイ号標章を将来使用することも窺うことができるから必ずしも利害関係がないものともいえず、また判定の結果によって、その権利に対する法律的地位に何ら変動を及ぼすものではないから、被請求人の主張は採用することができない。
そこで、本案に入って審理することとする。
(2)イ号標章は、別掲(2)に示すとおり、「再織」の文字を書してなり、また、商品説明書(甲第12号証、同13号証)中に記載された態様で使用するものであるところ、該文字については、「JIS繊維用語 タテ糸に綿糸の二十番手程度、ヨコ糸にシェニール糸を使用した織物。ヨコ糸を造るとき一度織物とし、これを切ってシェニール糸とし再び織るので再織と称されている」(株式会社談交社 昭和52年6月6日発行 原色染織大辞典)、「たて糸に綿糸20s(30tex)程度、よこ糸にシェニール糸を使用し、表裏両面にパイルを形成した紋様を現した織物」((財)日本規格協会 1998年7月15日第4版第4刷発行 JIS工業用語大辞典(第4版))、「JIS用語 経糸に綿糸20番程度、緯糸にシェニール糸を使用した織物。緯糸を作るとき一度織物とし、これを切ってシェニール糸とし、再び織るので再織と称される。→シェニール糸」(株式会社センイ・ジヤァナル 昭和43年12月1日増補改訂版発行 現代繊維辞典)の記載が認められる。
(3)さらに、請求人の提出した「JIS工業用語辞典」(甲第4号証)、「服飾辞典」(甲第5号証)、「高野口ホームページ」(甲第6号証)、「特許明細書」(甲第7号書ないし同9号証)、「パイル織物百十年史」(甲第10号証)からも、再織が上記(1)と同様の意味合いで使用されている事実を認めることができる。
(4)上記(2)及び(3)の事実を総合すると、わが国において「再織」の文字は「再織」という織物を示す用語として使用されていたものというべきである。そして、「再織」の文字よりなるイ号標章に接する取引者、需要者は、商品「再織を使用した被服、再織を使用した布製身回品」に使用しても、再織の文字から前記織物の用語の意味合いを認識し、当該織物によって作られた商品であると認識するのが相当というべきである。
(5)そうとすれば、請求人がその指定商品「再織を使用した被服、再織を使用した布製身回品」に使用する「再織」の文字よりなるイ号標章は、自他商品の識別標識としての機能を有するものではなく、当該商品の品質、原材料を普通に用いられる方法で表示したものといえるものであるから、商標法第26条第1項第2号に該当するものといわなければならない。
したがって、本件商標の商標権の効力は、イ号標章には及ばない。
よって、結論のとおり判定する。
別掲 別掲(1) 本件商標


別掲(2) イ号標章


判定日 2002-04-19 
出願番号 商願昭60-117843 
審決分類 T 1 2・ 9- ZA (117)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小野寺 強 
特許庁審判長 三浦 芳夫
特許庁審判官 野本 登美男
小林 和男
登録日 1987-10-27 
登録番号 商標登録第1995400号(T1995400) 
商標の称呼 サイオリ、サイ 
代理人 玉田 修三 
代理人 鈴木 秀雄 

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