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審決分類 審判 全部無効 商3条柱書 業務尾記載 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W29
管理番号 1390691 
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2022-11-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-10-15 
確定日 2022-10-05 
事件の表示 上記当事者間の登録第5799792号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第5799792号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5799792号商標(以下「本件商標」という。)は,「SAPUTO GORGONZOLA」の文字を標準文字で表してなり,平成27年4月15日に登録出願,同年9月1日に登録査定,第29類「『ゴルゴンゾーラ』の原産地称呼で保護されているイタリア産のチーズ」を指定商品として,同年10月16日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が,請求の理由において,引用する商標は,欧州PDOの保護制度により,請求人及びその構成員(以下「請求人等」という。)の生産するチーズについて独占的排他的に使用されてきた「Gorgonzola」(甲8の1:別掲1)又は「GORGONZOLA」(甲5:別掲2)の欧文字からなる商標であって,我が国において,請求人の保護監督に係るチーズの銘柄を表す商標として,本件商標の登録出願時前より取引者,需要者の間に広く知られ,周知著名となっていると主張するものである。
以下,これらを「引用商標」という。

第3 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第80号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,商標法第4条第1項第10号,同項第15号,同項第19号,同項第7号に該当し,同法第3条第1項柱書に違反してされたものであるから,同法第46条第1項第1号により,その登録は無効にすべきものである。
2 利害関係について
請求人は,1970年以前から永年にわたって,「GORGONZOLA」を付したチーズの保護監督を担ってきた団体である(甲3〜甲5)。
「GORGONZOLA」を使用したチーズは,欧州におけるPDO(Protected Designation of Origin:原産地呼称保護)(イタリア語の略称DOP(Denominazione di Origine Protetta))に認定されていて(甲8,甲9),生産規格(甲10)に定められた品質を備えたチーズにしか「GORGONZOLA」を使用することができない。請求人は,「GORGONZOLA」を付したチーズの生産者をその構成員とし,構成員の生産プロセスや品質の監督の他,「GORGONZOLA」が不正に使用されることのないよう,保護活動を行っている(甲5)。
日本において,「GORGONZOLA」の文字からなる引用商標は,本件商標の出願日(平成27年4月15日)以前から,請求人等が生産するチーズの商標として,取引者・需要者の間に広く知られ,周知著名となっている。
よって,請求人は,「GORGONZOLA」の文字を含む本件商標を無効にすることについて,重大な利害関係を有する。
3 引用商標について
「GORGONZOLA」は,欧州PDO等の保護制度により,請求人等の生産するチーズについて独占的排他的に使用されてきた商標であって,引用商標は,日本において,請求人の保護監督に係るチーズの銘柄を表す商標として,本件商標の出願日前から取引者・需要者の間に広く知られ,周知著名となっている。
さらに,「GORGONZOLA」からなる商標は,平成27年8月28日に請求人によって団体商標として出願され,商標登録されている(甲14)。
(1)欧州PDOによる保護
「GORGONZOLA」は,欧州において,1951年にストレーザ協定で原産地呼称として保護されたのを初めとし,1955年にはイタリア大統領令で原産地呼称(DOP)として保護承認を受け,1996年には,欧州連合におけるPDO(原産地呼称保護)として認定された(甲3,甲6〜甲9)。
PDOは,欧州連合における地理的表示保護制度であり,地理的表示を団体の知的財産権として保護するもので,申請登録した生産規格を満たす産品にのみ,当該表示を使用する排他的権利を認めている(甲7に記載の第13条,甲11〜甲13)。
請求人は,「GORGONZOLA」を付したチーズを保護監督する権限を付与された団体である。請求人は,「GORGONZOLA」を付したチーズの生産者をその構成員とし,委託した認証機関(甲9に記載のCSQA Certificazioni S.r.l)を通じて,構成員の生産プロセスや品質を永年監督してきた。すなわち,引用商標は,欧州PDOの保護の下,永年にわたって,請求人の保護監督下にあるチーズについて,請求人等が独占的排他的に使用してきた商標である。
(2)引用商標の日本における周知著名性について
引用商標を使用した請求人等の生産するチーズは,永年にわたって日本に輸入されていて,日本の多くの書籍や記事(甲15〜甲50)において,「三大ブルーチーズの1つ」や,「イタリアを代表するチーズ」等と紹介されるなど,引用商標の周知著名性は非常に高い。
当該周知著名性が,本件商標の出願日前から継続してきたことは,本件商標の出願日前の発行に係る書籍等において,「日本で最も愛されているブルーチーズ」(甲16),「日本で最も人気者の,イタリア出身の青カビチーズ」(甲17),「一般的には,ブルーチーズといえば,『ゴルゴンゾーラ』だと思っている人が多い」(甲19),「日本でいち早く名前を覚えられたイタリアチーズのひとつ」(甲20)等と紹介されていることからも明らかである。
また,本件商標の出願日前4年間の,引用商標を使用したチーズのイタリアからの輸入量は,2011年が313,644Kg,2012年が351,551Kg,2013年が239,999Kg,2014年が279,162Kgである(甲51)。2011年及び2012年の日本のブルーチーズの輸入量が,745トン,895トンであることを考えれば(甲52),日本における輸入ブルーチーズのおよそ40%以上を,引用商標を使用したチーズが占めていたといえ,ブルーチーズ市場における占有率は非常に高く,当該チーズが,本件商標の出願日前から日本において人気を博していることがうかがえる。
さらに,「GORGONZOLA」がPDO(イタリア語の略称DOP)の認定を受けていて,厳しい生産基準を順守した特定のチーズにしか「GORGONZOLA」の使用が許されないこと(甲22〜甲24,甲26〜甲28),これが付されるチーズは,保護協会である請求人によって,原産地や品質が厳しく管理されていることも,本件商標の出願日前の書籍において紹介されている(甲23,甲24)。
また,請求人自身も,自己の保護監督する引用商標を付したチーズについて,国内外で広く広報活動を行っていて(甲53〜甲74),自己のウェブサイトやSNS,プレスリリースでの情報発信の他(甲5,甲53〜甲56),本件商標の出願日前から,食品に関する国際的な展示会(甲57,甲58)に出展し,請求人が引用商標を使用したチーズの製造販売,流通に関する検査と管理を行っていることを紹介してきた。
以上のことから,引用商標が,本件商標の出願日前から,日本において,請求人が保護監督する,請求人等の製造販売に係る特定のチーズの出所を表す商標として,周知著名であったことは明らかである。
4 商標法第4条第1項第10号該当性について
本件商標「SAPUTO GORGONZOLA」は,「第29類『ゴルゴンゾーラ』の原産地称呼で保護されているイタリア産のチーズ」を指定商品とするものである。
本件商標中の「GORGONZOLA」は,引用商標と同一であり,引用商標が,本件商標の出願日前から,日本において,請求人等の商品,すなわち,本件商標の指定商品を表示するものとして,取引者・需要者の間に広く認識され,周知著名であったことは前述したとおりである。
本件商標は,「SAPUTO」と「GORGONZOLA」の間に一文字分の間隔を空けて書したものであり,外観上「SAPUTO」と「GORGONZOLA」の2語からなるものと容易に認識される。本件商標全体から生じる「サプトゴルゴンゾーラ」の称呼は,長音を含む9音とやや冗長であることからすると,常に一連に称呼されるとはいえない。
「SAPUTO GORGONZOLA」という一連の既存語が存在しない上,「SAPUTO」はイタリア語で「学問のある,博識の,有名な」等の意味があるが(甲75),日本ではなじみがなく,「SAPUTO」と請求人の著名商標「GORGONZOLA」は,観念上のつながりは全くない。
したがって,本件商標は,「SAPUTO」と「GORGONZOLA」と分断して看取することできるところ,これを指定商品について使用した場合には,本件商標全体のみならず,請求人が指定商品に使用して著名な引用商標と同一文字からなる「GORGONZOLA」の文字部分のみも,当然に出所識別標識として認識され取引される。
よって,本件商標は,その指定商品について使用した場合に,引用商標と出所について誤認混同を生じる類似する商標であり,商標法第4条第1項第10号に該当する。
5 商標法第4条第1項第15号該当性について
前述のとおり,本件商標は引用商標と出所について誤認混同を生じる類似する商標であり,類似の程度は高い。引用商標は,欧州PDOの保護の下,永年にわたって,請求人等のチーズについて,請求人等が独占排他的に使用してきた商標であって,本件商標の出願日前から請求人等の製造販売するチーズの出所を表す商標として日本で周知著名である。そして,本件商標の指定商品は,引用商標の使用に係る商品と同一であるため,その性質,用途,目的は同一であり,取引者及び需要者も共通する。また,「SAPUTO」は被請求人の略称であるところ,本件商標が付された指定商品に接する取引者・需要者が,当該商品を,請求人の構成員であるか,請求人又はその構成員が承認したものであるか等,請求人と業務上あるいは組織上何らかの特殊な関係がある者の提供する商品であるかのごとく,その出所について誤認・混同するおそれが非常に高い。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
6 商標法第4条第1項第19号該当性について
本件商標は,前述のとおり,日本及び欧州を含む外国において広く知られた引用商標に類似し,引用商標の使用商品と同一の商品に使用するものである。本件商標権者は,チーズの販売等を行っているところ(甲76),「GORGONZOLA」が欧州PDOで保護され,日本においても,請求人の商標として周知著名であることは当然に知っていたはずあり,本件商標権者の略称に引用商標を結合させた本件商標を使用することにより,本件商標に接する取引者・需要者に,引用商標を連想,想起させ,引用商標に化体した信用,名声,顧客吸引力にただ乗りする等,本件商標が不正の目的をもって出願されたことは明らかである。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当する。
7 商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標は,欧州において,1951年にストレーザ協定で原産地呼称として保護され,1955年にはイタリア大統領令で原産地呼称(DOP)として保護承認を受け,1996年には,欧州連合におけるPDO(原産地呼称保護)として認定された「GORGONZOLA」の文字を含む商標であり,「GORGONZOLA」を付した請求人等の商品は,前述のとおり,日本においても多くの辞書,事典,書籍等で紹介され,「GORGONZOLA」は,請求人等商品に使用する商標として,著名に至っている。
また,日本と欧州連合(EU)による経済連携協定(EPA)によって,「GORGONZOLA」は,日本でも地理的表示として既に保護されている(甲78)。
引用商標は,このようなイタリアの代表的産品の商標であり,永年にわたってイタリア及び欧州で保護され,請求人等の厳格な品質管理等の努力により,周知著名性が蓄積されてきた引用商標と誤認混同が生じる類似する商標について,当該産品の価値の維持に何ら関わってきた者ではないカナダ法人の本件商標権者に独占権を認め,これを維持することは,請求人のみならず,イタリアを含む欧州の国民感情を害し,EPAの締結により相互に地理的名称を保護しようという日本と欧州との関係にも悪影響を与えるものであって,国際信義に反する。
また,PDOの保護の下,「GORGONZOLA」は,実質的に請求人の保護監督下にあるチーズにしか使用が許されていないところ,本件商標権者は請求人の構成員ではなく,登録日から5年近く経過した現在においても,本件商標権者から請求人に対し,加盟についての申出があったという事実もない。そうすると,本件商標権者は,本件商標をその指定商品に使用しないにもかかわらず,引用商標と誤認混同を生じる本件商標について,登録を得たものであるから,出願の経緯に社会的妥当性を欠くものであり,商標法が予定する取引秩序に反する。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。
8 商標法第3条第1項柱書違反について
本件商標の指定商品は,「『ゴルゴンゾーラ』の原産地称呼で保護されているイタリア産のチーズ」であるところ,そのようなチーズは,PDOによる保護の下,実質的に請求人等しか生産できないものであるが,被請求人は,請求人の構成員ではなく,本件商標の出願日から5年以上が経過した現在においても,被請求人から,請求人に対して加盟の申出があったという事実もない。
そうすると,本件商標権者は,本件商標を将来にわたって使用する意思がないにもかかわらず,本件商標を出願したことは明らかである。したがって,本件商標は,商標法第3条第1項柱書に違反して登録されたものである。
9 まとめ
以上のとおり,本件商標は,商標法第3条第1項柱書,同法第4条第1項第7号,同項第10号,同項第15号,同項第19号に違反して登録されたものである。
よって,本件商標の登録は無効とされるべきものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は,請求人の主張に対して何ら答弁していない。

第5 当審の判断
被請求人が本件審判を請求するにつき,利害関係について当事者間に争いがなく,また,当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。
以下,本案について審理する。
1 「GORGONZOLA」について
(1)「GORGONZOLA」は,欧州において,1951年にストレーザ協定で原産地呼称として保護され,1955年にはイタリア大統領令で原産地呼称(DOP)として保護承認を受け,1996年には,欧州連合におけるPDO(原産地呼称保護)として認定された(甲3,甲6〜甲9)。
(2)「GORGONZOLA」は,欧州連合の原産地名称保護制度(PDO:DOP)の下で保護されている(甲3,甲6〜甲9)チーズの名称であり,生産規格に定められた品質を備えたチーズにのみ使用を許される(甲10)。
(3)請求人は,1970年以前から,「GORGONZOLA」を付したチーズの保護監督を行っている(甲3〜甲5)。
(4)以上よりすれば,「GORGONZOLA」は,欧州における原産地名称保護制度により保護される,生産者規格に定められた品質を備えたチーズの名称であり,請求人は,「GORGONZOLA」の名称使用を許可されたチーズの生産や取引の監督を行う者であると認められる。
2 引用商標の周知・著名性について
(1)請求人の提出した証拠及び同人の主張によれば,以下の事実を認めることができる。
ア 書籍
(ア)「新版 チーズの選び方・楽しみ方」(株式会社主婦の友社 平成24年10月20日発行:甲16)には,「ゴルゴンゾーラGorgonzola」の項に「イタリアのブルー 日本でもっと愛されているブルーチーズといえば,このゴルゴンゾーラでしょう。」の記載がある。
(イ)「旬をおいしく楽しむチーズの事典」(株式会社ナツメ社 2010年1月10日発行:甲17)には,「Gorgonzola ゴルゴンゾーラ」の項に「日本で人気ナンバーワンの青カビチーズ。」,「日本で最も人気者の,イタリア出身の青カビチーズ」及び「今では世界三大ブルーの一つ」の記載がある。
(ウ)「世界チーズ大図鑑」(株式会社柴田書店 2011年1月25日発行:甲23)には,「Gorgonzola PDO ゴルゴンゾーラPDO」の項に「豆知識」として「1970年,指定地域の牛乳を使用したチーズのみゴルゴンゾーラを名乗れるように,認可を受けた生産者たちからなる組合が結成された。厳しい基準を満たしたチーズだけに組合の印『G』の刻印が認められる。」の記載がある。
(エ)「イタリアチーズの故郷を訪ねて 歴史あるチーズを守る DOP」(株式会社旭屋出版 2015年2月6日発行:甲24)には,「DOPって,なあに?」「DOPブランドの信頼性」の項に,「原産地としての歴史的証明に加え,認証後の製品の品質管理,イメージ管理,表示管理についてはイタリアの場合,それぞれチーズごとの保護協会がその責任を負っています。各保護協会は,製造については原材料,製造工程や熟成過程を明確に規定し,明文化しています。また,表示に関してはチーズごとにロゴマークを作り,チーズ本体や包材の一部に表示されることになっています。したがって,保護協会には生産者だけでなく,熟成者,販売者までが加盟しています。」の記載,及び,「Gorgonzola ゴルゴンゾーラ」の項には,「DOC取得 1955年10月30日」及び「DOP取得 1996年6月12日」の記載がある。また,「輸入量の伸びはイタリアDOPチーズのなかでもダントツの1位です」の記載がある。
イ ウェブサイト
(ア)雪印メグミルク株式会社のウェブサイト(2016年8月14日印刷:甲34)の「ゴルゴンゾーラ」の項に,「ゴルゴンゾーラとは ゴルゴンゾーラは,ブルーチーズ(青カビタイプ)の一種で,イタリアの代表的なチーズの一つです。世界三大ブルーチーズとしてフランスのロックフォール,イギリスのスティルトンと並んで広く知られています。・・・1996年6月12日,イタリアの原産地名称保護制度(DOP:Denominazione d´Origine Protetta)を取得し,法律的に生産地域が限定されています。」の記載がある。
(イ)株式会社スモーキーフレーバーのウェブサイト(2017年8月23日印刷:甲36)の「ゴルゴンゾーラ・Gorgonzola」の項に,「名称:Gorgonzola」,「原産:イタリア」,「種類:ブルーチーズ」,「取得:原産地名称保護制度・DOP」及び「称号:世界三大ブルーチーズの一つ」の記載がある。
(ウ)IGOR.S.R.L(日本語版)のウェブサイト(2017年8月17日印刷:甲42)の「IGORゴルゴンゾーラの歴史」の項には,「ゴルゴンゾーラは世界で最も人気があり,幅広く親しまれているチーズの1つです。」の記載,及び「ゴルゴンゾーラPDOの審査」の項には,「ゴルゴンゾーラチーズは,欧州経済共同体によって法的に認められ,EEC規制n°1107/96に則って1996年6月12日にPDO製品に登録されました。厳しい法律は,品質と信頼性を確保するため生産基準と,牛乳の収集,生産,熟成に関するPDO地域を定義しています。」及び「生産者がこれらの要件に準拠しているかどうかを,イタリア共和国農業食糧・林業政策省によって指名された団体が定期的に確認しています。適合証明書は上記の規格に完全に準拠しているチーズのみに与えられ,それにより,ゴルゴンゾーラDOPの名前をつけて販売することができます。トレーで販売されるゴルゴンゾーラには,品質保証として,メーカーと包装業者に与えられる適切な承認番号と共にコンソーシアムの印をつけなければなりません。」の記載がある。
ウ 引用商標を使用したチーズのイタリアからの日本への輸入量は,2011年が313,644Kg,2012年が351,551Kg,2013年が239,999Kg,2014年が279,162Kgであり(甲51),2011年及び2012年においては日本のブルーチーズの輸入量(それぞれ745t及び895t:甲52)の約4割を占める。
エ 請求人は,「国際見本市FOODEX JAPAN 2004」及び「国際見本市FOODEX JAPAN 2009」に出展し,請求人が引用商標を使用したチーズの製造販売,流通に関する検査と管理を行っていることを紹介し,販売促進活動を行った(甲57,甲58)。
オ 我が国において,「GORGONZOLA」の標準文字からなる団体商標が,平成27年8月28日に請求人により出願され,第29類「イタリア共和国のベルガモ県、ビエッラ県、ブレシア県、コモ県、クレモナ県、クーネオ県、レッコ県、ローディ県、ミラノ県、モンツァ県、ノヴァーラ県、パヴィーア県、ヴァレーゼ県、ヴェルバーノ・クジオ・オッソラ県、ヴェルチェッリ県の全県及びアレッサンドリア県のカザーレ・モンフェラート、ヴィッラノーヴァ・モンフェッラート、バルツォラ、モラーノ・ポー、コニオーロ、ポンテストゥーラ、セッラルンガ・ディ・クレーア、チェレゼート、トレヴィッレ、オッツァーノ・モンフェッラート、サン・ジョルジョ・モンフェッラート、サーラ・モンフェッラート、チェッラ・モンテ、ロジニャーノ・モンフェッラート、テッルッジャ、オッティーリオ、フラッシネッロ・モンフェッラート、オリーヴォラ、ヴィニャーレ、カマーニャ、コンツァーノ、オッチミアーノ、ミラベッロ・モンフェッラート、ジャローレ、ヴァレンツァ、ポマーロ・モンフェッラート、ボッツォレ、ヴァルマッカ、ティチネート、ボルゴ・サン・マルティーノ、フラッシネート・ポーにおいて生産されるチーズ」を指定商品として,令和2年7月21日に商標登録されている(登録第6271852号:甲14)。
(2)上記(1)により認定した事実によれば,「GORGONZOLA」又は「Gorgonzola」の欧文字よりなる引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人等の業務に係る商品(チーズ)を表示するものとして,我が国の需要者の間に広く認識されていたものと認められる。
3 商標法第4条第1項第10号該当性について
(1)引用商標の周知性について
引用商標は,上記2のとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人等の業務に係る商品(チーズ)を表示するものとして,我が国の需要者の間に広く認識されていたものである。
(2)本件商標と引用商標について
ア 本件商標について
本件商標は,上記第1のとおり「SAPUTO GORGONZOLA」の文字よりなるところ,上記2(2)のとおり,その構成中「GORGONZOLA」は,請求人等の業務に係る商品(チーズ)を表すものとして周知性を獲得し,出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められることからすれば,本件商標から「GORGONZOLA」の文字部分を要部として抽出し,この部分のみを他人の商標(引用商標)と比較して商標そのものの類否を判断することも許されるというべきである。
そうすると,本件商標は,全体の構成文字に相応して生じる「サプトゴルゴンゾーラ」の称呼のほかに,その要部である,「GORGONZOLA」の文字部分に相応して「ゴルゴンゾーラ」の称呼及び請求人等の業務に係る商品(チーズ)の観念を生じるものである。
イ 引用商標について
引用商標は,「GORGONZOLA」又は「Gorgonzola」の欧文字よりなるものであるから,構成文字に相応して「ゴルゴンゾーラ」の称呼及び請求人等の業務に係る商品(チーズ)の観念を生ずるものである。
ウ 本件商標と引用商標との類否について
本件商標と引用商標は,それぞれ上記(ア)及び(イ)の構成よりなるところ,本件商標の要部である「GORGONZOLA」の文字部分と引用商標とを比較すると,両者は「GORGONZOLA」の文字部分が同一であるから,外観上,「GORGONZOLA」の文字を共通にするものである。
そして,称呼及び観念においては,本件商標の要部である「GORGONZOLA」と引用商標とは,共に「ゴルゴンゾーラ」の称呼及び請求人等の業務に係る商品(チーズ)の観念を生じるから,両者は称呼及び観念を同一にするものである。
そうすると,本件商標と引用商標とは,外観全体の構成が異なるとしても,本件商標の要部である「GORGONZOLA」の文字部分と引用商標は,称呼及び観念を同一にするものであって,外観も共通するものであるから,これらが取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合的に考察すれば,両者は互いに相紛れるおそれのある類似の商標と判断するのが相当である。
(3)本件商標の指定商品と引用商標の指定商品との類否について
本件商標の指定商品は「『ゴルゴンゾーラ』の原産地称呼で保護されているイタリア産のチーズ」であるところ,引用商標が使用される商品は,上記1のとおり,「欧州における原産地名称保護制度により保護される,生産者規格に定められた品質を備えたチーズ」であるから,両商品は,類似するものである。
(4)小括
以上のとおり,本件商標は,「欧州における原産地名称保護制度により保護される,生産者規格に定められた品質を備えたチーズ」に使用されて需要者の間で広く認識されるに至った商標「GORGONZOLA」と類似する商標であって,その商品に類似する商品に使用をするものであるから,商標法第4条第1項第10号に該当する。
4 商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標は,上記第1のとおり「SAPUTO GORGONZOLA」の文字よりなり,第29類「『ゴルゴンゾーラ』の原産地称呼で保護されているイタリア産のチーズ」を指定商品としているものである。
そして,上記1のとおり「GORGONZOLA」の文字は,「欧州における原産地名称保護制度により保護される,生産者規格に定められた品質を備えたチーズ」を意味する語であって,請求人は,「GORGONZOLA」の名称使用を許可されたチーズの生産や取引の監督を行う者である。
また,上記2のとおり,「GORGONZOLA」の文字は,永年にわたってイタリア及び欧州で保護され,請求人等の業務に係る商品(チーズ)を表示するものとして,需要者の間に広く認識されていたものと認められるものであり,請求人等の品質管理等の努力により,「GORGONZOLA」の表示に,周知・著名性が蓄積,維持され,それに伴って高い名声,信用,評判が化体されているということができる,このことは,我が国においても同様のことがいえる。
以上により,「GORGONZOLA」の文字及びそれを使用した「欧州における原産地名称保護制度により保護される,生産者規格に定められた品質を備えたチーズ」は,イタリア及びイタリア国民の文化的所産ともいうべきものとなっており,重要性が極めて高いものであることが認められる。
そうすると,標章の構成中に「GORGONZOLA」の文字を有する本件商標をその指定商品に使用することは,イタリアにおけるチーズの生産者の利益を代表する請求人等のみならず,欧州における原産地名称保護制度により「GORGONZOLA」の名声,信用ないし評判を保護してきたイタリアを含む欧州の国民感情を害し,日本とイタリアを含む欧州との友好関係にも好ましくない影響を及ぼしかねないものであり,国際信義に反し,日本とイタリアを含む欧州の公益を損なうおそれが高いといわざるを得ない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。
5 商標法第3条第1項柱書について
商標法第3条第1項柱書の「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」とは,少なくとも登録査定時において,現に自己の業務に係る商品又は役務に使用をしている商標,あるいは,将来,自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思のある商標と解される(知財高裁 平成24年(行ケ)第10019号同年5月31日判決参照)。
この点,請求人は,本件商標の指定商品,「『ゴルゴンゾーラ』の原産地称呼で保護されているイタリア産のチーズ」は,PDOによる保護の下,実質的に請求人等しか生産できないものであるところ,被請求人は,請求人の構成員ではなく,本件商標の出願日から5年以上が経過した現在においても,被請求人から,請求人に対して加盟の申出があったという事実もないから,本件商標権者は,本件商標を将来にわたって使用する意思がない旨主張する。
しかしながら,商標法第3条第1項柱書にいう「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする」とは,現に行っている業務に係る商品又は役務について,現に使用している場合のみならず,将来行う意思がある業務に係る商品又は役務について将来使用する意思を有する場合も含むと解される。
そうすると,被請求人が,本件商標の登録査定時において,本件商標を自己の業務に係る指定商品について現に使用をしていなくとも,将来においてその使用をする意思があれば,商標法第3条第1項柱書の要件を具備するといえるところ,将来自己の業務に係る本件商標の指定商品に本件商標を使用する意思を有していたことを否定することはできない。
上記のとおりであるから,本件商標は,その登録査定時において,商標法第3条第1項柱書の要件を具備していなかったということはできず,請求人の主張は理由がない。
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項柱書の要件を具備していたものと認める。
6 商標法第4条第1項第15号該当性について
商標法第4条第1項第15号は,「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第10号から前号までに掲げるものを除く。)」と規定されている。
したがって,本件商標は,上記3のとおり,商標法第4条第1項第10号に該当するものである以上,同項第15号に該当するものとはいえない。
7 商標法第4条第1項第19号該当性について
請求人は,本件商標権者はチーズの販売等を行っているところ,引用商標が欧州PDOで保護され,日本においても,請求人の商標として周知著名であることは当然に知っていたはずであるから,本件商標を使用することにより,本件商標に接する取引者・需要者に,引用商標を連想,想起させ,引用商標に化体した信用,名声,顧客吸引力にただ乗りする等,本件商標が不正の目的をもって出願されたことは明らかである旨主張している。
しかしながら,請求人が提出した甲各号証を総合してみても,本件商標権者が,引用商標の信用にただ乗りし,引用商標の出所表示機能を希釈化し又は名声を毀損させるものというべき事実は見いだせないし,他に不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって本件商標を出願し,登録を受けたと認めるに足りる具体的事実も見いだせない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。
8 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第3条第1項柱書の要件を具備し,同法第4条第1項第15号及び同項第19号に該当しないとしても,同項第7号及び同項第10号に該当するものであるから,同法第46条第1項の規定により,その登録を無効とすべきである。
よって,結論のとおり審決する。


別掲
別掲1(引用商標)

別掲2(引用商標)



(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは,この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は,その日数を附加します。)以内に,この審決に係る相手方当事者を被告として,提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は,著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては,著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。

審判長 平澤 芳行
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
審理終結日 2022-03-14 
結審通知日 2022-03-16 
審決日 2022-03-29 
出願番号 2015036870 
審決分類 T 1 11・ 18- Z (W29)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 平澤 芳行
特許庁審判官 鈴木 雅也
佐藤 松江
登録日 2015-10-16 
登録番号 5799792 
商標の称呼 サプトゴルゴンゾーラ、サプト 
代理人 市川 久美子 
代理人 山尾 憲人 
代理人 川本 真由美 

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