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審決分類 |
審判 全部申立て 登録を取消(申立全部取消) W0811 |
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管理番号 | 1398547 |
総通号数 | 18 |
発行国 | JP |
公報種別 | 商標決定公報 |
発行日 | 2023-06-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-03-28 |
確定日 | 2023-05-08 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 登録第6504411号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 登録第6504411号商標の商標登録を取り消す。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第6504411号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、令和3年2月28日に登録出願、第8類「手動利器(「刀剣」を除く。)」及び第11類「暖房用の焚き火台(電気式のものを除く。)」を指定商品として、同年12月14日に登録査定、同4年1月26日に設定登録されたものである。 第2 登録異議の申立ての理由 登録異議申立人(以下「申立人」という。)は、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第10号及び同項第19号に該当するものであるから、その登録は、同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第51号証を提出した。 1 申立人について 申立人は、2014年にカナダ・ケベック州で設立された法人であり、社名に由来する「SPORTES」のブランドの下に、各種アウトドア関連商品を製造・販売している(甲3)。申立人は、別掲2のとおりの図形(以下「申立人商標」という。)を、ハウスマークである「SPORTES」とともに使用されるシンボルマークとして採択し(甲4)、これを付したアウトドア関連商品を製造・販売している(甲5)。 申立人が製造・販売するアウトドア関連商品には、焚火台「製品名:FIREWAALL」(甲6)、ナイフ「製品名:ULUU」(甲7)、調理用ゴトク「製品名:MITI−001」(甲8)が含まれ、申立人商標は、これら製品自体に刻印される他(甲9)、外装箱(甲10)や使用説明書(甲11)にも付されている。なお、「FIREWAALL」、「ULUU」及び「MITI−001」は、いずれも申立人が採択した製品名である(以下、これら製品を「SPORTES商品」という。)。 2 本件商標権者について 本件商標権者は、COTTAGEの屋号の下(甲12)、アウトドア関連商品の小売販売を行っている。自らを申立人の「正規輸入元」と称し(甲13)、自身のホームページ(甲14)やYahoo!ショッピング(甲15、甲16)、Amazon(甲17、甲18)等のプラットフォームを通じて、申立人の「SPORTES商品」を販売していた事実がある。 3 本件商標の登録出願に至るまでの経緯 (1)本件商標権者は、申立人に対して、2016年11月25日付けの電子メールにより、申立人の調理用ゴトク「MITI STOVE(MITI−001)」を卸売価格にて輸入販売したい旨の申入れを行った(甲19)。送信元のメールアドレスは、本件商標権者が運営する「COTTAGE」に掲載されているものと一致する(甲12)。 (2)本件商標権者からの申入れをきっかけに、同日中に両者間で数通の電子メールが交わされたが、その中で、本件商標権者より、自身だけが申立人の「MITI−001」を独占的に輸入できる「sole importer(輸入総代理店)」契約への興味が示された(甲20)。 申立人もこれに応じ、輸入総代理店契約交渉を継続して行うこととなったが(甲21、甲22)、まずは初回の取引として、2016年12月9日に、申立人から「MITI−001」15個の輸入が行われた(甲23)。 一方、本件商標権者から、「流通価格が崩れるため、申立人が、日本の個人消費者に直接販売することは控えて欲しい」旨の要請も行われた(甲24)。 (3)輸入総代理店契約については、2017年1月12日付けの電子メールにより、改めて本件商標権者から関心が示されるとともに、「輸入総代理店契約を締結した場合、数量に応じて、さらなる値引きがあるのか」との問合せがあり(甲25)、最少発注数量等に関してスカイプを使ったミーティングが行われた(甲26)。 その後、2017年1月28日付けの本件商標権者からの電子メールで「輸入総代理店になりたいという気持ちに変わりはないが、初年度に数千個を販売することは難しい。現実的な販売数量は300個程度である。よければ、輸入総代理店契約に署名する用意がある」と回答があり、具体的な最少発注数量の問合せが行われた(甲27)。 しかしながら、最終的には、既に他の事業者が「SPORTES商品」の販売を開始してある程度の流通価格が定まっている中、輸入総代理店契約を結んだとしても、流通価格の上代に対して6掛けで他社に卸す日本の慣行を考慮すると十分な利益が得られないこと等を理由に、2017年4月に本件商標権者は輸入総代理店契約を見送りとし、通常の輸入代理店の一つとして、取引を継続する意向を示した(甲28)。 (4)輸入総代理店契約の締結はなかったものの、本件商標権者と申立人の取引は、その後順調に進み、本件商標権者が取り扱う申立人の「SPORTES商品」は、焚火台「FIREWAALL」や、ナイフ「ULUU」その他に拡大した(甲14)。両者の継続的な取引を示す資料として、申立人が本件商標権者に宛てて発行したインボイスの一部(2017年〜2019年)を提出する(甲29)。なお、当該インボイスにおいても申立人商標が使用されている。 (5)ところで、上述のとおり、本件商標権者と申立人との間で輸入総代理店契約が締結されることはなかったため、申立人は、本件商標権者以外の他の事業者から輸入販売の申入れがあった場合、これに応じることも当然にあったところ、2017年5月6日付けの電子メールを通じ、本件商標権者は申立人に対し「『O商店』が、『SPORTES商品』を、アマゾンにおいて大幅に値引きして販売している。このような状況だと、貴社との取引を断念せざるを得ない。」として、これに対する不満を示した(甲30)。 本件商標権者は輸入総代理店の立場にはなく、また流通価格は各販売業者が自由に決められるべきものであるが、申立人は、本件商標権者とのこれまでの取引関係に感謝し、特別に「O商店への販売を今後は行わない」という配慮を行った(甲31、甲32)。 (6)しばらく経った後、2019年12月5日付けで、再び本件商標権者から申立人に「Bad News」と題する電子メールが送信され、本件商標権者は申立人に対し、「あなたが商品を卸している『Y社』に対して立腹している。アマゾンや、ヤフー、楽天において意図的に値引きを行っており、同価格で追随するとさらに値引きがされることから、私は適切な利益を得ることができない。彼らの販売価格は公正な価格ではない。まるでストーカーに遭っているようだ」と強い不満を訴え、O商店の際と同様の対応を求めた(甲33)。 これに対し申立人は、「日本の代理店の販売やマーケティング活動は、我々がコントロールすべきものではなく、また卸売価格は全ての事業者に対して同一であり、小売価格は我々の関知するところではない。」「我々はあなたに、輸入総代理店となる機会や、より良い取引条件のための取扱数量の増加を打診したが、それをあなたは常に断ってこられた。一方で、これまでのあなたとの協業に感謝し、できるだけの値引きを提供してきた。」「現状を、ビジネスの観点からご理解いただけることを望みます。あなたが、総販売代理店契約をお持ちでないなら、我々としては、全体的な販売数量とネットワークの拡大に注力せざるを得ない」として、本件商標権者の要請に応じかねる旨を丁重に回答した(甲34)。 これに対して本件商標権者は、2019年12月7日付けの電子メールにて「貴社の考えは良く分かった。どのように対応するか検討する」と返答した(甲35)。 (7)その後、特に本件商標権者から申立人への連絡はなく、2021年2月まで両者の取引はこれまでどおり続いたが(甲36、甲41)、本件商標権者は2020年4月24日付けにて、申立人のハウスマークである「SPORTES」について、申立人に無断で、商標登録出願を行った(甲37)。当該出願は、第8類「手動利器(「刀剣」を除く。)」、第11類「焚き火台,バーベキューグリル」を指定し、申立人の製造・販売する「SPORTES商品」に対応するものであった(後述のとおり、この「SPORTES」に係る出願は、申立人による異議申立てによって、取消決定がされている。)。 これ以外にも、本件商標権者は申立人に無断で、申立人の焚火台の製品名「FIREWAALL」に関する商標登録出願も、同日に行っている(甲38)(その後、拒絶査定となっている。)。 これら本件商標権者による出願行為は、上記の本件商標権者の回答(甲35)から約4か月後に行われたものである。そして上記のとおり、その後も両者の取引は継続していたが(甲36)、本件商標権者は、これら出願の事実を申立人に秘匿し続けた。 (8)申立人は、2021年2月頃に、申立人の同意を得ない、本件商標権者による製品名「FIREWAALL」に関する商標登録出願(甲38)に気が付いた。そこで申立人はこれを遺憾として、本件商標権者に対し、その行為の説明を求める電子メールを2021年2月26日に送信したところ返信がなかったことから、続く同年3月1日にも同趣旨の電子メールを送信している(甲39)。 しかしながら、本件商標権者は、この申立人からの2021年2月26日付けの最初の電子メールに返信をしないばかりか、申立人がハウスマーク「SPORTES」とともに使用するシンボルマークである申立人商標についても、同月28日に、申立人の同意を得ない追加的な出願行為に及んだものである。 (9)申立人は、本件商標権者に宛てた電子メール(甲39)に対する返信がないことから、2021年3月4日の電子メールにて、このような申立人の同意を得ない出願行為に対する失望を表明するとともに、本件商標権者との取引終了に言及したところ、本件商標権者は同月10日になって、ようやく申立人に対して返答をしているが(甲40)、この申立人商標に関する出願に関しても秘匿しながら、「この出願行為は、第三者からの侵害による損害から自らの商品等を守り、商品を継続的に販売できるようにするために必要な手段である。ご存じのとおり、私を標的にし、私のビジネスをつぶそうとする企業が既に存在する。将来的な攻撃から守る手段の一つとして、必要であると決断した。」「これまでどおり、『SPORTES商品』の購入を続けたい。」「第三者からの侵害から、これら商標を守る。」等として、逆に自らの行為を正当化するとともに、取引関係の継続を求めた(甲40)。さらに、「今後どのように行動するかは、あなたの判断に応じて考えさせていただきます。」と、商標登録を盾にして、輸入代理店としての関係の継続を強要するような発言もしている。 (10)本件商標権者は、それまでにも申立人商標が付された製品の取扱いをしてきており、また本件商標権者に宛てて発行されたインボイス(本件商標の登録出願直前である2021年2月11日に発行されたもの(甲41)を含む。)にも申立人商標は必ず表示されてきたものであるから、本件商標権者は、申立人商標を知悉していたことは明らかである。 加えて、本件商標に関する登録出願は、申立人の同意を得ない出願に対して申立人から説明を求められた直後に行われていることから、本件商標権者は申立人より呈された無断出願に対する懸念を真摯に検討するつもりは毛頭なく、逆に申立人商標についても登録出願されていないことを奇貨として、自らの身勝手な立場を強化する目的で、申立人のハウスマーク「SPORTES」及び製品名「FIREWAALL」に続く、さらなる剽窃的な出願行為に及んだことは明らかである。 4 商標法第4条第1項第7号について (1)本件商標権者は、本件商標の登録出願時において、正規輸入代理店の地位にあった。また、それまでの継続的な取引や、自身としても「正規輸入元」を名乗っている事実があり(甲13、甲15〜甲18)、また上述の経緯より、本件商標権者が申立人商標を知悉していたことは明らかである。したがって、本件商標権者は、申立人商標の使用を妨げてはならない信義則上の義務を負っていたものといえる。 そして、本件商標権者は、自らが申し入れた輸入総代理店契約を見送っておきながらも、申立人の配慮によって、申立人が個人消費者への直接販売を控えたり、他の輸入代理店による低価格での販売行為を止めさせるといったことで、申立人から輸入総代理店に等しいような待遇を受けてきたものである。 にもかかわらず、本件商標権者は、2019年12月に、申立人から同様の待遇を再び得ることができないと分かると、申立人がハウスマーク「SPORTES」や製品名「FIREWAALL」に関する商標登録出願を行っていないことを奇貨として、一輸入代理店の立場にありながら、申立人に無断で、これらの商標登録出願を2020年4月に行ったものである。 そして、その後も申立人と継続的な取引を行いながら、申立人が気付くまで、その事実を秘匿し続けるだけでなく、申立人が本件商標権者の行為に気付いて懸念を伝えるや否や、それを真摯に検討することもなく、逆に自らの身勝手な立場を強化するための更なる対抗措置として、申立人が「SPORTES」とともに使用するシンボルマークである申立人商標にまで、剽窃的な出願行為に及んだものである。 さらに、申立人が取引停止に言及すると、商標登録を盾にして、輸入代理店としての関係の継続を強要するような発言もしている。 このような本件商標権者の行為は、信義則上の義務に著しく反するものであることは明らかである。 (2)さらに、本件商標権者は、申立人のハウスマーク「SPORTES」の商標登録出願行為について、「第三者からの侵害による損害から商品を守り、商品を継続的に販売できるようにするため必要である」等と説明している。本件商標権者のいう「第三者からの侵害」という表現が商標権侵害を意味するとした場合、仮にそのような事態が生じているならば申立人に注意喚起すればよいことであるし、自ら「正規輸入元」を名乗る輸入代理店であれば、そうすることが当然に期待される。 しかしながら、本件商標権者は、申立人との取引を継続していたにもかかわらず、そのような注意喚起などは行っていないし、逆に申立人に無断で申立人のハウスマーク「SPORTES」等に関する登録出願を行い、これを秘匿し続けた。 申立人としても、これまで申立人商標や、ハウスマークである「SPORTES」、そして「FIREWAALL」といった製品名について、第三者から侵害警告を受けるといったことはなかったし、また本件商標権者が本件商標の登録出願に至るまでの経緯を考慮すれば、本件商標の登録出願は、同業他社の低価格戦略に対抗するために行われたことが、強く推認されるものである。これは、自由競争の原理により各輸入代理店が自身の営業努力によって自由に流通価格を設定できるのは当然でありながら、商標制度を悪用することにより、自らの営業努力を尽くすことなく流通価格を吊り上げて不正な利益を得ようとする身勝手な目的に基づくものであり、決して受け入れられるものでない。 (3)一方、申立人にとっては、本件商標権者が本件商標登録を得た場合には、一輸入代理店にすぎない本件商標権者の意向次第で、申立人と他の事業者との取引に支障を来すことになる。さらには、本件商標権者が申立人に対し、改めて自身に有利な内容で輸入総代理店契約の締結を強要することも可能となる等、申立人は重大な営業上の不利益を受けることになる。 確かに、先願主義の下、申立人が早期に商標登録の出願を行うべきであった点はあるが、申立人が設立されたカナダでは、コモンローの下、商標権は商標の使用によって発生する使用主義が採られていることに影響されたもので、決して商標の保護を放棄していたものではない。実際、本件問題が発覚した後、カナダにおける2021年3月17日付けの商標登録出願に基づく優先権を主張して、同月29日付けで、申立人商標とハウスマーク「SPORTES」に関する商標登録出願を行っている。 (4)上記のとおり、本件商標権者は、輸入代理店として、申立人の商標を尊重し、その使用を妨げてはならない信義則上の義務を負う立場にあり、また継続的な取引により申立人商標を知悉していながら、申立人商標が日本において商標登録されていないことを奇貨として、申立人商標と同一の図形からなる本件商標について、申立人の同意を得ずに登録出願を行ったものである。 さらにその出願目的は、複数ある輸入代理店の一つにすぎない本件商標権者が商標権を得ることにより、同業他社との価格競争から逃れ、流通価格を高く維持することで自らの利益確保を図るものであって、不正な利益を得る目的は明らかである。そして、申立人が取引停止に言及すると、商標登録を盾にして、輸入代理店としての関係の継続を強要するような発言もしている。 特に、本件商標については、申立人の製品名「FIREWAAL」に関する申立人の同意を得ない出願行為について、申立人より懸念が示された直後に登録出願されたものであり、申立人の懸念を真摯に検討せず、自らの身勝手な立場を強化するための対抗措置として行われている。 このような、本件商標の登録出願の経緯や、出願目的に鑑みれば、本件商標の登録は、申立人との取引上の信義則や商道徳に反するだけでなく、商標制度の悪用によって公正な競業秩序や消費者の利益を阻害しようとするものであり、商標法の目的(同法第1条)にも反することは明らかである。 すなわち、その経緯に社会的相当性を欠くことは明らかであって、その登録を認めることは商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものである。 (5)なお、申立人のハウスマークである「SPORTES」に関する本件商標権者の出願(甲37)に関し、申立人は登録後に商標登録異議申立てを提起していたところ、令和4年6月10日付けにて、その登録を取り消す旨の異議決定が出されている(甲42)。 本件商標においても、その登録出願に至る経緯が上記異議決定に係る商標登録と共通するばかりでなく、申立人の同意を得ない一連の出願行為について申立人から懸念が示された直後に登録出願されたことをも考慮すれば、自らの身勝手な立場を強化するための対抗的な出願であることは明らかである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。 5 商標法第4条第1項第10号について 申立人商標が使用される製品「FIREWAAL」は、キャンプで使用される「焚火台」である。その性質上、日常生活で広く使用されるものではなく、いわばニッチ的な製品であり、主たる需要者であるアウトドア愛好家に広く知られるに至っている。 例えば、YouTubeでの紹介動画の再生回数は15万回を超えており(甲43)、アウトドア専門情報に関するウェブサイトでも継続的に紹介されている(甲44〜甲47)。また、楽天市場で検索すると多数の出品が確認され(甲48)、その他の各種サイトでの販売実績が確認できる(甲49〜甲51)。 一般的な日用品と比較すれば、その販売台数や範囲は限られているかもしれないが、キャンプ用の「焚火台」のような非常に限られたジャンルにおいては、他に類似製品も多くなく、それに使用される申立人商標は、「焚火台」の分野において周知になっており、また、やはりキャンプで使用される「ナイフ」(手動用利器)の分野にも、その周知性は及んでいる。 したがって、申立人商標と同一又は類似の本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。 6 商標法第4条第1項第19号について 申立人商標は、キャンプ用の「焚火台」等に関して周知となっており、また上記したとおり、本件商標の登録出願時において、本件商標権者に不正の意図があることは明らかであるから、これと同一又は類似の本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。 第3 当審における取消理由 当審において、令和4年12月27日付けの取消理由通知書によって、本件商標権者に対し、本件商標は、その登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、その登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないから、公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標というべきであり、商標法第4条第1項第7号に該当する旨の取消理由を通知し、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えた。 第4 本件商標権者の意見 上記第3の取消理由に対し、本件商標権者は、何ら意見を述べていない。 第5 当審の判断 1 申立人の主張及び提出された証拠によれば、以下のとおりである。 (1)申立人について 申立人は、2014年にカナダで設立された法人であり、別掲2のとおりの申立人商標をシンボルマークとして採用し、申立人商標又はこれと「SPORTES」の欧文字からなる商標(甲4)を、申立人の製造・販売に係る焚火台(「製品名:FIREWAALL」)、ナイフ(「製品名:ULUU」)、調理用ゴトク(「製品名:MITI−001」)等のアウトドア関連商品(以下「申立人商品」という。)に使用している(甲3、甲5〜甲9)。 (2)本件商標権者について 本件商標権者は、「COTTAGE」と称する販売業者の運営統括責任者である(甲12)。 そして、当該「COTTAGE」のホームページにおいては、「スポルテスアウトドアツールズ日本正規輸入元」と記載し、各種通販サイトにおいて、申立人のアウトドア関連商品を販売している(甲13〜甲18)。 (3)本件商標権者と申立人等との間の電子メールのやりとり ア 2016年11月25日に、本件商標権者は、申立人の「MITI−001」(本件商標権者のメールには「MITI STOVE」と表記されている。)を自身の販売店で小売りしたい旨申入れを行い(甲19)、同日中に両者間で数通の電子メールが交わされ、その中で、本件商標権者は、日本における申立人の「MITI−001」の輸入総代理店になること、また、配送及び日本における製造などについて問合せをし、それらに対して、申立人は同日に回答した(甲20、甲21)。 イ 2016年12月9日に、申立人から「COTTAGE」宛てに「MITI−001」15個が配送された(甲23)。 ウ 2016年12月23日に、本件商標権者は、申立人からの商品を受け取ったこと、2月か3月に販売を開始する旨を述べるとともに輸入総代理店の条件についても問い合わせたところ(甲22)、申立人は、最小発注数量、最低売上目標を持つこと等の条件を示した(甲24)。 エ 2016年12月29日に、本件商標権者は、申立人の考えや条件について理解したこと及び申立人が日本の個人輸入者からの注文を受けないで欲しい旨の要請を行った(甲24)。 オ 2017年1月12日に、本件商標権者は、改めて、申立人のウェブサイトから日本の消費者への直接販売についての質問、輸入総代理店契約を締結した場合、数量に応じて、さらなる値引きがあるのかと問い合わせた(甲25)ところ、申立人はそれらに対し回答したものの、さらに、同月16日に本件商標権者は、申立人のオンラインストアを日本の個人の顧客に開放しないことを要望し、最少発注数量等に関して引き続き話し合うことを提案した(甲26)。 カ 2017年1月27日に、申立人は、販売数量が大きくなく売上げの保証もない状態で安い卸売りを約束する輸入総代理店契約を結ぶことは難しく、他者との交渉や調査を進める旨の内容を送付したところ(甲27)、同月28日に、本件商標権者は、300個程度であれば、輸入総代理店契約に署名する用意がある旨回答した(甲27)が、同年4月25日に、本件商標権者は、輸入総代理店契約の条件が合わないため、通常の販売代理店の一つとして、取引を継続する意向を示した(甲28)。 キ 2017年5月6日に、本件商標権者は、申立人に対し、他社(「O商店」)が、「MITI」、「FIREWAALL」を、アマゾンにおいて大幅に値引きして販売しているところ、このような状況だと、申立人商品を取り扱うのを止めざるを得ない旨連絡し(甲30)、同日に、申立人は、O商店に対して、適正価格での販売を求め、それができない場合は、商品販売を中止し取引を終了する旨を伝えた(甲31)。そして、2017年5月8日に、申立人は、本件商標権者へ感謝の意と彼らには今後商品を販売しない旨の内容を送信した(甲32)。 ク 2019年12月5日に、本件商標権者は、申立人に対し、申立人が商品を卸売しているO商店と異なる会社(「Y社」)が、複数のオンラインショップにおいて本件商標権者の価格より意図的に値引きして販売していることを伝え、申立人がO商店に対して行ったように強い手段で臨むように希望する旨の対応を求めた(甲33)。 これに対し、同日に、申立人は、「日本の代理店の販売やマーケティング活動は、口出しやコントロールすることができないし、行うつもりはなく、また、全ての購入者に対して同一の価格を適用しており、小売価格は我々の関知するところではない。」、「あなたに対しては、過去に何度も輸入総代理店となるか、取扱量を増やす機会を提示したが、あなたは常に断ってこられた。一方で、これまでのあなたとの協業に感謝し、できるだけの値引きを提供してきた。」、「ビジネスの観点からご理解くださるよう希望する。独占販売契約を交わしていない限り、我々の関心は販売と代理店ネットワークの拡大となる。」旨回答している(甲34)。 ケ 2019年12月7日に、本件商標権者は、「貴社の考えは理解した。この件についてどう対応するか検討する。」旨返答した(甲35)。 コ 申立人は、本件商標権者による製品名「FIREWAALL」に関する登録出願に気が付き、2021年2月26日及び同年3月1日に、本件商標権者に対してその行為の説明を求めた(甲39)。 これに対し、本件商標権者は、「商標出願は、第三者の侵害から生じる損害から私の商品と私のビジネスを守り、日本での販売を続けるための手段です。」と回答するとともに、取引の継続を求めた(甲40)。 サ 申立人が本件商標権者に宛てて発行した2016年12月9日ないし2021年2月11日のインボイス(甲23、甲29、甲36、甲41)によると、「FIREWAALL」、「MITI−001」といった商品に関する取引があり、当該インボイスには、申立人商標が表示されている。 2 商標法第4条第1項第7号該当性について 本件商標は、別掲1のとおり、幾何図形及びその右側上方に星形の図形を配した構成からなるところ、申立人商標も、別掲2のとおり、本件商標と同一の構成からなるものである。 また、本件商標の指定商品は、上記第1のとおり、「手動利器(「刀剣」を除く。)」及び「暖房用の焚き火台(電気式のものを除く。)」であって、申立人商標は、上記1(1)のとおり、ナイフ及びアウトドア用の焚火台等に使用するものであるから、これらの商品は、その用途、取引者及び需要者を共通にする同一又は類似の商品といえる。 そうすると、本件商標権者による本件商標の採択は、申立人により既に使用されていた申立人商標と偶然に一致したとみることはできない。 そして、上記1(3)のとおり、本件商標権者は、申立人に対し2016年11月25日から申立人商品について、輸入総代理店となることを希望する意向を示し、輸入総代理店契約に関して条件を検討したが、契約には至らず、通常の販売代理店として申立人商品を取り扱い、我が国において自身が適正と考える価格で販売していたところ、2019年12月5日に、本件商標権者は、申立人と取引のある他社が申立人商品を自身よりも安い価格で販売していることを知り、そのため自身が利益を得ることができないとして申立人へ対応を求めたにもかかわらず、日本の代理店の販売やマーケティング活動をコントロールできないと回答を受け、その後、本件商標権者は、申立人に無断で本件商標及び申立人の使用する製品名をそれぞれ登録出願しているものである。 加えて、申立人は、本件商標権者が上記登録出願に気が付き、本件商標権者に対してその行為の説明を求めたのに対し、本件商標権者は、自らの行為を正当化し取引の継続を求めている。 そうすると、本件商標権者は、本件商標の登録出願前から、申立人が申立人商標を使用していることを知っており、かつ、申立人が申立人商標について我が国で商標登録を得ていないことを奇貨として、これと同一又は極めて近似する本件商標を申立人に承諾を得ずに登録出願をし、登録を得たものであって、剽窃したものといわざるを得ない。 よって、本件商標は、本件商標の登録出願の経緯には、著しく社会的相当性を欠くものがあり、その商標登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないから、公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標というべきである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。 3 むすび 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものといわざるを得ないから、その他の登録異議の申立ての理由について論及するまでもなく、本件商標は、同法第43条の3第2項の規定により、その登録を取り消すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
別掲 |
別掲1(本件商標) ![]() 別掲2(申立人商標(シンボルマーク)) ![]() (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。 |
異議決定日 | 2023-03-24 |
出願番号 | 2021029245 |
審決分類 |
T
1
651・
22-
Z
(W0811)
|
最終処分 | 06 取消 |
特許庁審判長 |
小松 里美 |
特許庁審判官 |
鈴木 雅也 小林 裕子 |
登録日 | 2022-01-26 |
登録番号 | 6504411 |
権利者 | 中垣 幸成 |
代理人 | 小暮 君平 |
代理人 | 弁理士法人BORDERS IP |
代理人 | 福井 孝雄 |