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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W39 |
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管理番号 | 1401904 |
総通号数 | 21 |
発行国 | JP |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2023-09-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2022-02-25 |
確定日 | 2023-08-07 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5844900号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求中、商標法第4条第1項第10号及び同項第15号を理由とする請求は却下する。その余の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5844900号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成からなり、2015年9月22日に大韓民国においてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、平成27年11月25日に登録出願、第39類「旅行に関連する相談及び予約,旅行者のための座席の予約,オンラインによる旅行・ツアーに関する情報の提供,旅行に関する情報の提供,個人及び団体のための旅行の手配,パッケージホリデイ用の観光旅行・巡航の企画及び実施,旅行者の輸送,輸送の予約,航空券の予約の取次ぎ,物品の配達」を指定役務として、同28年3月29日に登録査定され、同年4月22日に設定登録されたものである。 第2 請求人の主張 請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第21号証(枝番号を含む。以下、枝番号の全てを引用するときは、枝番号を省略して記載する。)を提出した。 1 審判当事者について (1)請求人 請求人「TATA Sia Airlines Limited」は、インド最大の財閥であるタタ財閥の持ち株会社として日本でも知られている「TATA Sons Limited」と「シンガポール航空」との合弁企業であり,2015年1月9日よりインドにて事業を開始している(甲2)。 請求人は、「航空サービスその他の航空関連サービスに使用する商標」として「VISTARA」を採択し、これをインドにて出願したのは2014年6月2日(第12類及び第39類、甲3)である。 請求人は、日本の国土交通省により2020年(令和2年)2月28日付けにて日本就航についての営業認可がなされている(甲4)。 請求人が、商標「VISTARA」を日本で最初に出願したのは2014年9月25日であり(登録第5739418号、第12類「船舶、航空機等」、甲5)、さらに、2016年11月2日に商標「VISTARA」を第16類、第18類、第21類、第25類、第27類、第28類、第37類、第43類に出願し、商標登録を得ている(登録第6020459号、甲6)。 請求人にとって、この商標「VISTARA」は、日本航空及び全日空等が使用する「JAL」、「ANA」等に匹敵する営業主体を表示する代表的な商標である。 なお、請求人は、第39類の「航空券の予約の取次ぎ,旅行者のための座席の予約等」のサービスに関しては、すでに2015年7月に日本の株式会社エア・システム(甲7)が総代理店となっていたため間もなく出願する予定でいた。 (2)被請求人 被請求人は、韓国在住の個人事業者と考えられ、日本において韓国文字及びローマ字よりなる本件商標を第39類「旅行者のための座席の予約等」を指定して出願(2015年11月25日)し、登録を受けている(甲1)。 この商標は、請求人がインドにて最初に「VISTARA」を第12類及び第39類に出願(2014年6月2日、甲3)した時よりも約1年5か月あまり遅く、さらに請求人が日本で第12類に出願(2014年9月25日、甲5)した時よりも1年2か月あまり後のことである。 2 本件無効審判の目的 被請求人は、日本にて本件商標を第39類「旅行者のための座席の予約」等を指定して出願し登録を受けた(甲1)が、これは、請求人が出願時期を見合わせていた(上記(1)に述べた理由)ことを奇貨として、出願し登録を得たものといわなければならない。これは後述するように「VISTARA」という語はサンスクリッ卜語の「Vistaar」(無限の広がりの世界といったような意味)から請求人が着想し創作した極めて独創性の高い造語であって(甲8)、通常人が考え得るものではなく、偶然の一致というようなものでもない。 したがって、「VISTARA」の語は日本で販売されている英語大辞典(甲9、甲10)等を見ても出てくる用語ではない。 しかし、被請求人は、請求人の総代理店である株式会社エア・システムが請求人との契約に基づき、請求人商標「VISTARA」を使用して「航空券の予約の取次ぎ,旅行者のための座席の予約等」のサービス提供していることに対し「警告状」を送付し、請求人商標「VISTARA」の使用の中止を求めてきた(2021年8月25日、甲11)。被請求人は「警告状」において、韓国及び日本において「航空券の検索サービス等」を、航空券検索プラットフォームを通じて提供していると主張しているが、請求人が調べた限り日本において営業拠点は有せず、また、真にかかるサービスを提供しているといえるかどうかは疑問である。 したがって、請求人は、被請求人が本件商標を登録したことの正当性と、その「航空券の検索サービス等」を提供しているとの主張が真に商標の使用といえるのかどうかにつき強い疑念を持つものである。 3 無効理由について 商標法では第8条において先願主義を規定している。 しかしながら、単に先願でありさえすれば、全て正当な権利を取得するものでないことは商標法第4条第1項第10号、同項第15号、同項第19号及び同項第7号の規定を置いていることからも明らかである。 請求人は、日本政府から営業許可を受けた「航空産業」のサービスを請求人商標「VISTARA」の下に提供するものであるが、その提供サービスは認可された航空業のみならず、それに関連した広いサービスについて使用されるものである。 このような国の認可を得て初めてサービス提供が可能となる特殊な営業体が使用する商標については、商標の周知・著名性、出所混同のおそれ、不正目的で取得したか否か等の判断に関しては以下に述べるようにその特殊性を加味して解釈されるべきである。 (1)営業主体の特殊性 上述のとおり、航空サービスは政府からの営業認可(国土交通省)が必要であり、誰もが自由に参入できる分野ではない。その認可は極めて厳格であり、各種の厳しい制約を満たした事業者に対し始めて国より営業許可がなされるのである。しかし、一旦認可がなされればそのサービスは国境を越えた国際的なものである。 そして、ある事業体に対し営業認可がなされ、営業が開始されることになるとそれが外国の営業体であっても、そのニュースはメディア等を通じて広く公表され、通常の日用品等が販売開始される場合とは異なり、注目度も高いものである。請求人が航空産業に参入することは、韓国においても2014年8月13日にインターネットニュースで報じられており(甲12)、これは被請求人が韓国で最初に商標「VISTARA」を第39類に出願した日(2014年9月3日、甲13)より約1か月早い。 そして、航空産業のようなビジネスを営む営業体が提供するサービスは、単なる「旅客輸送」や「貨物輸送」等に限定されるものではなく、それに関連したサービス、すなわち「航空券の予約・発券サービス等」を始めとして、空港内外の「売店」、「レストラン」等にも及ぶのが普通である。このことは、例えば日本航空や全日空等が使用する「JAL」や「ANA」等がどのように使用され、どのように認識されているのかと同じである。当然のことながら、請求人商標「VISTARA」は航空機の機体に明確に表示されており(甲14)、この表示とともに世界的ビジネスを展開するのである。 (2)商標の周知・著名性 上記(1)で述べたように、航空業に対する認可は極めて厳格であり、各種の厳しい制約を満たした事業者に対し始めて国より営業許可がなされるのである。このような営業主体の特殊性から、それらの営業体が使用する商標についての周知・著名性は、不特定多数の事業者が一般的な日用品等を販売する場合に求められる基準等とはおのずと異なるものと考えるべきである。 請求人商標「VISTARA」は、日本航空や全日空等が使用する「JAL」や「ANA」と同じく、飛行機の機体に顕著に表示されているとともにその提供サービスは単なる「旅客輸送」や「貨物輸送」のみに限定されるものではなく、それらに関連する「航空券の予約の取次ぎ,旅行者のための座席の予約」、「売店」、「レストラン」等にも広く使用されるものであり、このことはこれら事業者のウェブサイトを見れば明らかである(甲15〜甲18)。 よって、これら商標が使用されるサービスについては、その営業主体が誰であるかは極めて短期間に需要者に知られ、強い出所識別機能を発揮するものであるから、もし、「航空券の予約の取次ぎ,旅行者のための座席の予約」等について「JAL」、「ANA」等の商標がそれら営業体とは全く無関係な者により使用されるとなれば、需要者はその営業主体について誤認、混同することは極めて明らかなところといわねばならない。請求人商標「VISTARA」についても全く同様である。 請求人商標「VISTARA」は、2014年6月2日に最初にインドで第12類及び第39類に出願され登録されている(甲3)。そして、日本では第12類に2014年9月25日に出願され、2015年3月10日に登録公報が発行されたものであるが、被請求人が本件商標を日本で第39類に出願したのは、その登録公報が発行された日よりも後の2015年11月25日に出願されたものである。 しかし、上述の航空産業の特殊性(政府による営業認可が必要で営業主体が極めて限定されていること等)に鑑みた場合、請求人商標「VISTARA」はその登録後、極めて短期間に一定の周知性を獲得したものと考えられ、被請求人が本件商標を出願した2015年11月25日にはすでに一定の周知性を獲得していたものと考えられる。 またパリ条約では、その第6条の2(1)において「同盟国は・・一の商標が・・その同盟国において広く認識されているとその権限がある当局が認めるものの複製・・・混同を生じやすい模倣である場合にはその同盟国の法令が許すときは職権をもって、又は利害関係人の請求により・・・登録を拒絶し又は無効とし、及びその使用を禁止することを約束する。・・・要部が・・・混同を生じやすい模倣である場合も、同様とする」と規定している。我が国もインドもパリ条約の加盟国であり、本件条約の精神は我が国商標法第4条第1項第10号、同項第15号及び同項第19号に承継されている。 したがって、請求人が使用する「VISTARA」の文字を顕著に含んでなる本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同項第15号及び同項第19号に違反して登録されたものとして商標法第46条により無効とされなければならない。 なお、本件商標の登録日は2016年4月22日であり、すでに登録日から5年を経過しているが、以下の(4)で述べるように、本件商標は不正の目的及び不正競争の目的で登録を受けたものであるため商標法第47条第1項のいわゆる除斥期問の適用はない。 (3)出所混同及び営業主体誤認のおそれ 以上のように、もし、航空サービス提供者が使用する商標(「JAL」、「ANA」等と同じ商標)が、全く無関係の第三者によって「航空券の予約の取次ぎ,旅行者のための座席の予約」等のサービスに使用されたとなれば、取引者、一般需要者はそれらサービスが本来の航空サービス提供者である日本航空や全日空、またはこれから正当に権限を与えられた者によるサービスであると誤認することは極めて当然のことと考えなければならない。 本件商標は、韓国語文字及びローマ字による「VISTARA」の文字から構成されるとしても、韓国人以外の一般需要者が認識できるのはそのローマ字部分の「VISTARA」であるといわなければならない。そして、そのローマ字部分の「VISTARA」は、我が国政府より認可を得た請求人が認可された「航空サービス」のみならず関連サービスにも広く使用される商標である。 したがって、このような商標が請求人とは全く無関係な第三者により航空業と密接した「航空券の予約の取次ぎ,旅行者のための座席の予約」等のサービスに使用されるとすれば、取引者、需要者はそのサービスの出所、営業主体が請求人若しくはそれから授権された者により提供されるサービスであると誤認、混同をすることは明らかなところである。 また、パリ条約第6条の2(1)においては、同盟国国民の周知商標を保護し、これと混同を生じやすい模倣である商標については登録を拒絶又は無効とすることを約束するものとし、その要部が混同を生じやすい模倣である場合も同様とすると規定している。本件商標は、韓国語文字とローマ字にて構成されているとしても、そのローマ字部分は請求人の周知商標「VISTARA」と全く同一である。 したがって、本件商標は第4条第1項第10号、同項第15号及び同項第19号に違反して登録されたものとして、商標法第46条により無効とされなければならない。 (4)不正目的による権利取得 請求人商標「VISTARA」は、請求人により2014年6月2日に最初にインドで第12類及び第39類に出願され(甲3)、次いで日本で第12類に2014年9月25日に出願され(2015年2月6日登録)、2015年3月10日に登録公報が発行されたものである(甲5)。 また、被請求人が日本で「VISTARA」の文字を含む本件商標を出願したのはそれから8、9か月後の2015年11月25日である。 そして、この「VISTARA」という用語は日本で販売されている「新英和大辞典研究社(第6版)」及び「ランダムハウス英和大辞典(第2版)小学館」のような英語大辞典(甲9、甲10)においても出てくるものではなく、請求人が創作した造語である。この「VISTARA」の語はサンスクリット語の「Vistaar」(無限の広がりの世界といったような意味)から請求人が着想して創作した極めて独創性の高い造語であって(甲8)、通常人が着想できるものでもなく、偶然の一致というようなものでもない。 請求人は、2015年に日本の「株式会社エア・システム」(甲7)と総代理店契約を結び、同店を通じて第39類の「航空券の予約の取次ぎ,旅行者のための座席の予約等」のサービスを提供するために間もなく商標「VISTARA」を第39類に出願する予定でいたのである。 しかし、被請求人は「TSAL」の日本出願において第39類が指定されていなかったことを奇貨として商標登録を得、その登録に基づき、請求人の日本における総代理店「株式会社エア・システム」が請求人商標「VISTARA」を用いて「航空券の予約の取次ぎ,旅行者のための座席の予約」等のサービスを提供していることに対し「警告状」を送付し、その使用中止を求めてきたのである(2021年8月25日、甲11)。 被請求人は、「警告状」において、韓国及び日本において航空券検索プラットフォームを通じ本件商標を「航空券の検索サービス等」のサービスを提供していると主張しているが、請求人が調べた限り日本において営業拠点は有せず、また、真にサービスを提供しているといえるかどうかは疑問である。 なお、特許庁編「工業所有権法逐条解説(第19版)」において「不正目的」に関する想定事案として、外国人が所有する商標につき「我が国で登録されていないことを奇貨として、高額で買い取らせたり、外国の権利者の国内参入を阻止したり、国内代理店契約を強制したりする等の目的で、先取り的に出願した場合」は商標法第4条第1項第19号に該当する旨を述べている(甲19)が、現に、被請求人は、請求人の日本における総代理店「株式会社エア・システム」に対し使用中止を求める「警告状」(甲11)を送付してきている。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号及び同項第7号に該当するものというべきである。 4 まとめ 以上に述べたように、本件商標は先願として商標登録を得たものではあるが、その登録には、商標法第4条第1項第10号、同項第15号、同項第19号及び同項第7号等の無効理由を含むものであり、さらに、そのような商標に基づく権利行使は不正競争防止法が禁止する不正競争行為(不競法第2条第1項第1号及び同項第2号)及び権利濫用(民709条)にも該当するものである。 したがって、本件商標は商標法第46条により無効とされなければならない。 5 被請求人の答弁に対する弁駁 (1)「VISTARA」の周知性(商標法第4条第1項第10号) 被請求人は、被請求人が韓国において最初に本件商標を出願した時点(2015年9月22日)では、商標「VISTARA」は請求人によって日本で第39類に属する「航空券の予約の取次ぎ,旅行者のための座席の予約」等のサービスについて使用されていなかったから周知性は備えていないと主張する。 しかし、仮に、その商標が現実のビジネスに使用されていなかったからといってその商標の周知性が否定されるものではない。その問題となった商標が国際的サービスを展開する航空産業のような営業主体によって使用されるときは、一地域、一国内を超え、その営業主体とともにその商標等がメディアにより紹介され、国際市場にて注目を集めるものであり、それ故、請求人(VISTARA航空)が2014年10月頃に運航が始まる旨のニュースが韓国インターネット記事(2014年8月13日)で紹介されており、これにより同業者及びこれと密接な関係を有するビジネス(本件商標の指定役務である「航空券の予約の取次ぎ,旅行者のための座席の予約」等)を行おうとする者には直ちに周知されるものである。 韓国における上記のインターネットでの紹介記事が行われたのは、被請求人が本件商標を日本にて出願(2015年11月25日)するよりも約1年3か月も前のことである。また、韓国特許庁が被請求人の本件商標に対し、インドの需要者の間で請求人が使用する商標として認識されている「VISTARA」と同一・類似標章であるとし、被請求人がこれを不正競争の意図で冒認出願したものであるとの理由で拒絶査定(2017年5月30日)を行った事実(この事実は被請求人自身が答弁書で認めている。)は、このような航空ビジネスのような世界市場を舞台とするビジネスにおいてはいかに早くに周知度が浸透するものかを物語るものである。 なお、被請求人の上記出願は後に不服審判にて「不正競争の意図」に基づく出願とは認められないとして登録査定がなされたとしても、本件商標出願の日(2015年11月25日)よりも約1年前に商標「VISTARA」は請求人が航空ビジネスに使用する商標であることが韓国のインターネット新間記事で報道(2014年8月13日)されていたという事実が重要なのであり、それ故、韓国特許庁での最初の拒絶査定は十分な根拠に基づくものである。 (2)混同のおそれ(商標法第4条第1項第15号) 被請求人は、「VISTARA」の用語は請求人が創作した用語ではなく、本件商標出願以前より韓国では仏教典に出てくる用語として知られている、韓国において「VISTARA」の用語を用いて作曲されたことがある、「VISTARA」の語を含む社名がインド及びそれ以外の国にも多く存在しているなどと主張し、これをもって被請求人が本件商標を採択するに当たって何ら請求人の商標「VISTARA」を盗用したものではない旨を主張する意図のようである。 しかし、商標の登録要件において重要なのは、その商標に創作性が認められるか否か等ではなく、それがすでに他人の商標として使用されており、その他人の商標との関係で善意の出願と認められるか、混同のおそれがないか等である。 したがって、仮に、その商標の採択において悪意がなかったとしても、客観的に見てすでに他人が使用する周知な商標と同一、類似であるか、又は混同のおそれがあるか否か等の客観的事実であり、出願人の主観的意図とは関係のないことである。 (3)不正目的(商標法第4条第1項第19号) 被請求人は、請求人商標「VISTARA」が10か月半程度で周知性を獲得することはあり得ないと主張する。 しかし、請求人は、インドにて2014年6月2日に商標「VISTARA」を第39類に出願し、同商標を用いてビジネスを開始したのは2015年1月9日である。しかるに、被請求人が日本で本件商標を第39類に出願したのは請求人の出願よりも約1年5か月後の2015年11月25日であり、請求人が同商標を用いて航空ビジネスを開始した時よりも10か月半遅いのである。さらに、韓国においてインターネット記事で商標「VISTARA」が請求人によって使用されることも報道(2014年8月13日)されており、これも被請求人が日本で本件商標を出願するよりも1年3か月以上も前のことである。 すでに述べたように、航空産業のような国から認可を得て国境を越えたサービスを展開するようなビジネスは、極めて短期間で国境を越えて認識されるものであり、最初のビジネス開始から1年半というのは一定の周知性を獲得するには十分であるといわねばならない。 さらに、請求人は、日本において2014年9月25日に第12類に商標「VISTARA」を出願したが、これは被請求人が日本で第39類に本件商標を出願するよりも1年2か月も前のことである。これら事情からして航空ビジネスに密接な関係を有する「航空券の予約の取次ぎ,旅行者のための座席の予約」等のサービスを行おうとした被請求人にとっては、商標「VISTARA」は請求人が使用する商標として十分に認識していたはずである。 (4)韓国での状況 被請求人は、韓国で出願した本件商標について韓国特許庁の審査段階において不正目的による冒認出願等の理由で拒絶査定となったが、その後の審判で不正の意図が認められず登録査定となったことをもって日本における本件商標の出願においても何ら不正の意図はないと主張する。 しかし、当然のことながら韓国特許庁の審査がそのまま日本でも承継されるものでもなく、また、被請求人が最初に韓国で本件商標を出願した時期と日本での出願時期とは異なるものであり、ある商標出願に拒絶理由や無効理由が存在するか否かはその出願時期によっても異なり、また出願した国、地域でも異なるものであって被請求人の主張には全く根拠がない。 重要なことは、韓国特許庁にて請求人からの異議申立により、不正の意図が認定され、一旦、拒絶査定になったという事実である。その経緯からすれば、被請求人はその時点で本件商標が請求人によって使用されている商標であることを十分に認識していたのである。また、たまたま請求人が第39類に「VISTARA」を出願するのが遅れたとはいえ、航空ビジネスを展開するものは関連企業等を通じて第39類の「航空券の予約の取次ぎ,旅行者のための座席の予約」等のビジネスも行うものであることも容易に推察できるところである。 にもかかわらず、請求人の日本の総代理店に対し「警告書」を送付し、使用差し止め要求を行い、本件審判の係争に入った後においても請求人は紛争の早期解決のため、被請求人に対し本件商標の有償譲渡の申し出に対しても拒絶している。 (5)「Air System Inc.」のホームページの記載 「Air System Inc.」のホームページにおいて、同社が請求人の総代理店となったことに関連した記載は全部で4か所(日本語で2か所、英語で2か所)あるが、日本語の会社概要のページに記載されている2015年7月1日が正しく、この日が請求人との間の代理店契約締結日である。この誤記に関してはすでにホームページも修正した。 (6)不正競争の意図と権利濫用 ア 見せかけ程度の使用 被請求人の不正競争の意図と権利濫用は次の行為に明確に表れている。 すなわち、被請求人は、日本において本件商標を第39類の「航空券の予約の取次ぎ,旅行者のための座席の予約」に使用しているとはいうものの、日本に営業拠点は有せず、その使用は不使用取消を免れるための見せかけの使用ではないかとの強い疑念がある。 イ 「警告状」の送付 かかる使用に基づき請求人の日本総代理店Air System Inc.に対し「警告書」を送付し(甲11)、商標「VISTARA」の使用中止を求めている。この警告書を送付してきた時点では、被請求人が韓国で出願した本件商標について拒絶査定を受けた時点(2017年5月30日)よりもすでに4年以上も経過しており、被請求人は本件商標が請求人にとって極めて重要な商標であることを十分に知った上で日本総代理店に対し商標使用差止めの「警告書」を送付しており、まさに不正の意図が明確に表れているものである。 ウ 請求人からの譲渡申し出の拒否 請求人は、商標「VISTARA」は極めて重要な商標であり、これが被請求人によって保有され使用されるときは、被請求人との間での営業主体の混同のみならず、請求人の顧客との関係で業務上の混同を生じ、一般顧客に迷惑が及ぶことは明らかであることから、紛争の早期解決のため被請求人に対し有償譲渡を申し出た(甲20)。請求人が申し出た譲渡対価は、本件商標の登録の経緯からして適正なものと思われるが、その代理人を通じて送付してきた回答書(甲21)では本件無効審判についての日本の特許庁の審決を待つとのことで事実上の拒否回答であった。 (7)被請求人提出の乙号証について ア 乙第1号証ないし乙第3号証について 被請求人は、乙第1号証ないし乙第3号証をもって「VISTARA」の語は仏教経典に出てくる用語として韓国では知られている用語であり、また請求人により創作された言葉でもないので、被請求人には不正競争の意図や請求人商標の剽窃目的で出願したものではない旨、さらに、「VISTARA」については仏教経典からインスピレーションを受けて着想したものであり、むしろ請求人側が韓国人作曲家のwording(表現)から「VISTARA」を模倣したものであるなどと述べている。 しかしながら、すでに述べたように「VISTARA」はサンスクリット語の「Vistaar」に語源を有し、これは航空産業の商標として用いるにふさわしく、端的に「VISTARA」として採択したものであって、このような用語を航空産業の商標として採択した点に請求人の特異性、創造性が認められるものである。したがって、「VISTARA」そのものは請求人の完全な創作とまではいえないにしても一種の造語性を有するもので、それ故に日本の代表的な幾つかの英和大辞典等を調べても見いだせず、一般人には考え着くことすらもできないような特別な用語であることは確かである。 被請求人は、韓国においては特別な用語ではないと主張しているが、このような特殊な語につき、すでに他人(請求人)が商標として使用していることを知りながら、そのサービスと密接な関係を有するサービスに商標として出願することを問題としているのである。非常に親しみやすく、ポピュラーな語であれば偶然の一致の出願もあり得るが、本件商標はそのようなものではなく、被請求人はすでに「VISTARA」は請求人により航空産業に使用する商標であることを認識した上で出願し、それも請求人のビジネス(航空産業)と密接に関係する「航空券の予約の取次ぎ,旅行者のための座席の予約」のようなサービスを指定役務として出願しているのであって、たまたま請求人の商標と偶然一致したものではない。 イ 乙第4号証及び乙第5号証について 被請求人は、韓国では「VISTARA」の語を含む曲が作曲家により作曲され、演奏されたことがあると述べ、本件商標の採択、出願に当たって被請求人には何ら不正競争の意図や請求人商標を剽窃する意図がなかった旨主張するが、これは韓国での本件商標の出願当時の状況を述べるものであって、日本における本件商標の出願について当てはまるものではない。 ウ 乙第6号証ないし乙第28号証について 被請求人は、乙第6号証ないし乙第28号証に基づき、インド国内では「VISTARA」の語を含む社名が多く存在し、インド以外にも存在することから本件商標を指定役務「航空券の予約の取次ぎ,旅行者のための座席の予約」に使用しても、 請求人のサービスとの混同はないと主張する。 しかし、「VISTARA」の語を含む社名が多く存在するとの点はインドにおける事情であって、本件商標出願国である日本での状況を示すものではない。なお、仮に本件商標の指定役務が請求人のビジネスとは全く無関係な分野を指定して登録を受けたのであればともかくとして、請求人の本体たるビジネス(航空産業)に密接に関係する「航空券の予約の取次ぎ,旅行者のための座席の予約」等に使用するのであるから、請求人との営業主体に関して混同が生じるおそれがあることは否定できない。 第4 被請求人の答弁 被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第31号証(枝番号を含む。以下、枝番号の全てを引用するときは、枝番号を省略して記載する。)を提出した。 1 商標法第4条第1項第10号について 請求人は、請求人は2015年1月9日よりインドにて事業を開始している(甲2)と主張し、甲第2号証では、同日にデリー発ムンバイ行きを初めて就航させたとあり、そして、請求人は日本の国土交通省により2020年(令和2年)2月28日付けにて日本就航についての営業認可がなされている(甲4)とある。 本件商標の先願権発生日は、2015年9月22日であって、その時点においては、インド国内便が就航したばかりであり、かつ、日本には就航していないことから、日本国内で周知になることは考えられないものである。 また、本件商標の指定役務は「旅行に関連する相談及び予約,旅行者のための座席の予約,オンラインによる旅行・ツアーに関する情報の提供,旅行に関する情報の提供,個人及び団体のための旅行の手配,パッケージホリデイ用の観光旅行・巡航の企画及び実施,旅行者の輸送,輸送の予約,航空券の予約の取次ぎ,物品の配達」であり、このような事業・サービスを日本で開始していないことからも、やはり日本国内で周知になることは考えられないものである。 以上のことから、本件商標について、商標法第4条第1項第10号に該当するものではない。 なお、商標法第47条の規定に鑑みても、本件商標は、後に述べるように不正競争の目的で商標登録を受けたものでないことから、審判請求できるものではない。 他方で、請求人は、「(請求人商標「VISTARA」は)日本では第12類に2014年9月25日に出願され、2015年3月10日に登録公報が発行されたものであるが、被請求人が本件商標を日本で第39類に出願したのはその登録公報が発行された日よりも後の2015年11月25日に出願されたものである。しかし、航空産業の特殊性に鑑みた場合、請求人商標はその登録後、極めて短期間に一定の周知性を獲得したものと考えられ、被請求人が本件商標を出願した2015年11月25日にはすでに一定の周知性を獲得していたものと考えられる。」と述べている。 まず、商標法第4条第1項第10号の規定の判断時期であるが、本件商標の先願権発生日である2015年9月22日を基準とすべきと思料する。 次に、上述のように請求人は、請求人による登録商標第5739418号の登録をもって、2015年11月25日にはすでに一定の周知性を獲得していたものと主張しているが、商標の周知性の獲得は、専ら取引事情(営業活動や広告宣伝など)に応じて得られるものであり、商標登録やその他の許可を得たからといって周知性を獲得することはないものである。 さらに、この登録商標第5739418号の指定商品は、第12類「船舶並びにその部品及び附属品,航空機並びにその部品及び附属品,鉄道車両並びにその部品及び附属品,自動車並びにその部品及び附属品,二輪自動車・自転車並びにそれらの部品及び附属品」である。請求人の航空機の路線就航と、この登録商標は何らの関係もないものであり、むしろ、請求人等のこれらの商品に対する登録商標の使用は、出願時から現時点においてもないものと思料され、不使用取消審判(商標法第50条)の対象になり得るものである。 商標法において、「商品」とは「商取引の目的たりうべき物、特に動産をいう」と解釈され、商標の使用は、商標法第2条に、「商品又は商品の包装に標章を付する行為」「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輪出し、輸人し、又は電気通信回線を通じて提供する行為」と規定されていることから、そもそも請求人が当該登録商標の使用実績がないと思料されるものである。 このような使用を予定していない商標の登録、かつ、被請求人の登録商標とは非類似のものの存在によって、被請求人の登録商標の有効性が影響されるものではない。 なお、請求人は、「これ(請求人商標「VISTARA」)をインドにて出願したのは2014年6月2日(第12類及び第39類)である。」と述べ、さらに、「この「VISTARA」という用語は日本で販売されている英語大辞典においても出てくるものではなく、請求人が創作した造語である。この「VISTARA」の語はサンスクリット語の「Vistaar」から請求人が着想して創作した極めて独創性の高い造語であって、通常人が着想できるものでもなく、偶然の一致というようなものでもない。」と主張している。 しかし、「これ(請求人商標「VISTARA」)をインドにて出願したのは2014年6月2日(第12類及び第39類)である。」については、同国において、これらの商標登録出願は、インド特許庁で拒絶査定となったもの(乙29)を、その後の判断において登録されたものである。したがって、類似の商標は既に、請求人の出願前から存在していることから、請求人の商標が新奇・独創的というものではないと思料する。被請求人があたかも請求人の商標を剽窃したといった主張(「通常人が着想できるものでもなく、偶然の一致というようなものでもない。」との主張)は成立しないものである。 2 商標法第4条第1項第15号について 商標法第4条第1項第15号に関する審査基準を見ると、「本号に該当するか否かは、例えば、次のような事実を総合勘案して判断する。」として、例えば、aその他人の標章の周知度、b外国において著名な標章が、我が国内の需要者によって広く認識されているときは、その事実を十分考慮して判断する。cその他人の標章が造語よりなるものであるか、などを挙げている。 このうち、上記a及びbについては、上述したように、請求人の商標は、本件商標の先願権発生日である2015年9月22日の時点では、周知ではないので、これには該当しない。 また、上記cについては、請求人は「VISTARA」の文字は、自身が案出した造語であるとしている。 しかし、本件商標の「VISTARA」は、仏の一生を扱った仏教経典「lalita―vistara」からインスピレーションを受けて取った単語である。「lalita―vistara」は数百年前から韓国と日本を含めて全世界的に知られている。韓国と日本では仏教経典「lalita―vistara」を方広大荘厳経と呼ばれており、仏教において「lalita」は「遊び、遊戯」を意味し、「vistara」は「大規模、教説」を意味する単語である(乙1〜乙3)。 また、請求人は「この「VISTARA」の語はサンスクリット語の「vistaar」(無限の広がりの世界といったような意味)から請求人が着想して創作した極めて独創性の高い造語」であると説明している。 しかし、被請求人は、逆に、請求人が、韓国人オーケストラ作曲家「チョン・ヒョンソク」の曲からコピーしたものと考えている。2013年に発表された韓国人オーケストラ作曲家「チョン・ヒョンソク」の曲「VISTARA」と類似するどころか、それを超えて、紹介するワーディングまでそのままコピーしていると思われる。「チョン・ヒョンソク」は、「2011−2013オーケストラVISTARA」を作曲し、曲の説明として「VISTARA is a Sanskrit word meaning expansion.」というワーディングを世界で初めて使用して曲を紹介した(乙4、乙5)。「vistara」という単語は数百年前から使われていたが、「vistara」の意味を知らせる「VISTARA is a Sanskrit word meaning expansion.」というワーディングは韓国で初めて始まり、それ以前の資料は見つからず、韓国で発表されたワーディングを請求人がコピーして使ったものと考えている。 さらに、請求人のインド出願以前から「vistara」の文字を主要部とする会社名は、インド国内でも多く見つかることから、「VISTARA」の文字を含む会社名などは、特段新奇なものではないものである。 「https://www.tofler.in/search?cin=&q=vistara」及び「https://www.zaubacorp.com/companysearchresults/vistara」のサイトを見ると、例えば、「VISTARA DESIGNS AND INVESTMENTS PRIVATE LIMITED(1995)」「VISTARA INFORMATICS PRIVATE LIMITED(1999)」「VISTARA PRODUCTS PRIVATE LIMITED(2006)」「VISTARA DESIGNS AND INVESTMENTS PRIVATE LIMITED(1995)」(カッコ内の数字は設立年)など数多くの会社名称が確認できる。 加えて、インド以外でも数多くある(乙6〜乙28)。 以上のことから、請求人がいうように、独自で案出した新奇な名称であるとの主張は、成り立たない。 したがって、請求人の「VISTARA」の商標は、日本国内においても周知でもなく、かつ、新奇な名称でもないことから、被請求人の本件商標は商標法第4条第1項第15号の規定に違反するものではない。 なお、商標法第47条の規定に鑑みても、本件商標は、後に述べるように不正競争の目的で商標登録を受けたものでないことから、審判請求できるものではない。 3 商標法第4条第1項第19号について 前述したように、請求人の「VISTARA」の商標は、日本国内においても周知でもなく、かつ、インドやその他の外国の会社名称として散見できることから新奇な名称でもない。そして、請求人の所在するインドにおいても、本件商標の先願発生日においては周知性を獲得しておらず、請求人の使用する「VISTARA」の商標は、独自で案出した造語ではなく、構成上顕著な特徴を有するものでもないことから、商標法第4条第1項第19号に該当するものではない。 上述したように、請求人は2015年1月9日よりインドにて事業を開始している(甲2)と主張し、甲第2号証では、同日にデリー発ムンバイ行きを初めて就航させたとある。 したがって、その後の2015年9月22日の僅か数か月の間で、インドを含めた外国において周知になることは考えにくい。 以上のことから、周知性もなく、散見される文字であり構成上顕著な特徴を有するものでもないことから、商標法第4条第1項第19号に該当するものではない。 ちなみに、韓国においても、同様の事件(請求人及び被請求人の間)があったが、韓国特許庁の審判によって(不正目的を理由とした拒絶査定不服審判のなかで、不正目的ではないとの被請求人の主張が認められて)、被請求人の登録商標が維持されている(乙30)。 4 商標法第4条第1項第7号について 我が国の商標法は、先願主義を採用しており、不正目的に基づく商標出願を排除する目的で設けられた商標法第4条第1項第19号の趣旨に照らして、それらの趣旨から離れて、商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を安易に拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、法的安定性を著しく損なうことになると思料する。 その上で、本件商標が剽窃でないことを説明する。 上述したように、被請求人は、独自に「VISTARA」の名称を着想したものである。請求人は、「VISTARA」の名称やコンセプトを自身が独自に案出して、被請求人の商標出願について、不可解である旨を述べている。 しかし、「VISTARA」の名称やコンセプトは、上述したように韓国人の音楽家が、請求人の商標出願よりも以前に、それを発表しており、逆に、独自に請求人が案出したということが不可解であるといわざるを得ない。さらには、「VISTARA」の文字を含む会社名称が散見されることを併せて考慮すると、請求人が商標法第4条第1項第7号を根拠として、被請求人にあたかも剽窃的な商標出願であるといったことを主張する立場にはないと思料する。 また、請求人は、「請求人商標「VISTARA」は2014年6月2日に最初にインドで第12類及び第39類に出願され登録されている。そして日本では第12類に2014年9月25日に出願され、2015年3月10日に登録公報が発行されたものである」と説明している。インドでは、第12類及び第39類を商標出願して、日本での商標出願もしているなかで、日本では第39類の指定役務について商標出願をしていないことは、むしろ積極的に、第39類の登録商標を望んでいなかったと理解すべきである。 加えて、上述したように、韓国特許庁の審判においては、被請求人の不正目的であることは、否定されていることもある。 以上の事情から、出願、権利取得過程で不正義があると考えられる商標としての無効理由(商標法第4条第1項第7号)に該当するものではない。 5 その他 請求人の提出した甲第7号証に「2015年7月 ヴィスタラ(Vistara TATA SIA Airline Ltd.)の総代理店(旅客)となる。」とあるが、この「https://www.airsystem.jp/」を見ると、「11/01/2015 ヴィスタラの日本地区総代理(旅客)となりました。」とあり(乙31)、その時期において齟齬がある。本件商標出願前に、総代理店になったことを示すものと思われるが、同社のHPを見ると、本件商標出願後の2015年11月1日と確認される。請求人の証拠について、全体的に信ぴょう性が疑わしいと思料する。 以上述べたことから、請求人の各種の無効理由は存在せず、本件商標は維持されるべきである。 第5 当審の判断 請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては、当事者間に争いがなく、また、当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。 以下、本案に入って審理する。 1 本件商標は不正競争又は不正の目的で商標登録を受けたものであるか否かについて 本件商標は、平成28年(2016年)4月22日に設定登録されたものであり、本件無効審判の請求がされた令和4年(2022年)2月25日には、既に設定登録の日から5年以上経過しているため、本件無効審判の請求の理由中、商標法第4条第1項第10号及び同項第15号に該当することを理由とする請求は、それぞれ、不正競争の目的で商標登録を受けた場合及び不正の目的で商標登録を受けた場合に限られることから(同法第47条第1項かっこ書き)、本件商標が不正競争の目的又は不正の目的で商標登録を受けたものであるか否かについて、まず検討する。 (1)当事者が提出した証拠、双方の主張及び職権調査によれば、以下のとおりである。 ア 請求人は、インドの「Tata Sons Limited」と「シンガポール航空」との共同出資で2013年に設立された航空会社である(甲2)。 韓国における航空旅行に関するウェブサイトにおいて、「インドタタグループ、シンガポール航空とVISTARA航空を設立」の見出しの下、インドのタタグループは、シンガポール航空と推進していた別の航空会社設立協議が終了し、名前をVistaraに定めたと8月12日発表した旨のニュースが2014年8月13日付けで掲載された(甲12)。 請求人は、インドにおいて、2014年6月2日、商標「VISTARA」を第12類及び第39類に出願した(請求人の主張、甲3)。 また、請求人は、我が国において、平成26年(2014年)9月25日、「VISTARA」の文字を標準文字で表してなる商標を第12類「船舶、航空機」等を指定商品として出願し、平成27年(2015年)2月6日に設定登録され(甲5)、さらに、平成28年(2016年)11月2日、同商標を第16類、第18類、第21類、第25類、第27類、第28類、第37類、第43類の商品・役務を指定商品・指定役務として出願し、平成30年(2018年)2月16日に設定登録された(甲6)。 請求人は、2015年1月9日よりインドにおける国内便の就航を開始し(甲2)、その機体には「VISTARA」の文字が表示されている(甲14)。なお、請求人は、2019年8月から国際便の運航を開始し、我が国においては2021年7月から開始したことがうかがえる(職権調査)。 イ 被請求人は、本件商標を2015年9月22日に韓国において出願したところ、不正な目的をもって出願した商標であることを理由として2017年5月30日に拒絶査定を受けた(乙30)が、拒絶査定不服審判において原査定が取り消され、2019年3月5日に設定登録された(被請求人の主張)。 被請求人は、本件商標を我が国において平成27年(2015年)11月25日に出願し、平成28年(2016年)4月22日設定登録された(甲1)。 被請求人は、2021年8月25日付けで、日本における総代理店株式会社エア・システム(甲7)に対し商標「VISTARA」の使用を中止するよう「警告状」を送付した(甲11)。 ウ 上記ア及びイによれば、以下のとおりである。 請求人は、2013年にインドにおいて設立された航空会社であり、同人の主張によれば、2014年6月には、商標「VISTARA」を「航空サービスその他の航空関連サービス」に使用するものとしてインドにおいて出願したことがうかがえる。 また、請求人は、2015年1月からインドにおける国内便のみで就航を開始させたものの、国際便の運航は2019年8月開始であって、それまではインドにおける国内便のみであったことがうかがえる。 さらに、韓国において、VISTARA航空設立に関するウェブニュースが2014年8月13日付けで掲載されたことは認められるとしても、その報道の規模は不明である。 なお、請求人は、請求人に係る「航空サービスその他の航空関連サービス」に商標「VISTARA」を使用した具体的な実績(具体的なサービスの提供内容、売上高、市場シェア、広告の規模等)について主張、立証をしていない。 そうすると、被請求人が、韓国及び我が国において、本件商標の商標登録出願した時点では、請求人は、すでにインド国内において商標「VISTARA」を「航空サービスその他の航空関連サービス」に使用していたといえるものの、韓国における報道の規模は不明であるから、被請求人が、請求人の使用に係る商標「VISTARA」の存在を知っていたかは定かとはいえないし、請求人が当該サービスに商標「VISTARA」を使用した具体的な実績などは見いだせないから、「VISTARA」の文字が請求人の使用に係る商標として需要者の間に広く認識されているということもできないものであり、被請求人による本件商標の出願が請求人の商標の知名度に便乗した不正な意図を有するものであるともいえない。 さらに、被請求人が請求人の総代理店に対し、商標権侵害の警告状を送付することは、通常、商標権者による正当な行為と認め得るものであって、そのことが直ちに不正の目的に当たるということはできないことに加え、本件商標の買取りを迫るとか、請求人に損害を与え、被請求人において不正の利益を得る意図があったといった事実は認められない。 以上の事実及び被請求人による本件商標の出願の経緯等を併せみれば、被請求人が本件商標を出願した行為は、請求人商標「VISTARA」が我が国において商標登録を受けていないことを奇貨として行われた剽窃的行為とみることはできないし、被請求人による本件商標の出願が著しく社会的妥当性に欠けるものであるともいえず、他に、本件商標が不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的、その他の不正競争の目的や不正の目的をもって出願、登録されたものであることを認めるに足る証左はない。 (2)以上によれば、本件商標は、商標法第47条第1項にいう不正競争の目的又は不正の目的で商標登録を受けたものには該当しないというべきである。 2 商標法第4条第1項第10号及び同項第15号について 前記1のとおり、被請求人が本件商標の出願をし、商標登録を受けたことについて、不正競争の目的又は不正の目的があったものということはできない。 そうすると、本件商標が商標法第4条第1項第10号及び同第15号に該当するものとする無効の理由についての請求は、同法第47条に規定する除斥期間の適用を受けるものである。 したがって、本件審判の請求は、本件商標権の設定登録の日から5年を経過した後になされているものであるから、商標法第4条第1項第10号及び同第15号の無効理由については、無効審判の請求に対する除斥期間の経過後になされた不適法な請求といわなければならない。 3 商標法第4条第1項第19号について (1)上記1のとおり、本件商標権者が不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的、その他の不正の目的をもって使用するために本件商標の登録を受けたものとは認められない。 (2)請求人商標「VISTARA」の周知性について 請求人は、請求人商標「VISTARA」を2015年1月からインド国内で「航空サービスその他の航空関連サービス」に使用していたことはうかがえるものの、本件商標の出願時には、国際線の就航はされていないものであって、さらに、インド又は我が国における請求人による具体的なサービスの提供内容、運航本数、利用者数、売上高、市場シェア、広告の規模等についての主張、立証はないことから、請求人商標の周知性について客観的に把握することはできない。 そうすると、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人商標が、請求人の業務に係る役務を表示するものとして、インドを含む外国又は我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。 なお、請求人は、航空業といった営業主体の特殊性から、それらの営業体が使用する商標についての周知・著名性は、不特定多数の事業者が一般的な日用品等を販売する場合に求められる基準等とはおのずと異なるものと考えるべきなどと主張するが、請求人が請求人商標を用いて提供するサービスの規模について、他の業種と比較検討し、その周知性を推し量るための証左は見いだせないことから、その特殊性を考慮することや周知性を判断することが困難といわざるを得ないものであり、請求人の主張は採用できない。 (3)上記(1)及び(2)によれば、本件商標と請求人商標とが「VISTARA」の文字を共通にする類似の商標であるとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものということはできない。 4 商標法第4条第1項第7号について 本件商標は、別掲のとおり、ハングル文字と「VISTARA」の文字を二段に表した構成からなるところ、その構成が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるようなものではなく、また、上記において認定判断したとおり、被請求人が本件商標を不正の目的をもって剽窃的に出願したものとも認められないから、公正な取引秩序や社会一般の道徳観念に反する等、著しく社会的妥当性を欠き、その登録を容認することが商標法の目的に反するものとはいえない。 したがって、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標に該当するものではないから、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものということはできない。 5 むすび 以上のとおり、本件審判の請求は、その無効理由中、商標法第4条第1項第10号及び同第15号を理由とする請求については、不適法なものであって、その補正をすることができないものであるから、商標法第56条第1項において準用する特許法第135条の規定により却下すべきものである。その余の無効理由については、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号及び同第19号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきでない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲(本件商標) (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。 審判長 森山 啓 出訴期間として在外者に対し90日を附加する。 |
審理終結日 | 2023-03-07 |
結審通知日 | 2023-03-10 |
審決日 | 2023-03-30 |
出願番号 | 2015115565 |
審決分類 |
T
1
11・
22-
Y
(W39)
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最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
森山 啓 |
特許庁審判官 |
小松 里美 小林 裕子 |
登録日 | 2016-04-22 |
登録番号 | 5844900 |
商標の称呼 | ビスタラ |
代理人 | 小出 俊實 |
代理人 | 橋本 良樹 |
代理人 | 岡田 貴志 |
代理人 | 蔵田 昌俊 |
代理人 | 幡 茂良 |
代理人 | 新保 斉 |