ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申立て 登録を維持 W12 |
---|---|
管理番号 | 1406950 |
総通号数 | 26 |
発行国 | JP |
公報種別 | 商標決定公報 |
発行日 | 2024-02-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-09-14 |
確定日 | 2023-10-05 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 登録第6586965号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 登録第6586965号商標の商標登録を維持する。 |
理由 |
1 本件商標 本件登録第6586965号商標(以下「本件商標」という。)は、「JEIP321」の文字を標準文字で表してなり、令和4年1月25日に登録出願、第12類に属する商標登録原簿に記載の商品を指定商品として、同年6月3日に登録査定され、同年7月13日に設定登録されたものである。 2 引用商標 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する商標は次のとおりであり(以下、それらをまとめて「引用商標」という。)、いずれの商標権も現に有効に存続しているものである。 (1)登録第2434659号商標(以下「引用商標1」という。) 商標の構成 「JEEP」の文字を横書きしてなるもの 指定商品 第12類「全輪駆動小型自動車」 登録出願日 昭和49年6月7日 設定登録日 平成4年7月31日 書換登録日 平成18年1月11日 (2)登録第2511982号商標(以下「引用商標2」という。) 商標の構成 「ジープ」の文字を横書きしてなるもの 指定商品 第6類、第9類、第12類、第13類及び第20類に属する商標登録原簿に記載の商品 登録出願日 昭和59年5月29日 設定登録日 平成5年3月31日 書換登録日 平成16年12月15日 3 登録異議の申立ての理由 申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第11号、同項第15号、同項第19号及び同項第7号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきものであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第81号証(枝番号を含む。)を提出した。 (1)商標法第4条第1項第11号について ア 本件商標について 本件商標は、欧文字4文字と数字3桁の結合からなる「JEIP321」を標準文字で表した商標である(甲1)。 なお、本件商標の構成中、「321」は、0よりも大きな整数の小さい3つを大きな方から順に並べただけの構成であり、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章に該当し、この部分は、出所識別機能を発揮しないものと考える。 すなわち、本件商標における要部は欧文字4文字の「JEIP」であり、需要者においては、当該部分に着目して取引に接するものと思料する。 イ 引用商標について 引用商標1は、欧文字4文字の「JEEP」からなる商標である(甲2)。なお、引用商標1は、その指定商品「前輪駆動小型自動車」の世界的ブランドであり、我が国においても「日本国周知・著名商標」に認定されている商標である(甲3)。 引用商標2は、片仮名3文字の「ジープ」からなる商標である(甲4)。 ウ 商標の類否について (ア)本件商標と引用商標1の類似性について a 称呼について 本件商標の構成中、要部である欧文字の「JEIP」は「ジープ」又は「ジェイプ」と称呼されるものと考える。中間の2文字「EI」は種々の英単語に含まれるが、「ィー」又は「イー」と称呼されることは特別なことではない。例えば、「receive」(リスィーヴ、受け取る)、「deceive」(ディスィーヴ、騙す)、「receipt」(リスィート、領収書)、「ceiling」(スィーリング、天井)、「either」(イーザァ、どちらか一方)などの単語では、「ei」は「ィー」又は「イー」と発音される。本件商標「JEIP」も「E」をローマ字的に「エ」と発音すれば「ジェイプ」という称呼も生じると考えるが、英単語として見た場合、英語風の発音である「ジープ」の称呼が自然に生じるものと考える。 また、称呼「ジェイプ」は、引用商標1の称呼「ジープ」とは音節数が3音で共通し、かつ、本件商標の「ジェ」の部分のうち、仮名小文字で表された「ェ」の音(いわゆる捨て仮名と呼ばれ、音韻学上、単独で一音を構成しない音)は微弱に聴覚されるとともに、引用商標1の長音「ー」も、比較的弱く感取される弱音である。しかも、引用商標1に関しては、聴覚上、相違する音が印象に残り難い中間部に位置している。 すなわち、本件商標の要部の称呼「ジープ」「ジ(ェ)イプ」と、引用商標の称呼「ジープ」とは、同一又は全体的に近似して聴取される類似の関係にある。 さらに、「商標審査基準」では、称呼の全体的印象が近似すると認められる要素の一つとして、「相違する一音の母音又は子音が近似する場合」が挙げられており、その具体例として、「サリージェ」と「サリージー」の両商標中、前者の「ジェ」の音と後者の「ジー」の音は近似するとされている。このことは、本件商標中の「ジェ」の音と引用商標1の「ジー」の音の関係性にも通じるものがあると考える。 したがって、本件商標の要部の称呼と引用商標1の称呼とは、相互に類似するものと思料する。 b 外観について 本件商標の構成中、要部である欧文字の「JEIP」と引用商標1の「JEEP」とは、いずれも欧文字4文字からなるところ、相違するのは、比較的目立ち難い中間部に位置する「I」と「E」の僅か1文字に過ぎず、つづり1文字の微差が看者の記憶や印象等に及ぼす影響は小さいものと考える。 したがって、外観上、両商標は相互に相紛れるおそれがあると思料する。 c 観念について 本件商標は、それ自体、一種の造語として認識される一方、引用商標1は「四輪駆動の小型自動車。アメリカで軍用に開発。商標名。」と「広辞苑」にも掲載されているとおり(甲9)、世界的にも知られる「四輪駆動小型自動車」を意味する。 したがって、観念上は、相互に比較することはできない。 (イ)本件商標と引用商標2の類似性について a 称呼について 引用商標2は、片仮名3文字の「ジープ」からなり、著名商標である引用商標1「JEEP」と称呼を共通にする商標である。 ここで、「ジープ」や「ジェイプ」と称呼される本件商標の要部と「ジープ」と称呼される引用商標2とは、引用商標1の場合と同様、同一又は全体的に近似して聴取される関係にあると思料する。 b 外観について 本件商標と引用商標2とは、文字種や文字数が異なるため、外観上は相互に相違している。 c 観念について 本件商標は、それ自体、一種の造語として認識される一方、引用商標2は世界的にも知られる「四輪駆動小型自動車」を意味する。 したがって、観念上は、相互に比較することはできない。 (ウ)商標の類似性についてのまとめ 以上、検討したように、本件商標と引用商標1とは、全体として観察したときに、構成において異なるところはあるものの、本件商標の要部を分離して対比した場合、称呼及び外観上の同一・類似性から、商品の出所について混同するおそれがある。 また、引用商標2との関係においても、本件商標の要部を分離して対比した場合、称呼上の同一・類似性から、同様に商品の出所について混同するおそれがある。 したがって、本件商標と引用商標とは、相互に相紛れるおそれのある類似商標であると思料する。 エ 指定商品の類似性について 本件商標の指定商品と引用商標の指定商品は、相互に類似する関係にある(類似群コード:12A01、12A02、12A04、12A05、12A06、12A71、12A73)。 オ 本号のまとめ 以上のとおり、本件商標と引用商標とは相互に類似しており、その指定商品も抵触関係にある。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するにもかかわらず、過誤により登録されたものと思料する。 (2)商標法第4条第1項第15号について ア 本件商標と引用商標1の類似性について 本件商標の要部「JEIP」と、「日本国周知・著名商標」にも認定されている引用商標1「JEEP」との類否については、上記(1)で述べたとおり、外観及び称呼上の類似性が認められるところ、一般に著名性を有する商標については、そのつづりの一部を変更し、あるいは、前後に文字や数字などを付加することによって、全体的に外観や称呼が異なる新たな商標が構成されたとしても、部分的に著名商標との共通性が感受できる場合には、それに接した需要者が、当該著名商標との関連性を想起し、商品の出所について誤認・混同する可能性があることは、取引社会の通念及び経験則に照らしても明らかである。 ここで、引用商標1「JEEP」が我が国において著名性を獲得している状況下では、本件商標の構成において、比較的目立ち難い中間部(4文字における3文字目)に位置する文字を変更し、かつ、識別力のない数字を付加したとしても、欧文字4文字からなる外観構成と、前半の「JE」と語尾の「P」の文字の配置から、本件商標に接した需要者は、著名な商標である「JEEP」を想起するものと考える。 さらに、称呼上も、一般的な英文字として見た場合、「ジープ」で共通し、また、「ジェイプ」とした場合も相違する音が微弱に聴覚される音であることなどから、著名な商標である「JEEP」の称呼に近似して聴取されるものと考える。 すなわち、引用商標1「JEEP」が著名であるがゆえに、需要者の印象・記憶・連想等に強く作用し、両商標の共通性が軽微な相違性を凌駕して、商品の出所について誤認・混同を生じるおそれがあるものと思料する。 イ 著名商標を引例とする具体例について 上述のような事例は他にも複数確認でき、とりわけ、以下に挙げた商標は、自動車業界を代表する著名商標を引例として、商品又は役務の出所の混同のおそれを理由に、拒絶、取消、若しくは無効となったものである。 以下の多くの事例において、対象商標は、著名商標と全て同一の文字、又は類似範囲に有る文字を取り込み、さらに他の文字を付加しているものや著名商標の一文字を他の文字に入れ替えたものなどであり、本件の場合も同様の状況が存する。特に、本件商標は要部の称呼の同一性も認められることから、これらの事例における判断と共通の判断がなされるべきものと思料する。 (ア)異議2001−090105(甲10) 登録商標:ZIMA/ジーマ(称呼:ジーマ) 引用された著名商標:CIMA、シーマ (イ)不服2004−008682(甲11) 出願商標:BOULEVARD(称呼:ブールバード) 引用された著名商標:Bluebird、ブルーバード、BLUEBIRD、ほか (ウ)無効2010−890092(甲12) 登録商標:Lambormini十図形(称呼:ランボルミーニ、ランボルミニ) 引用された著名商標:LAMBORGHINI (エ)異議2011−900117(甲13) 登録商標:ECO MINI(称呼:エコミニ) 引用された著名商標:MINI十図形、MINI (オ)異議2016−900344(甲14) 登録商標:PARSONS XTREME GOLF(称呼:パーソンズエクストリームゴルフ) 引用された著名商標:Golf (力)異議2001−090222(甲15) 登録商標:アルファネット/AlfaNET(称呼:アルファネット) 引用された著名商標:ALFAROMEO、ALFA156、ALFA166、ほか (キ)異議2014−900129(甲16) 登録商標:O.S.C.A FRATELLI MASERATI BOLOGNA十図形(称呼:オスカフラッテリマセラティボローニャ) 引用された著名商標:MASERATI (ク)異議2006−090326(甲17) 登録商標:POLONATE(称呼:ポロネート) 引用された著名商標:POLO (ケ)商願2021−044891(甲18) 出願商標:Jimry(称呼:ジムリー) 引用された著名商標:Jimny (コ)異議2000−090197(甲19) 登録商標:ALFA CORSE(称呼:アルファコース) 引用された著名商標:ALFA CORSE (サ)不服2003−021237(甲20) 出願商標:HondaSTYLE(称呼:ホンダスタイル) 引用された著名商標:HONDA (シ)異議2004−090746(甲21) 登録商標:Convolvolo(称呼:コンボルボロ) 引用された著名商標:VOLVO ウ 商品間の関連性と需要者層の共通性について 本件商標に係る指定商品は、第12類に分類される自動車用の附属品であり、申立人の業務に係る商品との間に関連性があるのはもちろんのこと、需要者層や取引者層も必然的に重なる部分が存するものと考える。 なお、異議申立の時点において、本件商標の指定商品と同一の商品が販売されている状況は確認できないが、インターネットのショッピングサイト(Amazon)において、「JEIP321」のブランド名で車内収納ボックスの「スズキ新型ジムニー車用アームレスト コンソールボックス」が販売されている事実が確認できる(甲22)。当該商品は、本件商標の指定商品と同一ではないものの、少なくとも類似範囲には属しており、かつ、他社メーカー用の商品ではあるものの、小型のオフロード四輪駆動車であるスズキのジムニーは、「JEEP」と対比されることが多いことから(甲23〜甲25)、需要者層の共通性を裏付ける根拠の一つになると考える。 エ 具体的な出所混同のおそれについて 引用商標1に代表される申立人の商標「JEEP」は、指定商品「全輪駆動小型自動車」の商標として著名である一方、その禁止権の範囲には、当然のことながら、自動車用の附属品も含まれている。 また、引用商標1と称呼を共通にする引用商標2「ジープ」に関しては、指定商品として「自動車並びにその部品及び附属品」が含まれている。 一方、申立人は、オフィシャルストアを通じて、「JEEP」の標章が付された関連グッズ、例えば、雑貨や小物類を多数販売しており(甲26)、このような状況下では、本件商標に接した需要者が申立人の業務に係る商品であると誤認し、あるいは経済的・組織的に何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがある。 オ 引用商標1の日本国内における著名性について 引用商標1に代表される申立人の商標の著名性について付言すると、「JEEP」は、申立人に係る主要ブランドとして80年以上もの歴史を有し、「四輪駆動小型自動車」の出所識別標識として、世界各国において使用され、かつ、我が国においても「日本国周知・著名商標」に認定され(甲3)、現在に至っている。 すなわち、本件商標の出願時及び査定時において、請求人の商標「JEEP」は、その著名性が厳然と維持されているものと考える。 以下に、その根拠を示すとともに、証拠資料を提出する(甲27〜甲80)。 (ア)引用商標の由来と歴史 「JEEP」は、第2次世界大戦中にアメリカ陸軍が採用した「四輪駆動小型自動車」につけられた愛称であり、その由来として、多目的車を意味する「general purpose car」の頭文字GPを、漫画映画のポパイに出てくる犬のような動物の「Jeeeeep」という鳴き声にひっかけて出来たという説がある(甲27〜甲29)。 一方、商標としての「JEEP」は、1943年に当時の製造メーカーにより米国で出願され、1950年に登録されている(甲5)。また、現在では、世界170か国以上において、「JEEP」の文字が商標登録されている(甲30)。 さらに、我が国でも、1973年に出願されて以降、「Jeep」「JEEP」「ジープ」若しくは「JEEP」の文字を含む結合商標が複数出願されており、現在までに、計30件もの商標が登録されている(甲31)。 なお、商標「JEEP」は、1972年の時点で、すでに商標研究会発行の「新版日本有名商標録」で紹介され(甲32)、その後、特許情報プラットフォームの「日本国周知・著名商標」に登録商標として掲載され、現在に至っている(甲3)。さらに、「広辞苑」においても「四輪駆動の小型自動車。アメリカで軍用に開発。商標名。」と記載されている(甲9)。 (イ)販売台数及び新規登録台数 2011年ないし2021年の日本国内での「JEEP」の販売台数は、各年3,184台ないし14,294台であり、2021年の販売台数(14,294台)は、10年前の2011年と比較すると4.5倍近くも増加しており、かつ、同年には過去最高を記録していることが確認でき、我が国において、その販売台数が好調に推移し、「JEEP」の知名度が順調に高まっていることを証左している(甲33〜甲36)。 また、2011年度から2021年度までの「JEEP」の新規登録台数及びランキングは、各年度3,721台ないし14,255台及び12位ないし8位である(甲37)。 なお、2022年の販売台数及び新規登録台数は、異議申立の時点では末公表である。 近年、若者の車離れが進み、他メーカーが若年層の開拓に腐心する一方、「JEEP」の顧客は若年層が増えているとされ、事実、ユーザーの過半数が20〜30代とするデータがあり(甲38)、その理由として、「JEEP」には高級車というイメージが薄く、また、「SNSにも車の写真を投稿しやすい」といったことも指摘されている(甲39)。実際、「インスタ映えする車ベスト30」では、「JEEP」の車種が第5位にランクインしている(甲40)。 (ウ)各種メディアにおける情報発信 従前より、新聞、雑誌、カタログ等を通じて、「JEEP」の宣伝・広告が継続的に行われているところ(甲41〜甲69)、特に影響力の大きいテレビCMについても多数公開されており、インターネット上でも動画配信されている(甲70〜甲75)。 一方、「YouTube」「Twitter」「Instagram」及び「facebook」等のSNSでも、公式サイトや公式アカウントを通じて、恒常的に情報発信が行われ(甲76〜甲79)、フォロワー数、ツィート数とも増加傾向にあり(甲80)、需要者層による「JEEP」への関心度がうかがえる。 カ 本号のまとめ 以上のとおり、本件商標の要部については、著名な引用商標1「JEEP」と、外観及び称呼上の類似性が認められることに加え、商品間の関連性や需要者層の共通性も認められることから、本件商標に接する需要者等が申立人の業務に係る商品であると誤認し、あるいは経済的・組織的に何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがあると考える。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当すると思料する。 (3)商標法第4条第1項第19号について ア 引用商標1の米国における著名性について 上記(2)で詳述したとおり、引用商標1「JEEP」は、日本国内において「全輪駆動小型自動車」を示す商標として需要者の間に広く認識されている。 本号については、日本国内における著名性の証明によっても適用されると考えるが、さらに、「JEEP」の本場である米国においても、当然その人気は高く、2011年ないし2021年における419,349台ないし973,227台という販売台数(甲81)が、米国における「JEEP」の著名性を証左している。なお、2022年の販売台数は、異議申立の時点では未公表である。 例えば直近の2021年における販売台数は77万8千台であり、日本の同年の販売台数の約54倍に相当する。日本(約1.2億人)と米国(約3.3億人)の人口比からしても、米国における四輪駆動車「JEEP」の浸透度は高く、米国においては「JEEP」が四輪駆動車の代名詞的な存在であると考える。 イ 不正の目的について 「JEEP」は、もともと造語商標であり、かつ、米国をはじめ世界各国において広く認識されている商標である。 すなわち、本件商標の出願人は、そのような「JEEP」の存在を知りつつ、「JEEP」に類似した「JEIP」の文字を有する本件商標の使用を行わんとするものであり、しかも、その指定する商品は、申立人の業務に係る商品である自動車の附属品であることから、世界的に知られる「JEEP」の著名性に便乗し、日本国内において不正の目的をもって使用するものであり、さらには、申立人の著名商標についての出所識別機能を稀釈化させる可能性もあるものと思料する。 また、申立人の商品が販売されている国々では、「JEEP」ブランドの普及活動やユーザー間の交流活動の一環として、文化やスポーツ関連の各種イベントがたびたび開催されており、中国(本件商標の出願人の所在国)においても、まさに「JEEP321」のタイトルが使用されている。すなわち、申立人の商品に係る正規ディーラー(以下「正規ディーラー」という。)がスポンサーとなり、「JEEP321」のタイトルの下に、「JEEP」ユーザーのためのイベントを実施している(甲6、甲7)。 このように、申立人が「JEEP321」の標章を中国で利用している状況から、本件商標の使用者がその7文字の1文字だけを変えた「JEIP321」を商標として選択していることが偶然の一致とは考え難く、引用商標に係る著名性への便乗であり、不正の意思が存するものと考える。 ウ 本号のまとめ 以上のとおり、本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして、日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と類似の商標であって、不正の目的をもって使用をするものと推認される。 したがって、本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当すると思料する。 (4)商標法第4条第1項第7号について 上記(3)のとおり、申立人の商品が販売されている国々では、「JEEP」ブランドの普及活動や各種イベントが開催されているところ、本件商標の出願人の出身国である中国において、「JEEP321」のタイトルの下に、正規ディーラーがスポンサーとなり、「JEEP」ユーザーのためのイベントを実施している事実が確認できる(甲6、甲7)。 他方、インターネット上では、「JEEP321」のアカウント名やハンドルネームを、「JEEP」ユーザーが使用している事例も確認できる(甲8)。 すなわち、本件商標の出願人は、「JEEP」の関係者やユーザー間で実際に使用されている「JEEP321」の標章の存在を知りつつ、「JEEP」に類似した「JEIP」の文字を有する本件商標の出願を、申立人の業務に係る商品である自動車の附属品を指定して行ったものであり、その出願の経緯には、社会的相当性を欠く事情があることが推認される。 したがって、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標であり、商標法第4条第1項第7号に該当すると思料する。 4 当審の判断 (1)引用商標の周知性について ア 申立人提出の甲各号証、同人の主張及び職権調査(インターネット情報、新聞記事情報など)によれば、次の事実を認めることができる。 (ア)四輪駆動自動車「JEEP(Jeep)」は、米国で1941年に軍用モデルとして開発され、1945年に民生用モデルの発売が開始され(甲29)、我が国においては、1953年に現在の三菱自動車工業株式会社がノックダウン生産、販売を開始し、同社の生産は1988年に終了したが(甲23)、その後、何度かの製造、販売業者の変遷を経て、現在は申立人及びその関連会社(以下「申立人等」という。)が製造販売等している(甲33、甲36、甲37等、職権調査)。 (イ)申立人等の製造販売に係る四輪駆動自動車「JEEP(Jeep)」(以下「申立人等商品」という。)の2011年から2021年の日本国内での販売台数は、各年約3,200台ないし約14,300台であり(甲33〜甲36)、2011年度ないし2021年度の新規登録台数及びランキングは、各年度約3,700台ないし約14,300台及び12位ないし8位である(甲37)。 (ウ)申立人等商品は、少なくとも平成27年3月ないし平成28年6月に発行された新聞、雑誌において、広告、紹介等されている(甲41〜甲46、甲56〜甲64)。 (エ)岩波書店発行の「広辞苑」(第5版、第7版)、平凡社発行の「世界大百科事典 12」及び小学館発行の「日本大百科全書 11」には、「ジープ(Jeep)」の項があり、それらには「アメリカ陸軍が採用した四輪駆動小型自動車の愛称であり、商標名である」旨記載されている(甲9、甲27、甲28、職権調査)。 イ 上記アのとおり申立人等商品は、我が国において、1953年(昭和28年)から現在まで70年にわたり販売され、2011年(平成23年)ないし2021年(令和3年)の販売台数は、各年約3,200台ないし約14,300台であり、2011年度ないし2021年度の新規登録台数及びランキングにおいて常に上位に位置し、また、少なくとも平成27年3月ないし平成28年6月に発行された新聞、雑誌において「ジープ」「Jeep」「JEEP」の文字とともに広告、紹介等され、さらに辞書類には「ジープ(Jeep)」の項があり、「アメリカ陸軍が採用した四輪駆動小型自動車の愛称であり、商標名である」旨記載されていることが認められることからすれば、申立人等商品は、本件商標の登録出願の時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品(四輪駆動自動車)として需要者の間に広く認識されているものと判断するのが相当である。 そうすると、申立人等商品に使用され、「四輪駆動自動車」をその指定商品に含むと認められる引用商標1「JEEP」及び引用商標2「ジープ」は、本件商標の登録出願の時及び登録査定時において、申立人等の業務に係る商品(四輪駆動自動車)を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認めるのが合理的である。 (2)商標法第4条第1項第11号について ア 本件商標 (ア)本件商標は、上記1のとおり「JEIP321」の文字を標準文字で表してなり、該文字に相応し「ジェイプサンビャクニジュウイチ」「ジェイプサンニイイチ」「ジェイプスリーツーワン」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものと判断するのが相当である。 そして、本件商標は、その構成中「321」の文字は商品の記号、符号等として一般に用いられる数字の一類型であって、識別力がないか極めて弱いといえるから、「JEIP」の文字部分が取引者、需要者の間に対して強く支配的な印象を与え、該文字に相応し「ジェイプ」の称呼も生じるものといえる。なお、該文字部分からは特定の観念を生じない。 (イ)申立人は、本件商標の構成中「JEIP」の文字部分は、英語の「receive」「deceive」「receipt」などで「ei」は「イ−」と発音されるから、「ジープ」の称呼が自然に生じる旨主張しているが、それら英単語において「ei」が「イ−」と発音されるとしても、語頭が「jei」の英単語はないことに加え、「je」で始まる我が国で親しまれた英単語「jelly」「jet」が「ジェリー」「ジェット」と発音されることからすれば、「JEIP」の文字は、看者をして「ジープ」と発音されるというより、「ジェイプ」と発音されるものと判断するのが自然である。 したがって、申立人のかかる主張は採用できない。 イ 引用商標 引用商標1及び2は、上記2(1)及び(2)のとおり「JEEP」及び「ジープ」の文字からなり、いずれも該文字に相応し「ジープ」の称呼を生じ、「四輪駆動自動車のブランド」の観念を生じるものと判断するのが相当である。 ウ 本件商標と引用商標の類否 本件商標と引用商標の類否について、まず、本件商標の構成中の要部といえる「JEIP」の文字部分と引用商標を比較すると、外観において、本件商標の要部「JEIP」と引用商標1「JEEP」は、3文字目に「I」と「E」という文字の差異を有し、この差異が共に4文字という少ない文字構成からなる両商標の外観全体の視覚的印象に与える影響は小さいものとはいえず、両者は、相紛れるおそれのないものとみるのが相当である。 また、本件商標の要部「JEIP」と引用商標2「ジープ」は、両者の構成文字の差異により容易に区別し得るものである。 次に、本件商標の要部から生じる「ジェイプ」の称呼と引用商標から生じる「ジープ」の称呼を比較すると、両者は語頭部において「ジェイ」と「ジー」の音の差異を有し、この差異音が共に3音という短い音構成からなる両称呼全体の語調語感に及ぼす影響は大きく、両者をそれぞれ一連に称呼しても、かれこれ聞き誤るおそれのないものと判断するのが相当である。 さらに、観念においては、本件商標の要部が特定の観念を生じないものであるのに対し、引用商標は「四輪駆動自動車のブランド」の観念を生じるものであるから、相紛れるおそれのないものである。 そうすると、本件商標の要部と引用商標は、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのないものであるから、両者の外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのない非類似のものであって、別異のものというべきである。 そうすると、本件商標と引用商標は、相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標ということができる。 その他、本件商標と引用商標が類似するというべき事情は見いだせない。 エ 小括 以上のとおり、本件商標と引用商標は非類似の商標であるから、両商標の指定商品が同一又は類似するとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものといえない。 (3)商標法第4条第1項第15号について 上記(1)のとおり引用商標は、申立人等の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認められるものの、上記(2)のとおり本件商標は、引用商標と相紛れるおそれのない非類似の商標であって別異の商標であるから、引用商標の独創性の程度、本件商標の指定商品と申立人等商品との関連性の程度、需要者の共通性などを考慮しても、本件商標は、これに接する取引者、需要者が、引用商標を連想又は想起するものということはできない。 そうすると、本件商標は、商標権者がこれをその指定商品について使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、その商品が他人(申立人等)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。 その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものといえない。 (4)商標法第4条第1項第19号について 上記(1)のとおり引用商標は、申立人等の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認められるものの、上記(2)のとおり本件商標と引用商標は、相紛れるおそれのない非類似の商標であって別異の商標であり、さらに上記(3)のとおり本件商標は、引用商標を連想又は想起させるものでもない。 そうすると、本件商標は、引用商標の著名性に便乗する、引用商標の出所識別機能を希釈化させるなど不正の目的をもって使用をするものと認めることはできない。 なお、申立人は、商標権者の出身国である中国において、申立人及び正規ディーラーが「JEEP321」の標章を利用している状況から、商標権者がその1文字だけ変えた「JEIP321」を商標として選択していることが偶然の一致とは考え難く、引用商標に係る著名性への便乗であり、不正の意思が存する旨主張しているが、中国において「Jeep321」と称するイベントが開催されたことはうかがえるものの(甲6、甲7)、当該イベントが中国で広く知られていること及び当該イベントと申立人(及び商標権者)との関係が確認できないから、申立人のかかる主張は採用できない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものといえない。 (5)商標法第4条第1項第7号について ア 申立人は、商標権者の出身国である中国において、「JEEP321」のタイトルの下に、正規ディーラーがスポンサーとなり「JEEP」ユーザーのためのイベントを実施している、また、インターネット上では「JEEP321」のアカウント名やハンドルネームを「JEEP」ユーザーが使用しているから、商標権者は、「JEEP321」の標章の存在を知りつつ、「JEEP」に類似した「JEIP」の文字を有する本件商標の出願を、自動車の附属品を指定して行ったものであり、その出願の経緯に社会的相当性を欠く事情があることが推認されるとして、本件商標は公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある旨主張している。 イ しかしながら、中国において「Jeep321」と称するイベントが開催されたこと及び「Jeep321」がユーザーネームとして用いられていることはうかがえるものの、当該イベントやユーザーネームが中国などで広く知られていること及び当該イベントやユーザーネームと申立人及び商標権者との関係が確認できず、また、上記(2)のとおり、本件商標の要部である「JEIP」と引用商標1を構成する「JEEP」は非類似であって別異のものであるから、本件商標は、その出願の経緯に社会的相当性を欠く事情があると認めることはできない。 さらに、本件商標が、その出願及び登録の経緯に社会的相当性を欠くなど、公序良俗に反するものというべき事情も見いだせない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものといえない。 (6)むすび 以上のとおりであるから、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも違反してされたものとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。 よって、結論のとおり決定する。 |
別掲 |
(この書面において著作物の複製をしている場合の御注意) 本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。 |
異議決定日 | 2023-09-28 |
出願番号 | 2022007763 |
審決分類 |
T
1
651・
261-
Y
(W12)
|
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
小松 里美 |
特許庁審判官 |
鈴木 雅也 渡邉 あおい |
登録日 | 2022-07-13 |
登録番号 | 6586965 |
権利者 | 朱孟欽 |
商標の称呼 | ジェイプサンビャクニジューイチ、ジェイプサンニイチ、ジェイプ |
代理人 | 岸野 幸子 |
代理人 | 江藤 聡明 |