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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X35
管理番号 1412407 
総通号数 31 
発行国 JP 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2024-07-26 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2023-03-23 
確定日 2024-06-24 
事件の表示 上記当事者間の登録第5397108号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5397108号商標の指定役務中、第35類「電気通信機械器具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,携帯電話機ストラップの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」についての商標登録を取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5397108号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成21年12月8日に登録出願された商願2009ー92930に係る商標法第10条第1項による商標登録出願として、同22年8月23日に登録出願されたものであって、第35類「電気通信機械器具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,携帯電話機ストラップの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を含む第35類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務を指定役務として、同23年1月19日に登録査定、同年3月11日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
そして、本件審判請求の登録日は、令和5年4月10日であり、商標法第50条第2項に規定する「その審判の請求の登録前3年以内」とは、令和2年(2020年)4月10日ないし同5年(2023年)4月9日である(以下「要証期間」という。)。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べた。
1 請求の理由
本件商標は、その指定役務中、第35類「電気通信機械器具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,携帯電話機ストラップの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(以下「請求に係る指定役務」という。)について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用をしていないものであるから、その登録は商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)乙第1号証について
被請求人のブランドの沿革は、本件審判事件の審理対象となる事項とは関係がない。
(2)乙第2号証について
乙第2号証は、被請求人が運営するオンラインショッピングサイト(https://sailors.thebase.in/)と思われるところ、乙第2号証において、「電気通信機械器具」又は「携帯電話機ストラップ」の範疇に属する商品が販売されていることは窺われない。なお、請求人において本件審判請求前に同ショッピングサイト全体を閲覧したが、販売されているのはティーシャツや帽子などの被服、アパレル商品がほとんどであって、「電気通信機械器具」又は「携帯電話機ストラップ」の範疇に属する商品は販売されていなかったし、現時点において閲覧しても「電気通信機械器具」又は「携帯電話機ストラップ」の範疇に属する商品は販売されていない。仮に、被請求人が主張するように100個の商品を製作し、仕入れていたのであれば、これらの商品が今日において全く販売されていないというのは不自然である。
(3)乙第4号証、乙第6号証及び乙第7号証について
被請求人は乙第4号証、乙第6号証及び乙第7号証を提出し、乙第4号証は「小売役務の品揃えの提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物である電気通信機械器具としての携帯電話機用ケース」であると主張する。しかし、商標法第2条第3項第6号にいう「役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為」とは、例えば、ワイシャツのクリーニングの役務の提供に当たり、その提供を受ける者(すなわち顧客)が持ち込んだ当該顧客のワイシャツにクリーニングの役務提供者の商標(例えば「白洋舎」)を付する行為をいうところ、乙第4号証の携帯電話機用ケースは、そもそも本件指定役務の提供を受ける者の物には当たらない。役務についての商標の使用とは、商標法第2条第2項第3号ないし第8号に当たるものをいうところ、被請求人の主張するところによれば被請求人自身の取扱い商品と思われるスマートフォン用カバーに商標を付する行為は、商標法第2条第2項第3号ないし第8号に規定する使用のいずれにも該当せず、そもそも本件指定役務についての本件商標の使用に当るものではないことは明らかである。よって、この点における被請求人の主張は失当である。加えて、証拠説明書によればこれらの書証の作成年月日は令和5年7月24日であり、本件審判の予告登録後に作成されたものであるから、これらの書証それ自体によっては、撮影されている商品が要証期間内に製造、販売等されたことが証明されたとは到底いえない。
また、乙第4号証、乙第6号証及び乙第7号証はスマートフォン用のカバーであるところ、かかる商品は、類似群コード11B01と11C01が付与されている「携帯情報端末」の付属品の範疇に属するものであり、本件指定役務における「電気通信機械器具」又は「携帯電話機ストラップ」(類似群コード11B01)と同一の商品には当たらない。いうまでもなく、不使用取消審判においては、その請求に係る指定役務についての登録商標の使用を証明することが求められるから、仮に、被請求人がスマートフォン用のカバーを小売販売等し、当該小売役務の提供について本件商標を使用した事実があったとしても、これは本件指定役務について商標を使用する行為には当たらないから、本件商標の取消しを免れることはできない。
被請求人は、「乙第7号証に示される本件商標が付された小売役務の品揃えの提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物である電気通信機械器具としての携帯電話機用ケースは携帯電話機に使用するが、スマートフォンにも使用できるのは事実である。しかし、商品の性質上、スマートフォンだけに使用され、携帯電話機に使用できない事実はない」と主張するが、乙第7号証のように折りたたみ式の携帯電話機を手帳型のスマートフォン用カバーに取り付けた不自然な写真を見れば、これがスマートフォン用に設計、作成されたものであって、携帯電話機用に設計、作成されたものではないことは明らかであるし、そもそも、被請求人が企画し、製造・販売するスマートフォン用カバーに本件商標を付する行為があったとしても、それは商標法第2条第3項第6号にいう「役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為」には当たらないから、被請求人の上記主張はその前提において誤っている。
(4)乙第5号証について
被請求人は乙第5号証を提出し、「乙第5号証は、小売役務の品揃えの提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物である電気通信機械器具としての携帯電話機用ケースの取引書類の写しである」と主張するが、仮に、被請求人が株式会社エレファントに発注して制作させたスマートフォン用カバーに本件商標を付する行為があったとしても、当該スマートフォン用カバーは「小売役務の品揃えの提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物」には当たらないから、被請求人の主張は的を射ない。
さらに、乙第5号証は、株式会社エレファントにおいていつでも任意に作成しうる書類の写しにすぎず、かかる請求書が実際に要証期間内に作成され、発行されたものであること、更には、かかる請求書に記載されている取引が実際に行われ、商品が市場において販売されたことが、客観的に証明されたとはいえない。
加えて、以下のように、乙第5号証には取引書類として不自然な点がある。
ア 乙第5号証及の右上部分には、太線の枠の中に、株式会社エレファントの本社のファクシミリ番号「075−254−2887」が記載され、その下に東京支店のファクシミリ番号として「03−6861−6560」と記載されている。しかし、株式会社エレファントのウェブサイト(甲1)によれば、同社の東京支店のファクシミリ番号は「03−6859−6560」と表示されている。請求書のような取引書類においてこのような錯誤がされることはありえない。(なお、「03−6861−6560」に架電すると「現在使用されていません」との自動音声が流れる。)
イ 乙第5号証では購入者(被請求人)の電話番号が090−3333−4444と記載されているが、090−3333−4444は、例えば、東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科の入学志願表の記入例(甲2)や、東海市の「学習広場みらいーな登録申込書」の記入例(甲3)等に架空の電話番号として用いられていることからも窺えるように、個人の携帯電話番号として現実に存在しないものではないかとの疑念を払拭できない。
以上のとおり、乙第5号証は、それ自体が、取引が実際に行われ、商品が市場において販売されたことを客観的に証明するものではないうえ、上記のように不自然な点があるため、かかる書証は、要証期間内においてなされたと被請求人が主張する取引が存在したことを証明する証拠として採用されるべきものとはいえない。
(5)請求に係る指定役務に関する使用の事実は証明されていないこと
被請求人が提出する資料において請求に係る指定役務についての本件商標の使用の事実は何ら窺うことができない。小売とは物品を消費者に分けて売ることを、卸売とは生産者・輸入商等から大量の商品を仕入れて小売商人に売り渡すことをいい、小売等役務とは、上記「小売」又は「卸売」の過程において行われる顧客に対する便益の提供をいうものである(特許庁商標課編「商品及び役務の区分解説(国際分類第10版対応)」参照)。したがって、仮に、被請求人自らが企画した商品を株式会社エレファントに製造させ、自らの店舗で一般の需要者に販売した事実があったとしても、その事実をもって、被請求人が請求に係る指定役務について本件商標を使用したということはできない。
乙第8号証及び乙第9号証によれば、令和3年12月頃、「渋谷モディ」において被請求人の商品を販売するポップアップショップが開催されたことが伺われるが、被請求人は証拠を何ら示すことなく「本件商標が付された小売役務の品揃えの提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物である電気通信機械器具としての携帯電話機用ケースの品揃えと共に販売された」と主張するが、主張自体意味が不明瞭である上、乙第8号証及び乙第9号証において本件商標の使用は認められないし、「電気通信機械器具」又は「携帯電話機ストラップ」の範疇に属する商品が販売されたことをうかがわせる点も認められない。これらの資料をみると、むしろ、「渋谷モディ」において販売されたのはTシャツやトレーナーなどのアパレル商品であって、「電気通信機械器具」又は「携帯電話機ストラップ」の範疇に属する商品は全く販売されなかったものと推認される。
(6)被請求人による新たな商標出願について
被請求人は、本件審判請求の後、本件商標と同一の商標を新たに出願していることが認められる(商願2023−76769)。このことは、被請求人が本件商標を請求に係る指定役務について使用しておらず、改めて商標登録を得ることによって独占権の維持を図っていることを推認させるものと思われる。
(7)結語
以上のとおり、被請求人が提出する書証によっては、本件商標が請求に係る指定役務について要証期間内において使用されていた事実が証明されたとはいえない。また、被請求人において、請求に係る指定役務について本件商標の使用をしていないことについて正当な理由があると認めることもできないから、商標法第50条第2項に従い、請求に係る指定役務についての本件商標の登録は取り消されなければならない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求め、答弁書及び令和5年11月2日付け審尋に対する回答書において、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第45号証を提出した。
1 答弁書
(1)被請求人は日本のアパレルブランドを代表する女性経営者の一人であり、50年ほど前からセーラーズ(SAILORS)ブランドを立ち上げて、現在でもこのブランドは使用されている(乙1)。
西城秀樹、シブがき隊ら男性芸能人も愛用し、1980年代半ばに人気アイドルグループ・おニャン子クラブの衣装として商品を提供、セーラーズ(SAILORS)ブランドの商品は当時年商28億円を記録する等、爆発的にヒットした。
また日本だけでなく、マイケル・ジャクソンやスティーヴィー・ワンダーらなども同社の商品を愛用するなど、世界的な人気も得ている(乙1)。
世代により印象は異なるが、セーラーズ(SAILORS)ブランドは、商標を専門に扱う関係者なら一度は目にしたことがあるはずである。
被請求人が提供するセーラーズ(SAILORS)ブランドの各商品の品揃えや商品販売の様子は、ウェブサイトで現在も確認できる(https://sailors.thebase.in/、乙2)。
(2)被請求人は、本件商標を請求に係る指定役務のいずれかについて、本件審判の請求の登録日である令和5年(2023)4月10日前3年以内に日本国内において使用している。
ア 被請求人は、商品の小売品揃え・商品販売の企画・立案・実施、事務局業務、商品の小売品揃え・商品販売のウェブサイト運営など、商品の小売品揃え・商品販売の事業を主たる業務の一つとして位置付けている。
イ 乙第4号証は、小売役務の品揃えの提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物である電気通信機械器具としての携帯電話機用ケースに本件商標が付された写真の写しである。また乙第5号証は、小売役務の品揃えの提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物である電気通信機械器具としての携帯電話機用ケースの取引書類の写しである。
ウ 乙第5号証に示される通り、小売役務の品揃えの提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物である電気通信機械器具として、本件商標が付された携帯電話機用ケース販売用に、100個を発注し実際に販売したうちの一つを撮影したものが乙第4号証である。本件商標について商標登録出願がなされた2009年当時は、スマートフォンが発売され始めた時期にあたり、当時は携帯電話が主流であった。
エ 乙第6号証に示される様に、本件商標が付された電気通信機械器具としての携帯電話機用ケースの内部には粘着テープが設置されている。この粘着テープに携帯電話機の背面を貼付することにより、携帯電話機用ケースの内側に携帯電話機を格納できる。
オ 乙第7号証は実際に、本件商標が付された電気通信機械器具としての携帯電話機用ケースの内部に携帯電話機を格納した状態を示す写真である。
なお乙第7号証に示される本件商標が付された電気通信機械器具としての携帯電話機用ケースは携帯電話機に使用するが、スマートフォンにも使用できるのは事実である。しかし、商品の性質上、スマートフォンだけに使用され、携帯電話機に使用できない事実はない。
カ 乙第8号証は、本件商標が付された商品の小売役務の品揃えの提供に当たり、実際に開催されたポップアップショップのウェブサイト上の告知情報の写しである。乙第8号証に示される通り、渋谷モディの1階において、2021年12月23日から2021年12月27日までポップアップショップが開催されたことが確認できる。
キ 乙第9号証は、SNSのツィッターに公開された、消費者の提供情報の写しである。
この情報によれば、2021年12月24日に、渋谷モディで実際に各種多様な商品の品揃えが実施されたことが確認できる。
ク 上記の通り、本件商標は水兵のキャラクター画像を中心に、老若男女合計7名及び犬並びにこれらのキャラクター画像の下に配置された「SAILORS」のアルファベット文字及び「Family」の筆記体からなる商標である。
一方で、実際に使用された商標を検討すると、電気通信機械器具としての携帯電話機用ケース自体にも、取引書類の請求書にも、本件商標と同じ、水兵のキャラクター画像を中心に、老若男女合計7名及び犬並びにこれらのキャラクター画像の下に配置された「SAILORS」のアルファベット文字および「Family」の筆記体からなる商標が表示されている。
したがって、電気通信機械器具としての携帯電話機用ケースの商品の品揃えにおいて実際に使用されている商標は本件商標と同一の商標であるということができる。
ケ 上述の通り、本件審判については、要証期間内に日本国内において商標権者である被請求人がその請求にかかる商品及び役務の少なくとも一方について登録商標を使用していることは明白である。
2 回答書における主張
(1)はじめに
ア (ア)被請求人が開催した渋谷モディにおけるセーラーズ50周年記念ポップアップショップの開催状況をリポートした記事が、現在でも【「セーラーズ」の期間限定店に5時間待ちの行列 熱狂的ファンや過去動画視聴・アイドル着用で若い新規客も】とのタイトルでヤフーニュースで閲覧できる(乙10)。この記事の配信日は、2021/12/26(日)11:29であり、令和2年(2020年)4月10日から令和5年(2023年)4月9日までの要証期間内である。
(イ)乙第10号証の記事には「三浦静加オーナー兼デザイナーの起業50周年を記念して、12月27日までの5日間、マルイの渋谷モディ1階にポップアップストア「50th ANNIVERSARY SAILORS POP UP SHOP」をオープンしている。」と記載されており、当該ポップアップショップが開催されたことは、現在でもインターネットに掲示された広告で確認できる(乙11)。
(ウ)乙第10号証の記事によれば、「幅広い客層が来店。開店前から行列ができ、一時は行列が4階まで伸びた。11時の開店時間に合わせて来店した人がショッピングできたのは5時間後の16時となり、・・・」、「ポップアップストア・・・担当者は・・・過去最高の人気と売上高で驚いている」とコメント。」、「今回販売するのは、・・“デビューパステルパーカー”・・・“アイドルTシャツ”・・・“セーラーカラースタジャン”などを販売・・・マスキングテープやステーショナリー、時計や目覚まし時計、ステンレスボトルなど、グッズも用意した。」、「テレビや雑誌との企画なども複数予定されており、まさにブーム再燃という状態だ。」と記載されている。
つまり、被請求人が開催したセーラーズ50周年記念ポップアップショップ(以下「50周年記念ショップ」という場合がある。)における商品の品揃えのサービスを受けるために、5時間待ちの行列ができたこと、また、ポップアップストアの過去最高の人気と売上高で驚く担当者の様子が紹介され、当該ショップでは、多種多様の商品の品揃えサービスが実施されたことは明らかである。
イ 50周年記念ショップの様子が紹介されたTBS番組「日立世界ふしぎ発見!」(要証期間内の2022年2月5日に放送)のX(旧ツイッター)に投稿された記事(乙12〜乙14)には、セーラーズのジャケットを着た姿や、各種被服、セーラーズリボン、各種アクセサリー等が写っている。
ウ 被請求人がTBS「週間さんまとマツコ」の番組に出演する予告記事が現在でもインターネットで確認できる(乙15)。当該番組の予告記事が配信されたのは2022年3月5日であり、要証期間内である。
エ 乙第16号証は、要証期間内の2022年5月28日配信の日本経済新聞の記事の写しであり、現在もインターネットで確認できる。当該記事によれば、「・・・その人気がここにきて再燃している。・・・Z世代も手を伸ばす。」と記載されている。
オ 乙第10号証から乙第16号証の記事を読み、テレビ番組を見たなら、本請求に係る商標登録を取り消すことができれば、莫大な経済的利益を濡れ手に粟で得られることを想像する者が現れてもおかしくない。そして実際に現れたのが本請求人である。
(2)本件商標を請求に係る指定役務に使用した事実
ア 被請求人は、役務の提供にあたりその提供を受ける者の利用に供する物として携帯電話機用ケース及び携帯電話機ストラップにそれぞれ標章を付した(乙18、乙22、乙43及び乙44)。本件商標の使用は、商標法第2条第3項第3号から第8号までのいずれかの使用に該当する。具体的には、商標法第2条第3項第3号に該当する。
ここで小売等役務とは「小売」又は「卸売」の業務において行われる総合的なサービス活動(商品の品揃え、陳列、接客サービス等といった最終的に商品の販売により収益をあげるもの)が該当する。
イ 乙第10号証に記載されているとおり、要証期間内に開催された50周年記念ショップにおいて多種多様な商品の品揃え、陳列の役務を提供した。
ウ 乙第17号証は、乙第10号証の記事の冒頭写真を拡大したものであり、ジャケット、トレーナー、Tシャツの他に、キーホルダー、リボン、テープ、時計等の各種各様の商品の品揃え・陳列が実施されていることが確認できる。
これらの多種多様な商品の品揃え・陳列の中に、本件商標を請求に係る指定役務に使用した携帯電話機用ケース及び携帯電話機ストラップが含まれる(乙18、乙22、乙43及び乙44)。
エ 携帯電話機用ケースについて
(ア)携帯電話機用ケースの写真について(乙4、乙6及び乙7)
乙第4号証、乙第6号証及び乙第7号証に示される携帯電話機用ケースは携帯電話機にもスマートフォンにも使用できるものであり、スマートフォンにのみ使えて、携帯電話機に使えない理由は存在しない。
また、被請求人は、要証期間内に開催された50周年記念ショップで、携帯電話機用ケースの販売に結びついた購入者を特定した。その特定された購入者の宣誓書を提出する(乙18)。
多種多様な商品の品揃え・陳列の役務の提供が実施された事実があるのであれば、役務そのものは通常無体物であり、標章を付することが原則できない点を考慮すると、標章は何らかの形で実在物に表示する必要がある。この実在物から多種多様な商品の品揃え・陳列の役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物としての携帯電話機用ケースだけを除く理由はない。
(イ)携帯電話機用ケースの取引書類について(乙5)
被請求人が、多種多様な商品の品揃え・陳列の役務の提供を受ける者の利用に供する物について納品を受け、代金を支払ったこと主張立証するための宣誓書(乙44)を提出する。
乙第44号証によれば、本件商標に係る標章が付された携帯電話機用ケースが納入され、その代金が支払われたことは一目瞭然である。実際に代金を支払って携帯電話機用ケースを入手した被請求人が実際に、商品の品揃え・陳列の役務の提供を実施しない理由がない。
(ウ)乙第18号証(宣誓書)によれば、要証期間内に開催された50周年記念ショップで、携帯電話機用ケースの販売に結びついたことは明らかである。
多種多様な商品の品揃え・陳列の中に携帯電話機用ケースが存在し、役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に本件商標に係る標章が付されている(商標法第2条第3項第3号)。
(エ)乙第44号証は、被請求人に携帯電話機用ケースを納品し、代金を受け取った株式会社エレファントの宣誓書である。実際に代金を支払ったのに、被請求人が携帯電話機用ケースの品揃え・陳列の役務を提供しない理由がない。
オ 携帯電話機ストラップについて
(ア)乙第43号証は、2021年10月31日発行の請求書(2023年12月7日印刷の再発行)である。
(イ)乙第22号証は、携帯電話機ストラップについて、被請求人に納品し、代金を受け取った株式会社エレファントの宣誓書である。
(ウ)乙第22号証及び乙第43号証には、携帯電話機ストラップの台紙に「SAILORS 50th Anniversary」とセーラーズ50周年の文字が印刷されていて、50周年記念ショップの商品の品揃え・陳列に加えない理由がない。
(エ)乙第45号証は、携帯電話機ストラップの使用態様を説明するための写真である。
なお、携帯電話機ストラップ現品が本回答書作成時点で見つかっていないので、50周年記念ショップの商品の品揃え・陳列に含まれていた携帯電話機ストラップで使用態様を説明する。携帯電話機にシリコーンベルト等のゴム状の環状ベルトを携帯電話機に設置し、このベルトにストラップを取り付けることができる。
また、乙第43号証ではスマホストラップと表示されているが、スマートフォンだけに使用できて、携帯電話機に使用できない理由がない。
カ 乙第23号証から乙第26号証は、50周年記念ショップで多種多様な商品の品揃え・陳列の役務の提供がなされた状態を示すX(旧ツイッター)の投稿記事である。
ただし、あまりにも多くの商品の品揃え・陳列により、携帯電話機用ケース及び携帯電話機ストラップが埋もれてしまって、当該商品は実際に写っていないことは否定しない。
(3)請求人の主張について
ア 乙第1号証について
被請求人のブランドの沿革は、商標法第50条に規定した商標登録取消審判の趣旨を、請求人が大きく逸脱したことを説明するためのものである。
同法第50条の趣旨は、登録主義の前提の下、既に使用されなくなって法的保護に値するだけの信用を失った商標についての商標権が累積することによる登録主義の弊害を是正するために設けられたものである。
しかし、この制度を逆手にとって、有名商標に一体化した信用にフリーライドする、いわゆる不正な利益を得る目的で、商標登録の取消の審判を請求したとすれば、同法第50条の趣旨を大きく逸脱した行為となる。
要証期間中に公開された乙第10号証、乙第12号証から乙第16号証のテレビ番組や新聞記事を見れば、何らかの形で被請求人の商標登録を取り消すことができれば、不正な利益が得られることは、ブランドを扱う業者であれば思いつくことは強く推認される。
同法第50条に規定した商標登録取消審判の趣旨を大きく逸脱している疑義があるなら、請求人による審判の請求は認容されるべきではない。
イ 乙第2号証について
請求人はオンラインショッピングサイトに該当する商品がない点、100個の商品を制作し、仕入れているのに販売されていないのは不自然と主張するが、これは、被請求人が50周年記念ショップにて、携帯電話機用ケースや携帯電話機ストラップがほとんど売り切れたからである。また、あまりにも多種多様の商品の品揃えをする関係上、全ての商品をオンラインショッピングサイトに載せきれていないだけである。
乙第1号証に記載されているとおり、被請求人のピーク時には年商28億円を記録している。100個の商品の品揃えが消えるのは一瞬である。
ウ 乙第4号証、乙第6号証及び乙第7号証について
(ア)電気通信機械器具としての携帯電話機用ケース及び携帯電話機ストラップに標章を付する点は、商標法第2条第2項第3号から第8号のいずれかに該当する。
役務の提供の利用に供する物としての携帯電話機用ケース及び携帯電話機ストラップに商標としての標章を付する行為は、多種多様な商品の品揃え・陳列の役務の提供の利用に供する物に標章を付する行為に該当する(商標法第2条第2項第3号)。
今回の要証期間内に開催された50周年記念ショップにて、多種多様な商品の品揃え・陳列が携帯電話機用ケース及び携帯電話機ストラップも含めて実施されている(乙10。ただし、携帯電話機用ケース及び携帯電話機ストラップは写っていない。)。
携帯電話機用ケースも携帯電話機ストラップも多種多様な商品の品揃え・陳列の中に含まれていたことは、実際の購入者が存在すること(乙18)、該当商品の納入と代金支払いの事実があったこと(乙22、乙44)から明らかである。
(イ)次に携帯電話機用ケースに係る役務の使用は、電気通信機械器具に係る役務の使用に該当しないという請求人の主張する判断運用は認められるべきではない。
スマートフォンが類似商品・役務審査基準に登場するのは2017年以降であり、本件商標が登録されたのは2011年であるから、被請求人が登録商標の指定役務からスマートフォンを外した事実は一切存在しない。
また、商標登録出願における指定商品役務の記載について、商標法第50条に規定する指定商品役務の同一の範囲の解釈を厳格化すると、商標法第50条不使用取消審判請求対策のためだけに商標登録出願の願書における指定商品役務の記載の煩雑化をまねくばかりであるから、審査の遅延や審査煩雑化につながるため、安易に認めるべきでない。
エ 乙第5号証について
被請求人は、乙第5号証に記載される商品制作会社の担当者と電話・面談等により直接指示して携帯電話機用ケースの取引を行っている。被請求人が直対応しているため、必要最小限の取引書類しか残っていない実情がある。
請求人の乙第5号証に記載される商品製作会社に対する疑念は、請求書に2021年当時の商品制作会社の東京事務所移転前の古い情報が記載されているためであり、取引の事実を左右するものではない。
オ 本件指定役務に関する使用事実の証明について
被請求人は、要証期間内に開催された50周年記念ショップにて、最終的に商品の販売に結びついた購入者を特定した(乙18)。
また、乙第22号証及び乙第44号証は被請求人に対して商品を納品し代金を受け取った株式会社エレファントの宣誓書である。
乙第10号証等の50周年記念ショップの写真では、携帯電話機用ケースが埋もれてしまって写ってはいないが、多種多様の商品の品揃え・陳列の中から、購入に結びついた者が存在する。
実際に多種多様な商品の品揃え・陳列の役務の提供の事実がある商標についてまで商標の使用の規定の厳格な解釈運用を行うことは商標を巡る実務を複雑化させることにもつながりかねず、認めるべきではない。
カ 被請求人による新たな商標登録出願について
仮に、乙第10号証、乙第12号証から乙第16号証のテレビ番組、新聞記事等をみた者であれば、本件商標に係る商標権を喉から手が出るほどほしくなるのではないか、その中に請求人も含まれるのではないか、との疑念を被請求人は拭いきれない。これらのテレビ番組、新聞記事等は、請求人が実際に審判を請求する前に全て公開されている。請求人が本件商標の存在を全く知らないと仮定すると、本件商標についての取消審判を請求することは不可能である。
(4)請求人が不正を疑われる審判請求を行ったことを示す証拠について
ア 乙第27号証から乙第42号証は、要証期間内に公開されたテレビ、新聞、雑誌等の証拠である。これらの証拠に示されるとおり、本件商標に含まれる水兵の画像に関する被請求人のセーラーズブランドは繰り返し取り上げられていて、現在でも本件商標を含むセーラーズブランドは莫大な顧客吸引力を持つ。
(ア)乙第27号証及び乙第28号証は被請求人が出演したTBSサンデージャポンの番組案内及び番組記録の写しである。
(イ)乙第29号証及び乙第30号証は、google検索結果画面と食品産業新聞のモスバーガーとセーラーズのコラボバンダナの記事である。
(ウ)乙第31号証及び乙第32号証は、TBS「サンデージャポン」とのコラボ企画でAKB武藤十夢(以下「武藤」という。)が「セーラーズ」のデザインをプロデュースすることの記事である。
(エ)乙第33号証は、EXILE最新ニュースでグッズとしてセーラーズとのコラボバンダナが販売される告知記事である。
(オ)乙第34号証は、ミドリ安全.comによるX(旧ツイッター)への投稿記事で、武藤によるサンデージャポンとセーラーズのコラボ商品の防災ヘルメットにミドリ安全が協力し、TBSネットショッピングに出品する告知記事である。
(カ)乙第35号証から乙第37号証は、サンデージャポン【公式】による武藤とセーラーズのコラボ商品の販売告知のX(旧ツイッター)への投稿記事である。
(キ)乙第38号証及び乙第39号証は、武藤のセーラーズのコラボ企画についてのX(旧ツイッター)への投稿記事である。
(ク)乙第40号証は、元力士の岩田武蔵による元大関小錦とセーラーズのコラボ企画のTシャツとトートバックが届いたことに関するX(旧ツイッター)への投稿記事である。
(ケ)乙第41号証及び乙第42号証は、購入者によるジャイアントパンダとセーラーズのコラボ企画の商品購入に関する投稿記事である。
仮に、セーラーズに関連する本件商標を取り消すことができ、自ら本件商標を使うことができたなら、途方もない額の宣伝広告費用を負担することなく、請求人が濡れ手で粟の不正な利益を横取りできることを想像したとしても不思議ではない。
ところで、本請求人は多大な費用をかけて本請求を行っている。投資した費用の回収の見込みがないままに商標不使用取消審判を請求することは想定できない。
本請求人が本件商標の不正使用を意図しているなら、本件商標を実際に請求人又は請求人の関係者が使用したならば、現在被請求人が使用している商標と需要者に混同を生じさせることは疑いがない。フリーライドに繋がる不正が疑われる審判請求は認められるべきではない。
(5)むすび
被請求人のセーラーズブランドは、50周年年記念ショップで5時間待ちの行列ができ、同種のイベントでは過去最高の売上高を記録する(乙10)。
要証期間中でもテレビ番組や新聞記事等により、被請求人のセーラーズブランドは繰り返し日本国民に対して周知されている。
仮に本請求が認容されると、商標不使用取消審判の趣旨を大きく逸脱し、有名な商標の信用にただ乗りする商標権の不正取得や商標の不正使用に利用されることを誘発しかねず、このような疑義の残る請求は認められるべきではない。
そして実際に、携帯電話機用ケース及び携帯電話機ストラップを含む多種多様な商品の品揃え・陳列の役務の提供にあたり、その提供を受ける者の利用に供する物に本件商標が使用されていることは、商品が実際に納入され、代金の受取があったことを示す証拠(乙22、乙44)及び商品の購入者がいることを示す証拠(乙18)から明らかである。

第4 当審の判断
1 被請求人の主張及び同人の提出に係る証拠によれば、以下のとおりである。
(1)本件商標権者について
被請求人である本件商標権者は、「セーラーズ(SAILORS)」というアパレルブランドのオーナー兼デザイナーである(乙1)。
(2)渋谷モディのセーラーズ50周年記念ポップアップショップについて
ア 2021年12月23日から2021年12月27日まで渋谷モディでセーラーズ50周年記念ポップアップショップが開催され、開店前から行列ができ、ポップアップストアの担当者が過去最高の人気と売上高とコメントした(乙8(乙11と同じ)、乙10)。
イ 渋谷モディのセーラーズ50周年記念ポップアップショップに関してX(旧ツイッター)の投稿記事があり(乙12〜乙14)、水兵の顔及び「SAILORS」の文字の入ったジャンパーを着た写真が掲載されている(乙12、乙13)が、本件商標及び本件請求に係る指定役務についての使用は確認できない。
(3)インターネット記事等について
ア 2022年3月5日(土)TBSの番組告知記事(乙15)において「海外の超大物たちも愛用した“セーラーズ”の奇跡の歩みが明らかに!「週間さんまとマツコ」の表題の下、「・・・再ブームが来ているという水兵のキャラクターが印象的なアパレルブランド・セーラーズの社長がスタジオに登場・・・」との記載があるが、本件商標及び本件請求に係る指定役務についての使用は確認できない。
イ 2022年5月28日2:00 日本経済新聞 「渋谷発アパレル「セーラーズ」 復活ヒットの裏側」との表題の記事(乙16)に、「1980年代に一世を風靡した伝説のアパレルブランド「SAILORS(セーラーズ)」・・・以前からのファンだけでなく1990年代半ば以降生まれのZ世代も手を伸ばす。・・」との記載があるが、本件商標及び本件請求に係る指定役務についての使用は確認できない。
(4)手帳型スマホケース(「以下「手帳型スマートフォンケース」という場合がある。)について
ア 乙第18号証の宣誓書(令和5年11月27日作成)には、「私は、・・・商標権者である三浦静加と実際に対面し、渋谷モディで、・・・実際に展示されていた下記商標付きの物の提供を、三浦静加に代金を支払って受けたことに相違ありません。」とする川崎市中原区所在のA氏の宣誓があり、「3 提供を受けた物:スマートフォン(携帯電話)用ケース」と記載がある。
そして、水兵を中心に老若男女7名及び犬の図の下に「SAILORS」の文字及び「Family」の筆記体の文字からなる商標(以下「使用商標1」という。別掲2。)が付されているケースとみられる写真が掲載されている。
イ 乙第44号証は、株式会社エレファントが、手帳型スマートフォンケースについて、商標権者に商品を100個納入し、サンプル作成費用を含む代金を受け取ったことに相違ないとする、宣誓書であり、使用商標1が付されたスマートフォンケースと見られる写真が掲載されている。
なお、乙第44号証には、商品代金の振込先の口座番号及び代金振込日として2022年1月17日との記載がある。また、乙第44号証は乙第5号証と同じ請求書の上部に宣誓がなされているが、乙第5号証の請求書に記載のある「請求日」の欄及び日付がない。
(5)スマホストラップ(以下「スマートフォン用ストラップ」という場合がある。)について
ア 乙第43号証は、2021年10月31日の発注に対する請求書(2023年12月7日印刷の再発行)であり、「商品名:SAILORSスマホストラップ」と記載され、水兵を中心に老若男女7名及び犬の図の下に「SAILORS」の文字及び「Family」の筆記体の文字からなる商標(以下「使用商標2」という。別掲3。)が付されたストラップと思しき商品の写真が掲載されている。
なお、乙第43号証の請求書には、株式会社エレファントの住所及び電話番号並びに「ELEPHANT」の文字からなるロゴマークが記載されているが、同じ発注日の請求書である手帳型スマートフォンケースの請求書(乙5及び乙44)にはその記載はない。
イ 乙第22号証は、株式会社エレファントが、SAILORSスマートフォン用ストラップについて、商標権者に商品を200個納入し、サンプル作成費用を含む代金を受け取ったことに相違ないとする、宣誓書であり、使用商標2が付されているストラップと思しき商品の写真が掲載されている。
なお、乙第22号証には、商品代金の振込先の口座番号及び代金振込日として2022年1月17日との記載がある。
(6)渋谷モディのセーラーズ50周年記念ポップアップショップで、多種多様の商品の品揃え・陳列が実施されたとして、乙第10号証の拡大画像(乙17)を提出しているが、手帳型スマートフォンケース及びスマートフォン用ストラップは写っておらず、本件商標及び本件請求に係る指定役務についての使用も確認できない。
2 判断
被請求人は、本件商標を請求に係る指定役務に使用しているとして、役務の提供の用に供する物としてのスマートフォンケース(携帯電話機用ケース)及びスマートフォン用ストラップ(携帯電話機ストラップ)に商標としての標章を付する行為は、多種多様な商品の品揃え・陳列の役務の提供の利用に供する物に標章を付する行為に該当する(商標法第2条第3項第3号)旨主張しているので、検討する。
(1)使用商標について
前記1(4)及び(5)のとおり、手帳型スマートフォンケース及びスマートフォン用ストラップに付された使用商標1及び使用商標2は、水兵を中心に老若男女7名及び犬の図の下に「SAILORS」の文字及び「Family」の筆記体の文字からなるものであり、本件商標(別掲1)とは、図の構成、文字及び文字態様も同じであるから、社会通念上同一の商標といえる。
(2)使用時期等について
セーラーズ50周年記念ポップアップショップの開催は、前記1(2)アのとおり、2021年12月23日から2021年12月27日までであるから、本件要証期間内であるといえる。
(3)使用役務について
ア 手帳型スマートフォンケース及びスマートフォン用ストラップについて
前記1(4)及び(5)のとおり、請求書において商品名は「手帳型スマホケース」及び「スマホストラップ」と記載されている。
ところで、「スマートフォン」は、商標法施行規則の一部を改正する省令(平成28年12月12日経済産業省令第109号、平成29年1月1日施行)において「電気通信機械器具」とは別に、「三十」として「携帯情報端末」に含まれる商品としてはじめて例示されたものである。(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/syoreikaisei/shohyo/shohyo_281212.html)
そして、本件商標の登録出願日は、前記第1のとおり平成21年12月8日であるから、本件商標は、前記「スマートフォン」の例示はない、平成19年1月1日から施行された商品及び役務の国際分類(商標法施行規則の一部を改正する省令(平成18年10月27日経済産業省令第95号))が適用されるものである。当該分類においては、商標法施行規則別表の第9類において、「十三」として「電気通信機械器具」が例示され、これに含まれる商品として「携帯電話機」が例示されている。また、「電気通信機械器具」に含まれる下位概念の商品として「電気通信機械器具の部品及び附属品」が例示されている。
「スマートフォン」は、「様々な情報処理機能を具えた携帯電話。オペレーティング−システムを持ち、アプリケーションを追加して機能を拡張でき、多くタッチパネルで操作する。」(広辞苑第7版)商品であるから、パソコンとしての機能と携帯電話としての機能を兼ね備えた商品ということができる。
そうすると、本件商標の登録出願時においては「スマートフォン」は、商標法施行規則別表の第9類における「電気通信機械器具」及び「電子応用機械器具及びその部品」のいずれにも属する機能を有する商品とみるのが相当である。
そうとすれば、「手帳型スマートフォンケース」は、「スマートフォン」の附属品として、本件審判の請求に係る指定役務である「電気通信機械器具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」のうちの「電気通信機械器具」の範ちゅうに含まれる商品というべきであり、「スマートフォン用ストラップ」は、本件審判の請求に係る指定役務である「携帯電話機ストラップの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」のうちの「携帯電話機ストラップ」の範ちゅうに含まれる商品というべきである。
イ 手帳型スマートフォンケース及びスマートフォン用ストラップの販売について
(ア)前記1(4)アのとおり、宣誓書(乙18)によれば、手帳型スマートフォンケースを購入したと1名の者が宣誓している。
しかしながら、宣誓書からは、購入日時は確認できず、商品の代金等を客観的に示すレシートや領収書等はなく、購入したとされるケースの商品は被請求人がこれまで提出してきた写真(例えば乙4、乙7及び乙20)と同じものと推測される。また、宣誓書には「商標権者と実際に対面し、代金を支払って」と記載されているが、本件商標権者自らが商品を販売し代金を受領していたことが認められる客観的な証拠は見いだせない。
そして、前記1(4)イのとおり、宣誓書(乙44)には、乙第5号証には記載されている「請求日」の欄や日付の記載がなく、不自然な点がある。
また、請求書には商品代金の振込先として「京都信用金庫」の口座番号の記載があり(乙5、乙44)、代金振込日として2022年1月17日との記載がある(乙44)ことから、振込記録を提出することは可能であると考えられるが、取引業者の宣誓のみであって、当該宣誓書によって、商品の取引が行われたことを客観的に証明するものとはいえない。
さらに、前記1(6)のとおり、渋谷モディのセーラーズ50周年記念ポップアップショップで、手帳型スマートフォンケースが陳列されていることは確認できない。
そうとすれば、手帳型スマートフォンケースが「電気通信機械器具」の範ちゅうの商品であるとしても、被請求人の主張及び全証拠からは、「手帳型スマートフォン用ケース」を販売していたことは確認できない。
(イ)前記1(5)イのとおり、請求書及び宣誓書(乙22、乙43)によれば、商品はスマートフォン用ストラップであるところ、請求書(乙43)には、株式会社エレファントの住所及び電話番号の掲載、「ELEPHANT」の文字からなるロゴマークが記載されているが、同じ発注日の手帳型スマートフォンケースの請求書(乙5及び乙44)には、その記載がなく不自然な点がある。
また、宣誓書(乙22)には商品代金の振込先として「京都信用金庫」の口座番号の記載及び代金振込日として2022年1月17日との記載があることから、振込記録を提出することは可能であると考えられるが、取引業者の宣誓のみであって、当該宣誓書によって、商品の取引が行われたことを客観的に証明するものとはいえない。
さらに、前記1(6)のとおり、渋谷モディのセーラーズ50周年記念ポップアップショップで、スマートフォン用ストラップが陳列されていることは確認できない。
そうとすれば、スマートフォン用ストラップが「携帯電話機ストラップ」の範ちゅうの商品であるとしても、被請求人の主張及び全証拠からは、「スマートフォン用ストラップ」を販売していたことは確認できない。
ウ 「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の販売が、請求に係る指定役務「電気通信機械器具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,携帯電話機ストラップの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」に該当するか否かについて
(ア)小売等役務について
商標法において保護対象となっている「小売等役務」とは、商品の品揃え、陳列、接客サービス等といった最終的に商品の販売により収益をあげる小売業者等の提供する総合的なサービス活動全体を一括りにして一つの小売等役務として保護されるものであるが、これらのサービスは、小売等の業務において商品販売に付随したサービスであることに変わりはなく、個々のサービス活動を独立したものとして個別に商標法上の役務として取り扱うものではない。
(イ)小売等役務の構成要素と考えられる商品の小売において小売業者が顧客に対して行う個々のサービス活動の代表的なものとしては、以下のようなものが挙げられる。
a 商品の品揃え
顧客が広い商品範囲から気に入った商品を選択できるように、様々な商品を揃えるものである。
b 商品の陳列
商品の陳列には、店舗内における顧客の同然を考慮した上で、工夫された売り場の配置により、顧客の商品選択の便宜をはかる場合なども含まれるものである。
c 接客サービス
商品購入の際の店員による商品の説明や助言等である。
d 接客する店員の制服・制帽・名札
e ショッピングカート・買い物かごの提供
f 商品の包装・紙袋・レジ袋の提供
(ウ)渋谷モディのセーラーズ50周年記念ポップアップショップにおける「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の販売が、請求に係る指定役務に該当するか否かについて、前記(イ)aないしfの観点から検討する。
a 商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の品揃え
被請求人提出の証拠によれば、被請求人が取り扱うのは、それぞれ1種類の「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」のみであり、顧客が広い範囲の「スマートフォンケース」や「スマートフォン用ストラップ」から気に入った商品を選択できるように、様々な「スマートフォンケース」や「スマートフォン用ストラップ」を揃えているということはできない。
b 商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の陳列
被請求人提出の証拠からは、商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」が陳列されている状況を確認できない。
c 接客サービス
被請求人提出の証拠からは、商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の購入の際の店員による商品の説明や助言等がされていることを確認できない。
d 接客する店員の制服・制帽・名札
被請求人提出の証拠からは、商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の販売において、制服等を着用した店員の存在を確認できない。
e ショッピングカート・買い物かごの提供
被請求人提出の証拠からは、商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の販売において、ショッピングカートや買い物かごの提供がされていることは確認できない。
f 商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の包装・紙袋・レジ袋の提供
被請求人提出の証拠からは、商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の販売において、商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の包装・紙袋・レジ袋の提供がされていることは確認できない。
以上よりすれば、渋谷モディのセーラーズ50周年記念ポップアップショップにおける「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の販売においては、小売等役務の構成要素と考えられる商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」の小売において小売業者が顧客に対して行う個々のサービス活動のいずれにも該当するものが見いだせず、商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」について、品揃え、陳列、接客サービス等を総合的に行っていたとはいい難いものである。
そして、使用商標1及び使用商標2は、商品「手帳型スマートフォンケース」及び「スマートフォン用ストラップ」に直接印刷するような商標の表示態様であるといえ、商品が流通に置かれてから事後的に小売業者等が表示したものとして認識されるとは考え難く、商品に係る商標としてのみ認識されるものというべきである。
さらに、被請求人が主張する商標法第2条第3項第3号は、「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。)に標章を付する行為」と規定しているところ、例えば、次のような物品 g 店舗内の販売場所の案内板(各階の売り場の案内板)h 店内で提供されるショッピングカート・買い物かご i 陳列棚 j ショーケース k 接客する店員の制服・制帽・名札 l 包装紙、買い物袋、に標章を付する行為が該当することになるところ、これに該当する使用も見いだせない。
(4)小括
以上よりすれば、被請求人の提出に係る全証拠を検討しても、本件要証期間内に、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、本件商標(社会通念上同一と認められるものを含む。以下同じ。)を請求に係る指定役務について商標法第2条第3項各号のいずれかに該当する使用をしたことを認めるに足りない。
3 被請求人の主張について
被請求人は、回答書において、乙第27号証から乙第42号証を挙げて、請求人が行った本審判請求は本来の商標不使用取消審判の趣旨を大きく超えた不正が疑われるものであり、今回の請求は棄却されるべきである旨主張している。
しかしながら、被請求人が挙げる乙第27号証から乙第42号証において、被請求人のセーラーズブランドが取り上げられているとしても、視聴率や閲覧数は不明な記事等であって、これらの記事等から本件商標が莫大な顧客吸引力をもつということを推し量ることはできない。また、当該記事は、本件商標の使用や本件請求に係る指定役務とも関連のないものばかりであり、請求人の本審判請求に不正が疑われるとするのは、被請求人の独自の見解にすぎず、請求人の不正に関する客観的事実は認められない。
したがって、被請求人の主張は採用できない。
4 まとめ
以上のとおり、被請求人は、要証期間に日本国内において、本件商標を商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、請求に係る指定役務について使用をしていることを証明したものと認めることはできない。
また、被請求人は、本件商標を請求に係る指定役務について要証期間に使用していないことについて、正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって、被請求人は、要証期間内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが本件商標の指定役務中、「電気通信機械器具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,携帯電話機ストラップの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」についての本件商標の使用をしていることを証明したものということはできず、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、その指定役務中「結論掲記の指定役務」についての登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

別掲

別掲1 本件商標


別掲2 使用商標1


別掲3 使用商標2



(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合の御注意) 本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。
審理終結日 2024-04-16 
結審通知日 2024-04-19 
審決日 2024-05-16 
出願番号 2010066346 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (X35)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 旦 克昌
特許庁審判官 小林 裕子
清川 恵子
登録日 2011-03-11 
登録番号 5397108 
商標の称呼 セーラーズファミリー、セーラーズ、ファミリー 
代理人 小林 奈央 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 廣中 健 
代理人 平野 泰弘 
代理人 田中 克郎 
代理人 都築 健太郎 
代理人 秋和 勝志 

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