• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 008
審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 008
管理番号 1057243 
審判番号 無効2000-35090 
総通号数 29 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2002-05-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-02-15 
確定日 2002-04-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第3245035号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第3245035号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第3245035号商標(以下「本件商標」という。)は、平成6年3月8日に登録出願され、「グラスリッツェン」の文字を横書きしてなり、第8類「手動工具,手動利器」を指定商品として、同9年1月31日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第20号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)「グラスリッツェン」の語は、スイスを中心とするヨーロッパに古くから親しまれているガラス工芸で、ダイヤモンドの粉末を固めた特殊な針でガラスに模様を彫る技芸そのものを意味するドイツ語である。
この語は、遅くも1988年6月には趣味のガラス工芸を意味する言葉として、ガラスに模様を彫る技芸の内容とともに日本に定着しており(甲第2号証)、これに用いられる工具も「グラスリッツェン針」として一般名称化(甲第3号証)しており、日本においても定着している(甲第2号証ないし同第12号証)。
したがって、本件商標をその指定商品であるグラスリッツェン針あるいはグラスリッツェン用工具に使用した場合には、単に商品の用途を表示するものに過ぎず、他の手動工具,手動利器に使用した場合には、商品の品質に誤認を生じさせるものであるから、本件商標は、商標法第3条第1項第1号あるいは第3号もしくは同法第4条第1項第16号に該当する。
(2)答弁に対する弁駁
(a)被請求人は、「グラスリッツェン」はスイスを中心とするヨーロッパに古くから親しまれているガラス工芸ではないとして、乙第2号証の1、2を提出しているが、乙第2号証の1は、被請求人代表者のPR記事であり、乙第2号証の2は、被請求人会社の主催による作品展のパンフレットである。しかも、作成年月日は1999年で、請求人が日本で活動を始めて著名性を得るに至った1988年6月(甲第2号証)から実に11年も経過した後のものである。また、その内容は、被請求人の単なる自己主張であって客観的裏付けの全くないものである。
(b)日本におけるガラス工芸技術としてのグラスリッツェンの普及発展の経緯とこの分野において請求人が著名性を得るに至った経緯は、甲第20号証の通りであり、「グラスリッツェン」の標章は、請求人の業務にかかる商品及び役務を表示するものとして日本国内における需要者間に広く認識されているものであって、被請求人は不正競争目的に使用する目的をもって本件商標の登録を行なったものである。
(c)被請求人は、ガラス彫刻一般を示す言葉としては、英語の「Glass Engraving」があり、日本でも広く使用されていると主張するが、被請求人自身がその主張中において認めているように、グラスリッツェンは、スイスでメグロー夫人が開発したガラスにダイヤモンド針で装飾を施す工芸技術を意味するもので、この技法に使用する「ダイヤモンド針」もまた「グラスリッツェン針」と一般的に呼ばれているものである。
なお、被請求人が一般名称として主張する「ダイヤモンド・ポイント彫り」は、ダイヤモンドの破片を先端に取り付けた工具により模様を点描していくものであり、グラスリッツェンとは技法的に明確に異なり、使用工具も「ダイヤモンド・ポイント針」と呼ばれ、「グラスリッツェン針」とは明確に区別されているものである。
また、被請求人は、「スイスの人達が『グラスリッツェン』の言葉を使いだしたので、時に、『メグロー派のグラスリッツェン』の語を用いている」と主張しており、スイスでも「グラスリッツェン」は一般名称であることを認めているものである。
グラスリッツェンは、ガラス彫刻一般とは区別される趣味のガラス工芸を意味する言葉として、ガラスに模様を彫る技芸の内容とともに日本全国に定着しており(甲第7号証ないし第12号証、第12号証の1ないし5)、これに用いられる工具も「グラスリッツェン針」として一般名称化している。
したがって、本件商標は商標法第3条1項1号及び6号、並びに第4条1項19号に該当するものであることは明らかである。

3 被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし同第20号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)第一答弁
(a)「グラスリッツェン」は、スイスを中心とするヨーロッパに古くから親しまれているガラス工芸ではない。
ガラス工芸は、古く16世紀にベニスに始まり、その后18世紀にオランダ・イギリスで発展したが、当時の技術は、単にガラスの破片をペン先に取り付けたものが道具として用いられていた。
20世紀になってから、スイスのメグロー夫人が、歯科用のダイヤモンドバー(すなわち、ダイヤモンドの粉末を使用したもの)を参考として、改良を重ねて、専用の道具を開発した。メグロー夫人は、単に道具の開発だけでなく、ガラス工芸技術そのものを発展させ、その工芸を他と区別するために「グラスリッツェン」と呼び始めたのである。
したがって、16世紀にベニスに始まり、その后18世紀にオランダ、イギリスで発展したガラス工芸は、メグロー夫人によって発展したものと、質的に異なるので、被請求人らは、16世紀から伝わる古くからのガラス工芸や同時代にスイスの人達が「グラスリッツェン」の言葉を使いだしたので、それと区別するために、時に、「メグロー派のグラスリッツェン」の語を用いている(乙第2号証の1、2)。
(b)本件商標の前権利者である武田靖及びその妻で、被請求人取締役である武田佳子の二人は、スイスにおいて、メグロー夫人が発展させたグラスリッツェンの技芸を学び、これを修得して、日本において、これを広めるために、1980年代から活動を開始した。そして、そのグループを「グラスリッツェン舎」と命名した。甲第2号証並びに甲第3号証に、請求人と丸谷節子の名が出ているが、元々、請求人ら両名も、「グラスリッツェン舎」グループの一員であったのだから「グラスリッツェン」の言葉を公然と使用してもなんら不自然な話ではない。しかし、請求人らが使用したから、「一般名称化」したなどというロジックが成り立つものではない。
唯一、外国で使用された例として、請求人は、Ruth Brunnerの雑誌を甲第5号証として提出しているが、Ruth Brunner自身も、メグロー夫人のところを勝手に飛び出した造反組で、この点では、請求人と立場を同じくするものである。請求人もこれを日本で紹介しようと試みたが、結局、普及せず、現在、当時発行された数冊が残っているにすぎない。甲第6号証も同第7号証もいずれも、請求人自身が使用しているものである。甲第8号証ないし同第13号証にしても、請求人のグループの人達が関わっているので、いわば、造反組の使用にほかならない。請求人は、これら書証を沢山積上げて、既成事実をつくってしまおうと企図しているのである。
(c)ガラス彫刻一般を示す言葉としては、英語では「Glass Engraving」という言葉がある(乙第3号証の1ないし4)。この用語は、日本でもひろく使用されている(乙第4号証の1ないし3、乙第5号証の1ないし3、乙第6号証の1ないし3、乙第7号証の1ないし4)。
「グラスリッツェン」は、ガラスにダイヤモンド針で装飾を施す工芸技術であり、これこそ、スイスでメグロー夫人が開発・完成し、確立されたのである(乙第8号証、同第9号証の1、2、同第10号証の1、2)。つまり、言葉としては、「グラスリッツェン」は、あくまで、ガラス工芸の技法を意味するが、現代において、その真価は、この技法に使用する「ダイヤモンド針」に重要な鍵がある。被請求人が、第8類「手動工具,手動利器」を指定商品とした本件商標を登録して所有している事実こそ、重要であり、請求人の本件無効審判請求は全く誤りである。
(2)第二答弁
請求人は、弁駁書において、請求人を中心とした個人的事情の記述に多くの頁数を割いているが、元来、商標権の対世効の点から、個人的事情によって左右される問題ではない。殊に、請求人及び請求人のグループにおいて、著名性を獲得したという自画自賛と、一般名称という主張とはどのように結びつくのか理解することができない。通例、著名商標というのは、特定の権利者を識別していわれるのであり、-般名称という主張とは相容れない。
技芸は個人の技能であるから、創始者の技芸と承継者の技芸とが完全に同質とは云えない。被請求人は、請求人が「グラスリッツェン技芸」を正しく継承していないと確信しており、また、被請求人こそ、スイスで故メグロー夫人から学んだ「グラスリッツェン技芸」を正確に修得したが故に、本件商標を登録する正当な立場にある。
請求人は、公然と被請求人が有する本件商標権を侵害して、「グラスリッツェン針」なる名称でガラス工芸用針を販売したため、係争となった。「グラスリッツエン」を-般名称と主張するのも、自由使用を正当化したいがための方便に過ぎない。

4 当審の判断
(1)請求人の提出に係る甲第2号証(「ミセス」1988年6月号 文化出版局発行)、甲第3号証(「ミセス」1993年3月号 文化出版局発行)、甲第4号証(東急不動産の広告誌「リビングスクエア」第3号 1989年5月発行)及び甲第5号証(「GIasritzen Entwurfsmappe」Ruth Brunner 1991年)を総合してみれば、「グラスリッツェン」の語は、「ガラス」を意味する「glas」と「掻き傷をつける」等を意味する「ritzen」のドイツ語の表音からなるものであり、ダイヤモンドの粉末を固めた専用の特殊針を用いてガラスに掻き傷をつけるようにして模様を彫る技芸を表すものであり、スイスを中心とするヨーロッパに古くから親しまれているガラス工芸の一種であることを認めることができる。
そして、我が国においても、「グラスリッツェン」の語は、その技芸の内容、用具とともに紹介されており、遅くとも、本件商標の登録査定時までには、既に、この種分野に関心を有する取引者・需要者の間においては、広く知られていたものとみるのが相当である。
(2)この点について、被請求人は、「グラスリッツェン」は、スイスを中心とするヨーロッパに古くから親しまれているガラス工芸ではなく、20世紀になってから、スイスのメグロー夫人が、歯科用のダイヤモンドバーを参考として改良を重ね、専用の道具を開発し、ガラス工芸技術そのものを発展させ、その工芸を他と区別するために「グラスリッツェン」と呼び始めたのものであり、被請求人らは、16世紀から伝わる古くからのガラス工芸や同時代にスイスの人達が「グラスリッツェン」の言葉を使いだしたので、それと区別するために、時に、「メグロー派のグラスリッツェン」の語を用いている旨主張している。
しかしながら、被請求人の提出に係る乙第2号証の1(1999年1月17日付「朝日新聞」)によれば、「グラスや皿などのガラス製品に絵を彫刻するグラスリッツェン。16世紀から伝わるヨーロッパの伝統工芸だ・・・」と記載されており、又、同第10号証の1及び2(「Glasritzen-Ein neues Hobby」ゲルリン・メグロ著、メグロージャパン 武田靖訳 v.3.1 4.1995)には、「1456年、ルードウィッヒ・ファン・ベルクウェルは、ダイヤモンドの粉でダイヤモンドを研磨できることを発見しました。その後百年後、誰かが、恐らくベニスで、ダイヤモンドでガラスに絵を描くことを思いついたのです。・・1573年、ベニス人のジャコモ・ベルチェリーニがダイヤモンド彫刻を英国に輸入しました。・・グラスに大きな格調高いイニシャルを彫った、カリグラフ・ガラスがオランダ地方で作られていたのは、16世紀までさかのぼります。・・17世紀には、ケルンのペーター・ウォルフによって、ダイヤモンド彫刻ガラスが作られたこともよく知られています。・・このエレガントでデリケートな芸術手工芸がこの50年間に復活してきました。・・今日、使いやすいダイヤモンド針の登場で、ガラスの彫刻、グラスリッツェンは、特にスイスでは、美しいガラス製品を愛好する人達のポピュラーな趣味となっています。この国ではグラスリッツェンはまさに国民芸術とも呼べるほどのものになっています。・・」との記載がされていることを認めることができる。
そうとすれば、「グラスリッツェン」の語が16世紀からスイスを中心とするヨーロッパにおいて行われていたガラス工芸を指称するものであるか否かは別にしても、ダイヤモンド(粉末)を用いてガラスに彫刻を施す工芸は古くから行われており、20世紀以降、少なくともこの50年間において、スイスのメグロー夫人が改良を重ね、専用の道具の開発とともに、ガラス工芸技術そのものを発展させ、これを「グラスリッツェン」と呼んでいたことは明らかであり、このことは、被請求人自身も認めているところであって、流派が何であれ、そのガラス工芸自体を「グラスリッツェン」と呼んでいたことには変わりないものといわなければならない。そして、上記乙号証によれば、「グラスリッツェン」は、特にスイスにおいては国民芸術とも呼ばれる程のものになっていたことを認めることができる。
そして又、被請求人は、「本件商標の前権利者である武田靖及びその妻で、被請求人の取締役である武田佳子の二人は、スイスにおいて、メグロー夫人が発展させたグラスリッツェンの技芸を学び、これを修得して、日本において、これを広めるために、1980年代から活動を開始し、そのグループを『グラスリッツェン舎』と命名し、請求人も該グループの一員であった」旨述べている。
そうとすれば、被請求人と請求人らとの間において、その後、グラスリッツェンの技芸についての考え方に違いが生じたとしても、両者共に、「グラスリッツェン」の普及活動をした結果、我が国においても、本件商標の登録査定時までには、「グラスリッツェン」の語は、スイスを中心とするヨーロッパにおいて、ダイヤモンドの粉末を固めた専用の特殊針を用いて行われるガラス工芸を指称するものとして理解・認識されるに至っていたものといわなければならない。
(3)してみれば、本件商標は、「グラスリッツェン」の文字を普通に用いられる方法で表示してなるにすぎないものであるから、これをその指定商品中の「グラスリッツェンと称されるガラス工芸用の針あるいは工具」について使用しても、これに接する取引者・需要者は、該商品の用途、品質を表示したものと理解するにとどまり、自他商品の識別標識とは認識し得ないものであり、また、これを上記商品以外の指定商品について使用するときは、その商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に違反して登録されたものであるから、本件商標の登録は、同法第46条第1項の規定により、無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2002-02-04 
結審通知日 2002-02-07 
審決日 2002-02-20 
出願番号 商願平6-22629 
審決分類 T 1 11・ 13- Z (008)
T 1 11・ 272- Z (008)
最終処分 成立  
前審関与審査官 平松 和雄山田 清治 
特許庁審判長 三浦 芳夫
特許庁審判官 中嶋 容伸
滝沢 智夫
登録日 1997-01-31 
登録番号 商標登録第3245035号(T3245035) 
商標の称呼 グラスリッツェン、リッツェン 
代理人 菊池 武 
代理人 石川 幸吉 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ