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審決分類 審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W41
管理番号 1401907 
総通号数 21 
発行国 JP 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2023-09-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2022-08-05 
確定日 2023-08-21 
事件の表示 上記当事者間の登録第6518338号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第6518338号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第6518338号商標(以下「本件商標」という。)は、「ゆっくり茶番劇」の文字を標準文字で表してなり、令和3年9月13日に登録出願、第41類「電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,移動図書館における図書の供覧及び貸与,オンラインによる電子出版物の提供(ダウンロードできないものに限る。),図書の貸出し,書籍の制作,オンラインで提供される電子書籍及び電子定期刊行物の制作,コンピュータを利用して行う書籍の制作,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,インターネットを利用して行う映像の提供,映画の上映・制作又は配給,オンラインによる映像の提供(ダウンロードできないものに限る。),ビデオオンデマンドによるダウンロード不可能な映画の配給,インターネットを利用して行う音楽の提供,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,放送番組の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),娯楽施設の提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供」を指定役務として、同4年2月8日に登録査定、同月24日に設定登録されたものである。
なお、本件商標は、令和4年5月25日受付の抹消登録申請により、放棄による商標権の登録の抹消がされた。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証から甲第68号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 商標法第3条第1項第3号該当性について
(1)「ゆっくり茶番劇」及びその使用実態について
ア 「ゆっくり茶番劇」について
本件商標を構成する「ゆっくり茶番劇」とは、原作者をZUN氏とする東方Projectから派生した、「ゆっくり魔理沙」と「ゆっくり霊夢」などの名前のキャラクターをデフォルメし、頭だけにした通称「ゆっくりキャラ」と呼ばれるキャラクター(以下「ゆっくりキャラ」という。)に、テキストを読み上げる「SofTalk」や「棒読みちゃん」等の名称のソフトウェア(以下「SofTalk」等という。)を用いた合成音声を合わせ、会話劇のように構成された動画が属するジャンルやカテゴリーを指し示す語であり、そのようなものとして一般に認識されている(甲4〜甲10)。「ゆっくりキャラ」を始めとするキャラクターは、もともとは東方Projectを制作する上海アリス幻樂団、原作者のZUN氏の創作物の二次創作であったが、同氏らはこれらのキャラクターに関して何らの知的財産権を取得することもなく、広く一般に公開し、同氏らが定めたキャラクターの使用に関するガイドラインに従う限りは、誰でも自由に「ゆっくりキャラ」や合成音声を用いて動画を制作できるとの方針を示してきた(甲11)。その結果、ゆっくりキャラと合成音声を使った会話劇風の構成からなる動画は、「YouTube」や「ニコニコ動画」を中心に、多くのユーザーによって愛され、この構成を採る数多くの動画が投稿されてきた。「ゆっくりキャラ」を使った動画のジャンルやカテゴリーは他にも存在し、ゲーム実況に活用したものは「ゆっくり実況」、アニメや漫画、歴史などの説明に使うものは「ゆっくり解説」などと呼ばれている(甲4)。いずれも「ゆっくり茶番劇」同様、「ニコニコ動画」や「YouTube」を中心に多数の動画が投稿・閲覧されている(甲4)。
イ 「ゆっくり茶番劇」の使用実態について
まず、請求人がプラットフォームを提供する「ニコニコ動画」では、「ゆっくり茶番劇」が「タグ」として存在し、ゆっくりキャラと合成音声を使った会話劇風の構成からなる動画コンテンツを創作したユーザーは、その動画に「ゆっくり茶番劇」のタグをラベリングし、その動画が「ゆっくり茶番劇」の構成を採る動画であることや、「ゆっくり茶番劇」というジャンルやカテゴリーに属する動画であることを明記できるようになっている(甲12)。
一方、ゆっくりキャラと合成音声を使った会話劇風の構成からなる動画コンテンツを閲覧したいユーザーは、「ニコニコ動画」上に設けられた検索ボックスに「ゆっくり茶番劇」と入力することで、「ゆっくり茶番劇」のタグがラベリングされた動画を一覧で検索し、「ゆっくり茶番劇」として分類された動画の中から、好みの内容の動画を閲覧することができるようになっている(甲13、甲14)。そして、インターネットの検索エンジン「Google」の動画検索によって、日付を本件商標の登録査定日である令和4年2月8日以前とし、「ニコニコ動画」のインターネットドメインである「nicovideo.jp」に限定して「ゆっくり茶番劇」の動画を検索すると、約42,500件もの動画が検出される(甲15の1、甲15の2)。
次に、ゆっくりキャラと合成音声を使った会話劇風の構成からなる動画は、「ニコニコ動画」のみならず、「YouTube」や「Twitter」、「TikTok」などの他のプラットフォームにおいても、数多く投稿・閲覧されている。実際、インターネットの検索エンジン「Google」の動画検索によって、日付を本件商標の登録査定日である令和4年2月8日以前とし、インターネットドメインを「nicovideo.jp」に限定せずに動画を検索すると、約62,900件もの動画が検出される(甲16の1、甲16の2)。
そして、こうして検索された動画のほとんどにおいて、「ゆっくり茶番劇」という文字列は、タイトル部分の冒頭に括弧書きで明記され、これに続いて個別の動画の内容を示す、いわゆる「動画のタイトル」が表示される態様で使用されている(甲17〜甲32)。
(2)本件商標が商標法第3条第1項第3号に該当すること
以上のとおり、少なくとも、本件商標の登録査定日である令和4年2月8日時点で、本件商標は、「ニコニコ動画」のプラットフォームにおいて、投稿された動画が属する分野を示すための「タグ」として一般的に使用されており、「ニコニコ動画」を含む複数の動画投稿用プラットフォームにおいて、本件商標が動画のタイトルラインに使用された動画が6万件以上も存在していた。また、こうして投稿された動画のほとんどにおいて、本件商標は、異なるクリエイターによって創作された異なる内容やタイトルを有する動画のタイトルラインの冒頭部分に、「【ゆっくり茶番劇】」という態様で共通して使用されていた。このように使用される本件商標は、正に、提供される動画が属するジャンルやカテゴリーを示す表示であるといえる。したがって、本件商標は、動画のジャンルやカテゴリーについて、「「ゆっくりキャラ」に「SofTalk」等を用いた合成音声を合わせ、会話劇のように構成された動画」という一定の内容を本件商標の指定役務の需要者又は取引者に明らかに認識させるものである。そして、「ゆっくりキャラ」を使った動画のうち、ゲーム実況に活用したものは「ゆっくり実況」、アニメや漫画、歴史などの説明に使うものは「ゆっくり解説」などと呼ばれている実情に鑑みると、本件商標が、これらの語と並んで、ある一定の構成を採る動画のジャンルやカテゴリーを示す語として認識されている実態が、より一層明らかなものとなる。
そうすると、本件商標は、「映像の提供」などの役務を提供する場合に必要な表示であるといえ、何人も使用をする必要があり、かつ、何人もその使用を欲するものであるから、一私人に独占を認めるのは妥当ではなく、また、既に一般的に使用がされているものであるから、自他役務の識別力を認めることは妥当ではない。
したがって、本件商標は、その指定役務中、少なくとも、「インターネットを利用して行う映像の提供,オンラインによる映像の提供(ダウンロードできないものに限る。)」に関しては、一私人に独占させるに適さない商標(独占不適応商標)又は自他商品識別力を欠く商標(自他商品識別力欠如商標)であるから、商標法第3条第1項第3号に該当する。
2 商標法第3条第1項第6号該当性について
本件商標は、「ゆっくりキャラ」に「SofTalk」等を用いた合成音声を合わせ、会話劇のように構成された動画のジャンルやカテゴリーを示す表示として、動画の提供や閲覧をする需要者の間で極めて一般的に使用されている。また、昨今は技術の進歩とともに、音声や動画付きの電子書籍が発売されたり(甲37〜甲41)、オンラインゲームに登場したキャラクターから派生した動画が配信されるなど(甲42〜甲44)、インターネットで提供された動画が、動画業界にとどまらず、出版業界やゲーム業界などの様々な分野においても、メディアや媒体を変えて一般的に利用されているという実情が存在する。そうすると、本件商標は、動画の提供という業界にとどまらず、こうした業界においても、そこで提供されるコンテンツの内容を示すものとして一般的に理解されている可能性が十分に存在する。
そうすると、本件商標が、「特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、自他商品の識別力を欠くために、商標としての機能を果たし得ないものであることによるもの」に該当することは明らかであるから、本件商標は、商標法第3条第1項第6号に該当する。
3 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)被請求人の行為について
まず、令和4年5月15日に、「柚葉/Yuzuha」と名乗る者の「Twitter」のアカウント(以下「本件アカウント」という。)上で、「この度、当社は「ゆっくり茶番劇」商標権を取得いたしました。今後、当該商標をご利用頂く場合はライセンス契約が必要となる場合が御座います。詳細は下記URL「商標使用に関する要綱(ガイドライン)」動画版をご確認下さい。」とのツイートが、本件商標の登録証の画像とともに投稿された(甲48)。「柚葉/Yuzuha」とは、「ゆっくり解説動画」を数多くアップロードしているYouTuberであり(甲49)、「YouTube」チャンネル登録者数23万人を突破する、インフルエンサーとして知られている(甲50)。
次に、同日、本件アカウントにおいて、「商標に関する全てのお問合わせは、公式お問合わせフォームからのみ受付け致します。」として、URL(以下「本件ウェブサイト」という。)が記載されたツイートがなされたところ(甲48)、本件ウェブサイトでは、「YouTubeをはじめ、Twitter、Google検索等で毎日頻繁に利用されている「ゆっくり茶番劇」という名称は、柚葉企画の商標です。この商標を無断で使用することは原則として認めておりません。当該商標「ゆっくり茶番劇」及び類似語句を使用する場合は、当社の許可が必要になる場合が御座います。商標「ゆっくり茶番劇」の使用に関しましては、下記URLより「ゆっくり茶番劇の商標使用に関する要綱」をご確認頂いた上でご利用のご検討をお願い致します。」などとして、さらに、URLが記載されていた(甲51)。そして、同URLでは、「ゆっくり茶番劇の商標使用に関する要綱(ガイドライン)」との文書(以下「本件ガイドライン」という。)が掲載され、本件ガイドライン第9条第1項では、「本件商標の使用料は、有料とする。商標の使用料は年単位とする。年間使用料100,000円(税別)」と記載されていた(甲52)。
なお、この2件のツイートがあった令和4年5月15日は、本件商標に対する異議申立期限である令和4年5月4日を経過した直後である。これら2件のツイートの後、本件アカウント上には、令和4年5月15日のみで3万回以上の抗議のリツイートがなされ(甲53)、インターネットでは、関連する9,590件もの記事が投稿されるなど(甲54)、「ゆっくり茶番劇」の文字を使用した動画を投稿した需要者の間では、自身が投稿した動画が本件商標に係る商標権を侵害するおそれがあるのではないか、又は10万円の使用料を支払う義務が発生しているのではないか、といった不安や怒りの声が数多く発せられた(甲53〜甲55)。
そして、同月16日に、本件アカウントが更に更新され、「商標「ゆっくり茶番劇」につきまして皆様からのご意見をうけ、関係各所と再検討いたしましたところ、使用料のお支払いは不要と定めることに決定いたしました。今後、使用料(ライセンス契約)は不要になります。但し、権利は当社のものとして存続いたします。よろしくお願いいたします。」とのツイートがあり(甲56)、同氏による前言が一部撤回されたものの、商標権は依然として商標権者が保持する姿勢を示したことから、需要者の不安は依然として払拭されず、インターネットでは同月16日のみで、9,230件もの関連する記事が投稿されたばかりか、テレビやニュースなどのメディアにおいても、本件は数多く取り上げられ、社会問題にまで発展した(甲57〜甲59)。
なお、これらのツイートの投稿者である「柚葉/Yuzuha」と名乗る者と被請求人の関係性は明らかではないが、「この度、当社は、「ゆっくり茶番劇」商標権を取得いたしました。」のというツイートと合わせて、被請求人を商標権者とする本件商標の商標登録証が公表されていること、「権利は当社のものとして存続いたします。」などと記載していること、本件ウェブサイトにおいて本件商標について「商標権管理は外部提携企業に委託しております」と記載していることなどから、少なくとも、「柚葉/Yuzuha」と名乗る者は、被請求人自身又はその関係者であって、同一の主体であることは明らかである。
(2)本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当すること
被請求人は、「ゆっくり解説動画」を数多く制作及びアップロードしていることから、本件商標の使用実態の下で、動画のジャンルやカテゴリーについて、一定の内容を指し示す語として広く一般的に使用されており、本件商標が、動画を投稿・閲覧する万人の共有財産たるべきものであることは当然に認知していたはずである。そのような状況下において、被請求人は、本件商標の商標権を取得し、本件商標を使用する動画投稿者らに対して、本件商標の使用に対して10万円を商標使用料とするライセンス契約の締結が必要となる旨を告知するなどの卑劣な行為に及んだ。また、これらの行為は、本件商標の異議申立期間が経過した後になされたものであって、本件商標の使用に関するガイドラインまで準備されていたことからも、用意周到かつ計画的に行われた行為であることは明らかである。このような被請求人の行為は、本件商標を使用して動画を投稿・閲覧する多くの需要者に多大な不安を与えただけではなく、インターネットやニュースでは本件商標が登録された事実を問題視する多くの記事が掲載されるなど、日本社会全体に対して大変な混乱を生じさせた。
これらの事実によれば、被請求人は、動画の提供や閲覧に関わる多くの需要者が本件商標を使用し又は使用を欲していることを十分に認識した上で、本件商標が登録されていないことを奇貨として本件商標を出願したものであり、登録の暁には、多くの需要者から使用料名目で金銭を請求できるとの不正の目的をもって本件商標を出願したことは明らかである。
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
4 商標法第3条第1項柱書の要件違反について
請求人が本審判請求時点において調査する限り、被請求人は、少なくとも、本件商標の登録査定時点において、「ゆっくり茶番劇」の名称を用いて事業を行っている形跡は確認されなかった。一方で、被請求人は、本件商標の登録を受けた後に、本件アカウントを介して、「投稿者各位、この度、当社は「ゆっくり茶番劇」商標権を取得いたしました。今後、当該商標をご利用頂く場合はライセンス契約が必要となる場合が御座います。詳細は下記URL「商標使用に関する要綱(ガイドライン)」動画版をご確認ください。」等とコメントを掲載し、本件ガイドラインを公開した。
以上に鑑みれば、被請求人が、本件商標の登録査定時において、自己の業務に係る商品又は役務について、本件商標を使用する意思を有していたということは到底できず、不正な意図の下、本件商標を他人に使用させて使用料を徴収し、そのような方法で利得を得るために本件商標の商標登録を受けたといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項柱書に違反して登録されたものである。
5 結び
以上により、本件商標は、商標法第3条第1項第3号、同項第6号及び同法第4条第1項第7号に該当し、また、同法第3条第1項柱書の要件に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号の規定に基づき、その登録は無効とされるべきである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証から乙第29号証を提出した。
1 商標法第3条第1項第3号について
(1)Google社の検索エンジンでの検索結果から検討
乙第1号証及び乙第2号証は、「Google」の検索エンジンを用いて、令和4年2月8日時点において、「ニコニコ動画」に限定した場合の「ゆっくり茶番劇」という文字が動画のタイトル、あるいは、タグ、説明分に含まれる動画を検索した結果であり、乙第3号証及び乙第4号証は、「ニコニコ動画」の限定を外した場合の結果である。
甲第15号証の1から甲第16号証の2との違いは、請求人の検索方法の場合は「ゆっくり茶番劇」のみではなく例えば「ゆっくり茶番」のような文字列まで検索されてしまう可能性があるため、本件商標である「ゆっくり茶番劇」という商標を含んでいる商標のみが検索されるように、乙第1号証から乙第4号証では「ゆっくり茶番劇」をダブルクォーテーションで両側を挟んで検索している。
さて、「ニコニコ動画」のプラットフォーム上に、「ゆっくり茶番劇」の語が動画のタイトルやタグ、説明文に含まれる動画は僅か約5,490件しか存在しない(乙1、乙2)。また、「ニコニコ動画」の限定を解除しても、約17,000件しか存在しない(乙3、乙4)。請求人は、「ゆっくり茶番劇」の動画数が多いかのように述べているがこの数字は非常に少ない数字である。
「ゆっくり」という文字が含まれる動画のジャンルで広く知られていたものとして「ゆっくり実況」「ゆっくり解説」がある。これらを上記と同じように検索した結果が乙第5号証から乙第8号証である。「ゆっくり実況」という文字であって「ニコニコ動画」に限定して検索した場合の件数は約272,000件であり、「ゆっくり解説」は約106,000件である。「ニコニコ動画」に限定しなかった場合、「ゆっくり実況」は約8,060,000件であり、「ゆっくり解説」は約4,680,000件である。このような「ゆっくり実況」や「ゆっくり解説」における検索結果の件数であれば、請求人の商標法第3条第1項第3号に該当するという主張は理解できる。しかしながら、「ゆっくり茶番劇」はかけ離れて少なくこのような数の投稿数しかない状況で、「ゆっくり茶番劇」が動画のジャンルやカテゴリーを表すとは到底いえない。したがって、「ゆっくり茶番劇」を「ゆっくり実況」や「ゆっくり解説」と同列で語って動画のジャンルやカテゴリーと認定している請求人の主張は失当である。
(2)「Twitter」でのコメントから検討
乙第9号証は「Twitter」で「ゆっくり茶番劇 初めて聞いた」を検索した結果であり、乙第10号証は「ゆっくり茶番劇 初耳」を検索した結果である。投稿されたコメントをみると、「ゆっくり実況」や「ゆっくり解説」は知られていても「ゆっくり茶番劇」は知らなかったというコメントがあふれている。つまり、「ゆっくり実況」や「ゆっくり解説」を知っているような層であっても、「ゆっくり茶番劇」は全く知られていなかったことが明らかである。
さらに、請求人の社内の者の「Twitter」のアカウントでは、5月16日に「ちょっと調べて見ましたが、ニコニコにおいて「ゆっくり茶番劇」タグがついている動画は今日時点で1823。現存している中で一番最初に当該タグがつけられたのは2010年8月でした。」(乙11)というコメントがされている。つまり、請求人は本件審判の証拠で多数の使用例があるように述べているが、請求人自身が「ゆっくり茶番劇」という商標がほとんど使用されていないという事実を知っていたことは明らかであり、タグとして1823件しか使用されていないような商標が、役務の質を表示するような記述的商標と認定するのは余りに無理がある。
(3)「Google Trends」から検討
乙第12号証は「Google Trends」で「ゆっくり茶番劇」を過去5年間調べた結果である。被請求人が商標登録した旨を発表した当日やその後数日のみ爆発的に検索されているが、それ以外はほぼ検索されていない。つまり、被請求人が商標登録を発表するまでは全く知られていなかったことが明らかである。
(4)商標法第3条第1項第3号には該当しない旨の意見
「ゆっくり」という言葉自体は「動作が遅いさま」を表す一般的な言葉であり、「ゆっくり実況」「ゆっくり解説」といった文字が動画のジャンルとして広く知られていたとしても、動画制作者は別として観者は東方Projectのキャラクターとのつながりを必ずしも理解しているものではなく、「SofTalk」等の音声から単にゆっくり話しているから「ゆっくり実況」「ゆっくり解説」といわれていると理解している者も多数いる。このような状況の中で上記したように全く知られていない「ゆっくり茶番劇」も東方Projectのキャラクターにつながる記述的商標と判断をしてしまっては、「ゆっくり」が付く全てのワードについて「インターネットを利用して行う映像の提供」といった役務で登録できないこととなり、商標選択の自由をいたずらに狭めるだけである。
請求人は「ゆっくり茶番劇」という文字が動画の一ジャンルとして出願時又は登録時において広く知られていたのであるから商標法第3条第1項第3号に該当すると述べているが、「ゆっくり茶番劇」が出願時又は登録時においてほとんど知られていない、ほとんど使用されていない商標であったことが明らかであるから、これが登録されても公益を害するようなことはなく、商標法第3条第1項第3号には該当しない商標であることが明らかである。したがって、請求人の主張は失当である。
2 商標法第3条第1項第6号について
前記1で述べたように、請求人は「ゆっくり茶番劇」という商標について「ゆっくり実況」や「ゆっくり解説」と同列に語っているが、「ゆっくり茶番劇」という商標は使用している者がいたとしても広く知られていたわけではなく、これが商標として自他役務識別力がなくなることは到底あり得ないことから十分に特別顕著性を有しているといえる。したがって、請求人の主張は失当である。
3 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)被請求人の出願の目的について
被請求人は、本件商標を用いて動画投稿を行っている「柚葉/Yuzuha」であり、登録者数も20万人を超えている。したがって、「ゆっくり茶番劇」を用いた動画の著作権者であるから知財高裁平成17年(行ケ)第10349号や知財高裁平成23年(行ケ)第10400号の事例とは全く異なっている。
被請求人が商標登録した目的は、
・自身が業として行っている役務を表示する商標を守りたいと考えていた
・ゆっくり茶番劇に関する動画の投稿者間では非常に陰湿ないじめのような行為、嫌がらせ行為が日常的に起きていたため、そのような状況を改善したいと考えていた
・本件商標を用いた動画のジャンルを明確にしたいと考えていた
・著作権侵害などがあふれていたことから法の遵守を徹底した管理をしたいと考えていた
といったものである。
(2)自身が業として行っている役務を表示する商標を守りたいと考えていた
請求人も、「柚葉/Yuzuha」及び変更前の「たまゆら」が「ゆっくり茶番劇」を冠した動画の投稿を行なっていることを認めている。すなわち、被請求人が「ゆっくり茶番劇」を指定役務に使用していたことは疑いない事実である。請求人は、動画の一ジャンルとして知られていた旨主張しているが、ほとんど知られていない商標であったことは上記したとおりである。このような状況の中で自身が使用している商標を保護したいと考えることに何の問題もなく、もし、自身が使用している商標を登録しようとする行為が公序良俗違反に該当するのであれば、第三者が使用している商標を登録する行為が全て公序良俗違反のおそれがあることになり、それこそ法的安定性を欠くことになる。
(3)嫌がらせ行為等の状況を改善したかった
ゆっくりを冠した動画が、東方Projectのキャラクターの二次的著作物、あるいは三次的著作物を基にしていることは認める。しかし、だからこそゆっくりを冠した動画の制作者・投稿者では、東方Projectのゲームをやり込んでいて原作のキャラクターに非常にこだわりを持ち、その原作のイメージから離れた動画は絶対に許せないと考える層や、ゆっくりを冠した動画に対して独自の世界観を持っていて、自身の世界観を外れた動画を絶対に許せないと考える層、また、正反対で東方Projectのゲームには余り興味や愛着がなく、東方Projectのキャラクターにはかかわらずに自由な動画を制作・投稿したいと考える層など、様々な考えを持った層が存在する。
そして、自身と異なる考えの者を動画の中で中傷したり、嫌がらせで通報したり、脅迫まがいな行為を行なったり、集団で無視したりといったようなまるで学校のいじめのような行為がありふれている業界となっている。このような状況の中で被請求人も多々被害を被っていたため、「ゆっくり茶番劇」を冠した動画の制作者・投稿者ではそのような行為をなくしたい、そのためには商標権を取得し、被請求人と価値観を共有できる者にのみ「ゆっくり茶番劇」の使用を許可することが必要と考えていた。
(4)本件商標を用いた動画のジャンルを明確にしたいと考えていた
被請求人も「ゆっくり茶番劇」を冠した動画を投稿している中で、独自の世界観・ポリシーを持っており、陰湿な方法ではなく知的財産権をしっかり意識した上で明確なジャンル作りをしたいと考えていた。
(5)著作権侵害などがあふれていたことから法の遵守を徹底した管理をしたいと考えていた
「ゆっくり茶番劇」に限らず、「ゆっくり実況」「ゆっくり解説」など「ゆっくり」を冠した動画では、当方Projectが無料でキャラクターの使用を許可したことで何でも無料と勘違いしてしまった者が多々おり、二次的著作物である他人の動画を丸丸コピーして配信する行為、「ゆっくり」を冠した他人の動画で使用されている著作物を勝手に自身の動画で使用する行為、他人の著作物をまるで自分の著作物であるかのように宣言して自身の著作物にしようとする行為、気に食わない動画配信者への虚偽の通報や誹謗中傷といった嫌がらせ行為等があふれており、被請求人は動画投稿で用いている「ゆっくり茶番劇」ではそのような行為がなくなるように管理をしようと考えて商標登録出願を行なった。
また、被請求人も自身が著作したキャラクターを無断で利用される行為、動画を無断に使用される行為があり、使用を辞めるように度々通報を行なってきた(乙16〜乙19)。このことからも、実際に著作権侵害が行なわれていたことが分かる。
以上述べたように、ゆっくりを冠した動画の実体は、著作権侵害、誹謗中傷、虚偽の情報を流す行為、風説の流布など刑事罰の対象となる様々な問題があふれており、「ゆっくり茶番劇」という商標を用いて投稿を行っていた被請求人としては、商標登録した上でそのような犯罪行為を防止し、改善していく必要性があった。
(6)商標登録についての発表について
被請求人が本件商標を登録し、SNSで公表したことにより炎上してしまったことは事実であり、その最初の発表方法自体は間違っていたと被請求人も感じている。しかし、被請求人がそのような発表をしたのは、第三者とのトラブルがあり、その第三者に対する怒りがあったため、その第三者向けのつもりで強めの主張を行なったものである。
その公開の仕方については、怒りにまかせて行なってしまったこともあり、被請求人としても反省するところもあるが、10万円を支払うようにといいながらも振込口座などは一切開示しておらず、すぐに10万円という条件もなくしている。そして、SNSでの公開によって商標の使用が申し込まれたことは一度もなく、実際に金銭を請求したことも一度もない。また、振込口座を非開示としていることにより金銭が振り込まれたこともないし、今後振り込まれる可能性もない。
(7)まとめ
以上述べたように、被請求人は、公序良俗違反どころか、犯罪行為や公序良俗違反を止める目的ももって商標登録したのであるから商標法第4条第1項第7号に該当するという請求人の主張は失当である。
4 商標法第3条第1項柱書違反について
乙第22号証及び乙第23号証に示すように「柚葉」は被請求人である。被請求人が出願し、登録した行為は、自身が業として提供している役務を表示するものとして使用している商標を出願して登録したのであるから商標法第3条第1項柱書の規定どおりの行為である。請求人も柚葉が商標を使用していることは認めているのであるから、請求人の主張は失当である。
5 商標法第46条第2項について
請求人は、自社の知的財産保護について積極的に進めてきた法人である。したがって、そのような知的財産保護を積極的に行ってきた企業である請求人が、本件商標に対して利害関係を有しているのであれば既に商標権を取得している、あるいは、請求人が商標登録していないとしても何らかの対策を講じているのが当然であると考えられる。
しかしながら、被請求人としては、本件商標の出願公開から被請求人が商標を取得した旨を発表する令和4年5月16日までの約8か月間について、請求人が「ゆっくり○○」という商標に関して対策を採っていたという事実は発見できない。すなわち、請求人は利害関係がある商標を無視しておくような企業ではなく、知的財産権を非常に重要視している日本を代表する企業であるから、「ゆっくり茶番劇」に関しては利害関係がないから対策をしていなかったと考えるのが妥当である。
しかし、被請求人が商標登録した旨を公表したことにより世間で話題になると、急に関係者のように振る舞いだした。乙第27号証では「多くのクリエイターの方が安心して創作を続けられる環境を作るために、4つのアクションを実施する」と述べている。しかしながら、請求人は、あくまでプラットフォームを提供する企業であり、そこに投稿するクリエイターを保護したり、管理したりする活動をしてきた企業ではない。
もし請求人がこれまでも平成21年(行ケ)第10226号審決取消請求事件の事例のように構成員に使用させる商標を積極的に保護してきたというのであれば、今回の請求も理解できる。しかしながら、請求人がこれまで何の対策も講じていなかったのは、「ゆっくり茶番劇」に対して請求人が利害関係を有していなかったからと考えられる。そして、「ゆっくり茶番劇」という商標については、請求人が提供している「ニコニコ動画」よりもそれ以外のプラットフォームで投稿された動画で使用されている方が遥かに多い状況なのは明らかであり、被請求人も請求人のプラットフォームは一切使用しておらず、「YouTube」を利用している。「ゆっくり茶番劇」を使用した動画の投稿数が少ないニコニコ動画の運営会社が利害関係人として請求人になり、請求人の力が全く及ばないプラットフォームが多数あるにもかかわらず、「多くのクリエイターの方が安心して創作を続けられる環境を作る」と宣言しているのは、本当にそのような目的をもって行動しているのか疑問である。

第4 当審の判断
1 利害関係について
(1)平成22年(ネ)第10076号判決において、「ウェブサイトにおいて複数の出店者が各々のウェブページ(出店ページ)を開設してその出店ページ上の店舗(仮想店舗)で商品を展示し、これを閲覧した購入者が所定の手続を経て出店者から商品を購入することができる場合において、上記ウェブページに展示された商品が第三者の商標権を侵害しているときは、商標権者は、直接に上記展示を行っている出店者に対し、商標権侵害を理由に、ウェブページからの削除等の差止請求と損害賠償請求をすることができることは明らかであるが、そのほかに、ウェブページの運営者が、単に出店者によるウェブページの開設のための環境等を整備するにとどまらず、運営システムの提供・出店者からの出店申込みの許否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行い、出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けている者であって、その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったときは、その後の合理的期間内に侵害内容のウェブページからの削除がなされない限り、上記期間経過後から商標権者はウェブページの運営者に対し、商標権侵害を理由に、出店者に対するのと同様の差止請求と損害賠償請求をすることができると解するのが相当である」と判示されている。
そうすると、動画配信サービスのプラットフォームを提供している者においては、当該プラットフォームに投稿されている動画が第三者の商標権を侵害している場合には、一定の条件の下、当該動画の投稿者と同様に商標権侵害を理由に差止や損害賠償を請求される可能性があるものというのが相当である。
(2)両当事者の主張及び職権による調査によれば、請求人は、「ニコニコ動画」と称する動画配信サービス(以下、単に「ニコニコ動画」という。)のプラットフォームを提供していることが認められる。
また、請求人の提出に係る証拠(甲12、甲14、甲17〜甲26)によれば、「ニコニコ動画」には、タイトル中に「【ゆっくり茶番劇】」の文字を含む動画が多数投稿されていることが認められる。
そして、前記第1のとおり、本件商標の指定役務には、「インターネットを利用して行う映像の提供」等が含まれている。
そうすると、たとえ、請求人自身がタイトル中に「【ゆっくり茶番劇】」の文字を含む動画を投稿していないとしても、請求人がプラットフォームを提供する動画配信サービスにおいて、タイトル中に「【ゆっくり茶番劇】」の文字を含む動画が多数投稿されていることからすれば、本件商標の存在により、商標権侵害を理由に差止や損害賠償を請求されるなど、請求人が何らかの不利益を被る可能性を否定することはできない。
したがって、請求人は、本件審判を請求することについて、利害関係を有するというべきである。
(3)被請求人の主張について
被請求人は、請求人は「ゆっくり○○」という商標に関して対策を採っていないこと、請求人はあくまでプラットフォームを提供する企業であり、そこに投稿するクリエイターを保護したり管理したりする活動をしてきた企業ではないことなどを理由に、請求人が本件審判を請求することについて利害関係がない旨主張している。
しかしながら、たとえ被請求人が主張するような事情があるとしても、前記(2)のとおり、請求人は、本件審判を請求することについて利害関係を有するというべきであるから、被請求人の主張は採用することができない。
2 商標法第3条第1項柱書の要件を満たすかについて
(1)商標法第3条第1項柱書の「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」として登録を受けられる商標は、現に使用している商標だけでなく、使用する意思があり、かつ、近い将来において使用する予定のある商標も含まれるものと解すべきである(平成22年(行ケ)第10005号判決)。
(2)両当事者の提出に係る証拠によれば、被請求人は、「柚葉」の名称で活動する、総チャンネル登録者数23万人のYouTuberであり(甲49、甲50、乙22、乙23)、後記「ゆっくり解説」の動画をアップロードしていること(甲4、甲49)が認められる。
そして、前記第1のとおり、本件商標の指定役務には、「インターネットを利用して行う映像の提供」等が含まれている。
そうすると、たとえ、被請求人が本件商標を用いて事業を行っている形跡がなく、本件商標に関する本件ガイドラインを公開したとしても、被請求人は、本件商標について、使用の意思及び予定がなかったということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項柱書の要件を満たしていたというべきである。
3 商標法第3条第1項第3号該当性について
(1)両当事者の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、次の事実が認められる。
ア 「ゆっくり茶番劇」について
「ゆっくり茶番劇」とは、原作者をZUN氏とする東方Projectから派生した、「ゆっくり魔理沙」と「ゆっくり霊夢」などの名前のキャラクターをデフォルメし、頭だけにした通称「ゆっくりキャラ」と呼ばれるキャラクターに、テキストを読み上げるソフトウェアを用いた合成音声を合わせ、会話劇のように構成された動画が属するジャンルやカテゴリーを指し示す語であり、「ゆっくりキャラ」を使った動画のジャンルやカテゴリーには、ゲーム実況に活用した「ゆっくり実況」、アニメや漫画、歴史などの説明に使う「ゆっくり解説」などと呼ばれているものがあり、いずれも、「ニコニコ動画」や「YouTube」において多数の動画が投稿・閲覧されている(甲4〜甲10、請求人の主張)。
なお、「ゆっくりキャラ」を始めとする東方Projectによる創作物についての二次創作は、基本的に自由である(甲11)。
イ 「ゆっくり茶番劇」の語の使用状況について
(ア)「ニコニコ動画」では、「ゆっくり茶番劇」が「タグ」として存在し(甲12)、動画コンテンツを創作したユーザーは、その動画に「ゆっくり茶番劇」のタグをラベリングして、その動画が「ゆっくり茶番劇」の構成を採る動画であることや、「ゆっくり茶番劇」というジャンルやカテゴリーに属する動画であることを明記できるようになっている(請求人の主張)。
(イ)「ゆっくり茶番劇」に関する動画コンテンツを閲覧したいユーザーは、「ニコニコ動画」上に設けられた検索ボックスに「ゆっくり茶番劇」と入力することで、「ゆっくり茶番劇」のタグがラベリングされた動画を一覧で検索し、閲覧することができるようになっている(甲13、甲14、請求人の主張)。
(ウ)「ゆっくり茶番劇」に関する動画のタイトルの冒頭には、「【ゆっくり茶番劇】」の文字が表示されている(甲17〜甲32)。
(エ)「ゆっくり茶番劇」に関する動画は、本件商標の登録査定時において、約17,000件存在し、そのうち「ニコニコ動画」には、5,490件存在していた(乙1〜乙4)。
ウ 音声又は動画付きの電子書籍が多数販売されている(甲37〜甲41)。
エ オンラインゲームに登場したキャラクターから派生した動画が多数配信されている(甲42〜甲44)。
(2)判断
ア 前記(1)ア及びイで認定した事実によれば、「ゆっくり茶番劇」の語は、「ゆっくりキャラ」と呼ばれるキャラクターに、テキストを読み上げるソフトウェアを用いた合成音声を合わせ、会話劇のように構成された動画という、動画のジャンル又はカテゴリーの一つを表すものである。
また、「ニコニコ動画」では、「ゆっくり茶番劇」が「タグ」として存在し、検索ボックスに「ゆっくり茶番劇」と入力することで、当該動画を一覧で検索できるものであり、また、「ゆっくり茶番劇」に関する動画のタイトルの冒頭には、「【ゆっくり茶番劇】」の文字が表示されており、さらに、「ゆっくり茶番劇」に関する動画は、本件商標の登録査定時において、相当数存在していたことが認められる。
そうすると、「ゆっくり茶番劇」の語は、本件商標の登録査定時において、動画のジャンル又はカテゴリーの一つを表すものとして、動画プラットフォームの提供者、動画の投稿者及び動画の閲覧者によって、使用され、かつ、認識されていたというのが相当である。
してみると、「ゆっくり茶番劇」の文字からなる本件商標は、これをその指定役務中「インターネットを利用して行う映像の提供,オンラインによる映像の提供(ダウンロードできないものに限る。)」に使用するときは、当該映像が動画のジャンル又はカテゴリーの一つを表す「ゆっくり茶番劇」に関するものであること、すなわち役務の質を表示したものと認識されるにすぎないといわなければならない。
イ また、前記(1)ウで認定した事実によれば、音声又は動画付きの電子書籍が販売されている実情が認められる。
そうすると、「ゆっくり茶番劇」の文字からなる本件商標は、これをその指定役務中「電子出版物の提供,オンラインによる電子出版物の提供(ダウンロードできないものに限る。),オンラインで提供される電子書籍及び電子定期刊行物の制作」に使用するときは、当該電子出版物が動画のジャンル又はカテゴリーの一つを表す「ゆっくり茶番劇」に関するものであること、すなわち役務の質を表示したものと認識されるにすぎないといわなければならない。
ウ さらに、前記(1)エで認定した事実によれば、オンラインゲームに登場したキャラクターから派生した動画が配信されている実情が認められる。
そして、「ゆっくり茶番劇」の語が動画のジャンル又はカテゴリーの一つを表すものとして、動画プラットフォームの提供者、動画の投稿者及び動画の閲覧者によって、使用され、かつ、認識されていたということからすると、本件商標の指定役務中、上記以外の役務について使用された場合であっても、当該役務が「ゆっくり茶番劇」に関するものであること、すなわち役務の質を表示したものと認識されるにすぎないというべきである。
エ 以上によれば、「ゆっくり茶番劇」の文字を標準文字で表してなる本件商標は、役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法第3条第1項第3号に該当する。
(3)被請求人の主張について
ア 被請求人は、「ゆっくり」の文字が含まれる動画のジャンルで広く知られている「ゆっくり実況」や「ゆっくり解説」との比較で、かけ離れて少ない数の投稿数しかない状況で、「ゆっくり茶番劇」が動画のジャンルやカテゴリーを表すとは到底いえない旨主張している。
被請求人の提出に係る証拠によれば、「ゆっくり実況」に関する動画は、「ニコニコ動画」に限定して検索した場合は約272,000件、限定しなかった場合は約8,060,000件であり、「ゆっくり解説」に関する動画は、「ニコニコ動画」に限定して検索した場合は約106,000件、限定しなかった場合は約4,680,000件存在することが認められる(乙5〜乙8)。
そして、前記(1)イ(エ)のとおり、「ゆっくり茶番劇」に関する動画については、「ニコニコ動画」に限定した場合は5,490件、限定しなかった場合は約17,000件存在している。
そうすると、「ゆっくり茶番劇」に関する動画は、「ゆっくり実況」又は「ゆっくり解説」に関する動画との比較においては、確かに少ないといえる。
しかしながら、「ニコニコ動画」に限定した場合は5,490件、限定しなかった場合は約17,000件という「ゆっくり茶番劇」に関する動画の数それ自体は、決して少ないという数ではない。
また、たとえ「ゆっくり実況」又は「ゆっくり解説」に関する動画との比較では、少ない数であるとしても、本件商標が役務の質を表示するものであるか否かの判断において、「ゆっくり実況」又は「ゆっくり解説」に関する動画の数を基準として判断しなければならない事情は見いだせない。
さらに、「ニコニコ動画」のプラットフォームにおいては、「ゆっくり茶番劇」という「タグ」が存在していることをも踏まえれば、前記(2)のとおり、本件商標は、動画のジャンル又はカテゴリーの一つを表すものであって、役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であると判断するのが相当である。
イ 被請求人は、「Twitter」における「ゆっくり茶番劇 初めて聞いた」の検索結果(乙9)、同「ゆっくり茶番劇 初耳」の検索結果(乙10)、請求人の社内の者による「ちょっと調べて見ましたが、ニコニコにおいて「ゆっくり茶番劇」タグがついている動画は今日時点で1823。現存している中で一番最初に当該タグがつけられたのは2010年8月でした。」とのコメント(乙11)、「Google Trends」での「ゆっくり茶番劇」の調査結果(乙12)から、「ゆっくり茶番劇」は全く知られていなかった旨主張している。
被請求人の提出に係る証拠によれば、「Twitter」において、「ゆっくり茶番劇」を知らなかった旨のコメントが相当数あること(乙9、乙10)、請求人の社内の者が「ちょっと調べて見ましたが、ニコニコにおいて「ゆっくり茶番劇」タグがついている動画は今日時点で1823。現存している中で一番最初に当該タグがつけられたのは2010年8月でした。」とのコメントしていること(乙11)、「Google Trends」において、検索ワードとして「ゆっくり茶番劇」は、後述する被請求人が本件商標を登録した旨を「Twitter」に投稿した頃に爆発的に検索されていること(乙12)がそれぞれうかがえる。
しかしながら、たとえ、「ゆっくり茶番劇」を知らない者が存在し、「ニコニコ動画」において「ゆっくり茶番劇」に関する動画の数が1823件であった時期があり、また、被請求人が本件商標を登録した旨を「Twitter」に投稿するまでは、「Google」において「ゆっくり茶番劇」がほとんど検索されなかったとしても、前記(1)において認定した事実によれば、前記(2)のとおり判断するのが相当であるから、被請求人の主張する事情は、当該判断を左右するものではない。
ウ 以上のとおり、被請求人の主張はいずれも採用できない。
4 商標法第3条第1項第6号該当性について
前記3(2)アのとおり、「ゆっくり茶番劇」の語は、本件商標の登録査定時において、動画のジャンル又はカテゴリーの一つを表すものとして、動画プラットフォームの提供者、動画の投稿者及び動画の閲覧者によって、使用され、かつ、認識されていたことからすると、本件商標は、これをその指定役務に使用しても、動画のジャンル又はカテゴリーの一つを表したものと認識させるにすぎないものであるから、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標というべきである。
したがって、本件商標は、仮に商標法第3条第1項第3号に該当しないとしても、同項第6号に該当する。
5 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)これまでに認定した事実のほか、請求人の提出に係る証拠によれば、次の事実が認められる。
ア 令和4年5月15日に、被請求人は、「Twitter」において、「この度、当社は「ゆっくり茶番劇」商標権を取得いたしました。今後、当該商標をご利用頂く場合はライセンス契約が必要となる場合が御座います。詳細は下記URL「商標使用に関する要綱(ガイドライン)」動画版をご確認下さい。」と投稿した(甲4〜甲8、甲10、甲48、甲50、甲53)。
イ 同日、被請求人は、「Twitter」において、「商標に関する全てのお問合わせは、公式お問合わせフォームからのみ受付け致します。」として「公式サイトURL」を掲載した(甲48)。
当該URLのサイトには、「YouTubeをはじめ、Twitter、Goog1e検索等で毎日頻繁に利用されている「ゆっくり茶番劇」という名称は、柚葉企画の商標です。この商標を無断で使用することは原則として認めておりません。当該商標「ゆっくり茶番劇」及び類似語句を使用する場合は、当社の許可が必要になる場合が御座います。商標「ゆっくり茶番劇」の使用に関しましては、下記URLより「ゆっくり茶番劇の商標使用に関する要綱」をご確認頂いた上でご利用のご検討をお願い致します。」と記載されている(甲51)。また、同URLには、「ゆっくり茶番劇の商標使用に関する要綱(ガイドライン)」が掲載されており、当該ガイドラインは全14条からなり、その第9条には「本件商標の使用料は、有料とする。年間使用料 100,000円(税別)」と記載されている(甲52)。
ウ 前記ア及びイの2つのツイートに対しては、3万件以上のリツイートがされ、「Twitter」や「YouTube」のコメント欄には、怒りの声が大量に寄せられたり、使用料を取られる可能性があることへの憂いの声が寄せられるなど、大きな反響を呼んだ(甲53〜甲55)。
エ 翌16日、被請求人は、「商標「ゆっくり茶番劇」につきまして皆様からのご意見を受け、関係各所と再検討いたしましたところ、使用料のお支払いは不要と定めることに決定致しました。今後、使用料(ライセンス契約)は不要になります。但し、権利は当社のものとして存続いたします。よろしくお願いいたします。」とツイートするものの(甲56)、その後もインターネット上には、「ゆっくり茶番劇」に関連する記事が多数掲載された(甲57〜甲59)。
(2)被請求人の本件商標の出願の目的
被請求人は、以下の目的で、本件商標を出願したと主張している。
ア 自身が業として行っている役務を表示する商標を守りたいと考えていた。
イ 「ゆっくり茶番劇」に関する動画の投稿者間では非常に陰湿ないじめのような行為、嫌がらせ行為が日常的に起きていたため、そのような状況を改善したいと考えていた。
ウ 本件商標を用いた動画のジャンルを明確にしたいと考えていた。
エ 著作権侵害などがあふれていたことから法の遵守を徹底した管理をしたいと考えていた。
(3)判断
前記3(2)アのとおり、「ゆっくり茶番劇」の語は、本件商標の登録査定時において、動画のジャンル又はカテゴリーの一つを表すものとして、動画プラットフォームの提供者、動画の投稿者及び動画の閲覧者によって、使用され、かつ、認識されていたものである。
また、前記2(2)のとおり、被請求人は、「柚葉」の名称で活動するYouTuberであり、「ゆっくり解説」の動画をアップロードしている。
そして、前記(2)の被請求人の本件商標の出願の目的からすれば、被請求人は、自身で「ゆっくり茶番劇」の語を使用しており、当該語が動画のジャンルを表わすものであることを知っており、他の投稿者が「ゆっくり茶番劇」に関する動画を投稿していることも知っていたといえる。
このような状況において、被請求人が本件商標に係る商標権に基づいて、「ゆっくり茶番劇」の語の使用を制限し、年間使用料10万円を徴収しようとすれば、不特定多数の投稿者に対して、無用な混乱を起こさせることは、被請求人にとって当然に予想できたことといえる。そして、前記(1)ウ及びエにおいて認定したとおり、実際に、混乱を招いている。
そうすると、たとえ、前記出願の目的があったとしても、動画のジャンル又はカテゴリーの一つを表す「ゆっくり茶番劇」の文字からなる本件商標を、被請求人がその指定役務について出願し、登録を受けることは、これまで何らの制約もなく、「ゆっくり茶番劇」に関する動画を投稿していた者又は同動画をこれから投稿しようとする者に対して、無用な混乱を招くおそれがあり(現に混乱を招いた。)、このような混乱を招くおそれがある本件商標の登録を認めることは、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するというべきである。
なお、商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、「指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合」等が含まれるというべきである(平成17年(行ケ)第10349号判決)。
したがって、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標というべきであるから、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(4)被請求人の主張について
被請求人は、嫌がらせ行為があったことや著作権侵害があふれていることなどを主張するが、仮にそのようなことがあったとしても、そのような行為を行っていない、「ゆっくり茶番劇」に関する動画を投稿していた者又は同動画をこれから投稿しようとする者の全てに対して、無用な混乱を招いてよいものではない。
したがって、被請求人の主張は採用できない。
6 まとめ
以上により、本件商標は、商標法第3条第1項柱書の要件を満たしているものの、同項第3号に該当し、仮に同号に該当しないとしても同項第6号に該当し、さらに、同法第4条第1項第7号に該当するものであるから、その登録は、同法第3条及び同法第4条第1項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第46条第1項により、無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。

別掲
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示)
この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。

(この書面において著作物の複製をしている場合の御注意)
本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。
審理終結日 2023-06-19 
結審通知日 2023-06-22 
審決日 2023-07-12 
出願番号 2021114070 
審決分類 T 1 11・ 13- Z (W41)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 旦 克昌
特許庁審判官 大橋 良成
山田 啓之
登録日 2022-02-24 
登録番号 6518338 
商標の称呼 ユックリチャバンゲキ、チャバンゲキ 
代理人 古岩 信嗣 
代理人 飯田 遥 
代理人 飯田 真弥 
代理人 宮川 美津子 

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