【重要】サービス終了について

  • ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W4144
管理番号 1417896 
総通号数 36 
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2024-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-10-18 
確定日 2024-11-21 
異議申立件数
事件の表示 登録第6725107号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6725107号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第6725107号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、令和4年12月22日に登録出願、第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,コーチング(訓練),個人指導(フィットネストレーニング),個人に対する知識の教授,トレーニング目的の体力評価,フィットネスの教授,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,書籍の制作,インターネットを利用して行う映像の提供,インターネットを利用して行う音楽の提供,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),スポーツの興行の企画・運営又は開催,運動競技会の企画・運営,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),運動施設の提供,ヘルスクラブの提供(健康及びフィットネスのためのトレーニング),娯楽施設の提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,運動用具の貸与,レクリエーション活動に関する情報の提供」及び第44類「美容,理容,あん摩・マッサージ及び指圧,カイロプラクティック,きゅう,柔道整復,整体,はり治療,アロマテラピーの提供,マッサージ,医療情報の提供,健康診断,栄養の指導,栄養に関する助言,介護,セラピー,代替医療による治療,健康管理に関する指導及び助言,健康評価」を指定役務として、同5年7月25日に登録査定、同年8月9日に設定登録されたものである。

2 引用商標
(1)登録異議申立人(以下「申立人」という。)が商標法第4条第1項第7号及び同項第15号に該当するとして引用する登録商標及び標章は、以下のア及びイのとおりである。
ア 国際登録第1128501号商標(以下「引用商標1」という。)は、「OLYMPIC」の欧文字を書してなり、2011年(平成23年)9月16日にSwitzerlandにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、同年11月8日に国際商標登録出願、第1類ないし第22類及び第24類ないし第45類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、2015年(平成27年)6月19日に設定登録され、その後、指定商品及び指定役務については、2021年(令和3年)10月28日に国際登録簿に記録された本件の登録の減縮によって、第1類ないし第3類、第5類、第7類ないし第12類、第14類、第16類ないし第19類、第21類、第24類、第25類、第28類、第32類、第35類ないし第39類、第41類ないし第44類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務となり、その商標権は、現に有効に存続しているものである。
イ 申立人が、同人の運営・統括の中心となって開催する「オリンピック競技大会」やオリンピック・ムーブメントの普及・啓発事業を示すものとして、需要者の間に広く知られていると主張する標章は、引用商標1と構成を同じくする「OLYMPIC」の文字よりなる標章(以下「「OLYMPIC」標章」という。)である。
以下、引用商標1と「OLYMPIC」標章をまとめていうときは、「申立人商標及び標章」という。
(2)申立人が本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用する国際登録第1056066号商標(以下「引用商標2」という。)は、「OLYMPIAN」の欧文字を横書きにし、2010年(平成22年)9月28日に国際登録出願、第1類、第3類ないし第6類、第10類ないし第12類、第14類、第17類ないし第19類、第25類、第32類、第35類ないし第40類、第42類ないし第44類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、2013年(同25年)9月13日に設定登録されたものであり、その商標権は、現に有効に存続しているものである。
(3)申立人が本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用する国際登録第1496460号商標(以下「引用商標3」という。)は、「OLYMPIAN」の欧文字を横書きにし、2019年(令和元年)6月26日に国際登録出願、第2類、第7類ないし第9類、第16類、第21類、第28類及び第41類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、2023年(同5年)6月30日に設定登録されたものであり、その商標権は、現に有効に存続しているものである。
以下、引用商標2及び引用商標3をまとめていうときは、「引用商標」という。

3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号及び同項第15号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第141号証を提出した。
以下、証拠については、「甲第○号証」を「甲○」のように省略して記載する。
(1)商標法第4条第1項第7号について
ア 申立人について
申立人であるコミッティーインターナショナルオリンピック(IOC)は、近代オリンピックの創始者であるフランス人、ピエール・ド・クーベルタン男爵の提唱で1894年6月23日に設立された、オリンピック競技大会を運営・統括する国際的な非政府の非営利団体である(甲4)。
申立人は、世界中の競技者を一同に集めて開催される偉大なスポーツの祭典たるオリンピック競技大会の運営・統括とともに、オリンピックの理念であるオリンピズムを具現化し、次の世代へと受け継いでいく様々な活動たるオリンピック・ムーブメントを統括する最高機関として、オリンピック憲章に従い、オリンピズムを普及させる役割を担っている(甲4)。
イ 「OLYMPIC」の著名性について
申立人が運営・統括に携わる、近代オリンピック競技大会の誕生は、今から120年以上前の1896年であり、同年に第一回オリンピックアテネ大会が開催され、以後、オリンピック競技大会は1世紀以上にわたり、美と技を競う世界規模の平和とスポーツの祭典として原則として2年又は4年に一度開催されてきた。
近年に開催された、2008年の第二十九回夏季オリンピック北京大会と2012年の第三十回夏季オリンピックロンドン大会には、いずれも204の国と地域から1万人以上もの選手が参加し(甲5)、また、2016年の第三十一回夏季オリンピックリオデジャネイロ大会には過去最大の205の国と地域から1万1000人以上の選手が参加しており(甲6)、テレビ・インターネット・ラジオを通じて世界中の数十億の人々に視聴された。
甲7ないし甲66は、我が国で出版されたオリンピック競技大会に関する書籍の一部であり、「OLYMPIC」の文字からなる引用商標1と同一の標章が、オリンピック競技大会を表すものとして、120年以上もの間継続して使用されてきた事実をうかがい知ることができる。
以上より、1896年の第一回オリンピックアテネ大会から2022年の第二十四回冬季オリンピック北京大会までの120年以上の長期にわたり、世界の各都市を舞台として盛大に開催されてきた、オリンピック競技大会を指称する「OLYMPIC」なる標章は、全世界で老若男女問わず、申立人がその運営・統括の中心となって開催するオリンピック競技大会やその関連活動等を広く示すものとして認識されており、その程度は極めて高く、世界でも最も著名な標章の一つであるとともに、公益性も非常に高いものであることは明白である。
上述の諸点に加え、申立人及び「OLYMPIC」標章の公益性について更に触れると、オリンピック憲章では、申立人の使命として、「スポーツと文化および教育を融合させる活動を奨励し支援する」と規定されている(甲4)。かかる規定に基づき、申立人は、オリンピック・ムーブメントの一環として、様々な教育・文化活動を世界的規模で行い、「OLYMPIC」標章は、これらの各種教育・文化活動についても広く用いられ、親しまれている。我が国では、日本オリンピック委員会(JOC)等がオリンピック・ムーブメントの普及・啓発事業として、各種の教育・文化活動を国内で精力的に行っており(甲67〜甲119)、このような活動は多岐にわたる。
以上より、申立人は、多くの協力者とともに、オリンピック・ムーブメントと呼ばれる、オリンピックの理念であるオリンピズムを具現化し、次の世代へと受け継いでいく様々な活動を行い、また、オリンピック憲章に従い、オリンピズムを推進すべく、普遍かつ恒久的な活動を行っている。
したがって、このように極めて公益性が高く、世界各国で著名に至っていることが明白な「OLYMPIC」標章と同一又は類似、あるいは、これとの関連性を想起させるような商標の登録・使用が認められれば、スポーツによる教育、平和への貢献といったオリンピック・ムーブメントにより築き上げられた価値観が棄損され、公益に反する結果を招くことは想像に難くなく、特に、2021年の夏には東京で第三十二回夏季オリンピック東京大会が開催されており、日本でもオリンピック・ムーブメントの公益的な目標の達成に向けて官民一体となって邁進していたことは記憶に新しいことをも鑑みると、本件商標の法第4条1項第7号該当性の検討に際しては、「OLYMPIC」標章及びこれの使用される各種活動の公益性という点が十分に考慮されるべきである。
ウ 本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について
このように申立人は、オリンピズムの理念に基づいてオリンピック競技大会を頂点としたオリンピック・ムーブメントを永きにわたり主導的な立場で推進してきたが、申立人と何ら関わりのない本件商標は、著名な「OLYMPIC」標章に便乗し、その信用、名声にあやかろうとする意図が明らかであって、申立人が推進してきたオリンピック・ムーブメントが阻害されることを意味するに他ならない。
すなわち、本件商標の構成中の上段に配された図案は、金髪の女性、その胴体部分における白色の上衣、頭頂部分における月桂冠、及び、首元部分における金色の身飾品より構成されてなるところ、これらの要素は、1928年の第九回夏季オリンピックアムステルダム大会から2000年の第二十七回夏季オリンピックシドニー大会にかけて、各競技の成績優秀者に贈呈されるメダルに刻印されていた勝利の女神(古代ギリシア人が着用していたとされる白いワンピース型の上衣(キトン)を着衣し、左手にヤシの葉、右手に月桂冠を持った女神)の印象を容易に想起させることに加え(甲124〜甲141)、月経冠については、オリンピック競技大会のマラソン競技等において優勝者に贈呈されるものであることが広く認知されていること等に鑑みると、本件商標は、「OLYMPIC」を当然に知ったうえで、これを意識し、当該図案と下段に配された「オリンピア鍼灸整骨院」の文字とを組み合わせたにすぎない商標であって、これが使用された役務は、あたかも、オリンピック競技大会に関連する者の提供に係るものであることを暗示すると理解されるものである。
この点について更に触れると、本件商標権者たるA氏は、鍼灸整骨院の院長及びヨガスタジオの代表を務めており、前記ヨガスタジオのホームページ内のプロフィール欄にて「2015年北京世界陸上 帯同、2016年リオデジャネイロ五輪帯同、2020年 東京五輪に向けて活動中」といった経歴が強調され、オリンピック競技大会の関係者であるかの如く紹介されていることからすると(甲122、甲123)、オリンピック競技大会と同一又は極めて密接な関係性を有する役務の分野において、本件商標が著名な「OLYMPIC」標章に由来し、その信用や名声にあやかろうとする意図を有していることは明らかである。
上述の諸点を総合的に勘案すると、本件商標は、本来的に「OLYMPIC」標章に由来し、これを派生させたものであることは明白であって、「OLIMPIC」標章に化体した信用にただ乗りし、不正な利益を得ようとしたものと考えられ、スポーツを通じ、平和でよりよい世界の実現に貢献するという、まさに公共の利益を追求するオリンピック競技大会の尊厳が害されるおそれがあるのみならず、「OLYMPIC」標章の著名性にあやかって不正な利益を得ようとするものであり、公正な取引秩序を乱すばかりか、国際信義及び公序良俗にも反するものである。
したがって、本件商標のように申立人と現在は何ら関係のない者が本件商標を独占して使用することは、オリンピック憲章に基づき開催されるオリンピック競技大会の権威を損なうおそれがあるばかりか、社会公共の利益に反し、公の秩序を乱すものと判断されるのが相当である。
そうすると、本件商標は、引用商標1と同一の文字からなる「OLYMPIC」標章に化体した信用、名声及び顧客吸引力に便乗して不当な利益を得る等の目的をもって、「OLYMPIC」標章の特徴を模倣して出願し登録を受けたもので、商標を保護することにより、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護するという商標法の目的に反するものであり、公正な取引秩序を乱し、商道徳に反するものというべきである。
エ 小括
上述のとおり、本件商標は、申立人が運営・統括に携わるオリンピック競技大会やオリンピック・ムーブメント推進のための様々な式典やイベントで使用されている著名な「OLYMPIC」標章に化体した信用にただ乗りし、あやかろうとした、あるいは、オリンピック競技大会やその代表選手である「オリンピアン」との関連性を容易に想起させるべく採択されたものであり、社会公共の利益に反し、公の秩序を乱すことは明らかであって、商標法第4条第1項第7号の規定に違反して登録されたことが明らかであるから、その登録は許されるべきものではなく、商標法第43条の2第1号の規定により取り消されて然るべきものである。
(2)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標は、別掲1のとおり、古代ギリシアの勝利の女神をモチーフにした図案の下に「オリンピア鍼灸整骨院」の文字を横書きにしてなるものであるところ、その構成中の「鍼灸整骨院」の文字は、本件指定役務との関係において役務の提供の場所等を表したものと認識させるものであることに鑑みると、本件指定役務との関係で自他役務識別機能を発揮するとはいい難い。
そして、本件商標にあっては、その構成上、前記図案、「オリンピア」の文字、及び「鍼灸整骨院」の文字を常に一体として把握しなければならないとする特段の事由は存在しないばかりか、「鍼灸整骨院」の文字は本件指定役務との関係で独占適応性が極めて低いことから、「オリンピア」の文字のみが自他役務識別機能を発揮する要部として需要者・取引者をして認識され、当該要素に照応した「オリンピア」の称呼のみをもって本件商標が実際の商取引に資されることも少なくないといい得る。
イ 他方、申立人が引用する引用商標2及び引用商標3は、いずれも「OLYMPIAN」の欧文字を横書きにして表してなり、当該欧文字に照応して、これよりは「オリンピアン」の称呼が生ずる。
してみれば、本件商標と引用商標2及び引用商標3は、語尾音における弱音「ン」の有無の差異しかなく、語尾音は一般に聴取し難いことに鑑みると、両商標を一気一連に称呼した場合、両者は聴別し難く、称呼上相紛らわしい類似する商標といえる。そして、本件商標と各引用商標の指定役務は、前記したとおり、同一又は類似のものである。
したがって、引用商標2及び引用商標3に係る出願日及び登録日のいずれもが本件商標に係る商標登録出願の出願日及び登録日に先立つものであることも考慮すると、本件商標は、各引用商標との関係において、商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたものである。
(3)商標法第4条第1項第15号について
ア 「OLYMPIC」の著名性について
申立人が運営・統括に携わり、1896年の第一回オリンピックアテネ大会から2022年の第二十四回冬季オリンピック北京大会までの120年以上の長期にわたり、世界の各都市を舞台として開催されてきた、オリンピック競技大会やオリンピック・ムーブメントの普及・啓発事業にて使用されてきた「OLYMPIC」標章が、我が国は当然として全世界で極めて著名性の高いものであることは、上記にて詳述したとおりである。
オリンピック競技大会の開催をはじめとするオリンピック・ムーブメントの諸活動を継続的に実施のためには莫大な費用が必要であり、オリンピック・ムーブメントの推進には、民間企業等の資金的・技術的な協力が不可欠であることから、申立人は、世界各国でオリンピック・ムーブメントの推進と、オリンピック競技大会運営のための資金調達を目的としたマーケティング活動を実施している。
このようなマーケティングの主なものとしては、スポンサーシップ、放映権、ライセンシングがある(甲120、甲121)。このうち、スポンサーシップ契約は、原則として1業種につき1社のみとされ、これにより契約したスポンサーは、契約したスポンサーの種類に応じ、「OLYMPIC」の名称、オリンピック・シンボル(五輪マーク)、大会のエンブレムと大会マスコット等のオリンピック資産を利用した様々なマーケティング活動を行うことができる。オリンピックのスポンサー契約のうち、最高位のスポンサーシッププログラムが、申立人が1985年にスタートさせたTOP(THE OLYMPIC Partner)プログラムであり、TOPのスポンサー企業は、世界的規模で、契約を締結した各分野について独占的に、オリンピック資産を活用したマーケティングを行うことが可能となる(甲121)。なお、2014年の冬季オリンピックソチ大会及び2016年の夏季オリンピックリオデジャネイロ大会のTOPスポンサーは12社という非常に厳選されたものとなっている。
また、オリンピック開催国では、国内マーケティングプログラムが用意され、TOPスポンサーの業種との調整を踏まえて、業種別にスポンサー企業が決められることになっており(甲121)、例えば、2012年の夏季オリンピックロンドン大会のスポンサー企業の数は42社、2014年の冬季オリンピックソチ大会のスポンサー企業の数は46社に上った。
そして、2021年に開催された第三十二回夏季オリンピック東京大会でも、TOPスポンサー企業、東京2020オリンピックゴールドパートナー及び東京2020オリンピックオフィシャルパートナーとしての契約がこれまでと同様に締結され、同大会の開催に伴う経済波及効果は約3兆円との試算が示されていることからもわかるように、マーケティング活動を介しても、「OLYMPIC」が著名なものとなっていることが容易に理解できるものである。
イ 出所の混同のおそれについて
(ア)上述のように、「OLYMPIC」は、申立人が中心となって開催されるオリンピック競技大会やオリンピック・ムーブメントの普及・啓発事業にて長年にわたって使用され、著名であることは、御庁における数多の異議・審判事件からも疑いようのない事実であることから、この点を十分に踏まえた上で、本件商標が出所の混同を生ずるか否かを以下に検討する。
(イ)そこでまず、商標法第4条第1項第15号についてふれると、同号は、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」は登録を認めないこととし、同項第10号から第14号までに該当しない商標であっても、取引の実情等を勘案して登録を認めないことにより、具体的観点から出所の混同を防止しようとする規定と考えられる。
そして、その出願商標(の使用)により混同が生じる対象を、「他人の業務に係る商品又は役務」としていることからすると、当該他人がその業務に係る商品等に使用する商標のみに限定されず、名称や略称、ブランド名等のように、商標的な使用(商標法第2条1項各号、同3項各号、同4項)がなされていない標章等であっても、他人以外の者に使用された場合、その使用された商品又は役務との関係で出所表示機能を発揮し得る可能性があれば、これらも含めた上で同号に規定する「混同の生じるおそれ」の有無を判断するものと理解される。
そうとすると、商標法第4条第1項第15号の適用にあたっては、混同を生ずるおそれがある対象が当該他人の使用する商標であるかは全く問題とならず、法上の商標としては認められないものの、商品等との関係で周知・著名な当該他人の名称や略称、又はその者に係る各種活動等も当然にその対象に含み、かつ出願商標の採択の必要性、取引の実情等を多角的に十分に勘案した上で同号の該当性を判断するのが、規定中の文言及び立法趣旨からも妥当である。
(ウ)このような状況において、申立人の使用に係る「OLYMPIC」が1894年から現在に至るまでおよそ130年以上にわたり、世界最大級のスポーツの祭典であるオリンピック競技大会を指称する商標として使用されており、オリンピック競技大会といったスポーツの興行の企画・運営にとどまらず、これに関連した極めて広範な商品や役務との関係で著名であることは、上述の諸点より明らかである。
また、本件商標の構成中の上段に配された図案は、あたかも本件商標権者がオリンピック競技大会と密接な関係性を有するかのような印象を想起させるとともに、下段に配された「鍼灸整骨院」の文字は、前述のとおり、その指定役務との関係では記述的であって自他役務識別機能を発揮し難いものであることも考慮すると、簡易迅速を尊ぶ取引の場において、本件商標にあっては、「オリンピア」の文字が需要者の目を惹くことも少なくないことに加え、申立人は、「OLYMPIC」との関係で「オリンピアン」や「オリンピズム」等の「オリンピ」を語頭に含む表示を多用していることも考慮すると、「OLYMPIC」の極めて高い著名性と相まって、本件商標は「OLYMPIC」関連の一群の商標と認識され得るものである。
そして、申立人は、各企業とのスポンサーシップ契約を締結し、それらのスポンサーがオリンピック資産を利用したさまざまなマーケティング活動を行っているという実態からすれば、著名な「OLYMPIC」商標との関係性を容易に想起させる本件商標が付された本件指定役務が実際の商取引に資された場合、これに接した需要者・取引者は、申立人あるいは日本オリンピック委員会と正式なスポンサー契約を締結した、オフィシャルスポンサーの業務に係る役務であるかの如く、役務の出所について混同を生じるおそれがあることは明らかである。
ウ 小括
したがって、申立人が中心となって開催されるオリンピック競技大会やオリンピック・ムーブメントの普及・啓発事業を表示する「OLYMPIC」と密接な関連性を印象付ける本件商標は、これが使用された場合、オリンピック競技大会を容易に想起又は連想させ、申立人あるいは日本オリンピック委員会とスポンサー関係にある者の業務に係る役務であると役務の出所について混同を生じさせるおそれがあることから、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであって、商標法第43条の2第1号の規定により取り消されて然るべきものである。

4 当審の判断
(1)申立人商標及び標章の周知性について
ア 申立人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、以下のとおりである。
(ア)申立人は、1894年に設立された、オリンピック競技大会を運営・統括する国際的な非政府の非営利団体であり、オリンピック競技大会は、1896年の第1回オリンピックアテネ大会以降、120年以上にわたり、美と技を競う世界規模の平和とスポーツの祭典として、原則として4年に一度開催され、多くの国と地域から多数の選手が参加しており、テレビ・インターネット・ラジオを通じて世界中の人々に視聴され、我が国で出版されたオリンピック競技大会に関する書籍などに「OLYMPIC」標章がオリンピック競技大会を表示するものとして継続して使用されたことが確認できる(甲24〜甲26、甲49〜甲51、甲59〜甲64他)。
(イ)オリンピック憲章では、申立人の使命として「スポーツと文化および教育を融合させる活動を奨励し支援する」と規定されており(甲4)、申立人は、当該規定に基づき、「OLYMPIC」標章の下、オリンピック・ムーブメントの一環として、様々な教育・文化活動を世界的規模で行い、我が国でも、各種教育・文化活動を多岐にわたり行っている(甲67〜甲119)。
イ 上記アよりすれば、オリンピック競技大会は、120年以上にわたり開催され、多くの国と地域から多数の選手が参加しており、テレビ・インターネット・ラジオを通じて世界中の人々に視聴され、我が国で出版されたオリンピック競技大会に関する書籍などに「OLYMPIC」標章が、オリンピック競技大会を表示するものとして継続して使用されたこと、申立人は、「OLYMPIC」標章の下、オリンピック競技大会及びオリンピック・ムーブメントと呼ばれる様々な教育・文化活動を行っていたことなどから、「OLYMPIC」の文字からなる申立人商標及び標章は、多くの国と地域から多数の選手が参加する、申立人に係る「オリンピック競技大会」を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の需要者の間に広く知られていたといえる。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標について
本件商標は、別掲1のとおり、植物でできた冠を頭に載せたとおぼしき人間の上半身の図形と、その図形の下部に「オリンピア鍼灸整骨院」の文字を横書きしてなるものである。
そして、本件商標の構成中、前記図形部分と文字部分とは重なり合うことなく、また、当該図形部分は文字部分と比較して大きく表され、色彩も有していることから、両者は、視覚上分離して観察されるものである。
また、前記図形部分は、具体的な意味合いを表すものとして認識されているというべき事情は見いだせないから、これよりは特定の称呼及び観念を生じない。他方、文字部分については、構成中の「オリンピア」の文字が、「オリンピック競技の発祥地。」等の意味を有する語(「広辞苑 第七版」株式会社岩波書店)であり、「鍼灸整骨院」の文字は、「鍼灸師・柔道整復師が鍼や灸、マッサージ等により施術する場所」程の意味合いを理解させるところ、これらの構成文字は、同じ書体、同じ大きさで間隔を空けずに外観上まとまりよく一体的に表されており、文字部分全体として、特定の鍼灸整骨院の名称を表してなることを連想させるものの、具体的な意味合いを認識させるとまではいえない。
そうすると、前記図形部分と文字部分は、それぞれ視覚上分離、独立した印象を与えることに加え、両者に観念的な関連性も見いだせないから、これらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいい難く、図形部分と文字部分とが、それぞれ要部として自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものとみるのが相当である。
してみれば、本件商標は、その要部の一つである文字部分に相応して「オリンピアシンキューセーコツイン」の称呼を生じ、特定の鍼灸整骨院の名称を表してなることを連想させるものの、特定の観念は生じない。
イ 引用商標について
引用商標は、上記2(2)及び(3)のとおり、「OLYMPIAN」の欧文字を横書きしてなるところ、その構成文字に相応して、「オリンピアン」の称呼が生じる。
また、「OLYMPIAN」の欧文字は、「オリンピック出場選手」等(「ジーニアス英和辞典 第6版」株式会社大修館書店)の意味を有する語である。
したがって、引用商標は、その構成文字に相応して、「オリンピアン」の称呼を生じ、「オリンピック出場選手」の観念が生じる。
ウ 本件商標と引用商標との類否について
本件商標の要部と引用商標とは、片仮名及び漢字と欧文字という文字種の相違や文字数において差異を有することから、両者は、外観において明確に区別し得る。
また、称呼においては、本件商標の要部から生じる「オリンピアシンキューセーコツイン」の称呼と引用商標から生じる「オリンピアン」の称呼とは、構成音及び音数が明らかに相違し、明瞭に聴別されるから、称呼上相紛れるおそれはない。
さらに、観念においては、本件商標は、特定の観念が生じないのに対し、引用商標からは、「オリンピック出場選手」の観念が生じるから、観念上相紛れるおそれはない。
そうすると、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念において相紛れるおそれはない非類似の商標である。
エ 小括
以上のとおり、本件商標と引用商標とは非類似の商標であるから、本件商標の指定役務と引用商標の指定役務との類否を判断するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 申立人商標及び標章の周知性について
上記(1)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人商標及び標章は、我が国の需要者の間に広く知られていたものである。
イ 本件商標と申立人商標及び標章の類似性の程度について
(ア)本件商標は、上記(2)アのとおり、「オリンピア鍼灸整骨院」の文字に相応して、「オリンピアシンキューセーコツイン」の称呼を生じ、特定の鍼灸整骨院の名称を表してなることを連想させるものの特定の観念は生じない。
(イ)申立人商標及び標章は、上記2(1)ア及びイのとおり、「OLYMPIC」の欧文字よりなるから、その構成文字に相応して、「オリンピック」の称呼を生じ、「オリンピック競技大会」の観念が生じる。
(ウ)本件商標と申立人商標及び標章とを比較すると、本件商標は、「オリンピア鍼灸整骨院」の文字を表してなるのに対し、申立人商標及び標章は、「OLYMPIC」の欧文字よりなるものであるから、本件商標と申立人商標及び標章とは、片仮名及び漢字と欧文字という文字種の相違や文字数
において差異を有し、これらは、明確に区別し得ることから、外観において、相紛れるおそれはない。
また、本件商標より生じる「オリンピアシンキューセーコツイン」の称呼と申立人商標及び標章より生じる「オリンピック」の称呼とは、両者の構成音及び音数は明らかな差異を有するから、これらは、明瞭に聴別できるため、称呼において、相紛れるおそれはない。
さらに、本件商標は、特定の観念が生じないのに対し、申立人商標及び標章は、「オリンピック競技大会」の観念が生じるから、両者は、観念が相違するため、観念において相紛れるおそれはない。
そうすると、本件商標と申立人商標及び標章とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標であり、別異のものであるから、類似性の程度は低い。
ウ 出所の混同のおそれについて
上記アのとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人商標及び標章は、「オリンピック競技大会」を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く知られていたものであるとしても、上記イのとおり、本件商標と申立人商標及び標章とは、非類似の商標及び標章であり、別異のものであるから、類似性の程度は低いものであることからすると、申立人商標及び標章が使用される役務の需要者と本件商標の指定役務の需要者が共通する場合があるとしても、本件商標は、本件商標権者がこれをその指定役務に使用しても、これに接する取引者、需要者が、申立人商標及び標章を連想、想起するとはいえず、その商品が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように、役務の出所について混同を生じさせるおそれはないというべきである。
その他、本件商標が申立人商標及び標章との関係において、出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
エ 小括
以上のとおり、本件商標は、本件商標権者がこれをその指定役務に使用しても、これに接する取引者、需要者が、申立人商標及び標章を連想、想起するとはいえず、その役務が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように、役務の出所について混同を生じさせるおそれはないというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるようなものでないことは明らかであり、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標というべき事情は見いだせない。
また、申立人商標及び標章が、「オリンピック競技大会」を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く知られていたものであるとしても、本件商標と申立人商標及び標章とは、非類似の商標及び標章であり、別異のものであるから、本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くなど、登録を維持することが商標法の予定する秩序に反するものというべき証左も見いだせない。
さらに、本件商標は、他の法律によって、その商標の使用等が禁止されているものではなく、特定の国若しくは国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反するものでもない。
そうすると、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標に該当するとはいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
(5) むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号、同項第15号に該当するものではなく、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

別掲

別掲1 本件商標(色彩については原本参照)



別掲2 本件商標の指定役務
41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,コーチング(訓練),個人指導(フィットネストレーニング),個人に対する知識の教授,トレーニング目的の体力評価,フィットネスの教授,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,書籍の制作,インターネットを利用して行う映像の提供,インターネットを利用して行う音楽の提供,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),スポーツの興行の企画・運営又は開催,運動競技会の企画・運営,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),運動施設の提供,ヘルスクラブの提供(健康及びフィットネスのためのトレーニング),娯楽施設の提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,運動用具の貸与,レクリエーション活動に関する情報の提供」
第44類「美容,理容,あん摩・マッサージ及び指圧,カイロプラクティック,きゅう,柔道整復,整体,はり治療,アロマテラピーの提供,マッサージ,医療情報の提供,健康診断,栄養の指導,栄養に関する助言,介護,セラピー,代替医療による治療,健康管理に関する指導及び助言,健康評価」



(この書面において著作物の複製をしている場合の御注意) 本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。
異議決定日 2024-11-13 
出願番号 2022146154 
審決分類 T 1 651・ 261- Y (W4144)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 旦 克昌
特許庁審判官 小林 裕子
大島 康浩
登録日 2023-08-09 
登録番号 6725107 
権利者 種本 貴子
商標の称呼 オリンピアシンキューセーコツイン、オリンピア 
代理人 岡田 淳 
代理人 渡部 彩 
代理人 貝塚 亮平 
代理人 田中 尚文 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ