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審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) W32
管理番号 1419520 
総通号数 38 
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2025-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2024-01-25 
確定日 2024-12-09 
異議申立件数
事件の表示 登録第6758216号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6758216号商標の商標登録を取り消す。
理由 第1 本件商標
本件登録第6758216号商標(以下「本件商標」という。)は、「Craft Cordial」の文字を標準文字により表してなり、令和5年9月14日に登録出願、第32類「シロップ,飲料用シロップ,コーラ飲料,ジンジャーエール,ビール,清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,ビール製造用ホップエキス,乳清飲料」を指定商品として、同年11月7日に登録査定され、同月29日に設定登録されたものである。

第2 登録異議の申立ての理由
登録異議申立人(以下「申立人」という。)は、本件商標は商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するものであるから、商標法第43条の3第2項の規定により取り消されるべきものである旨申立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第16号証(枝番号を含む。甲各号証の表記に当たっては、「甲第1号証」を「甲1」のように省略して記載する。)を提出した。
1 本件商標を構成する「Cordial」について
(1)「Cordial」の意味
英和辞典「リーダーズ英和辞典第3版」(研究社刊)では、「Cordial」について、「コーディアル《1)甘味と香味を加えた濃厚な味のアルコール性飲料;時に果実のリキュール 2)水で希釈して飲む果汁入り飲料》」と説明している(甲2)。また、「コーディアル」の文字は、「コンサイス カタカナ語辞典」(株式会社三省堂刊)によれば、英単語の「Cordial」をカタカナで表記したもので、「[cordial]アルコール飲料の1つ。果実の風味に甘味の加わったリキュール。」という意味がある(甲1)。
さらに、インターネット上の用語検索サイトである「コトバンク」中の「デジタル大辞泉」によれば、「コーディアル(cordial)」には、「[名]果実エキスやハーブなどからつくる甘い飲料。水や炭酸水などで割って飲む。また、リキュールのこと。」という意味がある(甲3)。同じく、「コトバンク」中の「飲み物がわかる辞典」では「コーディアル」について、「ハーブのエキスや濃縮果汁を用いた飲み物で、水や湯などで割って飲んだり、料理・菓子・カクテルなどに用いたりする。甘みの強いものが多い。古くイギリスで、ハーブをスピリッツに浸漬し、水で薄めて飲んだもの。◇「元気づけるもの」「強壮作用のあるもの」という意。アメリカではリキュールの同義語。」と説明されている(甲4)。
(2)指定商品としての「コーディアル」
ア 「特許情報プラットフォーム(J−PlatPat)」の「商品・役務名検索」では、以下のような商品がヒットする(甲5)。
・第32類「アルコール分を含まないコーディアル(果汁飲料)」(Non−alcoholic cordials)
・第33類「コーディアル(アルコール飲料)」(Alcoholic cordials)
・第33類「コーディアル(アルコール飲料)」(cordials[alcoholic beverages])
イ 国際登録(いずれも国内において登録済み。)では、「cordials」が指定商品として認められている(甲6の1〜17)。
(3)市販されている「コーディアル」
ア ユウキ食品のウェブサイト
「オーガニック コーディアル ジンジャー」(甲7の1)
イ 楽天市場のウェブサイト「Rakuten Farm」
「オーガニックコーディアルローズヒップ&ハイビスカス(200ml)」(甲7の2)
ウ ベジターレ公式オンラインショップサイト
「コーディアル3本セット(柚子ジンジャー×葡萄カシスジンジャー×瀬戸内レモン)」(甲7の3)
2 本件商標を構成する「クラフト」について
(1)「クラフト」の意味
国語辞典「広辞苑第七版」によれば、「クラフト」は「手仕事による製作。手工業。工芸。」を意味する語である(甲8)。また、英和辞典「リーダーズ英和辞典第3版」(研究社刊)でも、「Craft」について「手工業;手工芸(品)」と説明している(甲2)。
(2)「クラフト」の文字を含む指定商品
「特許情報プラットフォーム(J−PlatPat)」の「商品・役務名検索」では、第32類「クラフトビール」(英語訳:Craft beers)が掲載されており(甲9)、「Craft」の文字が食品分野において自他商品識別力に乏しい文字であることを示すものといえる。
(3)「クラフト」「CRAFT」の文字と食品名からなる商標の審決例
「クラフト」「CRAFT」の文字と食品名からなる商標について、「品質表示に過ぎない」と判断した審決が複数存在している(甲10の1、2、甲11の3)
(4)「クラフト」「CRAFT」の文字と食品名からなる商標の審査における拒絶例
「クラフト」「CRAFT」の文字と食品名からなる商標について、「品質表示に過ぎない」と判断した審査例が多数存在している(甲11の1〜甲13の9)。
(5)「クラフトコーディアル」に関する使用例
「クラフトコーディアル」の文字は、「少量生産でこだわりの素材や製法を用いて製造されるコーディアル」といった意味合いで現に使用されている(甲7の2、甲14の1、2)。
3 本件商標「Craft Cordial」の自他商品識別力、並びに商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号の該当性について
(1)上述のように、本件商標「Craft Cordial」の構成中の「クラフト」に通じる「Craft」の文字は、「手仕事による製作。手工業。工芸。」の意味を有し、「コーディアル」に通じる「Cordial」の文字は飲料に関する普通名称であるから、本件商標は構成全体として、「少量生産でこだわりの素材や製法を用いて製造されるコーディアル」程度の意味合いを認識させるものといえる。実際、コーディアルの宣伝文句として、“手間暇かかったこだわりの製法で“クラフト”されたコーディアル”といった表現がなされている(甲7の2)。
そうとすると、本件商標をその指定商品中「コーディアル」に使用しても、取引者及び需要者は「少量生産でこだわりの素材や製法を用いて製造されるコーディアル」であることを理解するにとどまり、本件商標は単に商品の品質を普通に用いられる方法で表示したに過ぎず、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものとみるのが相当である。「クラフトコーディアル」が「取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであって、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないもの」であることは明らかである。また、本件商標を「コーディアル」以外の飲料類に使用するときは、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるというべきである。
(2)本件商標「Craft Cordial」は辞書に掲載されている言葉ではないが、本件商標は、食品において品質表示として認識されている既成語の「クラフト」に通ずる「Craft」と、普通名称の「コーディアル」に通ずる「Cordial」を結合させただけのものであり、造語方法として特別なものではなく、この表示に特異性はなんら感じられない。特定の意味合いを有しない造語として認識されるというよりは、その商品が「少量生産でこだわりの素材や製法を用いて製造されるコーディアル」を表示したものとして理解、認識するというのが相当である。「Craft(クラフト)」の文字が品質表示としてはっきりとした意味を持ち(このことは上述の証拠からも明らかである)、また、「Cordial(コーディアル)」は普通名称として認識されており、指定商品との関連に基づいてみれば、本件商標が、単なる造語ではなく、取引者・需要者に対して商品の品質及び用途を直感させるものであることは明白である。
(3)「Craft Cordial」の自他商品識別力を判断するに際し、取引者・需要者間において「Craft Cordial」の文字の使用例が少ないからと言って、その事実によって本件商標が自他商品識別力を有すると判断すべきでない。このことは、「商標が、その指定商品の取引過程において使用されている事実がないとしても、将来、商品の品質、機能等を表す表示として使用され、取引者、需要者に商品の品質表示等であると認識される可能性がある場合には、商標法3条1項3号が適用される」とされ、現に使用されていることは要求されていないことからも明らかである(平成12年(行ケ)第76号審決取消請求事件(平成12年7月5日口頭弁論終結))(甲16)。
4 むすび
以上述べたように、本件商標「Craft Cordial」は、全体として「少量生産でこだわりの素材や製法を用いて製造されるコーディアル」という意味合いを容易に想起させ得るものであり、コーディアルの品質を表示するにすぎず、自他商品認識別標識として機能し得ないものである。本件商標は、商標法第3条第1項第3号の規定に該当し商標登録を受けることができないものであり、かかる商標について、一私人に登録を認めることは、公益上の観点(独占適応性)からも妥当ではない。また、本件商標に係る指定商品中「少量生産でこだわりの素材や製法を用いて製造されるコーディアル」以外の指定商品に使用するときは、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあり、同法第4条第1項第16号の規定にも該当するものである。

第3 当審における取消理由
当審において、本件商標の商標権者に対し、別掲に係る証拠を示した上で、本件商標は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に違反して登録されたものであるから、その登録は取り消されるべきものである旨通知し、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えた。

第4 商標権者の意見
商標権者は、上記第3の取消理由に対して、要旨次のように意見を述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙8号証(乙各号証の表記に当たっては、「乙第1号証」を「乙1」のように省略して記載する。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第16号について
「Cordial」という言葉が、「リキュール」又は「果実エキスやハーブなどからつくる甘い飲料」等のいずれかを表示することは、特許庁の商品役務検索に記載があることから、認識されるところである。ただし、需要者が直ちに認識するかについては、後述する。
そうすると、「Cordial」という文字を含む本件商標「Craft Cordizl」を、本件商標のうち、「コーディアル」を除いた指定商品に使用することは、商標法第4条第1項第16号が該当すると考える。
2 商標法第3条第1項第3号について
他方、指定商品「コーディアル」に限定していえば、本件商標が、商標法第3条第1項第3号に該当するかは、一義的ではない。
(1)登録商標の存在
指定商品「コーディアル」の類似群29C01において、「Cordial」 が商標登録がされている(乙1)。識別力は、時代と共に変移するが、この商標が登録された2013年は、今からそれほど、古い時期ではない。「Cordial」という言葉は、ほんの11年前には、識別力のある言葉であったことを考えると、需要者が、即座にその変移についていったとは考えられない。
(2)「広辞苑」の記載
「クラフト」については、申立人から、広辞苑の記載が提出されているが(甲8)、同じ辞典を使用するならば、「コーディアル」については、「広辞苑」に記載はない(乙2)。すなわち、それほど、一般的な、皆が使用する言葉ではない、ということである。
(3)英語辞書の記載
「Cordial」の意味について、甲2によれば、筆頭に「1 心からの、暖かい、誠心誠意の」の記載があり、また、同じく、甲3にも、形容詞として「真心がこもっているさま。心あたたまるさま。」という記載が、さらに、甲4にも、形容詞として「友好的な、誠心誠意の、心のこもった」という記載がある。すなわち、「コーディアル」という言葉は、多義的な言葉であり、多義的であるということは、その意味合いがあいまいであるという見方ができ、その意味では漠然とした意味合いしか生じない、と考えられる。
(4)会社名の記載
現在は、SMBC日興証券株式会社に社名変更しているが、(旧)日興コーディアル証券株式会社は、「コーディアル」を社名の構成要素に入れている。その由来について、「「誠心誠意の」を意味する英語「cordial」に、「cord(絆)」+「dia(dialogue:対話)」という独自の解釈を加え、お互いの対話を重視した誠意ある対応で顧客や社会全般との絆を深めていく姿勢を表現した。」(乙3)との記載があり、「Cordial」の意味内容が、「アルコール飲料」や「アルコール分を含まない果汁飲料」であることが、2009年当時において、需要者に明確であったならば、おそらく、このネーミングは採用されなかったと考えられる。
(5)過去の審決例
構成中の文字が多義的な語であることから、構成全体から一義的に特定の意味が確定されるものではなく、これより直ちに特定の意味合いを看取させるものとはいえない、として、当該商標の商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号の該当性を否定した審決がある(乙4〜乙6)。
(6)アンケート調査結果
商標権者が、インターネットを通じて行ったアンケート調査では、<アンケート内容1>「コーディアルという言葉を聞いて、何のことであるかわかりますか?」の設問に対し、全体の1.5%の人しか、「コーディアル」の意味を理解していないことが分かる(乙7)。<アンケート内容2> 「Craftといえば、何を想起するか?」の設問に対し、全体の20.5%の人が、Craft の意味を理解しているが、そのまま漬け込んだハーブジュースを回答した者は、1名である。
(7)以上のことから、本件商標「Craft Cordial」を構成する言葉「Cordial」は、需要者にとって、一義的に理解できるほど明確ではなく、馴染みのない言葉である。このような「Craft Cordial」を指定商品「コーディアル」に使用する場合、「少量生産で原料や製法等にこだわって作られたコーディアル」を想起することはない。すなわち、それがどのような品質か(味、色彩、果肉の有無等)何ら商品の内容(品質)を表示するものではない。百歩譲って、何かを表示しているとしても、商品の品質を「間接的に」表示するに過ぎない。
なお、審査基準上、商品の品質等を間接的に表示するものは、品質表示に該当しないとされている。
3 以上から、本件商標は、指定商品「コーディアル」について、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号のいずれにも該当するものではない。

第5 当審の判断
1 商標法第3条第1項第3号について
商標法第3条第1項第3号に掲げる商標が、商標登録の要件を欠くとされているのは、このような商標は、指定商品との関係で、その商品の品質、用途等その他の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品の識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解される。
そうすると、本件商標が商標法第3条第1項第3号に該当するというためには、登録査定時において、本件商標がその指定商品との関係で、商品の品質、用途等その他の特性を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、本件商標がその指定商品に使用された場合に、将来を含め、指定商品の取引者、需要者によって商品の上記特性を表示したものと一般に認識されるものであれば足りると解される(最高裁昭和53年(行ツ)第129号判決、平成27年(行ケ)第10107号判決参照)。
2 商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号該当性について
本件商標は、前記第1のとおり、「Craft Cordial」の文字を標準文字で表してなるところ、別掲4に示すとおり、その構成中の「Craft」の文字は「手工業。工芸。」等の意味を有し、その語源から、飲料を取り扱う業界においては、別掲7(2)のとおり、本件商標の登録査定時前から、当該「Craft」の文字の片仮名表記である「クラフト」の文字が「少量生産で原料や製法等にこだわって作られた」ほどの意味合いで使用されており、そのような素材や製法にこだわった飲料について、例えば、クラフトビール、クラフトコーラ、クラフトソーダ等のように、飲料の普通名称に冠して「クラフト○○」のように使用されている実情がある。
また、別掲1のとおり、「cordial」の文字は「果実エキスやハーブなどからつくる甘い飲料。水や炭酸水などで割って飲む。また、リキュールのこと。」等の意味を有する語であり、別掲2、3及び7(1)のとおり、本件商標の登録査定時前から、飲料を取り扱う業界において、当該「cordial」の文字の片仮名表記である「コーディアル」の文字が「果物やハーブを使った濃縮シロップ」ほどの、辞書と同様の意味合いで使用されているばかりでなく、指定商品の商品名として採択されている実情がある。
そして、別掲6に示すとおり、「クラフト」と「コーディアル」の文字を一連に表した「クラフトコーディアル」の文字も使用されている実情がある。
以上よりすれば、「クラフトコーディアル」に通じる「Craft Cordial」の文字は、「少量生産で原料や製法等にこだわって作られたコーディアル」であることを一般に理解、認識されるものというのが相当であるから、本件商標をその指定商品に使用するときは、これに接する取引者、需要者は、その商品が、上記意味合いの商品であること、すなわち商品の品質を表示したものと認識するにとどまるものであって、本件商標は、その指定商品との関係で、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに、自他商品識別力を欠くものというべきである。
したがって、本件商標は、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法第3条第1項第3号に該当し、「少量生産で原料や製法等にこだわって作られたコーディアル」以外の商品に使用するときは、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるから、同法第4条第1項第16号に該当する。
3 商標権者の主張について
(1)商標権者は、本件商標の「Cordial」の語が多義的であり、全体として一義的な特定の意味が確定されるものではない旨主張する。
しかしながら、「Craft」及び「Cordial」の文字が、それぞれ複数の意味を有する語であるとしても、上記2のとおり、本件商標の指定商品である飲料を取り扱う分野において、「Craft」「Cordial」の片仮名表記である「クラフト」及び「コーディアル」並びに「クラフトコーディアル」の語が、商品の品質等を表すものとして一般的に使用されている実情があることが認められることを踏まえれば、本件商標を、その指定商品に使用するときは、これに接する取引者、需要者は、その商品が「少量生産で原料や製法等にこだわって作られたコーディアル」であることを表示記述したものと理解するにとどまり、自他商品の識別標識としては認識し得ないものというのが相当である。
(2)商標権者は「Cordial」の文字からなる登録商標をあげて、その登録は2013年と古いものではなく、「Cordial」が識別力のある言葉である旨主張する。
しかしながら、登録出願に係る商標が商標法第3条第1項第3号に該当するか否かは、当該商標の査定時又は審決時において、当該商標の構成態様や取引の実情を踏まえて、個別具体的に判断されるべきものであるところ、本件についての判断は、上記2のとおりであるから、商標権者が挙げる登録例をもって、本件商標についての上記判断が左右されるものではない。
(3)商標権者は、本件商標の「Cordial」の語は、需要者にとって、一義的に理解できるほど明確ではなく、馴染みのない言葉であるから、全体として、商品の内容(品質)を表示するものではない旨をアンケート調査等を挙げて主張する。
しかしながら、登録出願に係る商標が商標法第3条第1項第3号に該当するか否かの判断における「需要者」には、一般消費者のみならず、飲料業界において飲料の製造販売や小売り等を行う企業等の事業者、すなわち取引者も含まれるものである。そして、「cordial」の片仮名表記である「コーディアル」の語は、別掲1のとおり、1998年には辞書に掲載され、別掲2、3及び7(1)のとおり、「果実エキスやハーブなどからつくる甘い飲料。水や炭酸水などで割って飲む。また、リキュールのこと。」を表す商品の名称として使用されている。また、当該商品を示すものとして、2019年には新聞等に掲載されていることからすれば、「cordial」の片仮名表記である「コーディアル」の語は、当該新聞掲載時には、少なくとも飲料業界に属する企業等の事業者(取引者)において、上記意味を表す語として、広く認識されていたものといえる。
そうとすれば、本件商標が、その指定商品について用いられた場合、これらの指定商品に係る商品を製造、販売する企業等、すなわち、これらの指定商品の取引者であり、また、需要者の一部にも含まれる者である事業者は、「コーディアル」という商品の名称と一般に認識するものというべきであり、その事業者等によって取り扱われた「コーディアル」商品によって、本件商標の登録査定時には、一般消費者にも一定程度知られているものというべきである。
(4)したがって、請求人の上記主張は採用できない。
4 むすび
以上により、本件商標は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に違反して登録されたものであるから、同法第43条の3第2項の規定により、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。


別掲


別掲
令和6年7月18日付け取消理由通知書において示した事実(下線は当審による。)
1 「コーディアル」「cordial」の意味について
(1)「コンサイスカタカナ語辞典」(1998年、株式会社三省堂刊)では、「コーディアル[cordial]」について「アルコール飲料の1つ。果実の風味に甘味の加わったリキュール。」の記載がある(甲1)。
(2)「リーダーズ英和辞典第3版」(2012年、株式会社研究社刊)では、「cordial」について、「コーディアル《1)甘味と香味を加えた濃厚な味のアルコール性飲料;時に果実のリキュール 2)水で希釈して飲む果汁入り飲料》」の記載がある(甲2)。
(3)インターネット上の用語検索サイトである「コトバンク」中の「デジタル大辞泉」では、「コーディアル(cordial)」について、「[名]果実エキスやハーブなどからつくる甘い飲料。水や炭酸水などで割って飲む。また、リキュールのこと。」の記載がある(甲3)。
同じく、「コトバンク」中の「飲み物がわかる辞典」では、「コーディアル【cordial】」について、「ハーブのエキスや濃縮果汁を用いた飲み物で、水や湯などで割って飲んだり、料理・菓子・カクテルなどに用いたりする。甘みの強いものが多い。古くイギリスで、ハーブをスピリッツに浸漬し、水で薄めて飲んだもの。◇「元気づけるもの」「強壮作用のあるもの」という意。アメリカではリキュールの同義語。」の記載がある(甲3)。
(4)インターネット上の英語辞典「英辞郎」では、「cordial」について「1.(薬の)コーディアル◆ハーブなどをアルコールに漬けた強壮薬。2.<英・豪>(果汁飲料の)コーディアル◆幼児や子供向けの果汁シロップを水で薄めた甘い飲み物。スカッシュ(squash)より果汁の含有量が多い。3.liqueur」の記載がある(甲4)。
2 指定商品の名称として「cordial(s)」「コーディアル」が認められていること
(1)「特許情報プラットフォーム(J−PlatPat)」の「商品・役務名検索」では、以下のような商品が掲載されている(甲5)。
・第32類「ライムジュース入りコーディアル」(lime cordial)
・第32類「アルコール分を含まないコーディアル(果汁飲料)」(Non−alcoholic cordials)
・第33類「コーディアル(アルコール飲料)」(Alcoholic cordials)
(2)国際登録第1277001号(平成30年1月19日登録日)、同第1278525号(平成29年2月17日登録日)他15件の国際登録(いずれも国内登録済み。いずれも本件商標の登録査定時前の登録日。)において、第32類の指定商品として「cordials」(参考訳「コーディアル」)が認められている(甲6の1〜17)。
3 市販されている商品「コーディアル」について
(1)ユウキ食品のウェブサイト
「オーガニック コーディアル ジンジャー」の見出しの下、「生姜のスパイシーな味わいが楽しめる、希釈タイプの飲料です。原液のままシロップ・・・。」の記載がある(甲7の1)。
(2)楽天市場の「Rakuten Farm」のウェブサイト
「コーディアル」「200ml(濃縮タイプ)」の表示があり、商品パッケージの写真には「オーガニックコーディアル/ハイビスカス&ローズヒップのシロップ」の記載(1葉目)、商品の裏ラベルと思しきものには「名称:有機コーデ ィアル」(6葉目)の記載がある(甲7の2)。
(3)ベジターレ公式オンラインショップサイト
「コーディアル3本セット(柚子ジンジャー×葡萄カシスジンジャー×瀬戸内レモン)」の見出しの下、「魅惑のスパイシーさがやみつきに!厳選素材を濃縮した希釈タイプのドリンク」との記載及び2022年5月5日付けの商品レビューの掲載がある(甲7の3)。
4 「クラフト(craft)」等の意味について
(1)「広辞苑第七版」(2021年、株式会社岩波書店刊)では、「クラフト」について「手仕事による製作。手工業。工芸。」の記載がある(甲8)。
(2)「リーダーズ英和辞典第3版」(2012年、株式会社研究社刊)では、「craft」について「手工業;手工芸(品)」と記載されている(甲2)。
(3)「現代用語の基礎知識2023」(2023年、株式会社自由国民社刊)では、「クラフトビール[craft beer]」について、「小規模な醸造所で原料や醸造方法にこだわって造ったビール。」と記載されている(職権調査)。
5 「クラフト」「Craft」の文字を含む指定商品名について
「特許情報プラットフォーム(J−PlatPat)」の「商品・役務名検索」では、第32類「クラフトビール」(英語訳:Craft beers)が掲載されている(甲9)。
6 「クラフトコーディアル」に関する使用例
(1)上記3(2)のウェブサイトで「コーディアル」の商品説明として「手間暇かかったこだわりの製法で“クラフト”されたコーディアル」と記載されている(甲7の2、5葉目)。
(2)和歌山県のニュースリリース(令和4年2月15日)には、「梅コーディアルセット」の見出しの下、「様々な梅の味を楽しんでもらいたい、という思いから生まれた梅のクラフトコーディアル。希少な梅を使用して作った・・・梅シロップをはじめ、・・・それぞれの味わいが楽しめるコーディアルのギフトセットです。」との記載がある(甲14の1、2葉目)。
(3)書籍「ノンアルコールドリンクの発想と組み立て」(2021年、株式会社誠文堂新光社刊)には、「大手のメーカーもクラフトコーディアルやビネガードリンクといったこれまでとは異なるノンアルコールテイストの飲料を提案するようになった。」との記載がある(甲14の2)。
7 当審における職権調査(新聞記事)
(1)「コーディアル」について
ア 朝日新聞(2021年(令和3年)1月22日)朝刊 25ページ 「高知に眠る特産品、9品競う 「宝物グランプリ」5品全国へ /高知県」の見出しの記事に、「スイーツ・ドリンク部門には、須崎市産のミョウガのうまみを詰め込んだ「コーディアルシロップ」や南国市内の牧場牛乳の素材を生かした「牛乳ジェラート」など5品が並んだ。」との記載がある。
イ 日経MJ(流通新聞)(2020年(令和2年)8月10日)9ページ「京セラ美術館「アートラボ京都」(京都市)―地元の杉使ったシロップ人気(ご当地ランキング)」の見出しの記事に、「売れ筋1位は「北山杉コーディアルキット」。コーディアルとは、果物やハーブを使ったシロップで、アルコールなどに溶かすと体を活性化させる効果がある。」との記載がある。
ウ 日経MJ(流通新聞)(2019年(令和元年)6月9日)4ページ 「ザクロと梅の濃縮飲料、セルフィユ(新製品)」の見出しの記事に、「セルフィユ(東京都中央区、0120・768188)の果実本来の風味と味わいを楽しめる濃縮飲料「フルーツコーディアル(ざくろ/梅)」コーディアルとは、果物やハーブを使った濃縮シロップのこと。」との記載がある。
(2)「クラフト」の文字と飲料名の組み合わせからなる使用例
ア 朝日新聞(2022年(令和4年)1月20日)朝刊9ページ 「「三ツ矢」のクラフトコーラ アサヒ飲料」の見出しの記事に、「アサヒ飲料は、炭酸飲料「三ツ矢クラフトコーラ」を全国のスーパーなどで発売中だ。秋ごろまでの期間限定販売。素材や製法にこだわる「三ツ矢」クラフトシリーズの第1弾。コーラの味をベースに、かんきつ類の香料と8種のスパイスを加えた。」との記載がある。
イ 日経MJ(流通新聞)(2023年(令和5年)6月2日)7ページ 「和歌山県産4食材とスパイス5種配合、中野BC(新製品)」の見出しの記事に、「中野BC(和歌山県海南市)のクラフトコーラ用シロップ「IKORA―行楽―(いこら)」 梅やミカン、サンショウ、ジャバラ(ミカン科)の4種類の県産素材と、シナモンやクローブなど5種類のスパイスをブレンドした。甘すぎない味わいで食事にも合う。炭酸水で4倍に薄めて飲むほか、牛乳で割って楽しむこともできる。」との記載がある。
ウ 大阪読売新聞(2021年(令和3年)3月9日) 朝刊 30ページ 「[定番巡り]高知クラフトコーラ Thumbs Up Works」の見出しの記事に、「◎高知クラフトコーラ「Sawachina(サワチナ)」・・・ユズ、ダイダイといったかんきつ類のさわやかな香りと、後を引くスパイシーな風味。南アフリカ産のコーラの実などのスパイスを使い、深い味わいと天然素材へのこだわりが、ブームのクラフトコーラの中でも、健康志向を持つ女性たちの支持を集める。」との記載がある。
エ 日本経済新聞(2022年(令和4年)4月26日) 地方経済面 信越22ページ「天然水工場に見学施設 サントリー 長野県大町市に」の見出しの記事に、「「サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場」に併設した。天然水の成り立ちなどを紹介するシアタールームや、工場の生産工程を解説する展示などを用意。屋外には広場やカフェもあり、地元食材を生かした天然水仕込みのクラフトソーダやかき氷などを提供する。」との記載がある。
オ 日本食糧新聞(2022年(令和4年)4月15日)11ページ 「「GREENS ピールかじる香る檸檬レモンと黄にんじんBlend」発売(カゴメ)」の見出しの記事に、「商品特徴=果実・清涼飲料。シリーズ新アイテム。クラッシュした野菜と果実の食感が楽しめるクラフトジュース。砂糖、香料、着色料無添加。低温殺菌製法でレモンの爽やかな香りと、レモンピールのほろ苦さや食感など、個性豊かな味わい。」との記載がある。
カ 朝日新聞(2021年(令和3年)3月9日)夕刊 9ページ 「(マダニャイ とことこ散歩旅:557)清洲橋通り:7 HAATY’S」の見出しの記事に、「「Do you like curry?(カレーはお好きですか?)」。カレー専門店「HAATY’S(ハーティーズ)」(東京都台東区台東1丁目)には、こんな看板がかかる。カレーのほか、スパイスやシロップを調合した自家製コーラやラッシーなどの「クラフトジュース」もある。」との記載がある。
キ 日経産業新聞(2021年(令和3年)10月22日)11ページ 「ノンアル飲料にもクラフトの波、こだわりソーダ、高級レストランやホテルでも。」の見出しの記事に、「クラフトソーダは、米国では5、6年前から流行が始まった「手作り感豊かな炭酸飲料」であり、こだわりを感じさせるものが多い。ただ明確な定義はないようで、クラフトビールが「個性あふれるビールを少量生産するメーカーのビール」(出典:全国地ビール醸造者協議会)のことであるのに対し、そのソフトドリンク版と言えそうだ。・・・そんなクラフトソーダの一つが、スタジオオカムラ(高知市)が、「はるのテラス」ブランドで製造販売する、国産ベルガモットを使用したクラフトソーダ「ベルガモットスパークリング」だ。シャンパンに代わるノンアルコールドリンクとして、銀座ブルガリ イル・リストランテ、ホテルニューオータニ、・・・ハイブランドのレストランや高級ホテルなどで採用されている。」との記載がある。
ク 毎日新聞(2023年(令和5年)1月9日)地方版 19ページ 「乾杯!ほっかいどう酒とひと:/6 ジンの可能性無限大 札幌 紅櫻蒸留所 廃棄減へ、道産素材で香り付け /北海道」の見出しの記事に、「2018年に公園内に開設した「紅櫻蒸留所」は、道内初のクラフトジン蒸留所だ。北海道の魅力を世界に発信しようと、道産のシイタケや日高昆布、切干大根などで香り付けし、札幌市内の伏流水を使ったジンを製造している。・・・一番の人気商品はクラフトジン「9148」シリーズ。口に入れると、ジュニパーベリーの爽やかな香りがまず立ち上がり、ブルーベリーの甘い香りと日高昆布などのうまみが続く。爽やかさと甘みのバランスが良く、天ぷらやかき揚げなど和食との相性も抜群だという。・・・素材や製法にこだわったクラフトジンは世界的ブームになっている。」との記載がある。
ケ 朝日新聞(2022年(令和4年)9月8日)朝刊 18ページ「(さいたまトーク)初の県産ジン、川越育ち 酒類会社・マツザキ、松崎裕大さんに聞く/埼玉県」の見出しの記事に、「世界的なブームで市場が急拡大している蒸留酒「ジン」。独自の素材や製法にこだわった国産の「クラフトジン」も次々と誕 生している。2020年から埼玉初のクラフトジン「棘玉(とげだま)」を製造・販売するのが、川越市の老舗酒類会社マツザキだ。・・・素材は日本人になじみのある「茶の葉」「ゆず」「山椒」「しょうが」「桂皮」に絞り、抽出方法からブレンドまで徹底的に追求しました。」との記載がある。



(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合の御注意) 本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。


異議決定日 2024-10-31 
出願番号 2023102669 
審決分類 T 1 651・ 13- Z (W32)
最終処分 06   取消
特許庁審判長 大森 友子
特許庁審判官 白鳥 幹周
清川 恵子
登録日 2023-11-29 
登録番号 6758216 
権利者 株式会社果実本舗
商標の称呼 クラフトコーディアル 
代理人 青木 博通 
代理人 片山 礼介 
代理人 中田 和博 
代理人 弁理士法人みなとみらい特許事務所 

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