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審決分類 審判 一部申立て  登録を維持 W35
管理番号 1400828 
総通号数 20 
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2023-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-10-17 
確定日 2023-07-24 
異議申立件数
事件の表示 登録第6598376号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6598376号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第6598376号商標(以下「本件商標」という。)は、「ANGO」の欧文字を標準文字で表してなり、令和4年3月9日に登録出願、第35類「不動産販売事業の管理,自動車に関する商品販売情報の提供,自動車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定役務として、同年8月1日に登録査定され、同年8月8日に設定登録されたものである。

2 引用商標等
(1)登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用する登録第6111494号商標(以下「引用商標」という。)は、「ANGO HOTELS」の欧文字を標準文字で表してなり、平成30年3月20日に登録出願、第35類「ホテルの事業の管理,経営の診断又は経営に関する助言」(以下「引用役務」という。)を含む第35類及び第39類に属する商標登録原簿に記載の役務を指定役務として、同年12月28日に設定登録されたものであり、その商標権は現に有効に存続しているものである。
(2)申立人が、本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当するとして引用する商標は、次のとおりの態様からなるものであり(以下、それらをまとめて「使用商標」という。)、申立人らが「ホテル・地域活性化に関する事業の管理、ホテル従業員の教育・研修事業の管理」などについて使用し、需要者の間に広く知られているとするものである。
ア 別掲1のとおり (以下「使用商標1」という。)
イ 別掲2のとおり (以下「使用商標2」という。)
ウ 別掲3のとおり (以下「使用商標3」という。)
エ ANGO (以下「使用商標4」という。)
オ 株式会社ANGO (以下「使用商標5」という。)
カ アンゴ (以下「使用商標6」という。)
キ 安居 (以下「使用商標7」という。)
ク ANGO HOTELS (以下「使用商標8」という。)
ケ アンゴホテルズ (以下「使用商標9」という。)
コ ENSO ANGO (以下「使用商標10」という。)

3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標はその指定役務中第35類「不動産販売事業の管理,自動車に関する商品販売情報の提供」(以下「申立役務」という。)について、商標法第4条第1項第11号及び同項第10号に違反して登録されたものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきものであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第37号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)本件商標の登録が商標法第4条第1項第11号に違反する理由
ア 本件商標と引用商標について
本件商標は、「ANGO」の欧文字を標準文字で表してなるものであり(甲1)、引用商標は、「ANGO HOTELS」の欧文字を標準文字で表してなるものである(甲2)。
イ 申立人らについて
申立人及びその代表者「A」氏(以下、両者を併せて「申立人ら」という。)は、ホテルの運営、ホテルの経営支援、宿泊・観光・地域再生事業に関するコンサルティングなどの役務の提供を業とする法人及び個人事業主である(甲3〜甲5)。
なお、引用商標の旧名義人は、「A」氏が代表取締役を務める「アンゴホテルズ株式会社」であったが、株式会社グローバル・ホテルマネジメントとの合弁事業を解消したことに伴い、「アンゴホテルズ株式会社」の事業及び資産を一旦整理したうえで、「A」氏が承継し、引用商標などの商標権も同氏に譲渡されたものである(甲2、甲6、甲7)。
引用商標の現名義人、かつ、申立人の代表者である「A」氏は、アーサーアンダーセンホスピタリティグループ、KPMG・ホスピタリティグループ、ゴールドマンサックスリアルティジャパンを経て、政府系ファンドの企業再生支援機構に入構し、グランビスタホテル、札幌グランドホテル、鴨川シーワールド、ホテル日航アリビラ等の全国20地域のホテル・観光・地域再生事業等を支援するなど、ホテル・観光・地域再生事業等の分野で広く知られた人物である(甲8、甲9、ほか)。
また、同氏は、国土交通省観光庁で観光・まちづくり事業の有識者を務め、日本政府観光局と「古民家等の歴史的資源を活用した外国人旅行者の地方誘客促進に向けた連携協定」を締結し、内閣府(地方創生推進事務局)が派遣する地域おこしの専門家(地域活性化伝道師)として、第二次安倍政権が掲げた「地方創生」に係る国の施策を推進する活動などを行うほか、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の正式事業「世界ジオパーク(隠岐ジオパーク)」の開発に携わるなど、ホテル・観光・地域再生事業等の分野で国や国際機関に携わる人物である(甲9、甲15、ほか)。
その他、同氏は、日本最大級のホテル専門学校「日本ホテルスクール」や大学、日本を代表するデザインの公的団体「日本インダストリアルデザイン協会」、旅行・観光のアジア太平洋地区最大規模の国際会議「WiT Japan & North Asia」など、ホテル・観光に関する教育・セミナーの分野でも審査員・講師・登壇者等を務める広く知られた人物でもある(甲9、甲14、甲15、ほか)。
ウ 本件商標と引用商標の類否
(ア)外観について
両商標は、前述の構成からなるところ、本件商標を構成する「ANGO」の欧文字と引用商標を構成する「ANGO」の欧文字部分は、その書体、文字種別及び大文字・小文字も含み、文字が完全同一である。
一般に、結合された文字の語頭ないし前半部分は、視覚上、需要者に目立つ部分として記憶されるところ、本件商標と引用商標は、前半の「ANGO」の部分は一致し、後半の「HOTELS」の欧文字部分の有無のみが相違する。
また、引用商標を構成する「HOTELS」の部分は、後述のとおり、「ホテル(洋式の宿泊施設)」を意味するよく親しまれた英語であり、識別力が強い造語である前半の「ANGO」の部分に比して、既成語である後半の「HOTELS」の部分は、識別力が弱い。そのため、前半より目立たない後半に位置し、かつ、前半に比し識別力が弱い「HOTELS」の部分は、簡易迅速をたっとぶ取引の実際においては、捨象され得る部分となる。
加えて、引用商標の指定役務のうち、引用役務との関係で、「HOTELS」の部分は、特に識別力が弱い。
専門分化(所有と経営と運営)が進むホテル業の分野において、ホテルの運営及び経営支援に係る「ホテルの事業の管理,(ホテルに関する)経営の診断又は経営に関する助言」の引用役務は、MC(マネジメント・コントラクト)方式と呼ばれるホテルの運営及び経営支援の委託契約を通じ、ホテルオーナーに対して提供される実情がある(甲10、甲11)。
そのため、第43類「宿泊施設の提供」に限らず、引用役務との関係でも、「hotel(s)、ホテル(ズ)」の語は、役務の内容を表し識別力が弱いため、「HOTELS」の部分は、容易に捨象される。
そうすると、本件商標と引用商標の外観は、「HOTELS」の部分の有無により、判然と区別されるというよりも、目立つ前半の「ANGO」の部分が一致し、後半の「HOTELS」の部分が捨象され得るものとして記憶されることになる。
したがって、両商標は、需要者が視覚を通じて記憶する全体的印象が互いに紛らわしく、両商標の外観は類似する。
(イ)観念について
本件商標を構成する「ANGO」の欧文字は、親しまれた言語の既成語ではないため、造語と認識される。
これに対し、引用商標を構成する前半の「ANGO」の欧文字部分も、造語と認識される。
また、引用商標を構成する後半の「HOTELS」の部分は、よく親しまれた英語「hotel」の複数形と認識されるため、「ホテル」の意味合いを容易に想起させ、需要者に認識される(甲12)。
そして、「Hotel(s)、ホテル(ズ)」が「ホテル」の意味合いで一般によく用いられる語であり、「○○Hotel(s)、○○ホテル(ズ)」の構成でホテル業に関わる役務分野に用いられるときには、簡易迅速をたっとぶ取引の実際において、前半の「○○」の部分がより強い識別機能を発揮し、自他役務が識別されることになる(甲13)。
こうしたことから、引用商標を構成する「HOTELS」の部分は、引用役務との関係で識別力が弱いため、需要者に商標として特段の意味合いを想起させず、同部分からは観念を生じないと認定されるべきである。
そのため、引用商標を構成する「ANGO HOTELS」の文字は、特定の意味合いを有しない造語と認識されることになる。
したがって、本件商標と引用商標は、いずれも造語と認識されることから、両商標の観念は比較できない。
(ウ)称呼について
本件商標は、その欧文字をローマ字読みした「アンゴ」の称呼が生じる。
これに対し、引用商標は、その構成中の「ANGO」の部分が同様に「アンゴ」と発音され、「HOTELS」の部分が英語で「ホテルズ」と発音されるため、「アンゴホテルズ」の称呼が生じる。
また、引用商標は、前述のとおり、その構成中の「ANGO」の部分が造語として識別力が強い部分であること、「HOTELS」の部分が引用役務との関係で識別力が弱い部分であることから、「アンゴ」の称呼をも生じる。
したがって、本件商標と引用商標は、「アンゴ」の称呼において共通することから、両商標の称呼は類似する。
(エ)取引の実情について
引用商標は、遅くとも平成30年5月から、「ANGO HOTELS」の一連の構成によるほか、「ANGO」の部分を「HOTELS」の部分とは独立した態様により、あるいはまた「ANGO(アンゴ)」の略称により、取引に資されてきた(甲4、甲5、甲7、甲9、甲14、甲15、甲19、ほか)。
中でも、引用商標は、2018年に京都で立ち上げた、5つの施設を有機的に繋ぎ、ひとつのホテルとして運営する京都初の分散型ホテル「ENSO ANGO(エンソウアンゴ)」の事業を管理し、ホテルの経営支援(すなわち、「ホテルの事業の管理,経営の診断又は経営に関する助言」に属する引用役務)などの役務の提供に使用され、後述の(2)で詳述する使用商標の態様から明らかなように、「ANGO」が独立して認識される態様により取引に用いられ、需要者に親しまれてきたものである。
分散型ホテルとは、一定地域や集落に点在する空き家等をネットワーク化し、レセプション機能を持つ中核拠点を中心に、ひとつの宿泊施設として再生したホテルを意味し、昨今、外国はもとより、日本のホテル業界で注目を集めるホテルである(甲16)。
引用商標が使用された分散型ホテルについては、コンセプトの斬新さや社会課題に対するアプローチ等が共感を呼び、2018年5月から2019年11月までの約1年半の期間のみで見ても、新聞、雑誌、テレビ、ウェブサイトなど500を優に超える国内外のメディアに広く取り上げられた(甲17〜甲19、ほか)。
以上のとおり、引用商標は、その文字自体としての識別力及び引用役務との関係における識別力の強弱に加えて、「ANGO」の部分が独立して機能する引用商標における取引の実情を考慮すれば、引用商標を構成する「ANGO」の部分が出所識別標識として強い機能を発揮する要部と認定されるべきである。
また、ホテル業の取引関係者が「ホテル業(ホスピタリティ業)」を指す場合、「ホテルのオペレーション(運営、経営の支援)を行う業界」をいうところ、前述のとおり、専門分化(所有と経営と運営)が進むホテル業の分野において、MC方式と呼ばれるホテルの運営及び経営支援の委託契約を通じ、ホテルオーナーに対し提供される引用役務における取引の実情を考慮すれば、引用役務の内容を表す「HOTELS」の部分は、出所識別機能が弱い部分と認定されるべきである(甲10、甲11)。
このことは、第35類の役務を指定した「HOTEL」の普通の欧文字から構成される商標(商願2007−79532)が、商標法3条1項3号に該当すると判断され、「ホテルの事業の管理」の指定役務を削除することで、識別力があると認められた出願経過からも妥当する(甲20)。
また、ホテル業(ホスピタリティ業)の取引分野にあたる引用役務を指定した「HOTEL(S)」、「ホテル(ズ)」を構成中に有する商標が、引用役務の内容を表すべく数多く採択・登録されていることからも妥当する(甲21、甲13)。
(オ)商標の類否のまとめ
以上のとおり、本件商標と引用商標は、外観上、本件商標と引用商標の目立つ前半部分の「ANGO」の文字において一致するため、需要者が視覚を通じて認識する全体的印象が互いに紛らわしく、観念上、いずれも造語と認識され比較できず、称呼上、本件商標の「アンゴ」の発音と引用商標の「アンゴホテル、アンゴ」の発音は「アンゴ」において共通するため、この称呼が需要者に与える全体的印象は互いに紛らわしいものである。
したがって、本件商標と引用商標は、その外観、観念又は称呼等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合し、引用商標及び引用役務における取引の実情を考慮して全体的に考察すれば、一般的出所混同を生じるおそれのある互いに類似する商標である。
エ 申立役務と引用役務の類否
特許庁「類似商品・役務審査基準」によれば、本件商標の申立役務及び引用商標の引用役務は、いずれも類似群コード「35B01」が付与されている(甲22)。
したがって、両役務は互いに類似すると推定されるものである。
また、申立役務と引用役務を具体的にみても、類似の推定を覆滅する実情は見当たらない(甲23、甲24)。
オ 小括
以上から、本件商標と引用商標は類似し、その申立役務と引用役務も類似するものであるから、その申立てに係る本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号に違反する。
(2)本件商標の登録が商標法第4条第1項第10号に違反する理由
特許庁編「商標審査基準」において、本号の「需要者の間に広く認識されている商標」には、「最終消費者まで広く認識されている商標のみならず、取引者の間に広く認識されている商標を含み、また、全国的に認識されている商標のみならず、ある一地方で広く認識されている商標をも含む。」との基準が示されている(甲25)。
ア 本件商標
本件商標は、上記(1)ア及びウのとおり「ANGO」の欧文字を標準文字で表してなり、「アンゴ」の称呼を生じ、造語と認識されるものである。
イ 使用商標
使用商標の態様は、上記2及び別掲1ないし3のとおりである(甲2〜甲7、甲9、甲14〜甲17、甲19)。
ウ 本件商標と使用商標の類否
(ア)本件商標と使用商標1、2、4、5、8
使用商標1、2、4、5、8は、「ANGO」の文字からなる又は同文字を要部とするものであり、「アンゴ」の称呼を生じ、造語と認識させるものである。
したがって、本件商標と使用商標1、2、4、5、8は、構成文字又は要部となる「ANGO」の文字が共通するため両者の外観は同一又は類似し、観念においては両者はいずれも造語と認識されるから比較できず、「アンゴ」の称呼において共通するため同一又は類似である。
(イ)本件商標と使用商標3
使用商標3は、その構成態様及び使用商標がその全てにおいて「ANGO(アンゴ、安居)」が態様に含まれる実情を踏まえれば、その構成要素の中心となる「ANGO」の部分が出所識別標識として強く機能し、需要者に認識され、また、使用態様によって「ANGO」の部分が独立して視認されるから、「アンゴ」の称呼も生じ、造語と認識されるものである。
したがって、本件商標と使用商標3は、使用態様によって「ANGO」の文字が共通し需要者が視覚を通じて記憶する外観の全体的印象が紛らわしいものとなるため、両商標の外観は類似し、観念において比較できず、「アンゴ」の称呼において共通するため称呼は類似する。
(ウ)本件商標と使用商標6
本件商標は「ANGO」の欧文字からなるのに対し、使用商標6は「アンゴ」の片仮名からなる。両商標の「ANGO」と「アンゴ」は、欧文字とその自然な読みを片仮名で表したものであり、相互に変換して使用されるものである。したがって、本件商標と使用商標6は、文字種別は異なるものの、相互に変換される関係にあるから、需要者が視覚を通じて記憶する外観の全体的印象は互いに紛らわしいものとなるため、両商標の外観は、類似する。
また、両商標は造語と認識されるから観念は比較できず、両商標はいずれも「アンゴ」の称呼が生じるため、称呼は同一である。
(エ)本件商標と使用商標7
a 本件商標は「ANGO」の欧文字からなるのに対し、使用商標7は「安居」の漢字からなる。日本では、漢字の読みをローマ字表記することがあるところ、特に昨今、訪日外国人は増加の一途を辿っていること(甲26)から、既成語である「安居」の漢字の読み「アンゴ」を「ANGO」の欧文字でローマ字表記することもよく行われるといえる。
したがって、本件商標と使用商標7は、文字種別は異なるものの、漢字からローマ字表記に変換され得るから、需要者が視覚を通じて記憶する外観の全体的印象は互いに紛らわしいものとなり、両商標の外観は類似する。
また、本件商標は造語と認識されるのに対し、使用商標7を構成する「安居」の漢字は「インドにおける雨季」などを意味する成語であるため、その意味合いを想起し得る(甲12)。しかし、親しまれた漢字ではない「安居」から需要者が取引上自然に想起し得ない場合も十分にあるため、一種の造語と認識されることもある。
したがって、本件商標と使用商標7は、造語と既成語と認識され、その意味合いが異なることもあるが、いずれも造語と認識され、両商標の観念が、比較できないこともある。
b なお、本件商標の権利者は、「ANGO」の商標を採択した由来を説明しており(甲27、甲28)、そのとおりの観念が生じるならば、「ANGO」の欧文字と「安居」の漢字は、需要者が想起する意味合いがおおむね同一となり、両商標の観念は、同一又は類似することになる。
ちなみに、「ANGO」の欧文字がなにゆえ「安居」の語に変換され、漢字で「安居」と読めるのか、何ら説明がない。
遅くとも平成30年5月から申立人らが使用を継続する造語性の高い「ANGO」のブランドの由来や需要者に訴求するイメージが、奇妙にも本件商標と一致することは、その採択に至る説明の不自然さ・不十分さ、使用商標と本件商標が近接する使用時期を踏まえれば、申立人らの引用商標及び使用商標を知って又は当然に知り得た状況で申立人らに蓄積された信用にただ乗りした可能性を否定できない。
(オ)本件商標と使用商標9は、上記(ウ)及び(1)ウで論じたのと同様に、その外観が類似し、観念が比較できず、称呼が類似する。
(カ)本件商標と使用商標10
本件商標は「ANGO」の欧文字からなるのに対し、使用商標10は「ENSO ANGO」の欧文字からなるため、「ENSO」の有無の相違がある。
しかしながら、ブランディングの実際において、使用商標は、各々関係なく個別に使用されるのみならず、各使用商標が相互に一体となって需要者に訴求されることがあるところ、上記(イ)で論じたとおり、使用商標の使用態様が、その全てにおいて「ANGO(アンゴ、安居)」の文字を含んで使用されることからすれば、各使用商標は、その構成要素の中心となる「ANGO」の部分が出所識別標識として強く機能し、需要者に認識されることになる。
そうすると、使用商標10を構成する「ANGO」の部分は、要部となり得る。
したがって、本件商標と使用商標10は、その外観が類似し、観念が比較できず、称呼が類似する。
(キ)商標の類否のまとめ
以上のとおり、本件商標と使用商標は、その外観、観念又は称呼等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合し、各使用商標の実情を考慮して全体的に考察すれば、同一又は類似するものである。
エ 使用役務について
申立人らの使用商標が使用された使用役務は、「ホテル・地域活性化に関する事業の管理,ホテル従業員の教育・研修事業の管理,ホテル・地域活性化の事業に関する経営の診断又は経営に関する助言,宿泊・飲食・酒造又は古民家に関する再生事業の支援,ホテル・観光・地域活性化に関する知識の教授,ホテル・観光・地域活性化に関するセミナーの企画・運営又は開催,ホテルのデザイン戦略・ブランド戦略・VI戦略の支援ほか」(以下「使用役務」という。)である(甲3、甲5、甲6、甲9、甲14、甲15、ほか)。
申立役務と使用役務は、各事業に従事する企業や各施策を遂行する国の機関、地方自治体、世界機関、公的団体などに対し、その事業や施策の委託を受けて援助し、または援助するための情報を提供する点において同一のサービスである。
そのため、申立役務と使用役務が通常同一営業主により提供されている等の事情により、本件商標及び使用商標に係る役務に同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の提供に係る役務と誤認されるおそれがある。
したがって、申立役務と使用役務は、互いに類似する役務である。
オ 需要者の間で広く認識されていることについて
申立人らの使用商標は、前述したとおり、短期間でテレビ、新聞、雑誌、ウェブサイト、SNSなど500を優に超える国内外のメディアに取り上げられるなどし、遅くとも本件商標の出願時及び査定時には、ホテル業の取引者間において、広く知られるに至った(甲3〜甲7、甲9、甲14〜甲19、ほか)。
ホテル・地域活性化に係る事業の運営・経営支援・知識の教授といった地域性が強い使用役務の性質上、取引先数は多いものではないが、主たる取引は、内閣府、国土交通省観光庁、日本政府観光局、京都府、島根県、国際連合(ユネスコ)、アジア最大規模の国際会議(WiT Japan & North Asia)、日本最大級のホテル専門学校(日本ホテルスクール)、公益団体などの公的かつ巨大な組織体を母体に行われるものであるため、使用役務の提供が、ホテル業の取引関係者に与える影響力や伝播力は大きいものとなる。
加えて、ホテル・地域活性化に係る事業の運営・経営支援に係る1回あたりの請求金額は、小さいもので230万円を軽く超過し、通常でも4300万円を超過するなど、その取引額は数千万単位と大きなものとなる(甲14)。
また、ホテルの運営・経営の支援に係る月の売上高は、「ENSO ANGO」のような小規模ホテル(客室数229)の場合でも、通常1000万円超から9000万円超の数千万単位と大きな取引額となる(甲29)。
これらを裏付けるように、ホテル業界で広く知られた申立人らが使用する使用商標は、日本国内はもとより世界23か国の国と地域(アメリカ、カナダ、メキシコ、イギリス、ドイツなど)において、膨大な数のメディアに取り上げられたほか、京都市から「きょうと地域力アップ貢献事業者」として「表彰状」を授与され、日本を代表するデザイン賞である「2019グッドデザイン賞」を受賞し、24の国や地域から1100件を超える応募の中から「DFA Design for Asia Award 2019」を受賞するなどし、強い注目を集めた(甲30〜甲32、甲18、ほか)。
また、使用商標について、毎年、世界各国の数百を超えるホテルから加盟申請中、認められるのは約5%(日本では、東京ステーションホテル、ホテル雅叙園東京、登大路ホテル奈良など12のホテルが加盟)といわれる「SMALL LUXURY HOTELS OF THE WORLD(SLH)」に京都で初めてメンバーの加盟を認められた(甲33)。
その他、使用商標は、例えば、ホテル業界関係者必読の「週刊ホテルレストラン」の表紙及び特集記事で、10ページにわたり大々的に採り上げられ、ラグジュアリーホテルマガジン「SevenSeas」の特集記事で、6ページにわたり採りあげられ(同雑誌の広告料金は1ページあたり100万円をくだらない。)、ニッポン放送の番組で、ホテル評論家が薦める「ホテルベスト3」に採りあげられるなどした(甲34、甲35、甲19、ほか)。
これら考慮事由における各事実を総合勘案すれば、申立人らの使用商標は、遅くとも本件商標の出願時及び査定時には、申立人らの業務に係る使用役務を表示するものとして、その需要者(ホテル業の取引者)の間においては広く知られた商標であるというべきである。
カ 裁判例などについて
申立人らの使用商標が、地域活性化など地域性が強い使用役務の性質などから、ホテル業の取引者の間において広く知られた商標というべきものであることは、東京高判(平成3年(行ケ)第29号)の判旨(甲36)、平尾正樹著「商標法<第3次改訂版>」の解釈(甲37)に照らしても妥当する。
キ 小括
以上から、本件商標は、申立人らの業務に係る使用役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている使用商標と同一又は類似であって、その使用役務に類似する役務について使用するものであるから、その申立てに係る本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号に違反する。

4 当審の判断
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標
本件商標は、上記1のとおり「ANGO」の欧文字を標準文字で表してなり、該文字に相応し「アンゴ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものと判断するのが相当である。
イ 引用商標
引用商標は、上記2(1)のとおり「ANGO HOTELS」の欧文字を標準文字で表してなり、該文字に相応し「アンゴホテルズ」の称呼を生じ、「ANGOという名称のホテル」の観念を生じるものと判断するのが相当である。
ウ 本件商標と引用商標の類否
本件商標と引用商標の類否を検討すると、外観においては、本件商標の構成文字「ANGO」と引用商標の構成文字「ANGO HOTELS」の比較において、両者は後半部に「HOTELS」の文字の有無という差異を有し、この差異が両商標の外観全体の視覚的印象に与える影響は大きく、相紛れるおそれのないものである。
次に、本件商標から生じる「アンゴ」の称呼と引用商標から生じる「アンゴホテルズ」の称呼を比較すると、両者は後半部に「ホテルズ」の音の有無という差異を有し、この差異が両称呼全体の構成音数、語調語感に及ぼす影響は大きく、両者をそれぞれ一連に称呼しても、聞き誤るおそれのないものである。
さらに、観念においては、本件商標から特定の観念が生じないのに対し、引用商標からは「ANGOという名称のホテル」の観念が生じるのであるから、相紛れるおそれはない。
そうすると、本件商標と引用商標は、外観、称呼及び観念において相紛れるおそれがないものであるから、両者の外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標というべきものである。
その他、本件商標と引用商標が類似するというべき事情は見いだせない。
エ 申立人の主張について
申立人は、引用商標の構成中「HOTELS」の文字は引用役務との関係で識別力が弱い、前半の「ANGO」の文字は識別力が強い、引用商標は「ANGO」が独立した態様で取引に資されているなどから、引用商標は「ANGO」の部分が要部として認定されるべきである旨主張している。
しかしながら、引用商標の構成文字「ANGO HOTELS」は同じ書体、同じ大きさでまとまりよく一体的に表され、これから生じる「アンゴホテルズ」の称呼は無理なく一連に称呼し得るだけでなく、一体的な観念も生じるものである。
そして、引用商標は、たとえ、その構成中「HOTELS」の文字がそれ単独では指定役務「ホテルの事業の管理」との関係で識別力が弱いとしても、かかる構成、称呼及び観念においては「ANGO HOTELS」の構成文字全体をもって一体不可分のものとして認識、把握されるものとみるのが相当である。
また、申立人は、「Hotel(s)」等が「ホテル」の意味合いで一般によく用いられる語であり、「○○Hotel(s)」等の構成でホテル業に関わる役務分野に用いられるときには、簡易迅速をたっとぶ取引の実際において、前半の「○○」の部分がより強い識別機能を発揮し、自他役務が識別されることになる旨主張する。
しかしながら、甲第13号証に掲げられた証拠はいずれも第43類「宿泊施設の提供」の範ちゅうに属する役務に関するものであり、事例が相違する上に、前半の「○○」の部分のみの使用例はわずか一例にすぎず(甲13−4)、その一例も当該事業者自身によるものであるから、一般的、恒常的な取引の実情とはいえず、参考とならない。
そして、申立人は、専門分化(所有と経営と運営)が進むホテル業の分野において、MC方式と呼ばれるホテルの運営及び経営支援の委託契約を通じ、ホテルオーナーに対し提供される引用役務における取引の実情を考慮すれば、引用役務の内容を表す「HOTELS」の部分は、出所識別機能が弱い部分と認定されるべきである旨主張するが、甲第10号証及び甲第11号証は、単にホテル業の契約方式等を説明するにすぎず、類否判断において考慮すべき取引の実情を明らかにするものではないから、申立人の独自の主張といわざるを得ない。
さらに、申立人が主張する引用商標の使用態様は、個別具体的な使用例であって、一般的、恒常的な取引の実情とはいえず、類否判断において考慮することはできないなど、引用商標は、その構成中「ANGO」の文字部分を分離抽出し、他の商標と比較検討すべきとする事情は見いだせない。
したがって、申立人のかかる主張は採用できない。
オ 小括
以上のとおり、本件商標と引用商標は非類似の商標であるから、本件商標の申立役務と引用商標の引用役務が類似するとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものといえない。
(2)商標法第4条第1項第10号について
ア 使用商標の周知性について
(ア)申立人提出の甲各号証及び同人の主張によれば、申立人の代表者(代表取締役)と令和2年3月に解散したアンゴホテルズ株式会社の代表取締役は同一人であること(甲3、甲6)、申立人の代表者は、2010年頃から札幌グランドホテル、鴨川シーワールド等の全国20地域のホテル・観光・地域再生事業等の支援、宿泊・飲食・酒造・古民家再生事業の支援などを行い(甲9)、国土交通省観光庁で観光・まちづくり事業の有識者を、令和3年度ないし同5年度に内閣府(地方創生推進事務局)が派遣する地域おこしの専門家「地域活性化伝道師」を務め(甲9、甲15)、ホテル専門学校、大学、公的団体、国際会議などで審査員・講師などを務めていること(甲9、甲14、甲15)、及び、アンゴホテルズ株式会社が運営業務を受託等する分散型ホテル「ENSO ANGO」は、2018年10月に京都市にオープンし、同ホテルは多数のウェブサイト、雑誌などで紹介等されたこと(甲16〜甲19、ほか)などが認められる。
しかしながら、アンゴホテルズ株式会社が令和元年9月及び10月に使用商標1を「ホテルの運営受託業務」などについて使用したことは認め得るものの(甲14の2〜5)、申立人らが、同人が使用商標を使用していると主張する「ホテル・地域活性化に関する事業の管理」などの使用役務について、使用商標を使用している事実を示す証左は見いだせない。
(イ)上記(ア)のとおりの申立人の代表者の活動などからすれば、申立人らは「ホテル・地域活性化に関する事業の管理」などの分野において、ある程度知られていることがうかがえるものの、申立人らが「ホテル・地域活性化に関する事業の管理」など使用役務について、使用商標を使用していた事実を確認できないから、使用商標は、本件商標の登録出願の時及び登録査定時において、申立人らの業務に係る役務(「ホテル・地域活性化に関する事業の管理」など使用役務)を表示するものとして、いずれも需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
なお、申立人は提出した証拠の一部について原本(現物)を提出等することが可能である旨述べているが、かかる原本(現物)が上記判断に影響するものとは認められないから、その提出等は求めないこととした。
イ 本号該当性
上記アのとおり、使用商標は申立人らの業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認められないものであるから、本件商標と同一又は類似する使用商標があり、申立役務と使用役務が類似するとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものといえない。
(3)むすび
以上のとおりであるから、本件商標の指定役務中、登録異議の申立てに係る指定役務(申立役務)についての登録は、商標法第4条第1項第10号及び同項第11号のいずれにも違反してされたものとはいえず、ほかに同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲 別掲1(使用商標1)


別掲2(使用商標2)


別掲3(使用商標3)




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異議決定日 2023-07-10 
出願番号 2022026961 
審決分類 T 1 652・ 261- Y (W35)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 大橋 良成
特許庁審判官 小林 裕子
冨澤 武志
登録日 2022-08-08 
登録番号 6598376 
権利者 株式会社レシカ
商標の称呼 アンゴ、アンゴー 
代理人 潮崎 宗 
代理人 渡辺 貴康 
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