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審決分類 |
審判 全部申立て 登録を維持 W28 |
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管理番号 | 1399734 |
総通号数 | 19 |
発行国 | JP |
公報種別 | 商標決定公報 |
発行日 | 2023-07-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-05-06 |
確定日 | 2023-06-24 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 登録第6518257号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 登録第6518257号商標の商標登録を維持する。 |
理由 |
1 本件商標 本件登録第6518257号商標(以下「本件商標」という。)は、「オリンピアエステート」の文字を標準文字で表し、令和3年8月25日に登録出願、第28類「ぱちんこ器具,スロットマシン,遊戯用器具,遊園地用機械器具,おもちゃ,人形」を指定商品として、同4年1月24日に登録査定、同年2月24日に設定登録されたものである。 2 登録異議申立人が引用する商標及び標章 (1)登録異議申立人(以下「申立人」という。)が商標法第4条第1項第7号及び同項第15号に該当するとして引用する国際登録第1128501号商標(以下「引用商標1」という。)は、「OLYMPIC」の欧文字を書してなり、2011年9月16日にSwitzerlandにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、同年(平成23年)11月8日に国際商標登録出願、第1類ないし第22類及び第24類ないし第45類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成27年6月19日に設定登録され、その後、指定商品及び指定役務については、2021年(令和3年)10月28日に国際登録簿に記録された本件の登録の減縮によって、第1類ないし第3類、第5類、第7類ないし第12類、第14類、第16類ないし第19類、第21類、第24類、第25類、第28類、第32類、第35類ないし第39類、第41類ないし第44類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務となり、その商標権は、現に有効に存続しているものである。 (2)申立人が商標法第4条第1項第7号及び同項第15号に該当するとして引用する標章は、引用商標1と構成を同じくする標章(以下「「OLYMPIC」標章」という。)であって、申立人が運営・統括の中心となって開催する「オリンピック競技大会」やオリンピック・ムーブベントの普及・啓発事業に使用して、需要者の間で広く認識されていると主張するものである。 (3)申立人が商標法第8条第1項に該当するとして引用する国際登録第1496460号商標(以下「引用商標2」という。)は、「OLYMPIAN」の欧文字を書してなり、第2類、第7類ないし第9類、第16類、第21類、第28類及び第41類に属する日本国を指定する国際登録において指定された商品及び役務を指定商品及び指定役務として、2019年(令和元年)6月26日に国際商標登録出願されたものである。 以下、引用商標1と「OLYMPIC」標章をまとめていう場合は、「申立人商標及び標章」という。 3 登録異議の申立ての理由 申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第15号及び同法第8条第1項に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第123号証を提出した。 以下、証拠の記載にあたっては、「甲第〇号証」を「甲○」のように記載する。 (1)商標法第4条第1項第7号について ア 申立人について 申立人は、近代オリンピックの創始者であるフランス人、ピエール・ド・クーベルタン男爵の提唱で1894年6月23日に設立された、オリンピック競技大会を運営・統括する国際的な非政府の非営利団体であり、世界中の競技者を一同に集めて開催される偉大なスポーツの祭典たるオリンピック競技大会の運営・統括と共に、オリンピックの理念であるオリンピズムを具現化し、次の世代へと受け継いでいく様々な活動たるオリンピック・ムーブメントを統括する最高機関として、オリンピック憲章に従い、オリンピズムを普及させる役割を担っている(甲4)。 イ 「OLYMPIC」標章の著名性について (ア)申立人が運営・統括に携わる、近代オリンピック競技大会の誕生は、今から120年以上前の1896年であり、同年に第1回オリンピックアテネ大会が開催され、以後、オリンピック競技大会は1世紀以上にわたり、美と技を競う世界規模の平和とスポーツの祭典として原則として2年又は4年に一度開催され、近年に開催された夏季大会には、1万人以上の選手が参加するなど多くの国と地域で、テレビ・インターネット・ラジオを通じて世界中の数十億人の人々に視聴された(甲5、甲6)。 我が国で出版されたオリンピック競技大会に関する書籍からは、同競技大会が我が国でも大いに注目されており、「OLYMPIC」標章が、オリンピック競技大会を表すものとして、120年以上もの間継続して使用されてきた事実をうかがい知ることができる(甲7〜甲66)。 以上より、1896年の第1回オリンピックアテネ大会以降、120年以上の長期にわたり、世界の各都市を舞台として盛大に開催されてきた、オリンピック競技大会を指称する「OLYMPIC」標章は、全世界で老若男女問わず、申立人がその運営・統括の中心となって開催するオリンピック競技大会やその関連活動等を広く示すものとして認識されており、その程度は極めて高く、世界でも最も著名な標章の一つであり、公益性も非常に高いものである。 (イ)申立人及び「OLYMPIC」標章の公益性について触れると、オリンピック憲章では、申立人の使命として「スポーツと文化および教育を融合させる活動を奨励し支援する」と規定されており(甲4)、かかる規定に基づき、申立人は、オリンピック・ムーブメントの一環として、様々な教育・文化活動を世界的規模で行い、「OLYMPIC」標章は、これらの各種教育・文化活動についても広く用いられ、親しまれている。我が国では、日本の教育・文化活動(オリンピアンと呼ばれるオリンピック出場選手と一緒にジョギング等を楽しむイベント等のオリンピックデーイベント、環境活動、日本オリンピック・アカデミー(JOA)による活動など)を国内で多岐にわたり行っている(甲67〜甲119)。 以上より、申立人は、多くの協力者とともに、オリンピック・ムーブメントと呼ばれる、オリンピックの理念であるオリンピズムを具現化し、次の世代へと受け継いでいく様々な活動を行い、また、オリンピック憲章に従い、オリンピズムを推進すべく、普遍かつ恒久的な活動を行っている。 (ウ)このように極めて公益性が高く、世界各国で著名に至っていることが明白な「OLYMPIC」標章と同一又は類似、あるいは、これと関連性を想起させるような商標の登録・使用が認められれば、スポーツによる教育、平和への貢献といったオリンピック・ムーブメントにより築き上げられた価値観が棄損され、公益に反する結果を招くことは想像に難くなく、本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性の検討に際しては、「OLYMPIC」標章及びこれに使用される各種活動の公益性という点が十分に考慮されるべきである。 ウ 本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について (ア)上記ア及びイのように、申立人は、オリンピズムの理念に基づいてオリンピック競技大会を頂点としたオリンピック・ムーブメントを永きにわたり、主導的な立場で推進してきたが、申立人と何ら関わりのない本件商標は、著名な「OLYMPIC」標章に便乗し、その信用、名声にあやかろうとする意図が明らかであって、申立人が推進してきたオリンピック・ムーブメントが阻害されることを意味するに他ならない。 すなわち、本件商標「オリンピアエステート」の構成中、「エステート」の文字は、「資産」等の意味を有し、その指定商品との関係では、「遊技機」程度の意味合いを暗示させ、また、我が国では、業種名を表す文字として法人名称の一部に広く採択、使用されていることから(甲122)、本件商標にあっては、語頭の「オリンピア」の文字が一層着目されることとなり、上記イのとおり、「OLYMPIC」標章に関連して「オリンピズム」や「オリンピアン」等の「オリン(OLYM)」を語頭に含む表現が多用されている現状からすると、本件商標は、「OLYMPIC」標章を意識し、「オリンピア」と「エステート」の文字を組み合わせたにすぎない商標であって、これが使用された商品は、あたかも、オリンピック競技大会に関連したものであることを暗示すると容易に理解できる。 さらには、本件商標権の権利者(以下「本件商標権者」という。)のホームページ内における「遊技機産業の歴史」のページでは、我が国のパチスロ産業にて「オリンピア」の文字が採択された由来について「海外の大型スロットマシンがパチスロ機の原型と言われています。その海外の大型スロットマシンが輸入・発表された年がちょうど東京オリンピックが開催された年でした。それにちなんで日本ではオリンピアマシンという名称で普及いたしました。」との紹介がなされていることから(甲123)、本件商標が著名な「OLYMPIC」標章に由来し、その信用、名声にあやかろうとする意図を有していることは明らかである。 (イ)上記(ア)の諸点を総合的に勘案すると、本件商標は、本来的に「OLYMPIC」標章に由来し、これを派生させたものであることは明白であって、「OLYMPIC」標章に化体した信用にただ乗りし、不正な利益を得ようとしたものと考えられ、スポーツを通じ、平和でよりよい世界の実現に貢献するという、公共の利益を追求するオリンピック競技大会の尊厳が害されるおそれがあるのみならず、「OLYMPIC」標章の著名性にあやかって不正な利益を得ようとするものであり、公正な取引秩序を乱すばかりか、国際信義及び公序良俗にも反する。 したがって、申立人と何ら関係のない者が本件商標を独占して使用することは、オリンピック憲章に基づき開催されるオリンピック競技大会の権威を損なうおそれがあるばかりか、社会公共の利益に反し、公の秩序を乱すものであり、本件商標は、「OLYMPIC」標章に化体した信用、名声及び顧客吸引力に便乗して不当な利益を得る等の目的をもって、「OLYMPIC」標章の特徴を模倣して出願し登録を受けたもので、商標を保護することにより、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護するという商標法の目的に反するものであり、公正な取引秩序を乱し、商道徳に反するものというべきである したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。 (2)商標法第8条第1項について ア 本件商標は、「オリンピアエステート」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の「エステート」の文字は、「資産」等の意味を有する単語であるが、我が国では、主に不動産業界や金融業界にて業種名を表す文字として会社等の名称の一部に広く採択、使用されている実情があり、その指定商品との関係で自他商品識別機能を発揮するとはいい難い。 そして、本件商標にあっては、その構成上「オリンピア」の文字と「エステート」の文字とを常に一体として把握しなければならないとする特段の事由は存在しないばかりか、「エステート」の文字は、本件指定商品との関係で独占適応性が極めて低いことから、「オリンピア」の文字のみが強く支配的な印象を与え、自他商品識別機能を発揮する要部として需要者・取引者をして認識され、当該文字に照応した「オリンピア」の称呼のみをもって、実際の商取引に資されることも少なくない。 イ 他方、引用商標2は、「OLYMPIAN」の欧文字を横書きしてなるところ、当該文字に照応して、「オリンピアン」の称呼が生じる。 ウ してみれば、本件商標と引用商標2は、語尾音における弱音「ン」の音の有無の差異しかなく、語尾音は一般に聴取し難いことに鑑みると、両商標を一気一連に称呼した場合、両者は聴別し難く、称呼上相紛らわしい互いに類似する商標といえ、本件商標と引用商標2の指定商品は、同一又は類似のものである。 したがって、引用商標2が本件商標の登録出願日前に登録出願されていることも考慮すると、本件商標は、引用商標2との関係において、商標法第8条第1項に該当する。 (3)商標法第4条第1項第15号について ア 「OLYMPIC」標章の著名性について 申立人が運営・統括に携わり、1896年の第1回オリンピックアテネ大会以降、120年以上の長期にわたり、世界の各都市を舞台として開催されてきた、オリンピック競技大会やオリンピック・ムーブメントの普及・啓発事業にて使用されてきた「OLYMPIC」標章が、我が国では当然として全世界で極めて著名性の高いものであることは、上記(1)イのとおりである。 そして、オリンピック競技大会の開催をはじめとするオリンピック・ムーブメントの諸活動を継続的に実施するためには、莫大な費用が必要であり、オリンピック・ムーブメントの推進には、民間企業等の資金的・技術的な協力が不可欠であることから、申立人は、世界各国でオリンピック・ムーブメントの推進と、オリンピック競技大会運営のための資金調達を目的としたマーケティング活動を実施している。 このようなマーケティングの主なものとしては、スポンサーシップ、放映権、ライセンシングがあり、また、オリンピック開催国では、国内マーケティングプログラムが用意され、申立人が1985年にスタートさせたTOP(THE OLYMPIC Partner)プログラムのスポンサーであるTOPスポンサーの業種との調整を踏まえて、業種別にスポンサー企業が決められることになっている(甲120、甲121)。 例えば、2021年に開催された第32回夏季オリンピック東京大会でも、TOPスポンサー企業、東京2020オリンピックゴールドパートナー及び東京2020オリンピックオフィシャルパートナーとしての契約がこれまでと同様に締結され、同大会の開催に伴う経済波及効果は、約3兆円との試算が示されていることからも分かるように、マーケティング活動を介しても、「OLYMPIC」標章が著名なものとなっている。 イ 出所の混同のおそれについて (ア)商標法第4条第1項第15号の適用にあたっては、混同を生ずるおそれがある対象が当該他人の使用する商標であるかは全く問題とならず、同法上の商標としては認められないものの、商品等との関係で周知・著名な当該他人の名称や略称、又はその者に係る各種活動等も当然にその対象に含み、かつ、出願商標の採択の必要性、取引の実情等を多角的に十分に勘案した上で同号の該当性を判断するのが、規定上の文言及び立法趣旨からも妥当である。 このような状況において、申立人の使用に係る「OLYMPIC」標章が、1894年から現在に至るまでおよそ130年以上にわたり、世界最大級のスポーツの祭典であるオリンピック競技大会を指称する商標として使用されており、オリンピック競技大会といったスポーツの興行の企画・運営にとどまらず、これに関連した極めて広範な商品や役務との関係で著名であることは上記(1)イのとおりである。 (イ)本件商標と「OLYMPIC」標章とは、語頭の「オリンピ(OLYMPI)」を共通にするとともに、本件商標の構成中の「エステート」の文字は、その指定商品との関係では、「遊技機」程度の意味合いを暗示させ、また、業種名を表す文字として法人名称の一部に広く採択、使用されていることから、本件商標は、その構成中の「オリンピア」の文字が要部として把握されることが少なくなく、この点に加え、申立人は、「OLYMPIC」標章との関係で「オリンピアン」や「オリンピズム」等の「オリンピ」を語頭に含む表示を多用していることも考慮すると、「OLYMPIC」標章の高い著名性と相まって、本件商標は、「OLYMPIC」標章関連の一群の商標と認識され得るものである。 (ウ)申立人は、各企業とのスポンサーシップ契約を締結し、それらのスポンサーがオリンピック資産を利用した様々なマーケティング活動を行っているという実態からすれば、著名な「OLYMPIC」標章との関係性を容易に想起させる本件商標が付された本件指定商品が実際の商取引に資された場合、これに接した需要者・取引者は、申立人あるいは国内オリンピック委員会(我が国においては日本オリンピック委員会)とオリンピック大会組織委員会と正式なスポンサー契約を締結した、オフィシャルスポンサーの業務に係る商品であるかのごとく、商品の出所について混同を生ずるおそれがある。 ウ 小括 したがって、申立人が中心となって開催されるオリンピック競技大会やオリンピック・ムーブメントの普及・啓発事業を表示する「OLYMPIC」標章と密接な関連性を印象付ける本件商標は、これが使用された場合、オリンピック競技大会を容易に想起又は連想させ、申立人、あるいは日本オリンピック委員会とスポンサー関係にある者の業務に係る商品であると商品の出所について混同を生じさせるおそれがある。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。 4 当審の判断 (1)申立人商標及び標章の周知性について ア 申立人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、以下のとおりである。 (ア)申立人は、1894年に設立された、オリンピック競技大会を運営・統括する国際的な非政府の非営利団体であり、オリンピック競技大会は、1896年の第1回オリンピックアテネ大会以降、120年以上にわたり、美と技を競う世界規模の平和とスポーツの祭典として、原則として4年に一度開催され、多くの国と地域から多数の選手が参加しており、テレビ・インターネット・ラジオを通じて世界中の人々に視聴され、我が国で出版されたオリンピック競技大会に関する書籍などに「OLYMPIC」標章が、オリンピック競技大会を表示するものとして継続して使用されたことが確認できる(甲4〜甲66)。 (イ)オリンピック憲章では、申立人の使命として「スポーツと文化および教育を融合させる活動を奨励し支援する」と規定されており(甲4)、申立人は、当該規定に基づき、「OLYMPIC」標章の下、オリンピック・ムーブメントの一環として、様々な教育・文化活動を世界的規模で行い、我が国でも、各種教育・文化活動を多岐にわたり行っている(甲67〜甲119)。 イ 上記アよりすれば、オリンピック競技大会は、120年以上にわたり開催され、多くの国と地域から多数の選手が参加しており、テレビ・インターネット・ラジオを通じて世界中の人々に視聴され、我が国で出版されたオリンピック競技大会に関する書籍などに「OLYMPIC」標章が、オリンピック競技大会を表示するものとして継続して使用されたこと、申立人は、「OLYMPIC」標章の下、オリンピック競技大会及びオリンピック・ムーブメントと呼ばれる様々な教育・文化活動を行っていたことなどから、申立人商標及び標章は、多くの国と地域から多数の選手が参加する、申立人に係る「オリンピック競技大会」を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の需要者の間に広く知られていたといえる。 (2)商標法第4条第1項第15号該当性について ア 申立人商標及び標章の周知性について 引用商標1は、上記2(1)のとおり、「OLYMPIC」の文字を標準文字で表してなるところ、申立人に係る「オリンピック競技大会」を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の需要者の間に広く知られていたものである。 また、「OLYMPIC」標章は、上記2(2)のとおり、「OLYMPIC」の欧文字を表してなるところ、上記(1)のとおり、申立人に係る「オリンピック競技大会」を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の需要者の間に広く知られていたものである。 イ 本件商標と申立人商標及び標章の類似性の程度について 本件商標は、「オリンピアエステート」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字は、同じ書体、同じ大きさで間隔を空けずに外観上まとまりよく一体的に表されている。 また、本件商標は、その構成文字全体に相応して、「オリンピアエステート」の称呼を生じるものであり、かつ、当該称呼は、無理なく一連に称呼し得るものである。 そして、本件商標の構成中の「資産」等の意味を有する「エステート」の文字が直ちに、自他商品の出所識別標識としての機能を欠くというべき事情は見いだせないから、本件商標に接する取引者、需要者は、その構成中の「エステート」の文字を捨象し、「オリンピア」の文字のみに着目するというより、むしろ本件商標の構成全体をもって一体不可分のものと把握、認識するとみるのが相当である。 また、本件商標の構成全体の「オリンピアエステート」の文字は、一般の辞書等に載録されている語ではなく、我が国で親しまれた成語や外来語でもないから、特定の意味合いを理解させるものではない。 したがって、本件商標は、その構成文字全体に相応して、「オリンピアエステート」の称呼を生じるが、特定の観念は生じない。 他方、申立人商標及び標章は、「OLYMPIC」の欧文字よりなるところ、当該文字に相応して、「オリンピック」の称呼及び「オリンピック競技大会」の観念を生じる。 そこで、本件商標と申立人商標及び標章とを比較すると、両者は、外観において、文字種(片仮名と欧文字)及び文字数において差異を有するものであるから、明確に区別し得るものである。 また、称呼において、本件商標から生じる「オリンピアエステート」の称呼と、申立人商標及び標章から生じる「オリンピック」の称呼とは、語頭の「オリンピ」の音を共通にするとしても、「アエステート」及び「ック」の音の明らかな差異を有するから、両者は、明瞭に聴別できるものである。 さらに、観念において、本件商標からは、特定の観念が生じないのに対し、申立人商標及び標章からは、「オリンピック競技大会」の観念が生じるから、両者は、観念上相紛れるおそれはない。 そうすると、本件商標と申立人商標及び標章とは、外観において明確に区別し得るものであり、称呼において明瞭に聴別できるものであり、観念において相紛れるおそれはないものであるから、その類似性の程度は低いものである。 ウ 出所の混同のおそれについて 上記(1)のとおり、申立人商標及び標章が、申立人に係る「オリンピック競技大会」を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の需要者の間に広く知られていたものであるとしても、上記イのとおり、本件商標と申立人商標及び標章とは、類似性の程度が低いものである。 そうすると、本件商標は、本件商標権者がこれをその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者が、申立人商標及び標章を連想、想起することはなく、その商品が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないというべきである。 その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情も見いだせない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。 (3)商標法第4条第1項第7号該当性について 申立人商標及び標章は、上記(1)のとおり、申立人に係る「オリンピック競技大会」を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の需要者の間に広く知られていたとしても、本件商標と申立人商標及び標章とは、上記(2)イのとおり、類似性の程度が低いものである。 なお、本件商標権者のホームページにおいて、「パチスロ産業の歴史」の項に「東京オリンピックにちなんで日本ではオリンピアマシンという名称で普及した」旨が紹介されているとしても、これをもって、申立人商標及び標章に化体した信用、名声及び顧客吸引力に便乗して不当な利益を得る等の目的で本件商標を使用しているとはいい難い。 また、本件商標は、その構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるようなものでないことは明らかであり、社会の一般的道徳観念に反するなど、公序良俗に反するものというべき証拠も見いだせない。 さらに、本件商標は、他の法律によって、その商標の使用等が禁止されているものではないし、特定の国若しくは国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反するものでもない。 そうすると、本件商標は、その登録を維持することが商標法の予定する秩序に反し、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標に該当するとはいえないものである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。 (4)商標法第8条第1項該当性について ア 本件商標について 本件商標は、「オリンピアエステート」の片仮名を標準文字で表してなるところ、上記(2)イのとおり、構成文字全体に相応して「オリンピアエステート」の称呼を生じるが、特定の観念は生じない。 イ 引用商標2について 引用商標2は、「OLYMPIAN」の欧文字からなるところ、当該文字は、「オリンポス山の12神の1人。オリンピック出場選手。」(「ジーニアス英和辞典 第5版」株式会社大修館発行)の意味を有する語であるから、引用商標2は、構成文字に相応して「オリンピアン」の称呼を生じ、「オリンポス山の12神の1人。オリンピック出場選手。」の観念を生じる。 ウ 本件商標と引用商標2との類似性について 本件商標と引用商標2とは、外観において、文字種(片仮名と欧文字)及び文字数において差異を有するものであるから、両者は、明確に区別し得るものである。 また、称呼において、本件商標から生じる「オリンピアエステート」の称呼と引用商標2から生じる「オリンピアン」の称呼とは、語頭の「オリンピア」の音を共通にするとしても、「エステート」及び「ン」の音の明らかな差異を有するものであるから、両者は、明瞭に聴別できるものである。 さらに、観念において、本件商標は、特定の観念が生じないのに対し、引用商標2からは、「オリンポス山の12神の1人。オリンピック出場選手。」の観念が生じるから、観念上相紛れるおそれはない。 以上からすると、本件商標と引用商標2とは、外観、称呼及び観念において相紛れるおそれのない非類似の商標である。 したがって、本件商標の指定商品と引用商標2の指定商品が同一又は類似し、引用商標2が本件商標の出願日前に登録出願されているとしても、本件商標は、商標法第8条第1項に該当しない。 (5)まとめ 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第15号、同法第8条第1項のいずれにも該当するものではなく、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
別掲 |
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異議決定日 | 2023-06-15 |
出願番号 | 2021105608 |
審決分類 |
T
1
651・
22-
Y
(W28)
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最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
矢澤 一幸 |
特許庁審判官 |
杉本 克治 小田 昌子 |
登録日 | 2022-02-24 |
登録番号 | 6518257 |
権利者 | 株式会社オリンピア |
商標の称呼 | オリンピアエステート |
代理人 | 渡部 彩 |
代理人 | 岡田 淳 |
代理人 | 田中 尚文 |