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審決分類 審判 一部無効 商3条柱書 業務尾記載 無効としない W41
管理番号 1405880 
総通号数 25 
発行国 JP 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2024-01-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2021-09-13 
確定日 2023-12-22 
事件の表示 上記当事者間の登録第6118624号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第6118624号商標(以下、「本件商標」という。)は、「五輪」の文字を標準文字で表してなり、平成29年12月19日に登録出願、第41類「セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,放送番組の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),スポーツの興行の企画・運営又は開催,スポーツの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供,スポーツ競技結果の情報提供,インターネットを利用した画像・映像・映画の提供,当せん金付証票の発売,技芸・スポーツ又は知識の教授,献体に関する情報の提供,献体の手配,文化又は教育のための展示会の企画・運営又は開催,動物の調教,植物の供覧,動物の供覧,図書及び記録の供覧,図書の貸与,美術品の展示,庭園の供覧,洞窟の供覧,書籍の制作,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,インターネットを利用した音楽の提供,放送番組の制作における演出,映像機器・音声機器等の機器であって放送番組の制作のために使用されるものの操作,競技会及び授賞式の運営,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),競馬の企画・運営又は開催,競輪の企画・運営又は開催,競艇の企画・運営又は開催,小型自動車競走の企画・運営又は開催,音響用又は映像用のスタジオの提供,運動施設の提供,娯楽施設の提供,オンラインゲームの提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,興行場の座席の手配,映画機械器具の貸与,映写フィルムの貸与,楽器の貸与,運動用具の貸与,テレビジョン受信機の貸与,ラジオ受信機の貸与,レコード又は録音済み磁気テープの貸与,録画済み磁気テープの貸与,ネガフィルムの貸与,ポジフィルムの貸与,おもちゃの貸与,遊園地用機械器具の貸与,遊戯用器具の貸与,書画の貸与,写真の撮影,通訳,翻訳,カメラの貸与,光学機械器具の貸与,娯楽の提供,興行におけるチケットの手配,娯楽の提供及びスポーツの興行の企画・運営又は開催,文化又は教育のための展示会の企画・運営,当せん金付証票の企画・運営,スポーツイベント及び文化イベントの手配及び運営,音響及びビデオ映像の記録物の制作,音響又は映像の記録物の演奏又は上映及び貸与,運動競技の計時,ビューティーコンテストの企画・運営又は開催,インターネットによる電子ゲームの提供,インターネットを用いて行う音楽の提供,スポーツの結果に関する情報の提供,スポーツの興行及びスポーツイベントの企画・運営又は開催に関する情報の提供,オーディオの記録及び制作,ニュースレポーターによる取材・報告」を含む、第1類、第3類、第9類、第11類、第12類、第14類、第16類、第18類、第21類、第24類、第25類、第28類、第30類、第32類、第35類、第36類、第38類、第39類、第42類、第43類及び第45類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同31年2月1日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
本件審判請求人(以下「請求人」という。)が、本件商標の登録の無効の理由において、商標法第4条第1項第10号に該当するとして引用する商標は、株式会社Olympicグループが小売業に使用するとされる「Olympic」及び「オリンピック」の文字からなる商標(以下、これらをまとめて「引用商標」という場合がある。)である。

第3 請求人の主張
1 請求の趣旨
請求人は、本件商標について、第41類の「全指定役務」(以下「本件請求役務」という。)についての登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由(商標法第3条第1項柱書、同項第2号、同法第4条第1項第6号、同項第7号、同項第10号)を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第11号証(枝番号を含む。)を提出した。
2 請求の理由(要旨)
(1)手続の経緯
請求人は、ブログ及びYouTubeチャンネルを通じて、オリンピック関連商標について多くの情報発信と意見交換を行い、さらに、将来的にオリンピック関連商標に関するセミナーの企画、ビデオの制作、スポーツの振興のための法人設立等において「五輪」を含む商標を使用することを検討している。
従前、「五輪」は何人も自由使用できたところ、被請求人により商標登録されたことにより、請求人の使用に支障をきたす、又はそのおそれがある。
(2)共通事項
ア 五輪の歴史
「五輪」は、仏教典由来の日本語で、我が国では古代オリンピック以前から使用され、「五輪」を使用した兵法書「五輪書」等で知られるように、我が国の文化人に使用されてきたことで、IOCが設立された1894年には、我が国では既に、我が国の文化が化体した文化言語として周知であった。
その中で、IOCが主催するオリンピック競技大会が東京で開催されようとしていた1836年に、読売新聞の記者が、我が国の文化言語として周知の「五輪」に、古代オリンピックから引き継がれたオリンピック精神と図形標章を重ね合わせた造語として、新聞スペースの節約も考慮して、オリンピック競技大会を表す日本語として「五輪」を使用し出した。
以降、我が国ではメディアを始め、広く国民、様々な事業者及びその需要者が、オリンピック表示標章に対する敬意と親しみがこもった愛称、他称として「五輪」を自由に使用した結果、我が国ではオリンピック表示標章の愛称、他称、俗称として著名になり現在に至った80年近い歴史があり、かかる歴史は我が国では周知である。
イ オリンピック表示標章と「五輪」の類否
オリンピック表示標章と「五輪」の文字標章は、外観及び称呼は非類似であるが、オリンピック標章が世界的又は我が国で絶大な著名性を有し、「五輪」が我が国ではオリンピック表示標章の愛称、他称、俗称として絶大な著名性を有するから、共通してオリンピック表示標章が観念されるため、総合すると、互いに類似する。
ウ 五輪の表示主体
「五輪」は、商標登録を受ける前は、不正競争防止法第17条によってIOCの許可を受けた者以外は適法に使用できず、一方で、IOCの登録商標の禁止権の範囲の商標であるため、IOCは他人にライセンスできない。
商標登録を受けた後は、商標法のライセンス禁止条項によって、IOCは他人にライセンスできない。
つまり、「五輪」は、不正競争防止法第17条及び商標法のライセンス禁止条項によって、表示主体たるIOC以外の者が適法に使用することができないため、「五輪」の商標登録出願前後、及び「OLYMPIC」(登録第99160号商標)の商標登録後の遅くとも1918年以降、商標法上はIOC以外の者は「五輪」の表示主体に適法になり得ない。
また、我が国では、1936年以降現在に至るまで、大衆が表示主体となって「五輪」を自由に使用してきたが、IOCが表示主体となって使用した痕跡はない。
したがって、「五輪」の表示主体は、IOCではなく、大衆である。
エ IOCの違法ライセンス活動
IOCファミリーの有する商標法第4条第2項に基づく登録商標は、商標法のライセンス禁止条項によりライセンスできない。そうすると、我が国では、それら商標を、IOCファミリー中の商標権者以外には、適法に使用できる者は存在しないのであり、その商標権者及びIOCファミリー以外の者は、使用権限なく登録商標を使用していることになるので、商標権侵害をしていることになり、商標権侵害罪に該当する行為を行っている。
IOCファミリーは、我が国で、IOCファミリーの登録商標について、広範に公然と商標法上違法となるライセンス活動をしており、その対価として4,000億円あまりの協賛金を得ている。
オ IOC及びオリンピック競技大会の非営利公益性
平成18年度民法改正前は、商標法における非公益性は、旧民法第34条に基礎づけられているところ、IOCは、旧民法第34条における公益法人ということができ、結果として、商標法上の非営利公益団体であり、非営利公益団体であるIOCが運営するオリンピック競技大会も商標法上の非営利公益事業であるといえる。
平成18年度民法改正後の公益認定制度の下で、IOCが民法に基礎づけられた公益法人であるとはいえず、したがって、IOCが商標法上の非営利公益団体であり、オリンピック競技大会が商標法上の非営利公益事業であるとはいえない。
(3)商標法第3条第1項柱書について
本件商標の指定商品及び指定役務の区分数は22、各区分にはおびただしい数の商品及び役務が記載されており、IOCが本件商標の登録出願時に本件商標を使用しているか又は使用意志があることは客観的に明らかではない。
本件商標は、登録出願時に出願人(IOC)により使用されていない又は使用意思がないため、商標法第3条第1項柱書の要件を具備しない。
(4)商標法第3条第1項第2号について
「五輪」は、80年近くの長期にわたり我が国の大衆が表示主体となって広くオリンピック表示標章の愛称、他称として自由使用した結果、大衆の中の何人かが使用しても、他の事業者は、それをオリンピック競技大会に関係する商品又は役務を示すものと認識できても、何人の商品又は役務を標章するのかを認識できなくなっており、すなわち、識別力を喪失し、慣用商標になっている。
「五輪」は、IOCだけが適法に表示主体となり得、IOC以外の者は適法に表示主体になり得ないにもかかわらず、歴史的観点からは、大衆が表示主体となって80年近くの長期間にわたり自由に使用してきている。IOCはただの一度も表示主体として「五輪」を使用しなかった結果、「五輪」は、大衆が表示主体であるオリンピック表示標章の愛称、他称、俗称であると認識できても、IOCが表示主体である商標とは認識できなくなっている。
以上から、本件商標は、我が国では自他商品識別力を失っており、商標法第3条第1項第2号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第6号及び同条第2項について
ア 「五輪」は、オリンピック表示標章の類似範囲の商標である。
オリンピック表示標章は、いずれも平成18年民法改正前に、商標法上の非営利公益団体によって商標登録されており、商標法上の非営利公益事業の表示商標である。
したがって、「五輪」は、非営利公益事業の表示商標であるオリンピック表示標章に類似する商標であるから、商標法第4条第1項第6号に該当する。
イ 本件商標の登録出願時及び査定時において、その出願人たるIOCが非営利公益法人であり、オリンピック競技大会が非営利公益事業であるといえないから、本件商標に商標法第4条第2項は適用されない。
ウ 「五輪」を、オリンピック表示標章に類似する商標と取り扱っても、オリンピック表示標章を想起する俗称であるからオリンピック表示標章に含めると拡大解釈して取り扱っても、商標法第4条第1項第6号により登録を受けることができない一方で、IOCが表示主体として使用した痕跡のない「五輪」をIOCが商標登録出願しても、商標法第3条第1項柱書を形骸化する状況を生じさせるため、本件商標は商標法第4条第2項を適用して商標登録を受けることはできない。
エ 商標法第4条第2項の適用は、IOCが行うオリンピック競技大会のオリンピック表示標章とすべきであり、それを拡大解釈して「五輪」を含めて解釈すべきではない。
(6)商標法第4条第1項7号について
ア 「五輪」は、我が国(外国)で周知著名となった標章で、本件商標の登録出願時及び査定時において、誰でも自由に使用できる公有の状態になっており、特定の者に独占させることが好ましくない標章であって、我が国の新聞記者がIOCの意思とは無関係に創作した日本語であり、その後から現在に至る80年近くの長きにわたりIOCは商標管理をしてこなかった。その結果、ネット社会化が著しく進んだ現下、従前以上に広範に公有の状態が続いているから、本件商標をIOCが商標登録することは、我が国で広範な違法ライセンスを展開していることに示されるIOCのコンプライアンス意識の欠如に鑑みればなおさら、我が国における公有の状態を広範に阻害することになり、社会通念に照らして著しく妥当性を欠く。
イ IOC及びIOCファミリーは、我が国で登録したおびただしい数の登録商標に基づき、遅くとも2000年以降、我が国で、ライセンシーを商標権侵害状態に置くことを知りながら、少なくとも20年間という長期間にわたり、我が国全域で違法ライセンス活動を展開している。
すなわち、本件商標の使用についても、IOCは、IOCファミリーを通じて、IOC自身が我が国で展開する大規模な違法ライセンスの一環として、スポンサー企業には使用を容認し、既に我が国の大衆が公有の商標として使用している状態に対して、本件商標に係る商標権に基づき差止請求することを表明しており、もはや権利濫用の域にある。
以上から、このようなコンプライアンスの著しく欠如したIOCによる本件商標の登録は、差止請求権が濫用され、公益及び商標秩序が著しく毀損され、請求人を含む我が国の需要者にとって不測の不利益を生じるおそれがあり、穏当を著しく欠くもので、公正な商標秩序の下での自由競争を確保し、産業の発達を目的とする商標法の目的に反する。
ウ IOCは、商標法第4条第1項第6号及び同条第2項の非営利公益団体等として優遇措置を享受しながら、平成18年度民法改正に伴い創設された公益法人制度の下で、商標法上の非営利公益団体に相当しているとはいえない。
かかる状況は、我が国が世界に向けて、権威の尊重と国際信義に基づきIOC及びオリンピック競技大会を表示するオリンピック表示標章を手厚く保護するという、世界に向けた誠実な姿勢を深く傷つけるものであり、国際信義に著しく反する。
エ IOCによる本件商標の登録出願は、他人に商標登録されていないことを奇貨として、違法ライセンスをしたスポンサー企業の不当利益を守るという不正な目的で、公有の商標として本来自由にできる大衆の使用を禁止するという権利濫用を行うためだけにした悪意の出願であるから、商標法が予定する商標秩序に反する。
オ 本件商標は、商標法第4条第1項第6号及び同条第2項該当性以外の拒絶理由が審査されることなく、商標登録が維持されている。
このように、本件商標が、商標法の基幹制度たる審査制度に服することなく商標登録されていることは、商標法の予定する公正かつ公平な商標秩序を根底から毀損するもので、公序良俗に反する。
カ 以上から、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(7)商標法第4条第1項10号について
ア 株式会社Olympicグループは、引用商標(「Olympic」、「オリンピック」)を使用した専門店やディスカウントストア、スーパーマーケットなどの小売業を、1962年の出店以来、首都圏全域に展開し、引用商標は首都圏を含め全国的に著名である。
同社の業務に係る商品及び役務は、多岐にわたる。
イ 本件商標「五輪」は、引用商標に類似する。
ウ 同社の企業規模があれば、例えば、運営するスーパーマーケットを使用して、需要者のための各種イベントを実施できることは、近年のスーパーマーケットの運用形態として需要者が十分想定できる。そして、そのようなイベントは、本件商標の第41類の指定役務と重複する。
エ 以上から、本件商標「五輪」は、他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている引用商標に類似する商標であって、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用するものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
3 被請求人の主張に対する弁駁(要旨)
(1)請求人適格について
請求人に無効審判の請求の利益がないというためには、客観的にみて、商標権の存続期間が満了し、かつ、商標権の存続期間中にされた行為について、請求人に対し、損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり、刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情が存することが必要である。
したがって、本件商標に係る商標権の存続期間が満了していないことだけをもって、請求人の訴えの利益が消滅したというための特段の事情は存在しないといえる。
さらに、本件商標の存続期間中に「五輪」を含む商標を使用することは、請求人に対し、損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり、刑事罰が科されたりする可能性があるから、請求人の訴えの利益が消滅したというための特段の事情は存在しない。
以上から、被請求人の請求人適格に関する主張は失当である。
(2)被請求人及び同人が行う事業の公益性
ア 被請求人は、審決を援用するのみで、被請求人がどう解釈して、被請求人が非営利公益団体であり、オリンピック競技大会は非営利公益事業であるといえるのかについて何ら主張していない。
イ 被請求人が援用する商標審査基準は、平成28年4月1日以降に適用されるもので、それ以前の商標審査基準には被請求人が引用する箇所の掲載はなく、特に、俗称としての「五輪」の文字がオリンピックを表示する標章であることは記載されていない。
ウ スイス民法典60条の下で被請求人が非営利団体であることが、そのまま我が国における非営利公益団体であることを担保しない。
被請求人は、我が国において、公益認定制度が発足して以降、同制度の下で認定を受ける前提となる法人登記をしておらず、非営利公益性の認定を受けていない。
非営利公益団体及び非営利公益事業については、商標法に定義規定がないので、平成18年度民法改正以前は旧民法第34条に基づき、平成18年民法改正後はそれを発展的に解消、改訂して2006年6月2日に交付された公益認定制度の中核となるいわゆる公益三法に基づいて解釈すべきである。
自らの意思の下で公益認定制度の下で認定を受けていない被請求人が、同制度の下での非営利公益団体であるなど、公益認定等委員会が認めるはずはないから、被請求人が商標法上の非営利公益団体と認定できない。
(3)表示する標章と商標法第4条第1項第6号について
商標法第4条第1項第6号の「表示する標章」に、俗称「五輪」を含めることは、その範囲を不明確にし、同号及び同条第2項の制度趣旨を逸脱する違法な運用である。
(4)商標法第3条第1項柱書
被請求人は、本件商標を、商標登録までの80年以上使用しておらず、さらに、引き続き、取消審判の対象となる商標登録後3年以上使用していないから、被請求人に本件商標の使用意思はなかったとするのが自然かつ合理的である。
(5)商標法第3条第1項第2号
商標「五輪」は、多種多様な商品及び役務について事業者が使用した結果、商品又は役務の業務上の信用が化体した場合に、当該業務上の信用が商標法の保護対象となるべきところ、被請求人が商標管理を怠ったため、その保護すべき業務上の信用が化体せず、その結果、「五輪」は慣用商標若しくは公有の状態にある商標、又は事業者だけでなくその需要者も含めた広く我が国の大衆が自由使用する俗称となった。
被請求人は、商標「五輪」をそもそも使用していないから、商標「五輪」には被請求人の商品又は役務の信用が化体しておらず、商標法による保護対象とならない。
(6)商標法第4条第1項第6号及び同条第2項
過去の異議決定を根拠とする被請求人の主張は、根拠がなく失当である。
(7)商標法第4条第1項第7号
過去の異議決定を根拠とする被請求人の主張は、支離滅裂な主張であり失当である。
また、被請求人の反論は、的が外れており、根拠がなく、反論の体をなしてないから、失当である。
(8)商標法第4条第1項第10号
株式会社Olympicグループが使用する引用商標は、同社の業務に係る商品又は役務を表示する周知商標である。
同社は、著名なインターネット百科事典に掲載されている。
同社は、首都圏で、主力事業のスーパーマーケットを約100店舗展開しており、その他に、複合ショッピングセンター、ホームセンター、ディスカウントストアの業態を展開している。
同社は、2018年度から2022年度の売上が1,000億円程度で推移している。
同社は、インターネット検索すると、「Olympic」の文字とともにトップに掲載される。
同社による商標「Olympic」の使用は、当初から1964年東京オリンピック開催を意識したものであり、被請求人の商業主義路線の拡大とともに、同社の大きな信用が化体している。
(9)その他
被請求人が請求人の主張について否認、反論していない事項については、請求人の指摘を認めたことになる。

第4 被請求人の答弁
1 答弁の趣旨
被請求人は、結論同旨の審決を求める、と答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第10号証(枝番号を含む。)を提出した。
2 答弁の理由(要旨)
(1)請求人適格について
請求人主張の事由は、登録商標と同一又は類似の標章を指定商品と同一又は類似の商品について使用する行為に該当するなどの理由で、請求人が、本件商標により法律上の利益や、その権利に対する法律的地位に直接の影響を受けるか、又は受ける可能性のある者であることを示すものではないから、請求人は、利害関係人にあたらず、請求人適格を満たさない。
(2)被請求人及びその事業の公益性について
過去の審決、不正競争防止法の関連規定、商標審査基準によれば、被請求人が公益に関する団体であって営利を目的としないものであり、それが行うオリンピック競技大会は公益に関する事業であって営利を目的としないものであること、「五輪」の文字は被請求人が行う競技大会であるオリンピックを表示する「オリンピック」及び「OLYMPIC」の俗称として知られているから、我が国においてオリンピック競技大会を表象する標章として認識されているといえる。
(3)商標法第3条第1項柱書
過去の異議決定にあるとおり、「五輪」の文字は、「オリンピック」の俗称として広く一般に親しまれたものであること、「オリンピック」は、本件商標権者等が開催しているものと広く認識されていること、及び「オリンピック」に係る標章が多種多様な商品及び役務について使用されている実情を併せ考慮すれば、本件商標権者がその指定役務について、本件商標の使用をする意思を有しているとみるのが自然である。
したがって、本件登録は、商標法第3条第1項柱書の要件を具備する。
(4)商標法第3条第1項第2号
本件商標が、本件請求役務との関係で慣用商標というためには、本件商標が、同業者間に普通に使われるに至った結果、取引界において当該役務の慣用名称と認められていることが必要であり、また、同業者間で役務自体を表す名称として一般的に使用された事実が必要である。
しかしながら、請求人が、具体的に、何の役務について本件商標が慣用商標であると主張立証しようとするのか不明確であり、また、本件商標が、本件請求役務について、同業者間で役務自体を表す名称として普通に使われた事実は全く主張立証されていない。
「五輪」といえば、被請求人が開催するスポーツの祭典であるオリンピック競技大会を直接表象する商標である「オリンピック」の我が国における俗称として需要者に広く認識されているから、本件商標は、本件請求役務との関係で、その提供主体が被請求人であることを示す識別力の極めて高い著名商標である。
(5)商標法第4条第1項第6号及び同条第2項
過去の異議決定において、本件商標は、商標法第4条第1項第6号に該当するが、同条第2項の規定により、同条第1項第6号は適用されないとされている。
また、被請求人が、国際的な非政府の非営利団体であることは、オリンピック憲章にも規定されている。
さらに、「五輪」は、我が国において、被請求人が公益に関する事業であって営利を目的としない事業活動を表示するために使用する著名な標章であり、表示する標章に該当する。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第6号に該当するが、同条第2項の規定により、同条第1項第6号の無効理由に該当しない。
(6)商標法第4条第1項第7号
過去の異議決定において、本件商標の商標法第4条第1項第7号の該当性は否定されている。
また、「五輪」は、被請求人の事業の出所を表示する著名商標であるから、公有の状態にはない。
加えて、請求人は、被請求人が自己の登録商標を違法ライセンスし、一部の使用者には使用を容認し、既に我が国の大衆が公有の商標として使用している状態に対しては、本件商標に係る商標権に基づき差し止め請求することを表明しており、もはや権利濫用の域にあるなどと述べるが、そのような事実はない。
さらに、請求人は、被請求人の行っている悪質な違法行為に鑑みれば、本件商標を登録することは国際信義に反すると述べるが、そのような事実はない。
本件商標は、被請求人が行うオリンピック競技大会を表象する標章であるから、他人の商標を先取り的に出願したものではなく、自己の商標を出願したにすぎない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
(7)商標法第4条第1項第10号
請求人提出の証拠からは、株式会社Olympicグループが使用する引用商標が、同社の業務に係る商品又は役務を表示する周知商標である事実は認められない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。

第5 当審の判断
1 請求人適格について
請求人が商標法第46条第2項にいう、本件審判の「利害関係人」といえるかについて、当事者間に争いがあるため、以下検討する。
(1)利害関係人について
商標法第46条第1項に基づく商標登録の無効審判の請求は、同条第2項の規定のとおり、利害関係人に限り請求することができる。
そして、ある商標の登録が存在することによって、直接不利益を被る関係にある者は、それだけで利害関係人としてのその商標の登録の無効審判を請求する利害関係を有するといえる(東京高裁昭和35年(行ナ)第106号、昭和36年4月27日判決参照)。
(2)事実関係
ア 請求人の主張及び提出証拠によれば、以下の事実が認められる。
(ア)請求人は、自身が関与するブログ(甲1の1)、動画チャンネル(甲1の2)、執筆(甲7)を通じて、オリンピック競技大会と関連する情報発信を行っている。
(イ)審判請求書において、請求人は、将来的には、オリンピック関連商標に関するセミナーの企画、ビデオの制作、スポーツの振興のための法人設立等において「五輪」を含む商標を使用することを検討している旨の意思表示をしている。
(3)検討
請求人は、将来的に「五輪」を含む商標を使用した事業活動の使用意思を表明しているところ、当該事業予定を裏付ける具体的な証拠は見いだせないものの、五輪とも称されるオリンピック競技大会について著述や情報発信をしているから、本件商標から直接不利益を被るような事業活動を行う可能性を直ちに否定することまではできない。
したがって、請求人は、本件審判の請求について利害関係を有すると認められる。
2 本件商標の無効理由について
(1)商標法第3条第1項柱書について
本件商標権者は、下記(3)ア(イ)のとおり、「五輪」の俗称でも親しまれているオリンピック競技大会の主催者であって、同大会が数年ごとに継続して開催されていることは当審において顕著な事実である。
そうすると、本件商標権者は、本件請求役務に係る事業を現に行っており、本件商標を自己の業務に係る役務について使用することに、特段の不自然な点はない。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項柱書の要件を具備する。
(2)商標法第3条第1項第2号について
ア 本件商標は、上記第1のとおり、「五輪」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字は「密教で、物質構成の要素である五大を円輪に擬していう語。(五輪旗を用いるからいう)オリンピックの俗称。」の意味を有する語(「広辞苑 第7版」岩波書店、甲2)である。
そして、「五輪」の語は、以下(3)ア(イ)のとおり、本件商標権者の主催するオリンピック競技大会の俗称として著名であり、本件請求役務の役務の種別などを表示する慣用商標として使用され、自他役務の出所識別標識としての機能を有さない語として認識、理解されている事実は見いだせない。
したがって、本件商標は、本件請求役務について慣用されている商標ではなく、商標法第3条第1項第2号に該当しない。
イ 請求人は、「五輪」の語は、多種多様な商品及び役務について事業者が使用した結果、我が国の大衆が自由使用する俗称となった旨を主張するが、当該語は上記のとおり本件商標権者の主催するオリンピック競技大会の俗称として著名であるから、自他役務の出所識別標識としての機能を十分果たし得るものであって、請求人提出の証拠を踏まえても、特段自他役務の出所識別標識としての機能を有さない語になっているとの事実は確認できない。
(3)商標法第4条第1項第6号及び同条第2項について
ア 商標法第4条第1項第6号について
(ア)本件商標は、「五輪」の文字を標準文字で表してなる。
(イ)国際オリンピック委員会(IOC)が主催するオリンピック競技大会(甲5の1)は、著名な国際的スポーツ競技大会であるところ、当該大会の俗称として「五輪」の語(甲2)が使用されており、当該俗称もオリンピック競技大会を指称する語として我が国において広く知られていることは当審において顕著な事実である。
(ウ)そして、オリンピック競技大会は、国際的な非政府の非営利団体である国際オリンピック委員会(IOC)(甲5の1、6)により、開催都市と開催地の国内オリンピック委員会(甲6の1)の協力の下で開催されている国際的スポーツ競技大会であって、スポーツを通じた社会一般の利益に資することを目的としている。
(エ)以上によれば、「五輪」は、公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する著名な標章であると認められる。
また、本件商標「五輪」は、その著名な標章と構成文字を共通にする同一又は類似の商標と認められる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第6号に該当する。
イ 商標法第4条第2項について
本件商標権者は、上記のとおり、「五輪」と俗称されるオリンピック競技大会の主催者である。
したがって、本件商標は、公益に関する事業であって営利を目的としないもの(五輪と俗称されるオリンピック競技大会)を行っている者が、商標法第4条第1項第6号に該当する商標(五輪)について商標登録出願するものだから、同号の規定は、同条第2項の規定により、適用されない。
ウ 請求人は、本件商標には商標法第4条第2項の規定が適用されないことを、オリンピック競技大会は非営利公益事業ではないことや、「五輪」は同項の要件を具備しないことなどに基づき主張する。
しかしながら、商標法第4条第2項は、同条第1項第6号に掲げる商標について当該団体自体が出願した場合には、他の商標登録要件が充たされる限り商標登録を受けられるという規定であり、その理由は、団体自身が使用するのならば商標登録をしても一向に差し支えないばかりか、逆に団体が業務を行う場合には未登録のものであれ他人のその商標の使用を排除する必要があるから、商標登録を受けられるようにすることが必要だからである(甲3の10)。
そして、本件商標権者が同大会(五輪)の主催者として同大会と関連する商標(本件商標を含む。)を商標権として管理をすることに特段の問題は見いだせないから、本件商標について同条第2項の規定の適用を否定する理由はない。
なお、仮にオリンピック競技大会が、公益に関する事業であって営利を目的としないものといえないのであれば、そもそも商標法第4条第1項第6号に該当しないから、同条第2項を適用するまでもなく、請求人が主張する無効理由は存在しなくなることを付言する。
エ 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第6号に該当するが、同条第2項の規定により、同条第1項第6号の無効理由に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第7号について
請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当する旨を、「五輪」は公有の状態にあること、本件商標権者が使用していないこと、本件商標権者に権利濫用があること、国際信義に反することなどを指摘しつつ主張する。
しかしながら、本件商標の構成文字である「五輪」の語は、上記(3)ア(イ)のとおり、国際オリンピック委員会(IOC)が主催するオリンピック競技大会の俗称として著名であって、その主催者である本件商標権者が当該語を商標管理しようとすることは至極自然なことであるから、請求人主張の事実関係にかかわらず、その登録出願が公序良俗を害するおそれがある行為とは評価し難い。
また、提出証拠からは、本件商標について、その出願及び登録の経緯に社会的相当性を欠くなど、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるというべき実情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
(5)商標法第4条第1項第10号該当性について
ア 請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当する旨を、株式会社Olympicグループが同社の小売店などで使用する引用商標(「Olympic」、「オリンピック」)が著名であるとして引用しつつ主張する。
しかしながら、提出証拠によれば、「Olympic」の文字が、同社の小売店舗の看板に表示されている(甲11の4)としても、引用商標が本件請求役務に類似する役務(例えば、セミナーやスポーツの興行の企画など)について、同社(又は本件商標権者以外の事業者)により使用されている実態すら明らかではないから、引用商標が、我が国の需要者の間において、本件商標権者以外の商標として、広く知られるに至っていると認めることはできない。
イ 以上のとおり、引用商標は、他人(本件商標権者以外の者)の業務に係る役務(本件請求役務に類似する役務)を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標ではないから、その他の要件について検討するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第10号を適用する要件を欠く。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
(6)まとめ
以上のとおり、本件商標は、本件請求役務について、商標法第3条第1項柱書、同項第2号、同法第4条第1項第6号(同条第2項の規定による)、同項第7号及び同項第10号のいずれにも違反してされたものとはいえないから、同法第46条第1項第1号の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。

別掲
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。
審理終結日 2022-05-26 
結審通知日 2022-06-01 
審決日 2022-06-14 
出願番号 2017166105 
審決分類 T 1 12・ 18- Y (W41)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 矢澤 一幸
特許庁審判官 小田 昌子
阿曾 裕樹
登録日 2019-02-01 
登録番号 6118624 
商標の称呼 ゴリン 
代理人 藤倉 大作 
代理人 尾首 智子 
代理人 松尾 和子 
代理人 佐竹 勝一 
代理人 柴 大介 
代理人 中村 稔 
代理人 三木 義一 
代理人 柴 大介 
代理人 三木 義一 
代理人 柴 大介 
代理人 辻居 幸一 
代理人 井滝 裕敬 
代理人 田中 伸一郎 
代理人 三木 義一 

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