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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W03182144
管理番号 1391162 
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2022-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-17 
確定日 2022-10-22 
異議申立件数
事件の表示 登録第6452048号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6452048号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第6452048号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、令和2年8月14日に登録出願、第3類「ネイルエナメル,ネイルエナメル用ベースコート,ネイルエナメル用トップコート,ネイルペイント用化粧品,ネイルケア用化粧品,ネイルシール,ネイルトリートメント用化粧品,ネイル甘皮用オイル及びローション,ネイルエナメル除去剤,ネイルアート用の付け爪,ネイル強化用化粧品」、第18類「携帯用ネイルケアセット入れ」、第21類「ネイルアート用ブラシ,ネイルボード」及び第44類「爪のカット・甘皮の処理・ネイルケア・ネイルアートを主とする手足の美容,人材派遣による爪のカット・甘皮の処理・ネイルケア・ネイルアートを主とする手足の美容,ネイルアート・ネイルサロンに関する情報の提供,エステサロン・ネイルサロン・美容院の紹介・取次ぎ」を指定商品及び指定役務として、同3年7月19日に登録査定され、同年10月6日に設定登録されたものである。

2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が登録異議の申立ての理由において引用する商標は、以下の登録商標(以下、これらの商標をまとめて「引用商標」という。)であり、いずれも現に有効に存続しているものである。
(1)登録第1793479号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の態様:ELLE
指定商品:第3類、第8類、第10類、第14類、第18類、第21類、第25類及び第26類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
登録出願日:昭和54年7月17日
設定登録日:昭和60年7月29日
(2)登録第4081605号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の態様:別掲2のとおり
指定役務:第42類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務
登録出願日:平成7年1月10日
設定登録日:平成9年11月14日
(3)登録第4297137号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の態様:別掲2のとおり
指定商品:第3類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
登録出願日:平成10年3月11日
設定登録日:平成11年7月23日
(4)登録第4428845号商標(以下「引用商標4」という。)
商標の態様:別掲2のとおり
指定商品:第3類及び第16類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
登録出願日:平成11年6月30日
設定登録日:平成12年10月27日
(5)登録第5051956号商標(以下「引用商標5」という。)
商標の態様:別掲2のとおり
指定商品:第4類、第8類、第9類及び第25類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
登録出願日:平成17年6月30日
設定登録日:平成19年6月1日
(6)登録第5395489号商標(以下「引用商標6」という。)
商標の態様:ELLE(標準文字)
指定商品:第24類、第26類及び第27類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
登録出願日:平成22年4月28日
設定登録日:平成23年3月4日
(7)登録第5443818号商標(以下「引用商標7」という。)
商標の態様:ELLE(標準文字)
指定商品及び指定役務:第9類、第16類、第35類、第38類及び第41類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務
登録出願日:平成20年11月7日
設定登録日:平成23年10月14日

3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当し、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきものであると申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証から甲第79号証(枝番号を含む。欠番あり。)を提出した。
(1)申立人及びその商標「ELLE(エル)」について
申立人は、フランス最大の複合企業体「Lagardere SCA(ラガルデール)」(7文字目の「e」にはアクサンテギュが付されている。)の傘下で、女性向けファッション雑誌「ELLE(エル)」(以下「ELLE(エル)」を単に「ELLE」ということがある。)を始め各種雑誌を発行し、同時にファッション関連商品及び化粧品・せっけん類など各種生活用品の製造販売や紹介を行う企業である(甲3)。しかして、「ELLE」は、1945(昭和20年)に、フランスの女性向けファッション雑誌のために、エレーヌ ゴードン ラザレフ氏により独自に採択された標章である(甲3)。
雑誌「ELLE」は、衣料品・身の回り品・化粧品・家具・食器等の多種多様な商品、とりわけ世界的に有名なファッションブランドの商品に関する記事を多数掲載する女性向けファッション雑誌であり、フランスでは第二次世界大戦前から発行されてきたところ、現在では、日本を含む世界46か国において、ライセンス契約又は合弁事業を通じて発行されている。そして、雑誌「ELLE」に掲載されるファッションは、現代感覚にあふれた「ELLE」誌独自の特徴を有していることから、「ELLE」ファッションと呼ばれ、全世界の女性の間で広く支持を得ている(甲4、甲5)。
(2)商標「ELLE」の著名性について
ア 日本における商標「ELLE」の継続的使用
申立人は、日本においても、1970年(昭和45年)から半世紀にわたり、「ELLE」を、一貫して自らの業務に係るファッション関連及び各種生活関連の商品・役務を示すものとして、継続的に使用してきた。すなわち、1970年(昭和45年)3月、株式会社マガジンハウスは、申立人の許諾の下で雑誌「an・an」を、日本版「ELLE」誌と位置付けて創刊し、毎号、本国フランス版「ELLE」誌上の記事を一部そのまま掲載するなど「ELLE」ファッションの紹介・普及を図り、その表紙には「ELLE japon(エル・ジャポン)」の標章を付してきた(甲6)。なお、雑誌「an・an」は若い女性を中心に爆発的な支持を得て、我が国で最も人気のある雑誌の一つとなった。
そして、1982年(昭和57年)4月以降は、株式会社マガジンハウスが日本版として雑誌「ELLE japon(エル・ジャポン)」を発行したが(甲7)、その後、株式会社タイム アシェット ジャパン(現商号:株式会社ハースト婦人画報社)がこれを継承し(甲8)、現在では、「エル・ジャポン」(創刊1989年、月刊)に加え、「エル・デコ」(創刊1992年、年間5回)、「エル・グルメ」(創刊2002年、年間5回)、「エル・マリアージュ」(創刊2008年、年2回)を発行している(甲9〜甲12、甲73)。なお、「エル・ジャポン」は、主にファッション・美容・ライフスタイル関連記事を取り扱い、現在の発行部数は約10万部となっている(甲9の2、甲55)。また、「エル・デコ」はインテリア・建築・デザイン関連の記事を、「エル・グルメ」は食に関わる記事を、「エル・マリアージュ」は結婚情報に関連する記事を主に取り上げ、それぞれ発行都部数は公称7万部、6万部、7万部となっている(甲9の2、甲55)。
さらに、株式会社ハースト婦人画報社は、ウェブマガジンの日本版として、「エル・オンライン」(サイト設立1996年、毎日更新)を開設しており、同社による2017年10月現在の集計によれば、月間アクセス件数は約4,690万回、ユニークユーザー数は約369万人となっている(甲9の2、甲53)。
以上のように、「ELLE」誌は、世界のファッション業界の中心地であるフランスで発行され世界各国へ輸出されたものであり、日本でも、上記のとおり1970年(昭和45年)以来、半世紀の長期にわたり、幅広く衣料品・身の回り品・化粧品・家具・食器等のファション関連商品の紹介・広告を掲載してきた「ELLE」誌を通じて、「ELLE」が、申立人の業務に係る商品・役務を示すブランドとして、本件商標の登録出願日よりはるか以前から実際に使用され、我が国の需要者の間で広く知られるに至っていた。
イ 商標「ELLE」を付して販売される商品
(ア)申立人は、「ELLE」ファッションの普及を図るため、「ELLE」ブランドを用いたファッション関連商品及び各種生活用品をライセンシーに商品化させるといった活動も積極的に行ってきた。
(イ)日本においては、1964年(昭和39年)から、帝人株式会社(以下「帝人」という。)に対し、「ELLE」の独占的使用権を許諾し、「ELLE」ブランドの商品化を推進してきた(甲6)。帝人は、自ら「ELLE」ファッションに係る衣料品を製造販売する一方で、その独占的使用権に基づき、企業に商標「ELLE」の再使用権を許諾し、協同して商標「ELLE」を付したファッション関連商品や各種生活用品を開発し、「ELLE」ブランドの広告宣伝・製造販売及び普及に努めた(甲15、甲16)。
その後、1984年(昭和59年)7月に、申立人は、帝人とのライセンス関係を解約し、子会社・東洋ファッション開発株式会社(後のELLE PARIS株式会社、現在の商号はラガルデール アクティブ エンタープライズ ジャパン)を設立し(甲17)、自ら積極的に「ELLE」ファッションの市場開発・調査及び企画を行い、日本における「ELLE」ブランドの利用・普及をさらに推進してきた(甲18〜甲20)。
(ウ)ここで、上記子会社作成のライセンシー一覧(甲21)を提出する。これらの書証から、複数のライセンシーを通じ、「ELLE」を付したファッション関連商品及び各種生活用品が、平成9年6月時点で多種多様な商品に広がっていたことが分かる。
加えて、2015年(平成27年)から2017年(平成29年)にける申立人の子会社が作成した「ライセンシーメンバー表」及び再資金の情報を含む2019年の「ライセンシーメンバー表」を提出する(甲61、甲66〜甲69)。
(エ)さらに申立人は、2015年から2017年における各年代の商標「ELLE」及び「ELLE」を含む商標を付した商品の各売上高を確認できる証拠として、各ライセンシー又は申立人の関連会社が作成した「ライセンス計算書」、「ロイヤルティ計算書」、「ロイヤルティ及びマーケティング拠出金計算報告書」、「ロイヤルティに関する「請求書」」の写しを提出する(甲63〜甲65)。
上記の証拠はいずれも、申立人がライセンシーに対し使用許諾を行っている製品に関する売上高だけではなく、ブランド名(使用対象の商標)、使用許諾の対象商品及び使用許諾期間が明記されている。したがって、2015年(平成27年)から2017年(平成29年)における、各年代別の商標「ELLE」を付した商品の各売上高を確認できる証拠として、十分なものである。
なお、上記の商品のうち、具体的な商品の一例(甲15、甲16、甲22〜甲39)及び使用例(甲13、甲14、甲40〜甲44、甲53、甲54、甲57、甲70〜甲72)を提出する。
(オ)雑誌「ELLE」においても、「ELLE」を付したファッション関連商品、各種生活用品等の広告を掲載し、「ELLE」ブランドの広告宣伝・製造販売及び普及に継続的に努めている。その一例として、雑誌「ELLE japon」に掲載された広告ページの写しを提出する(甲52、甲56)。
(カ)これらの書証から明らかなように、雑誌「ELLE」のみならず、申立人及びライセンシーにより製造販売される各種商品またこれらの商品に関する販売カタログには、ほぼ統一的に商標「ELLE」が付されており、一貫して「エル」の称呼をもって取引されている。
以上の事実に鑑みれば、申立人の商標「ELLE」を付した商品は日常生活のあらゆる分野に及んでおり、それゆえ、「ELLE」は、各種商品の需要者、つまり若い女性のみならず、老若男女の幅広い世代に広く知られているということができる。
したがって、申立人の商標「ELLE」は、本件商標の登録出願日以前から、衣料品・履物等を始めとするファッション関連商品及び化粧品・せっけん類など各種生活用品の取引者・需要者の間で、「ELLE」といえば申立人の業務に係る商品・役務を容易に想起させるものとして、広く知られるに至っており、その状態が本件商標の登録査定時においても継続していた。
ウ 商標「ELLE」の著名性を認めた審決等について
商標「ELLE」の著名性は、特許庁においても顕著な事実である。すなわち、商標「ELLE」の著名性を認定した審決が複数出されている(甲45〜甲49、甲58)。
そして、申立人の所有する登録第1978527号の商標「ELLE」を基本商標として、防護標章が様々な区分に属する商品・役務を指定して合計7件の登録が認められ、そのうち4件が現在も存続している(甲50、甲51)。
エ 小括
以上述べた事実、審決における認定及び防護標章登録から、申立人の商標「ELLE」が、本件商標の出願日以前から、すでに衣料品・履物等を始めとするファッション関連商品及び化粧品・せっけん類など各種生活用品の分野において周知著名となっており、その状態が本件商標の登録査定時においても継続していたことは、客観的に明らかである。
(3)商標法第4条第1項第11号について
ア 指定商品・指定役務の類似性について
本件商標の指定商品及び指定役務は、引用商標の指定商品及び指定役務と同一の類似群コードに属するため、同一又は類似である。
イ 本件商標と引用商標の類否について
(ア)本件商標
本件商標は、別掲1のとおり、「Ellenail」の文字を横書きにしてなるものである。本件商標は、各文字が筆記体で書かれたようにデザイン化された商標ではあるものの、前後の文字のつながりを認識させるように文字が綴られているように見える、若しくは、前の文字と次の文字を実際につなげている程度のもので、デザイン化の程度は低い。したがって、本件商標は、「Ellenail」の文字を横書きにしてなる商標であると捉えるのが自然である。
また、本件商標の後半部分の「nail」の文字は、その直前の「e」の文字とつなげているもの、デザイン化の程度が低く、その構成中に「nail」の語を含むことは、容易に把握できる。加えて、本件商標に係る全ての指定商品・指定役務は、「ネイル(爪)」(甲74)に関する指定商品・指定役務である。つまり、本件商標の構成中「nail」の文字部分は、自他商品役務識別標識としての機能を発揮しないから、本件商標の構成中、独立して自他商品役務識別標識としての機能を発揮するのは、「Elle」の部分である。
したがって、本件商標の構成中「Elle」の部分から生ずる外観・称呼又は観念により、引用商標との商標の類否を判断するのが相当である。
(イ)引用商標
引用商標は、いずれも「ELLE」の英文字で構成されており、「ELLE」はフランス語で「彼女」「(女性名詞をうけて)それ」という意味を有する(甲59)。加えて、引用商標又は「ELLE」ブランドを知る需要者・取引者であれば、上述した引用商標の著名性を考慮し、指定商品との関係において、「ファッションブランドのELLE」という観念が生じる。
(ウ)外観上の類似
引用商標は、いずれも「ELLE」の英文字で構成される商標である。これに対し、本件商標の構成中「Elle」の部分は、その綴りが共通することから、外観上類似する。
(エ)観念上の類似
引用商標は、フランス語で「彼女」「(女性名詞をうけて)それ」という意味を有し、引用商標又は「ELLE」ブランドを知る需要者、取引者であれば、「ファッションブランドのELLE」という観念が生じる。
一方、本件商標の構成中「Elle」の文字部分は、大文字小文字の差異はあるもの、「ELLE」の英文字で構成されるから、フランス語で「彼女」「(女性名詞をうけて)それ」という観念のほか、「ファッションブランドのELLE」という同一の観念が生ずる。
(オ)称呼上の類似
引用商標は、いずれも「ELLE」の英文字で構成されており、「エル」の称呼が生じる。これに対し、本件商標の構成中「Elle」の文字部分からも、「エル」という称呼が生じるから、引用商標から生じる称呼と同一である。
ウ 本件商標の個別具体的な取引の実情について
本件商標の構成中「Elle」の部分のみが、独立して自他商品役務識別標識として機能していることは、本件商標の個別具体的な取引の実情から明らかであるから、その根拠として、本件商標の権利者の運営するウェブサイトの写しを提出する(甲75〜甲80)。
本件商標の権利者は、日本国内で7店舗のネイルサロンの経営及びネイルチップやネイル関連商品の販売を行っている(甲75、甲76)。
そのうち、新宿及び渋谷の2店舗では、「フランス語の「彼女」と「nail」をあわせることで、・・・お約束します。」をキャッチフレーズとし、「Ellenail」の言葉の由来を説明している。さらに、同2店舗においては、本件商標の他に、「Ellenail 新宿」「Ellenail 渋谷」を店舗名として使用しているほか、「Ellenail」及び「エルネイル」を使用している(甲77〜甲80)。
したがって、上述の取引の実情を考慮すると、本件商標の権利者は、本件商標を「エルネイル」という称呼が生じる「Elle」と「nail」を組み合わせた商標として使用することを意図して、本件商標を出願権利化したことは明らかである。加えて、「ネイル(爪)」に関する指定商品・指定役務との関係において、本件商標の構成中「nail」の部分は、自他商品役務識別標識としての機能を発揮しない。
エ 小括
以上より、本件商標に係る指定商品及び指定役務は、引用商標の指定商品及び指定役務と同一又は類似する。加えて、本件商標は、称呼、観念及び外観のいずれの観点からも引用商標と同一又は類似するものであるため、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第15号について
ア 商標の類似性
上述のとおり、本件商標の「Elle」の部分は、外観、称呼及び観念のいずれの観点においても、引用商標と同一又は類似である。
イ 本件商標の指定商品・指定役務と引用商標に係る指定商品・指定役務との関連性並びに商品・役務の取引者・需要者の共通性
上述のとおり、本件商標の指定商品・指定役務は、引用商標の指定商品・指定役務と同一又は類似である。よって、それぞれの商品及び役務の関連性は極めて高いとともに、需要者及び取引者は共通する。
ウ 出所混同のおそれ
引用商標「ELLE」の著名性は、上述のとおりである。また、本件商標の指定商品・指定役務の取引者層・需要者層と申立人の業務に係る商品・役務の取引者層・需要者層は共通しているから、本件商標の指定商品及び指定役務の取引者・需要者が、引用商標及び申立人がその商標を付して提供している商品・役務を知っている可能性は極めて高い。
そして、本件商標は、既述のとおり、取引者・需要者において、世界的に著名な引用商標を容易に想起・連想させる類似の商標である。したがって、本件商標がその指定商品・指定役務について使用された場合、本件商標に接する取引者・需要者は、本件商標から、これと類似する著名な商標である引用商標を容易に想起、認識し、申立人又はこれに関連する者の業務に係る商品であるかの如く、その出所について混同して認識するおそれは高い。
エ 引用商標に化体した信用を害するおそれ
申立人は自己のブランドイメージを維持し、よリー層の発展をさせるため、世界中で展開するあらゆる事業においてその商品・役務の品質・質、ブランド戦略・運営等について厳重な管理を行っている。
すなわち、商標「ELLE」は、申立人に係る商品・役務を表示するものとして、日本はもとより世界中で一般の取引者・需要者の間に広く認識されている著名商標であり、申立人の提供する商品・役務に係る絶大な信用が化体した重要な財産である。
現に、日本においては、欧文字「ELLE」のみからなる商標はもちろん、上記欧文字及び片仮名文字から構成される商標に加え、「ELLE」を一部に含む商標について、250件以上の商標登録を保有している。
したがって、万が一、本件商標の登録が維持されると、申立人と何ら関係のない者により、申立人の意図とは無関係に、申立人が現にその商標を付して使用している商品及び提供している役務とその取引者層・需要者層を同一にする商品・役務について、引用商標と類似する商標、すなわち本件商標が自由に使用されてしまうことになる。その結果として、劣悪な品質の商品・役務が引用商標と類似する商標によって提供されるという事態が生じ得ることも否定できない。
このような事態が生じた場合、申立人が永年にわたり多大な努力を費やして培ってきた「ELLE」のブランドイメージが著しく毀損され、申立人が多大な損害を被る。
オ 小括
以上を総合的に勘案すれば、需要者、取引者に対し、引用商標が与える印象は非常に強い。よって、そのために生じる連想作用等により、本件商標が、申立人の業務に係る商品・役務であると誤認し、その商品・役務の需要者・取引者が商品の出所について混同するおそれがあるのみならず、申立人又は申立人と経済的・組織的に関連するものにより提供される商品・役務であるかのような誤認を生じさせ、結果として商品の出所に混同を生じさせるおそれがある。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。

4 当審の判断
(1)商標「ELLE」の周知性について
ア 申立人提出の証拠及びその主張によれば、以下の事実が認められる。
(ア)「ELLE」は、申立人の発行する「フランスの若い女性向き週刊誌」(甲5)である。
我が国でも、1970年から業務提携先企業を通じて、その日本版も出版されており(甲6)、1982年に「ELLE JAPON」(エルジャポン)を創刊(甲8)、その後も月刊誌として継続して発行されている(甲9)。
(イ)同誌の発行部数は、2014年で約9万4千部である(甲9の2、甲55)。
(ウ)「ELLE」ブランドを利用した商品及び役務としては、例えば、衣料品、靴、バッグ(甲19)などのほか、「ELLE Maison」と称するせっけん類や「ELLE Salon」と称するヘアサロン(甲66〜甲69)がある実情はうかがえるが、本件商標の指定商品及び指定役務(ネイルと関連する商品及び役務)と関連して、「Ellenail」と称する商品及び役務が、申立人らにより販売又は提供されていた事実関係は、申立人提出の証拠からは確認できない。
イ 上記アのとおり、「ELLE」(ELLE JAPON)と称する雑誌は、1970年の日本版の発売以降は、我が国において50年以上の発行実績があり、その発行部数も相当の部数を維持していることを鑑みると、申立人らが雑誌の題号の一部に使用する「ELLE」(以下「申立人商標」という。)は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、少なくともファッション分野に高い関心を有する需要者及び取引者の間においては、広く認識されていたものと認められる。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性
ア 本件商標
(ア)本件商標は、別掲1のとおり、「Ellenail」の欧文字を、筆記体状の書体(「ll」の文字部分を除く。)で、一部「enail」をつなげた態様で表してなるところ、その構成文字は、「ll」の文字部分の書体は異なるものの、構成全体としては、ほぼ同じ大きさ及び書体(筆記体)で、字間なく、横一列に、まとまりのよい不可分一体の構成からなるものである。
そして、「Ellenail」の構成文字は、辞書等に掲載された語ではないから、具体的な意味合いを想起させない造語を表してなると看取できる。
そうすると、本件商標は、その構成文字に相応して、「エレネイル」の称呼が生じ得るが、特定の観念は生じない。
(イ)申立人は、本件商標は、取引の実情としては、「フランス語の「彼女」と「nail」」を合わせた語に由来しており、「nail」の文字部分は、ネイルに関する指定商品及び指定役務との関係においては、出所識別標識としての機能を発揮しないため、「ELLE」の文字部分のみが、独立して出所識別標識として機能している旨を主張する。
しかしながら、本件商標は、上記(ア)のとおり、まとまりのよい不可分一体の構成からなるものであるから、フランス語「Elle」と英語「nail」という異なる言語の単語を結合した造語であると連想させることがあり得るとしても、いずれかの文字部分が、出所識別標識として分離独立した強い印象を与えるものではなく、特定の文字部分から称呼及び観念が生じないものとはいえないから、構成文字全体より生じる称呼及び観念をもって取引されるというべきで、その構成中「ELLE」の文字部分を要部として引用商標との類否を比較、判断することは適切ではない。
イ 引用商標について
引用商標1は、「ELLE」の欧文字を表し、引用商標2ないし5は、別掲2のとおり、「ELLE」の欧文字を表し、引用商標6及び7は、「ELLE」の欧文字を標準文字で表してなるものであるところ、それら構成文字は、「彼女(たち)は」の意味を有するフランス語(「クラウン仏和辞典 第7版」)であるが、我が国で親しまれた外来語とまではいえない。
したがって、引用商標は、その構成文字に相応して、「エル」の称呼を生じるが、特定の観念は生じない。
ウ 本件商標と引用商標の比較
本件商標と引用商標の類否を検討すると、外観においては、構成文字の一部を共通するとしても、構成文字全体としては異なる語(「Ellenail」と「ELLE」)を表してなるから、判別は容易である。また、称呼においては、構成音(「エレネイル」と「エル」)及びその音数が明らかに異なるから、聴別は容易である。さらに、観念においては、いずれも特定の観念は生じないから比較できない。
そうすると、本件商標と引用商標は、観念において比較できないとしても、外観及び称呼において判別は容易だから、それぞれの外観、称呼及び観念によって与える印象、記憶等を総合して考察すれば、別異の商標といえるもので、相紛れるおそれのない非類似の商標である。
エ 小括
以上のとおり、本件商標は、引用商標とは類似する商標ではないから、その指定商品及び指定役務について比較するまでもなく、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性
申立人商標「ELLE」は、上記(1)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、商品「雑誌」との関係において、少なくともファッション分野に高い関心を有する需要者及び取引者の間において広く認識されていたとしても、「ELLE」の欧文字は、上記(2)イのとおり、フランス語の成語に相当し、独創性を欠くもので、本件商標と申立人商標は、上記(2)ウのとおり、相紛れるおそれのない別異の商標であり、また、本件商標の指定商品及び指定役務(ネイルと関連した商品及びサービス)は、「ELLE」ブランドが展開されている商品及び役務とは、必ずしも密接な関連性はない。
そうすると、本件商標は、その指定商品及び指定役務について使用されるときであっても、取引者、需要者をして申立人又は申立人商標との関連性を連想又は想起させることは考えにくく、その商品が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(4)むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号のいずれの規定にも違反してされたものではないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。

別掲
別掲1(本件商標)




別掲2(引用商標2〜5)




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異議決定日 2022-10-07 
出願番号 2020105943 
審決分類 T 1 651・ 261- Y (W03182144)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 矢澤 一幸
特許庁審判官 阿曾 裕樹
小田 昌子
登録日 2021-10-06 
登録番号 6452048 
権利者 株式会社エスソーシャルマネジメント
商標の称呼 エルネイル、エレネイル、エル、エレ 
代理人 中山 真理子 
代理人 竹中 陽輔 
代理人 稲垣 朋子 
代理人 達野 大輔 

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