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審決分類 審判 一部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W26
管理番号 1410340 
総通号数 29 
発行国 JP 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2024-05-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2022-06-02 
確定日 2024-04-08 
事件の表示 上記当事者間の登録第6399042号商標の商標登録無効審判事件についてされた令和5年2月14日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(令和5年(行ケ)第10030号、同年9月7日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 登録第6399042号の指定商品中、第26類「ヘアカーラー(電気式のものを除く。)」についての登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第6399042号商標(以下「本件商標」という。)は、「くるんっと前髪カーラー」の文字を標準文字で表してなり、令和2年12月3日に登録出願、第26類「頭飾品,ヘアカーラー(電気式のものを除く。)」を指定商品として、同3年5月24日に登録査定(以下「本件査定日」という。)され、同年6月7日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を令和4年6月2日付け審判請求書(以下「審判請求書」という。)及び同年8月3日付け答弁書(以下「答弁書」という。)に対する同年12月16日付け審判事件弁駁書(以下「弁駁書」という。)において、要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第18号証を提出した(枝番号を含む。)。
なお、以下、証拠の表記に当たっては、「甲第1号証」を「甲1」のように省略して記載する場合があり、枝番号のすべてを表示する場合は、枝番号を省略する。
1 審判請求書による主張
(1)無効理由
本件商標は、その指定商品中の第26類「ヘアカーラー(電気式のものを除く。)」(以下「無効対象商品」という。)について、本件査定日において、商標法第3条第1項第3号、同項第6号及び同法第4条第1項第16号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号の規定により、その登録を無効とすべきである。
(2)具体的な理由
ア 商標法第3条第1項第3号該当性について
本件商標を構成する「くるんっと前髪カーラー」の文字は、無効対象商品の品質、効能、用途その他の特徴を表示するものとして理解されるものであって、また、将来を含め取引者、需要者にそのように認識される可能性があり、これを特定人に独占使用させることは適当ではない。
したがって、本件商標は、無効対象商品に使用する場合は、商品の品質、効能、用途その他の特徴を表示するものと理解されるため、商標法第3条第1項第3号に該当する。
(ア)本件商標を構成する各語の意義
本件商標は、「くるんっと前髪カーラー」の文字を標準文字により横書きしてなる商標であり、「くるんっと」、「前髪」、「カーラー」の3つの語を順に並べ合わせたものである。
a 「くるんっと」について
「擬音語・擬態語4500日本語オノマトペ辞典」(甲8)によれば、「くるん」は、「はずみをつけて回るさま。軽やかに巻かれているさま。」を意味する擬態語であり、「くるんとターンした」、「理想は、年齢を問わず、バービー人形のような「くるんとカールしたまつげ」とする人が多く」との用法が紹介されている。また、この意義は、インターネット上で公開されている「オノマトペ辞典」のウェブサイトにおいても、ヘアカーラーに金髪の髪の毛が巻きついている写真とともに紹介されている(甲9)。
さらに、「暮らしのことば擬音・擬態語辞典」(甲10)によれば、「くるん」は「初めに加わった力の勢いではずみがついて、物が軽やかに一回転または半回転する様子。一カ所にとどまったまま回転する場合に用い、円を描くように移動する場合には用いない。」と解説されている。
そして、オノマトペが促音(「っ」)及び「と」を共起する形で用いられることが多いこと(ころんっと、ぱちんっと、ばたんっと、ごつんっと、どかんっと、びくんっと、つるんっと、ぱりんっと等)は争いのないところである。
そうすると、本件商標を構成する「くるんっと」の文字は、前髪等が軽やかに巻かれているさまを表すオノマトペとして極めて一般的な語を通常の用法により用いるものであるといえる。
b 「前髪」について
「広辞苑第7版」によれば、「前髪」には「男子または婦人の額上の毛を束ねたもの。ぬかがみ。ひたいがみ。向髪。」、「元服前の男子の称。」及び「額に垂れ下がる髪。」との意義がある(甲11)。
c 「カーラー」について
「広辞苑第7版」によれば、「カーラー」には「頭髪を巻きつけてカールさせるための円筒形の用具。」との意義がある(甲12)。
(イ)「くるんっと」、「くるんと」又は「くるんっ」の語が広く使用されていること
a 上記(ア)で述べたとおり、本件商標の構成中、「くるんっと」の文字は、「はずみをつけて回るさま。軽やかに巻かれているさま。」を表すオノマトペとして一般的な語、用法であり、「前髪」の文字は、「男子または婦人の額上の毛を束ねたもの。」及び「額に垂れ下がる髪。」を意味する語であり、「カーラー」の文字は、「頭髪を巻きつけてカールさせるための円筒形の用具。」を意味する普通名称にほかならない。
そして、以下に示す新聞及び雑誌記事情報並びにインターネット情報に照らしてみると、「前髪」が巻かれているさまを記述する際に「くるんっと」、「くるんと」又は「くるんっ」の語が広く一般的に使用されていることがわかる。
(a)ビューティーナビ株式会社が運営するウェブサイト「Beautynavi」における「やっばり1位はあの人!女性に聞いた、なりたい芸能人の髪型ランキングTOP5!」との記事中、ランキング1位とされた石原さとみ風のヘアスタイルの紹介において「前髪にもくるんっとカールを加えれば愛され度アップ!」と記載されている(甲13の1)。
(b)Google LLCが運営する動画共有サイト「YouTube」(以下「YouTube」という。)に2019年12月26日付けで「【前髪巻き方】簡単くるん前髪」との見出しの動画がアップロードされ、その解説に「今回は、前髪の巻き方動画です。今は前髪がすこし長めで、毛先をくるんっと巻いた、すこし女性らしさが増すバージョン。」と記載されている(甲13の2)。
(c)LINE株式会社が運営するウェブサイト「LINEショッピング」において「はさんでくるんっと理想の前髪 時短もかなう前髪カーラー2個セットフェリシモFELISSIMO」との商品が紹介されている(甲13の3)。
(d)MetaPlatforms,Inc.が運営するソーシャルネットワーキングサイト「Instagram」における「伊藤りか/ヘアアレンジ」による2021年2月19日付け投稿において、「種類別くるんっと前髪の巻き方特集」、「・コテで簡単くるんっと前髪の作り方」及び「・リクエスト多数アイロンで作るくるんっと前髪」と記載されている(甲13の4)。
(e)常岡珠希氏が運営するウェブサイト「Beautybrush」における2017年9月5日付けブログ記事において、「中途半端な前髪をくるんっと綺麗に巻く方法」と記載されている(甲13の5)。
(f)Twitter,Inc.が運営するソーシャルネットワーキングサイト「Twitter」(以下「Twitter」という。)における「カフェオーレStyle」による2018年6月12日付け投稿において、「\キュートのひみつ/くるんっとした前髪やほっぺがチャームポイントのミス・カフェオーレ隊。」と記載されている(甲13の6)。
(g)株式会社アップランドが運営するウェブサイト「GIRLY」における2016年3月7日付け記事において、「\韓国で大ヒット/くるんっと可愛い<<ハート前髪>>愛され女子に大変身!」、「前髪をくるんっと内側に巻いて逆さまの形のハートを作ります!!」、「くるんっとした前髪がポイント!!」及び「前髪がくるんっとするだけで愛らしさがUPしますよね」と記載されている(甲13の7)。
(h)株式会社日刊スポーツ新聞社が発行する2013年4月27日付け「日刊スポーツ」において、「僕の髪は長くて前髪があって、くるんとはねているイメージがすごくあると思うので」と記載されている(甲13の8)。
(i)株式会社朝日新聞社が発行する2010年7月15日付け「朝日新聞夕刊」において、「私は母のカーラーで直毛を巻き、涙ぐましい努力でキャンディに。でも自分で切った前髪はくるんと真ん中でカールせず、あらぬ方向にはねました。」と記載されている(甲13の9)。
(j)株式会社読売新聞東京本社が発行する2008年10月16日付け「東京読売新聞朝刊」において、「オスは前髪が、くるんとカールしているのが特徴だ。」と記載されている(甲13の10)。
(k)株式会社読売新聞東京本社が発行する1998年2月19日付け「東京読売新聞夕刊」において、「くるんとカールした前髪とウエーブしたロングヘアーを」と記載されている(甲13の11)。
(l)株式会社北海道新聞社が発行する1991年12月17日付け「北海道新聞朝刊」において、「前髪の前半分を額に下ろし、残り半分をくるんと巻いて立てた若い女の子たちの髪型だ。(中略)カーラーで巻いてムースで整えればいいんだって。」と記載されている(甲13の12)。
(m)株式会社リクルートが運営する「HOT PEPPER Beauty」とのウェブサイト(以下「「HOT PEPPER Beauty」ウェブサイト」という。)において、岡山県倉敷市の美容室が提案するヘアスタイルについて「前髪くるんとゆるふわミディ」と記載されている(甲13の13)。
(n)「HOT PEPPER Beauty」ウェブサイトにおいて、京都府京都市の美容室が提案するヘアスタイルについて「くるんと短い前髪がかわいいパーマボブです。」及び「前髪に束感と動きを出してくるんとスタイリング♪」と記載されている(甲13の14)。
(o)RANK1運営事務局が運営するウェブサイト「プロが紹介するランキングサイトRANK1」における「天然パーマの芸能人36選!女性・男性別ランキング【2022最新版】」との記事中、8位とされた女優の蒼井優の髪型に関して「幼少期の写真を見てみると、前髪がくるんとなっていますね。とてもかわいいです!」と記載されている(甲13の15)。
(p)ヤフー株式会社が運営するウェブサイト「Yahoo!BEAUTY」(以下「Yahoo!BEAUTY」ウェブサイト」という。)における2015年4月15日の書き込みにおいて、「僕はくせ毛で前髪がくるんとなっています。」と記載されている(甲13の16)。
(q)株式会社オールアバウトが運営する「All About」とのウェブサイトにおける「くるくる前髪の作り方!伸ばしかけもOKな前髪アレンジ」との記事中に、「まずは毛先をくるんと1カール。」、「毛先だけクルンとカールがついています。」及び「上の段も同様にコテで毛先をくるんと巻きます。」と記載されている(甲13の17)。
(r)「Yahoo!BEAUTY」ウェブサイトにおける2011年12月30日付けの書き込みにおいて、「前髪がくるんってウェーブがかかっているのが嫌で、前髪だけストレートバーマをかけてもらいたいと思っているのですが」と記載されている(甲13の18)。
(s)ヤフー株式会社が運営するウェブサイト「Yahoo!知恵袋」における2012年7月10日付けの書き込みにおいて「自分は髪の毛の前髪がいつもくせ毛でくるんってなるんですけどどうすれば直りますか?」と記載されている(甲13の19)。
(t)Twitterにおける「えりちゅん」による2013年6月9日付け投稿において、「前髪くるんって巻いて流すのやりたいけど絶望的に似合わなかったから」と記載されている(甲13の20)。
(u)YouTubeに2017年6月8日付けで「前髪くるんっ!のやり方」との見出しの動画がアップロードされ、その解説に「今回は、前髪くるんっの仕方を動画にしてみました」と記載されている(甲13の21)。
このように、「前髪」が巻かれているさまを記述する際に、「くるんっと」、「くるんと」又は「くるんっ」との語が広く一般的に使用されている事実がある。
b さらに、まつ毛等、前髪以外の毛髪が巻かれているさまを記述する際にも、以下に示すとおり「くるんっと」、「くるんと」又は「くるんっ」の語が一般的に使用されている。
(a)株式会社カカクコムが運営するウェブサイト「キナリノ」における「くるんっと旬顔に!簡単「外ハネボブ」の作り方&参考ヘアカタログ」との記事中、「毛先をくるんと外側に巻いた外ハネボブは、おしゃれで小顔効果も抜群!さっと巻くだけなので誰でも簡単にできるのも嬉しいですよね。」、「毛先をくるんと外側に巻いた外ハネボブは、髪の毛のトップ〜中間にボリュームが出すことができるので、頭の形を丸くきれいに見せてくれる効果が!」、「毛先を外側にくるんとひと巻きするだけの外ハネボブは、不器用さんでも簡単にスタイリングが可能◎」、「くるんと巻くだけでおしゃれに見えるので、いつものボブへアも簡単にトレンド感がUPできます!」、「外ハネをくるんと強調したヘアが作れます。」、「ヘアアイロンを使った外ハネはくるんとなりすぎない大人さが魅力♪」及び「ロールブラシを使えば均ーでくるんとした毛先のカールを強調!」と記載されている(甲13の22)。
(b)福島県いわき市に所在するリラクゼーション&アイラッシュ専門店「MOANA VILLA(モアナヴィラ)」が運営するウェブサイトにおける2022年5月8日付けニュース記事において、「くるんっと可愛らしい雰囲気に」と記載されている(甲13の23)。
(c)株式会社ミクシィが運営するウェブサイト「minimo」における2022年1月13日付けフォト記事において、「くるんっとカールをつけたデザインです」と記載されている(甲13の24)。
(d)株式会社AppBrewが運営するウェブサイト「LIPS」に2020年5月24日付けで投稿されたロコミにおいて、「くるんっとしたお人形みたいなまつげに!」と記載されている(甲13の25)。
(e)株式会社ミシャジャパンのウェブサイトにおける2021年7月20日付けプレスリリースにおいて、「まつ毛くるんっ」、「くるんっと上がったまつ毛」及び「くるんっとカールした上向きのまつ毛」と記載されている(甲13の26)。
(f)「HOT PEPPER Beauty」ウェブサイトにおける、東京都足立区に所在するまつげエクステサロン「ChuLa竹の塚店」による2022年5月10日付けブログ記事において、「くるんっと。【Chula竹ノ塚店】」と記載されている(甲13の27)。
c 上記のとおり、本件商標を構成する各語の意義及び上記で述べた「くるんっと」、「くるんと」又は「くるんっ」の語の前髪をはじめとする毛髪についての使用実態に照らせば、本件商標が無効対象商品に使用された場合、取引者、需要者において「くるんっとした前髪」、すなわち、軽やかに巻かれた前髪になるように前髪にクセを付ける(セットする)ことができるカーラー(頭髪を巻きつけてカールさせるための円筒形の用具)という商品の品質、効能、用途その他の特徴を表示するものと理解されるとみるのが相当であり、そのような語が無効対象商品について自他商品識別の機能を発揮し得ないことは明らかである。
また、上記した請求人の主張は、本件商標の権利者(以下「商標権者」という。)の製造、販売に係る本件商標と同一名称の無効対象商品について紹介するウェブページ(甲14)及び無効対象商品の外装パッケージ(甲15)において、商標権者自ら「くるんっとカールした前髪ができちゃう!」及び「くるんっと内側にカールした前髪をセットするためのカーラーを考えました。」と無効対象商品の特徴を記載していることからも裏付けられる。
(ウ)審決例に基づく検討
審決例においても、本件商標のように、商標の構成から容易にその商品の品質、効能、用途を表示したものと理解される商標が、自他商品の識別機能を果たし得ず、特定人による独占に適さない商標として、商標法第3条第1項第3号に該当すると判断されている(甲16)。
(エ)無効対象商品の市場に関する資料
無効対象商品の市場に関する資料として「ヘアアレンジ完全マスターBOOK」(甲17)との文献に徴すると、髪型(ヘアスタイル)をアレンジする方法において「巻く」ことが、「結ぶ」、「編む」、「まとめる」と並んで「4つの基本」として紹介されており、「日本人は巻き髪が大好き!ふわふわの毛先は永遠の憧れ」、「“巻き髪”は程よいカール感を出すために、おしゃれ好きな日本人が編み出した技術といえそう。」、「可愛くするには巻きが欠かせない!」などの記載があり、無効対象商品は、当該文献においても「髪をカールするために発明された、カーラー」とあるとおり、ヘアアレンジの「4つの基本」の一つである「巻くこと」を目的として使用されるものに他ならない。
このような無効対象商品の分野における商取引実情の下においては、本件商標「くるんっと前髪カーラー」を無効対象商品について使用しても、これに接する需要者は、全体として「くるんっとした前髪」、すなわち、軽やかに巻かれた前髪になるように前髪にクセを付ける(セットする)ことができる商品を想起し、商品の品質を表示したものと認識するにとどまり、自他商品を識別するための標識である商標を表したものとは把握し得ない。
以上に検討したところに照らせば、「くるんっと前髪カーラー」の文字を標準文字で表してなる本件商標を無効対象商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、「くるんっと巻かれた前髪を作るためのカーラー」ほどの意味合いを容易に想起し、当該商品の特徴を記述的に表したものと把握、理解するにとどまるから、本件商標は、単に商品の品質、効能、用途を表したにすぎず自他商品識別機能を果たし得ないものであることは明白である。
(オ)小括
以上により、「くるんっと前髪カーラー」の文字を標準文字で表してなる本件商標を無効対象商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、当該商品が「くるんっとした前髪、すなわち、軽やかに巻かれた前髪になるように前髪にクセを付ける(セットする)ことができるカーラー(頭髪を巻きつけてカールさせるための円筒形の用具)」であると理解するにとどまるから、本件商標は、無効対象商品の品質、効能、用途、その他の特徴を普通に用いられる方法で表示した文字のみからなる商標であるといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。
イ 商標法第4条第1項第16号該当性について
本件商標「くるんっと前髪カーラー」を、無効対象商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、当該商品が「くるんっとした前髪、すなわち、軽やかに巻かれた前髪になるように前髪にクセを付ける(セットする)ことができるカーラー(頭髪を巻きつけてカールさせるための円筒形の用具)」であると理解するにとどまるから、本件商標は、無効対象商品の品質、効能、用途、その他の特徴を普通に用いられる方法で表示した標章のみからなる商標であるといわざるを得ない。
そうすると、前記「くるんっとした前髪、すなわち、軽やかに巻かれた前髪になるように前髪にクセを付ける(セットする)ことができるカーラー(頭髪を巻きつけてカールさせるための円筒形の用具)」以外の無効対象商品について本件商標を使用するときには、商品の品質等について誤認を生じさせるおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当する。
ウ 商標法第3条第1項第6号該当性について
商標法第3条第1項は、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。」と規定した上、同項第6号において「前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」を掲げ、同号所定の商標について商標登録を受けることができないことを規定している。同号にいう「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」としては、構成自体が商標としての体をなしていないなど、そもそも自他商品識別力を持ち得ないもののほか、同項第1号から同第5号までには該当しないが、一応、その構成自体から自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないと推定されるもの、及び、その構成自体から自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものと推定はされないが、取引の実情を考慮すると、自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものがあるとされている(甲18)。
この点、本件商標を構成する「くるんっと前髪カーラー」の文字は、「くるんっと巻かれた前髪を作るためのカーラー」を表す語として、無効対象商品の品質、効能、用途を普通に用いられる方法で表示した標章のみからなる商標であって、自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであるため、本件商標は商標法第3条第1項第3号に該当するものであるが、仮に同号に該当しないとしても、少なくとも、「取引の実情を考慮すると、自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ない」商標に当たり、同法第3条第1項第6号に該当することは明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第6号に該当する。
エ むすび
以上のとおり、「くるんっと前髪カーラー」の文字を標準文字で表してなる本件商標を無効対象商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、当該商品が「くるんっと巻かれた前髪を作るためのカーラー」であると理解するにとどまるものであって、本件商標は、無効対象商品の品質、効能、用途等を普通に用いられる方法で表示したものにすぎず、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標に該当する。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号の規定に違反して登録されたものであり、また、「くるんっと巻かれた前髪を作るためのカーラー」以外の商品について使用されるときには、商品の品質等について誤認を生じさせるおそれがあるから、商標法第4条第1項第16号の規定に違反して登録されたものである。
よって、本件商標は、商標法第46条第1項第1号の規定により、その登録を無効とすべきものである。
また、本件商標は、「くるんっと巻かれた前髪を作るためのカーラー」ほどの意味合いを一義的に想起させるものであるため、無効対象商品に使用した場合、その需要者は、当該商品を「くるんっと巻かれた前髪を作るためのカーラー」として認識するにとどまり、これを自他商品の識別標識としては認識し得ないものである。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第6号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号の規定により、その登録を無効とすべきものである。
2 弁駁書による主張
(1)商標法第3条第1項第3号について
ア 本件商標における動詞の有無
被請求人は、本件商標が商標法第3条第1項第3号に該当するとの請求人の主張に対し、「くるんっと前髪カーラー」の文字からなる本件商標が、無効対象商品に使用された場合、「くるんっとした前髪、すなわち、軽やかに巻かれた前髪になるように前髪にクセを付ける(セットする)ことができるカーラー」ほどの意味合いを暗示させる場合があるとしても、いまだ漠然とした意味合いを想起させるにとどまり、特定の商品の品質や効能、用途を直接的かつ具体的に表示するまでには至らないものであると反論し、その理由を、本件商標においては「くるんっと」が修飾する動詞が明示されていないからであると主張する。
さらに、被請求人は、「請求人は、「くるん(っ)」の語が「前髪」と密接な関連性を有することから、「前髪」との関係でよく用いられる「クセを付ける(セットする)」という動詞が省略されていることを前提とし、本件商標が「くるんっと前髪にクセを付ける(セットする)カーラー」であるものと解釈している。」と述べた上で、本件商標における「くるん(っ)」の語は必ずしも「前髪」と密接な関連性を有するわけではなく、「動詞を修飾する副詞的な擬態語」として、「くるん(っ)」の語が修飾する動詞とより密接な関連性を有するものであり、その動詞によって本件商標が想起させる意味合いも変化すると主張する。
そして、本件商標においては「くるんっと」が修飾する動詞が明示されていないため、本件商標が無効対象商品に使用されたとしても、いまだ漠然とした意味合いを想起させるにとどまり、特定の商品の品質や効能、用途を直接的かつ具体的に表示するまでには至らないから、本件商標は商標法第3条第1項第3号に該当しないと主張する。
しかしながら、仮に、被請求人が主張するように「くるんっと」の語が「動詞を修飾する副詞的な擬態語」であったとしても、本件商標の構成中の「カーラー」の語は、「頭髪を巻きつけてカールさせるための円筒形の用具」(甲12)を意味するから、「くるんっと前髪カーラー」との本件商標には、「カールさせる」という動詞が実質的に含まれているといえる。
したがって、本件商標において動詞が明示されていないことが、「動詞が省略されている」状態に当たるとしても、「頭髪を巻きつけてカールさせるための円筒形の用具」との意味を有する「カーラー」の語が含まれているのであるから、「くるんっと」の語が修飾する動詞が、「カーラー」の語に実質的に含まれる「カールさせる」であることは明らかである。
よって、本件商標の構成中の「カーラー」の語に実質的に含まれる「カールさせる」との動詞は、副詞的な擬態語である「くるんっと」の語と結び付けられやすく、被請求人が主張するような、「くるんっと丸まった弾力のある表面を有する前髪用のカーラー」や「くるんっと振り向いてもキープされるカールを作る前髪用のカーラー」、「くるんっと寝返りを打っても前髪のカールを作ることができるカーラー」などといった、本件商標を構成する語と全く関連性のない語を無理に想起することは通常は考えられない。
このことは、無効対象商品について紹介したウェブページ(甲14)及び被請求人による無効対象商品の外装パッケージ(甲15)において、被請求人自らが、無効対象商品の特徴を「くるんっとカールした前髪ができちゃう!」、「くるんっと内側にカールした前髪をセットするためのカーラーを考えました。」と記載し、「くるんっと」の語を「カールした」の語を修飾する語として使用していることからも裏付けられる。
さらにいえば、万が一、被請求人が主張するような意味を想起するようなことがあったとしても、「くるんっと丸まった弾力のある表面を有する」は商品の形状を、「くるんっと振り向いてもキープされるカールを作る」及び「くるんっと寝返りを打っても前髪のカールを作ることができる」は前髪用カーラーが通常有する効用ないし用途の範ちゅうにとどまるものであって、結局のところ、商品の形状、効能又は用途を説明した表示にすぎず、識別力を有しないと評さざるを得ない。
イ 取引過程における使用の有無
被請求人は、インターネットで本件商標を構成する文字「くるんっと前髪カーラー」をその語順も含め完全一致するよう検索すると、本件商標を付した無効対象商品を説明又は紹介するウェブサイトのみが検出されることから、このことが本件商標が無効対象商品の分野において商品の品質などを表示するものとして一般的に使用されておらず、あるいは認識されていないことを示すものであると主張する。
しかしながら、商標法第3条第1項第3号に該当するとされるためには、取引者、需要者に指定商品の品質等を示すものとして認識され得る表示態様であれば足り、当該表示態様が、商品の取引過程において、商品の品質を表すものとして必ず使用されるものであるとか、現実に使用されている等の事実は要求されないものと解される(東京高判平成12年9月4日)。
したがって、インターネットにおいて「くるんっと前髪カーラー」の文字を検索した結果、無効対象商品に関するサイトのみが検出されたとの事実があるとしても、そのことが本件商標の識別力を有することの根拠にはならない。
ウ 請求人標章を商品名とする請求人商品が販売されている事実と本件商標の識別力の有無の関連性
被請求人は、請求人が、本件商標が識別力を有しないと主張する一方で、本件商標を構成する「くるん」、「前髪」及び「カーラー」の語を含む「前髪くるんとカーラー」という標章(以下「請求人標章」という。)を商品名とする商品(以下「請求人商品」という。)を販売していることは、著しく矛盾するものであり、無効対象商品と請求人商品とがカーラーの分野において販売されている事実は、本件商標及び請求人標章が自他商品識別の機能を発揮していることの結果であると主張する。
しかしながら、そもそも、本件商標と請求人標章は非類似の商標及び標章であり、これらを同じものとして論じる被請求人の主張は、その前提において失当である。加えて、「商品名」であれば必ず識別力があるということになるものではない。
そして、請求人商品は、「前髪」を「くるんと」巻くための「カーラー」にほかならないのであって、請求人標章「前髪くるんとカーラー」は、請求人商品の内容を、普通名称ないし一般的な表示によってそのまま説明したものにすぎず、それ自体として識別力を有しない。
すなわち、請求人標章は、商品の出所表示・識別機能を果たす態様で使用されておらず、請求人による請求人標章の使用は、商標的使用に当たらないのであるから、本件商標が識別能力を有しないとの請求人の主張と、請求人による請求人標章の使用は、何ら矛盾しない。
また、無効対象商品と請求人商品とがカーラーの分野において販売されている事実と、本件商標及び請求人標章が自他商品識別機能を発揮しているか否かの間には何の関連性もない。無効対象商品と請求人商品とがカーラーの分野において販売されている事実があるからといって、本件商標及び請求人標章が自他商品識別機能を発揮しているということにはならない。
エ 小括
以上のとおり、本件商標は、無効対象商品に使用された場合、単に「くるんっと巻かれた前髪を作るためのカーラー」ほどの意味合いを容易に想起し、当該商品の特徴を記述的に表したものと把握、理解するにとどまるから、本件商標は、単に商品の品質、効能、用途その他の特徴を普通に用いられる方法で表示した文字のみからなる商標であって、自他商品識別機能を果たし得ないものとして、商標法第3条第1項第3号に該当するものである。
(2)商標法第4条第1項第16号該当性について
被請求人は、本件商標が商品の出所識別標識としての機能を有するものであるから、商品の品質について誤認を生じさせるおそれもないとして、商標法第4条第1項第16号該当性を否定する。
しかしながら、本件商標に接した一般需要者は、「くるんっと巻かれた前髪を作るためのカーラー」という、極めて具体的な商品の効能、用途をごく容易に理解するのであって、「くるんっと巻かれた前髪を作るためのカーラー」以外の指定商品について本件商標を使用するときには、商品の品質等について誤認を生じるおそれがあることは明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当するものである。
(3)商標法第3条第1項第6号該当性について
被請求人は、本件商標は商品の出所識別標識としての機能を果たし得るとして、商標法第3条第1項第6号該当性を否定する。
しかしながら、本件商標は、自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであるため、商標法第3条第1項第3号に該当するものであるが、仮に同号に該当しないとしても、「くるんっと」の語が前髪が巻かれているさまを記述する際に一般的に使用されていることが合理的に推認されるものであることに鑑みると、少なくとも、「取引の実情を考慮すると、自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ない」商標に当たり、同法第3条第1項第6号に該当するものである。
(4)むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項第3号、同法第4条第1項第16号又は同法第3条第1項第6号に違反する無効理由を有するから、同法第46条第1項第1号の規定によってその登録を無効とされるべきである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は、請求人の負担とする、との審決を求め、答弁書において、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証及び乙第2号証を提出した。
以下、証拠の表記に当たっては、「乙第1号証」を「乙1」、「乙第2号証」を「乙2」と省略して記載する。
1 商標法第3条第1項第3号該当性について
(1)本件商標を構成する「くるんっと前髪カーラー」中の文字「くるんっと」又は「くるん」は、例えば、広辞苑(第七版)、大辞林(第四版)、大辞泉(第二版)などの辞書等に見出すことのできないものであるが、「くるん」は、請求人が指摘するように、「はずみをつけて回るさま。軽やかに巻かれているさま。」(甲8)、「初めに加わった力の勢いではずみがついて、物が軽やかに一回転または半回転する様子。ーカ所に留まったまま回転する場合に用い、円を描くように移動する場合には用いない。」(甲10)ほどの意味合いを有する擬態語である。
そして、「前髪」は、「男子または婦人の額上の毛を束ねたもの。ぬかがみ。ひたいがみ。向髪。元服以前の男子の称。額に垂れ下がる髪。」(甲11)ほどの意味合いを有する語であり、「カーラー」は、「前髪を巻きつけてカールさせるための円筒形の用具。」(甲12)ほどの意味合いを有する語である。
(2)請求人は、「くるんっと」、「くるんと」、又は「くるんっ」の語が「前髪」との関係で使用されている多くの例(甲13)を挙げ、これらの例における使用実態から「くるんっと前髪」の語が「軽やかに巻かれた前髪」ほどの意味合いを想起させると主張している。
さらに、請求人は、「くるんっと前髪」の語が「カーラー」と結合することで、「くるんっとした前髪、すなわち、軽やかに巻かれた前髪になるように前髪にクセを付ける(セットする)ことができるカーラー」ほどの意味合いを想起させると主張している。
確かに、請求人が主張するように、「くるんっと前髪カーラー」の文字からなる本件商標に接した取引者、需要者が「くるんっとした前髪、すなわち、軽やかに巻かれた前髪になるように前髪にクセを付ける(セットする)ことができるカーラー」ほどの意味合いを想起することも考えられなくはない。
しかしながら、「くるんっと前髪カーラー」の文字からなる本件商標が無効対象商品について使用された場合に、本件商標が、請求人が主張するような「くるんっとした前髪、すなわち、軽やかに巻かれた前髪になるように前髪にクセを付ける(セットする)ことができるカーラー」ほどの意味合いを暗示させる場合があるとしても、いまだ漠然とした意味合いを想起させるにとどまり、特定の商品の品質や効能、用途を直接的かつ具体的に表示するまでには至らないものである。
ウ 請求人は、「くるん(っ)」の語が「前髪」と密接な関連性を有することを根拠に本件商標が「くるんっとした前髪、すなわち、軽やかに巻かれた前髪になるように前髪にクセを付ける(セットする)ことができるカーラー」ほどの意味合いを想起させると主張しているが、本件商標において「くるんっと」の語は必ずしも「前髪」と密接な関連性を有するわけではない。
「くるんっと」の語は、動詞を修飾する副詞的な擬態語、すなわち、修飾する動詞が「どのように」動作又は機能している状態なのかを説明するものであり、この語が修飾する動詞と密接な関連性を有するのである。すなわち、「くるんっと」の語が修飾する動詞によって「くるんっと」の語が想起させる意味合いも異なることになるのである。
この点に関して、本件商標においては、「くるんっと」の擬態語の後に「前髪」という名詞と「カーラー」という名詞が続くだけであり、動詞は含まれていない。確かに、日常生活においては、「くるんっと」のような擬態語が修飾する動詞が省略されることもある。例えば、請求人が挙げた例の一部(甲13の3、甲13の13など)においては「くるんっと」又は「くるんと」が修飾する動詞が省略されている。
しかしながら、「くるんっと」を用いて特定の商品の品質、効能、用途その他の特徴を説明しようとする場合には、「くるんっと」が修飾する動詞によってその商品の品質、効能、用途その他の特徴が異なることになるのであるから、「くるんっと」が修飾する動詞は明示される必要がある。これは、正確性が要求される新聞記事などにおいては「くるんと」の語が必ず動詞とともに使用されていることからも明らかである(甲13の9〜甲13の12)。
このように、本件商標においては「くるんっと」が修飾する動詞が明示されていないため、本件商標が無効対象商品について使用されたとしても、「くるんっとした前髪、すなわち、軽やかに巻かれた前髪になるように前髪にクセを付ける(セットする)ことができるカーラー」ほどの意味合いを暗示させる場合があるとしても、いまだ漠然とした意味合いを想起させるにとどまり、特定の商品の品質や効能、用途を直接的かつ具体的に表示するまでには至らないのである。
エ 請求人は、「くるん(っ)」の語が「前髪」と密接な関連性を有することから、「前髪」との関係でよく用いられる「クセを付ける(セットする)」という動詞が省略されていることを前提とし、本件商標が「くるんっと前髪にクセを付ける(セットする)カーラー」であるものとして解釈している。
しかしながら、本件商標における「くるん(っ)」の語は、「前髪」の語よりもその語が修飾する動詞と密接な関連性を有するものであって、本件商標においてはその動詞が省略されているため、本件商標に接した取引者、需要者が、どのような動詞が省略されていると認識するかによって、本件商標が想起させる意味合いが変化することになる。
例えば、「くるんっと前髪カーラー」の文字からなる本件商標に接した取引者、需要者によっては、表面の形状や材質に特徴のあるカーラーであるような場合には「くるんっと丸まった弾力のある表面を有する前髪用のカーラー」ほどの意味合いを想起することもあれば、巻き付け効果の高いカーラーであるような場合には「くるんっと振り向いてもキープされるカールを作る前髪用のカーラー」ほどの意味合いを想起することもあり、また就寝中に前髪に取り付けられるカーラーであるような場合には「くるんっと寝返りを打っても前髪のカールを作ることができるカーラー」ほどの意味合いを想起することもある。
このように、「くるんっと前髪カーラー」の文字からなる本件商標に接した取引者、需要者は、商品との関係で「くるんっと」が修飾する動詞がどのようなものであるのかを想像しながら本件商標の意味合いを認識するのであって、請求人が主張するような「くるんっと前髪にクセを付ける(セットする)カーラー」を直ちに認識させるということはできないものである。
したがって、本件商標が無効対象商品について使用された場合に、「くるんっとした前髪、すなわち、軽やかに巻かれた前髪になるように前髪にクセを付ける(セットする)ことができるカーラー」ほどの意味合いを暗示させる場合があるとしても、いまだ漠然とした意味合いを想起させるにとどまり、特定の商品の品質や効能、用途を直接的かつ具体的に表示するまでには至らないというべきである。
また、インターネットにおいて本件商標を構成する文字「くるんっと前髪カーラー」を検索すると、本件商標を商品名とする被請求人の商品を説明又は紹介するウェブサイトが検索されるのみである(乙1)。
これは、現在においても、また本件商標の登録査定時においても、本件商標が、無効対象商品の分野において商品の品質などを表示するものとして一般的には使用されていないこと、あるいは認識されていないことを示すものである。
このように、本件商標は、無効対象商品に使用しても、商品の品質、効能、用途その他の特徴を表示するものとはいえず、商品の自他商品識別の機能を発揮することができるものである。
また、請求人は、本件商標は、商品の自他商品識別の機能を発揮し得ないと主張する一方で、本件商標を構成する「くるん」、「前髪」、及び「カーラー」の語を含む「前髪くるんとカーラー」という語を商品の品質、効能、用途その他の特徴を表示するものとしてではなく明らかに商品名(自他商品識別標識)として使用し、当該商品名の商品を令和3年3月25日から販売している(乙2)。
このように本件商標と類似する請求人標章を自他商品識別標識として使用する請求人の行為は、審判請求書の内容と著しく矛盾するものである。
そして、本件商標を商品名とする無効対象商品と、請求人標章を商品名とする請求人商品とがカーラーの分野において販売されている事実は、正に本件商標及び請求人標章が自他商品識別の機能を発揮していることの結果である。
以上のように、本件商標は、これを無効対象商品について使用しても、商品の品質、効能、用途その他の特徴を表示するものとはいえず、商品の自他商品識別の機能を発揮し得るものである。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当しない。
(2)商標法第4条第1項第16号該当性について
本件商標は、商品の出所識別標識としての機能を果たし得るものであるから、商品の品質について誤認を生じさせるおそれもないというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当しない。
(3)商標法第3条第1項第6号該当性について
本件商標が無効対象商品に使用されたとしても、「くるんっとした前髪、すなわち、軽やかに巻かれた前髪になるように前髪にクセを付ける(セットする)ことができるカーラー」ほどの意味合いを暗示させる場合があるとしても、いまだ漠然とした意味合いを想起させるにとどまり、特定の商品の品質や効能、用途を直接的かつ具体的に表示するまでには至らないというべきであるから、本件商標は、これを無効対象商品について使用しても、商品の出所識別標識としての機能を果たし得るものである。
したがって、本件商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標ではなく、商標法第3条第1項第6号に該当しない。
2 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項第3号、同項第6号及び同法第4条第1項第16号のいずれにも該当するものではなく、その登録は、同法第3条第1項第3号、同項第6号及び同法第4条第1項第16号の規定に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により無効とされるべきものではない。

第4 当審の判断
1 利害関係
請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係を有する者であることについては、当事者間に争いがないので、本案に入って審理し、判断する。
2 商標法第3条第1項第3号該当性について
(1)本件商標について
本件商標は、「くるんっと前髪カーラー」の文字を標準文字で表してなるものであるから、本件商標を構成する文字は、当然に、同じ大きさ及び同じ書体のものであり、また、これらの文字は、当然に、等間隔かつ横一列に、まとまりのある態様で並べられている。
したがって、本件商標は、これを構成する文字の全体をもって、一連一体の語句を表すものであると理解されるものである。
本件商標の商標法第3条第1項第3号該当性を判断するに当たっては、このような一連一体の語句を構成する各語の意味に加え、取引の実情に照らし、取引者又は需要者によって、当該一連一体の語句が、商品の品質、効能、用途等の特徴を示すものと一般に認識されるものであるかどうかを検討する必要がある(最高裁判所昭和61年1月23日第一小法廷判決(昭和60年(行ツ)第68号)裁判集民事147号7頁参照)。
(2)本件商標に接した取引者又は需要者の認識について
ア 辞典の記載
(ア)甲第8号証(小野正弘編「擬音語・擬態語4500 日本語オノマトペ辞典」(平成19年))には、「くるん」の語の意味として「はずみをつけて回るさま。軽やかに巻かれているさま。」との記載があり、その用例として「理想は、年齢を問わず、バービー人形のような『くるんとカールしたまつげ』とする人が多く」が挙げられている。
また、甲第10号証(山口仲美編著「暮らしのことば 擬音・擬態語辞典」(平成15年))には、「くるん」の語の意味として「初めに加わった力の勢いではずみがついて、物が軽やかに一回転または半回転する様子。」との記載があり、その用例として「わたし、車ごとくるんと引っ繰り返った」が挙げられている。
(イ)甲第11号証(新村出編「広辞苑第七版」(平成30年))には、「前髪」の語の意味として「額に垂れ下がる髪。」などの記載がある。
(ウ)甲第12号証(新村出編「広辞苑第七版」(平成30年))には、「カーラー」の語の意味として、「頭髪を巻きつけてカールさせるための円筒形の用具。」との記載がある。
イ ウェブサイトにおける使用例(本件査定日より前に掲載されたことが認められるものについてのみ列挙した。)
(ア)甲第13号証の2(令和元年掲載)には、「【前髪 巻き方】簡単くるん前髪」との標題の下、「今回は、前髪の巻き方動画です。今は前髪がすこし長めで、毛先をくるんっと巻いた、すこし女性らしさが増すバージョン。」との記載がある。
(イ)甲第13号証の5(平成29年掲載)には、「中途半端な前髪をくるんっと綺麗に巻く方法・・・綺麗に巻きたいけれど、カールがつきすぎるとバランスを取るのが難しいのでなかなか上手く扱えないというお悩みを持っている方も多いようです。」との記載がある。
(ウ)甲第13号証の6(平成30年掲載)には、「くるんっとした前髪やほっぺがチャームポイントのミス・カフェオーレ隊。」との記載があり、その下に、丸まった前髪を有する人物の写真が掲載されている。
(エ)甲第13号証の7(平成28年掲載)には、「くるんっと可愛い<<ハート前髪>>で愛され女子に大変身・・・前髪をくるんっと内側に巻いて逆さまの形のハートを作ります・・・くるんっとした前髪がポイント・・・前髪がくるんっとするだけで愛らしさがUPしますよね」との記載がある。
(オ)甲第13号証の16(平成27年掲載)には、「僕はくせ毛で前髪がくるんとなっています・・・前髪の痛みを直しながら前髪をくるんとならないようにすることは出来るのでしょうか?・・・前髪をくるんとならないようにする方法を教えてください」との記載がある。
(カ)甲第13号証の18(平成23年掲載)には、「前髪がくるんってウェーブがかかっているのが嫌で、前髪だけストレートパーマをかけてもらいたいと思っているのですが、出来れば何もしないで前髪をストレートに近いようにならないかと思っています。」との記載がある。
(キ)甲第13号証の19(平成24年掲載)には、「自分は髪の毛の前髪がいつもくせ毛でくるんってなるんですけどどうすれば直りますか?」との記載がある。
(ク)甲第13号証の20(平成25年掲載)には、「前髪くるんって巻いて流すのやりたいけど絶望的に似合わなかったから、それ以来前髪は年甲斐もなくAKB風です」との記載がある。
(ケ)甲第13号証の21(平成29年掲載)には、「前髪くるんっ!のやり方」との標題の下、「今回は、前髪くるんっの仕方を動画にしてみました・・・コテでするのも全然ありだけど火傷しやすかったりしたのでりかりこは、ストレートアイロンでしています…他にも、ヘアアレンジや、髪の巻き方などリクエストがあればtwitterへお願いします」との記載がある。
(コ)甲第13号証の25(令和2年掲載)には、「くるんっとしたお人形みたいなまつげに!・・・これでカール長続きのお人形さんまつげの完成です!!」との記載がある。
ウ 新聞記事における使用例
(ア)甲第13号証の8(平成25年の記事)には、「僕の髪は長くて前髪があって、くるんとはねているイメージがすごくあると思うので、ガラッとビジュアルを変えた方が作品の世界に引き込むことができるので」との記載がある。
(イ)甲第13号証の9(平成22年の記事)には、「私が小学生時代にハマったのはアニメ「キャンディ・キャンディ」。原作マンガでもおなじみの、長い巻き毛を両耳上で結んだ髪形が特徴です。私は母のカーラーで直毛を巻き、涙ぐましい努力でキャンディに。でも自分で切った前髪はくるんと真ん中でカールせず、あらぬ方向にはねました。」との記載がある。
(ウ)甲第13号証の10(平成20年の記事)には、「トカラヤギは、・・・オスは前髪が、くるんとカールしているのが特徴だ。」との記載がある。
(エ)甲第13号証の11(平成10年の記事)には、「くるんとカールした前髪とウエーブしたロングヘアーをメドゥーサのように風に舞わせながら、グリーンのスーツにパンプスをはいたバスガイドさんが、お客さんたちを先導して一応がけの眺望を見せにやってきます。」との記載がある。
(オ)甲第13号証の12(平成3年の記事)には、「立ち見のコンサートに行った友達が「前にいたオンナのとさかで全然見えなかったよ!」と怒りをぶちまけた。とさかとは、前髪の前半分を額に下ろし、残り半分をくるんと巻いて立てた若い女の子たちの髪形だ。・・・カーラーで巻いてムースで整えればいいんだって。」との記載がある。
エ 検討
本件商標の構成中の「前髪」及び「カーラー」の各語は、本件査定日当時、それぞれ前記ア(イ)及び(ウ)の意味を有するものとして、我が国において高い信頼性を有すると認められる国語辞典に掲載されていたものであるところ、請求人及び被請求人の主張並びに両者による証拠の全趣旨によると、当該各語がそのような意味を有する語であることは、本件査定日当時、無効対象商品に係る取引者又は需要者(以下、無効対象商品に係る本件査定日当時の取引者又は需要者を「本件需要者等」という。)にとって極めて明確であったものと認められる。
他方、辞典に記載された「くるん」の語の意味及び用例(前記ア(ア))、本件査定日前の新聞記事における「くるんと」等の語の使用例(前記ウ)並びに日本語の文法に照らすと、「くるんと」の語は、前髪を含む毛髪について用いられるときは、通常、「(毛髪が)丸く曲がった様子」を示す語として用いられている。
また、ウェブサイトにおける「くるんっと」の語の使用例(前記イ)に照らすと、「くるんと」の語と「くるんっと」の語は、促音の有無により互いに意味を異にするものとは認められない。
そうすると、「前髪」の語の直前に置かれた本件商標の構成中の「くるんっと」の語は、それが副詞として修飾することになる用言(動詞、形容詞等)が明示されていなくても、その内容は自明であって、通常、「(前髪が)丸く曲がった様子」を示すものとして、本件需要者等に認識されるものと認めるのが相当である。
以上によると、本件査定日当時、本件商標を商品名とする無効対象商品(甲14、甲15)及び請求人標章を商品名とする請求人商品(乙2)を除くほか、「くるんっと前髪カーラー」の語句又はこれに準ずる語句を無効対象商品について用いる例があったと認めるに足りる証拠がないことを考慮しても、「くるんっと前髪カーラー」の語句に接した本件需要者等は、通常、当該語句が「丸く曲がった前髪を作るカーラー」を意味するものと認識することになると認めるのが相当である。
なお、証拠(甲14、甲15)及び請求人及び被請求人の主張によると、被請求人は、本件査定日当時、被請求人商品の品質、効能等をうたう宣伝文句として、「くるんっとカールした前髪ができちゃう!」及び「くるんっと内側にカールした前髪をセットするためのカーラーを考えました」との文言を用いていたとの事実が認められるが、これは、「くるんっと前髪カーラー」の語句に接した本件需要者等において、当該語句が「丸く曲がった前髪を作るカーラー」などを意味するものと認識したとの上記認定に符合するものである。
オ 被請求人の主張について
被請求人は、本件商標の構成中の「くるんっと」の語は副詞であるのに、本件商標の構成中にはこれを明確に受ける動詞が存在せず、本件商標が意味するところは一義的に特定することができるものではないと主張する。
確かに、「くるんっと」という擬態語は、文法上、用言(動詞、形容詞等)を修飾する副詞であると考えられるにもかかわらず、本件商標の構成中の「前髪」及び「カーラー」の各語は、いずれも名詞であるから、「くるんっと」の語が修飾すべき語が本件商標の構成中には見られないことになる。
しかしながら、本件需要者等において、「くるんっと」、「前髪」及び「カーラー」の各語の相互の修飾関係が文法的に正確なものでなければ、これらの語を順番に並べた語句の意味を一義的に把握することができないということはできない。
被請求人は、「くるんっと前髪カーラー」の語句からは、「「くるんっと丸まった弾力のある表面」を有する前髪用のカーラー」、「「くるんっと振り向いても」キープされるカールを作る前髪用のカーラー」、「「くるんっと寝返りを打っても」前髪のカールを作ることができるカーラー」などの様々な意味合いが想起されるとも主張する。
しかしながら、このうち、前記のような意味合いは、理論的にはあり得るとしても、前記ウェブサイトの使用例その他当審に提出された全証拠によっても、「前髪」や「カーラー」と一緒に使用される場合の「くるんっと」という語は、もっぱら「(前髪が)丸く曲がった様子」を示すために用いられていることが認められ、被請求人が主張するような意味合いで用いられている例は見当たらない。
以上のとおりであるから、被請求人の前記各主張を採用することはできない。
(3)本件商標の商標法第3条第1項第3号該当性について
前記(2)のとおり、「くるんっと前髪カーラー」の語句に接した本件需要者等は、当該語句が「丸く曲がった前髪を作るカーラー」を意味すると認識することになるところ、「カーラー」は、「頭髪を巻き付けてカールさせるための円筒形の用具」であるから(前記(2)ア(ウ))、「くるんっと前髪カーラー」の語句は、単に無効対象商品(電気式のものを除くヘアカーラー)の効能等を述べたものにすぎない。
また、本件商標は、「くるんっと前髪カーラー」の語句のみからなり、当該語句を標準文字で表すものであって、無効対象商品の効能等を普通に用いられる方法で表示するものである(「くるんと」の語に促音を付加した「くるんっと」の語を用いた表現が特殊なものであるということはできない。)。
したがって、本件商標は、無効対象商品の品質、効能等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるということができるから、商標法第3条第1項第3号に掲げる商標に該当する。
(4)小括
以上のとおり、本件商標を無効対象商品に使用するときは、これに接した本件需要者等は、その商品が「丸く曲がった前髪を作るカーラー」を表したものと理解し、自他商品の識別標識とは認識しないものというのが相当であるから、本件商標は、単に商品の品質、効能等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。
3 むすび
本件商標は、商標法第3条第1項第3号に違反して登録されたものであるから、その余の無効理由について検討するまでもなく、商標法第46条第1項の規定に基づき、その指定商品中の第26類「ヘアカーラー(電気式のものを除く。)」についての登録を無効にすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

別掲

(行政事件訴訟法第46条に基づく教示)
この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。
(この書面において著作物の複製をしている場合の御注意)
本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。
審理終結日 2024-02-06 
結審通知日 2024-02-09 
審決日 2024-02-26 
出願番号 2020149483 
審決分類 T 1 12・ 13- Z (W26)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 豊田 純一
特許庁審判官 岩谷 禎枝
馬場 秀敏
登録日 2021-06-07 
登録番号 6399042 
商標の称呼 クルンツトマエガミカーラー、クルントマエガミカーラー、クルンツトマエガミ、クルントマエガミ、クルント 
代理人 佐藤 力哉 
代理人 田中 克郎 
代理人 廣中 健 
代理人 小林 奈央 
代理人 中村 勝彦 
代理人 森 友宏 
代理人 笹川 大智 

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