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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W1828
管理番号 1395497 
総通号数 15 
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2023-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-03-25 
確定日 2023-02-03 
異議申立件数
事件の表示 登録第6500598号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6500598号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第6500598号商標(以下「本件商標」という。)は、「ミニらいとモルック」の文字を標準文字で表してなり、令和3年11月5日に登録出願、第18類「ゲーム用具を収納できる汎用性のあるバッグ,スポーツバッグ」及び第28類「ゲーム用具,ゲーム用具専用バッグ,運動用具,運動用具専用バッグ」を指定商品として、同4年1月12日に登録査定、同月17日に設定登録されたものである。

2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が登録異議の申立ての理由において引用する商標は、以下の4件の商標(以下、これらをまとめて「引用商標」という場合がある。)であり、引用商標2及び3は審査係属中で、その他の引用商標は、現に有効に存続している。
(1)国際登録第1318995号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲1のとおり、「MOLKKY」(「O」の文字には、ウムラウトが付されている。以下同じ。)の欧文字を横書きしてなり、2019年(令和元年)8月20日に国際商標登録出願(事後指定)、第28類に属する国際商標に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、令和2年11月13日に設定登録されものである。
(2)国際登録第1621350号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲2のとおり、「MOLKKY」(「O」の文字には、ウムラウトが付されている。以下同じ。)の欧文字を横書きしてなり、2021年(令和3年)2月23日に欧州連合知的財産庁においてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、第3類、第5類、第8類から第11類、第14類、第16類、第18類、第20類から第22類、第24類、第25類、第27類から第30類、第32類、第35類、第41類及び第43類に属する日本国を指定する国際登録において指定された商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同月24日に国際商標登録出願されたものである。
(3)商願2021−53125号商標(以下「引用商標3」という。)は、「モルック」の文字を標準文字で表してなり、第28類及び第41類に属する願書記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、令和3年月4月28日に登録出願されたものである。
(4)登録第6519171号商標(以下「引用商標4」という。)は、別掲3のとおりの構成からなり、令和3年8月31日に立体商標として登録出願、第28類及び第41類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同4年2月25日に設定登録されたものである。

3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号及び同項第15号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきであると申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証から甲第41号証(以下「甲○」と記す。)を提出した。
(1)「Molkky(モルック)」(「o」にはウムラウトが付されている。以下同じ。)の語が識別力を有することについて
ア 申立人について
申立人は、フィンランドを拠点とする会社で、その名称のとおり、戦術的な娯楽ゲームのメーカーとして知られる。申立人商品は世界の70カ国以上に輸出されており、主要商品は、ボードゲームや屋外ゲーム、そして子供向けおもちゃ等である。その中でも、「MOLKKY(モルック)」という名の投擲ゲームは、非常に人気の高い商品の一つである(甲7)。
イ 申立人商品「MOLKKY(モルック)」ゲームについて
申立人商品である投擲ゲーム「MOLKKY(モルック)」は、プレーヤーが木の棒を投げて、木製のピンを倒そうとするゲームである。標的のピン(全部で12本)は、最初は投擲場所から3〜4メートル離れた位置に規則どおりに寄せ集めて立てられており、倒したピンの本数やピンに記されている数字によって獲得する得点が決まる。毎投擲後、ピンは倒れて移動した位置で再び立てられる。最初に点数が50点ちょうどになったプレーヤーが勝者となる。50点を超えてしまうと、点数は25点に戻る。3回連続で標的のピンに一つも当たらなかった場合、失格となる(甲8)。
ウ 「MOLKKY(モルック)」ゲームの歴史
元々「MOLKKY(モルック)」は、1996年に「Lahden Paikka」(前身は「Tuoterengas Oy」社)という名のフィンランドの会社が考案した投擲ゲームである。フィンランドのカレリア地方にルーツを持つ「kyykka(キイッカ)」と呼ばれる投擲ゲームがベースとなっているが、巨大で重いパット程の大きさの棒を投擲する必要がある「kyykka(キイッカ)」ほどプレーするのにフィジカルの要素が必要とされず(他にもプレーフィールドの広さやルール等その他様々な点で、「MOLKKY(モルック)」と「kyykka(キイッカ)」は異なる。)、年齢や身体能力に関係なくプレーできるため、あらゆる人が楽しめるゲームである(甲9〜甲11)。
「MOLKKY(モルック)」ゲームの発売当初は、申立人は、「Lahden Paikka」社の下で、販売業者としてゲームの国内外の販売を担っていたが、2016年、申立人は、同社から「MOLKKY(モルック)」の製造販売に係るあらゆる権利を譲り受けた。そして、その中には「MOLKKY(モルック)」に係る商標権も含まれていた。その後、現在に至るまで継続して申立人が「MOLKKY(モルック)」ゲームの製造販売を行っている(甲9〜甲11)。
エ 「MOLKKY(モルック)」という語について
「MOLKKY(モルック)」というゲーム名の由来には諸説あるが、一つは、創作者である「Lahden Paikka」社が作った完全な造語という説だ(甲10〜甲12)。「molkky」の語は、一般のフィン語の辞書には採録されていないが、フィンランドのカレリア地方の方言、カレリア語の辞書には、「molkky」の語が、「尻」を意味する単語として採録されている(甲13)。
このように、「MOLKKY(モルック)」という語は、フィンランドにおいて、伝統的な投擲ゲームに使用されていた語ではなく、また、このようなゲームを指称する普通名称でもない。フィンランドの伝統的な投擲ゲームは、「kyykka(キイッカ)」と呼ばれている。「MOLKKY(モルック)」という語は、ゲームの考案者による完全な造語又はカレリア地方の方言で「お尻」を意味する語からとったものであり、いずれにしても指定商品との関係においては、強い識別力を有する語である。
なお、「モルック」の片仮名が、フィン語の「MOLKKY」に対応する語であることは、「一般社団法人 日本モルック協会」のウェブサイトにおいて、「モルック」の語が使用されていることからも明らかである(甲14)。
オ 申立人の所有する商標登録・登録出願
申立人は、商標「MOLKKY」及び商標「モルック」、そして「MOLKKY」の文字を顕著に目立つ態様で表示した「モルック」ゲームの立体商標について、本件商標の指定商品と同一又は類似の商品を指定した商標登録及び登録出願を所有している。
さらに、申立人は、我が国以外にも、世界各国において「MOLKKY」に係る商標登録、登録出願を所有している(甲15)。
カ 申立人による「MOLKKY(モルック)」公式サイト及び商品
申立人は、「MOLKKY(モルック)」に特化した専用公式サイトを運営しており、当該ウェブサイトは、英語を始め15か国の言語で閲覧が可能である。当該ウェブサイトにおいては、申立人商品である「MOLKKY(モルック)」ゲームについて、YouTubeを使った商品広告や商品案内、そして、遊び方やルールについてのプレーガイド等が用意されているほか、ウェブサイトトップページの一番下には、毎年モルック世界大会を主催している国際モルック連盟や、日本モルック協会など世界各国のモルック協会へのリンクが用意されている(甲16)。
さらに、申立人のウェブサイト上には、オンラインショッピングサイトも用意されており、様々なタイプの「MOLKKY(モルック)」ゲーム及びそれらの付属品が販売されている。これらの商品及びその包装には、「MOLKKY」の語が、非常に顕著に目立つ態様で表示されており、申立人商品の出所識別標識として機能していることが分かる(甲17、甲18)。
キ 申立人商品の販売個数及び輸出個数
現在、申立人の「MOLKKY(モルック)」ゲームは、フィンランド、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、英国、フランス、オランダ、ポーランド、米国、オーストラリア、ニュージーランド、日本、韓国、べトナム、シンガポール、ラテン・アメリカ、南アフリカ、チェコ共和国、スロバキア、エストニア、ラトビア、リトアニア、ドイツ、ベルギー、カナダ、スイス、香港、EU域内の免税店の国及び地域で販売されている。
2018年から2022年における、申立人の「MOLKKY(モルック)」ゲーム(付属品を含む。)の各国における販売国数及び輸出個数も示す。申立人の使用する商標「MOLKKY」(以下「申立人商標」という。)は、商品に直接及びその包装に、非常に顕著で目立つ態様で表示しており、このような申立人商品が、世界各国において相当数輸入、販売され、相当数の一般需要者が目にするようになった。
ク 展示会や見本市
申立人は、申立人商品「MOLKKY(モルック)」を、長年にわたって、世界各地の展示会や見本市に出展し続けており、その発展、普及に努めてきた。いずれの展示会、見本市、イベントにおいても、申立人商標「MOLKKY」が非常に顕著で目立つ態様で表示されている(甲21〜甲27)。
ケ モルック連盟、協会
2016年に設立された国際モルック連盟は、2001年に初のモルック大会であるフィンランド・モルック大会を開催したフィンランド国際モルック連盟が前身である。現在、国際モルック連盟の傘下には、加盟団体として、各国毎にモルック連盟・協会が存在しており、各団体が「MOLKKY(モルック)」ゲームの普及・振興を目的として様々な活動を行っている(甲28〜甲30)。
我が国では、2011年に日本モルック協会が創設され、2014年に初の日本大会が開催された(甲31)。国際モルック連盟を始め、これらのモルック連盟・協会が主催する大会では、「MOLKKY(モルック)」が申立人の商標登録であることに鑑みて、申立人の製造・販売する「MOLKKY(モルック)」ゲームを唯―の正規品としており、正規品のみが大会で使用されている(甲31〜甲34)。
コ 「MOLKKY(モルック)」の語の独占適応性
以上のとおり、「MOLKKY(モルック)」の語は、「kyykka(キイッカ)」と呼ばれるフィンランドの伝統的な投擲ゲームをベースに、アレンジを加えて考案した新たなゲームに付けられた名称であり、名称の由来には諸説あるものの、一種の造語である。よって、フィン語における一般の既成語ではなく、また、フィンランドの伝統的な投擲ゲームの名称でもない。「MOLKKY」が現在は申立人の登録商標であることは国際モルック連盟を始め、世界中のモルック協会、連盟及びその公認団体等に広く認識されており、申立人の製造、販売する商品及びその包装には、非常に顕著で目立つ態様で「MOLKKY」の語が表示されている。また、「モルック」の片仮名が「MOLKKY」に対応する語であることも、日本モルック協会のウェブサイト等から明らかである。
以上を踏まえると、「MOLKKY」及び「モルック」の語が、申立人商品の出所識別標識として機能していることは明らかであり、申立人が自己の商標として「MOLKKY」及び「モルック」の語を登録し、独占することについて十分に理由がある。逆に、申立人以外の第三者が「MOLKKY」や「モルック」という商標を付してそのゲームに類似のゲームを販売した場合、それに接した需要者は、あたかもその商品が申立人が販売したものであると誤認するおそれがある。現に、このような模倣品が市場に出回ることもあり(甲36)、申立人はその都度、模倣品の製造、販売業者に対して、商標権侵害を根拠に警告書を送付する等して模倣品の市場からの排除に努めている。
かかる事情に鑑みると、申立人の承諾を得ていない第三者が「MOLKKY」や「モルック」の語並びにこれらに類似する語を使用できないように、申立人が「MOKLLY」や「モルック」の語を独占する必要がある、つまり、独占適応性がある。
サ 小括
以上のとおり、「モルック(MOLKKY)」の語は、ゲームの発祥の地であるフィンランドにおいて、伝統的な投擲ゲームの普通名称などではなく、一種の造語又は指定商品との関係において強い識別力を有する語であり、申立人商品の出所識別標識として非常に顕著で目立つ態様で使用されており、また、現に識別標識としての機能を十分に果たしており、申立人の出所を表示するものとして、国際モルック連盟や各国モルック協会・連盟その他公認団体を始め広く一般に認識され、申立人の提供に係る「ゲーム」の名称として広く知られており、さらには、申立人がその使用を独占すべき正当な理由があり、独占適応性をも有する。
したがって、本件商標に係る指定商品との関係において、強い識別力を有する。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標について
本件商標は、「小型の」を意味する英単語の形容詞「mini」を片仮名で表記した「ミニ」と、「軽い」を意味する英単語の形容詞「light」を平仮名で表記した「らいと」と、「モルック」の文字を標準文字で横一列に表してなるものである(甲37)。
本件商標は、その構成中の「モルック」の文字は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る「ゲーム」について使用する商標として我が国のみならず世界中で広く知られているものである。一方で、本件商標の構成中の「ミニ」(mini)と「らいと」(light)は、二つ合わせて「小型で軽い」程の意味であり、本件商標に係る指定商品「ゲーム用具」や「バッグ」との関係でいえば、「小型で軽いゲーム用具」や「小型で軽いバッグ」といった表現が通常にあり得るものであることを考えれば、「ミニ」と「らいと」は、商品の品質等を単に普通に用いられる方法で表示するものにすぎない。つまり、本件商標は、「モルック」の部分が取引者、需要者に対し出所識別標識として強く支配的な印象を与える一方で、「ミニ」と「らいと」の部分からは出所識別標識としての称呼、観念は生じないので、商標の類否においては要部抽出が許容される。
そうすると、本件商標は、「ミニ」と「らいと」の文字が捨象されて、「モルック」の文字部分が着目されるので、「モルック」の文字部分に相応して「モルック」との称呼を生じ、申立人が申立人商品に使用する投擲ゲームブランドとしての「モルック」の観念を生じる。
イ 引用商標について
引用商標1及び2は、「MOLKKY」の構成文字に相応して「モルック」との称呼が生じ、申立人が申立人商品に使用する投擲ゲームブランドとしての「モルック」の観念を生じる。
引用商標3は、「モルック」の構成文字に相応して「モルック」との称呼が生じ、申立人が申立人商品に使用する投擲ゲームブランドとしての「モルック」の観念を生じる。
引用商標4は、構成中の文字部分「MOLKKY」に相応して「モルック」との称呼が生じ、申立人商品そのものを示す立体商標であるので、申立人が申立人商品に使用する投擲ゲームブランドとしての「モルック」の観念を生じる。
ウ 本件商標と引用商標の類否について
本件商標の要部「モルック」と「MOLKKY」の文字からなる又は含む引用商標1、2及び4は、外観において相違する。本件商標と「モルック」の文字からなる引用商標3は、全体の外観においては相違するものの、本件商標の要部「モルック」と「モルック」の文字からなる引用商標3とは、外観において近似する。
そして、本件商標と引用商標1から4は、いずれも「モルック」の称呼を共通にするから、両者は称呼において相紛れるものである。
さらに、本件商標と引用商標1から4は、いずれも申立人が申立人商品に使用する投擲ゲームブランドとしての「モルック」の観念を共通にするので、両者は観念において相紛れるものである。
そうすると、本件商標と引用商標1、2及び4とは、外観において相違するものの、称呼及び観念において相紛らわしいので、類似の商標というべきである。また、本件商標と引用商標3とは、外観において近似し、称呼及び観念においても相紛らわしいので、類似の商標である。
エ 取引の実情について
本件商標の指定商品に係る「ゲーム用具」や「バッグ」の分野においては、携行性を高めるため、あるいは、取り扱いやすさを向上するため等の目的で、商品を小型化、軽量化することは、頻繁に行われていることである。現に、申立人は、旅行時に携行するために通常のサイズよりも一回り小型にして軽量化した「MINI MOLKKY」を販売している(甲38)。このように、指定商品の分野における取引の実情及び具体的な取引状況を鑑みれば、本件商標の構成文字中、「ミニ(mini)」及び「らいと(light)」の文字が捨象されることが妥当である。
オ 指定商品の類否について
本件商標の指定商品は、引用商標の指定商品と、同一又は類似の商品である。
カ 小括
以上のとおり、本件商標は、引用商標1から4に類似する商標であり、その指定商品と同一又は類似の商品に使用するものだから、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)商標法第4条第1頂第15号該当性について
ア 「MOLKKY(モルック)」商標の周知性について
(ア)申立人商品の販売について
「MOLKKY(モルック)」ゲームは、1996年にフィンランドの会社が考案して販売を開始した後、2016年からは同社からゲームの製造販売に係るあらゆる権利を譲り受けた申立人が継続して販売するものである。申立人商品は、我が国を始め世界各国で販売されており、2018年から2022年の間における販売個数及び輸出個数によれば、申立人商品を相当数の取引者、需要者が知るところになった。
申立人商品には、「MOLKKY(モルック)」の文字が非常に顕著で目立つ態様で表示してあり、「MOLKKY(モルック)」の文字が、申立人商品の出所を表示するものとして用いられており、これらに接した取引者、需要者もそのように認識する。
(イ)展示会や見本市における申立人商品の出展について
申立人は、申立人商品「MOLKKY(モルック)」を、長年にわたって、世界各地の展示会や見本市に出展し続けており、その発展、普及に努めてきた。いずれの展示会、見本市、イベントにおいても、申立人商標「MOLKKY」が非常に目立つ態様で表示されている。
(ウ)モルック大会における申立人商品の使用について
国際モルック連盟は、申立人の提供する「MOLKKY(モルック)」ゲームの普及、振興を目的として設立された公式団体であるが、その傘下には、各国のモルック連盟、協会が加盟団体として参加している。これら団体の数は、国際モルック連盟のデータベースに登録されているものだけでも世界で合計400団体以上にのぼり、各団体が各国において「MOLKKY」ゲームの普及、振興のために様々な活動を行っている。我が国では、2011年に「日本モルック協会」が設立され、様々な普及活動を行ってきた(甲39)。その内容は、全国各地でのモルック体験会や研修会の実施、テレビ番組等メディアへの協会スタッフの出演、モルック大会の開催など、多岐にわたり、その回数も相当数に上る。また、日本モルック協会ではなく、他にもそれが公認した公認団体が全国に存在しており(甲35)、それぞれが独自の普及活動を行っている。
国際モルック連盟を頂点とするこれらモルック連盟、協会及び公認団体では、「MOLKKY(モルック)」が申立人の商標登録であることに鑑みて、申立人の製造、販売するゲームを唯一の正規品としており、これら団体が主催する大会では正規品のみが使用されている。したがって、世界各国そして我が国の全国各地で行われている「モルック」大会は、「MOLKKY」が申立人の提供に係るゲームであることを公式かつ明確にうたって行われているものであり、また、全国各地で行われている体験会や研修会、テレビ番組等のメディア出演においても同様である。
そして、我が国では、「MOLKKY」の文字に代替するものとして、「モルック」の片仮名が、申立人商品を表示するものとして、日本モルック協会を始めとして広く使用されているので、「MOLKKY」の文字とともに、「モルック」の文字も申立人商品を表示するものとして広く知られている。
(エ)以上より、「モルック(MOLKKY)」の商標は、本件商標の登録出願時までには、申立人の提供に係る「ゲーム」を表示するものとして、我が国における取引者、需要者の間に広く認識され、その周知性は、本件商標の登録査定時まで継続していた。
イ 本件商標と申立人商標との類似性について
本件商標は、構成中、「ミニ(mini)」と「らいと(light)」の文字が捨象されて、「モルック」の文字部分のみが要部として抽出されるので、「モルック」の文字部分に相応して「モルック」との称呼を生じ、申立人が申立人商品に使用する投擲ゲームブランドとしての「モルック」の観念を生じる。
他方、申立人商標「モルック」からは、その構成文字に相応して「モルック」との称呼が生じ、申立人が申立人商品に使用する投擲ゲームブランドとしての「モルック」の観念を生じる。
本件商標と申立人商標の類否についてみると、全体の外観においては相違するものの、本件商標の要部「モルック」と「モルック」の文字からなる申立人商標とは、「モルック」の文字を共通にするので、外観において近似するものである。また、称呼及び観念においては共通し、相紛れるものである。よって、申立人の造語からなる、又は商品との関係において強い識別力を有する語からなる申立人商標は、本件商標とは、類似性の程度が非常に高い。
ウ 商品間の関連性及び商品の需要者の共通性について
申立人商品である投擲ゲームは、プレーヤーが木の棒を投げて、12本の木製のピンを倒そうとするゲームであるところ、申立人商品は、本件商標の指定商品に該当する。また、申立人は、申立人ゲームを収納して持ち運ぶためのバッグも販売しており(甲40)、これらバッグは、本件商標の指定商品に該当する。
さらに、需要者についてみると、上記のとおり、申立人商品は本件商標の指定商品に該当するから、申立人商品の需要者と本件商標の指定商品の需要者とは重複するものであり、需要者の共通性は非常に高い。
エ 取引の実情について
申立人は、旅行の際や出かける際に気軽に携行し出先で遊ぶことができるように、オリジナルの申立人商品のサイズよりも一回り小型にして軽量化を図った「MOLKKY」ゲームを販売しており、これは「MINI MOLKKY」と呼ばれている(甲38)。他方で、本件商標権者は、2021年に、クラウドファディングサイトにおいて、「いつでもどこでもだれでもできる!!オリジナル『ミニらいとモルック』」と銘打った購入型クラウドファンディングのプロジェクトを立ち上げ、商品の紹介で、輸入正規品(申立人商品)に比べて、より軽量化、小型化されていることを特徴としてうたっている。
このように、申立人商品と本件商標に係る商品とは、同じ特徴を商品の売りとする場合があり、その特徴は、本件商標の構成文字である「ミニ(mini)」と「らいと(light)」に象徴される。
オ 小括
以上から、申立人の造語からなる、又は商品との関係において強い識別力を有する語からなる商標であり、申立人商品の出所を表示するものとして広く知られている申立人商標「モルック」と、本件商標とは類似性の程度が非常に高いもので、本件商標に係る指定商品と、申立人商品との間の関連性は非常に高く、それらの需要者の共通性も非常に高く、取引の実情において、申立人は、本件商標の構成部分である「ミニ(mini)」と「らいと(light)」が意味する「小型で軽い」という特徴を有する商品を実際に販売している一方で、本件商標権者も、同様に小型で軽いことを特徴とする商品を販売しており、本件商標の構成文字(「ミニ(mini)」と「らいと(light)」)によって想起されるイメージを共通にする商品が、両当事者から販売されているという状況が生じている。
そうすると、本件商標は、これをその指定商品について使用すると、取引者、需要者において該商品が申立人又はこれと何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生じるおそれのある商標である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(4)商標法第4条第1頂第7号該当性について
ア 本件商標の出願の経緯について
申立人は、2021年に、本件商標の出願人が本件商標を付した申立人商品に酷似する投擲ゲーム等の販売を企図していることを知り、2021年10月4日付けで、本件商標の出願人に対し、申立人の所有する引用商標1から4の存在を根拠に、本件商標の使用の停止、本件商標に係る商品の製造、販売、広告行為等の停止を求めて書簡を送った。
本件商標の登録出願は、その直後の2021年11月5日になされたものであり、かかる状況から、本件商標権者は、申立人が本件商標の構成文字全体と同一の文字構成の商標については、商標登録、出願を所有していないことに乗じて、剽窃的に本件商標の出願を行ったものと推測される。上記クラウドファンディングのプロジェクトのウェブページに、「輸入正規品モルックでは〜」と記載されているように(甲41)、本件商標の出願人は、申立人商品が、申立人所有の商標登録の下で合法的に正規に販売される商品であることを認識した上で、本件商標を自らの製造販売する商品に付したと考えられる。このような行為は、社会公共の利益に反し、社会の一般道徳観念に反するものである。
イ 小括
上記のとおり、本件商標の出願に至るまでの経緯は、著しく社会的妥当性を欠くものであり、本件商標の登録を認めることは商標法の予定する法の秩序に反するものとして到底容認し得ないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。

4 当審の判断
(1)引用商標の周知性について
ア 申立人提出の証拠及び同人の主張によれば、以下の事実が認められる。
(ア)「モルック」は、フィンランドの伝統的なゲームを元に開発されたスポーツであって、モルック(木の棒)を投げて倒れたスキットル(木製のピン)の内容に応じた得点を競うものである(甲8)。
(イ)申立人は、我が国においても販売代理店などを通じて、上記スポーツに使用する用具(モルック棒やスキットルなど)を販売しており、引用商標3の構成文字と共通する「モルック」の文字(以下「申立人使用商標」という。)を表示しつつ、申立人の「ゲーム用具」が販売されている(甲40)。
なお、国際モルック連盟の大会規則によれば、大会では申立人が製作した公式のモルックセットを使用しなければならない旨の規定がある(甲32)。
(ウ)申立人主張によれば、申立人商品の我が国への輸出個数は、5年間(2018年〜2022年)で約8万5千個とされるが、各年の内訳は不明で、本件商標の登録出願時前における販売実績及びその多寡を裏付ける証拠は提出されていない。
(エ)申立人は、「東京おもちゃショー2016」(甲27)、「東京インターナショナルギフトショー(2021年)」(甲23)に出展し、申立人商品を出品しているが、申立人使用商標の具体的な宣伝手法は不明である。
(オ)「日本モルック協会」がモルックの普及及び指導として、モルック体験会などを2020年以降に複数回実施し、テレビ番組等メディアに協会スタッフが出演、協力している(甲39)。しかしながら、これらが「モルック」というスポーツ競技の知名度向上ではなく、申立人使用商標の出所識別標識としての知名度の向上に具体的にどのようにつながるのか、具体的な周知宣伝方法は不明である。
イ 上記認定事実によれば、申立人使用商標「モルック」を名称とするスポーツ競技が存在し、その競技の公式大会でも使用される申立人のゲーム用具が、遅くとも2018年以降から一定程度の数量が我が国に輸入、販売されている実情があることは把握できるものの、本件商標の登録出願時以前の正確な販売期間、販売数量、販売規模などが把握できず、ゲーム用具の取引市場に占める市場占有率なども不明である。
また、申立人商品の広告宣伝として、商品展示会(2016年、2021年)に出展しているとしても、その頻度は多くはないばかりか、申立人使用商標の具体的な宣伝手法は不明であって、その他に、申立人使用商標の我が国の需要者の間における出所識別標識としての知名度の向上につながるような具体的な広告宣伝活動及びその実績、規模は、提出証拠からは明らかではない。
なお、「日本モルック協会」によるモルック体験会やメディア出演などの普及活動が、スポーツ競技としての知名度の向上に寄与することがあり得るとしても、申立人による自己の商品の広告宣伝活動でもないから、申立人使用商標に係る申立人の出所識別標識としての知名度の向上に寄与するものとは直ちに評価し難い。
そうすると、「モルック」と称するスポーツ競技の競技団体や大会が存在するとしても、その競技自体の知名度も高いとは考えにくいことに加えて、提出証拠からは、それと共通する文字からなる申立人使用商標が、我が国の一般需要者の間において、申立人に係る出所識別標識として広く認知されているものとは認めるに足りないから、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人使用商標及び引用商標が、申立人の業務に係る商品を表示する出所識別標識として、我が国の需要者の間に広く知られていると認めることはできない。
(2)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標について
本件商標は、「ミニらいとモルック」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字は、同じ大きさ及び書体で、間隔なく横一列にまとまりよく一体的に表されており、構成文字全体より生じる「ミニライトモルック」の称呼も冗長ではなく、一気一連に発音できる。
そして、本件商標の構成中「ミニ」の文字は「小型の。非常に小さい。」の意味を有する「mini」の英語、「らいと」の文字は「軽い」の意味を有する「light」の英語(甲37)にそれぞれ通じ、「モルック」の文字は一般的な辞書等に掲載された語ではないところ、構成文字全体として具体的な意味合いを想起させるものではない。
そうすると、本件商標は、その構成文字に相応して、「ミニライトモルック」の称呼を生じるが、特定の観念は生じない。
イ 引用商標について
(ア)引用商標1は、別掲1のとおり、引用商標2は、別掲2のとおり、いずれも「MOLKKY」の文字を横書きしてなるところ、その構成文字は一般的な辞書等に掲載された語ではない。
そうすると、引用商標1及び2は、その構成文字に相応して、「モルキー」の称呼が生じるが、特定の観念は生じない。
(イ)引用商標3は、「モルック」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字は、一般的な辞書等に掲載された語ではない。
そうすると、引用商標3は、その構成文字に相応して、「モルック」の称呼が生じるが、特定の観念は生じない。
(ウ)引用商標4は、別掲3のとおり、複数の木の棒が収納された木製の収納容器の立体的形状からなるもので、その容器の前面に引用商標1及び引用商標2とつづりが共通する「MOLKKY」の文字を表してなるところ、その構成文字は、一般的な辞書等に掲載された語ではない。
そうすると、引用商標4は、その構成文字に相応して、「モルキー」の称呼が生じるが、特定の観念は生じない。
ウ 本件商標と引用商標の比較
(ア)本件商標は、引用商標1、2及び4と比較すると、外観においては、文字種(片仮名と欧文字)を異にし、構成文字も明らかに相違するから、判別は容易である。また、称呼においては、構成音が明らかに異なる(「ミニライトモルック」と「モルキー」)から、聴別は容易である。さらに、観念においては、いずれも特定の観念は生じないから、比較できない。
そうすると、本件商標と上記引用商標は、観念において比較できないとしても、外観及び称呼において判別は容易だから、同一又は類似の商品について使用されるときでも、商品の出所について相紛れるおそれのない別異の商標であり、非類似の商標である。
(イ)本件商標は、引用商標3と比較すると、外観においては、いずれも「モルック」の構成文字を含むとしても、語頭の構成文字(ミニらいと)の有無により、構成文字全体としては異なる語となるから、判別は容易である。また、称呼においては、語尾の「モルック」の音を共通にするが、語頭の「ミニライト」の音の有無に差違があるから、全体の語調、語感は明らかに異なるものとなり、聴別は容易である。さらに、観念においては、いずれも特定の観念は生じないから、比較できない。
そうすると、本件商標と引用商標3は、観念において比較できないとしても、外観及び称呼において判別は容易だから、同一又は類似の商品について使用されるときでも、商品の出所について相紛れるおそれのない別異の商標であり、非類似の商標である。
エ 小括
以上のとおり、本件商標は、引用商標とは、同一又は類似する商標ではないから、その指定商品について比較するまでもなく、商標法第4条第1項第11号に該当しない(又は同法第8条第1項の規定に違反して登録されたものではない。)。
(3)商標法第4条第1項第15号について
申立人使用商標「モルック」は、一般的な辞書等に掲載された語ではなく、造語といえるが、前記(1)イのとおり、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の需要者の間に広く知られているものではない。
また、本件商標と申立人使用商標は、引用商標3との比較と同様に前記(2)ウ(イ)のとおり、外観、称呼及び観念を総合して比較しても、相紛れるおそれのない別異又は非類似の商標である。
そうすると、本件商標をその指定商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者が、申立人使用商標との具体的な関連性を連想又は想起することは考えにくく、また、当該商品が、申立人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について、混同を生じさせるおそれもない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第7号該当性について
申立人は、2021年10月4日付けで本件商標権者に対して、本件商標の使用の停止を求めて書簡を送った直後の同年11月5日に本件商標の登録出願をしたことや、本件商標権者の関連するウェブサイトの記述(甲41)等に基づき、本件商標の登録出願は、社会公共の利益に反し、社会の一般道徳観念に反する旨を主張する。
しかしながら、申立人使用商標及び引用商標は、上記(1)イのとおり、我が国の需要者の間に広く知られているものでもなく、上記(3)のとおり、本件商標とは相紛れるおそれのない別異又は非類似の商標であるから、引用商標や申立人使用商標の存在を知りながら本件商標が登録出願されていたとしても、本件商標の登録出願及びその経緯が、著しく社会的相当性を欠き、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ない場合に該当すると認めるに足りない。
その他、本件商標は、その構成自体がきょう激、卑わい、差別的又は他人に不快な印象を与えるような文字からなるものではない。
そうすると、本件商標は、その登録を維持することが商標法の予定する秩序に反し、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標とはいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
(5)むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号及び同項第15号のいずれにも違反してされたものとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。

別掲
別掲1(引用商標1)



別掲2(引用商標2)



別掲3(引用商標4。立体商標。色彩は原本を参照。)










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異議決定日 2023-01-23 
出願番号 2021138219 
審決分類 T 1 651・ 22- Y (W1828)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 豊田 純一
特許庁審判官 山田 啓之
阿曾 裕樹
登録日 2022-01-17 
登録番号 6500598 
権利者 株式会社ミリオンパワー
商標の称呼 ミニライトモルック、ライトモルック、モルック 
代理人 杉村 憲司 
代理人 杉村 光嗣 
代理人 長嶺 晴佳 
代理人 門田 尚也 
代理人 中山 健一 

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