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審決分類 審判 全部無効 外観類似 無効としない W29
管理番号 1406850 
総通号数 26 
発行国 JP 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2024-02-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2022-10-24 
確定日 2024-01-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第6392531号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第6392531号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、令和2年11月10日に登録出願、第29類「菓子(果物・野菜・豆類又はナッツを主原料とするものに限る。),食用油脂,乳製品,食肉,卵,食用魚介類(生きているものを除く。),冷凍野菜,冷凍果実,肉製品,加工水産物,加工野菜及び加工果実,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,加工卵,カレー・シチュー又はスープのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,なめ物,豆,食用たんぱく,魚を主原料とする加工品」を指定商品として、同3年4月8日に登録査定され、同年5月21日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が引用する国際登録第1005117号商標(以下「引用商標」という。)は、「MSC」の欧文字を横書きしてなり、2009年(平成21年)3月2日に国際商標登録出願、第16類「Printed matter, brochures, periodicals, newsletters, journals; none of the aforesaid for use in relation to computer simulation and computer engineering analysis.」及び第29類「Fish; seafood; food products made with or from fish; salted fish; fish fillets; preserved fish; tinned fish, fishmeal for human consumption; fish extracts; fish spreads; cooked meals and/or chilled meals, containing fish; salted fish; frozen fish, fish products being fresh, preserved or frozen, canned fish, farmed fish products, prepared meals containing fish; edible oils and fats; food products made from fish as snacks; frozen foods made wholly or principally of fish; shrimps (not live); prawns (not live); shellfish (not live); crustaceans (not live).」を指定商品として、平成23年6月3日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由を審判請求書(以下「請求書」という。)及び弁駁書において要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第16号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するものであるから、同法第46条の規定により無効にすべきものである。
2 請求書における主張
(1)請求人及び引用商標の著名性について
ア 請求人の歴史
請求人は、英国ロンドンを本拠とする「持続可能な漁業」を行う漁業者を認証する制度の運営機関である。
請求人は1990年代初頭にカナダ近海・グランドバンクのタラの漁場が乱獲により壊滅状態になったことを契機に、1997年に世界自然保護基金(WWF)と、タラの加工食品を販売していたユニリーバが主体となって設立された。1999年からは両組織から独立した非営利団体となっている。第三者機関による水産資源保全と海洋環境保全に責任ある漁業者の認証を受けた漁業者は、製品に「MSCエコラベル」を表示することができ、世界で消費される天然魚の7%が認証を受けている。日本国内では京都の底曳網漁業や土佐鰹水産の鰹一本釣り漁業などが認証を受けており、環境意識の高まりから日本国外で認証された水産物を含め、MSCエコラベル表示のある製品がイオングループ、西友、生協、セブン&アイグループ、ライフ、マクドナルドなどで流通している(甲4)。
日本における窓口として、一般社団法人MSCジャパンが東京に設立されている。
イ 引用商標
引用商標は、請求人の日本の窓口機関の名称がMSCジャパンであることからも明らかなように、請求人の略称であり、少なくとも2007年1月1日から日本においてその指定商品に関し継続使用されている。
そして、請求人の「MSCエコラベル」(別掲2)は、引用商標である「MSC」が要部を形成するものである。
「MSCエコラベル」によって表示されるMSC認証は、持続可能で適切に管理された漁業でとられた水産物であることを認証する国際的な規準として、広く認識されている。
さらに、引用商標は日本以外でも11か国において登録されており、国際的に保護されている(甲5)。
ウ 我が国における請求人の活動
我が国では約900品目が承認登録されており、「MSCエコラベル」を付して流通、販売されている。また、我が国で請求人の認証を受けている者は299業者となっており、現時点で有効な認証発行数は5429におよぶ(甲6)。
また、請求人の「MSCエコラベル」を積極的に掲示使用して啓蒙活動を行っている大手日本企業がある。特に、日本マクドナルド株式会社では、主要商品であるフィレオフィッシュのパッケージにも「MSCエコマーク」(審決注:「MSCエコラベル」の誤記と認める。以下同じ。)を表示している(甲7)。また、日本最大級のスーパーマーケットであるイオンのプライベートブランドであるトップバリュ商品の包装にも「MSCエコマーク」が表示され、同様に日本最大級のコンビニエンスストアであるセブンイレブンを有するセブン&アイのプライベートブランであるセブンプレミアム商品の包装にも「MSCエコマーク」が表示されている(甲8、甲9)。
このような使用を通して、引用商標を要部とする「MSCエコマーク」は広く日本の需要者に認識されている。
エ 日本での売上高等
日本に拠点を置くライセンス保有者によるMSCラベル付き製品の総申告売上高は、2016年ないし2021年に、年に約3312万ないし約1億6760万英国ポンドであった(海外での販売に関する売上を含むが、大半は日本でラベル付けされて販売されている。)。
また、日本で販売されたすべてのラベル付き製品の売上高は、2016年ないし2021年に、年に約3305万ないし約1億6960万英国ポンドであった(数字はライセンス保持者の所在地に関わらず、日本で販売された製品の総売上高であるが、大部分は日本でラベルを貼り、販売されている。)。
さらに、日本で販売されたMSCラベル付き製品の総量は、2016年ないし2021年に、年4000ないし2万4000トンであった。
オ 請求人のSNS
請求人は、様々なソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を活用して、請求人の業務に係る周知活動をたゆまず継続して行っている。いずれのアカウントにおいても、そのトップページにおいて、顕著に目立つ態様で、引用商標が表示されている。
(ア)請求人は、日本向けのYouTubeチャンネルとして、2017年2月に「MSCジャパン」を登録し、現在までに、総計で16万9055回視聴されている。
(イ)請求人は、2020年2月に、日本向けのTwitterのオフィシャルアカウントを登録した。現在のフォロワー数は2万6300人である。
(ウ)請求人の日本向けfacebookアカウントは、現在6432人のフォロワーを有しており、今までに合計で6294人が「いいね!」を送っている。
(エ)請求人の日本向けInstagramアカウントは、現在1037人のフォロワー数を有しており、合計で458件の投稿がなされている。
(オ)MSCジャパンはブログも活用して宣伝広告活動を行っている。
カ その他
カナダに本社を有する国際的なコンサルティング会社であるGlobeScan(以下「GlobeScan社」という。)が2020年6月に実施した「MSCエコラベル」の認識度調査においては、日本での認知度は19%と全市場の中で最も低い(世界平均は46%)が、2018年以降、認知度は大幅に上昇(+7ポイント)している。また、MSCラベルヘの日本での信頼度は、MSCを知っている消費者の間では高く、世界平均の76%より低いが、70%以上と2016年の水準をはるかに上回っている(甲10)。
キ 小括
「MSCエコラベル」は、持続可能で適切に管理された漁業で獲られた水産物であることを認証する国際的な規準を表すものとして広く認識されており、該ラベルの要部をなす引用商標も日本の需要者の間で広く認識されている。
以上のとおり、請求人は、引用商標を日本においても広く使用してきており、引用商標は、我が国及び海外で周知著名である。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標の特徴について
本件商標は、紺色で図案化された欧文字「MSC」を表記してなり、各文字のサイズが異なり、全体として流線形を形成するように構成されている。そして、本件商標は、欧文字の「MSC」を表記してなるので、本件商標からは、「MSC」の観念及び「エムエスシー」の称呼が生じる。
イ 引用商標の特徴について
引用商標は、ブロック体の欧文字で「MSC」と書してなる構成を有するので、「MSC」の観念及び「エムエスシー」の称呼が生じる。
ウ 本件商標と引用商標の類否について
称呼については、両商標はともに「エムエスシー」の称呼が生じるから、両商標は、称呼を同一にするものであって、両商標は、称呼上、相紛れるおそれがある。本件商標はブロック体ではなく、図案化された欧文字で表記されているものの、その図案化の程度に鑑みれば、容易に欧文字の「M」「S」「C」を看取し得るものであるから、本件商標に接する需要者は、取引上自然に認識する音ないし称呼として「エムエスシー」と本件商標を称呼するものである。
次に観念においても、本件商標及び引用商標は、欧文字「MSC」の観念を想起させるものであり、観念においても相紛れるおそれがある。
本件商標と引用商標とは、外観においては相違するが、称呼及び観念において同一であり、簡易迅速を伴う商取引においては、全体的総合的に考察すると誤認混同が生じるおそれが大きい。本件商標の欧文字の図案化の程度を勘案すると、本件商標及び引用商標を場所と時間を異にして離隔的に観察した場合、本件商標及び引用商標の称呼及び観念が同一であり、外観においても欧文字「MSC」と理解される構成を有する点が共通することから、商品の出所を誤認混同するおそれが大きい。この点は特に、引用商標が上述のように周知著名である点を考慮すれば、より明らかである。
なお、本件審判請求前に提起された異議2021−900301号事件(以下「異議決定」という。)において示された本件商標の認定については、以下の理由により承服できない。
先ず、被請求人会社のホームページ(甲11)では、本件商標がその商号である「(株)南食品」の左側方に併記されており、その社屋にも同様に商号である「(株)南食品」の左側方に併記されており、さらには、「会社情報」の欄には本件商標が表記されている。かかる使用態様より、本件商標は、被請求人会社名の英文表記である「Minami shokuhin CO.,LTD」の頭文字である欧文字「M」「S」「C」を形取ったものであることは明らかであり、また、これに接した需要者も欧文字「MSC」を看取し得るものである。
なお、被請求人会社名の英文表記が「Minami shokuhin CO.,LTD」であることは上記被請求人会社のホームページ最下部の「Copyrights(c)2014Minami shokuhin CO.,LTD..AllRights Reserved.」(審決注:(c)は、○の中にcの文字。以下同じ。)の記載からも明白である。
本件商標は、各図形は、その端部を先細にして、横方向に延在する部分は縦方向に延在する部分に比して太さを細くするように統一的にデザインされており、各図形の太さが特に異なるものではない。また、大きさは多少各図形で異なるが、これによって図案化が著しく進み、各図形が由来する欧文字の「M」「S」「C」が看取し得ないほどのものではない。よって、本件商標は全体で、特定の欧文字「MSC」として看取されるものである。
さらには、J−PlatPatの本件商標の参考称呼欄にも「エムエスシイ」と表記されており、通常の需要者が本件商標に接した場合には欧文字「MSC」を看取することの表われと考えられる。
してみれば、本件商標と引用商標とは類似の商標である。
エ 指定商品の類否について
本件商標に係る指定商品のうち、第29類「食用油脂,食用魚介類(生きているものを除く。),肉製品,加工水産物,魚を主原料とする加工品」は、引用商標に係る指定商品のうち、第29類の商品と同一又は類似の関係にある。
オ 小括
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 本件商標と引用商標との類似性の程度について
本件商標と引用商標は、上記(2)のとおり、称呼及び観念において同一であり、商標全体として、非常に近似した商標である。
イ 引用商標の周知度について
上述のとおり、請求人は、引用商標を日本においても広く使用してきており、引用商標は、我が国及び海外で周知著名である。
ウ 請求人引用商標の独創性等について
引用商標は欧文字3文字からなり、何らの既成語ではなく、非常に印象に残るものであり、独創的である。
エ 請求人商標がハウスマークであるかについて
請求人の使用に係る商標は、請求人の名称の略称として使用されており、実質的に、請求人のハウスマークともいうべきものである。
オ 請求人における多角経営の可能性
本件においては、本件商標に係る指定商品と請求人が引用商標を使用する商品は、そもそも同一・類似の関係にあるので、当該要件を検討する必要性は特にない。
カ 商品間の関連性、商品等の需要者の共通性について
上述のとおり、本件商標に係る指定商品と請求人が引用商標を使用する商品は、そもそも同一・類似の関係にあるものであり、商品間の関連性は非常に高い。また、取引者・需要者も共通する。
キ 小括
本件商標は、上記アないしカの全ての要件において、商品の出所について誤認混同を生じるおそれが肯定される方向にあるため、本件商標に接した取引者、需要者は、本件商標に係る商品について、請求人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し、商品の出所について混同するおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
3 弁駁書における主張
本弁駁書では特に、被請求人の商標法第4条第1項第11号に関する答弁に対する弁駁を行う。
(1)被請求人会社の英文名称又は英文表記
本件商標から欧文字MSCが認識され、その結果本件商標から「エムエスシイ」の称呼・観念が生じるか否かが、本件商標が引用商標との関係において商標法第4条第1項第11号に該当するか否かの主要な争点である。その文脈において、本件商標が欧文字MSCを基に該文字を図案化することによって生まれた標章か否かが重要なファクターになると思われる。
被請求人は被請求人会社の英文名称又は表記が「Minami shokuhin CO.,LTD.」であることを否認する。
しかしながら、自社ホームページにおける著作権表示において該英文名称又は表記を使用している点については被請求人も自認しているとおりであり、該著作権表示は当該著作権の所在及び発行年を示すことで、著作権侵害行為に対する警告という事実上の効果をもたらす重要なものであり、該著作権表示において虚偽の英文名称又は表記を使用することは考えられない。また、かかる重要な著作権表示において自ら使用し公開している英文名称又は表記を否認することは荒唐無稽の主張といわざるを得ない。
さらに、被請求人会社ホームページに掲載のYouTube動画においても英文名称又は表記として「Minami Shokuhin CO.,LTD.」が使用されており「S」が大文字となっているが上記「Minami shokuhin CO.,LTD.」と実質同一である(甲13)。
本件商標が被請求人英文名称又は表記の頭文字MSCを基に、当該欧文字を図案化することによって作成・採択されたことは明らかであり、否認するのであれば、被請求人は本件商標作成の経緯につき証拠をもって立証すべきと考える。
以上より、本件商標は被請求人会社の英文名称又は英文表記の頭文字である欧文字「M」「S」「C」を図案化して成る商標であることは明らかである。
(2)本件商標の使用態様
本件商標は、被請求人会社の本社社屋、事業所社屋、工場社屋、トラック、ウェブサイト等にその会社名「(株)南食品」と併記して広く使用されている(甲13、甲14)。
このような本件商標の使用態様より、本件商標が被請求人会社の英文名称又は英文表記である「Minami shokuhin CO.,LTD.」の頭文字である欧文字「M」「S」「C」を図案化して成る商標であることは明らかであり、かつ、本件商標に接した取引者及び需要者は欧文字「MSC」を容易に看取し認識し得る。
そして、例えば、日本企業名データベースに示されているように、日本企業の英文表記において「CO.,LTD」は広く採用されており、株式会社等の英文表記として「CO.,LTD」を想起することは日本の取引者・需要者の間で一般的であり、不自然とは考えられない(甲15)。これは被請求人会社と同様に、英文表記において一部日本語のローマ字表記を採用している場合にもいえることである(甲16)。
したがって、被請求人会社の英文名称又は表記は「Minami shokuhin CO.,LTD.」であり、取引者・需要者は、その頭文字が欧文字「M」「S」「C」であると認識し得る。
(3)本件商標の図案化の程度
次に本件商標の図案化の程度について考察する。
これは、本件商標の図案化の程度が著しく、本件商標に接した取引者・需要者が、もはや欧文字「M」「S」「C」を想起し、認識し得ない場合には本件商標からは該欧文字の称呼・観念である「エムエスシイ」は生じ得ないことから問題となる。
そこで、本件商標の構成についてみると、本件請求書においても述べたとおり、本件商標の各図形部分は、その図案化の程度から、特定の欧文字である「M」「S」「C」をただちに認識し得るものである。
被請求人は、本件答弁書において、本件商標から欧文字「M」「S」「C」がイメージし得ることを自認しているが、仮に百歩譲って、本件商標から欧文字「MSC」のみを看取し認識するものでないとしても、欧文字「M」「S」「C」を看取し認識し得る(イメージし得る)のであれば、本件商標から「エムエスシイ」の称呼・観念が生じることを否定し得ない。
なお、J−Platpatの参考称呼欄について記載したのは、該参考称呼欄の記載はあくまで参考情報であることは重々承知の上で、少なくとも参考称呼を入力した者は本件商標に接した際に本件商標から「エムエスシイ」の称呼が生じるものと認識したものであり、本件商標に接した取引者・需要者が本件商標から「エムエスシイ」の称呼が生じるものと認識し得ることを示唆するものであることを示すためである。
被請求人主張のように、本件商標は「MSC」として看取・認識されないのであれば、そのような参考称呼での記載は生じ得ない。
(4)結語
上述したように、本件商標は「M」「S」「C」を図案化した構成を有し、その図案化の程度から、欧文字「MSC」を看取し、認識し得るものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。

第4 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると主張し、その理由を答弁書において、要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第8号証を提出した。
1 引用商標の周知性
異議決定では、引用商標の周知性を認めなかったとはいえ、引用商標の周知性を判断するための、客観的かつ具体的な証拠が提出されていたならば、引用商標の周知性が認められたかもしれない、と請求人(申立人)に示唆していた。それにもかかわらず、請求人の請求書の「無効原因」を検証すると、その内容は異識申立ての「具体的理由」と実質的に同一である。たとえば「YouTubeチャンネル」の現在までの視聴数、Twitterのフォロワー数、facebookのフォロワー数及び「いいね!」の人数、Instagramのフォロワー数及び投稿数などの数値は、令和3年11月8日に提出された異議申立ての手続補正書と、令和4年10月24日に提出された請求書との間に1年近いタイムラグがあるにもかかわらずまったく同一である。
このように、引用商標の周知性に関して、異議決定で指摘された客観的かつ具体的な証拠の補充が一切行われておらず、請求人による主張を単純に繰り返しているだけである。したがって請求人は、引用商標の周知性に関して、異議決定を覆すような説得力のある主張を何らしていない。
なお被請求人は、念のため独自に引用商標の周知性を調べてみた。
たとえば株式会社シーフードレガシーという「サステナブル・シーフードに関するコンサルティング事業」を行う企業のウェブサイトの2021年6月8日付記事では「「認証はあくまでツールにすぎない」MSC審査員が語る認証制度への本音。」という題名で、「日本はわずか10件と日本のMSC認証普及は未だ十分とは言えません」「日本ではなかなか根付かないMSC認証」というテーマを掲げながら、MSCジャパンで働いた経験を持ち、現在もMSC認証の審査員として活動しているO氏の談話を紹介し、引用商標が日本で周知性を得ていないことを認めている(乙5)。これはMSCの利害関係者自身が、MSCの周知性を否定する発言として興味深い。
次に関係ビジネスの俯轍的な評価として、Pointblank Promotions LTDという英国所在の持続可能性ビジネスのプロモーションを行う企業のウェブサイトの2022年6月15日付記事では、「MSC認証マークが日本で普及しない理由 サステナブルシーフードとは」という題名で、日本のMSC認証ラベルの認知度が19%と、世界23カ国平均の46%には遠く及ばず、日本にはMSC認証を受けていない業者が少なくないと述べている(乙6)。
最後に消費者視点からは、みらい色合同会社が運営する生活情報サイトの2022年6月付記事では「知らない人が多い「MSC認証」 海エコ活しよう!」という題名で、「まだ日本では知名度が低く、詳細を知らない人も多いのではないでしょうか」と述べている(乙7)。
このようにMSCの利害関係者、ビジネス担当者、消費者のいずれも、引用商標の周知性を否定している。
2 商標法第4条第1項第11号
異議決定では本件商標と引用商標の類似性を認めなかったが、審判官の判断を覆すような説得力のある論旨を請求人(申立人)が展開していたならば、両商標の類似性が認められたかもしれない、と請求人(申立人)に示唆した。ここで再び請求人の請求書の「無効原因」を検証すると、商標法第4条第1項第11号の主張に関しても、その内容は異議申立ての「具体的理由」と実質的に同一である。唯一の新たな主張として、被請求人のウェブサイト等を挙げ、本件商標は全体として特定の欧文字「MSC」として看取し得る、としている。
しかしながら被請求人は、当該請求人の主張によっては、本件商標が「エムエスシイ」と称呼されることが証明されないものと確信する。
(1)請求人は被請求人の会社名が株式会社南食品であること、その英文表記の頭文字「M」「S」「C」であることを理由として、本件商標が「MSC」と看取されると述べているが、請求人の会社について予備知識をまったく持たない取引者・需要者が純粋にこの図形商標だけを見て、即座に「これは株式会社南食品の商標である、その英文名称はMinami shokuhin CO.,LTD.である」と認識するとは常識的に考えられない。この請求人の主張は「誰もが被請求人の英文表記を知っているから、誰もがこの図形から「MSC」の文字を看取できる」という、取引の実情を無視したきわめて強引な論理構成である。
もっとも、地元の取引先など一定の予備知識がある既存の取引者であれば、「南(Minami)」の「M」と「食品(shokuhin)」の「S」までは連想することも可能かもしれない。しかし、最初の2文字が日本語の単なるローマ字の頭文字と続いた後に、最後の「C」だけ英語の「CO.,LTD.」の頭文字と連想するのは不自然であり、困難でもある。また「食品(shokuhin)」の「S」についても、食品なら「F(food)」ではないかと考える取引者もいるであろうし、即座に「S」の文字であると看取するとは限らない。
したがって本件商標に接した通常の取引者・需要者は、本件商標が「Minami shokuhin CO.,LTD.」の頭文字「M」「S」「C」であるとは看取せず、一定の予備知識がある既存の取引者であっても、「S」の看取がいくらか困難になり、最後の「C」は更に看取が困難になる。
(2)被請求人会社のウェブサイトの最下部にある「Copyrights(c)2014Minami shokuhin CO.,LTD..AllRights Reserved.」の記載は、ウェブページの著作権の管理状況について閲覧者の注意を喚起するための表示であり、本件商標とはまったく無関係である。この記載は、概して閲覧者がほとんど注意を払わない部分であり、またページの最後までスクロールしなければ到達しないので、閲覧者がこの記載をまったく見ないことも普通にあり得る。
また、請求人が被請求人の英文名称を確認したのは、この著作権に関する記載のみである。実際のところ被請求人のウェブサイトには、これ以外で「Minami shokuhin CO.,LTD.」の記載は存在しない。このようなマイナーな記載を通常の取引者・需要者が丹念に確認するとは到底考えられず、請求人にしてみれば、被請求人の英文名称に「M」「S」「C」が含まれているのではないかという特定の目的があったからこそ発見できたものといえる。
したがって、このように目立たない、たった1か所の記載を発見したという事実のみをもって、被請求人会社名の英文表記が「Minami shokuhin CO.,LTD.」である明白な証拠と主張するのは無理がある。
(3)請求人は、本件商標を構成する各図形の図案化は著しく進んでおらず、各図形は欧文字「M」「S」「C」が看取し得ないほどのものではないと主張しているが、これは本件商標を構成する3つの各図形の図案化が著しく進んでいるために、本来であれば特定の称呼及び観念を持たない単なる図形から「文字や数字など、何か意味のあるものをイメージすることもある」だけであり、仮に本件商標から図形以外の何か意味のあるものにイメージしたとしても、それはさまざまなイメージの1つに過ぎず、「M」「S」「C」の欧文字のみに限定して看取されるわけではない。
たとえば本件商標の左端の図形を請求人は「M」と看取し得ると述べているが、これは看取というのではなく、むしろ「M」とイメージし得る、というほうが適切であり、この図形から下端が切れたハート図形をイメージすることも可能である。このように左端の図形からはさまざまな図形や文字がイメージ可能であり、特定の称呼及び観念に限定されない。それは翻って、左端の図形が特定の称呼及び観念を有していないことを裏付けるものといえる。
これは中央及び右端の図形についても同様である。たとえば中央の図形は「S」のイメージだけでなく、数字の「5」をイメージすることも可能である。また右端の図形は「C」のイメージだけでなく、三日月の図形をイメージすることも可能である。
このように本件商標を構成する3つの図形は、いずれもさまざまな図形や文字がイメージ可能であることから、本件商標は「MSC」に限定して看取されるわけではなく、基本的には特定の称呼及び観念を有していない、単なる図形である。
なお附記すると、本件商標全体から、左側が頭、中央が胴体、右側が尻尾の3つの要素によって「魚」をイメージすることも可能である。
(4)J−PlatPatの本件商標の参考称呼欄に「エムエスシイ」が存在するという主張に対して、この称呼欄はあくまでも「参考情報」であり、称呼を確定するものでないことは言うまでもない。
特に本件商標の場合には、称呼そのものが生じるのか(文字商標であるのか)、生じないのか(単なる図形商標であるのか)が重要な問題であり、この参考称呼欄ではそのような称呼発生の有無について言及されないので、まったく参考にならない。
(5)上述したように、本件商標は「MSC」として看取されず、「エムエスシイ」の称呼も生じないことから、請求人の主張は成り立たない。
3 商標法第4条第1項第15号
異議決定では、本件商標が商標法第4条第1項第15号の規定に該当するためには、少なくとも引用商標の周知性が認められることが条件となることを請求人(申立人)に示唆していた。ここで請求人の請求書の「無効原因」を検証すると、商標法第4条第1項第15号に関する主張の内容は、異譜申立ての「具体的理由」の単純なコピーである。
したがって請求人は、引用商標の周知性に関して、異議決定を覆すような説得力のある主張を何らしておらず、結果的に商標法第4条第1項第15号が適用されるための主張も一切行っていない。さらに上述したとおり、引用商標が周知性を得ていないことは被請求人によって改めて裏付けられている。
4 むすび
上述したように請求人は、引用商標の周知性について異議決定を覆すような説得力のある主張をまったく行っておらず、それどころが被請求人の調査によって、引用商標が周知性を得ていないことが改めて裏付けられた。
また商標法第4条第1項第11号に関する新たな主張については、被請求人会社名の英文表記を誰もが知っているからその頭文字「MSC」と看取できる、という強引な論理構成であり、本件商標と引用商標との類似性を示す証明にならない。
さらに、商標法第4条第1項第15号に関しても、異議決定を覆すような説得力のある主張をまったく行っていない。
したがって本件審判の請求は成り立たない。

第5 当審の判断
請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係を有する者であることについては、当事者間に争いがないので、本案に入って審理し、判断する。
1 引用商標の周知性について
請求人提出の甲各号証及び同人の主張によれば、次のとおりである。
(1)請求人について
請求人は、1997年に英国ロンドンで設立され、水産資源と環境に配慮した持続可能な漁業で獲られた水産物に表示する「MSCエコラベル」を管理、推進する非営利団体である。
なお、日本における窓口として、一般社団法人MSCジャパンが東京に設立されている(甲4、請求人の主張)。
(2)日本における「MSC「海のエコラベル」」の認証及び使用の状況
日本では、「MSC「海のエコラベル」」(以下「請求人ラベル」という。別掲2)の付いた水産品は、約900品目が承認、登録されており、請求人の認証を受けている者は299業者、有効な認証発行数は5429とされる。そして、請求人ラベルを付した種々の製品が、我が国の複数の企業によって販売されている(甲4、甲6〜甲9、請求人の主張)。
また、請求人は、複数のSNSにおいて、日本向けのアカウントを登録しており、それらのトップページにおいて、引用商標を表示しているとされる(請求人の主張)。
(3)日本における売上高等について
日本に拠点を置くライセンス保持者による請求人ラベル付き製品の総申告売上高は、2016年ないし2021年で約3312万ポンドないし1億6760万ポンド、日本で販売されたすべての請求人ラベル付き製品の売上高は、2016年ないし2021年で約3305万ポンドないし1億6960万ポンド、日本で販売された請求人ラベル付き製品の総量は2016年ないし2021年で4000トンないし2万4000トンとされる(請求人の主張)。
(4)請求人ラベルの認知度及び信頼度について
GlobeScan社が2020年6月に行った請求人ラベルの認知度調査によれば、世界平均が46%であるところ、日本での認知度は19%であり、全市場で最も低い結果であった。また、請求人ラベルに対する信頼度は、世界平均が76%であるところ、日本においては、2016年が59%、2018年が73%、2020年が71%であった(甲10)。
(5)小括
以上によれば、請求人は、持続可能な漁業で獲られた水産物に表示する「MSCエコラベル」を管理、推進する非営利団体であって、日本においては、請求人ラベルを付した種々の製品が、複数の企業によって販売されており、それらが2016年ないし2021年の期間に一定程度流通していたことはうかがえるものの、日本における請求人ラベルの認知度は、2020年6月時点で19%にすぎないことに加え、引用商標が単独で、請求人の業務に係る商品について使用されている事実は見いだせない。さらに、請求人が主張する売上高や販売数量を裏付ける証拠を含め、請求人ラベル又は引用商標が使用された商品についての販売数量、売上高、市場シェアなどの販売実績や広告宣伝の方法等、その周知性を客観的に判断するための客観的かつ具体的な証拠は提出されていないから、本件商標の登録出願時及び登録査定時における、請求人ラベル及び引用商標の周知性の程度を推し量ることはできない。
そのほか、請求人の提出に係る甲各号証を総合してみても、請求人ラベル及び引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、日本の取引者、需要者の間で、請求人の業務に係る商品を表示するものとして広く認識されていたと認めるに足りる事実は見いだせない。
したがって、引用商標は、請求人の提出に係る甲各号証によっては、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
2 商標法第4条第1項第11号について
(1)本件商標
本件商標は、別掲1のとおり、大きさの異なる3つの紺色図形を、横に並べて表したものである。
本件商標中、左部分は、中央のくぼみからほぼ左右対称に緩やかな山形で表された図形からなり、中央部分は、欧文のS字状の図形であり、右部分は、欧文字のC字状の図形であるところ、上記各部分は、それぞれ同色で、曲線からなり、構成の一部分を他の部分のより太く表しているなど、デザイン化の手法も類似して、まとまりよく表されている。
そして、本件商標の構成中、中央部分及び右部分は、欧文字の「S」及び「C」の文字とその形状を同じくすることから、「S」及び「C」の文字をデザイン化したものとして認識、理解される場合があるといえる。また、本件商標の構成中、左部分は、2つの山形からなるという欧文字「M」の形状の特徴を備えており、その右側のデザイン化された「S」及び「C」の文字とともに、同色かつ同じ手法でデザイン化され、まとまりよく表されていることからも、当該左部分は、「M」の文字をデザイン化したものとして認識、理解される場合があるといえる。
そうすると、本件商標は、「MSC」をデザイン化して表したものと認識される場合があるといえるから、その構成文字に相応して「エムエスシイ」の称呼を生じ、また、当該文字は、辞書等に掲載のないものであって、特定の意味合いを想起させることのない一種の造語であるから、特定の観念は生じないものである。
(2)引用商標
引用商標は、サンセリフ体で表された「MSC」の黒色の文字からなるところ、上記(1)と同様、その構成文字に相応して「エムエスシイ」の称呼を生じ、特定の観念は生じないものである。
(3)本件商標と引用商標の類否
本件商標と引用商標を比較すると、外観においては、本件商標は、曲線からなるデザイン化された紺色の文字で表されているのに対し、引用商標は、一般的な書体であるサンセリフ体の黒色の文字で表されており、その全体の外観が著しく相違するものであって、看者がそれぞれから受ける印象は全く別異のものであるから、両者は、外観上、判然と区別し得るものである。
次に、称呼においては、本件商標及び引用商標は「エムエスシイ」の称呼を生じるから、両者は、称呼上、共通する。
そして、観念においては、本件商標と引用商標とは、いずれも特定の観念を生じないから、両商標は、観念上、比較することができない。
そうすると、本件商標と引用商標とは、称呼を共通にするとしても、その全体の外観が著しく相違し、判然と区別し得るものであり、観念については比較することができないものであるから、両者の外観、称呼及び観念等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は非類似の商標というのが相当である。
その他、両商標が類似するというべき事情は見いだせない。
(4)請求人の主張について
請求人は、過去の裁判例(甲12)を挙げ、本件商標も引用商標と類似と判断されるべき旨を主張しているが、商標の類否の判断は、査定時又は審決時における取引の実情を勘案し、その指定商品及び指定役務の取引者・需要者の認識を基準に比較される商標について個別具体的に判断されるべきものであるから、当該裁判例をもって上記判断が左右されるものではない。
したがって、請求人の主張は採用できない。
(5)小括
以上のとおり、本件商標と引用商標は非類似の商標であるから、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品が同一又は類似のものであるとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第15号について
上記1のとおり、引用商標は、請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認めることができないものであって、上記2のとおり、本件商標と引用商標とは非類似の商標であり、別異の商標というべきものである。
そうすると、本件商標は、その商標権者が、これをその指定商品について使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、その商品が他人(請求人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
4 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号のいずれにも違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり決定する。
別掲
別掲1 本件商標(色彩は原本参照。)


別掲2 MSC「海のエコラベル」(甲4等:色彩は原本を参照。)




(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合の御注意) 本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。

審判長 高野 和行
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
審理終結日 2023-08-01 
結審通知日 2023-08-09 
審決日 2023-08-22 
出願番号 2020138560 
審決分類 T 1 11・ 261- Y (W29)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 高野 和行
特許庁審判官 小俣 克巳
石塚 利恵
登録日 2021-05-21 
登録番号 6392531 
商標の称呼 エムエスシイ 
代理人 杉村 光嗣 
代理人 長嶺 晴佳 
代理人 吉川 晃司 
代理人 門田 尚也 
代理人 吉川 明子 
代理人 杉村 憲司 
代理人 中山 健一 

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