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審決分類 審判 一部申立て  登録を維持 W42
管理番号 1401960 
総通号数 21 
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2023-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-14 
確定日 2022-11-29 
異議申立件数
事件の表示 登録第6366631号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6366631号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第6366631号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成よりなり、令和2年3月6日に登録出願、第42類「受託による新製品の研究開発,科学技術に関する研究,科学に関する研究,技術文書の作成,コンピュータソフトウェアの設計,コンピュータソフトウェアのバージョンアップ,コンピュータシステムの設計,コンピュータシステムの遠隔監視,コンピュータプログラムの変換及びコンピュータデータの変換(媒体からの変換でないもの),オンラインによるアプリケーションソフトウェアの提供(SaaS)」並びに第12類及び第39類に属する商標登録原簿に記載の商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同3年2月17日に登録査定され、同年3月22日に設定登録されたものである。

2 登録異議申立人が引用する商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が登録異議の申立ての理由において、本件商標が商標法第4条第1項第10号、同項第11号及び同項第15号に該当するとして引用する登録第5884666号商標は、「ANT」の欧文字を横書きしてなり、2013年(平成25年)12月12日に香港においてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張して、平成26年1月20日に登録出願、第42類「機械器具に関する試験又は研究」並びに第9類及び第35類に属する商標登録原簿に記載の商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成28年9月30日に設定登録されたものであり、現に有効に存続しているものである。

3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は、その指定商品及び指定役務中、第42類「全指定役務」について、商標法第4条第1項第10号、同項第11号及び同項第15号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきであると申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第33号証を提出した。
(1)申立人と引用商標について
アント グループ カンパニー リミテッドは、申立人とその他の関連会社を含むアントグループの親会社である。アントグループは、世界最大のオンライン決済プラットフォームである「Alipay(アリペイ)」を運営し、アントグループとその関連会社は、引用商標を、支払いやローン等を含む金融業務に広く使用している。また、アントグループは、それらに関連してIT技術も提供している(甲3)。申立人は、引用商標以外にも、「ANT」の文字をその構成に有する商標(「ANT FINANCIAL」(登録第5774381号)等)を使用し、日本以外でも、中国、香港、インド、アメリカ、カナダを含む全世界で、それらの商標を使用及び登録している。
「Alipay(アリペイ)」は、2011年に、アリババ グループ ホールディングス リミテッドから派生したサービスであり、現在はアントグループによって運営されている。2019年6月30日時点では、「Alipay(アリペイ)」は、アントグループの現地パートナーとともに、世界中で約12億人のユーザーに提供されており、現在では13億人と8000万人の事業者にサービスが提供されている。
アントグループは、日本においてもモバイル決済とライフスタイルプラットフォーム「Alipay(アリペイ)」を中心に広くサービスを開始し、2019年時点で、その加盟店は既に30万店超となっていた(甲4)。また、多数のメディアへも掲載されている。その結果、引用商標は、日本の需要者・取引者においても、申立人の業務に係る商品等を表示するものとして広く一般に知られている。
申立人は、日本の需要者・取引者に向けた日本語でのウェブサイトを開設し、引用商標を使用している(甲3)。
また、引用商標のメディアへの掲載として、「日本経済新聞」(電子版を含む購読数は約260万部)、「毎日新聞」(購読数は約460万部)、「ウォール・ストリート・ジャーナル」、ロイター通信社が運営するニュースサイト、「SankeiBiz(サンケイビズ)」、野村総合研究所の刊行物、「東洋経済オンライン」等がある(甲5〜33)。
申立人のコアブランドとしての全国規模での使用、多数のメディア掲載等の結果、引用商標の周知著名性は極めて高いものとなっている。
(2)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標について
本件商標は、「ANT」の欧文字と「WORK」の欧文字とを結合してなるものであり、その構成文字のうち「WORK」の文字は、「稼働・機能する」といった意味合いでも用いられ、本件商標の指定役務であるコンピュータ関連サービスとの関係では、識別力は弱く、「ANT」の文字部分のみが出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。
そのため、本件商標からは、その全体から「アントワーク」の称呼が生じるほか、その要部に応じて「アント」の称呼も生じる。また、本件商標の構成文字のうち、「ANT」の語は「蟻」の意味を有し、「WORK」の語は「稼働・機能する」といった意味を有しているため、本件商標は、全体として「蟻が稼働・機能する」といった観念のほか、その要部に応じて「蟻」の観念も生じる。
イ 引用商標について
引用商標は、「ANT」の欧文字を一連に横書きしてなるものであるから、「アント」の称呼と、「蟻」の観念を生じる。
ウ 本件商標と引用商標の類否
(ア)外観の比較
本件商標と引用商標とは、特に目につきやすい語頭の「ANT」の文字部分が共通するため、両者は外観上も一定の類似性を有している。
(イ)称呼の比較
本件商標からは、その要部に応じて「アント」の称呼も生じるのに対して、引用商標からは「アント」の称呼が生じるため、両者は「アント」の称呼が共通するから、称呼上類似である。
(ウ)観念の比較
本件商標からは「蟻」の観念も生じるのに対して、引用商標からは「蟻」の観念が生じるため、両者は「蟻」の観念を共通にするから観念上類似である。
(エ)商標審査基準における規定
引用商標の周知著名性は極めて高いものとなっているから、仮に、本件商標が、外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあると認められる場合であっても、商標審査基準によると、本件商標と引用商標は類似と判断される。
(オ)取引の実情
申立人は、引用商標以外にも、同じく「ANT」の文字をその構成に有する「ANT FINANCIAL」、「ANTFIN」等の複数の商標を使用し、また、出願・登録も行っている。したがって、本件商標に接する需要者・取引者が、「ANT」の文字をその構成に有する本件商標を申立人の識別標識と誤認混同する可能性は極めて高い。
(カ)指定役務の類否
本件商標の第42類の指定役務の一部と引用商標の第42類の指定役務とは、相互に類似する。
(キ)小括
以上によれば、本件商標は、引用商標に類似し、その指定役務と同一又は類似の役務について使用するものであるため、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第10号について
引用商標は、申立人のコアブランドとしての全国規模での使用、多数のメディア掲載等の結果、その周知著名性は極めて高いものとなっている。
また、本件件標は、引用商標と少なくとも称呼及び観念が共通し、商標審査基準及び取引の実情も総合的に考慮すると、両者は類似と判断される。
さらに、申立人は、引用商標を使用して、金融業務に関連したブロックチェーン技術、人工知能、セキュリティ、IoT等のIT技術を提供しているから、本件商標の第42類の指定役務の一部と引用商標の使用役務とは、相互に類似する。
以上によれば、本件商標は、周知著名な引用商標に類似し、その使用役務と同一又は類似の役務を指定するものであるため、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第15号について
ア 引用商標の周知著名性及び独創性の程度について
申立人のコアブランドとしての全国規模での使用、多数のメディア掲載等の結果、引用商標の周知著名性は極めて高いものとなっている。
また、引用商標「ANT」は、既成語ではあるが、一般的な日本人にとっては直ちにその意味合いが理解されるとは考えられず、一種の造語としても認識され得るものである。そうすると、引用商標の独創性は一定程度ある。
イ 本件商標と引用商標との類似性の程度について
本件商標は、引用商標と、称呼及び観念が共通し、商標審査基準及び取引の実情も総合的に考慮すると、両者の類似性は相当高いと判断される。
ウ 本件商標の指定役務と引用商標の指定商品等との関連の程度について
本件商標の指定役務が、引用商標の指定役務及び使用役務と類似するのは、上記で述べたとおりである。
エ 小括
以上のとおり、本件商標は引用商標とは類似性が高く、引用商標の周知著名性及び独創性の程度も高く、本件商標の指定役務と引用商標に係る指定商品等とは関連性が高いため、本件商標に接する需要者・取引者は申立人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品又は役務であると誤認し、出所について混同するおそれがある。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。

4 当審の判断
(1)引用商標の周知性について
ア 申立人の提出にかかる証拠及び同人の主張によれば、以下のとおりである。
(ア)アントグループは、企業概要によれば、「中国最大のモバイル決済とライフスタイルプラットフォーム「Alipay(アリペイ)」の親会社」である(甲3)。また、申立人は、アントグループの親会社であるアント グループ カンパニー リミテッドの関連会社とされる(申立人の主張)。
(イ)申立人は、我が国において引用商標以外にも、「ANT FINANCIAL」「ANTFIN」「ANT BANK」「ANTCHAIN」「ANT UNICORN」「ANT FOREST」の各商標を出願、登録している(申立人の主張)。その他、日本以外の中国、香港、インド、アメリカ、カナダを含む全世界で、それらの商標を使用及び登録しているとも主張しているが、これを裏付ける証拠の提出はない。
(ウ)「Digital PR Platform(2019年5月13日付)によれば、日本でのアリペイ加盟店舗数が30万を突破したとされる(甲4)。
(エ)「アリペイ」は、アントフィナンシャルサービスグループが提供する決済プラットフォームなどであり(甲4、甲13ほか)、「アリペイ」や「アント・フィナンシャル」に関連する記事が、「日本経済新聞」(電子版)、「週刊エコノミスト Online」、「THE WALL STREET JOURNAL」(オンライン版)、「SankeiBiz(サンケイビズ)」、「東洋経済オンライン」、「DIAMOND Online」、「BRIDGE」等に掲載され(甲6〜11、甲13、甲15〜33)、「ANT FINANCIAL」の文字等が表示されていることはうかがえる。
また、一部の記事で「アント・フィナンシャル」について「アント」と省略する記載も見受けられる(甲7、甲8ほか)ものの、そのほとんどが「アント・フィナンシャル」の記載を伴っているものである。
さらに、引用商標「ANT」の使用状況を把握し得る証拠は見いだせない。
イ 上記アからすれば、申立人は、アントグループの関連会社であり、アントフィナンシャルサービスグループが提供する決済プラットフォーム「アリペイ」については、我が国で加盟店舗数が30万を突破していることはうかがえるところである。
また、申立人は、我が国において引用商標「ANT」のほか、「ANT」の文字を含む各種の商標を出願、登録していることが認められる。
しかしながら、引用商標を使用する商品又は役務の我が国における売上高などの提供実績及び広告宣伝の回数や広告宣伝費の額など、その周知性を数量的に判断し得る具体的な証拠は提出されていないし、そもそも、提出された証拠からは、引用商標「ANT」を使用している事実も確認することができない。
なお、申立人が主張する各種の記事等は、「アント・フィナンシャル」等に関する記事であって、引用商標の使用を見いだすことができないものであり、引用商標の周知性を基礎づけるものとはいえない。
そして、引用商標や「ANT」の文字を含む商標を商標登録しているとしても、そのことが引用商標の周知性を直接裏付けるものではなく、商標登録の事実のみによって引用商標の周知性を認めることはできない。
その他、本件商標の登録出願日において、引用商標が広く知られていることを認めるに足る証拠の提出はなく、引用商標の周知性を認め得る事情は見いだせない。
してみると、引用商標の周知性を認めるには不十分といわざるを得ないものであり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標が他人(申立人)の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標
本件商標は、別掲のとおり、ややデザイン化された書体で「AnTWOrK」の欧文字を横書きしてなるところ、その構成文字は同じ書体、同じ大きさ及び等間隔で、視覚上まとまりよく一体的に表されているものであり、本件商標の構成文字に相応して生じる「アントワーク」の称呼も、格別冗長ではなく、一気一連に称呼し得るものである。
そして、「work」文字が「仕事」のほか「機能する」の意味も有する語であるとしても、上記構成からなる本件商標にあって、構成中の「WOrK」の文字部分が直ちに申立てに係る指定役務の質を表示するものとして理解、認識されるものであるとはいえず、むしろ、「AnT」の文字と組み合わせた本件商標は、その構成文字全体をもって一連一体の造語として認識、把握されるものと判断するのが相当である。
その他、本件商標の構成中「AnT」の文字部分が取引者、需要者に対し役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めるに足りる事情は見いだせない。
そうすると、本件商標は、その構成文字全体をもって一体不可分のものとして認識、把握されるとみるのが相当であるから、その構成文字に相応して「アントワーク」の称呼のみを生じ、特定の観念を生じないものである。
イ 引用商標
引用商標は、上記2のとおり、「ANT」の欧文字を横書きしてなるところ、その構成文字に相応して、「アント」の称呼が生じ、「蟻」の観念を生じるものである。
ウ 本件商標と引用商標との類否
本件商標と引用商標は、それぞれ、上記ア及びイのとおりであって、外観においては、その構成文字数、書体など明らかな差異を有するものであるから、外観上、明確に区別し得るものである。
また、称呼においては、本件商標は「アントワーク」の称呼を生じるものであるのに対し、引用商標は「アント」の称呼を生じるものであり、その音数及び音構成が明らかに異なるものであるから、本件商標と引用商標とは、称呼上、明瞭に聴別し得るものである。
さらに、本件商標からは特定の観念を生じないのに対し、引用商標からは「蟻」の観念を生じるものであるから、観念上、相紛れるおそれがあるということはできないものである。
してみれば、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標というべきものである。
その他、本件商標と引用商標とが類似するというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、引用商標に類似しない商標であるから、申立てに係る指定役務と引用商標の指定商品又は指定役務との類否について判断するまでもなく、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第10号該当性について
引用商標は、上記(1)のとおり、他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないものであり、また、上記(2)のとおり、本件商標と類似する商標とはいえないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号を適用するための要件を欠くものであり、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第15号該当性について
上記(1)のとおり、引用商標は、他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、需要者の間に広く認識されていたものと認めることができないものであり、また、本件商標と引用商標とは上記(2)のとおり、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標というべきものである。
さらに、これらに加え、「ANT」の文字(語)が「蟻」を意味する既成語であることを併せみれば、本件商標は、これに接する取引者、需要者が、引用商標を連想又は想起するものということはできない。
そうすると、本件商標は、商標権者がこれを申立てに係る指定役務に使用しても、これに接する取引者、需要者をして、引用商標を連想又は想起させるものとは認められず、その役務が申立人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その役務の出所について混同を生じさせるおそれはないものといわなければならない。
その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(5)まとめ
以上のとおり、本件商標は、本件登録異議の申立てに係る指定役務について、商標法第4条第1項第10号、同項第11号及び同項第15号のいずれにも該当するものではなく、その登録は、同法第4条第1項の規定に違反してされたものとはいえないものであり、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲
別掲(本件商標)



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異議決定日 2022-05-31 
出願番号 2020024441 
審決分類 T 1 652・ 25- Y (W42)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 森山 啓
特許庁審判官 板谷 玲子
馬場 秀敏
登録日 2021-03-22 
登録番号 6366631 
権利者 杭州迅蟻網絡科技有限公司
商標の称呼 アントワーク 
代理人 石田 昌彦 
代理人 栗下 清治 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 田中 克郎 

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