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審決分類 審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効とする(請求一部成立)取り消す(申し立て一部成立) W03293041
管理番号 1389841 
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2022-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2021-08-02 
確定日 2022-07-11 
事件の表示 上記当事者間の登録第6315057号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第6315057号の指定役務中、第41類「植物の供覧」についての登録を無効とする。 その余の指定商品及び指定役務についての審判請求は成り立たない。 審判費用は、その2分の1を請求人の負担とし、2分の1を被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第6315057号商標(以下「本件商標」という。)は、「樹齢1000年オリーブ大樹」の文字を標準文字で表してなり、令和元年8月5日に登録出願、第3類、第29類、第30類及び第41類に属する商標登録原簿に記載の商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同2年10月29日に登録査定され、同年11月11日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が引用する商標は、「樹齢千年のオリーヴ大樹」の文字からなり(以下「引用商標」という。)、同人が「植物の供覧」について使用し需要者の間に広く認識されているとするものである。

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第80号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録は無効とされるべきものである。
2 具体的な理由
(1)請求人について
請求人は、1985年10月19日に設立された、香川県の小豆島に所在する企業であり、主な事業内容は、オリーブ事業、小豆島・島内事業、地域事業の3つである。事業の中心はオリーブ事業であり、オリーブ化粧品、オリーブ健康食品の開発・製造・販売のほかオリーブ機能性研究、オリーブ栽培等、オリーブに関する事業を幅広く行っている。2020年4月1日現在の従業員数は120名、資本金は9,995万円である(甲2)。
(2)利害関係について
引用商標は、請求人が2011年から今日まで長年にわたり、植物の供覧に使用した結果、需要者間に広く認識されるに至った商標である。他方、被請求人は、請求人が商標出願・登録をしていないことを奇貨として、無断で本件商標登録出願を行い、登録を受けたものである。
請求人は、本件商標の商標登録により、引用商標を「植物の供覧」等に継続的に使用することについて、重大な支障を来すおそれがあるから、本件無効審判請求をすることについて利害関係を有する。
(3)商標法第4条第1項第10号について
ア 引用商標は需要者間に広く認識されていること
請求人が供覧している植物は、以下の媒体において「樹齢千年のオリーヴ大樹」、「樹齢1000年のオリーヴ大樹」等として紹介されている。
(ア)新聞、雑誌、インターネット等における記事掲載状況
新聞記事において、請求人が供覧している植物は、「樹齢千年のオリーヴ大樹」として紹介されている(甲3〜甲5)。
また、雑誌、書籍において、請求人が供覧している植物は、「樹齢1000年のオリーヴ大樹」「オリーヴの森の樹齢1000年のオリーヴ大樹」として(甲6〜甲15)、あるいは、「1000年オリーヴ」「オリーヴの大樹」等として(甲16〜甲23)紹介されている。
さらに、インターネットの記事において、請求人が供覧している植物は、「樹齢1000年のオリーヴ大樹」として紹介されている(甲24〜甲27)。
なお、現在においても継続して、雑誌等において「樹齢1000年のオリーヴ大樹」として紹介されている(甲28〜甲33)。
(イ)広告宣伝状況
請求人が供覧している植物は、TVやラジオ(甲34〜甲38)において紹介されたほか、新聞広告(甲39〜甲42)、チラシ(甲43〜甲59)、請求人発行の冊子(甲60〜甲66)において広告宣伝を行っている。また、「樹齢千年のオリーヴ大樹」を会場とするイベントが開催される等、請求人が供覧している植物が、イベントにおいて紹介されている(甲67〜甲76)。
(ウ)引用商標の周知性のまとめ
以上のとおり、請求人が2011年から現在に至るまで、長年にわたり植物の供覧に使用してきた引用商標などの商標は、本件商標の出願時である2019年よりはるか以前から今日に至るまで、需要者間に広く認識される商標となっていたことは明らかである。
イ 「樹齢千年のオリーヴ大樹」(引用商標)が使用され、需要者間に広く認識された役務について
本件商標の指定役務のうち第41類「植物の供覧」について、請求人は引用商標を使用して需要者に広く認識されているものである。
ウ 小括
本件商標は、需要者間に広く認識された引用商標と類似し、その指定役務中、第41類「植物の供覧」は、請求人の使用する役務と同一又は類似する。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第15号について
上述のとおり、請求人は引用商標などの商標を2011年から現在まで長年にわたり、植物の供覧に使用した結果、周知著名な商標となるに至ったことは明らかである。
そうすると、請求人が引用商標を使用している「植物の供覧」と非類似の商品や役務について本件商標が使用される場合であっても、商品や役務の出所について、誤認混同を生じさせるおそれがある。少なくとも第3類「オリーブを含有してなるせっけん類」等、第29類「オリーブオイル」等については、請求人の使用する役務と密接に関係するものであり、また請求人の事業の中心はオリーブ事業であり、オリーブ化粧品、オリーブ健康食品の開発・製造・販売業務を行っているため、このような商品に本件商標を使用した場合、請求人の業務に係る商品や役務であるか、あるいは請求人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品や役務であるかのごとく、商品や役務の出所について、誤認混同を生じさせるおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第19号について
ア 引用商標が需要者に広く認識されていること
請求人の使用する引用商標が本件商標の出願日前及び登録査定時において、日本国内において少なくとも周知の商標となっていたことは、上記(3)アのとおりである。
イ 本件商標と引用商標とが同一又は類似すること
本件商標と引用商標の相違点は、「1000」と「千」、「ブ」と「ヴ」及び「の」の有無であり、「ジュレイセンネン(ノ)オリーヴタイジュ」の称呼を生じるから、外観、称呼において類似するものである。また、観念においては、「樹齢千年のオリーヴの大きな樹木」程の意味を想起させることから観念においても共通する。
したがって、両商標は、その外観、称呼及び観念の何れにおいても同一又は類似する商標というべきである。
ウ 被請求人が不正の目的をもって使用すること
被請求人は、2019年6月24日に請求人の運営する小豆島ヘルシーランドの千年大樹・オリーヴの森駅に視察に来ており、オリーヴの森駅で熱心にオリーヴを活かした商品の研究・勉強をしており、また「ゆずオリーヴオイル」ほかオリーヴを原料とした商品を購入している(甲77、甲78)。
上述のとおり、被請求人は、請求人の運営する小豆島ヘルシーランドを視察した後、同年8月5日に本件商標を出願していることから、当然に引用商標が周知著名な商標であることを知りながら、請求人が商標出願・登録をしていないことを知った上で、剽窃的な出願を行い登録を得たものであることは明らかである。
また、請求人は、「ついに開花!樹齢1000年のオリーヴ大樹。それは、瀬戸内・小豆島にあります。」のタイトルのもと、「樹齢1000年のオリーヴ大樹」が2012年6月に奇跡的に開花したことを伝えるとともに、「樹齢1000年のオリーヴ大樹」は、スペインのアンダルシア地方から神戸港を経由して、2011年3月12日に自社のオリーヴの森に移植され、同年3月15日に平和と繁栄を祈念した植樹式を行い、平和のシンボルツリーになったこと等について、2012年6月の時点で自社のHPに掲載している(甲79)。
一方、被請求人は、2019年3月18日にオリーヴの木をスペインから輸入し、名古屋港を経由して、同年6月1日になばなの里に植樹し、関係者を招いて植樹式を行い、長島の地のシンボルツリーとなったことを自社のHPに掲載していることから、被請求人が本件商標の使用を開始したのは、2019年以降であるといえる(甲80)。
上記のとおり、被請求人が本件商標の使用を開始した2019年よりかなり前の2012年の時点において、既に請求人は自社のHPにおいて「樹齢1000年のオリーヴ大樹」を紹介していた事実が存在する。
また、スペインからオリーヴの木を輸入し、自社の管理する土地に植樹し、植樹式を行った後、オリーヴの木をシンボルとして位置付けて一般公開するという一連の業務内容が酷似していることに鑑みれば、被請求人は、請求人の周知著名な引用商標「樹齢千年のオリーヴ大樹」を熟知した上で、「樹齢1000年オリーブ大樹」を使用しているといわざるを得ない。
さらに、請求人の引用商標は、請求人が独自に創り出した造語であり、請求人の業務に係る役務の出所表示として周知著名であることは上述のとおりである。
そうとすれば、比較的長いネーミングである引用商標と酷似する本件商標が、引用商標とは無関係に採択されたとは到底考えられないため、本件商標は、周知著名な引用商標の名声にフリーライドして不正の利益を得る目的をもって商標出願・登録したものであることは明らかである。
エ 小括
以上のとおり、本件商標は、引用商標と同一又は類似であって、引用商標が周知著名な商標であることを知りながら、被請求人が商標登録することにより、引用商標の名声を利用して不正な利益を得ることを目的として登録を得たものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第3号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第10号について
ア 新聞、雑誌、インターネット等における記事掲載状況に関して
(ア)新聞での紹介について
甲第3号証ないし甲第5号証には、見出しや記事中に「樹齢千年のオリーヴの大樹」「樹齢千年のオリーヴ大樹」の文字が存在するが、これらは、いずれも小豆島に樹齢千年のオリーヴの大樹が存在することを伝える記事内容に「樹齢千年のオリーヴ大樹」の文字が存在するだけである。また、甲第3号証には、「セレモニーを機に一般公開する。」との紹介があるが、植樹されたオリーヴの大樹という公開対象を一般の人に告知するだけである。
(イ)雑誌、書籍での紹介について
甲第6号証ないし甲第23号証には、記事中や見出しに「樹齢1000年のオリーヴ大樹」「樹齢1000年のオリーブ大樹」「樹齢千年のオリーヴ大樹」「1000年オリーヴ」「千年オリーブ」「樹齢1000年のオリーブ」「樹齢1000年の大樹」「樹齢1000年の生命の樹」「1000年を超えるオリーヴの樹」「オリーヴの千年樹」の文字が存在するが、これらの紹介記事は、小豆島に樹齢千年のオリーヴの大樹が存在することを伝える内容(甲6〜甲11、甲15)、樹齢千年のオリーヴの大樹が植樹されたことを伝える内容(甲12)、樹齢千年のオリーヴの大樹から美容オイルが抽出できること伝える内容(甲13、甲14)のいずれかである。
また、甲第16号証ないし甲第23号証においては、請求人が周知商標であると主張する引用商標の文字が使用されていない。甲第16号証には、引用商標の文字の使用がないのに加えて、オリーヴの大樹という公開対象を一般の人に告知するだけである。
(ウ)インターネット記事での紹介について
甲第24号証ないし甲第33号証には、記事中などに「樹齢1,000年のオリーヴ大樹」「樹齢1000年のオリーヴ大樹」「樹齢1,000年のオリーヴの大樹」「樹齢千年のオリーヴ大樹」の文字が存在するが、これらの紹介記事は、オリーヴ大樹の開花を伝える内容(甲24)、請求人が販売する化粧品のCMを紹介する内容(甲25)、観光・見学場所として紹介する内容(甲26〜甲28、甲30、甲31)、小豆島に樹齢千年のオリーヴの大樹が存在することを伝える内容(甲29、甲32、甲33)のいずれかである。
イ 広告宣伝状況に関して
(ア)TV、ラジオについて
甲第34号証及び甲第35号証は、請求人が植樹したオリーブの大樹に関するTV放映に係るものであり、甲第35号証には見出し及び記事中に「オリーヴ大樹」「樹齢千年のオリーヴ大樹」の文字が存在するが、これらは、小豆島に樹齢千年のオリーヴの大樹が移植されたことを内容とするものである。
また、甲第36号証ないし甲第38号証には、見出し及び説明文中に「樹齢1,000年のオリーヴ大樹」「樹齢1000年のオリーヴ大樹」「樹齢1000年のオリーヴの樹」の文字が存在するが、これらは、いずれも小豆島に樹齢千年のオリーヴの大樹が存在することを紹介する内容であり、また、引用商標の文字も使用されていない。
(イ)新聞広告、チラシ、冊子について
a 新聞広告
甲第39号証ないし甲第42号証には、説明文中に「樹齢千年のオリーヴ大樹」「樹齢1000年のオリーヴ大樹」の文字が存在するが、これらは、いずれも化粧品の広告に掲載した樹齢千年のオリーヴ大樹の写真の説明である。
b チラシ
甲第43号証、甲第46号証、甲第49号証、甲第52号証、甲第54号証及び甲第56号証には、記事中に「樹齢1000年のオリーヴ大樹」「樹齢千年のオリーヴ大樹」の文字が存在するが、これらは、いずれも化粧品の広告に掲載した樹齢千年のオリーヴ大樹の写真の説明である。
c 冊子
甲第60号証、甲第63号証及び甲第65号証には、記事中などに「樹齢1000年のオリーヴ大樹」の文字が存在するが、これらは、オリーヴが実を付けた紹介(甲60)、カレンダーなどの掲載写真の説明(甲63、甲65)であり、表記も「樹齢1000年のオリーヴ大樹」である。
(ウ)イベント実施について
甲第67号証、甲第69号証ないし甲第74号証及び甲第76号証には、説明文中などに「樹齢1000年のオリーヴ大樹」「樹齢千年のオリーヴ大樹」の文字が存在するが、甲第67号証、甲第69号証及び甲第70号証は、「樹齢1000年のオリーヴ大樹」の文字を二段で表記する観光場所としての告知(甲67、甲69)、掲載写真の説明文(甲70)である。また、甲第71号証ないし甲第74号証及び甲第76号証は、セレモニー内容やセレモニー場所を説明するために「樹齢千年のオリーヴの大樹」の文字を使用しているだけである。
ウ 甲号証における「植樹されたオリーヴ」の記述
引用商標が需要者間に広く認識されていたことを立証するための甲号証においては、見出しや記事中などで、植樹されたオリーヴに関して、
・「樹齢千年のオリーヴ大樹」(甲3〜甲5、甲9〜甲14、甲25〜甲29等)
・「樹齢1000年のオリーヴ大樹」(甲6、甲15、甲60、甲63、甲65、甲67等)
・「樹齢1000年のオリーブ大樹」(甲7、甲8等)
・「樹齢1,000年のオリーヴ大樹」(甲24等)
・「樹齢1000年の大樹」(甲19等)
・「樹齢1000年のオリーブ」(甲18等)
・「1000年を超えるオリーヴの樹」(甲22)
・「1000年オリーブ」(甲16〜甲18)
・「1000年のオリーヴ」(甲21)
・「オリーブの千年樹」(甲23)
と様々な態様で記述されている。
商標としての使用であれば、少なくとも文字に関しては完全に一致する文字列での使用が行われるのに対して、上記のようにばらつきがあるのは、これらの文字を使用するに際して、一連の文字から構成される商標として認識していなかった証左であり、各甲号証での上記のオリーヴに関する記述は、植樹されたオリーヴについての単なる説明文に過ぎない。
エ 以上のとおり、請求人が商標として主張している表現の内容や表記方法は、統一・一貫されていないことからすると、引用商標は、オリーブの樹木の属性等を一般的・説明的・記述的に表現したものに過ぎない。
甲号証のうちの多くの記載内容は、請求人が業として「植物の供覧」という役務を行うことを表示するものとして、請求人が商標として主張している表現を用いているわけではなく、むしろ、請求人のオリーブ事業のシンボル的な意味合いとして請求人の農園にオリーブの樹木が移植されている事実を、説明的・記述的に記載しているものに過ぎないものである。
したがって、引用商標の表現は、請求人の役務である「植物の供覧」を表示するものとして商標的に使用したものではなく、また、「植物の供覧」の役務について引用商標の周知性を示すものでもない。
そして、甲第2号証によれば、請求人の事業内容として、オリーブ栽培及びその関連商品の製造販売等が示されてはいるが、「植物の供覧」に関する事業は掲載されていない。このことからも、請求人は「植物の供覧」という役務を業として提供することは行っておらず、シンボル的な意味合いとしてオリーブを植樹しているにすぎない。
オ 小括
よって、引用商標は、請求人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものでも、需要者の間に広く認識されている商標でもないので、請求人の使用により需要者に広く認識されていた周知商標ではなく、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当しないことは明らかである。
2 商標法第4条第1項第15号について
上記1で説明したように、引用商標は「業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者に広く認識されていた」商標ではなく、著名な商標ではないことは明らかであり、被請求人による本件商標の使用が商品及び役務の出所混同を生じさせることはなく、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当しないことは明らかである。
3 商標法第4条第1項第19号について
ア 被請求人によるオリーブ植樹の経緯
被請求人は、三重県桑名市長島町でナガシマリゾートの名称で各種施設(温泉施設:長島温泉、宿泊施設:ホテル花水木、ガーデンホテルオリーブ等、遊園地:ナガシマスパーランド、植物園:なばなの里)等を経営する法人であるが、2016年頃に遊園地に設置する遊戯機械を購入している商社であるKCA株式会社から「オリーブ千年樹」を紹介され、2018年に2本購入契約し、2019年6月に「各種植物の供覧等」を行っている「なばなの里」及び「ガーデンホテルオリーブ 入口」にそれぞれ植樹したものである。
オリーブ千年樹の輸入販売は普通に行われており(乙1)、海外からオリーブ千年樹を購入して植樹することは、請求人の特別な事業ではなく希望すれば誰もが行うことができるものである(乙2)。
被請求人が「オリーブ千年樹」の植樹を行ったのは、「なばなの里」における観賞対象の充実を図ることが主目的であるが、被請求人にとって「オリーブ」は1991年から採用してきたホテル名(ガーデンホテルオリーブ)としてこだわりのある植物でもあり、請求人が主張するような不正目的のために、2016年に突然「オリーブ」に目を付けたものではない。
被請求人がオリーブの植樹等のオリーブ事業を展開するに際し、オリーブ事業を既に行っていた複数会社について、関連する商品・農園・工場・関連施設を視察する中、2019年6月に被請求人の購買部の社員が請求人施設を訪問したのは事実であるが、その際に、植樹にかかわるノウハウなどを請求人会社に対して求めたり教示されたりしたことはない。また、仮に被請求人が請求人会社の視察からオリーブ事業の参考になる話を聞けたとしても、既存事業の視察行為は自由競争の下で通常行われている範ちゅうであり、不正行為に該当するようなものではない。
被請求人が商社を介して輸入した「オリーブ千年樹」は、請求人のオリーヴ樹と同じスペイン産ではあるが、「カタルーニャ州タラゴナ」から取り寄せたものであり(請求人のオリーヴ樹はアンダルシア地方)、独自ルートによるものである。
イ 被請求人による本件商標の使用は不正行為ではない
請求人は「2019年にスペインからオリーブの木を輸入し、自社の管理する土地に植樹し、植樹式を行った後に、シンボルとして位置付けて一般公開するという一連の業務内容が酷似している」と主張する。
被請求人は、自社の施設内にオリーブを植樹するに際し、記念式(セレモニー)を行い、その後にオリーブ樹木の一般公開を行ってはいるが、一連の行為は植樹における一般的な対応であり、何ら珍しいものではない。
被請求人は、2016年にもナガシマリゾートを主会場として開催される「2016年ジュニア・サミットin三重」を記念したオリーブの植樹に際して記念式典を行っており(乙3)、「樹齢1000年オリーブ大樹」の植樹に関して、請求人の一連の行為の真似をしたものではない。
元来、植物の移植(植樹)は、例を挙げるまでもなく各種の記念行事の際に普通に行われていることであり、請求人が発案したものではなく、樹齢千年のオリーブの木の植樹を独占的に実施する何らかの権利を請求人が有していたものでもない。
本件商標の出願にあたり、請求人は「周知商標であることを知りながら、請求人が商標出願・登録をしていないことを知った上で、剽窃的な出願を行った」と指摘するが、請求人の使用する引用商標が周知商標でないことは上述したとおりであり、被請求人による出願は、オリーブ事業において将来的に販売予定の各種商品及び提供予定の役務について、本件商標の自己の使用を確保するために行ったものである。
請求人は、引用商標は請求人の造語である旨を主張するが、「樹齢千年」「オリーヴ」「大樹」はいずれも辞書に存在するような通常使用されている語句であり、「樹齢」が「千年」の「オリーヴ」の「大樹」の属性を説明して表現するための用語として極めて普通の語順で選択されたものであり、請求人の考えた造語ではない。
また、被請求人は商標選択に際し、樹齢が千年であることを強調するため「1000年」の文字を使用し、商標名らしく一連の名詞とするため「の」を用いることなく、「樹齢1000年オリーブ大樹」と連続した文字列にしたものであり、請求人が周知商標であると主張する「樹齢千年のオリーヴ大樹」とは少なくとも同一ではない。すなわち、本件商標は、役務や商品に対して商標的な使用を行うのに適した文字列であり、請求人の使用する文字列「樹齢千年のオリーヴ大樹」のように、千年樹の属性を単純に表現したものとは異なる。このことからも、被請求人の出願行為は、フリーライドして不正の利益を得るために「請求人が商標出願・登録をしていないことを知った上で、剽窃的な出願を行った」との認識は失当である。
請求人は、「不正の利益を得る目的をもって商標を出願した」と主張するが、請求人が使用する引用商標が周知商標でないのは上述したとおりであるので、被請求人による本件商標の使用が商品及び役務の出所混同を生じさせたり出所表示機能を希釈化させることはない。すなわち被請求人による出願は、請求人が主張するような「請求人の周知著名な商標を知りながら、自らが商標登録することにより、請求人の名声を利用して不正な利益を得る」ものではない。
また、請求人は「請求人商標の使用を妨げるという不正の目的をもって登録を得たものである」とも主張しているが、被請求人が請求人の「樹齢千年のオリーヴ大樹」の使用を妨げるような事実もない。
ウ したがって、被請求人による本件商標の使用は、請求人の有する業務上の信用と顧客吸引力のただ乗りに該当するものでなく、まして、不正の利益を得る目的や請求人に損害を加える目的がないことは明白であり、請求人の「本件商標は、周知著名な請求人の商標の名声にフリーライドして不正の利益を得る目的をもって商標出願・登録した」との主張には理由がなく、本件商標に関して商標法第4条第1項第19号の適用を認める余地はない。

第5 当審における無効理由の通知
当審は、請求人及び被請求人に対し、本件商標はその指定役務中、第41類「植物の供覧」について商標法第3条第1項第3号に該当する旨の無効理由を令和4年3月8日付けで通知し、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えた。

第6 請求人及び被請求人の意見
請求人は、上記第5の取消理由に対し、令和4年4月7日付け意見書において、要旨次のように述べた。
なお、被請求人は、上記第5の取消理由に対して、指定した期間内に何ら意見を述べていない。
1 第41類「植物の供覧」については、商標法第3条第1項第3号に違反してされたものであるから無効とすべきであるという無効理由の判断については、同意する。
被請求人は、答弁書で引用商標について「「樹齢千年」「オリーヴ」「大樹」はいずれも辞書に存在するような通常使用される語句であり、「樹齢」が「千年」の「オリーヴ」の「大樹」の属性を説明して表現するための用語として極めて普通の語順で選択されたものであり、請求人の考えた造語ではない。」と述べているが、引用商標と本件商標とは、「千年」と「1000年」、「オリーヴ」と「オリーブ」、「の」の有無においてのみ相違するものの、商標の構成においてほぼ同一であるため、本件商標においても「樹齢」が「1000年」の「オリーブ」の「大樹」の属性を説明して表現するための用語として極めて普通の語順で選択されたものであることは明らかである。
2 「樹齢1000年」「オリーブの木」等の文字を「オリーブオイル」に付して、「樹齢が1000年のオリーブから搾油したオリーブオイル」の意味で使用されている例が多数存在することからすれば、本件商標をその指定商品中、「オリーブオイル」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、「樹齢が1000年のオリーブの大樹から搾油したオリーブオイル」であること、すなわち、商品の品質を表示したものと認識するにとどまるというのが相当であり、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。
3 「樹齢が100年のオリーブから収穫されたオリーブからなる石けん」あるいは「樹齢が100年以上のオリーブから収穫されたオリーブからなるオイル(化粧品)」の使用例が存在することからすれば、本件商標をその指定商品中、「オリーブを含有してなるせっけん類,オリーブを含有してなる化粧品」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、「樹齢が1000年のオリーブの大樹から収穫されたオリーブを含有してなるせっけん類,樹齢が1000年のオリーブの大樹から収穫されたオリーブを含有してなる化粧品」であること、すなわち、商品の品質を表示したものと認識するにとどまるというのが相当であり、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。
4 上記2及び3で述べた、第29類「オリーブオイル」、第3類「オリーブを含有してなるせっけん類,オリーブを含有してなる化粧品」について、樹齢が1000年でないオリーブの木から収穫された商品に本件商標を使用すると、商品の品質の誤認を生じるおそれがあるため、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当する。

第7 当審の判断
1 利害関係
請求人が本件審判を請求することの利害関係の有無については、当事者間に争いがなく、また、当審は請求人が本件審判の請求について利害関係を有するものと認める。
2 商標法第3条第1項第3号について
本件商標は、上記第1のとおり、「樹齢1000年オリーブ大樹」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の「樹齢」の文字は「樹木の年齢」の意味を、「オリーブ」の文字は「モクセイ科の常緑小高木」の意味を、「大樹」の文字は「大きな木」の意味を有する語(広辞苑 第七版)として、それぞれ親しまれているものであり、その構成文字全体として「樹齢が1000年のオリーブの大樹」程度の意味合いを容易に理解させるものである。
そうすると、本件商標をその指定役務中、第41類「植物の供覧」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、単に樹齢が1000年のオリーブの大樹の供覧であること、すなわち、役務の提供の用に供する物を表してなると認識、理解するにとどまり、商品の出所を表示する標識又は自他商品の識別標識として認識することはないとみるのが相当である。
したがって、本件商標は、その指定役務中、第41類「植物の供覧」との関係において、役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるから、商標法第3条第1項第3号に該当する。
なお、上記第6の2ないし4のとおり、請求人は令和4年4月7日付け意見書において、本件商標の指定商品中、第3類「オリーブを含有してなるせっけん類,オリーブを含有してなる化粧品」、第29類「オリーブオイル」についても商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当する旨主張しているが、当該主張は、その無効の審判の請求の理由において主張していなかったものである。
そうすると、当該無効の審判の請求後に新たな主張を追加することは、請求の理由の要旨を変更するものであるから、請求人の上記無効の理由の追加は、商標法第56条において準用する特許法第131条の2第1項(第2号及び第3号を除く。)の規定により認めることはできない。
3 商標法第4条第1項第10号について
(1)引用商標の周知性
ア 請求人提出の甲各号証及び同人の主張によれば、請求人は、1985年10月に設立された香川県小豆島に所在する企業であって、オリーブ化粧品の開発・製造・販売やオリーブの栽培などオリーブ関連事業等を行っていること(甲2、他)、請求人は、2011年8月にスペイン・アンダルシアからオリーブの樹木を同人の農園に移植したこと(甲3、甲4、他)、当該移植されたオリーブの樹木(以下「請求人樹木」という。)は、2012年頃から「樹齢1000年のオリーヴ大樹」「樹齢千年のオリーヴ大樹」などとして新聞、雑誌などで紹介され、2016年3月の植樹5周年のセレモニーを機に一般公開されていること(甲4、甲5、甲24、甲79、他)、及び請求人は請求人樹木を「樹齢千年のオリーヴ大樹」などとして、オリーブオイルの広告で紹介するなどし、また、当該樹木の見学を含むツアーなどを開催していること(甲39〜甲69)が認められる。
しかしながら、請求人樹木の見学者数、当該樹木の見学を含むツアーの参加者数など「植物の供覧」に係る役務提供の実績を示す具体的な主張はなく、それを示す証左は見いだせない。
イ 上記アのとおり、請求人は、請求人樹木を2011年に同人の農園に移植し、「樹齢1000年のオリーヴ大樹」「樹齢千年のオリーヴ大樹」などとして、2016年3月から一般公開し、また、当該樹木の見学を含むツアーなどを開催していることは認められるものの、「植物の供覧」に係る役務提供の実績を示す証左は見いだせないから、「樹齢千年のオリーヴ大樹」の文字からなる引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る役務(植物の供覧)を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
(2)本件商標と引用商標の類否
ア 本件商標は、上記第1のとおり、「樹齢1000年オリーブ大樹」の文字を標準文字で表してなるところ、該文字に相応して「ジュレイセンネンオリーブタイジュ」の称呼を生じ、「樹齢が1000年のオリーブの大樹」の観念を生じるものである。
イ 引用商標は、上記第2とおり「樹齢千年のオリーヴ大樹」の文字からなるところ、該文字に相応して「ジュレイセンネンノオリーブタイジュ」の称呼を生じ、「樹齢が千年のオリーブ(ヴ)の大樹」の観念を生じるものである。
ウ 本件商標と引用商標の類否を検討すると、外観において、本件商標の構成文字「樹齢1000年オリーブ大樹」と引用商標の構成文字「樹齢千年のオリーヴ大樹」とは、中間部における「1000」と「千」、「ブ」と「ヴ」の文字の差異及び「の」の文字の有無という差異を有するものの、これらの差異が13文字又は11文字という比較的長い文字構成である両商標の外観全体から受ける視覚的印象に与える影響は大きくはなく、両者を離隔的に観察するときは、相紛らわしいものと判断するのが相当である。
次に、本件商標から生じる「ジュレイセンネンオリーブタイジュ」と引用商標から生じる「ジュレイセンネンノオリーブタイジュ」の称呼を比較すると、両者は中間部における「ノ」の音の有無という差異を有するものの、この差異が14音又は15音という長い音構成からなる両称呼全体に及ぼす影響は小さく、両者をそれぞれ一連に称呼するときは、相紛れるおそれのあるものと判断するのが相当である。
さらに、観念においては、本件商標から生じる「樹齢が1000年のオリーブの大樹」と引用商標から生じる「樹齢が千年のオリーブの大樹」の観念とは、共通する観念といい得るものである。
そうすると、本件商標と引用商標は、外観、称呼において相紛らわしく、観念を共通にするものであるから、両者の外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのある類似の商標というべきものである。
(3)小括
上記(2)のとおり、本件商標と引用商標は類似するものであるが、上記(1)のとおり、引用商標は、請求人の業務に係る役務であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認められないものであるから、本件商標の指定役務が請求人の業務に係る役務(植物の供覧)と同一又は類似するとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものといえない。
4 商標法第4条第1項第15号について
上記3(2)のとおり、本件商標と引用商標は類似するものであるが、上記3(1)のとおり、引用商標は請求人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものとは認められないものであるから、本件商標の指定商品及び指定役務と請求人の業務に係る商品及び役務並びにそれらの需要者の共通性などを考慮しても、本件商標は、商標権者がこれをその指定商品及び指定役務について使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、その商品及び役務が請求人あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品及び役務の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものとはいえない。
5 商標法第4条第1項第19号について
上記3(1)のとおり、引用商標は、請求人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認められないものであり、上記4のとおり本件商標は引用商標を連想又は想起させるものでもない。
したがって、本件商標は、その余の点について判断するまでもなく、商標法第4条第1項第19号に該当するものといえない。
6 むすび
以上のとおり、本件商標は、その指定役務中、第41類「植物の供覧」について、商標法第3条第1項第3号に違反してされたものであるから、その登録は、同法第46条第1項の規定に基づき、無効にすべきものである。
しかし、その余の指定商品及び指定役務については、上述のとおり本件商標は商標法第4条第1項第10号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも該当せず、他にその登録が同法第46条第1項各号に該当するというべき事情はみいだせないから、その登録を無効にすべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。
審理終結日 2022-05-09 
結審通知日 2022-05-12 
審決日 2022-05-31 
出願番号 2019106055 
審決分類 T 1 11・ 13- ZC (W03293041)
最終処分 03   一部成立
特許庁審判長 佐藤 松江
特許庁審判官 大森 友子
石塚 利恵
登録日 2020-11-11 
登録番号 6315057 
商標の称呼 ジュレーセンネンオリーブタイジュ、ジュレーイチゼロゼロゼロネンオリーブタイジュ、ジュレーセンネン、ジュレーイチゼロゼロゼロネン、オリーブタイジュ、タイジュ 
代理人 田邉 壽二 
代理人 阪本 清孝 
代理人 特許業務法人はなぶさ特許商標事務所 

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