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審決分類 審判 査定不服 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 取り消して登録 W30
管理番号 1401771 
総通号数 21 
発行国 JP 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2023-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-04-15 
確定日 2023-08-29 
事件の表示 商願2020−16092拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願商標は、登録すべきものとする。
理由 1 手続の経緯
本願は、令和2年2月14日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年3月16日付け:拒絶理由通知書
令和3年7月28日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年1月12日付け:拒絶査定
令和4年4月15日 :審判請求書、手続補正書の提出

2 本願商標
本願商標は、「熊本酵母」の文字を標準文字で表してなり、第30類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として、登録出願されたものであって、その後、指定商品については、上記1の手続補正書により、最終的に、第30類「吟醸酒製造用清酒酵母」とされたものである。

3 原査定の拒絶の理由の要点
本願商標は「熊本酵母」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中、「熊本」の文字は、「九州地方中西部の県。肥後国を管轄。」の意味を有する語である。また、「酵母」の文字は、「出芽によって繁殖する球形もしくは楕円体の微細な単細胞の菌類の総称。酒の醸造やパン製造に欠かせない。イースト。」の意味を有する語であり、本願の指定商品を表すものである。
そうすると、本願商標をその指定商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、熊本県で生産又は販売される酵母であることを表したものと理解するにすぎないというのが相当であるから、本願商標は、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものと認める。
したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。
また、出願人は、商標法第3条第2項の規定の適用により、商標登録を受けることができるものである旨主張しているが、出願人提出の資料によっては、本願商標が使用をされた結果需要者が何人かの業務にかかる商品であることを認識することができるものであるということはいえない。
したがって、本願商標は、商標法第3条第2項の要件を具備するものではない。

4 当審の判断
(1)商標法第3条第1項第3号該当性
本願商標は、「熊本酵母」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中「熊本」の文字は「九州地方中西部の県」等の意味を有する語であり、また、「酵母」の文字は「出芽によって繁殖する球形もしくは楕円形の微細な単細胞の菌類の総称」等の意味を有する語(いずれも「広辞苑第七版」株式会社岩波書店)である。
そして、当審における職権調査によれば、本願の指定商品を取り扱う業界においては、「酵母」の文字は「〇〇酵母」(「〇〇」には地方自治体の名称が入る。)の形で「〇〇で開発された酵母」を指称する語として使用されているものである(別掲)。
そうすると、本願商標をその指定商品について使用しても、これに接する需要者は、当該商品が「熊本県で開発された酵母」であるという商品の品質を表示したものと認識するにとどまり、自他商品の識別標識としては認識し得ないというのが相当である。そして、本願商標は、標準文字で表したものであるから、その態様上顕著な特徴を有するものではない。
したがって、本願商標は、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標といえるから、商標法第3条第1項第3号に該当する。
(2)商標法第3条第2項に規定する要件を具備するか否かについて
請求人は、本願商標は、商標法第3条第2項の規定の適用により、商標登録を受けることができる旨を主張し、その証拠方法として、原審ないし当審を通じて第1号証ないし第101号証を提出しているから、以下検討する。
なお、本審決においては、請求人が提出している第1号証ないし第101号証を、順次、甲第1号証ないし甲第101号証と読み替えるものとする。
ア 請求人の主張及び同人の提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
(ア)請求人は「熊本酵母」という名称の吟醸酒製造用清酒酵母(以下「使用商品」という。)を昭和27年頃に開発し、その製造・販売を昭和39年から現在に至るまで継続して行っている(甲1〜甲10等)。
(イ)請求人は「熊本酵母」の漢字を横書きしてなる商標を、使用商品の入った瓶のラベルに表記している(甲7、甲8)。
(ウ)本願の指定商品の需要者は清酒製造業者(以下「本願需要者」という。)であるところ、請求人による使用商品の販売先は、北は北海道、南は鹿児島までの全国の吟醸酒製造業者であって、例年50〜70社に販売している(甲18〜甲20、請求人の主張)。
(エ)請求人は、使用商品の取引書類において、「熊本酵母」を表記している(甲9、甲10)。
(オ)請求人は、酒史学会等で、使用商品がどのように生まれたのか等の歴史や、どのような特徴のあるものなのかについての発表や講演を行い、使用商品の普及活動をしている(甲11〜甲17)。
(カ)使用商品は、本願需要者を対象とした業界紙だけではなく、一般需要者を対象とする雑誌やウェブサイト等において、請求人によって生み出されたものであって、昭和の吟醸酒ブームを支えた酵母や現代の吟醸酵母のルーツとなる酵母であること、優れた酵母であること、銘酒造りに欠かせない酵母であること、全国の九割以上の酒造元が使用商品を使用して吟醸酒造りを行っていること、全国の酒蔵で使われており日本酒造りに欠かせないものとなっていること等が紹介されている(甲1〜甲4、甲7、甲8、甲23、甲25、甲27、甲29、甲32、甲34,甲60、甲62等)。
(キ)使用商品を用いて製造された清酒は、全国規模で開催される唯一の清酒鑑評会であるとされる独立行政法人酒類総合研究所及び日本酒造組合中央会による「全国新酒鑑評会」(以下「全国鑑評会」という。)において、入賞するための条件あるいは入賞する酒の傾向を表すものとして、あるいは、うまい酒造りの方程式として「YK35(山田錦の米、熊本酵母、35%精米)」という言葉があることが、本願需要者を対象としたものだけではなく、一般需要者を対象とした新聞、書籍、ウェブサイト等でも紹介されている(甲14、甲30、甲33、甲44、甲46〜甲49、甲55、甲63)。
(ク)令和2酒造年度の全国鑑評会の「開催要領」には、出品する清酒に使用した酵母が使用商品である場合の出品酒調査表への記載方法が特に記載されている(甲89)。また、熊本国税局による酒類鑑評会(以下「熊本鑑評会」という。)においては、出品区分として「熊本酵母吟醸酒の部」が存在する(甲91〜甲93)。
(ケ)昭和43年からは、請求人と財団法人日本醸造協会との間で交わされた契約に基づき、当該協会は、使用商品をルーツとする清酒酵母を「きようかい9号酵母」の名称で、当該協会が出所であることを明示した上で、全国の吟醸酒製造業者に販売している(甲1〜甲8、甲65〜甲67等)。
(コ)マイナビ農業のウェブサイトや平成13酒造年度、同20酒造年度及び同30酒造年度の「全国新種鑑評会出品酒の分析について」等の文献や「日本酒ベストコレクション205」(株式会社日本文芸社)等の書籍には、使用商品と「きようかい9号酵母」は区別して記載されている(甲24、甲40〜甲42、甲45、甲54、甲76、甲79、甲80等)。
(サ)請求人が取引相手に対しておこなったアンケートには、使用商品と「きようかい9号酵母」を比較した感想が記載されているものがある(甲84、甲85)。
イ 判断
上記認定事実によれば、請求人は、昭和39年から現在に至るまでの約60年間もの長きにわたり、「熊本酵母」の商標を、自社が開発した商品「吟醸酒製造用清酒酵母」について継続的に使用し、当該使用商品は、例年50〜70社の全国の本願需要者に対し販売されていることが認められる。
また、(ア)使用商品は、上記全国鑑評会で入賞するための条件の一つとして挙げられるなど日本酒造りに欠かせないとの評価を得ており、我が国における吟醸酒造りに大きな影響を与えたものであることなどが、本願需要者を対象とした業界紙等のみならず、一般需要者を対象とする雑誌やウェブサイト等においても紹介されていること、(イ)全国鑑評会や熊本鑑評会において、「熊本酵母」を使用した清酒は専用の出品区分が設けられるなど特別な扱いを受けていること、さらに、(ウ)請求人は、酒史学会等のセミナー等で使用商品の特徴等について発表をするなど普及活動を行ってきたことが認められる。
そして、請求人が商標として使用した「熊本酵母」は、本願商標の構成文字とそのつづりを同一にするものであって、どちらも書体等に特徴的な要素は認められないものであるから、請求人の使用に係る「熊本酵母」は本願商標と社会通念上同一の商標と認めることができる。また、使用商品は、本願の指定商品と同一のものである。
なお、財団法人日本醸造協会が販売する「きようかい酵母9号」は、請求人の使用商品を基にするものであるが、同協会がこれを「熊本酵母」として販売した事実はなく、その他、本願商標を構成する「熊本酵母」の文字を、本願の指定商品について、請求人以外の者が使用している事実は見いだせない。
以上を総合的に考察すれば、本願商標は、本願の指定商品を表示するものとして、我が国の本願需要者の間に、広く認識されているものであって、請求人による継続的な使用の結果、需要者が何人か(請求人)の業務に係る商品を表示する商標として認識するに至ったものとみるのが相当である。
したがって、本願商標は、商標法第3条第2項の要件を具備するものというべきである。
(3)まとめ
以上のとおり、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当するとしても、同条第2項の要件を具備するものである。
その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

別掲

別掲 本願の指定商品を取り扱う業界においては、「酵母」の文字は「〇〇酵母」(「〇〇」には地方自治体の名称が入る。)の形で「〇〇で開発された酵母」を指称する語として使用されていること(下線は合議体による。)
1 静岡県酒造組合のウェブサイトには、「静岡県開発のオリジナル清酒酵母「静岡酵母」」の見出しの下、「この快挙の原動力のひとつになったのが、「静岡酵母」の存在です。静岡酵母は、酢酸イソアミル優勢の柔らかな果実香を引き出す、静岡県開発のオリジナル清酒酵母です。静岡酵母で醸した酒は「静岡型吟醸」と呼ばれ、「フレッシュで飲みあきしない酒。」「フルーティな香りで、雑味のない綺麗な酒」「優しい味と香りで、食中酒として最適。」といった評価をいただいています。」の記載がある。
(https://www.shizuoka-sake.jp/torikumi/kobo.html)
2 おいしい日本酒・酒蔵紀行のウェブサイトにおける「協会酵母」というタイトルの記事には、「協会14号(1401号)」の見出しの下、「平成8年に、金沢国税局鑑定官室で局内に保管していた酵母から分離したものです。「金沢酵母」と呼ばれます。」の記載がある。
(http://sakekiko.com/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E9%85%92%E3%81%AE%E5%8E%9F%E6%96%99/%E5%8D%94%E4%BC%9A%E9%85%B5%E6%AF%8D/)
3 「贅沢時間シリーズ 日本酒事典」(株式会社 学研パブリッシング)の29ページには、「品評会では香り高い日本酒が強い」の見出しの下、「よく使われている酵母には、大きく2つの系統がある。・・・一方、自治体や蔵などによる開発酵母も近年盛んに研究されている。有名なものに、山形酵母や長野酵母、静岡酵母、広島酵母などがある。」の記載がある。
4 「酒のほそ道 宗達流 日本酒入門」(株式会社日本文芸社)の77ページには、「そのほかの酵母」の項に「各都道府県が開発した主な酵母」の見出しの下「山形酵母」「静岡酵母」の記載がある。
5 「酒販店で買える究極の日本酒 −世界が認めた市販酒148銘柄−」(株式会社PHP研究所)の79ページには、「県が独自につくる開発酵母」の見出しの下、「宮城酵母」について「宮城県が開発」の、「静岡酵母」について「静岡県が開発」の、「山形酵母」について「山形県が開発」の、「アルプス酵母」について「長野県が開発。「長野酵母」とも呼ばれる」の記載がある。

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審決日 2023-08-17 
出願番号 2020016092 
審決分類 T 1 8・ 13- WY (W30)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 冨澤 武志
特許庁審判官 馬場 秀敏
須田 亮一
商標の称呼 クマモトコーボ 
代理人 加藤 久 
代理人 遠坂 啓太 
代理人 南瀬 透 
代理人 宇野 智也 

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