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審決分類 |
審判 全部申立て 登録を維持 W03 |
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管理番号 | 1397333 |
総通号数 | 17 |
発行国 | JP |
公報種別 | 商標決定公報 |
発行日 | 2023-05-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-05-09 |
確定日 | 2023-04-14 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 登録第6520304号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 登録第6520304号商標の商標登録を維持する。 |
理由 |
1 本件商標 本件登録第6520304号商標(以下「本件商標」という。)は、「NOREAL」の文字を標準文字で表してなり、令和3年5月20日に登録出願、第3類に属する商標登録原簿に記載の商品を指定商品として、同年12月13日に登録査定され、同4年3月1日に設定登録されたものである。 2 引用商標 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する商標は次のとおりであり(以下、それらをまとめて「引用商標」という。)、いずれの商標権も現に有効に存続しているものである。 (1)登録第1144786号商標(以下「引用商標1」という。) 商標の態様 「L’OREAL」の欧文字と「ロレアル」の片仮名を2段に横書きしてなるもの 指定商品 第26類に属する商標登録原簿に記載の商品(平成18年7月12日書換登録) 登録出願日 昭和46年3月4日 設定登録日 昭和50年8月15日 (2)登録第2419477号商標(以下「引用商標2」という。) 商標の態様 「L’OREAL」の欧文字と「ロレアル」の片仮名を2段に横書きしてなるもの 指定商品 第1類、第3類及び第5類に属する商標登録原簿に記載の商品(平成15年9月24日書換登録) 登録出願日 平成元年9月11日 設定登録日 平成4年5月29日 (3)国際登録第1532645号商標(以下「引用商標3」という。) 商標の態様 L’OREAL 指定商品 第3類及び第5類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載の商品 国際商標登録出願日 2020年(令和2年)4月29日 優先権主張日 2020年(令和2年)3月30日(EUIPO) 設定登録日 令和3年7月9日 (4)登録第4194346号商標(以下「引用商標4」という。) 商標の態様 別掲のとおり 指定商品 第3類に属する商標登録原簿に記載の商品 登録出願日 平成8年12月12日 設定登録日 平成10年10月2日 3 登録異議の申立ての理由 申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の3第2項によって取り消されるべきものであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第50号証(枝番号を含む。)を提出した。 (1)申立人及び引用商標「L’OREAL」(ロレアル)の著名性について ア 申立人であるロレアル(L’OREAL)は、フランスで1909年に創業され、パリに本社を構え、創業113年を迎えた世界最大(No.1)の化粧品グループである(甲6、甲21〜甲27)。 始まりはパリの小さなアパルトマンであり、創業者のフランス人の化学者が自身で開発した「安全なヘアカラー剤」を発売したことからロレアルの歴史は始まり、現在は150か国以上の国や地域で事業を展開する世界最大の化粧品グループヘと成長した(甲21)。そして、申立人は、創業以来、申立人のハウスマークの引用商標に係る「L’OREAL」又は「ロレアル」をすべての商品及び広告に使用し続けている。 この申立人の名称でありハウスマークでもある「L’OREAL」(ロレアル)は、その由来は幾つかあり、その由来に係るつづりは異なるものの、1939年につづりが「L’OREAL」と変更され、現在までハウスマークとして使い続けられている(甲50)。 申立人は、創業以来、以下に詳述するとおり、自然からインスピレーションをもらいながら、最先端の科学技術を駆使する一方で、女性の尊厳を守り、地球の美しさを護るために、気候変動に挑み、生物多様性を重視し、天然資源の保存に注力し、常に「世界を突き動かすような美の創造」を目指してきた(甲6)。 2019年は、申立人の創立110周年の記念の年であったが、110周年記念イベントがフランスを代表する歴史的建築物であるルーブル美術館で開催され、全世界40か国以上から集まった1700人以上のヘアアーティストや豪華セレブリティにより、盛大にこれまでの110年の歴史と申立人の「美の創造」への貢献について祝福された。そのことは日本でも大々的に紹介された(甲8、甲28〜甲32)。 申立人の創業者は、一般消費者への化粧品等の開発以外にも、自らの専門知識を駆使して、美容師のために、ありとあらゆるものを作り出し、ヘアプロフェッショナルの世界を変えることに生涯を捧げた人物である(甲7)。現在では当たり前となっているパッチテスト(皮膚アレルギーテスト)やカラースケールの開発も申立人によるものである(甲7)。さらに、カラー施術を学べる美容学校をどこよりも早く開校した(甲7)。このような業績により、申立人は、ブランドとしての信頼を確立し、美容業界をリードし、プロフェッショナルの世界と揺るがない関係を築き上げた(甲6)。 申立人は、創業当初は美容師や美容院向けの専門家向けのヘアスタイリングやヘアカラーブランドである「L’OREAL PROFESSIONNEL」を中心としていたが、1960年代から戦略的買収により成長を促進させ、2020年現在、傘下に配している35のブランドには、LANCOME(ランコム)、YVES SAINT LAURENT(イヴサンローラン)、GIORGIO ARMANI(ジョルジオアルマーニ)、shu uemera(シュウウエムラ)、Helena Rubinstein(ヘレナルビンスタイン)等が含まれており、それらの商品は、ラグジュアリー化粧品からフレグランス、美容院サロン向けのヘアカラーやヘアケア商品、皮膚科医推奨のスキンケア製品まで幅広くありとあらゆる商品を扱うグループ企業となっている(甲6)。 さらに、2017年には、AR(拡張現実)メイクアプリで有名なパーフェクト社とグローバルパートナーシップを締結し、AR技術でバーチャルメイク体験を提供するビューティーアプリ「YouCan メイク」に申立人が取り扱うブランドを搭載し、一般消費者に気軽に申立人の商品を無料でバーチャルで試すことを可能にするなど(甲8)、最先端技術を商品展開の戦略の手段として積極的に取り入れている。2022年6月には、パリで開催された欧州最大のテクノロジー業界の会議・展示会「Viva Technology(Viva Tech)2022」にて、美の未来について、申立人が掲げるビジョンを複数発表した(甲9)。 申立人は、テクノロジーが美とビジネスに変革をもたらす存在と考え、積極的に行動してきた。申立人の「ロレアル ウオーター セーバー」は、ロケットエンジン技術を採用し、標準的な方法と比較して水の消費量を61%も削減しながら、ラグジュアリーで効率的な洗髪体験を実現する画期的なシャワーヘッドであり、年間数十億リットルの水の節約に貢献する可能性を秘めたものであるが、TIME誌が選ぶ「THE 100 BEST INVENTIONS OF 2021」に選出された(甲9)。 申立人はまた、上記記載のような美の高いクオリティや最先端のテクノロジーを活用した美の未来を追い求めるだけでなく、「世界で最も倫理的な企業」として11回も選ばれた企業でもある(甲6)。人権・労働・環境腐敗防に対する模範的な取り組みにより国連より表彰され、「ESG」(Environment、Social、Governanceの頭文字を取って作られた単語であり、近年では、この三つの観点から企業を分析して評価されている。)の評価機関より、2020年、すべての部門で1位を獲得している(甲6)。 このことは、申立人の2017年から2021年までの受賞経歴からも明らかであり、単なる化粧品の品質に対するアワードだけでなく、社会や環境問題に真摯に取り組む企業としても高く評価されている(甲8、甲33)。 このような倫理的企業としても評価されている申立人は、88,000人もの社員数(2019年12月31日時点)を有し、世界150か国に商品の販売を展開し、35のブランド(同日時点)を傘下に有し、7億個の製品を販売し、299億ユーロ(約4.2兆円)の売上(同日時点)を誇っている(甲6)。2021年度はさらに増え、322.9億ユーロ(約4.2兆円)となり、「歴史的な業績」となり、業界平均の倍の成長率を達成した(甲23)。申立人の流通業態は、美容院といった専門業者から、ドラッグストアや百貨店といった一般消費者向けの店舗、そしてEコマースとすべての流通経路をカバーしている(甲6)。申立人の2018年の売上高318億米ドル(約4.4兆円)は、断トツの第1位であり、2位のユニリーバの224億米ドルを90億米ドル以上、上回っている。日本の企業では資生堂が第4位に位置しているがわずか97億米ドルである(甲6)。このことは、複数の世界の化粧品メーカーの売上ランキングや市場シェアの情報からも裏付けられており(甲23〜甲27)、「総合化粧品メーカーとしての存在は圧倒的」(甲25)と評されている。地理的内訳としては、2019年において、日本を含むアジア太平洋地域は全体の32.3%を占めており、西ヨーロッパの27.7%や北米の25.3%を上回っている(甲6)。 イ 申立人は、このような高い売上を達成するために、テレビCM、雑誌、ウエブ上のニュースサイトやInstagram、Twitter等SNSといった各メディアを通じて、申立人の商品の宣伝広告を積極的に実施している。 (ア)アンバサダー 申立人は、トップモデル2人を2017年に新アンバサダーに指名し、Instagramで280万のフォロワー数を持ち、幅広い年代から人気で最も影響力のある者を2018年に申立人のスポークパーソンに起用するなど(甲8)、注目される人材を申立人の顔に選んでいる。 (イ)ウエブ上のニュース記事・雑誌や新聞上の紹介記事 申立人は、ファッション雑誌を始めとする数多くの雑誌や新聞において、広告や紹介記事が数多く掲載されている。 例えば、日本において、「YAHOO!ニュース」「GREEニュース」「ニューズウィーク日本版」「東洋経済オンライン」「現代ビジネス」等のウエブ上のメディアにおいて、2017年から2021年にかけて、申立人についてヘッドニュースとなったものが2300件以上あった(甲10、甲11)。 ウエブ上のヘッドニュース以外にも、「ELLE」「HAIR MODE」「HAPPER’S BAZAAR」「FRAU」「VIVI」等の多数の人気のファッション雑誌において、申立人の商品が紹介されており、2017年から2021年にかけて雑誌に掲載された回数は数百回を超えている(甲8)。 (ウ)テレビCM 申立人は、テレビCMも展開している。例えば、「EXCELLENCE(エクセランス)」シリーズのテレビCMは、2020年7月10日から7月26日まで及び2020年7月31日から8月6日まで、二度にわたって関東地区・関西地区・中京地区で放映された(甲12)。「EXTRA ORDINARY OIL(エクストラオーディナリーオイル)」シリーズは、2020年3月20日から4月5日まで関東地区・関西地区・名古屋で放映され(甲13)、同シリーズの「COLOR LOCK OIL(カラーロックオイル)」は、2020年9月25日から10月11日まで関東地区・関西地区・中京地区で放映された(甲14)。これらすべてのテレビCMの画面には、大きく「L’OREAL」の文字が表示されている。 (エ)ブランドブックの発送・配信 申立人は、ホームページ上にブランドブックを掲載しており(甲15)、ホームページの訪問者は誰でも申立人のブランドブック(甲16)を見ることが可能となっている。また、申立人から直接、美容院や美容師等に対してブランドブックを送付し、申立人のブランドの商品の内容について案内を行っている(甲7、甲16、甲17)。 (オ)SNS 申立人のウエブサイトヘのビジット(訪問)数は13億、SNSのフォロワー数は2.85億に及んでいる(甲6)。 日本においても、申立人は、Facebook、Instagram、TwitterやYouTubeに公式アカウントを開設して最新の情報を発信し、申立人の商品の新作をリリースするときも、商品の写真やプロモーション動画等を配信している。 例えば、YouTubeでは、2021年9月10日から同年10月7日にかけて、約1か月で240万以上の表示回数を得た(甲18)。また、Twitterでは、2021年8月27日から同年10月7日にかけて、1回のツイートにあたり100万を超える表示回数になることも多く、合計で2千万回以上の表示回数を獲得した(甲18)。Instagramでは、2021年9月10日から同年10月4日までの約1か月で約1600万以上の表示回数となった(甲18)。その他、2020年から2022年にかけては、申立人のブランドであり世界初のオイルベース・アンモニア無配合のヘアカラー剤「iNOA」の広告宣伝を、Facebook、Instagram、Twitter等のあらゆるSNSを利用して、約3千万近くの費用をかけて行った(甲19)。 その他にも、複数の人気の女性タレントを起用して、実際に申立人の商品でヘアカラーリングした模様の動画をYoutubeで配信を行い、101万9千以上の視聴数及び95万8千以上の視聴数を獲得している(甲19)。 このようなSNSやYouTubeのフォロワー数や表示回数等をみただけでも、これらを通じて、申立人の引用商標に係る「L’OREAL」やその片仮名表記である「ロレアル」が日本を含む世界中の多数の需要者及び取引者の目に触れることになることは明らかである。これらの投稿へのアクセス数等が極めて多数(甲18)であることは、申立人の引用商標が需要者及び取引者から極めて注目されており、申立人の引用商標に係る「L’OREAL」が認知されていることの証左といえる。 ウ 以上によれば、本件商標の登録出願時はもちろんのこと、登録査定時においても、申立人の名称でもありハウスマークとして使用されている引用商標に係る「L’OREAL」及び「ロレアル」は、申立人及び申立人の業務に係る商品に使用される商標として、我が国の取引者・需要者において高い著名性を有していたというべきである。 そして、申立人は引用商標のブランドとしての価値を維持するために、必要に応じて法的措置等を講じながら、絶え間ない努力を払っている。 (2)商標法第4条第1項第11号該当性 最高裁判決(昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁)が示した基本的原則、特許庁の商標審査基準等に従い、以下、本件商標と引用商標との類否について検討する。 ア 本件商標 本件商標は、「NOREAL」の欧文字を標準文字で横書きした商標である(甲1)。 イ 引用商標 引用商標1及び2は、いずれも欧文字「L’OREAL」と片仮名「ロレアル」を上下二段に書してなるものである(甲2、甲3)。 引用商標3は、欧文字「L’OREAL」を横書きに一連に書してなるものである(甲4)。 引用商標4は、別掲のとおりの構成よりなるものである(甲5)。 ウ 指定商品の類否 本件商標に係る指定商品は、引用商標の指定商品との関係において、生産部門、販売部門、流通経路、用途及び需要者の範囲が一致する商品を含んでいる。したがって、本件商標の指定商品は、引用商標の指定商品と同一又は類似する商品を含んでいる。 エ 本件商標と引用商標の類否 本件商標は、「NOREAL」の欧文字を書したものであるところ、「NOREAL」に相当する既成の語は外国語としても存在しないものの、本件商標は、引用商標の「L’OREAL」の構成中、実に「O」「R」「E」「A」「L」の5文字が共通する。また、両商標は、その称呼も共に4音であるところ、語頭の1音を除く3音「〇レアル」も共通する。「L’OREAL」又は「ロレアル」の語は、申立人が1909年に創作した造語であり、創業以来ハウスマークとして110年以上長年にわたって使用し続けているものであり、非常に独自性の高い商標である。現在、権利が存続している商標において、「化粧品」について「OREAL」を語尾に有する商標は42件存在し、そのうち実に約80%近い34件が申立人の保有する商標であることからも引用商標の独自性が高いことは明らかである(甲20)。ゆえに、商品及び役務の区分第3類において当該「OREAL」を有する語である場合、たとえ、本件商標と引用商標との間に「L’O」(ロ)及び「NO」(ノ)の語頭のー音相違があるとしても、この「ロ」と「ノ」はともに前口蓋で調音され、調音位置が極めて近似した音であり、かつ、母音「o」を同じくする音であることから、その語音語感が相似したものとなり、「L’OREAL」商標の語頭を除く5文字「OREAL」を本件商標が共通にする以上、全体的印象が共通し外観・称呼上相紛れるおそれが高いというべきである。 したがって、本件商標は、引用商標とは、外観及び称呼において類似性が極めて高い。 さらに、「NOREAL」の文字に相当する既成の語は存在しないため、本件商標は、一般には一種の造語と考えられる。しかしながら、造語であるからといって直ちに無意味な語として把握しなければならないという合理的な根拠はなく、商標の類否判断において、対比する両商標それぞれから生じる観念について検討を加える中で、一般人にとって容易に想起し得る観念が生じ得るか否か、その観念とは何かを考慮すべきことは、商標の類否判断の基本的原則に関して、「そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく」と判示した上掲の最高裁判決に照らせば至極当然と考える。 そこで検討すると、引用商標に係る「L’OREAL」は、それ自体が意味を有する言葉として定着しているものではないとしても、上述のとおり、我が国において化粧品分野で著名なブランドとして広く知られている。そして、本件商標と引用商標とは、語頭の一音が相違するにすぎず、外観上においても中間・語尾の「OREAL」が共通するものであるから、その造語性の程度は、引用商標から生じる申立人の業務に係る化粧品分野において著名な「ロレアル」ブランドの観念を完全に打ち消すほど強いものとはいえない。そもそも、「L’OREAL」の「L’O」(ロ)の1音を変化させ「NOREAL」にしたところで、商標全体として生じる観念や印象が劇的に変わるとはいえず、少なくとも本件商標は、一般人の注意力からすれば、「L’OREAL」をもじった商標という程度に理解されるものであるから、申立人に係る著名な「ロレアル」ブランドに関連した観念が払拭されるものではない。したがって、本件商標に接した需要者が、引用商標に近似した印象を受け、又は同じ観念を生じて記憶、連想されることも生じうる。 しかして、引用商標が申立人の表示として著名性を獲得し、広く認知されていることからすれば、本件商標に接する者の中には、「L’OREAL」を既存の概念として、これを前提に接する者も少なくないはずである。このような者にとって、本件商標に接したとき、まずそれが共通部分で特徴のある「OREAL」の各欧文字から構成されたものである点に注意が向くことはごく自然なことであり、ここから「L’OREAL」を想起することは十分にあり得ることというべきである。 したがって、本件商標は、引用商標とは、申立人の業務に係る化粧品分野において著名な「ロレアル」ブランドの観念を共通にする類似性を有するものである。 以上のとおり、本件商標は、引用商標とは、外観、称呼、観念のいずれの要素についても互いに類似性を有するものであるから、商標全体としても互いに類似するものである。 オ 裁判例及び審決例 本件商標と引用商標が互いに類似するものである点は、過去の裁判(「大森林」と「木林森」最高裁平成3年(オ)第1805号、及び甲35。)や特許庁の審決(甲36〜甲39)において示された判断に照らすことでさらに明確となる。 これらの判決・審決例に従えば、本件商標と上述のとおり著名な引用商標「L’OREAL」の構成の間には称呼上一音の差異しか有さず、さらに外観上主要な欧文字のつづりが共通するといった外観上及び称呼上の類似性を有するという事情の下では、申立人の業務範囲と重なる「化粧品等」の指定商品について本件商標が使用されると称呼上及び外観上相紛らわしく、申立人の「L’OREAL」の著名性商品の出所について需要者等が混同する可能性を否定できないものと思料する。 カ 小括 以上のとおり、本件商標は、引用商標とは商標全体として互いに類似するものであり、引用商標の指定商品と同一又は類似する指定商品を含むものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。 (3)商標法第4条第1項第15号該当性 以下、最高裁判決(平成12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁)が明確にした判断基準に沿って、本件商標が引用商標との間で出所の混同を生じさせるおそれについて検討する。 ア 引用商標「L’OREAL」の周知著名性及び独創性の程度 上記のとおり、引用商標に係る「L’OREAL」及び「ロレアル」商標は、申立人が1909年の創業から現在に至るまで110年以上にわたって一貫して使用してきたものであり、現在でも、申立人の業務に係る商品を表すものとして、高い著名性を維持、向上させてきている。また、「L’OREAL」及び「ロレアル」商標は、申立人の業務に係る商品や業務を指称する著名なブランドのハウスマークであるのみならず、化粧品業界において世界最大の有名な化粧品グループブランドとして確固たる地位を堅持しているものである。 そして、引用商標に係る「L’OREAL」は、申立人の複数の思いを込めて名付けられた、非常に独創性の高い造語商標というべきものである。 イ 商標の類似性の程度 本件商標と引用商標の類似性については、上記で述べたとおりであり、外観上極めて強い出所識別機能を有する「L’OREAL」の「OREAL」を共通にし、「ロレアル」の称呼とは4音中3音の「レアル」の部分が共通するものであるから、本件商標と引用商標は、外観上及び称呼上の類似性の程度は極めて高いといわなければならない。 ウ 本件商標の指定商品と引用商標の使用商品との関連の程度、商品等の取引者及び需要者の共通性 本件商標の指定商品は、申立人が使用し著名性を有する引用商標に係る商品「化粧品、ヘアケア商品、ヘアスタイリング剤、せっけん類、香水等」と同一又は類似する商品である。したがって、両商品の性質等及び商品の取引者及び需要者において互いに共通性が高いことは明らかである。 エ 周知・著名商標が考慮された判決・異議決定・審判決例 判決・審決等例においても、周知著名な商標であることが考慮されて、本件事案のように、両商標の間に語頭1音の差異しかない商標が本号に該当すると判断されている(甲40〜甲44)。 そうすると、本件においても、本件商標「NOREAL」と引用商標に係る「L’OREAL」との外観を対比すると、語尾の5文字「OREAL」の部分が共通し、称呼においては、語頭を除く称呼「レアル」が共通するから、上記の判決例に鑑みれば、引用商標の周知著名性と相まって、両商標は相紛らわしく、出所の混同が生じるというべきである。 さらに、商標の周知著名性を考慮し、1音相違からなる商標について、対比する商標と出所の混同が生じると判断した事例も複数存在しており、一部を挙げる(甲45〜甲47)。 これら異議決定・審判決例に鑑みても、本件商標は本号に該当することが明らかである。 なお、諸外国においても、本件商標のように語頭の1音の差異しかない「FOREAL」商標やさらに語頭及び中間音に差異のある「AORAL」商標等について、申立人が請求した異議申立てにおいて、引用商標に係る「L’OREAL」の著名性に鑑みて、登録が取り消されている(甲48、甲49)。 オ 小括 (ア)以上述べたとおり、本件商標と引用商標との外観及び称呼上の類似性、申立人の引用商標が著名性を獲得していること、申立人が著名性を獲得している化粧品分野の商品を本件商標が指定商品としている点等の取引の実情(共通性)などに照らし、当該商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断した場合、本件商標に接した取引者・需要者は、あたかも申立人若しくは申立人と何等かの関係がある者の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について混同を生ずるおそれがあることは明白である。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。 (イ)加えて、申立人は自己のブランドイメージを維持し、より一層の発展をさせるため、世界中で展開する事業においてその製造に係る商品について厳重な品質管理を行っている。また、上述のとおり、引用商標は、申立人に係る商品を表示するものとして、我が国はもとより世界中で取引者・需要者の間に広く認識されている周知著名商標であり、申立人の提供する商品に係る絶大な信用が化体した重要な財産である。 したがって、本件商標の登録が維持されれば、申立人と何ら関係のない者により、申立人が現にその商標を付して使用している商品とその需要者等を同一にする商品についての使用が許されることになる。また、その結果として、申立人の提供する商品に比較して、品質の劣る商品が、引用商標と類似する商標を使用して需要者に提供される事態も生じ得る。 このような事態は、申立人が永年にわたり多大な努力を費やして培ってきた引用商標のブランドイメージを著しく毀損し、申立人に多大な損害が生じることは明らかである。商標法の目的の見地から、あるいはまた、上記異議決定・審判決例に鑑みても、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当することが明らかである。 4 当審の判断 (1)引用商標等の周知性について ア 申立人提出の甲各号証及び同人の主張によれば、申立人は、フランスで1909年に創業された化粧品会社であり(甲21、甲22、他)、化粧品メーカーの売上高世界ランキングで、2017年は276億ドルで世界1位(甲27)、2020年は311億ドルで世界1位(甲26)であり、2021年は売上が322.8億ユーロ、市場シェアが12.6%で1位(甲23〜甲25)であること、申立人の傘下のブランドには、ランコム、イヴ・サン・ローラン、ジョルジオ アルマーニ、シュウ ウエムラ、ヘレナ ルビンスタイン等があること(甲22〜甲25、甲27)及び我が国においては、1963年から事業を開始し、1996年に日本法人「日本ロレアル株式会社」を設立したこと(甲11の22・23、甲22)、申立人の業務に係る商品及びその広告などには「L’OREAL」(異議決定注:「E」の文字にはアクサンテギュが付されている。)及び「ロレアル」の文字(以下、両者をまとめて「使用商標」という。)が使用されていること(甲12〜甲14、甲33、他)などが認められる。 また、申立人の使用商標を使用した商品(化粧品等)(以下「申立人商品」という。)は、2017年から、我が国の雑誌、ウェブサイト、SNSなどで相当程度紹介、宣伝広告されたことがうかがえる(甲8、甲10、甲11、甲18、甲19)。 しかしながら、申立人商品の我が国における売上高、シェアなど販売実績を示す主張はなく、その証左は見いだせない。 イ 上記アからすれば、申立人商品は、我が国において1963年(昭和38年)から継続して販売され、2017年(平成29年)以降、雑誌やウェブサイトで相当程度紹介、宣伝広告されていることがうかがえることから、本件商標の登録出願の時及び登録査定時において、需要者の間にある程度知られているといえる。 しかしながら、申立人商品の販売実績、特に近年における販売実績を示す証左は見いだせないから、申立人商品及びそれに使用されている使用商標は、本件商標の登録出願の時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品として及び同商品を表示するものとして、いずれも需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。 なお、申立人の2017年、2020年及び2021年の全世界における売上は上記アのとおり認めることができるが、かかる金額は傘下のブランドの商品を含むものであって、申立人商品のみの売上とは認められない。 ウ また、引用商標が、それらの指定商品に使用されている事実は確認できないから、引用商標はいずれも本件商標の登録出願の時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。 したがって、引用商標及び使用商標は、いずれも本件商標の登録出願の時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。 (2)商標法第4条第1項第11号について ア 本件商標 本件商標は、上記1のとおり「NOREAL」の文字を標準文字で表してなるものであり、該文字に相応し「ノーリアル」及び「ノレアル」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものと判断するのが相当である。 イ 引用商標 引用商標1及び2は、上記2(1)及び(2)のとおり、いずれも「L’OREAL」の欧文字と「ロレアル」の片仮名を2段に横書きしてなるものであり、該文字に相応し「ロレアル」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものと判断するのが相当である。 引用商標3は、上記2(3)のとおり「L’OREAL」の欧文字からなるものであり、該文字に相応し「ロレアル」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものと判断するのが相当である。 引用商標4は、別掲のとおり、「L’OREAL」(異議決定注:「E」の文字にはアクサンテギュが付されている。)の欧文字を大きく表し、その下段に「PROFESSIONNEL」の欧文字を小さく表し、両文字の左に「PARIS」の欧文字を白抜きした太い縦線と、さらにその左に細い縦線を配してなるものであり、その構成文字に相応した「パリロレアルプロフェッシオネル」「ロレアルプロフェッシオネル」「ロレアル」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものと判断するのが相当である。 ウ 本件商標と引用商標の類否 本件商標と引用商標の類否を検討すると、外観においては、まず、本件商標の構成文字「NOREAL」と引用商標3の構成文字「L’OREAL」の比較において、両者は文字商標における外観の識別上重要な要素である語頭において「N」と「L’」との差異を有し、この差異が比較的少ない文字構成からなる両商標の外観全体の視覚的印象に与える影響は小さいものとはいえず、相紛れるおそれのないものとみるのが相当である。 また、本件商標と引用商標1、2及び4とは、両者の上記のとおりの外観は構成態様が明らかに異なり、相紛れるおそれのないものである。 次に、称呼についてみると、まず、本件商標から生じる「ノレアル」の称呼と引用商標から生じる「ロレアル」の称呼を比較すると、両者は称呼の識別上重要な要素である語頭において「ノ」と「ロ」の音の差異を有し、その差異が共に4音という短い音構成からなる両称呼全体の語調語感に及ぼす影響は小さくなく、両者をそれぞれ一連に称呼しても、かれこれ聞き誤るおそれのないものと判断するのが相当である。 また、本件商標から生じる「ノレアル」の称呼と引用商標4から生じる「パリロレアルプロフェッシオネル」「ロレアルプロフェッシオネル」の称呼、及び、本件商標から生じる「ノーリアル」の称呼と引用商標から生じる上記各称呼は、両者の構成音数、語調語感が明らかに異なり、いずれも相紛れるおそれのないものである。 さらに、観念においては、本件商標と引用商標はいずれも特定の観念を生じないものであるから比較することができない。 そうすると、本件商標と引用商標は、外観、称呼において相紛れるおそれがなく、観念において比較できないものであるから、両者の外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標というべきものである。 その他、本件商標と引用商標が類似するというべき事情は見いだせない。 エ 小括 以上のとおり、本件商標と引用商標は非類似の商標であるから、両商標の指定商品が同一又は類似するとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものといえない。 (3)商標法第4条第1項第15号について 上記(1)のとおり引用商標は、申立人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認められないものであり、上記(2)のとおり本件商標は、引用商標と相紛れるおそれのない非類似の商標であって、両者は別異の商標というべきものであるから、本件商標の指定商品と申立人商品との関連性の程度、需要者の共通性などを考慮しても、本件商標は、商標権者がこれをその指定商品について使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、その商品が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。 その他、使用商標との関係を含め、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。 したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当するものといえない。 (4)むすび 以上のとおりであるから、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号のいずれにも違反してされたものとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきである。 よって、結論のとおり決定する。 |
別掲 |
別掲(引用商標4) (この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。 |
異議決定日 | 2023-04-06 |
出願番号 | 2021068086 |
審決分類 |
T
1
651・
261-
Y
(W03)
|
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
大森 友子 |
特許庁審判官 |
板谷 玲子 須田 亮一 |
登録日 | 2022-03-01 |
登録番号 | 6520304 |
権利者 | 中野 翔太 |
商標の称呼 | ノーリアル |
代理人 | 池田 万美 |
代理人 | 田中 克郎 |
代理人 | 宮川 美津子 |
代理人 | 廣中 健 |