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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W25
管理番号 1393377 
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2023-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-03-10 
確定日 2022-12-25 
異議申立件数
事件の表示 登録第6487455号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6487455号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第6487455号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、令和3年6月25日に登録出願、第25類「履物,被服,ガーター,靴下留め,ズボンつり,バンド,ベルト,仮装用衣服,運動用特殊靴,運動用特殊衣服」を指定商品として、同年11月8日に登録査定、同年12月16日に設定登録されたものである。

2 登録異議申立人が引用する商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する登録商標(以下、まとめていうときは「引用商標」という。)は次のとおりであり、いずれも現に有効に存続しているものである。
(1)登録第1400890号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の構成:別掲2のとおり
登録出願日:昭和50年6月10日
設定登録日:昭和54年12月27日
指定商品:第6類、第8類、第9類、第15類、第18類ないし第22類、第24類、第25類、第27類、第28類及び第31類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品(平成23年2月2日書換登録)
(2)登録第1412880号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の構成:別掲2のとおり
登録出願日:昭和50年6月10日
設定登録日:昭和55年3月28日
指定商品:第6類、第14類、第18類、第21類、第22類、第25類及び第26類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品(平成23年4月13日書換登録)
(3)登録第1663782号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の構成:別掲3のとおり
登録出願日:昭和55年4月4日
設定登録日:昭和59年2月23日
指定商品:第18類、第21類、第25類及び第26類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品(平成17年8月31日書換登録)
(4)登録第1679061号商標(以下「引用商標4」という。)
商標の構成:別掲3のとおり
登録出願日:昭和55年4月4日
設定登録日:昭和59年4月20日
指定商品:第9類、第20類、第22類、第25類、第27類及び第28類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品(平成17年8月31日書換登録)
(5)登録第4919435号商標(以下「引用商標5」という。)
商標の構成:別掲4のとおり
登録出願日:平成17年6月21日
設定登録日:平成18年1月6日
指定商品:第25類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
(6)国際登録第732710号商標(以下「引用商標6」という。)
商標の構成:別掲5のとおり
国際登録出願日:2000年(平成12年)3月18日(1999年(平成11年)10月5日にGermanyにおいてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張)
設定登録日:平成12年12月8日
指定商品:第9類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿記載のとおりの商品
(7)国際登録第1250838号商標(以下「引用商標7」という。)
商標の構成:別掲6のとおり
国際登録出願日:2014年(平成26年)11月12日
設定登録日:平成28年7月29日
指定商品:第18類及び第25類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿記載のとおりの商品

3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号及び同項第15号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第51号証(枝番号を含む。以下、枝番号のすべてを示すときは、枝番号を省略する。なお、甲第7号証は、甲第7号証の1と認める。)を提出した。
(1)申立人のスポーツシューズ等を表示する周知著名な引用商標
ア プーマ エスイー、及び、プーマジャパン
申立人であり、引用商標の商標権者であるドイツ法人Puma SE(以下「プーマ社」という。)は、スポーツシューズ、スポーツウェア、被服、バッグ等を世界的に製造販売している多国籍企業である(甲4〜甲7)。
我が国においては、1972年から、日本国内における代理店としてコサ・リーベルマン株式会社が、申立人の業務に係る商品のうち、靴、バッグ、アクセサリーについて事業を展開し、2003年5月1日に、申立人の日本法人であるプーマジャパンが同事業を承継した。そして、ウェアについては、1972年から国内のライセンシーであるヒットユニオン株式会社が製造・販売していたが、2006年1月に、日本において引用商標を付したアパレル関連商品を生産する、申立人の日本法人であるプーマ・アパレル・ジャパンが設立され、同社がヒットユニオン株式会社から営業権を譲り受けた。2010年に、プーマ・アパレル・ジャパンとプーマジャパンは合併し、現在のプーマジャパンとなった(甲4〜甲8)。
イ 引用商標の使用実績、周知著名性
申立人は、「PUmA」の文字及びピューマのシルエット図形に加え、1958年(昭和33年)より、引用商標の使用を開始した(甲7)。
引用商標は、幅の広い底辺から右上に向かって緩やかにカーブしつつ伸び上がり、徐々に細長くなっていく流線デザインを基調としており、これらの図形は「フォームストライプ」と称され、本件商標の登録出願前から申立人の取扱いに係るスポーツシューズをはじめとする各種商品に使用されてきた(甲7〜甲30)。
フォームストライプが最初に付された申立人のサッカーシューズは、1958年にスウェーデンで開催されたサッカー・ワールドカップにおいて、唯一のドイツ製サッカーシューズであった(甲7)。1960年代以降、ブラジルのペレ、アルゼンチンのマラドーナ、日本の三浦知良ら著名なサッカー選手、2000年(平成12年)以降には世界的に著名な陸上選手、ジャマイカのウサイン・ボルトなど、各国のサッカーや陸上のトップアスリートが引用商標(フォームストライプ)を付したスポーツシューズを着用し(甲7、甲26、甲28)、多くの需要者に支持されたことで、世界的なスポーツブランドとして不動の地位を確立した。
申立人のウェブサイトにおける自社の歴史を紹介するウェブページ(甲7の1)には、引用商標(フォームストライプ)を付したスポーツシューズが、当該商品を着用した選手や競技会とともに申立人企業の歴史の紹介と併せて掲載されている。
申立人のウェブページ「プーマ公式オンラインストア」(甲9、甲27の1)において、我が国の需要者向け各種商品や直営店(甲9の2)等の紹介がなされ、全国各地のスポーツショップやスポーツ用品売り場、靴屋だけでなく、ABC−MARTオンラインストア(甲27の2)、アマゾン(甲27の3)、アルペングループオンラインストア(甲27の4)、スーパースポーツXEBIO(甲27の5)、オンラインショップZOZOの通販などの媒体を通じて、需要者はフォームストライプが付されたスポーツシューズ、カジュアルシューズ等を購入することができる。
プーマ社公式オンラインショップ(甲27の1)には、フォームストライプが付されたサッカーシューズ、ランニングシューズ、フットサルシューズ、バスケットボールシューズ、カジュアルシューズ等が、800種類以上も掲載されている。
申立人は引用商標の使用開始時より、フォームストライプを付した商品の宣伝広告に長年にわたり注力している(甲7の2〜甲25)。また、著名なスポーツ選手や人気歌手、キャラクター、有名な企業や団体等とのコラボレーションによるシューズを数多く発表しており、これらの商品には引用商標(フォームストライプ)が使用されている(甲28)。
60年以上前にサッカーシューズに始まり(甲7の1)、その後、各種シューズにおいて引用商標を主に使用しているが(甲27)、引用商標を付した申立人の商品(商標ライセンス許諾による商品を含む)はこれにとどまらず、現在では、フォームストライプの特徴を残しつつ、向きや大きさ、流線デザインの描き方にバリエーションを持たせながら、様々な商品に使用されている(甲29)。
また、2018年4月に国内でも販売開始した厚底スニーカー「THUNDER(サンダー)」シリーズにおいて、フォームストライプは、幅の広い底辺の真ん中あたりから左上に折れ曲がった形状で描かれている(甲30)。
このように、引用商標(フォームストライプ)は、幅の広い底辺が常に左下に、左向きに描かれているわけではなく、下向き(90度回転)や右向き、反転したものや、底辺の真ん中あたりから折れ曲がったものもあり、いろいろな向き(角度)や大きさ、バリエーションにより表示された引用商標(フォームストライプ)をもって取引に供されており、とりわけ、履物類を取り扱う業界において、靴の側面は、各社の出所標識が頻繁に表示される重要なブランドスポットであるところ、様々な形状の素材(当て布)を伴って描かれた引用商標が多数出回っており(甲40〜甲45)、需要者はこれらいずれも引用商標と認識している。
そして、プーマジャパンの業務に係るスポーツ用品について、「スポーツ産業白書(2003年〜2018年版)」(甲5)によると、国内での売上高及び企業別順位は、スポーツ用品メーカー(スポーツ関連売上高10億円以上)として、「プーマジャパン(株)」が9位にランキングされ、該売上高は、約393.2億円(予測)である。2017年は9位、2016年は7位の順位をキープしており、該売上高は、2013年:431億2,100万円(6位)、2014年:425億2,300万円(7位)、2015年(見込):431億2,100万円(7位)、2016年(予測):約442億円と安定して推移しており、国内売上高は毎年ほぼ400億円を超えている。
また、プーマジャパンの業務に係るスポーツシューズについて、「スポーツシューズビジネス(2003年〜2018年版)」(甲4)によると、国内での出荷額、企業別順位、市場占有率は、2013年は、179億5,500万円、6位、5.9%、2014年は、177億8,000万円、6位、5.4%、2015年は、184億4,000万円、6位、5.2%であり、出荷額は毎年170億円を超え、5%を超える市場占有率を有している。
さらに、「スポーツアパレル市場動向調査(2015年〜2018年版)」(甲6)によると、スポーツアパレルのブランド別国内出荷金額ランキングでは、2012年は第4位、2013年から2017年は第5位であり、2018年は第8位と順位を若干落としているが、2018年出荷金額(見込)は、約231.6億円(市場占有率4.2%)と、前年(2017年は約214億円)より金額は増えている。
このように、申立人は、1958年から60年以上にわたり、引用商標(フォームストライプ)をプーマ社のブランドとしてスポーツシューズに使用し(甲7)、我が国においては、1970年代から販売してきたこと(甲7〜甲30)、かつ、引用商標を付してスポーツ分野でスポンサーとして協賛し、有名人等とのコラボレーションをした商品等を、少なくとも2009年には、ウェブサイトにおいて掲載しており(甲26〜甲28)、また、2013年ないし2017年における申立人の売上高も堅調に推移しており、「スポーツシューズメーカー別国内出荷金額」及び「スポーツアパレルのプランド別国内出荷金額ランキング」においても常に上位に位置していることから(甲4〜甲6)、本件商標の出願時及び登録時において、引用商標が、申立人の業務に係るスポーツシューズ、スポーツアパレル等(以下「申立人商品」という。)を表示する商標として、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていたものであることは、顕著、かつ、公知の事実といえる。
(2)商標法第4条第1項第11号について
ア 商標の同一又は類似
(ア)本件商標は、幅の広い底辺から右上に向かって緩やかにカーブしつつ伸び上がり、徐々に細長くなっていく特徴的な図形を基調とし、当該図形からやや右寄り上向きに突き出るように描かれた帯状の左程特徴のない図形を備えた構成からなる。
(イ)引用商標は、「フォームストライプ」と称され、幅の広い底辺から右上に向かって緩やかにカーブしつつ伸び上がり、徐々に細長くなっていく流線デザインを基調としている。
(ウ)本件商標と引用商標とを対比すると、幅の広い底辺から右上に向かって緩やかにカーブしつつ伸び上がり、徐々に細長くなっていく特徴的な図形を基調とする構成において共通しており、本件商標においては、当該図形からやや右寄り上向きに突き出るように描かれた帯状図形の有無に相違が見受けられるものの、周知著名な引用商標を特徴付ける流線デザインの基本的構成が一致しており、外観全体の印象が似通っているため、看者に共通した印象・記憶を与える。
構成図形の一部を異にするものであっても、他の構成要素を共通にし、共通の観念を連想、想起せしめる場合、当該差異は、僅かなものというべきであり、時と処を別にして観察するときは似通った印象を看者に与え、彼此相紛らわしいものといえる(甲39)。
現に、老若男女問わず広く一般世人を需要者とする本件商標の指定商品を取り扱う業界においては、靴の側面に補強や装飾等の目的で、様々な形状の素材が縫合され、それらがシューズの側面に描かれた出所標識と一部において重なったり、連なったり、同色で描かれるといった実情が存在する(甲40〜甲45)。
以上の取引の実情を踏まえ、両商標の全体的な構図をみると、いずれも、幅の広い底辺から対角線方向に向かって緩やかにカーブしつつ伸び上がり、徐々に細長くなっていく基本的構成において共通しており、外観上、引用商標と高い類似性が認められる。
また、両商標は、いずれからも特定の読み方及び意味合いが生じないから、称呼及び観念上、明確な差異が認められない。
さらに、本件商標の指定商品は、引用商標が長年使用されてきた申立人商品と同一、又は用途・目的・品質・販売場所等を同じくし、関連性の程度が高く、商標やブランドについて詳細な知識を持たず、商品の選択・購入に際して払う注意力が高いとはいえない一般消費者を需要者とする点でも共通するだけでなく、衣類や靴等では、商標をワンポイントマークとして小さく表示する場合も少なくなく、その場合、商標の微細な点まで表されず、需要者が商標の全体的な印象に圧倒され、些細な相違点に気づかないことも多いことを考慮すると(甲34〜甲36)、本件商標がワンポイントマークとして使用されたスポーツウェアが、周知著名な引用商標が数多く並ぶスポーツ用品店に陳列された場合、これを目にした通常の注意力を有する本件商標の指定に係る需要者であれば、その外観の相紛らわしさ、印象の酷似性により、両商標を誤認する可能性はより高まる。
そうすると、引用商標の周知著名性、流線デザインの特徴、本件商標の指定商品における取引の実情や需要者の注意力を総合的に勘案すると、やや右寄り上向きに突き出るように描かれた帯状図形の有無において相違点を有するとしても、その相違点が商標全体として看者の印象・記憶に影響を及ぼす程のものではなく、外観における共通点を凌駕するものではないことから、両商標は類似すると判断されてしかるべきである。
イ 商品の同一又は類似
本件商標の指定商品は、いずれも引用商標に係る指定商品と同一又は類似している。
ウ 小括
本件商標と引用商標とは、外観において、看者の印象・記憶に共通した印象を与えるだけでなく、その指定商品も同一又は類似する。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第15号について
ア 本件商標と引用商標との類似性の程度
上述したとおり、両商標の全体的な構図をみると、いずれも、幅の広い底辺から対角線方向に向かって緩やかにカーブしつつ伸び上がり、徐々に細長くなっていく基本的構成において、本件商標と引用商標とは共通するものであり、外観上、引用商標と高い類似性が認められる。
現に、引用商標と同様に、スポーツ用品業界における周知著名図形商標との誤認混同のおそれが争われた異議・審判事件において、たとえ、周知著名な図形商標の一部が改変されたものであっても、周知著名商標を特徴付ける基本的構成の軌を一にし、一部又は全体が与える印象において、看者に外観上共通した印象を与えるものであれば、両商標の類似性を認めている(甲48〜甲51)。
また、本件商標及び引用商標のいずれからも特定の読み方及び意味合いが生じないため、両商標は称呼及び観念上、明確な差異が認められない。そうすると、本件商標は、それに接する需要者をして、我が国で周知著名な引用商標の多くの部分をその構成中に含み、引用商標のデザインの一部を変更して表したものと認識、理解されるというべきであることから、高い類似性を有するものといえる。
イ 引用商標の周知著名性及び独創性の程度
引用商標は、本件商標の登録出願時には既に、申立人の業務に係るスポーツシューズ等を表示する商標として、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていたものであることは、顕著、かつ、公知の事実である(甲34、甲46)。
また、引用商標は、独創性が高いと認定されている(甲34)。
ウ 本件商標の指定商品と申立人商品との関連性
本件商標の指定商品のうち、「履物,被服,バンド,ベルト,運動用特殊靴,運動用特殊衣服」は、引用商標の周知著名性が需要者に広く認識されているスポーツシューズやスポーツウェア、スポーツ用品が含まれる、同一又は類似の商品といえる。また、その他の指定商品「ガーター,靴下留め,ズボンつり」もいずれも日常的に使用されるものであり、その需要者は、一般の消費者である。
そうすると、本件商標の指定商品と申立人の業務に係る商品等との関連性の程度は相当高いものと判断される。
エ 取引者及び需要者の共通性その他取引の実情
本件商標の指定商品には、日常的に利用される性質の商品が含まれ、スポーツ関連商品を含む本件商標が使用される商品の主たる需要者は、スポーツの愛好家を始めとして、広く一般の消費者を含むものということができる。 そして、このような一般の消費者には、必ずしも商標やブランドについて正確又は詳細な知識を持たない者も多数含まれているといえ、商品の購入に際し、メーカー名やハウスマークなどについて常に注意深く確認するとは限らず、小売店の店頭などで短時間のうちに購入商品を決定するということも少なくないと考えられることから、商品の選択・購入に際して払う注意力が高いとはいえない一般消費者を需要者とする点でも共通する(甲34〜甲36)。
さらに、衣類や靴等では、商標をワンポイントマークとして小さく表示する場合も少なくなく(甲34〜甲36)、その場合、ワンポイントマークは比較的小さいものであるから、そもそも、そのような態様で付された商標の構成は視認しにくい場合があるといえる。また、マーク自体に詳細な図柄を表現することは容易であるとはいえないから、スポーツシャツ等に刺繍やプリントなどを施すときは、商標の微細な点まで表されず、需要者が商標の全体的な印象に圧倒され、些細な相違点に気付かず、内側における差異が目立たなくなることが十分に考えられるのであって、その全体的な配置や印象が引用商標と比較的類似していることから、ワンポイントマークとして使用された場合などに、本件商標は、引用商標とより類似して認識されるとみるのが相当である。
混同を生ずるおそれ
上記の事情を総合すると、引用商標が、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、スポーツやアパレル関連の商品分野において、高い著名性を有していたことに照らせば、両商標の具体的構成に差異が存在するとしても、引用商標と基本的構成が共通し、そのため、外観の印象が近似する本件商標が申立人商品と同一又はこれと深く関連する本件商品に付して使用された場合、また、これをワンポイントマークとして使用された場合などには、一般消費者の注意力などをも考慮すると、これに接する取引者、需要者は、特徴的な流線デザインの外観構成に着目し、周知著名となっている引用商標を連想、想起して、当該商品が申立人又は申立人との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品であると誤信するおそれがあるものというべきである。
したがって、仮に、本件商標と引用商標とが非類似であるとしても、本件商標がその指定商品に使用された場合、これに接する取引者、需要者は、広く認識されて周知著名な引用商標を連想、想起し、当該商品が申立人、又は申立人と経済的、組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、誤認するおそれがあるものと判断されてしかるべきである。
カ 小括
以上からすると、本件商標は、全ての指定商品に使用された場合、これに接する取引者、需要者は、我が国で広く認識されている引用商標を想起、連想し、当該商品が申立人又は申立人と経済的、組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第7号について
上述したとおり、本件商標と引用商標とを対比してみると、周知著名な引用商標を特徴付ける流線デザインの基本的構成が一致しており、外観全体の印象が非常に似通っていることが分かる。
本件商標の権利者が世界的に知られたプーマ社及び60年以上もスポーツシューズ等に使用している引用商標のことを知らないはずはなく、周知著名な引用商標を巧みに改変し、引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力にフリーライドする、あるいは、引用商標の出所表示機能を希釈化するなどの目的で本件商標を採択、出願した可能性が否定できず、本件商標の採択、出願において、不正の目的がなかったと捉えることの方が、むしろ不自然といわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。

4 当審の判断
(1)引用商標の周知性
申立人の提出に係る証拠及び申立人の主張によれば、以下の事実が認められる。
ア 申立人は、スポーツシューズ、被服、バッグ等を世界的に製造販売している多国籍企業である。
イ 申立人は、1958年にサッカーシューズに引用商標を含む「フォームストライプ」と称する流線デザインを基調とする図形を導入し、各国のサッカーや陸上競技のトップアスリートが「フォームストライプ」を側面に付したスポーツシューズを着用した(甲7、甲26)。
我が国においては、1970年から、引用商標1ないし4又は7が付されているサッカーシューズを、「ヤスダスポーツシューズ」を始めとするPUMA日本総代理店を通じて輸入販売した(甲7の1〜4、甲8)。
ウ 引用商標は、本件商標の登録査定前までに申立人の取扱いに係るスポーツシューズの側面に付され使用されていた(甲7〜甲30)。
エ 引用商標を側面に付したスポーツシューズ及びスニーカー(以下「申立人商品」という。)は、以下(ア)ないし(オ)のとおり、スポーツ雑誌、業界新聞、インターネット上のウェブサイトといった多くのメディアにおいて、本件商標の登録出願前に広告宣伝又は紹介された。
(ア)申立人のウェブサイトにおいて、申立人商品が、当該商品を着用した選手や競技会とともに、申立人企業の歴史の紹介と併せて掲載された(甲7の1)。
(イ)申立人商品が、雑誌「サッカーマガジン」(甲7の2〜4)、新聞「シューズポスト」(甲7の5、6)、申立人の商品カタログ(甲8)等において広告宣伝又は紹介され、また、申立人の公式オンラインストア(甲27)で販売されている。
(ウ)申立人商品が「excite.ism」のウェブサイト(甲28の10)において紹介された。
(エ)申立人商品が、雑誌「SHOES MASTER」(甲11)において紹介された。
(オ)申立人商品が「Kohei’s BLOG サッカースパイクの情報ブログ」のウェブサイト(甲28の11)及び「PR TIMES」のウェブサイト(甲28の12)において紹介された。
また、申立人は、著名なスポーツ選手や人気歌手、キャラクター、有名な企業や団体等とのコラボレーションによるスポーツシューズ及びスニーカーを多数発表しており、これらの商品には、引用商標が使用されている(甲28の13〜17)。
オ 株式会社矢野経済研究所作成の「スポーツシューズビジネス 2018」によると、スポーツシューズについて、プーマジャパン株式会社(申立人の日本法人)の我が国での出荷金額、企業順位及び市場占有率は、2015年は、185億7,000万円、6位、5.1%、2016年は、161億6000万円、6位、4.1%、2017年は、153億6100万円、6位、3.8%、である(甲4の5)。
カ 上記アからオによれば、引用商標は、遅くとも1970年(昭和45年)から申立人商品に使用され、特にスポーツシューズは、各国のサッカーや陸上のトップアスリートに着用されるとともに、スポーツ雑誌、業界新聞、インターネット上のウェブサイトといった多くのメディアにおいて、広告宣伝され紹介されてきたものと認められる。
そして、申立人の日本法人の業務に係るスポーツシューズについて、我が国における2015年から2017年当時の出荷額及び市場占有率等をも考慮すれば、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係るスポーツシューズを表すものとして、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていたものと判断するのが相当である。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標は、別掲1のとおり、底辺を広くし、上に延びる斜め縦線は、途中から上方向及び方向に延びる2本の線に分かれて、右方に延びる線をやや長めに表した図形からなるものである。
他方、引用商標は、別掲2ないし6のとおり、右上の先端部分の形状、実線や点線の有無、曲線の角度等において異なる点があるものの、左下に配置されたやや広めの横線を底辺として右上方向に漸次細くなりながらカーブを描きつつ伸び上がる図形を基調とした、1本若しくはまとまった3本の曲線、1本の線状図形の内部を実線若しくは点線で境界を引いた曲線図形からなるものと看取されるとみるのが相当である。
イ 本件商標と引用商標の類否について
本件商標と引用商標とを比較すると、両者は、底辺を広くし、上に向かって延びる線からなるとしても、途中から2本の線に分かれた構成からなる本件商標と、1本若しくはまとまった3本の曲線からなる引用商標とは、構成が明らかに相違し、異なる印象を与えるものであって、外観において相紛れるおそれはないというべきであるから、本件商標が引用商標に類似する商標であるとみるべき理由は見いだせない。
その他、本件商標と引用商標とが類似する商標であるとする理由も、見いだせない。
そうすると、本件商標と引用商標とは、それらを時と処を異にして離隔的に観察した場合であっても、同一又は類似の商品に使用した際に出所の混同を生ずるおそれのない別異の商標というべきである。
したがって、本件商標は、引用商標とは類似する商標ではないから、その指定商品が引用商標の指定商品と同一又は類似のものを含むものであるとしても、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
上記(1)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の需要者、取引者の間において、申立人の業務に係るスポーツシューズを表示するものとして広く認識されていたものであるが、上記(2)のとおり、本件商標は、引用商標とは、外観が明らかに異なる別異の商標であって、類似性の程度は低いものであるから、本件商標からは、引用商標を想起、連想するとはいえない。
なお、申立人は、引用商標はいろいろな向き(角度)や大きさ、バリエーションをもって取引に供されている旨、また、本件商標は、引用商標の多くの部分をその構成中に含み、引用商標のデザインの一部を変更して表したものと需要者に認識、理解されるものである旨主張するが、たとえ取引の場において、引用商標が様々な向きや大きさで使用されているとしても、引用商標は、上記(2)のとおり、いずれも1本若しくはまとまった3本の曲線を描いた構成からなるものであって、本件商標のような、途中から2本の線に分かれた図形とは明らかに構成が異なるものであるから、本件商標をその指定商品に使用した場合に、引用商標を想起させ、出所の混同を生じさせるおそれがあるものとはいい難く、その主張は採用することができない。
そうすると、本件商標は、これをその指定商品に使用しても、その取引者、需要者が、当該商品が申立人の業務に係る商品であると誤信させるおそれがある商標とはいえず、当該商品が申立人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信させるおそれがあるものともいえず、申立人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれはないものというべきである。
その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情も見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標は、上記(2)のとおり、引用商標とは外観において類似するとはいえない。
また、本件商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるようなものでないこと明らかであり、さらに、社会の一般的道徳観念に反するなど、公序良俗に反するものというべき証左も見あたらない。
さらに、申立人が提出した証拠からは、本件商標権者が引用商標の名声及び顧客吸引力にフリーライドする、希釈化するなどの不正の目的をもって使用するものと認めるに足りる具体的事実は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
(5)むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号及び同項第15号に該当するとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲
別掲1(本件商標)


別掲2(引用商標1、2)


別掲3(引用商標3、4)


別掲4(引用商標5)


別掲5(引用商標6)


別掲6(引用商標7)



(この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。
異議決定日 2022-12-16 
出願番号 2021079556 
審決分類 T 1 651・ 22- Y (W25)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 小松 里美
特許庁審判官 鈴木 雅也
小林 裕子
登録日 2021-12-16 
登録番号 6487455 
権利者 有限会社デジト
商標の称呼 アアル 
代理人 三上 真毅 

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