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審決分類 |
審判 一部申立て 登録を維持 W43 |
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管理番号 | 1415589 |
総通号数 | 34 |
発行国 | JP |
公報種別 | 商標決定公報 |
発行日 | 2024-10-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2024-02-06 |
確定日 | 2024-09-12 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 登録第6757554号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 登録第6757554号商標の商標登録を維持する。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第6757554号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成よりなり、令和5年4月6日に登録出願、第16類「文房具類」、第21類「マグカップ」、第25類「被服」、第35類「野菜及び果実の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」及び第43類「飲食物の提供」を指定商品及び指定役務として、同年10月20日に登録査定され、同年11月28日に設定登録されたものである。 第2 登録異議申立人が引用する商標 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標に係る登録異議の申立ての理由に該当するとして引用する登録商標は、以下の1ないし5のとおりであり、いずれの商標権も現に有効に存続しているものである。 1 国際登録第860884号商標(以下「11号引用商標」という。) 商標の構成:LA TRATTORIA DI GIOVANNI RANA MAESTRO PASTAIO 指定役務:第43類「Services for providing food and drink; temporary accommodations.」 国際商標登録出願日:2005年6月10日 優先権主張日:2005年4月15日(Italy) 設定登録日:平成18年10月6日 2 登録第4387333号商標(以下「引用商標2」という。) 商標の構成:RANA(標準文字) 指定商品:第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,調味料,香辛料,米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,食用粉類,食用グルテン,穀物の加工品,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,菓子及びパン,即席菓子のもと,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,アーモンドペースト,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,氷,酒かす」 登録出願日:平成11年3月23日 設定登録日:平成12年5月26日 3 登録第5940361号商標(以下「引用商標3」という。) 商標の構成:別掲2のとおり 指定商品:第29類「肉製品,加工水産物,加工野菜及び加工果実,主に食肉、魚、家禽肉又は野菜からなる冷凍惣菜,肉・魚・家禽肉又は野菜からなる包装済みの惣菜,主に食肉、魚、家禽肉又は野菜からなる惣菜,だんご状に加工したじゃがいも,カレー・シチュー又はスープのもと」及び第30類「主にパスタや米からなる冷凍食品,包装された調理済みパスタ又は米飯,パスタや米からなる惣菜,ピザ,パン,パスタ,詰め物をしたパスタ,ラビオリ,穀物をもとにしたダンプリング,調味料及び香辛料,ソース,サラダ用ソース,パスタソース,主に肉、魚、甲殻類及び貝類、野菜及び/又はチーズからなる調味料及び香辛料」 登録出願日:平成28年7月22日 設定登録日:平成29年4月14日 4 国際登録第1438471号商標(以下「引用商標4」という。) 商標の構成:別掲3のとおり 指定商品:第29類「Potato-based dumplings.」及び第30類「Wholemeal pasta; fresh pasta; puff pastry; deep frozen pasta; pasta containing stuffings; pasta-based prepared meals; rice-based prepared meals; pasta sauce; ready-made dishes containing pasta; macaroni with cheese; dried and fresh pastas, noodles and dumplings; frozen meals consisting primarily of pasta; gnocchi; fish-based dumplings; flour-based gnocchi; tortellini; dumplings; ravioli; flour-based dumplings; meat gravies; pasta sauce; mixes for preparing sauces; baked confectionary; ready-made sauces; dressings for salad; tomato sauce; lasagne; frozen dough; frozen pastries; pasta containing stuffings; frozen pastry stuffed with meat and vegetables; pastries consisting of vegetables and fish.」 国際商標登録出願日:2019年5月7日(事後指定) 設定登録日:令和3年5月21日 5 登録第5940362号商標(以下「引用商標5」という。) 商標の構成:GIOVANNI RANA(標準文字) 指定商品:第29類「肉製品,加工水産物,加工野菜及び加工果実,主に食肉、魚、家禽肉又は野菜からなる冷凍惣菜,肉・魚・家禽肉又は野菜からなる包装済みの惣菜,主に食肉、魚、家禽肉又は野菜からなる惣菜,だんご状に加工したじゃがいも,カレー・シチュー又はスープのもと」及び第30類「主にパスタや米からなる冷凍食品,包装された調理済みパスタ又は米飯,パスタや米からなる惣菜,ピザ,パン,パスタ,詰め物をしたパスタ,ラビオリ,穀物をもとにしたダンプリング,調味料及び香辛料,ソース,サラダ用ソース,パスタソース,主に肉、魚、甲殻類及び貝類、野菜及び/又はチーズからなる調味料及び香辛料」 登録出願日:平成28年7月22日 設定登録日:平成29年4月14日 以下、11号引用商標及び引用商標2ないし引用商標5をまとめていう場合は「引用商標」という。 第3 登録異議の申立ての理由 申立人は、本件商標は、その指定商品及び指定役務中、第43類「飲食物の提供」(以下「異議申立役務」という。)について、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号のいずれかの規定に違反して登録されたものであるから、その登録は、同法第43条の2第1号により、取り消されるべきであると申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第24号証(枝番号を含む。)を提出した。 なお、証拠の表記に当たっては、「甲第1号証」を「甲1」のように省略して記載する場合があり、枝番号のすべてを表示する場合は枝番号を省略する。 1 申立人について 申立人は、1962年3月にジョバンニ・ラーナ(Giovanni Rana)氏(以下「ラーナ氏」という。)によって設立されたイタリアの法人で、各種パスタ製品(生パスタ、生ニョッキ、パスタソース、ラザニア等の調理済み食品)(以下「申立人商品」という。)を製造販売している(甲3、甲4)。申立人商品はイタリア国内外において流通・販売されており、我が国にも輸入され、一般のスーパーストアやオンラインの通販等で入手できる。また、申立人はイタリア国内外において複数のイタリアンレストランを運営している。なお、申立人の社名中の「パスティフィッチョ」(Pastificio)は「パスタ工場」の意味であるから(甲5)、申立人の社名は、全体として「ラーナパスタ工場株式会社」ほどの意味となる。 申立人は、申立人商品をイタリア国外に広く輸出し販売している関係上、今後、イタリア国外でのレストラン運営を考慮し、世界各国において「RANA」等の商標を多数出願し、登録している(甲6)。 2 商標法第4条第1項第11号について 11号引用商標は、欧文字「LA TRATTORIA DI GIOVANNI RANA MAESTRO PASTAIO」を平易な書体で横書きしたものであるところ、「LA TRATTORIA DI」は「〜のトラットリア(気軽に入れる、比較的小さな大衆的なイタリア料理店)」(甲7)を「MAESTRO PASTAIO」は「パスタ名人」を意味する(甲8)。「GIOVANNI RANA」は申立人の創業者の氏名「ジョバンニ・ラーナ」であるので、商標全体として「パスタ名人ジョバンニ・ラーナのトラットリア」を意味する。そして、「飲食物の提供」の役務との関係では、11号引用商標の構成中「LA TRATTORIA DI」と「MAESTRO PASTAIO」の部分はレストラン(飲食物の提供)の種類や提供する料理を理解させるため、識別力が弱いといえる。 よって、11号引用商標の要部は「GIOVANNI RANA」又は「GIOVANNI」、「RANA」と考えられる。 そこで、本件商標を11号引用商標の要部である「RANA」と比較すると、大文字と小文字の構成、筆記体か平易な書体であるかに違いはあるものの、構成文字は共通している。なお、本件商標は筆記体であるものの、「Rana」の欧文字から構成されていることは、その外観から明確である。そして、当該欧文字から生じる称呼「ラーナ」又は「ラナ」が共通している。観念については「Rana」という名字か、あるいは、我が国におけるイタリア語の浸透度を考えると、格別の意味を有しない造語と理解される。 よって、本件商標と11号引用商標とは、外観及び称呼において類似であり、観念において比較し得ないため、互いに類似する商標である。 異議申立役務と11号引用商標の指定役務中の第43類「Services for providing food and drink」は、同一又は類似の役務である。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。 3 商標法第4条第1項第15号について 引用商標2ないし引用商標4は、申立人が申立人商品に使用しており、我が国においても、同人の商品を示す商標として広く知られている。そのため、本件商標は、申立人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標に当たる。 (1)引用商標2ないし引用商標4について 本件商標は、欧文字「Rana」を筆記体で表してなり、第43類において「飲食物の提供」を指定役務とするものである。 引用商標2は、欧文字「RANA」を標準文字で表してなり、第30類「ラビオリ」などを指定商品とするものである。 引用商標3は、略横長長方形の黒色の背景に、上段に白抜きで筆記体の「Giovanni Rana」、下段に白抜きで立体感を出した平易な書体の「RANA」を配してなり、第30類「パスタ,ラビオリ,パスタソース」などを指定商品とするものである。引用商標3の構成中、「RANA」の文字が大きく目立つ態様で表されていることから、商標全体のほか、「RANA」部分も要部として単独で商標として機能し得るものである。 引用商標4は、二重の円で囲まれた中に、横書きで、上から順に、平易な書体の「PASTIFICIO」(「パスタ工場」の意)、筆記体の「Giovanni Rana」、平易な書体の太字の「RANA」、平易な書体の「L’ESPERIENZA IN CUCINA」(「キッチンでのエクスペリエンス」の意)を配してなる商標である。引用商標4の構成中、「RANA」の文字が大きく太字で目立つように表されていることから、「RANA」の部分も単独で商標としての機能を果たすものである。 そこで、本件商標と引用商標2ないし引用商標4とを比較すると、商標全体あるいは要部が「Rana」又は「RANA」であり、構成文字が同じであって、同一の称呼「ラーナ」や「ラナ」が生ずる。 よって、本件商標は、引用商標2ないし引用商標4と同一又は類似の商標である。 (2)引用商標2ないし引用商標4の周知度について 申立人と我が国の需要者との関わりについては、引用商標2ないし引用商標4を付した申立人商品が全国的に販売されていることが挙げられる。 具体的には、生パスタ製品(「ラビオリ」、「タリアテッレ」、「フェットチーネ」、「トルテリーニ」など)やパスタソース製品(「バジリコペースト」、「トマト&バジル」、「マッシュルーム・ポルチーニ茸」など)の包装に引用商標3が直接付されたり、同製品が店頭で販売される際には、引用商標2や引用商標3が商品表示や店頭POP、店内ポスターに目立つ形で表されている(甲9〜甲11)。 申立人商品は、株式会社日本アクセス(東京都品川区西品川)やカーギルジャパン合同会社(東京都千代田区丸の内)を通じて我が国へ輸入され(甲12)、我が国での販売を強化するため、イオングループの店舗であるイオンスタイル(総合スーパー)、イオン(スーパー)などや同グループの関連会社であるダイエー(スーパー)などにおいて広く販売されている。スーパーの店頭では試食販売や、季節に合わせたキャンペーンが適宜行われており、試食販売用ブースや販売員のエプロンや帽子、配布用パンフレット、置き看板などに引用商標3が目立つ形で使用されている(甲9〜甲11)。 イオングループやその関連会社の運営するスーパーは全国にあるため、申立人に係る引用商標2及び引用商標3が使用された商品は全国的に流通し、販売されているといえる。例えば、本件商標の権利者が所在する北海道札幌市においても、イオン札幌桑園店、イオン札幌麻生店、イオン札幌栄町店、イオン札幌苗穂店、イオン札幌元町店、イオン東札幌店、イオン札幌藻岩店など複数店舗がある。 なお、我が国での店頭販売に当たって、申立人は、同社の製品が適切な形で、また、同社のブランドの維持や需要者の印象に残るような販売方法についてかなり気を払っている。我が国の販売店舗を実際に見て回ってレポートする同社関係者がおり、申立人は我が国の各店舗の店頭の様子や製品の売れ行きを把握し、自社製品の商品陳列や試食の実施などの販売方法の検討や、競合他社の商品に関する観察を行ったりもした。また、季節に合わせたキャンペーン(クリスマスや母の日等に関連したもの)に関しても、実施状況や効果について検討している(甲13)。 スーパーでの店頭販売のほか、申立人の製品は、オンラインでも広く販売されている。オンラインで販売されている生パスタ製品やパスタソース製品には、主に引用商標4が用いられている。店頭販売と異なりキロ単位での大容量製品が多いところ、これらのシンプルなパッケージの正面側に目立つように引用商標4が付されている(甲14)。 全国的な店舗での販売とオンライン販売により、引用商標2ないし引用商標4が使用された申立人商品は、数多くの需要者に現実に見られ、購入され、食されていると推認できる。 ここで、検索エンジン、Google検索により、本件商標が登録出願された令和5年(2023年)4月6日の1か月前である令和5年(2023年)3月6日から登録出願日までの期間を指定し、「RANA」と「パスタ」をキーワードとした検索を行ったところ、冒頭に申立人の引用商標3を付した商品の画像及び申立人商品に関係のある内容の記載が表示された(甲15)。このことは、申立人の商品販売等に係る上述の営業努力により、本件商標の登録出願時から、引用商標2ないし引用商標4を使用した商品が需要者の間で浸透していたことを意味する。また、同じくGoogle検索により、本件商標が登録された令和5年(2023年)11月28日の1か月前である令和5年(2023年)10月28日から登録日までの期間を指定し、上記と同様のキーワードを入力し検索したところ、本件商標の登録出願時同様、冒頭に申立人の引用商標3を付した商品の画像及び申立人商品に関係のある内容の記載が表示された(甲15)。また、申立人商品等に関する表示件数も、登録出願時の件数より多い結果となった。これにより、本件商標の登録査定時においても、引用商標2ないし引用商標4が我が国及び外国の取引者、需要者の間に広く認識されていたことが推認される。 よって、引用商標2ないし引用商標4は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、需要者の間で申立人に係る商標として広く知られるに至っていたものである。 (3)造語よりなるものであるか又は構成上顕著な特徴を有するか 引用商標2ないし引用商標4の要部である「RANA」は、申立人の設立者ラーナ氏の名字に由来する。なお、ラーナ氏と申立人はイタリア出身であるところ、イタリア語で「rana」は「蛙」を意味する(甲16)。 ただし、我が国におけるイタリア語の普及度を考慮すると、当該イタリア語は、需要者の間で一般に広く知られている語とはいい難く、「RANA」は造語と理解されるものである。 (4)ハウスマークであるか 引用商標2は、平易な書体で申立人を示す際に使用されている商標であり、ハウスマークである。 また、引用商標3「Giovanni Rana\RANA」は、商品・取引書類・広告・ウェブサイト・レストラン店舗など、申立人に係る事業全般において、申立人を示すために広く用いられている商標であり、ハウスマークである。 (5)多角経営の可能性 申立人は、申立人商品を製造販売するほか、我が国には店舗がないものの複数のレストランを運営している。 2012年に米国ニューヨークと英国ロンドンにレストランを開いたほか(現在は閉店)、現時点で、イタリア国内に直営店(トラットリア及びリストランテの形態)が18軒、間接的な運営店が5軒、ドイツに申立人の現地法人(RANA GmbH Germany)による直営店が1軒ある。 このような実情は、申立人が食品の製造販売以外の事業、例えば、我が国における「飲食物の提供」の役務を行う可能性を示すものである。 (6)商品と役務間の関連性 異議申立役務と、引用商標2ないし引用商標4に係る指定商品である食品類(パスタ、ラビオリ、詰め物をしたパスタ、パスタソース等)は、関係が深いと考える。 例えば、ラーメン、洋食、カレー、イタリア料理、中華料理などの分野における評判のよい有名店が食品メーカーとコラボレーションして同店の名前を冠した製品が生み出されるということがある。多くの店舗を運営する外食産業の企業が同人の店舗(ブランド)名を冠した製品を販売することもある(甲17)。また、餃子のように、実店舗では茹でたり焼いたりしたものを供しつつ、最終調理前の半製品を冷凍で全国発送などといったこともよく行われる。逆に、食品メーカーが自社商品の魅力を伝えたいとの目的や食材の可能性を広げたいとの意図などから、レストランやカフェなどの飲食店を運営する例も知られている(甲18)。 よって、「飲食物の提供」の役務と食品の間には、密接な関連性がある。 (7)商品等の需要者の共通性その他の取引の実情 異議申立役務の需要者は、外食をしたい一般の人々が広く該当する。引用商標2ないし引用商標4に係る第29類や第30類の商品の需要者もまた、広く一般の人々であるため、これらの商標が使用される商品等の需要者は、異議申立役務の需要者に共通する。 (8)小括 本件商標と引用商標2ないし引用商標4とは類似する商標であり、引用商標2ないし引用商標4は周知である。「RANA」の文字は、イタリア語由来であるため、我が国では造語と認識されるものであり、引用商標2及び引用商標3は申立人のハウスマークである。さらに、申立人には多角経営の可能性(特にレストラン経営の可能性)があり、異議申立役務と引用商標2ないし引用商標4の商品の間には密接な関連性があり、その需要者も共通する。 したがって、本件商標は、申立人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標である。 4 商標法第4条第1項第19号について (1)外国における需要者の間に広く認識されている商標 申立人は、1962年の創業以降、着実に成長し、現在ではイタリアにおいて生パスタ製品の売上実績1位となっている。また、ヨーロッパ各国においても生パスタ市場でのシェアは高く、スペイン41%、ドイツ21%、フランス35%、スイス13%、スウェーデン17%、ポルトガル68%、イギリス10%との数字がある。これらの全ての国において、シェア第1位である。従業員数は約3,500人、ヨーロッパと米国に合わせて8つの工場があり(甲20)、申立人商品を供給している。 2021年パスタ・スパゲティ業界の世界市場シェアの分析によると、申立人は、バリラ・グループに次いで、世界第2位のランキングに入っている(甲19)。そして、2022年の市場シェアにおいても、同様に2位と予測された。 また、「Food Community News」の2021年2月8日付けのウェブ記事(甲20)によると、「2012年に始まった米国での経験は、ヴェローナの会社を多国籍企業へと変貌させた。RANAが米国に参入してわずか6年で、米国における生パスタのカテゴリー全体が年間30%の成長を遂げた。この成功を証明するように、2018年には、IRIとボストン・コンサルティング・グループが2度にわたり米国市場で最も大きな成長を遂げている企業トップ5の1つとしてRANAを挙げている(甲20)。上記記事では、さらに、「トルテリーニの王様、ジョバンニ・ラーナが『We are all one big family』と語る有名なCMは、イタリア人ならだれもが覚えているはずだ。そして、それは現在も変わらない」(甲20)とも語られている。 2024年には、アメリカに本拠を置く世界最大のマーケティング調査会社であるニールセン・アイキュー(NielsenIQ)より、申立人の引用商標3が付された商品の1つの冷凍ラザニアが、イノベーション・アワード賞を受賞した(甲21)。当該受賞により、ニールセン・アイキューから申立人は、「これらの賞は、革新性、卓越性、消費者ニーズの鋭い理解を通じて、市場の分野を再定義した優れた製品を表彰するものです。各受賞者は、特定の消費者の課題や願望に対応する製品を提供することで目覚ましい成功を収めています。」と評価されている。 上記のほかに、申立人は、現在、イタリア国内において創業者「GIOVANNI RANA」の名(引用商標5)を冠するトラットリア(大衆的な雰囲気の家庭的なレストラン)の直営店を17軒、間接的に運営する店舗を5軒有する。これらは、ローマやミラノなどのショッピングモール内などに所在している(甲22)。また、申立人の本拠地であるヴェローナでは、「リストランテ・ファミリア・ラーナ」(Ristrante Famiglia Rana)という高級路線のレストランを運営している。イタリア国外については、ドイツのベルリンに同人の現地法人が運営するトラットリアが1軒ある(甲23)。かつては、英国ロンドン、ルクセンブルグ、米国ニューヨークにも同人のレストランがあった(甲24)。 上記実績に鑑みると、引用商標2をはじめ、引用商標は、申立人商品及びレストラン事業に関して、イタリア国内外において周知となっている。 (2)不正の目的 引用商標の中でも特に引用商標2及び引用商標3は、1以上の外国において周知な商標であり、本件商標は、これらの商標と同一又は類似である。また、引用商標に係る「RANA」は、イタリア語を知らない需要者には造語と認識されるものである。 また、申立人は我が国の市場にも既に進出しており、引用商標2ないし引用商標4を付した申立人商品が全国的に販売されている。この結果、イタリア本国やヨーロッパ各国、米国のみならず、我が国における需要者の間でも、引用商標や「RANA」の名は広く知られるに至っている。 申立人は、本件商標の権利者(以下「商標権者」という。)とは何らの関係も有しておらず、周知商標である引用商標と同一又は類似の商標を異議申立役務について使用又は登録することは許可していない。 よって、本件商標は、周知商標である引用商標を不正の目的をもって使用するものと推認できる。 (3)小括 本件商標は、申立人の業務に係る商品又は役務を表示するものとしてイタリア国内外における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用をするものといえる。 よって、本件商標は、仮に商標法第4条第1項第11号又は同項第15号に該当しないとしても、同項第19号に該当する。 5 むすび 本件商標は、その指定商品及び指定役務中、異議申立役務について、商標法第4条第1項第11号、同項第15号、同項第19号のいずれかに該当する。 第4 当審の判断 1 引用商標の周知著名性について 申立人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、申立人は、1962年3月にラーナ氏によって設立されたイタリアの法人で申立人商品を製造販売していること(甲3、甲4)、2015年及び2016年に撮影したとする我が国におけるスーパーの店舗での写真によると、商品の包装袋、店頭POP、店内ポスター、試食販売用ブース、販売員のエプロン等に引用商標2及び引用商標3が付されていること(甲9〜甲11、甲13)、2021年9月9日付けロイヤルホールディングス株式会社による申立人商品を使用した調理済み食品の紹介パンフレットには、引用商標3及び引用商標4が付されていること(甲17)、パスタ・スパゲティ業界の世界市場シェア分析のウェブサイト「deallab」によると、申立人は、パスタ業界の世界市場シェア(2021年)は、世界第2位のランキングに入っていること(甲19)、2023年には、「Giovanni Rana 冷凍ラザニア」が北米のニールセンIQブレークスルー・イノベーション・アワードを受賞したこと(甲21)及び申立人は、イタリア国内において引用商標5を冠するトラットリアの直営店を17軒、間接的に運営する店舗を5軒有し、ドイツにも申立人の現地法人が運営するトラットリアが1軒あり、過去には、英国、ルクセンブルク、米国にも申立人のレストランがあったこと(甲22〜甲24)は推認できる。 しかしながら、申立人は、申立人商品がヨーロッパ各国における生パスタ市場でのシェアは高く、スペイン41%、ドイツ21%、フランス35%、スイス13%、スウェーデン17%、ポルトガル68%、イギリス10%であり、これらの全ての国において、シェア第1位である旨主張するが、それを裏付ける証拠の提出はない。 また、「楽天市場」、「Mマート」及び「WORK−ITALIA」のウェブサイトには、商品「ラビオリ」の包装袋に引用商標4が付されている(甲14)が、当該ウェブサイトの掲載日は確認できない。 さらに、世界におけるパスタ業界において,「Giovanni Rana(ジョバンニラナ)」の2021年における世界市場シェアが2位であって(甲19)、メーカーとしての「Giovanni Rana(ジョバンニラナ)」がある程度知られているとしても、我が国及び外国における引用商標2ないし引用商標5を使用した申立人商品についての各国における売上高、市場シェアは確認できない。 加えて、引用商標2ないし引用商標5が使用された申立人商品が、我が国及び外国において販売された実績があることは認め得るとしても、申立人商品の我が国及び外国における周知性の度合いを客観的に判断するための証拠、すなわち、申立人商品の売上高、市場シェア並びに広告宣伝の方法及び回数などの状況を具体的に示す証拠は提出されていない。 そうすると、請求人の提出に係る証拠からは、引用商標が、請求人の業務に係る商品について使用する商標として、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国及び外国の取引者、需要者の間に広く認識されていたとは認めることができない。 2 本件商標と引用商標の類否について (1)本件商標について 本件商標は、別掲1のとおり、欧文字を筆記体風に表した図形からなるものであり、図案化の程度が著しく、特定の文字を認識させる構成態様とは認められないものである。 そして、本件商標が、我が国において特定の事物又は意味合いを表すものとして認識され、親しまれているというべき事情は認められないものである。 したがって、本件商標からは、特定の称呼及び観念は生じないものである。 (2)引用商標について ア 11号引用商標について 11号引用商標は、上記第2の1のとおり、「LA TRATTORIA DI GIOVANNI RANA MAESTRO PASTAIO」の欧文字を横書きしてなるものであるところ、その構成中、「LA TRATTORIA DI」の欧文字が「大衆向けの家庭的なレストラン」の意味を有し、「MAESTRO PASTAIO」の欧文字が「パスタ名人」の意味を有するイタリア語であることから、構成全体に相応した「ラトラットリアディジョバンニラナマエストロパスタイオ」の称呼のほか、その構成中の「GIOVANNI RANA」の欧文字のみを捉えて、これより「ジョバンニラナ」の称呼が生じるものである。 また、「LA TRATTORIA DI GIOVANNI RANA MAESTRO PASTAIO」の欧文字は、一般的な辞書等に掲載が認められないことから、特定の観念が生じないものである。 したがって、11号引用商標は、「ラトラットリアディジョバンニラナマエストロパスタイオ」又は「ジョバンニラナ」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。 イ 引用商標2について 引用商標2は、上記第2の2のとおり、「RANA」の文字を標準文字で表してなるから、その構成文字に相応して「ラナ」の称呼が生じるものである。 また、「RANA」の文字は、一般的な辞書等に掲載が認められないことから、特定の観念が生じないものである。 したがって、引用商標2は、「ラナ」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。 ウ 引用商標3について 引用商標3は、上記第2の3のとおり、黒色の台形様図形(以下「台形様図形」という。)内に、上段に小さく細字の白抜きで「Giovanni Rana」の欧文字を筆記体風に横書きしてなり、下段に大きく太字の白抜きで「RANA」の欧文字ゴシック体風に横書きしてなるところ、台形様図形は、欧文字の背景と容易に認識でき、また、下段の「RANA」の欧文字は上段の「Giovanni Rana」の欧文字よりも一際大きく表されていることから、引用商標3は本件商標との類否を判断するに当たって、「RANA」の欧文字を要部として抽出し、この部分のみを本件商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。 したがって、引用商標3は、その構成中の「RANA」の欧文字に相応して「ラナ」の称呼が生じ、上記イのとおり、「RANA」の文字は、一般的な辞書等に掲載が認められないことから、特定の観念が生じないものである。 エ 引用商標4について 引用商標4は、上記第2の4のとおり、二重の円輪郭線(以下「円図形」という。)内に、「PASTIFICIO」、「Giovanni Rana」、「RANA」、「L’ESPERIENZA」及び「IN CUCINA」の欧文字を5段に横書きしてなるところ、円図形は、欧文字の背景と容易に認識でき、また、3段目に記載の「RANA」の欧文字は他の欧文字よりも一際大きく太字で表されていることから、引用商標4は本件商標との類否を判断するに当たって、「RANA」の欧文字を要部として抽出し、この部分のみを本件商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。 したがって、引用商標4は、その構成中の「RANA」の欧文字に相応して「ラナ」の称呼が生じ、上記イのとおり、「RANA」の文字は、一般的な辞書等に掲載が認められないことから、特定の観念が生じないものである。 オ 引用商標5について 引用商標5は、上記第2の5のとおり、「GIOVANNI RANA」の文字を標準文字で表してなるから、その構成文字に相応して「ジョバンニラナ」の称呼が生じるものである。 また、「GIOVANNI RANA」の文字は、一般的な辞書等に掲載が認められないものであり、当該文字が一般に知られている語とはいい難いものであるから、これよりは、特定の観念は生じないものである。 したがって、引用商標5は、その構成文字に相応して「ジョバンニラナ」の称呼が生じ、特定の観念が生じないものである。 (3)本件商標と引用商標の類否について ア 外観について 本件商標と引用商標とを比較すると、本件商標は特定の文字を認識させない筆記体風の図形からなるものであり、引用商標は、それぞれ上記(2)のとおりの構成からなるものであるから、外観上、その印象は著しく相違し、判然と区別できるものである。 イ 称呼について 本件商標からは特定の称呼が生じないところ、11号引用商標からは「ラトラットリアディジョバンニラナマエストロパスタイオ」又は「ジョバンニラナ」の称呼が生じ、引用商標2からは「ラナ」の称呼が生じ、引用商標3及び引用商標4からはその要部から「ラナ」の称呼が生じ、引用商標5からは「ジョバンニラナ」の称呼が生じるものであるから、本件商標と引用商標とは、称呼上、相紛れるおそれはない。 ウ 観念について 本件商標と引用商標からは特定の観念が生じないから、観念において比較することはできない。 エ 判断 上記アないしウによれば、本件商標と引用商標は、外観において明らかに相違し、称呼において相紛れるおそれはなく、観念において比較することはできないものであるから、両者は、相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。 (4)小括 以上のとおり、本件商標は、引用商標と相紛れるおそれのない非類似の商標というべきものである。 3 商標法第4条第1項第11号該当性について 上記2のとおり、本件商標と11号引用商標とは、非類似の商標であるから、異議申立役務と11号引用商標の指定役務とが同一又は類似のものであるとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。 4 商標法第4条第1項第15号該当性について 上記1のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人又は申立人商品を表示するものとして我が国における需要者の間に広く認識されているものと認められないものであり、また、上記2のとおり、本件商標は、引用商標と相紛れるおそれのない非類似の商標であって別異の商標というべきものである。 そうすると、本件商標は、異議申立役務と申立人商品との関連性の程度、需要者の共通性などを考慮しても、商標権者が本件商標を異議申立役務について使用した場合、これに接する取引者、需要者が、引用商標を連想又は想起し、他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であると誤認し、その役務の出所について混同を生ずるおそれはないというべきである。 その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。 5 商標法第4条第1項第19号該当性について 上記1のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人又は申立人商品を表示するものとして我が国又は外国における需要者の間に広く認識されているものと認められないものであり、上記2のとおり、本件商標は、引用商標と相紛れるおそれのない非類似の商標であって別異の商標であり、上記4のとおり、本件商標は、引用商標を連想又は想起させるものでもない。 また、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、商標権者が、引用商標に化体した知名度にフリーライドするなど不正の目的をもって本件商標を使用するものと認めるに足りる証拠は見いだせない。 そうすると、申立人提出に係る証拠からは、商標権者が引用商標に化体した信用、名声、顧客吸引力を利用して不正の利益を得る目的、引用商標に化体した信用、名声、顧客吸引力を毀損させるなど申立人に損害を与える目的その他の不正の目的をもって使用をするものとはいえない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。 6 むすび 以上のとおり、本件商標の登録は、異議申立役務について、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号に違反してされたものではなく、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。 よって、結論のとおり決定する。 |
別掲 |
別掲1(本件商標) ![]() 別掲2(引用商標3) ![]() 別掲3(引用商標4) ![]() (この書面において著作物の複製をしている場合の御注意) 本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。 |
異議決定日 | 2024-09-02 |
出願番号 | 2023037335 |
審決分類 |
T
1
652・
222-
Y
(W43)
|
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
鈴木 雅也 |
特許庁審判官 |
岩谷 禎枝 馬場 秀敏 |
登録日 | 2023-11-28 |
登録番号 | 6757554 |
権利者 | 有限会社アーンジュコンパニョン |
商標の称呼 | ラナ、ラバ、ラウア |
代理人 | 小暮 理恵子 |
代理人 | 上田 ゆかり |
代理人 | 行田 朋弘 |
代理人 | 弁理士法人深見特許事務所 |