• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W2526
管理番号 1413561 
総通号数 32 
発行国 JP 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2024-08-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2023-02-15 
確定日 2024-07-16 
事件の表示 上記当事者間の登録第6613282号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第6613282号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第6613282号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおり「SPACEX」の文字と「spacex.co.jp」の文字を2段に書した構成よりなり、令和3年12月20日に登録出願され、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,キャミソール,ティーシャツ,和服,アイマスク,エプロン,靴下,ナイトキャップ,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類,げた,草履類,仮装用衣服,運動用特殊衣服(「水上スポーツ用特殊衣服」を除く。),水上スポーツ用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」及び「ウインドサーフィン用シューズ」を除く。),乗馬靴,ウインドサーフィン用シューズ」及び第26類「衣服用き章(貴金属製のものを除く。),衣服用バックル,衣服用バッジ(貴金属製のものを除く。),衣服用ブローチ,ワッペン,腕章」を指定商品として、同4年8月8日に登録査定、同年9月12日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が、本件商標の無効の理由において引用する商標及び標章は、以下の(1)ないし(3)の登録商標及び(4)の標章であり、(1)ないし(3)の登録商標の商標権は、いずれも現に有効に存続しているものである。
(1)登録第4718769号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の構成:SPACEX(標準文字)
指定役務:第39類「人工衛星の打ち上げ」
登録出願日:平成14年10月17日
優先権主張日:2002年9月16日(アメリカ合衆国)
設定登録日:平成15年10月17日
(2)登録第4801292号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の構成:SPACEX(標準文字)
指定商品:第9類「打ち上げ用ロケット,人工衛星,ロケット」
登録出願日:平成14年10月17日
優先権主張日:2002年9月16日(アメリカ合衆国)
設定登録日:平成16年9月10日
(3)登録第6047692号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の構成:SPACEX(標準文字)
指定商品及び指定役務:第9類、第38類及び第42類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務
登録出願日:平成29年8月21日
優先権主張日:2017年2月24日(トンガ王国)
設定登録日:平成30年6月1日
(4)請求人の製造販売に係る「ティーシャツ,長袖のティーシャツ,スウェットシャツ,ジャケット,パーカー,フード付きトップス,子供用トップス,子供用被服,ベビー服,帽子」などを表示する商標として外国及び日本国内において周知になっていると主張する別掲2のとおりの標章(以下「引用標章」という。)。
以下、引用商標1ないし引用商標3及び引用標章をまとめて「引用商標」ということがある。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると主張し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第20号証(枝番号を含む。)を提出した。
以下、証拠の記載に当たっては、「甲第○号証」を「甲○」のように省略して記載する場合があり、枝番号を全て記載するときは、枝番号を省略して記載する。
1 請求人について
請求人であるスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(英:Space Exploration Technologies Corp.)通称スペースX(SpaceX)は、ロケット・宇宙船の開発・打ち上げといった宇宙輸送(商業軌道輸送サービス)を業務とする、アメリカ合衆国の企業であり(以下「同社」ということがある。)、2002年に決済サービスベンチャー企業Paypalの創設者、イーロン・マスクにより設立され、本社はカリフォルニア州ホーソーンにあり、2000年代に多数創設された民間宇宙ベンチャーの一社であるが、新興企業にもかかわらず、低コストのロケットについて商業衛星市場で大きなシェアを獲得している(甲5〜甲8)。
同社はまず小型衛星を軌道投入するための2段式液体燃料ロケット「ファルコン1」で参入、2008年9月打ち上げに成功して民間企業として初めて液体燃料ロケットを軌道飛行させ、2010年にエンジン9基を備えた大型ロケット「ファルコン9」の打ち上げに成功し、同年12月には宇宙船「ドラゴン」を軌道飛行させた上で地球に無事帰還させるという快挙を遂げた。
また、「ドラゴン」は、2012年5月に国際宇宙ステーション(ISS)とドッキングして貨物を届けるという歴史的な成功を収め、同年8月、スペースシャトルの後継機となる有人飛行用宇宙船の開発でアメリカ航空宇宙局NASAと契約を結んだことを発表している。
さらに、同社は創業時から火星移住構想を掲げており、2016年にはそのための輸送システムであるインタープラネタリー・トランスポート・システム(後のスターシップ)を発表、一度に100人以上の乗客を運び、今後40年ないし100年で火星に100万人が住む都市を築くとの構想を明らかにしている。
2018年9月には、日本の実業家でZOZOTOWNを日本最大級のアパレル通販サイトとして急成長させたことでも知られるM氏が同社の最初の月周回飛行の乗員であることが発表され、この話題はマスコミに大きく取り上げられた。
2020年5月には、フロリダ州のケネディ宇宙センターで、NASA(アメリカ航空宇宙局)の宇宙飛行士2人を乗せた宇宙船クルードラゴンの打ち上げに成功した。
アメリカからの有人宇宙飛行は、2011年のスペースシャトル以来9年ぶりで民間企業が開発を主導した有人宇宙船が国際宇宙ステーション(ISS)に接続するのは初めてのことであった。
2021年4月には、同社の宇宙船クルードラゴンが日本人宇宙飛行士のH氏を乗せて国際宇宙ステーション(ISS)に運んでいる。
申立人事業(審決注:「請求人事業」の誤記と思われる。以下、同様の記載部分について「請求人」と読み替える。)は、下記のとおり、「民間企業初」、「世界初」といった事業が多いため、マスコミでも大きく取り上げられていることは周知の事実である。
ア 2002年 スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(英:Space Exploration Technologies Corp.)通称スペースX(SpaceX)設立
イ 2006年 アメリカ航空宇宙局NASAと契約(国際宇宙ステーション(ISS)物資補給のための打上げ機の設計とデモ飛行を行う商業軌道輸送サービス(COTS)について)
ウ 2008年 2段式液体燃料ロケット「ファルコン1」打ち上げに成功。 民間企業として初めて液体燃料ロケットを軌道飛行
エ 2010年 大型ロケット「ファルコン9」の打ち上げに成功/宇宙船「ドラゴン」を軌道飛行させた上で地球に無事帰還させる
オ 2012年 国際宇宙ステーション(ISS)とドッキンク事業成功/アメリカ航空宇宙局NASAと契約(有人飛行用宇宙船の開発について)
カ 2014年 アメリカ航空宇宙局NASAと契約(有人型のドラゴン宇宙船の開発とデモ飛行を行う宇宙飛行士の商業乗員輸送開発(CCDev)プログラムについて)
キ 2015年 世界初となる衛星打ち上げロケットの垂直着陸を達成
ク 2016年 火星移住のための輸送システム発表/米軍衛星打ち上げ市場に参入
ケ 2018年 2月 衛星通信サービス「スターリンク」の提供を開始/9月「月周回飛行の乗員」としてM氏が決定
コ 2020年 5月 民間企業として史上初となる有人宇宙船の打ち上げ並びにISSドッキングを成功
サ 2021年 惑星間宇宙飛行を見据えた超大型ロケット(宇宙船)のスターシップを開発中/4月 H飛行士らを乗せた宇宙船クルードラゴンが国際宇宙ステーションに到着/5月 国際宇宙ステーションからN飛行士らを乗せた宇宙船クルードラゴンがフロリダ沖の海に着水/9月 民間のみによる世界初の地球周回旅行開始/11月 国際宇宙ステーションからH飛行士らを乗せた宇宙船クルードラゴンがフロリダ沖の海に着水/2021年12月20日 本件商標出願
シ 2022年 2022年9月12日 本件商標登録/10月 日本国内において衛星通信サービス「スターリンク」提供開始(アジア初)/10月 W飛行士らを乗せた宇宙船クルードラゴンが国際宇宙ステーションに到着
一般社団法人「日本航空宇宙工業会」の「工業会活動」、2021年版「世界の宇宙産業動向」によると、「2021年の衛星製造実績に対する製造企業別シェア(SJAC調べ)」では、世界全体の衛星製造実績が1,448機のところ、請求人の通信衛星コンステレーションが998機を占めており、全体の69%のシェアを占めていることが分かる(甲8)。
2 引用商標の著名性について
上述のとおり、「SpaceX」は、請求人「スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ」の通称として広く使用されており、日本の主要新聞である朝日新聞・読売新聞・日経新聞においても請求人を示す語として何度も使用されている。例えば、朝日新聞において、2021年1月1日ないし2022年9月30日の間に47回掲載されていた(甲9)。また、2022年12月19日に日本経済新聞の検索サイトにおいて、請求人が期間を特定せずに記事を検索したところ、857件の記事がヒットした(甲10)。そして、これらのニュースは新聞のみならずテレビ・ラジオにおいても多数報道されており、需要者が目や耳にする機会が多いため本件商標の登録出願時に日本において周知であったことは明らかであり(甲9〜甲11)、継続して本件商標に関する様々なニュースが報道されているので、現在に至るまで継続して周知であるといえる(甲12)。
また、株式会社エヌアールディーテックは、令和3年12月17日に商標「SPACEX」を第26類「衣服用き章(貴金属製のものを除く。),衣服用バックル,衣服用バッジ(貴金属製のものを除く。),衣服用ブローチ,ワッペン,腕章」を指定して商標登録出願しているが、同4年5月13日付けの拒絶理由通知を受け、拒絶査定となっており(甲13)、特許庁の審査においても、商標「SPACEX」(スペースX)は、我が国の需要者の間においても広く認識されていると認定されている。
また、出願人は、世界各国で商標「SPACEX」を登録している(甲14)。
3 本件商標が無効とされるべき理由
(1)商標法第4条第1項第8号
上記のとおり、引用商標は、請求人の略称として長きにわたり使用され、請求人を表示するものとして著名な商標であり、本件商標の登録出願日には、既に著名な略称として需要者の間に浸透しており、その登録査定日においても浸透していたことは明らかである。
本件商標は、上段に「SPACEX」の英文字を大きく書し、下段に「spacex.co.jp」と小さく表示した構成よりなる商標であり、目立つ部分に大きく請求人の著名な略称である「SPACEX」の文字を配した構成よりなる商標であるから、商標法第4条第1項第8号の「著名な略称を含む商標」に該当し、商標登録されるべきではない。
また、「著名な略称」か否かを判断するには、常に、問題とされた商標の指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とすることは相当でなく、その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断されるべきものということができるとされた裁判例(最高裁平成16年(行ヒ)第343号同17年7月22日判決)がある。
本件もこれに従い、その略称である「SPACEX」が一般に受け入れられているかを基準に判断されるべきである。
そして、請求人の略称である「SPACEX」の文字は、請求人を示すものとして著名な商標であるから、本件商標は「著名な略称を含む商標」に該当し、無効理由を有している。
(2)商標法第4条第1項第10号
ア 日本における引用商標の周知性について
上記2に記載のとおりである。
イ 本件商標と請求人商標の類似性
上記のとおり、引用商標は請求人のハウスマークとして使用され、請求人を表示するものとして著名な商標である。そして、本件商標は、「SPACEX」の英文字を大きく中央に示し、その下に小さく「spacex.co.jp」と示した構成よりなる商標であるから、引用商標と類似するものであり、本件商標が本件指定商品について使用された場合には、その商品は請求人又は関連する企業の商品と誤認されるおそれがあることは明らかである。
そして、「SPACEX」の文字は、上述のとおり、当該商標登録の登録出願時においては、既に著名な商標として需要者に認識されており、現在まで引き続き著名商標である。
ウ 商品の出所の混同について
請求人は、平成23年頃より公式オンラインショップである「SHOP SPACEX」を通じて日本への商品販売を開始し、男性用被服23種類(甲15)、女性用被服18種類(甲16)、子供用被服13種類(甲17)、アクセサリその他雑貨(帽子含む)17種類(甲18)の計71アイテムを販売している。そして、当該公式オンラインショップでのメイン商品は被服であり、2023年1月27日現在において、全アイテム71点中61点が被服及び帽子であり、85.9%を占めており、これは、本件商標の指定商品と重なっているものである。
そして日本からの購入件数は500件以上、売上合計金額は10万ドルを超えている。
また、世界132か国以上から注文を受けて商品を販売しており、売上総額は3,000万ドルを超えている。
このほか、請求人の商品は、公式オンラインショップに加えて、米国のケネディースペースセンターギフトショップ、ハドソングループ(テキサス州ヒューストン)、スミソニアン博物館などで購入可能である。
このように、引用商標「SPACEX」及び「SPACEX(デザインあり)」は、請求人の製造販売に係る「ティーシャツ,長袖のティーシャツ,スウェットシャツ,ジャケット,パーカー,フード付きトップス,子供用トップス,子供用被服,ベビー服,帽子」などを表示する商標として既に外国及び日本国内において周知となっており、両商標は類似商標であり、互いの指定商品も同一又は類似のものであるから、商標法第4条第1項第10号に係る無効理由を有するものである。
また、商標審査基準には、「(イ)主として外国で使用されている商標の場合 主として外国で使用されている商標については、外国において周知であること、数か国に商品が輸出されること、又は数か国で役務の提供が行われていること」は十分に考慮して判断するとある。上述のとおり、請求人の商品(主に被服)は、世界132か国以上に販売されているので、十分に考慮して判断されるべきである。
エ 小括
以上のことから、本件商標は請求人の業務に係る商品を表示するものとして、需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似する商標であって、その商品と同一又は類似する商品について使用する商標というべきであるから、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第15号
ア 引用商標の周知性について
上記2に記載のとおりである。
イ 商品の出所混同について
上記のとおり、引用商標は請求人のハウスマークとして使用され、請求人を表示するものとして著名な商標であり、本件商標は「SPACEX」の英文字を大きく中央に示し、その下に小さく「spacex.co.jp」と示した構成よりなる商標であるから、引用商標と類似するものであり、本件商標が本件指定商品について使用された場合には、その商品は請求人又は関連する企業の商品と誤認されるおそれがある。
本件商標の指定商品は、第25類の被服など及び第26類の衣服用バッジなどであり、ビジネスの手法として「企業の主力事業において著名になった商標を被服に付して又はバッジとして販売する」というのは昔からよく取られている。
例えば、日本航空株式会社は日本で最も古い歴史を持つ航空運送事業を行う企業であるが、会社名の著名な略称であるJALのロゴが入った被服を販売し(甲19)、また、全日本空輸株式会社は、日本の国内規模最大の航空会社であるが、会社名の著名な略称であるANAの文字が入った被服を販売している(甲20)。
同様に、請求人も主力事業である宇宙開発において著名になった引用商標を被服に付して販売している(甲15〜甲18)。そして、本件商標は請求人の著名な通称である「SPACEX」の文字からなる商標であるため、これを被服に使用すれば、引用商標の著名性から「あの米国の宇宙開発企業である通称スペースX(SpaceX)社が販売している被服であろう」と需要者が考えるのは当然であり、本件商標の商品と引用商標の商品との出所の混同が生じるおそれがある。
商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある」場合とは、その他人と経済的又は組織的に何らかの関係があるものの業務に係る商品又は役務であると誤認し、その商品又は役務の需要者が商品又は役務の出所について混同する場合も含まれると解されている(レールデュタン事件 最高裁 平成12年7月11日第三小法廷判決)。
引用商標は請求人の会社の通称であり、また創造商標で辞書に掲載されていない造語であることから、非常に独自性が強く特徴的な商標である。そのため、本件商標に接した需要者が「請求人と少なくとも経済的又は組織的に何らかの関係があるものの業務に係る商品又は役務である」と誤認し、商品又は役務の出所について混同する可能性が非常に高いのは明らかである。
しかも、当該商標はハウスマークとして需要者・取引者によく知られており、請求人のウェブページ(甲7)・製品自体・取引書類などに常に付されて使用されるものでもある。
本件商標と引用商標が近似し、その商品も非常に密接な関連性を有するため、需要者の混同が生じているのは明白であり、この解消を図ることが商標法の目的にも合致する。
本件商標が使用されると、出所の混同が生じるおそれや、請求人から公認を受けているとの誤認あるいは、請求人の周知な引用商標の希釈化汚染化が生じるおそれがある。請求人の正当な利益を保護するためにも、本件商標の登録は無効とされるべきである。
ウ 小括
以上のことから、本件商標は引用商標の権利者の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあり、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第19号
ア 本件商標と引用商標の類似性及び引用商標の周知著名性について
上述のとおり、本件商標と引用商標は、外観、称呼及び観念のいずれにおいても紛らわしい点を有する同一又は類似商標である。
また、請求人が著名な起業家であるイーロン・マスクにより2002年に設立され、民間企業として初めての数々の事業を成し遂げた点から世界的にも注目されており、それらの偉業は世界中のマスコミが大々的に報道しているため、本件商標は請求人の社名の通称として世界的に著名であるのは明らかである。そのため引用商標の周知著名性はこれらの商標に化体しており、本件商標の登録出願時及び登録査定時においても、これらの商標は変わらず周知著名商標であったと考えるのが相当である。
不正の目的について
商標法第4条第1項第19号に関する商標審査基準の「3「不正の目的」に記述に照らし、本件商標について検討すると、本件商標は、少なくとも一以上の外国において周知な商標である引用商標と同一又は極めて類似するものであり、本件商標は辞書に掲載されている既存の言葉ではなく、造語よりなる。
したがって、本件商標は不正の目的をもって使用するものと推認することができる。
以上のことより、本件商標は、周知著名な引用商標に化体した名声、信用にただ乗り希釈化し、不正の利益を得る目的、他人たる請求人に損害を加える目的などの不正の目的をもって使用するものと解さざるを得ないものである。
ウ 小括
以上のことから、本件商標は、他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用するものであり、商標法第4条第1項第19号に該当する。
4 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当し、商標登録を受けることができないものであるから、本件商標は、同法第46条第1項第1号により無効とされるべきである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」と答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証を提出した。
本件商標は、被請求人が先に登録済の登録第6222450号商標「SPACEX」と保有しているドメイン「spacex.co.jp」で構成されている。
ドメインについては日本に登記登録を行っている法人しか取得できないものであり、一つの法人組織で一つしか「co.jp」ドメインを取得できないものとなっている。
以上のことから、本件商標は、被請求人独自のものであり、商標法第4条第1項第8号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当しない。

第5 当審の判断
請求人が本件審判を請求することについて利害関係を有することは、当事者間に争いがなく、また、当審は請求人が本件審判の利害関係を有するものと認める。
1 商標法第4条第1項第8号該当性について
(1)商標法第4条第1項第8号の趣旨
商標法第4条第1項第8号については、同号が「他人の肖像又は他人の氏名、名称、著名な略称等を含む商標は、その他人の承諾を得ているものを除き、商標登録を受けることができないと規定した趣旨は、人(法人等の団体を含む。以下同じ。)の肖像、氏名、名称等に対する人格的利益を保護することにあると解される。すなわち、人は、自らの承諾なしにその氏名、名称等を商標に使われることがない利益を保護されているのである。略称についても、一般に氏名、名称と同様に本人を指し示すものとして受け入れられている場合には、本人の氏名、名称と同様に保護に値すると考えられる。そうすると、人の名称等の略称が8号にいう「著名な略称」に該当するか否かを判断するについても、常に、問題とされた商標の指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とすることは相当でなく、その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断されるべきものということができる」と判示されている(最高裁平成16年(行ヒ)第343号同17年7月22日第二小法廷判決)。
(2)「スペースX」「SpaceX」及び「SPACEX」の各文字の周知著名性について
ア 請求人の提出に係る甲各号証及び同人の主張によれば、以下のとおりである。
(ア)請求人(スペース エクスプロレーション テクノロジーズ コーポレイション)は、2002年にイーロン・マスク氏により設立された、ロケット・宇宙船の開発・打ち上げなどの航空宇宙関連の業務を行うアメリカ合衆国の企業であり、複数のインターネット辞書において、請求人を表す通称として「スペースX」の文字及び「SpaceX」の文字が使用されている(甲5、甲6)。
請求人は、2008年9月に液体燃料ロケットの打ち上げに成功し、民間企業として初めて軌道飛行させて以降、2015年に衛星打ち上げロケットの世界初となる垂直着陸の達成、2020年に民間企業として史上初となる有人宇宙飛行の実施及び国際宇宙ステーション(ISS)とのドッキングに成功するなど、宇宙開発事業を現在まで継続して行っているところ、我が国の複数の一般的な新聞(朝日新聞、読売新聞及び日本経済新聞:2014年8月〜2023年1月)においては、請求人の宇宙開発事業に係る記事が度々取り上げられ、これらの記事中には、請求人を表す名称として「スペースX」の文字及び「SpaceX」の文字が多数使用されている(甲9〜甲12の4)。
(イ)一般社団法人「日本航空宇宙工業会」発行の「世界の宇宙産業動向(2021年版)」における「2021年の衛星製造実績に対する製造企業別シェア(SJAC調べ)」において、請求人は「SpaceX社」として表記され、2021年の衛星製造実績に対する製造企業別機数で1位であり、請求人の衛星製造実績は、全体の69%のシェアを占めている旨の記載がある(甲8)。
(ウ)請求人のオンラインショップの左上のアイコン、及び同サイトに掲載された商品「Tシャツ」「パーカー」「帽子」などには、「SPACEX」の文字からなる請求人を表すロゴ(引用標章:別掲2)が使用されている(甲15〜甲18)。
イ 上記(ア)ないし(ウ)で認定した事実によれば、請求人は、2002年にイーロン・マスク氏により設立された、ロケット・宇宙船の開発・打ち上げといった航空宇宙関連の業務を行うアメリカ合衆国の企業であって、通称は「スペースX」「SpaceX」であり、設立以来、本件商標の登録出願前から、液体燃料ロケットの打ち上げに成功し、民間企業として初めて軌道飛行させ、衛星打ち上げロケットの世界初となる垂直着陸を達成し、民間企業として史上初となる有人宇宙飛行の実施及び国際宇宙ステーション(ISS)とのドッキングに成功するなど、宇宙開発事業を現在まで継続して行ってきたこと、衛星製造の分野において、2021年時点において、製造企業別機数で1位、かつ、製造企業別シェア約70%の高いシェアを占めていたこと、本件商標の登録査定前の日付の我が国の複数の新聞において、同人の宇宙開発事業に係る記事が度々取り上げられ、当該新聞記事及び複数のインターネット辞書において、「スペースX」の文字及び「SpaceX」の文字が請求人を指し示す名称として用いられてきたことが認められるから、「スペースX」の文字及び「SpaceX」の文字は、2002年に設立された請求人の通称ないしハウスマークとして長年使用され、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る宇宙開発事業分野の商品・役務を中心に、我が国における需要者の間で広く認識されていたものといえる(以下、「スペースX」の文字及び「SpaceX」の文字をあわせて「請求人標章」という。)。
また、「スペースX」の文字及び「SpaceX」の文字の周知著名性に照らせば、「スペース」の片仮名部分を英語表記したにすぎず、つづりを共通にする「SPACEX」の文字は、請求人のオンラインショップの左上のアイコン、同人の業務に係る商品「Tシャツ」「パーカー」「帽子」などについて同人を表示するものとして「SPACEX」の文字からなる引用標章が使用されていることも併せて考慮すれば、我が国においても、請求人標章を指し示すものとして一般に受け入れられていたとみるのが相当であって、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人標章と同様に、請求人の著名な略称であったというべきである。
(3)本件商標の商標法第4条第1項第8号該当性について
本件商標は、別掲1のとおり、上段に顕著に書された「SPACEX」の文字を配し、下段に本件商標の文字部分より小さく「spacex.co.jp」の文字を配した構成からなるところ、「SPACEX」の文字及び「spacex」の文字を含むものとして認識し理解されるものである。
そして、上記(2)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、「SPACEX」は、請求人の著名な略称であったというべきであるから、本件商標に接した需要者は、本件商標の構成中の「SPACEX」、及びその小文字表記の「spacex」の文字部分から、請求人の著名な略称である「SPACEX」を認識するというのが相当である。
そして、被請求人が「SPACEX」及び「spacex」の使用につき、請求人の承諾を得たと認めるに足りる証拠はない。
そうすると、本件商標は、その登録出願時及び登録査定時において、請求人の著名な略称を含むものであって、かつ、被請求人は、本件商標の出願及び登録について、その承諾を得ていなかったものといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)本件商標と請求人標章との類似性の程度について
本件商標は、別掲1のとおりの構成からなるところ、上段に大きく書された「SPACEX」の文字及び下段に小さく書された「spacex.co.jp」の文字中の「spacex」の文字と、請求人標章を構成する「スペースX」の文字及び「SpaceX」の文字とは、いずれも「SPACE」「space」又は「スペース」と「X」の各文字を組み合わせた構成からなるものであって、そのつづりが共通し、また、その構成文字に相応して生じる「スペースエックス」の称呼も共通することからすれば、構成や文字種が異なるとしても、両者の類似性の程度は高いというべきである。
(2)請求人標章の周知著名性について
上記1(2)のとおり、請求人標章は、請求人の通称、ハウスマークとして長年使用され、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、宇宙開発事業分野の商品・役務を中心に、我が国における需要者の間で広く認識されているものである。
したがって、請求人標章の周知著名性の程度は高いといえる。
(3)その他の考慮要素について
本件商標の指定商品は、上記第1のとおり、第25類「洋服,ティーシャツ,帽子」を含む第25類及び第26類に属する商標登録原簿に記載の商品であるところ、請求人は同人のオンラインショップにおいて、本件商標の構成中「SPACEX(spacex)」の文字とつづりを同じくする「SPACEX」の文字からなる引用標章(別掲2)を商品「パーカー,ティーシャツ」(甲15〜甲17)、商品「帽子」(甲18)について使用していることから、両商標に係る商品間の関連性が認められる。
(4)混同を生ずるおそれについて
上記(1)ないし(3)によれば、本件商標と請求人標章との類似性の程度は高いこと、請求人標章はハウスマークでありその周知著名性は高いこと、また、請求人は「SPACEX」の文字からなる標章を、本件商標の指定商品中「洋服,ティーシャツ,帽子」に含まれる商品「パーカー,ティーシャツ,帽子」について実際に使用しており、商品間の関連性も認められることも考慮すれば、本件商標は、その指定商品に使用をされた場合、これに接する取引者及び需要者が、請求人標章を想起、連想し、当該商品が請求人又は同人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように商品の出所について混同を生じるおそれがあるものというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
3 被請求人の主張について
被請求人は、本件商標は、被請求人が保有している登録第6222450号商標「SPACEX」とドメイン名「spacex.co.jp」で構成され、ドメイン名については我が国に登記登録を行っている法人しか取得できないものであり、一つの法人組織で一つしか「co.jp」ドメインを取得できないものとなっているから、本件商標は被請求人独自のものである旨主張する(乙1)。
しかしながら、被請求人が、登録商標「SPACEX」とドメイン名「spacex.co.jp」を保有していた(乙1によれば、その登録年月日は、2018年10月12日である。)としても、上記1(2)のとおり、本件においては、請求人標章は2002年に設立された請求人の略称として長年使用され、本件商標の登録出願時及び登録査定時における、周知著名性が立証できるものであるから、被請求人の上記登録商標及びドメイン名の存在をもって、本件商標の上記無効理由の判断が左右されるものではない。
よって、被請求人の上記主張を採用することはできない。
なお、職権調査によれば、上記登録第6222450号商標については、商標法第50条第1項の規定による商標登録の取消し審判(審判番号2023−300119)により、その商標登録が取り消されている(令和5年8月4日確定)。
4 結論
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第8号及び同項第15号に該当し、同条第1項の規定に違反して登録されたものであるから、その他の無効理由について論及するまでもなく、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効にすべきである。
よって、結論のとおり審決する。

別掲

別掲1(本件商標)



別掲2(引用標章)




(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合の御注意) 本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。
審理終結日 2024-05-14 
結審通知日 2024-05-16 
審決日 2024-06-04 
出願番号 2021163633 
審決分類 T 1 11・ 23- Z (W2526)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 鈴木 雅也
特許庁審判官 馬場 秀敏
小田 昌子
登録日 2022-09-12 
登録番号 6613282 
商標の称呼 スペースエックス、スペース、スペースエックスドットシイオオドットジェイピイ、スペースエックスシイオオジェイピイ、スパセクス、スパセックス 
代理人 須永 浩子 
代理人 三好 秀和 
代理人 原 裕子 
代理人 森 太士 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ