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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項14号 種苗法による登録名称と同一又は類似 無効としない W45 |
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管理番号 | 1413427 |
総通号数 | 32 |
発行国 | JP |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2024-08-30 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2022-11-15 |
確定日 | 2024-06-04 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第6326055号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第6326055号商標(以下「本件商標」という。)は、「世界メシア教」の文字を横書きしてなり、令和元年5月28日に登録出願、第45類に属する商標登録原簿に記載の役務を指定役務として、同2年12月1日に登録査定、同月8日に設定登録されたものである。 第2 請求人が引用する標章 請求人が、本件商標の登録の無効の理由において、引用する標章は、「世界救世教」の文字(以下「請求人標章」という場合がある。)よりなり、請求人が、現在まで約70年間の長期間にわたり、継続的に、代表的出所標識として使用した結果、世界救世教の信徒の間のみならず、広く知られ、請求人を指し示すものとして広く一般に受け入れられていると主張するものである。 第3 請求人の主張 請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を、審判請求書及び令和5年1月12日付け審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)に対する同年8月1日付け審判事件弁駁書(以下「弁駁書」という。)において要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第28号証(枝番号を含む。)を提出した。 なお、以下、証拠の表記に当たっては、「甲(乙)第○号証」を「甲(乙)○」、「甲(乙)第○号証の1」を「甲(乙)○の1」のように簡略して表記する場合があり、枝番号のすべてを記載する場合は枝番号を省略する。 1 無効理由 本件商標は、その指定商品及び指定役務について、商標法第4条第1項第6号、同項第7号及び同項第15号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。 2 審判請求書による具体的無効理由 (1)請求の利益 本件商標は、「世界救世教」と相紛らわしく、請求人及び被請求人の間に存在する具体的な事実関係の下で、商標法第4条第1項第6号、同項第7号及び同項第15号に該当する商標である。 請求人の権威及び信用の尊重又は請求人との出所の混同を防いで需要者の利益を保護するという公益保護の観点から、請求人が本件商標に対して無効審判請求することについて利害関係を有することは、明白である。 (2)無効理由1(商標法第4条第1項第7号)について ア 当事者の関係性 (ア)世界救世教について 請求人は、静岡県熱海市桃山町26番1号所在の「世界救世教」であり、宗教活動、宗教団体の包括などの公益事業のほか、不動産賃貸業を行うことを目的として、文部大臣により規則の認証を得て昭和27年に成立した宗教法人である(甲2)。 なお、請求人は、宗教法人「日本観音教団(にほんかんのんきょうだん)」(昭和22年8月30日創立)及び宗教法人「日本五六七教会(にほんみろくきょうかい)」(同23年10月30日創立)を発展的に解散して創立されたものである。請求人は、静岡県熱海市桃山町26番1号所在の「世界救世教いづのめ教団」及び静岡県熱海市桃山町27番11号所在の「東方之光」の包括法人である(甲3)。 (イ)世界救世教主之光教団について 被請求人は、静岡県熱海市桃山町27番1号所在の「世界救世教主之光教団」であり、請求人の被包括法人として、宗教活動などの公益事業のほか、物品販売事業、出版事業、金銭貸付事業を行うことを目的として、平成11年に成立した宗教法人である(甲4)。 平成30年1月30日以降、被請求人は、請求人の被包括法人ではない。被請求人は、法人名として「世界救世教主之光教団」を使用し続けるとともに、令和2年2月4日から宗教活動につき「世界メシア教」の名称を使用している(甲5)。 なお、世界救世教の4代教主(以下「世界救世教4代教主」という。)は、平成30年6月24日に教主としての推戴を取り消されたが、その後も、現在も請求人の教主であるかのごとく「世界救世教四代教主」と称して(甲21)、また、併せて「世界メシア教」の教主であるとも称している。 (ウ)包括被包括関係の廃止について 請求人は、平成30年1月30日、被請求人において著しい教義違反の事実があることを理由に、被請求人との包括被包括関係を廃止した(甲6)。 なお、平成30年6月22日、請求人の理事会・責任役員会は、満場一致で世界救世教4代教主についての教主の推戴取消し(準委任契約の解除)を議決し、同月24日、推戴取消(準委任契約解除)の通知(意思表示)が世界救世教4代教主に到達したことにより推戴取消・準委任契約解除の効力が発生した(甲7)。 これにより、世界救世教4代教主は、世界救世教の教主ではなくなった。 これに対し、被請求人は、請求人に対して、包括被包括関係の廃止が無効であるとして静岡地方裁判所沼津支部に仮処分(保全処分)を申請したが(静岡地方裁判所沼津支部平成30年(ヨ)第11号)、同裁判所は、令和2年2月12日、同仮処分申請を却下する決定をした(甲8)。 その後、東京高等裁判所及び最高裁判所において、被請求人の主張が認められることなく、仮処分事件についての裁判所の判断は確定しており(東京高等裁判所令和2年(ラ)第497号、最高裁判所令和4年(ク)第436号、東京高等裁判所令和3年(ラ許)第569号、最高裁判所令和4年(ク)第437号)、請求人と被請求人の包括被包括関係の廃止は、事実上既に決着済みといえる(甲9〜甲11)。 イ 本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について (ア)商標法第4条第1項第7号の解釈について 商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合が含まれる。 (イ)「世界救世(メシヤ)教」について 請求人は、活発な活動により、国内外に多数の信徒を擁する我が国有数の宗教法人であり(甲12)、「世界救世教」の名称は、現在まで約70年間の長期間にわたり、請求人により継続的に、代表的出所標識として使用されているものであって、世界救世教の信徒の間のみならず、広く知られ、請求人を指し示すものとして広く一般に受け入れられているものである。 そして、請求人は、発足当時から自己の名称を「世界救世教」の文字に「めしや」や「メシヤ」のルビを付して表示すること及び「世界救世(メシヤ)教」と表示することがあり、請求人は「世界メシヤ教」としても知られている(甲3、甲13〜甲17)。 (ウ)請求人を連想・想起させることについて 本件商標は、「世界メシア教」の文字を横書きしてなり、「世界」、「メシア」及び「教」の各文字を結合した商標であることは容易に認識できる構成である。 そして、本件商標の構成中の「メシア」は「救世主」などを意味する用語であり、「メシア」の文字が「メシヤ」とも表現される場合もある(甲16、甲17)。 上記に加えて、請求人が、「世界救世教」の文字に「めしや」や「メシヤ」のルビを付して表示していることや、「世界救世教」の文字が現在まで約70年間にわたり、長期間、継続的に請求人の代表的出所標識として使用されていることを考慮すると、本件商標は、「世界救世教」すなわち請求人を容易に連想、想起させるものというのが相当である。 (エ)出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあることについて 被請求人は、請求人の被包括法人として、平成11年に成立した宗教法人であり(甲4)、本件商標の登録出願時に、「世界救世教」の権威、信用についても十分知る者である。 また、被請求人は、請求人及び被包括法人の宗教活動やその他の公益事業、公益事業以外の事業全般を知り得る立場にあったことから、請求人及びその被包括法人が、宗教活動などの公益事業のほかに教育業や出版業などの事業を行うことも熟知しており、少なくとも容易に理解できる者である。 加えて、本件商標の登録出願後も、被請求人は、「世界メシア教」という名称が請求人を想起させるものであり、その名称を使用することで社会において請求人との間に混交が生じることを十分に認識した上で、「世界救世教主之光教団」との法人名とは別に「世界メシア教」と称して宗教活動を行い(甲5)、推戴の取り消された4代目教主をホームページ上において、請求人の現役の教主であるかのごとく、また、同時に自己の教主であるかのごとく記載し、さらに、世界救世教4代教主の子息を「世界救世教教主補佐」と紹介している(甲5、甲21、甲22)。 このように、被請求人が、自らを「世界救世(メシア)教」と表示するほか(甲5)、請求人を指して「世界救世(メシヤ)教」と表示したり、「世界救世教」の文字に「メシヤ」のルビを付して表示してきたこと、また、既に教主の推戴を取り消された結果、教主ではなくなった世界救世教4代教主を「世界救世教教主」と紹介し、さらに、世界救世教4代教主の子息を「世界救世教教主補佐」と紹介していることを踏まえると(甲5、甲21、甲22)、被請求人は明らかに、一定の意図をもって請求人との混交・混同を生じさせているといわざるを得ない。 そして、この意図とはすなわち、請求人から包括関係を絶たれた被請求人として、請求人との混交・混同を積極的に図ることによって、自己の教団の維持・拡大を図ろうとするものであって、その点では被請求人において不適切な動機が存在しているといわざるを得ない。 本件商標は、これら不適切な動機に基づく混交・混同を生じさせる手段として、登録出願されたものといえる。 被請求人は、請求人が「世界救世(メシヤ)教」や「世界メシヤ教」などの商標について登録していないことを奇貨として、請求人との包括被包括関係が廃止された後である平成30年10月9日に本件商標の登録出願をしたものであることは明らかである。 かかる被請求人の登録出願は、ひょう窃したものといわざるを得ないものであって、加えて、被請求人は、その規則上及び登記簿上の名称が「世界救世教主之光教団」であるにもかかわらず、その正式な法人名とは全く異なる「世界メシア教」との名称を使用して宗教活動を行っているのであり(甲5)、その様な行為は明らかに宗教法人法第12条第1項第2号に反する違法行為であり(同条項号の「名称」は規則の必要的記載事項であり、かつ所轄庁の規則認証審査の対象である)、本件商標である「世界メシア教」は、正に被請求人の違法行為を構成している名称そのものであるから商標法第4条第1項第7号の「公の秩序または善良の風俗を害するおそれのある商標」であり、このことにも鑑みれば、本件商標の登録出願自体及び出願の経緯は社会的相当性を欠くことは明らかである。 そして、現に請求人と被請求人の包括被包括関係の廃止が事実上既に決着済みという状況にある以上、被請求人が請求人との関係において、本願商標を登録出願し登録することについて、正当な権利を有する者ともいい得ない。 (オ)商標法の予定する秩序に反することについて ところで、宗教法人法に基づき設立された宗教法人の名称は、公益に関する団体の名称であって(商標法第4条第1項第6号参照)、宗教法人の名称の権威や信用は、一般世人にも広く影響を与えるものである。 また、請求人は、現在も活発に活動を継続している国内外に多数の信徒を擁する我が国有数の宗教法人であり(甲12)、「世界救世教」の名称は、現在まで約70年間の長期間にわたり、請求人により継続的に、代表的出所標識として使用されていることを考慮すると、請求人の名称と相紛らわしい本件商標を被請求人に独占させることは、請求人と被請求人とを、請求人の信徒やその他宗教に関心のある者が誤信するおそれもあり、社会的な影響も大きいといわざるを得ない。 そして、請求人の信用を損なって得られる商標権者の偽の信用の維持を図るべきものではなく、むしろ、その毀損される請求人の信用の維持を図ることこそが商標法の予定する秩序というべきであるところ、その混交・混同によって需要者あるいは需要者となるべき者の利益が損なわれるものであるから、本件商標の登録を認めることは、商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ないものである。 本件は、宗教法人間の公益性の高い問題であって、歴史的に長く続く請求人の権威及び信用の尊重又は請求人との出所の混同を防いで需要者の利益を保護するという公益保護の観点で検討されるべきであるから、単に私人間の商標権の帰属等をめぐる私的な紛争として処理されるべきものではない。 なお、この点に関する異議2020−900022号決定の認定は明らかに誤ったものである。 (カ)小括 以上のとおり、請求人との包括被包括関係が廃止された後、被請求人が、その指定商品及び指定役務について「世界救世教」を容易に連想、想起させる本件商標を自己の商標として独占的に使用することは、上記の事情を総合的に勘案すると、公正な競業秩序を害し、社会公共の利益に反するおそれがあり、そのような本件商標に対して登録を与えることは、社会秩序や道徳的秩序に反する商標を、法が登録を与えて助長することがないようにする商標法第4条第1項第7号の規定の趣旨に反するものである。 したがって、本件商標の登録を認めることは、商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものである。 (3)無効理由2(商標法第4条第1項第6号)について 本件商標が商標法第4条第1項第6号に該当する具体的理由は、次のとおりである。 ア 「公益に関する団体であって営利を目的としないもの」であるか否かについては、当該団体の設立目的、組織及び公益的な事業の実施状況等を勘案して判断されるが、請求人は、宗教法人法に基づき設立された宗教法人であるから、「公益に関する団体であって営利を目的としないもの」である。 イ 「表示する標章」には、国等の正式名称のみならず、略称、俗称、シンボルマークその他需要者に国等を想起させる表示を含むところ、請求人は、発足当時から自己の名称を「世界救世教」の文字に「めしや」や「メシヤ」のルビを付して表示すること及び「世界救世(メシヤ)教」と表示することがあり、「世界救世教」と記載して「セカイメシヤキョウ」と称呼することも知られており(甲14〜甲17)、「セカイメシヤキョウ」と称呼する「世界救世教」との表示は、請求人を「表示する標章」に該当する。 ウ 「著名」の程度については、国等の権威、信用の尊重や国等との出所の混同を防いで需要者の利益を保護するという公益保護の趣旨に鑑み、必ずしも全国的な需要者の間に認識されていることを要しないものである。 請求人は現在まで約70年間の長期間にわたり活動を続け、我が国においても有数の宗教法人として知られるに至っているものであり、その間、「世界救世教」と記載して「セカイメシヤキョウ」と称呼することも広く知られるに至っており、そのような「セカイメシヤキョウ」との称呼も、請求人を示すものとして、「著名な標章」といえる。 エ 商標法第4条第1項第6号における類否は、国等の権威、信用の尊重や国等との出所の混同を防いで需要者の利益を保護するという公益保護の観点から、これら国等を表示する標章と紛らわしいか否かにより判断する。 本件商標は、「世界メシア教」の文字を横書きしてなるところ、本件商標は、「セカイメシヤキョウ」との称呼をも生じる「世界救世教」を容易に連想、想起させるものというのが相当であり、「世界救世教」との標章を使用して歴史的に長く続く請求人の権威及び信用の尊重並びに、請求人との出所の混同を防いで需要者の利益を保護するという観点からも、「セカイメシヤキョウ」との称呼をも生じる「世界救世教」の表示と相紛らわしく、類似するものである。 オ 以上よりすれば、本件商標は、商標法第4条第1項第6号の「公益に関する団体であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと類似の商標」に該当するものである。 (4)無効理由3(商標法第4条第1項第15号)について 本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当する具体的理由は、次のとおりである。 ア 請求人は、発足当時から自己の名称を「世界救世教」の文字に「めしや」や「メシヤ」のルビを付して表示すること及び「世界救世(メシヤ)教」と表示することがあり、請求人について、「世界救世教」と記載して「セカイメシヤキョウ」と称呼することも知られている(甲3、甲14〜甲17)。 本件商標は、「世界メシア教」の文字を横書きしてなるところ、本件商標は、「セカイメシヤキョウ」とも称呼する「世界救世教」を容易に連想、想起させるものというのが相当であり、「世界救世教」の表示と相紛らわしく、類似するものである。 イ 上記「セカイメシヤキョウ」とも称呼する「世界救世教」の表示は、発足当時から現在も使用されているものであるから、本件商標の登録出願の日より前から現在に至るまで、請求人の名称として広く知られているものであり、その周知著名性の程度は高く、独創性の程度も高い。 ウ 以上よりすれば、本件商標をその指定商品及び指定役務に使用するときは、これに接する需要者は、「セカイメシヤキョウ」との称呼をも生じる「世界救世教」を連想、想起し、あたかも、同人又は同人と組織的若しくは経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品又は役務であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれがある。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号の「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するものである。 3 弁駁書による主張 (1)単に私的な紛争ではないことについて ア 被請求人は、「請求人は、被請求人が請求人の被包括法人ではないと述べており、仮処分事件は請求人主張のとおり終結しているが、本訴は現在も静岡地方裁判所沼津支部に係属中であり、結論は出ておらず、現在係争中である」旨、及び「包括被包括関係の廃止を争う本訴は現在も静岡地方裁判所沼津支部に係属中であり、裁判の結論は出ておらず、現在係争中であるため、現時点では確定的に被請求人が請求人の被包括法人ではないということはできないし、世界救世教4代教主を「世界救世教 四代教主」ではないということもできない」旨主張する。 また、被請求人は、包括被包括関係の廃止に係る紛争につき、「被包括法人間における派閥争いに起因するものである」旨、「本件は、包括被包括関係にあった者の間における商標権の帰属等をめぐる問題であり、あくまでも当事者同士の私的な問題として解決すべき」旨、及び「本件包括被包括関係の廃止に関する係争は、派閥争いという私益を守るための極めて私的な争いに端を発するものであるから、そのような問題を公益保護の観点で検討されるべきというのは、極めて身勝手な理屈といわざるを得ない」旨主張する。 イ しかし、まず、被請求人が継続中であると主張する請求人を被告として被包括法人の地位にあることの確認等を求めていた上記訴訟(仮処分事件の本訴)については、既に令和5年6月28日、第一審(静岡地裁沼津支部)判決の言渡しがなされ、被請求人が請求人の被包括法人でないことが確認された(甲26)。 この訴訟については被請求人が控訴を提起した模様であるが、提訴から5年を越える審理を経て出された結論であり、また、仮処分事件では同支部及び東京高裁、最高裁と4年を経た審理により本訴と同様の争点を有する被請求人の申請が却下されたものであり、今後、この本訴第一審の結論が覆る可能性は非常に少ないものと思われる。 いずれにせよ、被請求人は、請求人が「世界救世(メシヤ)教」や「世界メシヤ教」などの商標について登録していないことを奇貨として、請求人との包括被包括関係が廃止された後である平成30年10月9日に本件商標の登録出願をしたものであることは明らかである。 そもそも、本件審判は、請求人との包括被包括関係が廃止された後、被請求人が、「世界救世教」を容易に連想、想起させる本件商標を自己の商標として独占的に使用することが穏当ではないことに起因するものである。 加えて、宗教法人法に基づき設立された宗教法人の名称は、公益に関する団体の名称であって、宗教法人の名称の権威や信用は、一般世人にも広く影響を与えるものであるから、本件審判は、宗教法人間の公益性の高い事案であって、歴史的に長く続く請求人の権威及び信用の尊重又は請求人との出所の混同を防いで需要者の利益を保護するという公益保護の観点で検討されるべきであるから、単に私人間の商標権の帰属等をめぐる私的な紛争として処理されるべきものではない。 (2)異議2020−900022号事件について ア 異議2020−900022号事件において、異議決定は、知財高裁平成19年(行ケ)第10391号事件(以下「コンマー事件」という。)を根拠として示した上で、「本件商標については、その出願は申立人が商標権者との包括被包括関係を廃止した後にされたものであるが、包括被包括関係にあった者の間における商標権の帰属等をめぐる問題であり、あくまでも当事者同士の私的な問題として解決すべきであって、「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合には該当しないものと判断するのが相当である・・・本件が当事者同士の私的な問題であることは、申立人が、商標権者は包括被包括関係の廃止への対抗手段として本件商標の登録出願を行ったなどと述べていることからも裏付けられる」と判断した。 被請求人は、上記異議決定を強調し、「包括被包括関係廃止の問題も、派閥争いという私益を守るための極めて私的な争いに端を発する私的な紛争であるから、あくまでも当事者同士の私的な問題として解決すべきであって、「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合には該当せず、商標法の予定する秩序に反するものとはいえない」と主張する。 イ しかし、上記異議決定において拠り所とするコンマー事件において、裁判所は、(ア)原告と被告との間の紛争が当事者間の関係性や過去の経緯から純粋な私的領域における全くの私人間の紛争であること、(イ)審決が商標法第4条第1項第7号を基礎づける具体的な事実の認定をしていないこと、(ウ)原告の本件商標が商標法第4条第1項第10号、同項第15号、同項第19号に該当するものであることなどを総合的に考慮して、当事者間の登録第4750115号商標の商標登録無効審判事件についてされた平成19年10月12日付け審決に対し、審決取消しの判決をしたものである(甲27)。 上記裁判所は、「被告が、法4条1項7号、同項10号、同項15号、同項19号に該当することを理由として、本件商標の無効審判請求をしたのに対し、審決が法4条1項7号に該当するとの判断をした点において、誤りがあると解するものである」としたものであり、商標法第4条第1項第7号以外の適切な無効理由があることを判断した事案であって、同項第7号該当性をめぐるあらゆる事案に適合するものではない。 これを受けて、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものを理由に、登録第4750115号の登録を無効とする審決をしている(甲28)。 ウ すなわち、上記登録第4750115号商標の登録をめぐる問題は、当事者間に存在する過去の経緯から全く私人間の紛争と認定できたこと、商標法第4条第1項第10号、同項第15号、同項第19号に該当する無効理由が存在していたことなどを理由に、同項第7号に該当しないとして審決を取り消した事案であって、少なくとも、コンマー事件の当事者をめぐる紛争は、本件審判のように、宗教法人法に基づき設立された宗教法人間の紛争、すなわち、公益に関する団体の名称をめぐる紛争ではないため、そもそも、前提となる事実関係が明らかに相違するものである。 そうすると、本件審判においてコンマー事件の判断枠組みにつき、事案の相違を全く考慮することなく、本件審判にそのまま当てはめること自体失当であり、被請求人が、異議決定やコンマー事件の判断を強調して、本件審判についても、単に私人間の商標権の帰属等をめぐる私的な紛争として処理すべきとすることは、当を失するというほかない。 (3)「世界救世教」を連想、想起させることについて ア 被請求人は、「世界救世教」の文字に「メシヤ」のルビを付して表示していることに関し、発足当時のみの表示であり、65年以上もそのような表示を行っていないことを理由に、本件商標が請求人を連想・想起させることがない旨、繰り返し主張する。 イ しかし、請求人は、国内外に多数の信徒を擁する我が国有数の宗教法人であり(甲12)、「世界救世教」の名称は、現在まで約70年間の長期間にわたり、請求人により継続的に、代表的出所標識として使用されているものであって、世界救世教の信徒の間のみならず、広く知られ、請求人を指し示すものとして広く一般に受け入れられているものである。 また、請求人は、発足当時から自己の名称を「世界救世教」の文字に「めしや」や「メシヤ」のルビを付して表示すること及び「世界救世(メシヤ)教」と表示することがあり、請求人は「世界メシヤ教」としても知られている(甲3、甲13〜甲17)。 そして、本件商標は、「世界メシア教」の文字を横書きしてなり、「世界」、「メシア」及び「教」の各文字を結合した商標であることは容易に認識できる構成であり、本件商標の構成中の「メシア」は「救世主」などを意味する用語であり、「メシア」の文字が「メシヤ」とも表現される場合もある(甲16、甲17)。 上記を考慮すると、本件商標は、「世界救世教」すなわち請求人を容易に連想、想起させるものというのが相当である。 なお、請求人は、商標を部分的に捉えて、「メシア(メシヤ)」の文字から「救世」を連想、想起する旨主張しているわけではなく、あくまでも「世界メシア教」の文字からなる本件商標からは、「世界救世教」を容易に連想、想起できる旨を主張しているものである。 (4)その他 ア 被請求人は、「宗教団体の名称は変更されることが多く、請求人も昭和10年大日本観音会、同11年大日本健康協会、同22年日本観音教団、同23年日本五六七協会との変遷をたどってきたわけであるが(乙1)、請求人の理屈であれば、請求人が大昔に僅かな期間使用してきたにすぎないそれらの名称についても第三者は商標登録を受けることができないという、極めて不合理な事態が生じ得ることになる」旨主張する。 イ しかし、請求人は、宗教団体の名称が変更されること自体を問題としているわけではなく、「世界メシア教」の文字からなる本件商標からは、長年継続的に使用されている「世界救世教」を容易に連想、想起できることなどを理由に、本件商標につき商標登録を受けることができない旨主張しているのであって、被請求人の主張は、的外れな主張といわざるを得ない。 第4 被請求人の答弁 1 答弁の趣旨 被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を答弁書において要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第24号証を提出した。 2 答弁の理由 (1)「世界メシア教」の採択に至る経緯と包括被包括関係について 被請求人は、履歴事項全部証明書(甲9)に示すとおり、平成11年6月15日に設立された宗教法人であり、教主である世界救世教4代教主の祖父(明主様)を教祖と仰ぎ、教義を広め、儀式行事を行い、信者を強化育成して、その他教団の目的を達成するために必要な業務及び事業を行う団体である。 請求人である「世界救世教」は、被請求人である「世界救世教主之光教団」、「世界救世教いづのめ教団」及び「東方之光」の包括法人であるが、実際の宗教活動はそれぞれの被包括法人が担っており、「世界救世教 教規」の第28条に記載されているとおり、それぞれの被包括法人の信徒は自動的に請求人の信徒となる仕組みになっている(乙1)。 なお、請求人は、被請求人が請求人の被包括法人ではないと述べており、仮処分事件は請求人主張のとおり終結しているが、本訴は現在も静岡地方裁判所沼津支部に係属中であり、結論は出ておらず、現在係争中である。 この包括被包括関係の廃止に関する係争は、「世界救世教」に関するものであり、「世界メシア教」の登録商標の無効審判事件とは無関係であるが、誤解の生じないように概要を簡単に説明すると、被包括法人である東方之光及び世界救世教いづのめ教団が結託して、それぞれの被包括法人から推薦された請求人の理事らが、自らの意向に沿わない被請求人と世界救世教4代教主を「世界救世教」から排斥すべく、請求人と被請求人の包括被包括関係を廃止する決議を行い、自らが主導する脱宗教化、反教主化による実質的な「一つ教団」を達成しようとしていたというものである(甲8、甲9)。 当時、「世界救世教」は、教主派と東方之光派に分かれており、被請求人は教主派であったが、もう一つの被包括法人である世界救世教いづのめ教団は、代表役員であり教主派だった者の死亡により、世界救世教いづのめ教団の東方之光派に内在していた反教主派が表面化して東方之光に同調し、包括被包括関係の廃止の決議及び世界救世教4代教主の「推戴の取り消し」を行った。 当該紛争は、被包括法人間における派閥争いに起因するものである。 各被包括法人は、教主が定める教義を守る点では共通しているが、それぞれ運営するウェブサイトに記載されているとおり、それぞれ教義の解釈や信仰活動の内容に異なるところがあり、信徒は「世界救世教」に入信するというよりは、それぞれの被包括法人の教義や信仰活動の内容を考慮し、入信する被包括法人を選択しているという実情がある。 例えば、東方之光では、「浄霊」、「自然農法・自然食」、「美術文化」を3大事業(救いの手段)としている(乙2)。 世界救世教いづのめ教団は、人間の霊性・心・身体を総合的に向上させていく道を求めて、「浄霊」、「自然食」、「美を楽しむ」といった活動の他、環境浄化にも取り組んでいる(乙3)。 他方、被請求人は、これらの教団とは「浄霊」に対する考え方が大きく異なる(乙4)。 このように、被請求人は、世界救世教主之光教団として活動し、当該名称でウェブサイトも運営してきたが、世界救世教主之光教団とは異なる標識を用いて宗教活動を行うことを取り決め、その新しい名称として、請求人を含む他の宗教団体で使用されていない「世界メシア教」の名称を採択し、図形のロゴマークも請求人とは異なるものを採択した(乙5)。 名称については、世界救世教4代教主の祖父が大切にしていた「メシヤ」の文字が「世界救世教」の発足当時のみ使用され、キリスト教を想起させることを理由に同氏の死亡後の昭和32年(1957年)以降全く使用されないようになった現状を憂い、「メシヤ」と同義の「メシア」の文字を含む「世界メシア教」の名称で新たに宗教活動を行っていくことを取り決めた(乙6)。 そして、被請求人は、「世界メシア教」の名称からなる商標を登録出願し、令和元年12月13日付けで商標登録を受け、当該名称の使用に問題が生じないことを確認してから、同2年2月4日より「世界メシア教」の名称の使用を開始した(乙7)。 請求人が世界救世教4代教主の推戴を取り消した以後、そのことが許し難いとして、世界救世教いづのめ教団における教主派の信徒の多くが、反教主派に反発し、教主の教導を信奉する被請求人の教団に移籍したこともあって、被請求人の信徒数は増加し、令和4年6月15日に執り行われた「メシア降誕本祝典」では、約1万人の信徒が出席した(乙8)。 (2)「世界メシア教」の登録出願・登録と商標登録異議の申立てについて 被請求人は、平成30年10月9日付けで「世界メシア教」の文字からなる本件商標を登録出願し、令和元年12月13日付けで本件商標は商標登録を受けた。 当該商標登録出願の審査経過においては、請求人が主張する商標法第4条第1項第7号に該当することを理由とする拒絶理由通知を受けたものの、世界救世教4代教主の祖父が「世界救世教」を開教した昭和25年当初は、「世界救世教」の「救世」を「メシヤ」と呼んで使用することがあったが、その呼び名が使用されていたのは同32年までの僅かな期間であり、同年には「世界救世教」の呼び名は「セカイキュウセイキョウ」に改められ、以後、現在に至るまでの65年以上もの間「セカイメシヤキョウ」の呼び名は一切使用されていない旨意見書で説明し、拒絶理由は解消された。 本件商標に対しては、請求人から商標法第4条第1項第7号を理由とする商標登録異議の申立てがなされている(異議2020−900022)。 しかしながら、この異議事件に関しては、取消理由の通知が発せられることもなく、令和2年10月7日付けで本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当するものではないとの異議の決定がなされ、同年11月27日付けで異議の決定公報が発行されている(乙9)。 この異議の決定の要旨は以下のとおりである。 ア 出願人と、本来商標登録を受けるべきと主張する者との関係を検討して、例えば、本来商標登録を受けるべきであると主張する者が、自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず、登録出願を怠っていたような場合や、契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず、適切な措置を怠っていたような場合は、出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、そのような場合にまで「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない(知財高裁平成19年(行ケ)第10391号)。 イ 本件商標については、その登録出願は申立人が商標権者との包括被包括関係を廃止した後にされたものであるが、包括被包括関係にあった者の間における商標権の帰属等をめぐる問題であり、あくまでも当事者同士の私的な問題として解決すべきであって、「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合には該当しないものと判断するのが相当である。 ウ 本件が当事者同士の私的な問題であることは、申立人が、商標権者は包括被包括関係の廃止への対抗手段として本件商標の登録出願を行ったなどと述べていることからも裏付けられる。 エ 他に本件商標が「指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合」や「当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合」など、商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するというべき事情は見いだせない。 オ したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものといえない。 この異議申立事件においては、包括被包括関係にあった者の間における商標権の帰属等をめぐる問題は当事者同士の私的な問題として解決すべきであって、「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合には該当しないと判断されている。 なお、取消理由の通知が発せられることもなかったため、被請求人からの意見書や証拠を提出することもなく商標登録維持の決定がなされている。 (3)請求人の主張について ア 無効理由1(商標法第4条第1項第7号)について (ア)当事者の関係性についての主張 請求人は、被請求人との包括被包括関係を廃止し、被請求人は請求人の被包括法人ではないと述べ、また、世界救世教4代教主については教主の推戴取消しを議決し、世界救世教の教主ではなくなった現在も請求人の教主であるかのごとく「世界救世教四代教主」と称している旨述べている。 しかしながら、包括被包括関係の廃止を争う本訴は現在も静岡地方裁判所沼津支部に係属中であり、裁判の結論は出ておらず、現在係争中であるため、現時点では確定的に被請求人が請求人の被包括法人ではないということはできないし、世界救世教4代教主を「世界救世教四代教主」ではないということもできない。 (イ)「世界救世(メシヤ)教」についての主張 請求人は、発足当時から自己の名称を「世界救世教」の文字に「めしや」や「メシヤ」のルビを付して表示すること及び「世界救世(メシヤ)教」と表示することがあり、請求人は「世界メシヤ教」としても知られている旨述べている。 しかしながら、世界救世教4代教主の祖父が「世界救世教」を開教した昭和25年(1950年)当初は、「世界救世教」の「救世」を「メシヤ」と呼んで使用することがあったが、その呼称が使用されていたのは昭和32年(1957年)までの僅かな期間であり、昭和32年には「世界救世教」の呼称は「セカイキュウセイキョウ」に改められ、以後、現在に至るまでの65年以上もの間「セカイメシヤキョウ」の呼称は一切使用されていないから、請求人は「世界メシヤ教」として知られていない。 この事実は、以下の辞書類や書籍等の記載からも明らかである。 a 請求人である世界救世教が編集し、昭和56年2月23日に発行された書籍「東方之光」において、「なお、建物の名は、昭和三二年(一九五七年)三月、教団の名が世界救世教(振り仮名:せかいきゅうせいきょう)と改められるとともに、救世会館(振り仮名:きゅうせいかいかん)となったのである。」と記載されている(乙10)。 b 請求人提出の甲第13号証の資料9「世界救世教ガイドブック」の215頁において、「昭和32年6月15日 世界救世(きゅうせい)教と呼称を改める」と記載されている。 c 「新宗教・教団・人物事典」において、「世界救世教」に「せかいきゅうせいきょう」のルビを振り、「昭和25年日本観音教団と日本五六七教会を発展的に解消して宗教法人・世界救世(メシヤ)教、32年世界救世(きゅうせい)教。」と記載されている(乙11)。 d 請求人提出の甲第14号証と同じ「新宗教事典」の「世界救世教」の項目では、「世界救世教」に「せかいきゅうせいきょう」のルビを振り、「昭和25年日本観音教団と日本五六七教会を発展的に解消して宗教法人・世界救世(メシヤ)教、32年世界救世(きゅうせい)教。」と記載されている(乙12)。 e 請求人提出の甲第16号証と同じ「日本大百科全書」の「世界救世教(せかいきゅうせいきょう)」の項目では、「50年に改組して世界メシヤ教とし、のちに世界救世教と改称」と記載されている(乙13)。 f 「地上天国1992年増刊号」において、「昭和32年(1957年)6月15日世界救世(メシヤ)教から世界救世(きゅうせい)教に呼称変更」と記載されており、また、「まず世界救世(メシヤ)教の名称を世界救世(きゅうせい)教と変更され、・・・」とも記載されている(乙14)。 g 請求人編集の「幸福への道シリーズ・第三集」において、「世界救世教」に「せかいきゅうせいきょう」の振り仮名が記載されている(乙15)。 h 請求人編集の「地上天国(昭和35年発行)」において、請求人の教団の歌「神柱」の歌詞が掲載されており、楽譜に「世界救世教」の部分を「せかいきゅうせいきょう」と記載している(乙16)。 i デジタル大辞泉(goo辞書)において、「せかい−きゅうせいきょう〔−キウセイケウ〕【世界救世教】」と記載されており、「・・・第二次大戦後、一時メシヤ教とよばれたことがある。」と説明されている(乙17)。 この「メシヤ」の文字を使用しなくなったことには大きな理由がある。「メシヤ」、「メシア」の文字は、キリスト教で救世主としてのイエスに用いる敬称であることから(乙18)、当時の世界救世教の信徒の中には世界救世教がキリスト教の一派であるような誤解を招くのではないかと考える者もおり、そのような理由から、世界救世教4代教主の祖父の死亡後間もない昭和32年には、「セカイメシヤキョウ」の呼称を使用することは止め、呼称を「セカイキュウセイキョウ」に改めたとされている(乙6)。 このため、昭和32年以後は、「セカイメシヤキョウ」の呼称は一切使用されていない。 請求人が上記主張を裏付ける証拠として提出する甲第3号証、甲第13号証ないし甲第17号証については、いずれも発足当時の呼称を記載しているにすぎず、現在の使用状況を示す証拠とはいえないものであるが、加えて、甲第13号証ないし甲第17号証についてはいずれも30年程前に出版されたものであり、現在の使用状況を示す証拠として有効なものとはいえない。 甲第3号証は、世界救世教4代教主の祖父が昭和25年に「世界救世(メシヤ)教」を発足させたという昭和25年当時の呼称を示すにすぎず、甲第13号証における資料の「世界救世教」に「メシヤ」のルビが振られているという記載については、いずれも上記と同じ発足当時の呼称を示すにすぎず、その他の資料及び甲第14号証、甲第15号証に関しては「メシヤ教」の使用に関しての記載があるのみで、「世界救世教」を「セカイメシヤキョウ」と呼んで使用している事実を示す証拠ではないし、乙第17号証のとおり、発足当時の名称が「世界救世(メシヤ)教」であったことに起因して、発足当時そのように呼ばれたことがあるにすぎない。 特に、甲第14号証に関しては、乙第12号証のとおり、「世界救世教」の項目では、「世界救世教」に「せかいきゅうせいきょう」のルビを振り、「昭和25年日本観音教団と日本五六七教会を発展的に解消して宗教法人・世界救世(メシヤ)教、32年世界救世(きゅうせい)教。」と記載されている。 また、甲第16号証は「世界メシア教」について「世界救世教」を参照するように導く項目であるが、乙第13号証のとおり、同じ日本大百科全書の「世界救世教」の項目において、「50年に改組して世界メシヤ教とし、のちに世界救世教と改称」と記載されている。甲第16号証ではさも「世界メシヤ教」=「世界救世教」のように印象付けるために、不利な扱いを受ける「世界救世教」の項目の該当頁(乙13)は証拠提出していないが、実際は、昭和32年の変更前に「世界メシヤ教」が使用されていたことを示すにすぎない。 甲第17号証に関しては、「世界メシア教」の記載はあるが、その他の辞書類や書籍の記載から、これは発足当時の名称が「世界救世(メシヤ)教」であったことに起因して、補足説明にその発足当時の呼称を紹介しているだけにすぎないことが推察される。 なお、こちらも記載の終わりに「1996」と記載されており、1996年頃の情報であるから、現在の使用状況を示す証拠として有効なものとはいえない。 (ウ)請求人を連想・想起させることの主張について 請求人は、本件商標の構成中の「メシア」が「救世主」を意味する用語であり、請求人が「世界救世教」の文字に「メシヤ」のルビを付して表示していること等を考慮すると、本件商標は、「世界救世教」すなわち請求人を容易に連想、想起させる旨主張する。 しかしながら、請求人が「世界救世教」の文字に「メシヤ」のルビを付して表示していることに関しては、発足当時のみの表示であり、65年以上もそのような表示を行っていないのであるから、本件商標が請求人を連想・想起させることはあり得ない。 また、請求人が述べるとおり「メシア」は「救世主」や「キリスト」を意味する語であり、「世の人々を救う人物」を意味する語として親しまれているところ(乙18)、「世界救世教」における「救世」の文字は「世の人々を苦しみの中から救うこと。仏・菩薩の通称。観世音菩薩のこと。」を意味する語として親しまれており(乙19)、「メシア」と「救世」は世の人々を救う「人物」と「こと」という大きな違いがあることに加え、「メシア」がキリスト教を想起させる語であるのに対して、「救世」は仏教を想起させる語であるため、連想・想起させる意味合いは明確に全く異なるものである。 したがって、本件商標が「世界救世教」すなわち請求人を連想、想起させることはない。 (エ)登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあるとの主張について 請求人は、被請求人が「世界メシア教」という名称が請求人を想起させ、混交が生じることを十分に認識した上で、「世界メシア教」と称して宗教活動を行い、ホームページ上において、世界救世教4代教主を請求人の現役の教主であるかのごとく記載し、世界救世教4代教主の子息を世界救世教教主補佐と紹介していることを理由に、被請求人が一定の意図をもって請求人との混交・混同を生じさせており、自己の教団の維持・拡大を図ろうとし、不適切な動機に基づく混交・混同を生じさせる手段として本件商標は登録出願されたものである旨主張する。 しかしながら、昭和32年には「世界救世教」の呼称は「セカイキュウセイキョウ」に改められ、以後、現在に至るまでの65年以上もの間「セカイメシヤキョウ」の呼称は一切使用されていないのであるから、「世界メシア教」という名称が請求人を想起させ、混交が生じるという認識を被請求人が有しないことは明らかである。 また、被請求人が「世界メシア教」と称して宗教活動を開始したのは「世界メシア教」について商標登録を受け、請求人との間で混交・混同は生じないことを確認した後のことである。 さらに、包括被包括関係の廃止に関しては現在も本訴が裁判所に係属中であり、係争中であるから、被請求人が被包括法人の立場で世界救世教4代教主を世界救世教の教主であると紹介したり、世界救世教4代教主の子息を世界救世教教主補佐と紹介することを理由に、被請求人が請求人との間に混交・混同を生じさせる意図を有しているということはできない。 そもそも、実際に宗教活動を行っているのは各被包括法人であり、被請求人の教団に入信する信徒は、被請求人の教団の信仰や教義に魅力を感じて入信するのであるから、混交・混同は生じ得ない。 また、被請求人は、東方之光が主導権を握る現世界救世教との間で混交・混同が生じるのは不本意であることから、被請求人が運営するホームページにおいて、信徒向けに積極的に混交・混同防止のための情報提供を行っている。 具体的には、「世界救世教の現状」というページを設け、令和3年5月12日の「自称世界救世教の方々の文書について」という表題の書面では、全信徒に向けて現状を説明し、世界救世教のもとに行きたい信徒がいれば、一日も早くそのようにされるようお勧めするとまで記載している(乙20)。 他方、請求人においても、信徒向けの通知書面において、「既に皆様がご存知のとおり、主之光教団は、その名称を「世界メシア教」に変更し、明主様のみ教えとは全く異なる「教義」をもって活動を始めています。このことは、かつての主之光教団は全く別の宗教団体に変質したということを意味し、・・・」と記載し(乙21)、自ら「世界メシア教」が「世界救世教」とは全く別の宗教団体に変質したと述べており、「世界メシア教」が「世界救世教」とは全く別の宗教団体として認識されることを自認している。 さらに、請求人から被請求人宛ての通知書においても、被請求人の名称を「世界メシア教こと世界救世教主之光教団」と記載し、あえて「世界メシア教」の名称を含む宛名を使用している(乙22)。 「世界メシア教」が「世界救世教」と混交・混同を生じると本気で考えているのであれば、このような宛名は使用しないはずである。 加えて、被請求人が本件商標を採択し、登録出願した理由は、「メシヤ」の文字が「世界救世教」の発足当時のみ使用され、キリスト教を想起させることを理由に世界救世教4代教主の祖父の死亡後の昭和32年(1957年)以降全く使用されないようになった現状を憂いて、「メシヤ」と同義の「メシア」の文字を含む「世界メシア教」の名称で新たに宗教活動を行っていきたいと考えたところにある。 よって、被請求人が自己の教団の維持・拡大を図ろうとし、不適切な動機に基づく混交・混同を生じさせる手段として本件商標を登録出願したものでないことは明らかであるから、本件商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあるということはできない。 (オ)宗教法人法に反するとの主張について 被請求人は、被請求人の登記簿上の名称が「世界救世教主之光教団」であるにもかかわらず、異なる「世界メシア教」の名称を使用して宗教活動を行っているから、宗教法人法第12条第1項第2号に反する違法な行為である旨主張する。 しかしながら、宗教法人法第12条第1項第2号には、柱書に「宗教法人を設立しようとする者左に掲げる事項を記載した規則を作成し、その規則について所轄庁の認証を受けなければならない。」と記載があり、同項第2号として「名称」と指定されているだけで、請求人の主張には何ら根拠がない(乙23)。 他の宗教団体をみても、宗教団体の法人名と使用する標識、商標が異なる事例は枚挙に暇がない。 例えば、お寺の名称は宗教団体の標識、商標として機能するものであるが、その運営を行う宗教法人の名称が異なる事例は多数ある。 一例として挙げると、大阪にある「清水寺」を運営する宗教法人の名称は「清光院」である(乙24)。 したがって、被請求人が「世界メシア教」の名称を使用して宗教活動をおこなうことが宗教法人法第12条第1項第2号に反する違法な行為であるとの請求人の主張は失当である。 (カ)商標法の予定する秩序に反するとの主張について 請求人は、宗教法人の名称は公益に関する団体の名称であり、その権威や信用は一般世人にも広く影響を与えることを理由に、請求人の名称と相紛らわしい本件商標を被請求人に独占させることは、請求人と被請求人とを誤信させるおそれがあると述べ、商標権者の偽の信用の維持を図るべきではなく、既存される請求人の信用の維持を図ることこそが商標法の予定する秩序であり、その混交・混同によって需要者の利益が損なわれるから、本件商標の登録を認めることは、商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ない旨主張する。 しかしながら、そもそも本件商標は「世界救世教」と全く異なる商標であり、請求人を連想・想起させることはないし、上述(イ)のとおり、長年誰にも使用されていなかった商標であるから、需要者あるいは需要者となるべき者が誤信してしまい、利益が損なわれるような事態は生じ得ない。 むしろ、数十年以上も前に僅かな期間使用されていたことを理由に、長年誰も使用していない名称について、第三者が商標登録できないことになれば、僅かな期間形だけの商標の使用の体裁を取り繕うだけで、第三者の商標登録を防止できることとなり、先願主義を採用している我が国の商標法の制度趣旨に反することとなるから、商標法の予定する秩序にも反することとなる。 例えば、宗教団体の名称は変更されることが多く、請求人も昭和10年大日本観音会、同11年大日本健康協会、同22年日本観音教団、同23年日本五六七教会との変遷をたどってきたわけであるが(乙11)、請求人の理屈であれば、請求人が大昔に僅かな期間使用していたにすぎないそれらの名称についても第三者は商標登録を受けることができないという、極めて不合理な事態が生じ得ることになる。 また、請求人は、宗教法人の名称が公益に関する団体の名称であることを理由として、本件は宗教法人間の公益性の高い問題であると述べ、公益保護の観点で検討されるべきであるから、単に私人間の商標権の帰属等をめぐる私的な紛争として処理されるべきものではないと主張する。 しかしながら、上述の異議の決定でも説示されているとおり、本件は、包括被包括関係にあった者の間における商標権の帰属等をめぐる問題であり、あくまでも当事者同士の私的な問題として解決すべきであって、「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合には該当しないものと判断すべきである。 特に、本件包括被包括関係の廃止に関する係争は、派閥争いという私益を守るための極めて私的な争いに端を発するものであるから、そのような問題を公益保護の観点で検討されるべきというのは、極めて身勝手な理屈といわざるを得ない。 したがって、そもそも本件商標は「世界救世教」と全く異なる商標であり、請求人を連想・想起させることはなく、長年誰にも使用されていなかった商標であるから、本件商標の登録を認めることは商標法の予定する秩序に反するものとはいえないし、包括被包括関係廃止の問題も、派閥争いという私益を守るための極めて私的な争いに端を発する私的な紛争であるから、あくまでも当事者同士の私的な問題として解決すべきであって、「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合には該当せず、商標法の予定する秩序に反するものとはいえない。 (キ)まとめ 商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、a その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、b 当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、c 他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、d 特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、e 当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきであり(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号)、請求人の主張は、eを理由として商標法第4条第1項第7号に該当するというものである。 しかしながら、異議2020−900022の決定で説示されているとおり、先願主義を採用している我が国の商標法の制度趣旨などからすれば、商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されないというべきであり、特段の事情があるか否かの判断に当たっても、出願人と、本来商標登録を受けるべきと主張する者との関係を検討して、例えば、本来商標登録を受けるべきであると主張する者が、自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず、出願を怠っていたような場合や、契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず、適切な措置を怠っていたような場合は、出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、そのような場合にまで「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない(知財高裁平成19年(行ケ)第10391号)。 上述してきたとおり、包括被包括関係の廃止の問題は、派閥争いという私益を守るための極めて私的な争いに端を発する私的な紛争であるから、あくまでも当事者同士の私的な問題として解決すべきであって、「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合には該当しない。 また、本件商標の出願に至る経緯についても、被請求人は、「メシヤ」の文字が「世界救世教」の発足当時のみ使用され、キリスト教を想起させることを理由に世界救世教4代教主の死亡後の昭和32年(1957年)以降全く使用されないようになった現状を憂い、「メシヤ」と同義の「メシア」の文字を含む「世界メシア教」の名称で新たに宗教活動を行っていくことを取り決めたのであるから、出願の経緯に社会的相当性を欠くものとはいえず、むしろ、請求人との混交・混同を回避するために本件商標を出願し、商標登録を受け、問題がないことを確認した後に使用を開始したものである。 さらに、「世界救世教」に「メシヤ」とルビを振った商標が、65年以上もの間使用していなかったとはいえ請求人にとって重要な商標だというのであれば、上記のとおり自らすみやかに登録出願すべきであったところ、それを怠っていたのであるから、先願主義を採用している我が国の商標法の制度趣旨からすれば、本件商標について実際に使用の意思を有し、最先の出願人となった被請求人が商標登録を受けることは、「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合には該当しない。 しかも、「メシア」と「救世」が連想・想起させる意味合いは明確に全く異なることから、本件商標が、請求人の商標「世界救世教」を連想・想起させることはないし、請求人が「世界救世教」の文字に「メシヤ」のルビを付して表示していることに関しては、発足当時のみの表示であり、65年以上もそのような表示を行っておらず、本件商標が請求人を連想・想起させることはあり得ないから、被請求人による本件商標の登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとはいえない。 したがって、被請求人による本件商標の登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとはいえないし、そもそも「世界救世教」を連想・想起させることのない本件商標は、商標法第4条第1項第7号の「公の秩序や善良な風俗を害するおそれがある商標」には該当しない。 イ 無効理由2(商標法第4条第1項第6号)について 請求人は、「世界救世教」の文字に「めしや」、「メシヤ」のルビを付して表示すること及び「世界救世(メシヤ)教」と表示することがあり、「世界救世教」と記載して「セカイメシヤキョウ」と称呼することも知られていると述べた上で、当該名称や称呼が請求人を示すものとして「著名な標章」といえることを理由に、本件商標は、「世界救世教」の表示と相紛らわしく、商標法第4条第1項第6号の「公益に関する団体であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと類似の商標」に該当する旨主張する。 しかしながら、請求人が「世界救世教」の文字に「めしや」、「メシヤ」のルビを付して表示すること、「世界救世(メシヤ)教」と表示すること及び「世界救世教」と記載して「セカイメシヤキョウ」と称呼することに関しては、発足当時のみの表示や称呼であり、65年以上もそのような表示や称呼することを行っていないのであるから、当該表示や称呼が著名であるとはいえない(乙10〜乙17)。 また、「セカイキュウセイキョウ」とのみ称呼する「世界救世教」の表示に関しては、「メシア」と「救世」が連想・想起させる意味合いは明確に全く異なるものであるから(乙18、乙19)、本件商標が、請求人の商標「世界救世教」を連想・想起させることはなく、外観・称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれはない非類似の商標であるといえる。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第6号の「公益に関する団体であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと類似の商標」には該当しない。 ウ 無効理由3(商標法第4条第1項第15号)について 請求人は、「世界救世教」の文字に「めしや」、「メシヤ」のルビを付して表示すること及び「世界救世(メシヤ)教」と表示することがあり、「世界救世教」と記載して「セカイメシヤキョウ」と称呼することも知られていると述べた上で、「セカイメシヤキョウ」と称呼する「世界救世教」の表示が発足当時から現在も使用され、請求人の名称として広く知られており、その周知・著名性の程度が高いことを理由に、本件商標は、「世界救世教」を連想、想起させ、あたかも、同人又は同人と組織的若しくは経済的に何らかの関係がある者の業務に係る役務であるかのように、その出所について混同を生じるおそれがあり、商標法第4条第1項第15号の「他人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当する旨主張する。 しかしながら、請求人が「世界救世教」の文字に「めしや」、「メシヤ」のルビを付して表示すること、「世界救世(メシヤ)教」と表示すること及び「世界救世教」と記載して「セカイメシヤキョウ」と称呼することに関しては、発足当時のみの表示や称呼であり、65年以上もそのような表示や称呼することを行っていないのであるから、「セカイメシヤキョウ」と称呼する「世界救世教」の表示が周知、著名であるとはいえない(乙10〜乙17)。 また、「セカイキュウセイキョウ」とのみ称呼する「世界救世教」の表示に関しては、「メシア」と「救世」が連想・想起させる意味合いは明確に全く異なるものであるから(乙18、乙19)、本件商標が、請求人標章「世界救世教」を連想、想起させることはなく、同人又は同人と組織的若しくは経済的に何らかの関係がある者の業務に係る役務であるかのように、その出所について混同を生じるおそれはない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号の「他人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがある商標」には該当しない。 第5 当審の判断 請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係を有する者であることについては、当事者間に争いがないので、本案に入って審理し、判断する。 1 本件商標と請求人標章の類似性の程度について (1)本件商標について 本件商標は、上記第1のとおり、「世界メシア教」の文字を横書きしてなるところ、その構成文字は、同書、同大でまとまりよく一体に表されているものである。 また、本件商標の構成文字より生じる「セカイメシアキョウ」の称呼は、よどみなく一連に称呼し得るものである。 そして、「世界メシア教」の文字は、一般の辞書等に載録されている語ではなく、当該文字が、一連で、何らかの特定の意味合いを需要者、取引者に認識させるものではない。 したがって、本件商標は、「世界メシア教」の文字に相応して「セカイメシアキョウ」の称呼を生じ、特定の観念は生じないものである。 (2)請求人標章について 請求人標章は、上記第2のとおり、「世界救世教」の文字よりなるところ、その構成文字は、全て漢字でまとまりよく一体に表されているものである。 また、請求人標章の構成文字より生じると認められる「セカイキュウセイキョウ」の称呼は、よどみなく一連に称呼し得るものである。そして、「世界救世教」の文字は、デジタル大辞泉(goo辞書)(乙17)によると、「せかい−きゅうせいきょう〔−キウセイケウ〕【世界救世教】」の見出しの下、「昭和10年(1935)もと大本教(審決注:「大本」には「おおもと」のルビが付されている。)の信者岡田茂吉が、観音の霊力による独自の信仰治療を中心として創始した新宗教。病・貧・争のない地上天国を築くことを使命とし、そのモデルとして瑞雲郷(熱海)・神仙郷(箱根)を建設した。第二次大戦後、一時メシア教とよばれたことがある。」と記載されていることから、新宗教の名称の観念を生じるものである。 したがって、請求人標章は、「世界救世教」の文字に相応して「セカイキュウセイキョウ」の称呼を生じ、新宗教の名称の観念が生じるものである。 なお、請求人は、「世界救世教」の表示は、「セカイメシヤキョウ」の称呼をも生じる旨主張するが、「世界救世教」の文字は、「セカイキュウセイキョウ」の称呼のみ生じると判断するのが自然であり、当該文字に接する需要者、取引者がこれを「セカイメシヤキョウ」と称呼するとはいえない。 そして、デジタル大辞泉(goo辞書)(乙17)にも記載があるとおり、過去にメシア教と呼ばれていたとしても、被請求人の提出した証拠(乙10〜乙17)によると、「世界救世教」を「メシア教」と表示したのは65年以上前のことであるとすると、一般世人はもとより、「世界救世教」の信者においても、「世界救世教」の文字を「セカイメシヤキョウ」と称呼するとはいい難いものである。 (3)本件商標と請求人標章の類似性の程度について 本件商標は「世界メシア教」の文字よりなり、請求人標章は「世界救世教」の文字よりなるところ、本件商標は6文字で構成され、請求人標章は5文字で構成されていることから、全体の構成文字数が相違し、また、本件商標の3文字ないし5文字目の「メシア」と請求人標章の3文字目及び4文字目の「救世」の文字が相違するため、本件商標と請求人標章は、外観が相違することから、相紛れるおそれはない。 また、本件商標の構成文字に相応して生じる「セカイメシアキョウ」の称呼と請求人標章の構成文字に相応して生じる「セカイキュウセイキョウ」の称呼とは、構成音数が相違するのみならず、本件商標と請求人標章の中間部における「メシア」の音と「キュウセイ」の音が明らかに相違するため、容易に聴別することができるものである。 さらに、本件商標は、特定の観念を生じないものであるから、新宗教の名称の観念を生じる請求人標章とは相紛れるおそれはない。 してみれば、本件商標と請求人標章とは相紛れるおそれのない非類似の商標及び標章といわなければならない。 そうすると、本件商標と請求人標章とは、称呼、外観及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標及び標章であり、別異の商標及び標章といい得るから、類似性の程度は低いというべきである。 2 請求人標章の周知著名性について (1)請求人提出の証拠及び請求人の主張によれば、以下のとおりである。 ア 請求人提出の甲第12号証によると、「世界救世教」の国外の信徒数が、令和4年11月の時点で、約1,147,900名(計31か国)、国内の信徒数が、同2年12月の時点で454,415名とのことであるが、他の宗教法人の信徒数との客観的な比較ができないため、信徒数の多寡について判断することができない。 イ 請求人は、「世界救世教」の名称は、現在まで約70年間の長期間にわたり、請求人により継続的に、代表的出所標識として使用されているものであって、世界救世教の信徒の間のみならず、広く知られ、請求人を指し示すものとして広く一般に受け入れられている旨主張するが、新宗教事典や百科事典等に「世界救世教」の文字が載録されていること(甲14〜甲17)、「世界救世教」の信徒に対し会誌(甲21〜甲25)を発行していることは認められるものの、「世界救世教」の信徒や宗教に関心を有する者以外の一般の需要者が接する一般誌、雑誌及び書籍等において、「世界救世教」に関する広告を頻繁に掲載したような事実は確認できず、その他、我が国における宣伝広告費及び宣伝地域、また、パンフレットやカタログ等の頒布期間、頒布地域及び頒布数等を証明する証拠は何ら提出されていないため、「世界救世教」は、その信徒や宗教に関心を有する者の間においては知られているとしても、それ以外の需要者の間で、請求人を指し示すものとして広く認識されているとはいい難いものである。 ウ その他、請求人標章を表示した商品及び役務について、本件商標の登録出願時及び登録査定時における我が国における売上高、市場占有率等を客観的に認識し得る証拠は提出されておらず、本件商標の登録出願時及び登録査定時における請求人標章の周知著名性の度合いを客観的に判断するための証拠の提出はない。 (2)判断 上記(1)を総合すると、請求人標章は、請求人が提出した証拠によっては、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、「世界救世教」の信徒や宗教に関心を有する者の間では知られているとしても、「世界救世教」の信徒や宗教に関心を有する者以外の我が国の一般の需要者の間に広く知られていると認めることはできない。 3 本件商標の登録出願の経緯が社会的相当性を欠くこと及び被請求人の不正の目的の有無について 請求人は、本件商標は、正に被請求人の違法行為を構成している名称そのものであるから商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」であり、このことにも鑑みれば、本件商標の登録出願自体及び出願の経緯は社会的相当性を欠くことは明らかである旨主張する。 また、請求人は、同人との包括被包括関係が廃止された後、被請求人が、その指定商品及び指定役務について「世界救世教」を容易に連想、想起させる本件商標を自己の商標として独占的に使用することは、上記の事情を総合的に勘案すると、公正な競業秩序を害し、社会公共の利益に反するおそれがある旨主張する。 しかしながら、本件商標「世界メシア教」は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字ではなく、上記1のとおり、本件商標と請求人標章とは、相紛れるおそれのない非類似の商標及び標章であり、別異の商標及び標章といい得るものであり、類似性の程度は低いというべきである。 また、上記2のとおり、請求人標章は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、我が国において、「世界救世教」の信徒や宗教に関心を有する者以外の我が国の一般の需要者の間に広く知られていると認めることはできない。 そうすると、被請求人が、本件商標をその指定商品及び指定役務について、自己の商標として独占的に使用しても、請求人標章を連想、想起させることはなく、公正な競業秩序を害し、社会公共の利益に反するおそれもない。 さらに、被請求人が、本件商標を登録出願し、登録査定を受けたことが、違法に当たると判断すべき事情もない。 加えて、被請求人が、請求人に対し、請求人標章の使用の差し止め請求や、不当な金額での買い取り請求等を行った事実は確認できない。 そうすると、本件商標の登録出願の経緯が社会的相当性を欠くとはいえず、また、被請求人が、本件商標を登録出願し、登録査定を受けたことについて、被請求人に不正の目的があったと判断することができない。 4 無効理由1(商標法第4条第1項第7号)について (1)商標法第4条第1項第7号の解釈について 商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、ア その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、イ 当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、ウ 他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、エ 特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、オ 当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号)。 (2)本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について 上記3のとおり、本件商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字ではなく、上記1のとおり、本件商標と請求人標章とは、相紛れるおそれのない非類似の商標及び標章であって、別異の商標及び標章といい得るものであり、その類似性の程度は低いというべきである。 また、上記2のとおり、請求人標章は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、請求人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、我が国において、「世界救世教」の信徒や宗教に関心を有する者以外の我が国の一般の需要者の間に広く知られていると認めることはできない。 そうすると、被請求人が、本件商標をその指定商品及び指定役務について、自己の商標として独占的に使用しても、請求人標章「世界救世教」を連想、想起させることはまく、公正な競業秩序を害し、社会公共の利益に反するおそれもない。 また、本件商標が、他の法律によって、使用等が禁止されていることも確認することができず、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反するような特別な事情も存在しない。 さらに、被請求人が、請求人に対し、請求人標章の使用の差し止め請求や、不当な金額での本件商標の買取り請求等を行った事実は確認できないことからすると、本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合には該当しない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するというべき事情は見いだせないから、商標法第4条第1項第7号に該当しない。 5 無効理由2(商標法第4条第1項第6号)について (1)商標法第4条第1項第6号について 商標法第4条第1項第6号には、商標登録を受けることができない商標として、「国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であって営利を目的としないもの又は公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと同一又は類似の商標」が規定されている。 そして、商標法第4条第1項第6号の規定は、同号に掲げる団体の公共性にかんがみ、その権威を尊重するとともに、出所の混同を防いで需要者の利益を保護しようとの趣旨に出たものであり、同号の規定に該当する商標、すなわち、これらの団体を表示する著名な標章と同一又は類似の商標については、これらの団体の権威を損ない、また、出所の混同を生ずるものとみなして、無関係の私人による商標登録を排斥するものであると解するのが相当である(知財高裁 平成20年(行ケ)第10351号)。 (2)本件商標の商標法第4条第1項第6号該当性について 宗教法人法によれば、「宗教団体」とは、宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを主たる目的とする団体をいい、「宗教法人」とは、同法により法人となった宗教団体をいい、宗教法人は、公益事業を行うことができるとされている(同法第2条、第4条及び第6条)。 そうすると、請求人及び被請求人は、公益に関する団体であって営利を目的としないものに相当し、それら団体が行う活動は公益に関する事業であって営利を目的としないものに相当するといえる。 しかしながら、上記2のとおり、請求人標章は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、請求人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、我が国において、「世界救世教」の信徒や宗教に関心を有する者以外の我が国の一般の需要者の間に広く知られていると認めることはできない。 また、上記1のとおり、本件商標と請求人標章とは相紛れるおそれのない非類似の商標及び標章である。 そうすると、本件商標と請求人標章は、公益に関する団体であって営利を目的としないもの又は公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する商標及び標章であるとしても、請求人標章は、著名なものとはいえず、本件商標と請求人標章とは相紛れるおそれのない非類似の商標及び標章であるから、本件商標は、「国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であって営利を目的としないもの又は公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと同一又は類似の商標」には該当しない。 6 無効理由3(商標法第4条第1項第15号)について (1)請求人標章の周知著名性について 上記2のとおり、請求人標章は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、請求人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、我が国において、「世界救世教」の信徒や宗教に関心を有する者以外の我が国の一般の需要者の間に広く知られていると認めることはできない。 (2)本件商標と請求人標章との類似性の程度について 上記1のとおり、本件商標と請求人標章とは、相紛れるおそれのない非類似の商標及び標章であり、別異の商標及び標章といい得るから、類似性の程度は低いというべきである。 (3)本件商標の指定商品及び指定役務と請求人の業務に係る商品及び役務との関連性、需要者の共通性について 本件商標と請求人標章は、いずれも、公益に関する団体であって営利を目的としないもの又は公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する商標及び標章であるとすると、本件商標の指定商品及び指定役務と請求人の業務に係る商品及び役務は、密接な関連性を有するものといえ、需要者の範囲も共通にするといえる。 (4)出所の混同のおそれについて 上記(1)ないし(3)のとおり、請求人標章は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、我が国における「世界救世教」の信徒や宗教に関心を有する者以外の我が国の一般の需要者の間に広く知られていると認めることはできないものであって、本件商標と請求人標章とは、相紛れるおそれのない非類似の商標及び標章であり、別異の商標及び標章といい得るものである。 また、その類似性の程度は低いというべきであるから、本件商標の指定商品及び指定役務と請求人の業務に係る商品及び役務は、密接な関連性を有するものといえ、需要者の範囲も共通にするとしても、本件商標に接する需要者が、請求人又は請求人標章を連想又は想起することはなく、その商品及び役務が請求人あるいは請求人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品及び役務の出所について混同を生ずるおそれはないと判断するのが相当である。 その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情も見いだせない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。 7 むすび 以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第6号、同項第7号及び同項第15号のいずれにも違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合の御注意) 本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。 |
審理終結日 | 2023-08-30 |
結審通知日 | 2023-09-05 |
審決日 | 2023-09-21 |
出願番号 | 2019074751 |
審決分類 |
T
1
11・
21-
Y
(W45)
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最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
矢澤 一幸 |
特許庁審判官 |
豊田 純一 杉本 克治 |
登録日 | 2020-12-08 |
登録番号 | 6326055 |
商標の称呼 | セカイメシアキョー、セカイメシア、メシアキョー、メシア |
代理人 | 前田 幸嗣 |
代理人 | 藤森 裕司 |
代理人 | 飯島 紳行 |