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審決分類 審判 全部無効 外観類似 無効としない W0935363842
管理番号 1390909 
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2022-11-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2021-06-10 
確定日 2022-08-05 
事件の表示 上記当事者間の登録第5856953号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5856953号商標(以下「本件商標」という。)は、「coinbase」の文字を標準文字で表してなり、平成27年12月18日に登録出願、第9類、第35類、第36類、第38類及び第42類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同28年5月17日に登録査定、同年6月10日に設定登録されたものである。

第2 請求人が引用する商標
請求人が、本件商標の登録の無効の理由において引用する国際登録第1216587号商標(以下「引用商標」という。)は、「COINBASE」の欧文字を横書きしてなり、2013年12月6日にUnited States of Americaにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、2014年6月4日に国際商標登録出願、別掲に示すとおりの、第9類、第36類及び第42類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成27年3月27日に設定登録されたものであり、その商標権は、現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を、審判請求書(以下「請求書」という。)及び令和4年1月21日付け審判事件弁駁書(以下「弁駁書」という。)において要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第88号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 無効理由
本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
2 具体的理由
(1)商標法第4条第1項第19号について
ア 引用商標について
引用商標は、請求人の社名の一部である「COINBASE」の文字を横書きにしてなる商標である。請求人は、第9類、第36類及び第42類の商品及び役務を指定する引用商標を保有しており(甲2)、我が国を含む様々な国を指定している。具体的には、請求人は、引用商標に関し、我が国以外に、米国をはじめ、欧州連合、スイス、ロシア、シンガポール、香港、台湾、オーストラリア、イスラエル及びメキシコなどにおいて商標登録し、数多くの国で使用している(甲3)。
引用商標に関する登録出願については、その他の国においても多数行っており、現在、各国官庁において審査中である(甲4)。
イ 引用商標の周知性について
(ア)請求書による主張(要旨)
引用商標は、本件商標の登録出願時、既に米国を中心とした様々な国において、仮想通貨取引に関する商品及び役務の需要者の間で周知であり、その周知性は極めて高いものであった。
請求人は、平成24年(2012年)6月に米国サンフランシスコにて仮想通貨取引に関する商品及び役務を提供するために設立され(甲5)、このような商品及び役務を提供する企業が当時他に存在しなかったこともあり、同年10月に、銀行振込によるビットコインの売買サービスを開始して以降急速に成長を遂げ、同25年(2013年)には、米国のベンチャーキャピタルから合計3100万米ドルの投資を受けるなどして、さらに事業規模を拡大させていった(甲6)。平成25年(2013年)12月6日に、引用商標に関し、米国において第9類、第36類及び第42類の商品及び役務を指定して登録出願を行い、同26年(2014年)7月15日に登録がなされた(甲3)。
また、平成26年(2014年)9月の時点で、請求人の米国における仮想通貨取引所の利用者数が160万人に達し(甲7)、同年12月における記事によると、「COINBASE」の人気ぶりや、請求人が名立たる企業と提携関係にあることが紹介されている(甲8)。
さらに、平成27年(2015年)6月の記事によれば、当時既に、ニューヨーク証券取引所やNTTドコモが請求人に注目し、投資を行っていたことが紹介されている(甲9)。
さらにまた、請求人は、米国においてはもちろんのこと、他の様々な国でも、最大の仮想通貨取引所となり、当該仮想通貨取引に関する商品及び役務に関しても最大のシェアを占めるようになった(甲10)。
加えて、平成28年(2016年)7月8日の日本経済新聞の記事には、「三菱東京UFJ銀行と世界最大の仮想通貨取引所を運営する米コインベースは8日、資本・業務提携すると正式発表した。」、「コインベースは日本進出への意欲を示した。」、「出資は総額1050万ドル(10.5億円)で、三菱UFJキャピタルと、米ファンド運営会社ソーゾー・ベンチャーズが参加する。三菱UFJ銀は数億円を出資する。8日(日本時間9日)に払い込みを終える予定だ。」及び「コインベースは米サンフランシスコで2012年6月に設立された。米欧を中心に32カ国で事業展開しており、ビットコインの最大取引所として知られる。」と記載されている(甲11)。
このように、請求人は、本件商標の登録出願時、米国及び欧州を中心に30か国で事業展開を行っており、設立当初から現在まで仮想通貨にかかる世界最大の仮想通貨取引所の一つとしての地位を確立していること(甲12)、並びに請求人は未だ日本に進出していないにもかかわらず、請求人と人的、資本的なつながりを有していない日本企業であるNTTドコモ及び三菱東京UFJ銀行が、同年12月18日と近接した時点において、請求人の存在を知り、請求人への多額の融資を行い、又は検討していたことなどにも鑑みると、請求人(ひいては請求人の社名にかかる引用商標)は、本件商標の登録出願時において、米国を中心とした様々な国において、仮想通貨取引に関する商品及び役務の需要者の間で周知であり、その周知性は極めて高いものであったというべきである。
(イ)弁駁書による主張(要旨)
a 被請求人は、「甲第11号証は本件商標の出願日である2015年12月18日以降の事実を示すものであり、証拠資料として無効であり、これを採用すべきではない」と主張するとともに、「甲第5号証ないし甲第10号証、および甲第12号証に示す事実は引用商標が周知であることを説明するものではなく、散発的である」旨主張する。
しかし、平成28年(2016年)7月8日付の甲第11号証は、本件商標の登録出願日以降に発行されたものであるものの、同号証に記載された事実は引用商標との関連性があり、引用商標の周知性を示す事情として考慮することができる。
すなわち、甲第11号証には、請求人であるCOINBASEが世界最大の仮想通貨取引所であり、32か国で事業を展開していることが記載されている。そして平成27年(2015年)10月1日付の甲第12号証には、請求人であるCOINBASEが30か国に事業を拡大したことが記載されている。
これらの証拠は、本件商標の登録出願時において、請求人が既に広くグローバルに事業を展開しており、同時に世界最大の仮想通貨取引所であつたことを示している。
したがって、甲第11号証は引用商標との関連性があり、引用商標の周知性を示す証拠である。
また、請求人の提出した証拠及び主張に基づけば、引用商標は、本件商標の登録出願時において、世界最大級の仮想通貨交換、保管及び処理サービスのブランドとして知られており、COINBASEは最も人気のあるビットコインウォレットであり、多くの利用者がおり、我が国を含む世界中の多数の信頼できる大物投資家から高額の資金調達に成功していることが明確に示されている。
請求人は、モバイル端末やデスクトップ端末で利用可能な金融及び財務サービス(特に仮想通貨に特化したもの)の分野において、急速に成長し、その革新的で先駆的な技術や事業戦略により、需要者、投資家及び関係機関からの世界的な注目を集めていた。
したがって、請求人の提出証拠は、本件商標の登録出願時点及びそれ以降の、米国を含む全世界における、金融、財務サービス及び同サービスに関するテクノロジー関連の商品及び役務に関する引用商標の周知性を十分に証明している。
b 請求人が追加提出した甲第24号証ないし甲第35号証は、いずれも我が国の記事であり、COINBASEは、本件商標の登録出願時点では、日本市場に正式に参入していなかったものの、我が国のニュースや記事は、COINBASEを頻繁に取り上げていたことが明らかである。COINBASEは、世界最大の仮想通貨の交換、保管及び処理サービスを行う企業として、国内外の需要者や投資家(ニューヨーク証券取引所などの伝統的な金融機関を含む)の世界的な注目を集めていたのである。
c 請求人が、追加提出した甲第36号証ないし甲第87号証によれば、COINBASEは、デジタル通貨の分野で使いやすいサービスを提供することを重視し、経験豊富な創業者や革新的な技術及び事業戦略と相まって、拡大を続ける技術分野の中で極めて速いペースで成長してきたことが、明らかになっている。COINBASEは、頻繁に新機能をリリースし、巨額の資金を調達し(仮想通貨企業としては常に最高額)、非常に短いスパンで国際展開という目標を達成した。そのため、請求人は、本件商標の登録出願時において、米国及び世界各国において、モバイル端末やデスクトップのブラウザを介して利用可能な金融、財務サービスを提供していることが広く知られていた。
ウ 本件商標と引用商標は実質的に同一の商標であること本件商標と引用商標は共に同じアルファベットよりなるものであって、ともにデザイン化もされておらず、実質的に同一の商標である。
不正の目的について
(ア)請求書による主張(要旨)
本件商標が外国において周知な商標と同一又は極めて類似するものであって、当該周知な商標が造語よりなるものであるときは、本件商標の登録出願は、不正の目的をもって使用するものと推認されるものというべきである。 また、信義則に反するような事情が存するもとで出願された商標については、「不正の目的」の要件を充足するところ(甲13)、この観点から、推認を覆す事情があるかについても検討されるべきものと解される。
a 引用商標は、本件商標の登録出願時、既に米国を中心とした様々な国において、仮想通貨取引に関する商品及び役務の需要者の間で周知であり、その周知性は極めて高いものであって、本件商標は、引用商標と実質的に同一といえる。
また、引用商標は、請求人が独自に創作した造語であり、英和辞典において、その意味は表示されない(甲14、甲15)。
よって、本件商標の登録出願は、不正の目的をもって使用するものと推認されるものである。
b 上記aの他、本件では、以下の事情が存し、これらの事情は、被請求人の「不正の目的」を補強し裏付けるものであるから、被請求人による反証によっても、「不正の目的」の推認を覆すことはできないものというべきである。
(a)被請求人は引用商標を取り巻く状況を認識していたこと被請求人は、平成26年(2014年)1月9日に設立された、仮想通貨取引所「bitFlayer」を運営する日本の法人である(甲16)。
bitFlayerでは、請求人と同様にビットコイン等の仮想通貨の交換業が行われており、被請求人は請求人と競業関係に立つものである。
したがって、被請求人は、本件商標の登録出願時、米国等の世界各国において高度の周知性を獲得していた引用商標の存在を当然に認識したうえで、引用商標をそのまま流用して本件商標を登録出願したものと考えられる。
さらに、請求人は、本件商標の登録出願時、既にアジア諸国を含む30か国で事業展開をしていたものであり、日本法人であるNTTドコモによる投資の記事が既にリリースされ、請求人が急速に海外展開していたことを考えると、同じく仮想通貨取引にかかる業界に属する被請求人としては、仮想通貨取引市場が急成長していた我が国において請求人が事業展開することは当然予測することができたというべきである。
よって、被請求人は、将来、請求人が我が国にも進出する可能性があることを十分に認識したうえで、請求人が使用する引用商標と実質的に同一の本件商標を登録出願したものである。
(b)本件商標の指定商品及び指定役務が請求人の商品及び役務と近似していること
本件商標は、第9類、第35類、第36類、第38類及び第42類の商品及び役務を指定しているところ、これらの区分は、請求人の我が国における引用商標(甲2)及び国際登録第1268814号商標(以下「請求人所有商標」という。:甲17)とその区分が重なり合っている。
また、本件商標は、登録出願時に、請求人所有商標と類似する役務を指定していたものの、請求人所有商標と類似する旨の拒絶理由通知を受け、類似する役務を削除することにより登録に至った経緯がある(甲18)。
このように、本件商標には、仮想通貨取引に関する請求人の商品及び役務と近似した商品及び役務が指定されているものといえる。
実際、請求人は、我が国への進出にあたり、第9類「タイムスタンプ,タイムレコーダー,インターネットを利用して受信し及び保存することができる画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,インターネットを利用して受信し及び保存することができる音楽ファイル,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント」、第35類「商品の広告に関する情報の提供(インターネットによるものを含む),経営の診断又は経営に関する助言,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,ホテルの事業の管理,商品の販売に関する情報の提供(インターネットによるものを含む),文書又は磁気テープのファイリング,コンピュータデータベースヘの情報編集,コンピュータデータベースの情報構築及び情報」、第36類「商品市場における先物取引の受託」、第38類「電気通信(「放送」を除く。),報道をする者に対するニュースの供給」及び第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子商取引における第三者に対するオンラインによるユーザーの本人確認・証明」に関する商品・役務の展開も検討しているところ、本件商標が理由で、かかる商品及び役務の我が国における事業展開に問題が生じており、本件無効審判請求を含む対応に迫られている。
加えて、請求人と被請求人は競業関係にあり、仮想通貨取引の分野における両者の需要者が共通している。
そして、被請求人がその業務を、本件商標の指定商品及び指定役務にまで拡大したときには、当該需要者が、本件商標の指定商品及び指定役務に流れるであろうことは想像に難くないのであって、そうすると、本件商標の指定商品及び指定役務に係る需要者は、実際問題として請求人の需要者と相当程度重なり合うことになる。
よって、本件商標の指定商品及び指定役務に係る需要者と請求人の商品及び役務に係る需要者には相当程度の重なり合いがあり、取引の実情に基づく需要者の共通性にも鑑みると、両商品及び役務は需要者の混同が生じ得る程度に近似しているものといえる。
(c)被請求人の海外における商標出願が明白に信義にもとること
被請求人は、「coinbase」商標について、我が国以外にも、オーストラリア、ブラジル、米国、カナダ、欧州連合、香港、インド、韓国、イスラエル、メキシコ、ニュージーランド、ノルウェー、韓国、ロシア、シンガポール、スイス及び台湾など請求人が「COINBASE」商標の登録出願を行っている国にて商標の登録出願を行っている(甲19)。
特に、ニュージーランドと韓国においては、被請求人が請求人より先に商標の登録出願を行い(なお、被請求人による登録出願の日はニュージーランド及び韓国のいずれも平成28年(2016年)1月である。)、被請求人の当該出願に係る指定商品及び指定役務が、引用商標の指定商品及び指定役務と類似するものを含むため、請求人の「COINBASE」商標に係る登録が阻害されている(甲20)。
このように、被請求人の商標の登録出願により、ニュージーランド及び韓国における請求人の事業展開が危ぶまれる状況に陥っており、このような被請求人の商標の登録出願の態度からは、被請求人の請求人に対する明らかな害意が読み取れる。なお、請求人は、ニュージーランド、韓国、欧州連合、シンガポール、台湾及び米国で、被請求人の「coinbase」商標に対し、異議申立又は無効審判請求を行っており、米国においては、被請求人が「coinbase」商標を放棄したものの、その余の国では、当該異議申立及び無効審判請求に関する審理が継続中である(甲21)。
このような被請求人の行為を全体としてみれば、ニュージーランド及び韓国における商標の登録出願のみならず、本件商標の登録出願についても、被請求人は、競業者である請求人による我が国への事業進出を阻害する意図に基づくことが容易に推測されるものというべきである。
なお、ビットコインは、世界で最も多く取引がなされている仮想通貨の名称であって、被請求人の商標として認識されているものではないところ、被請求人は、商標「BITCOIN」に関し、多数の商標の登録出願及び登録を行い、これを保有しているという事情もある(甲22、甲23)。
(イ)弁駁書による主張(要旨)
被請求人は、乙第1号証を示しながら、引用商標が請求人の造語ではないと主張し、被請求人に不正な利益を得ようとする意図はなく、請求人に本件商標を買い取らせたり、代理店契約を強要する不正な意図はない等の主張をしている。
しかし、乙第1号証の1には「最終更新日:2016年02月28日」と記載されており、乙第1号証の2の書籍は平成29年(2017年)6月12日に発行されたものである。他方、請求人は、平成24年(2012年)に事業を開始し、翌年に米国で「COINBASE」の登録申請を行っている。
したがって、これに後れる日付の乙第1号証の1及び2では、「COINBASE」が請求人の造語ではないことを明らかにすることはできない。いずれにしても、乙第1号証の1には、「通常Coinbaseといったときは、オンラインウォレットサービスを提供するCoinbaseのことを指すが、もともとは技術的な用語である。」旨記載されているとおり、遅くとも平成28年(2016年)2月28日の時点で、COINBASEが請求人の周知のブランドであったことを明らかにしており、かかる証拠は、引用商標の周知性と被請求人の不正の目的を肯定する方向に働くものである。
もとより、請求人のプラットフォームで仮想通貨取引を行っているのは、仮想通貨の価値増加を望む一般需要者であって、専門用語に精通した専門家ではない。引用商標は、本件商標の登録出願時に、世界的に周知であり、また、本件商標の登録出願以前の合理的な期間にわたり、周知な引用商標に係る商品及び役務について述べた多数の日本語の記事が存在する。
しかも、被請求人は、請求人の競合相手であり、同一分野で事業を行っている。
したがって、被請求人は、引用商標の指定商品及び指定役務に類似する商品及び役務を指定した本件商標を登録出願した時点で、既に周知であつた引用商標を認識していたことは明らかである。
オ 小括
「COINBASE」は、請求人が独自に創作した造語であって、請求人の社名である。引用商標は、本件商標の登録出願時、既に米国を中心とした様々な国において、仮想通貨取引に関する商品及び役務の需要者の間で周知であり、その周知性は極めて高いものであった。被請求人は、請求人と競業関係にあり、本件商標の登録出願時の引用商標に関する上記事情や、請求人がアジア諸国を含む様々な国で事業展開を行っており、将来、我が国に進出する可能性が十分にあることを認識していたにもかかわらず、あえて、引用商標をそのまま流用する形で「coinbase」商標を選択したうえで本件商標の登録出願を行い、さらに、指定商品及び指定役務についても、請求人の先行する「COINBASE」関連の商標が既に存在したため、ニュージーランドや韓国のように、引用商標の指定商品及び指定役務と類似する商品及び役務を指定して登録出願することは避けたものの、引用商標と類似する商品及び役務を指定して登録出願するなど、仮想通貨取引に関する請求人の商品及び役務と近似した商品及び役務を幅広く指定して登録出願した。他方で、被請求人が、本件商標を選択することについて、これを正当化する理由は見当たらない。
してみれば、本件商標は、被請求人が、不正の利益を得る目的、請求人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用するものであり、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第11号について
ア 請求書による主張(要旨)
(ア)商標の類似性について
本件商標と引用商標はともに同じアルファベットよりなるものであって、ともにデザイン化もされておらず、実質的に同一の商標である。
(イ)商品及び役務の類似性について
商品及び役務が類似するか否かは、両者の商品及び役務に同一又は類似の商標を使用したときに、当該商品及び役務の取引者ないし需要者に同一の営業主の提供にかかる商品及び役務と誤認されるおそれがあるか否かによって決されるべきである。
そして、今日の取引社会にあっては、取引者及び需要者は、商標によって、出所の同一性を識別判断するのが通常であるから、仮に商品及び役務に「実質的に同一の商標」が付されれば、商品及び役務がある程度近似している限り、通常は両商品及び役務の出所が同一であると誤認するおそれが存在するものといえる。
これを本件についてみると、本件商標に係る指定商品及び指定役務と引用商標に係る指定商品及び指定役務が近似するものであるから、本件商標に係る指定商品及び指定役務と引用商標に係る指定商品及び指定役務は類似する。
(ウ)小括
以上のとおり、本件商標は、引用商標と実質的に同一であり、引用商標に係る指定商品及び指定役務と類似する商品及び役務を指定するものであることから、商標法第4条第1項第11号に該当する。
イ 弁駁書による主張(要旨)
被請求人は、本件商標と引用商標との間には、指定商品及び指定役務は類似群コードが共通ではないと主張している。
しかし、最判昭和36年6月27日民集15巻6号1730頁は、「指定商品が類似のものであるかどうかは・・。それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認される虞があると認められる関係にある場合には、たとえ、商品自体が互に誤認混同を生ずる虞がないものであつても、それらの商標は商標法(一〇年法律九九号)2条9号にいう類似の商品にあたると解するのが相当である。」と判示している。
当該判決に基づけば、比較対象の商品及び役務が通常同一営業主により販売又は提供されている等の事情が存在するときは、当該商品及び役務は相互に類似しているということができる。請求人は、世界最大級の仮想通貨取引所としての地位を確立しており、世界で最も人気のある仮想通貨のウォレットである。
さらに、被請求人の実際の事業内容、並びに請求人の商願2021−86601号が指定する商品及び役務並びにこれらに関連する事業に照らせば、少なくとも、請求人も被請求人もいずれも、引用商標の指定商品及び指定役務、本件商標の指定商品及び指定役務(全部又は一部)に係る事業を展開し、展開する予定であることは明らかである。
以上のことから、引用商標の指定商品及び指定役務と本件商標の指定商品及び指定役務(全部又は一部)は、通常同一営業主により販売又は提供されている商品及び役務であり、両商品及び役務は相互に類似するということができる。
そして、引用商標と本件商標は同一の商標であることから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号所定の商標であって無効理由が存在するものであり、被請求人の主張は失当である。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を無効審判答弁書において、要旨以下のように述べ、証拠方法として乙1号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号について
請求人は、「商品及び役務が類似するか否かは、両者の商品及び役務に同一又は類似の商標を使用したときに、当該商品及び役務の取引者ないし需要者に同一の営業主の提供に係る商品及び役務と誤認されるおそれがあるか否かによって決せられるべきである。そして、今日の取引社会にあっては、取引者、需要者は、商標によって、出所の同一性を識別判断するのが通常であるから、仮に商品及び役務に「実質的に同一の商標」が付されれば、商品・役務がある程度近似している限り、通常は両商品・役務の出所が同一であると誤認するおそれが存在するものといえる。」旨述べている。
また、請求人は、本件商標に係る指定商品及び指定役務と引用商標に係る指定商品及び指定役務とが「ある程度近似している」ことに関して、本件商標の指定区分と引用商標1及び請求人所有商標の指定区分とが重なり合っていることを説明している。
しかしながら、区分が指定商品及び指定役務の類似関係を示すものでないことは常識であり、区分が重なり合っていることは、本件商標に係る指定商品及び指定役務と引用商標に係る指定商品及び指定役務とが「ある程度近似している」ことを示すものではない。
また、請求人は、「被請求人がその業務を、本件商標の指定商品及び指定役務にまで拡大したときには、当該需要者が、本件商標の指定商品及び指定役務に流れるであろうことは想像に難しくない。」旨述べているが、本件商標の指定商品及び指定役務とは類似関係にない仮想通貨取引の分野において、請求人の需要者と被請求人の需要者が共通することのみを根拠とした想像上の説明にすぎず、本件商標に係る指定商品及び指定役務と引用商標に係る指定商品及び指定役務とが「ある程度近似している」ことを客観的に説明するものではない。本件商標に係る指定商品及び指定役務と引用商標に係る指定商品及び指定役務とが非類似であることは明らかである。
商品の類否は、商品の生産部門・販売部門の共通性、原材料・品質の共通性、用途の共通性、需要者の範囲の共通性及び完成品・部品の関連性等を含む取引の実情を総合的に考慮して判定されるべきものであり、また、役務の類否は、役務の提供の手段・目的又は場所の共通性、提供に関連する物品の共通性、需要者の範囲の共通性及び業種の共通性等を含む取引の実情を総合的に考慮して判定されるべきものである。
しかしながら、類似群コードが同一ではない商品及び役務を類似であると主張する根拠として、以上のような取引の実情を踏まえた説明は全くされておらず、請求人の主張は採用されるべきものではない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。
2 引用商標の周知性について
請求人は、請求人の社名の一部である引用商標が周知性を有すると主張し、その証拠資料として甲第5号証ないし甲第12号証を提出している。
しかしながら、甲第11号証は、本件商標の登録出願日よりも後の事実を示すものである。
商標法第4条第1項第19号の適用に関して、同条第3項には、「第4条第1項第8号、第10号、第15号、第17号又は第19号に該当する商標であっても、商標登録出願の時に当該各号に該当しないものについては、これらの規定は適用しない。」とあるから、甲第11号証は証拠資料として無効であり、採用されるべきではない。
甲第5号証ないし甲第10号証及び甲第12号証には、2012年に米国サンフランシスコにて請求人の会社が設立されたこと、2013年に請求人が米国のベンチャーキャピタルから投資を受けたこと、2014年に請求人の米国における仮想通貨取引所の利用者数が160万人に達したこと、2014年にTime Inc.が請求人と提携したこと、2015年に請求人の実施した資金調達にReinventureやNTTドコモが参加したこと、2015年に請求人がビットコインの動向に関する半期4報告書を発表したこと、2015年の時点で睛求人の拠点が30ヶ国に存在することなどが説明されている。
しかしながら、これらの何れも引用商標が周知であることを説明するものとはいえない。すなわち、引用商標が需要者等の間に広く認識されたといえるか否かは、引用商標の構成及び態様、引用商標の使用態様・使用数量・使用期間及び使用地域、広告宣伝の方法・期間・地域及び規模、商品又は役務の性質その他の取引の実情等を総合勘案して判断すべきであるところ、甲第5号証ないし甲第10号証及び甲第12号証で示されている事実は極めて散発的であり、かつ、上述の実情を十分に説明するものではない。
したがって、甲第5号証ないし甲第10号証及び甲第12号証を根拠として引用商標が周知であるとする請求人の主張は、採用されるべきではない。
3 引用商標が造語であるという点について
請求人は、引用商標は請求人が独自に創作した造語であると主張し、その証拠資料として甲第14号証及び甲第15号証を提出している。
しかしながら、被請求人が提出する乙第1号証が示すとおり、引用商標は仮想通貨業界において一般的に使用されている技術用語であり、請求人が独自に創作した造語ではない。
乙第1号証の1は、Bitcoin日本語情報サイトの用語集であり、引用商標が、採掘者が新しいブロックの生成(発見)時にもらえる報酬を採掘者に送信する取引(トランザクション)を意味する技術用語であることが示されている。
乙第1号証の2は、ビットコイン開発者の間ではバイブルのような存在で知られている書籍である。この書籍の120頁の最終段落には、乙第1号証の1で定義されている内容と同様の内容が記載されており、221頁ないし226頁にはコインベース取引の詳細が解説されている。
不正の目的について
上述したとおり、本件商標に係る指定商品及び指定役務と引用商標1に係る指定商品及び指定役務とは非類似である。
本件商標の審査過程において、拒絶理由通知を受けて一部の指定商品及び指定役務を削除した事実はあるが、不正な利益を図ろうとしたり、請求人に商標登録を買い取らせたり、代理店契約を強要したりするといった不正な意図は全くなく、事実そういった行為は一切行っていない。
5 まとめ
以上のとおり、引用商標が周知であることは証拠資料によって証明されておらず、引用商標は造語でもないので、本件商標が不正の目的をもって使用するものとの推認は成り立たない。
また、本件商標は実際に不正の目的をもって登録出願されたものでもない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものではない。

第5 当審の判断
請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係を有する者であることについては、当事者間に争いがないので、本案に入って審理し、判断する。
1 引用商標の周知著名性について
(1)請求人提出の証拠及び請求人の主張によれば、以下のとおりである。 ア 請求人は、平成24年(2012年)6月に米国サンフランシスコにて仮想通貨取引に関する商品及び役務を提供するために設立され、同年10月に、銀行振込によるビットコインの売買サービスを開始し、同25年(2013年)には、米国のベンチャーキャピタルから合計3100万米ドルの投資を受けるなどにより、事業規模を拡大させた(甲5、甲6)。
イ 請求人は、平成26年(2014年)9月の時点で、請求人の米国における仮想通貨取引所の利用者数が160万人に達している旨(甲7)及び引用商標は、本件商標の登録出願時において、世界最大級の仮想通貨交換、保管及び処理サービスのブランドとして知られており、COINBASEは最も人気のあるビットコインウォレットであり、多くの利用者がおり、我が国を含む世界中の多数の信頼できる大物投資家から高額の資金調達に成功していることが明確に示されている。請求人は、モバイル端末やデスクトップ端末で利用可能な金融及び財務サービス(特に仮想通貨に特化したもの)の分野において、急速に成長し、その革新的で先駆的な技術や事業戦略により、需要者、投資家及び関係機関からの世界的な注目を集めていた旨(甲8〜甲10、甲12)及びCOINBASEは、デジタル通貨の分野で使いやすいサービスを提供することを重視し、経験豊富な創業者や革新的な技術及び事業戦略と相まって、拡大を続ける技術分野の中で極めて速いペースで成長してきたことが、明らかであり、頻繁に新機能をリリースし、巨額の資金を調達し、短いスパンで国際展開という目標を達成した旨(甲36〜甲87)を主張するが、この裏付けとなる記事が我が国で閲覧されたことを確認することができない。
ウ 請求人は、COINBASEは、本件商標の登録出願時点では、日本市場に正式に参入していなかったものの、我が国のニュースや記事は、COINBASEを頻繁に取り上げていたことが明らかであり、COINBASEは、世界最大の仮想通貨の交換、保管及び処理サービスを行う企業として、国内外の需要者や投資家の世界的な注目を集めていた旨(甲11、甲24〜甲35)主張するが、平成28年(2016年)7月8日付け日本経済新聞の掲載記事(甲11)、同25年(2013年)7月29日付けジェトロビジネス短信の掲載記事(甲24)、同26年(2014年)1月11日発行の週刊東洋経済の掲載記事(甲25)、同年3月10日及び同年4月21日発行の日経ビジネスの掲載記事(甲26、甲27)、同年5月2日付けFujiSankei Business i」の掲載記事(甲28の1)、同日付け宮崎日日新聞の掲載記事(甲28の2)、同日付け熊本日日新聞の掲載記事(甲28の3)、同日付け産経新聞の掲載記事(甲28の4)、同年5月29日発行の日経コンピュータの掲載記事(甲29)、同27年(2015年)1月27日付け朝日新聞の掲載記事(甲30)、同年3月25日付け時事通信の掲載記事(甲31の1)、同日付け時事通信企業の掲載記事(甲31の2)、同月30日付けAERAの掲載記事(甲32)、同年5月17日付け朝日新聞の掲載記事(甲33)、同年6月20日付けGLOBALの掲載記事(甲34)及び同年7月3日付けNNAアジア経済情報の掲載記事(甲35)に、「コインベース」の記載があることは確認できるものの、平成25年(2013年)から同28年(2018年)の間、年に1回ないし数回程度掲載されているにすぎない。
(2)請求人が提出した全証拠を参照しても、請求人による引用商標を表示した役務について、本件商標の登録出願時及び登録査定時における我が国における売上高、市場占有率等を客観的に認識し得る証拠は提出されておらず、我が国及び外国における宣伝広告を行った事実や宣伝広告費及び宣伝地域、また,パンフレットやカタログ等の頒布期間、頒布地域及び頒布数等や、掲載記事の閲覧数等を証明する証拠は提出されていない。
その他、本件商標の登録出願時及び登録査定時における引用商標の周知性の度合いを客観的に判断するための証拠の提出はない。
(3)上記(1)及び(2)を総合すると、引用商標は、請求人が提出した証拠によっては、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る役務を表示するものとして、我が国及び外国において需要者の間に広く知られていると認めることはできない。
2 本件商標と引用商標の類否について
(1)本件商標について
本件商標は、上記第1のとおり、「coinbase」の文字を標準文字で表してなるところ、当該の文字は、辞書等に載録がないものであって、かつ、当該文字が、我が国において、特定の意味合いを有する語として親しまれている等の特段の事情は存在しない。
したがって、本願商標は、その構成文字に相応して「コインベース」の称呼を生じるものであり、特定の観念は生じないものである。
(2)引用商標について
引用商標は、上記第2のとおり、「COINBASE」の欧文字を横書きしたものであるところ、上記(1)のとおり、当該の文字は、辞書等に載録がないものであって、かつ、当該文字が、我が国において、特定の意味合いを有する語として親しまれている等の特段の事情は存在しない。
したがって、引用商標は、その構成文字に相応して、「コインベース」の称呼を生じるものであり、特定の観念は生じないものである。
(3)本件商標と引用商標との類否について
本件商標と引用商標とは、上記(1)及び上記(2)のとおりの構成よりなるところ、両商標は、大文字、小文字の違いはあるものの、これらのつづりを共通にすることから、外観上、類似するものであり、また、「コインベース」の称呼を共通にすることから、これらは、観念において比較することができないとしても、外観が類似し、称呼を共通にするものであるから、両者は、互いに相紛れるおそれのある類似の商標である。
3 本件商標の指定商品及び指定役務と引用商標の指定商品及び指定役務との類否について
請求人は、「本件商標には、仮想通貨取引に関する請求人の商品及び役務と近似した商品及び役務が指定されている。商品及び役務が類似するか否かは、両者の商品及び役務に同一又は類似の商標を使用したときに、当該商品及び役務の取引者ないし需要者に同一の営業主の提供にかかる商品及び役務と誤認されるおそれがあるか否かによって決されるべきである。そして、今日の取引社会にあっては、取引者及び需要者は、商標によって、出所の同一性を識別判断するのが通常であるから、仮に商品及び役務に「実質的に同一の商標」が付されれば、商品及び役務がある程度近似している限り、通常は両商品及び役務の出所が同一であると誤認するおそれが存在するものといえる。」旨主張する。
しかしながら、引用商標の指定商品及び指定役務は、「コンピュータソフトウェア」、「両替,為替取引,電子為替取引」及び「コンピュータの一時使用の提供」の商品及び役務であるところ、本件商標の指定商品及び指定役務は、引用商標の指定商品及び指定役務の生産者、提供者、需要者、用途、目的、販売場所及び提供場所等が必ずしも一致するものではない。
なお、請求人は、被請求人が同業他社であると主張するが、本件商標の指定商品及び指定役務には、仮想通貨取引に関する請求人の商品及び役務と考え得る引用商標の指定商品及び指定役務は含まれていないことから、本件商標をその指定商品及び指定役務に使用した場合に、引用商標と類似する本件商標をその指定商品及び指定役務に使用しても、商品及び役務の出所が同一であると誤認するおそれはない。
さらに、請求人は、「商品及び役務が類似するか否かは、両者の商品及び役務に同一又は類似の商標を使用したときに、当該商品及び役務の取引者ないし需要者に同一の営業主の提供にかかる商品及び役務と誤認されるおそれがあるか否かによって決されるべきである。」と主張するのみで、この主張を立証する証拠は提出していない。
したがって、本件商標の指定商品及び指定役務と引用商標の指定商品及び指定役務とは、類似する商品及び役務ではない。
不正の目的について
請求人は、「引用商標は本件商標の登録出願時、既に米国を中心とした様々な国において、仮想通貨取引に関する商品及び役務の需要者の間で周知性は極めて高いもので、本件商標は引用商標と実質的に同一である。また、引用商標は、請求人が独自に創作した造語である。さらに、被請求人は、請求人と競業関係にあり、本件商標の登録出願時の引用商標に関する事情や、請求人がアジア諸国を含む様々な国で事業展開を行っており、将来、請求人が我が国に進出する可能性があることを認識していたにもかかわらず、仮想通貨取引に関する請求人の商品及び役務と近似した商品及び役務を幅広く指定して登録出願した。よって、本件商標の登録出願は、不正の目的をもって使用するものと推認されるものである。」旨主張する。
しかしながら、上記2のとおり、本件商標と引用商標とは互いに類似する商標であり、「COINBASE(coinbase)」の文字が請求人の創作した造語であるとしても、上記1のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る役務を表示するものとして、我が国及び外国において需要者の間に広く知られていると認めることはできないこと、上記3のとおり、本件商標の指定商品及び指定役務と引用商標の指定商品及び指定役務とは、類似する商品及び役務ではないことに加え、請求人は、被請求人が不正の目的で本件商標を登録出願及び登録査定した旨を主張するのみであって、被請求人が不正の目的をもって、本件商標の登録出願を行ったことを客観的に証明し得る証拠の提出はない。
5 商標法第4条第1項第19号該当性について
上記2のとおり、本件商標と引用商標とは、類似の商標であるとしても、
上記1のとおり、引用商標は、請求人が提出した証拠によっては、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る役務を表示するものとして、我が国及び外国において需要者の間に広く知られていると認めることはできず、上記3のとおり、本件商標の指定商品及び指定役務と引用商標の指定商品及び指定役務とは、類似する商品及び役務ではない。
また、上記4のとおり、請求人は、被請求人が不正の目的で本件商標を登録出願及び登録査定した旨を主張するのみであって、被請求人が不正の目的をもって、本件商標の登録出願を行ったことを客観的に証明し得る証拠の提出はない。
そうすると、本件商標は、引用商標の知名度や名声にただ乗りするなど不正の目的をもって使用をするものと認めることはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
6 商標法第4条第1項第11号該当性について
上記2のとおり、本願商標と引用商標は、いずれも特定の観念が生じないため、観念において比較することができないとしても、外観が類似し、かつ、「コインベース」の称呼を共通にすることから、互いに相紛れるおそれのある類似する商標であるとしても、上記3のとおり、本件商標の指定商品及び指定役務と引用商標の指定商品及び指定役務とは、類似する商品及び役務ではないことからすると、本件商標をその指定商品及び指定役務に使用しても、取引者ないし需要者に、出所の混同を生じさせるおそれがあるとはいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
7 請求人の主張について
請求人は、「本件商標は、請求人の業務にかかる商品及び役務を表示するものとして米国を中心とする様々な国における需要者の間で広く認識されている「COINBASE」と実質的に同一の商標であって、不正の目的をもって使用するものである。また、本件商標は、請求人の引用商標と実質的に同一であり、引用商標に係る指定商品及び指定役務と類似する商品及び役務を指定するものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号及び同項第11号に該当する。」旨主張する。
しかしながら、上記5のとおり、本件商標は、引用商標の知名度や名声にただ乗りするなど不正の目的をもって使用をするものと認めることはできず、また、上記6のとおり、本願商標と引用商標は、互いに相紛れるおそれのある類似の商標であるとしても、本件商標の指定商品及び指定役務と引用商標の指定商品及び指定役務とは、類似する商品及び役務ではないことからすると、本件商標をその指定商品及び指定役務に使用しても、取引者ないし需要者に、出所の混同を生じさせるおそれがあるとはいえない。
したがって、請求人の上記主張は採用することができない。
8 まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第19号及び同項第11号のいずれにも違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
別掲(引用商標の指定商品及び指定役務)
第9類「Downloadable computer software for use in electronically trading, storing, sending, receiving, accepting, and transmitting digital currency, and managing digital currency payment and exchange transactions.」
第36類「Currency exchange services; on-line real-time currency trading; cash management, namely, facilitating transfers of electronic cash equivalents; digital currency exchange transaction services for transferrable electronic cash equivalent units having a specified cash value.」
第42類「Providing temporary use of online non-downloadable software for use in electronically trading, storing, sending, receiving, accepting and transmitting digital currency, and managing digital currency payment and exchange transactions.」


(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。

(この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。

審判長 榎本 政実
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
審理終結日 2022-03-08 
結審通知日 2022-03-11 
審決日 2022-03-30 
出願番号 2015125020 
審決分類 T 1 11・ 261- Y (W0935363842)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 榎本 政実
特許庁審判官 小俣 克巳
豊田 純一
登録日 2016-06-10 
登録番号 5856953 
商標の称呼 コインベース、コイン、ベース 
代理人 三坂 和也 
代理人 井▲高▼ 将斗 
代理人 橘 和之 
代理人 山本 健策 

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