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審決分類 審判 全部無効 商3条柱書 業務尾記載 無効としない W29
管理番号 1389836 
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2022-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2021-04-14 
確定日 2022-04-22 
事件の表示 上記当事者間の登録第6080962号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第6080962号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおりの構成からなり,平成30年1月19日に登録出願,第29類「まぐろを使用した加工水産物(但し、「まぐろの缶詰,まぐろの油漬け缶詰」を除く。),まぐろを使用した食用油脂,まぐろを使用したカレー・シチュー又はスープのもと」を指定商品として,同年8月20日に登録査定され,同年9月14日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,審判請求書及び審判事件弁駁書(令和3年9月30日付け)においてその理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第17号証を提出した。
(1)請求の理由
本件商標は,商標法第3条第1項柱書の規定に違反してされたもの又は同法第4条第1項第7号に該当するものであるから,同法第46条第1項第1号により,その登録は無効にすべきものである。
(2)無効原因
ア 請求人について
請求人(アルカナー トレーディング コーポレーション)は,サウジアラビアの大手企業である「アルカナー ホールディング グループ」(以下「アルカナーグループ」という。)における食料消費部門に属する会社であり,サウジアラビア,アラブ首長国連邦,イエメンにおける全ての地域の1万以上の顧客のニーズと嗜好を満たす最大のグローバル企業をカバーするものである(甲3)。
イ 請求人の登録商標及び商標登録出願
請求人は,2018年6月9日に,サウジアラビアで本件商標と同一の「SAKURAブランド」の商標登録を受け(甲4),2019年1月6日に,イエメンで本件商標と類似する「SAKURAブランド」の商標登録を受けた(甲5)。さらに2019年1月9日に,アラブ首長国連邦で本件商標と類似する「SAKURAブランド」の商標登録を受けた(甲6)。日本では2019年8月27日に本件商標と同一の「SAKURAブランド」の商標を出願しており審査中である。
ウ 請求人の登録商標の使用状況
請求人は,サウジアラビアにおいて,当該「SAKURAブランド」の商標を使用した販売広告(甲7)を2018年5月24日から開始し,2018年4月25日ないし2021年2月24日までの期間に,「ツナ缶」を,合計9,213カートン(合計221,112缶)売り上げた。それらの内訳としては,例えば,2018年11月19日には「ALSARWAT SUPERMARKET」というスーパーマーケットに「ツナ缶」を,合計20カートン(合計480缶)を売り上げて,2020年11月4日には「SAUDI MARKETING CO.(FARM MARKETS)」というスーパーマーケットに「ツナ缶」を,合計260カートン(合計6,240缶)を売り上げた。
なお,請求人は,アラブ首長国連邦とイエメンと日本においては,当該「SAKURAブランド」の商標をまだ使用していない。
エ 被請求人について
被請求人である三菱商事株式会社(以下「三菱商事」という。)は,「三菱グループ」の大手総合商社であり,三井物産,住友商事,伊藤忠商事,丸紅とともに五大商社の一つである(甲9)。
オ 被請求人の登録商標及び商標登録出願
被請求人は,2018年9月14日に,日本で本件商標の登録を受けた。なお,被請求人は,本件商標以外にも,本件商標と同一であり出願日も同一である商標の登録(商標登録第6034368号)を2018年4月6日に受けた。さらに,販売広告(甲7)に掲載されている「サバ缶」に使用する商標である「MADKHANAH(マドハナ)ブランド」の商標も日本で所有している(甲10)。
カ 被請求人の登録商標の使用状況
本件商標は,2018年9月14日の登録日からあと半年以内に3年を経過するが,被請求人のホームページや,三菱グループでありマグロ・海老・サーモン等を主軸に“日本中,世界中”を舞台にして魚食文化を支えている会社である東洋冷蔵のホームページ等を閲覧しても,被請求人等によって本件商標が日本で使用されている事実を確認できない。さらに,当該「MADKHANAH(マドハナ)ブランド」の商標は,2014年に,被請求人が筆頭株主である「マルイチ産商」の子会社の「信田缶詰」が「サバ缶」に付して使用していたようであるが,当該「サバ缶」は,日本国内で流通させるものでなく中東への100%輸出用として製造されていた(甲11)。
キ 請求人と被請求人の関係について
請求人と被請求人の関係は,「輸入/販売業者」と「卸売業者」であり,請求人は,被請求人から「SAKURAブランド」の「ツナ缶」を,2018年5月27日において,3262パッケージ(3260カートン+2束)購入し,2019年4月23日において,3260カートン購入し,2019年5月31日において,3264パッケージ購入(甲12)し,サウジアラビアで販売した。
ク 被請求人による本件商標登録出願及び登録の経緯
請求人は,高品質のマグロに関連する新商品の生産に興味を持っていたため,2017年12月19日にサウジアラビアで商標登録を行った。そして,請求人の自社ブランドとして「SAKURAブランド」の「ツナ缶」を輸出することに同意した。その後,アルカナーグループの広告代理店「Brand Details」(甲3)のA氏及びF氏の協力によって刷新された「ツナ缶」のデザインを被請求人に送信した。そして,請求人に係る人物であるH氏は,当該刷新された「ツナ缶」のデザインを承認し,日本で本件商標を使用するために,被請求人に係る人物であるT氏に対して,本件商標を請求人の名義で商標登録するように念入りに指示していたものであり,T氏も,請求人の指示を了解し,東京の三菱商事にもそれを通知していた。しかしながら,被請求人は,請求人の事前の同意なしに本件商標を被請求人の名義で商標登録した(メール通信記録,甲13)。
被請求人は,種々主張しているが,請求人の名義で商標登録出願する旨の合意に反する。
請求人は,被請求人による本件商標登録行為に驚いており,請求人が日本で請求人の商標を使用及び登録することができないものになったと認識しているところであるが,請求人は,現在まで,本件商標登録行為が両当事者間の合意に違反するものであるとして,被請求人に本件商標の名義を被請求人から請求人に変更するように交渉したことはなく,また,被請求人が日本で本件商標を使用しているかどうかについても知らない。
ケ 被請求人による「ツナ缶」販売会社等の買収・出資事情について
被請求人は,1989年に英国内での「ツナ缶」トップシェアの食品会社プリンシズを買収し完全子会社化した(甲14)。また,2014年に米国内での「ツナ缶」大手のバンブル・ビー・シーフーズの買収に名乗り出たが,「ツナ缶」世界最大手のタイ・ユニオンが15億ドルで買収した(甲15)。なお,被請求人は,当該タイ・ユニオンに約7%出資している。さらに,被請求人は,2018年4月からアラブ首長国連邦の大手冷凍食品メーカーであるアルイスラミ・フーズに出資を行い大部分を輸入に頼っているアルイスラミ・フーズの原材料調達に協力,他の中東諸国やアジアヘの輸出支援を実施することを発表した(甲16)。
コ 三菱グループの知財活動事情について
三菱グループ各社は終始一貫して一流の製品・サービスを提供するとともに,三菱マークの商標権を確保して,その適切な管理に努めている。当初は三菱グループ各社がそれぞれの発意に基づき必要に応じて登録していたが,1968年に原則として三菱商事名義で登録することを決めた(甲17)。
サ 本件商標が商標法第3条第1項柱書に違反して登録されたものであること
本件商標は,2018年4月6日の登録日から既に3年を経過するものであるが,被請求人等によって本件商標が日本の需要者に対して実際に使用されている事実を確認できない。本件商標以外にも請求人が行う事業に係る「MADKHANAH(マドハナ)」ブランドの商標を,日本では使用していなかった実績がある。三菱グループは,登録商標の適切な管理に努めているものであって,それを達成するために1968年に原則として三菱商事名義で登録することを決めており,これと同様に,被請求人は,請求人の事前の同意なしに本件商標を被請求人の名義で商標登録した。さらに被請求人は,世界各国の「ツナ缶」販売会社等の買収と出資を行っている事情もあることから,被請求人による本件商標登録出願行為は,請求人の日本での商標使用を制限する目的だけでなく,請求人を三菱グループ会社にするための買収・出資交渉を優位に進めるための目的など,不正な目的さえもうかがえる。
そうすると,被請求人は,請求人の日本での商標使用を制限するため,あるいは買収交渉等を優位に進めるためだけのために本件商標を登録出願したにすぎないというべきであって,本件商標は,登録査定時において,現に自己の業務に係る商品又は役務に使用をしている商標に当たらない上,被請求人にはその使用意思も認められないと判断するのが合理的である。
本件商標は,請求人の自社ブランドに係る商標であり,本件商標の登録は「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」に関して行われたものではない。
したがって,本件商標の登録は,「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」に関して行われたものとは認められず,商標法第3条第1項柱書の規定に違反してされたものである。
シ 商標法第4条第1項第7号該当性について
(ア)被請求人は,請求人の事前の同意なしに本件商標を被請求人の名義で商標登録し,被請求人による本件商標登録出願行為によって,請求人が日本で請求人の商標を使用及び登録することができないものとなった。そして,被請求人は,世界各国の「ツナ缶」製造販売会社を買収することで三菱グループにしている事情もあり,さらに,三菱グループは,登録商標の適切な管理に努めているものであって,それを達成するために1968年に原則として三菱商事名義で登録することを決めており,これと同様に,被請求人は,請求人の事前の同意なしに本件商標を被請求人の名義で商標登録したことから,被請求人による本件商標登録出願行為は,請求人の日本での商標使用を制限する目的だけでなく,請求人を三菱グループ会社にするための買収・出資交渉を優位に進めるための目的など,不正な目的さえもうかがえる。
(イ)このことは,国際商道徳に反するものであって,公正な取引秩序を乱すおそれがあるばかりでなく,国際信義に反し公の秩序を害するものといえる。
(ウ)被請求人は,請求人の事前の同意とは異なり本件商標を被請求人の名義で商標登録したものであり,商標登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものであり,本件商標の登録を認めることは,商標法の予定する公正な商標秩序を乱すものというべきであり,到底容認し得ない。
(エ)したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当する。

3 被請求人の主張
被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第3号証を提出した。
(1)「無効原因」に対する認否
ア 請求人について
請求人がサウジアラビアの大手企業であるアルカナーグループにおける食料消費部門に属する会社であることは認めるが,詳細については不知。同社のホームページ(甲3)の信用性について積極的に争うものではない。
イ 請求人の登録商標及び商標登録出願
請求人が日本において2019年8月27日に本件商標と同一商標を出願し(商願2019−114232),審査中であることは認めるが,サウジアラビア,イエメン,アラブ首長国連邦における商標登録の存在については不知。各国の登録証(甲4〜甲6)の信用性について積極的に争うものでない。
ウ 請求人の登録商標の使用状況
被請求人が請求人に輸出,販売した「SAKURAブランド」のツナ缶を請求人がサウジアラビアで販売したこと,請求人がアラブ首長国連邦とイエメンと日本において,当該「SAKURAブランド」の商標をまだ使用していないことは認めるが,その余の販売広告活動,販売期間,販売数量等は不知。
エ 被請求人について
認める。
オ 被請求人の登録商標及び商標登録出願
認める。請求人が同一商標につき同日に商標登録出願しているのは,早期審査の対象となると考えた商品について別出願としたためである。
カ 被請求人の登録商標の使用状況
本件商標が2018年9月14日の登録日からあと半年以内に3年を経過すること,被請求人や東洋冷蔵のホームページに本件商標を使用した商品を掲載していないこと,2014年に被請求人が筆頭株主である株式会社マルイチ産商の子会社の信田缶詰株式会社が「MADKHANAHブランド」の商標を中東への100%輸出用であるサバ缶に対して使用していたことは認めるが,その余は不知ないし否認する。
なお,被請求人又はその許諾を受けた者は,日本国内で本件商標をツナ缶に付し,本件商標を付したツナ缶を請求人に対して,輸出,販売(譲渡)しており,また,本件商標登録出願の出願審査時に被請求人が提出した「商標早期審査に関する事情説明書」並びにその添付物件であるラベル見本及び捺印済み売買契約書(乙1)にあるとおり,本件商標を使用していたものである。
キ 請求人と被請求人の関係について
認める。
ク 被請求人による本件商標登録出願及び登録の経緯
上記2(2)「ク.被請求人による本件商標登録出願及び登録の経緯」の第一段落は全体として否認ないし争う。本件商標の作成及び本件商標を使用したツナ缶の開発は,請求人及び被請求人の共同で行われたものであり,請求人が独自に作り上げて使用,販売していたブランド・商品を被請求人が単に使用,購入したものではない。実際,日本における本件商標を使用したツナ缶の製造委託先,使用魚種(びんちょう鮪),調味液の中身,「SAKURA」等のブランド名の案出しを行ったのは被請求人側である。
請求人から,本件商標が請求人の自社ブランドであること,すなわち,被請求人の関与なく,請求人が独自に作り上げ,請求人が使用していたブランドであることを示す証拠は一切提出されていない。本件商標の構成要素として,「さくら」,「至高のまぐろ」といった日本語,「SAKURA」といった日本語のローマ字表記が含まれていることから,本件商標の態様決定に当たり日本企業である被請求人側が少なからぬ関与,貢献をしていることは明らかである。
また,電子メールの通信記録(甲13)から,本件商標の出願日の約1か月前に,本件商標の最終デザインが請求人と被請求人の協議によって決定されていることから,請求人が本件商標を元々自社ブランドとして使用していたものでもない。
以上のとおり,本件商標が請求人の自社ブランドであることが立証されていないばかりか,請求人提出の証拠からも,本件商標が請求人の自社ブランドではなく,請求人と被請求人の共同作成に係るものであることは明らかである。
請求人は,電子メールの通信記録(甲13)を根拠として,「請求人に係る人物であるH氏は,・・・日本で本件商標を使用するために,被請求人に係る人物であるT氏に対して,本件商標を請求人の名義で商標登録するように念入りに指示していたものであり,T氏も,請求人の指示を了解し,東京の三菱商事にもそれを通知していた。」と主張するが,T氏の英文メール(甲13)も「・・・Mitsubishi will register the brand in Japan on behalf of ALK・・・」と被請求人が商標出願するかのように解釈できるあいまいさがあり,また,東京の被請求人の認識としては,被請求人の内部決裁書類(乙2)にも記載されているとおり,本件商標は日本においては被請求人が商標登録出願し,サウジアラビアにおいては請求人が商標登録出願するものと認識していたものであり,被請求人が本件商標を出願するに当たり,請求人が主張するような不正な目的を有していたものでもない。日本においてツナ缶に本件商標を付し,本件商標の付されたツナ缶を輸出,販売するのは,日本を拠点とする被請求人側であるから,被請求人側による本件商標の使用をカバーするため,被請求人が本件商標の出願を行うことは,何ら不自然,不当なものではない。日本においては被請求人が本件商標を出願することは,請求人も指摘する「MADKHANAH」ブランドの日本商標登録の例と同様であり,単に前例にならったものともいえる。
電子メールの通信記録(甲13)において,請求人側は,本件商標の日本における出願人を請求人とすることを所与の前提としているが,この前提自体,全く根拠がないものである。本件商標の作成,本件商標を付したツナ缶の開発には,被請求人が相当程度の貢献をしており,特段の見返りもなく,被請求人又はその許諾を受けた者が本件商標を付したツナ缶を製造し,当該ツナ缶を輸出,販売する日本において,当然に請求人が単独で本件商標登録を取得できるとする理由がない。請求人側は,被請求人側に本件商標を請求人の名義で商標登録するように念入りに指示し,請求人側も当該指示を了解していたとするが,そのように一方的に指示する根拠や正当性がないといわざるを得ない。
上記2(2)「ク.被請求人による本件商標登録出願及び登録の経緯」の第二段落は,認める。
「請求人は,被請求人による本件商標登録行為に驚いており」とする一方,「請求人は,現在まで,本件商標登録行為が両当事者間の合意に違反するものであるとして,被請求人に本件商標の名義を被請求人から請求人に変更するように交渉したことはなく」などとするが,請求人の主張は,全体として辻悽が合わないといわざるを得ない。請求人の主張によれば,本件商標は,日本においては,被請求人が請求人の名義で商標登録出願することになっていたのであるから,請求人としては,本件商標が日本で商標登録されたのか,まず被請求人に問い合わせるのが自然である。それにもかかわらず,請求人は,被請求人が本件商標を日本で出願したのか,無事登録になったのかを被請求人に確認することもなく,2019年8月27日になって突然,請求人名義で本件商標を日本で出願している(商願2019−114232:乙3)。このように請求人が被請求人に連絡することもなく請求人名義の本件商標を登録出願したということは,請求人は,本件商標が日本において請求人名義で出願されていないと認識していたことを強くうかがわせるものである。請求人は,被請求人に対して,本件商標の登録出願から上記請求人による本件商標の出願まで1年半以上にわたり,そしてさらにその後も被請求人に対して何ら問合せもクレームも入れていないことからすれば,請求人も「本件商標は日本において被請求人が請求人名義で出願することになっていた」と理解していなかったことが強くうかがわれるものである。
ケ 被請求人による「ツナ缶」販売会社等の買収・出資事情について
認める。
コ 三菱グループの知財活動事情について
認めるが,請求人が指摘する説明部分(甲17)は,スリーダイヤ図形,「MITSUBISHI」,「三菱」等のいわゆる三菱商標(三菱マーク)についてのものであり,三菱商標(三菱マーク)に該当しない本件商標が問題となっている本件無効審判事件とは関係がないものである。
(2)商標法第3条第1項柱書違反について
被請求人によって本件商標と同一商標につき同日に出願された商願2018−6009の出願審査時に提出された早期審査に関する事情説明書並びにその添付物件であるラベル見本及び売買契約書(乙1)から明らかであるとおり,請求人は,日本国内の他社との間で,本件商標を使用したツナ缶(商願2018−6009の指定商品「まぐろの缶詰,まぐろの油漬け缶詰」に相当)の製造月を2018年2月〜3月,納期を2018年3月とする平成30年(2018年)1月30日付け売買契約書を締結していることから,登録査定時(2018年8月24日)において,本件商標が商品「まぐろの缶詰,まぐろの油漬け缶詰」について「現に自己の業務に係る商品又は役務に使用をしている商標」,あるいは,少なくとも「将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思のある商標」であったことは明らかである。本件商標の指定商品は,「まぐろを使用した加工水産物(但し、「まぐろの缶詰,まぐろの油漬け缶詰」を除く。),まぐろを使用した食用油脂,まぐろを使用したカレー・シチュー又はスープのもと」であるが,「まぐろの缶詰,まぐろの油漬け缶詰」以外の「まぐろを使用した加工水産物」は,「まぐろの缶詰,まぐろの油漬け缶詰」と類似する商品であることから,「まぐろの缶詰,まぐろの油漬け缶詰」と同様,「まぐろの缶詰,まぐろの油漬け缶詰」以外の「まぐろを使用した加工水産物」についても,本件商標を将来自己の業務に係る商品に使用する意思があったことは明らかである。
被請求人は大手総合商社であって,本件商標の指定商品を含む幅広い食品の売買を行っており,また,マグロ・海老・サーモン等を主軸に“日本中,世界中”を舞台にして魚食文化を支えている会社である東洋冷蔵株式会社等の食品会社をグループ会社としていることからも,登録査定時(2018年8月24日)において,本件商標が少なくとも「将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思のある商標」であったことは明らかである。
請求人は,「被請求人による本件商標登録出願行為は,請求人の日本での商標使用を制限する目的だけでなく,請求人を三菱グループ会社にするための買収・出資交渉を優位に進めるための目的など,不正な目的さえもうかがえる」,「被請求人は,請求人の日本での商標使用を制限するため,あるいは買収交渉等を優位に進めるためだけのために本件商標を登録出願したにすぎない」などと主張するが事実無根であり,被請求人の「不正な目的」を根拠付ける証拠も一切存在しない。日本においてツナ缶に本件商標を付し,本件商標の付されたツナ缶を輸出,販売するのは,日本を拠点とする被請求人側であり,被請求人は,本件商標を自己の業務に係る商品に使用する具体的な予定があったから本件商標を登録出願したものであり,被請求人は,本件商標は日本においては被請求人が商標登録出願し,サウジアラビアにおいては請求人が商標登録出願するものと認識していた。また,本件商標の作成,本件商標を付したツナ缶の開発には,被請求人が相当程度の貢献をしており,特段の見返りもなく,被請求人又はその許諾を受けた者が本件商標を付したツナ缶を製造し,当該ツナ缶を輸出,販売する日本において,当然に請求人が単独で本件商標登録を取得できるとする理由がなく,被請求人が本件商標を日本において登録出願することが「不正の目的」などと批判されるいわれはない。さらに,請求人がいまだ日本で使用していないような本件商標を,被請求人が日本において登録出願することにより,買収・出資交渉を優位に進められるとは客観的にも認められず,実際,被請求人にそのような意思などなかったことは,本件商標の出願当時の被請求人内の決裁書類(乙2)によっても明らかである。
以上のとおり,本件商標の登録は,「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」に関して行われていたことは明らかであり,商標法第3条第1項柱書の規定に違反しない。
(3)商標法第4条第1項第7号違反について
日本においてツナ缶に本件商標を付し,本件商標の付されたツナ缶を輸出,販売するのは,日本を拠点とする被請求人側であり,被請求人は,本件商標を自己の業務に係る商品に使用する具体的な予定があったから本件商標を登録出願したものであり,被請求人は,本件商標は日本においては被請求人が商標登録出願し,サウジアラビアにおいては請求人が商標登録出願するものと認識していた。請求人が,被請求人が本件商標を日本で出願したのか,無事登録になったのかを被請求人に確認することもなく,2019年8月27日になって突然,請求人名義で本件商標を日本で出願している(商願2019−114232)ことからも,請求人も「本件商標は日本において被請求人が請求人名義で出願することになっていた」と理解していなかったことが強くうかがわれる。
また,本件商標の作成,本件商標を付したツナ缶の開発には,被請求人が相当程度の貢献をしており,特段の見返りもなく,被請求人又はその許諾を受けた者が本件商標を付したツナ缶を製造し,当該ツナ缶を輸出,販売する日本において,当然に請求人が単独で本件商標登録を取得できるとする理由がなく,日本において本件商標を登録出願するに際し,被請求人に対して当然に「請求人の事前の同意」を要求すること自体,妥当性を欠くものといわざるを得ず,「請求人の事前の同意なしに本件商標を被請求人の名義で商標登録したこと」が「当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合」に該当するとはいえない。
さらに,請求人がいまだ日本で使用していないような本件商標を,被請求人が日本において登録出願することにより,買収・出資交渉を優位に進められるとは客観的にも認められず,実際,被請求人にそのような意思などなかったことは,本件商標の出願当時の被請求人内の決裁書類(乙2)によっても明らかであり,被請求人が本件商標を日本において登録出願することにつき,「不正の目的」などなかったことも明らかである。
以上のとおり,本件商標は,「当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合」を含む,商標法第4条第1項第7号に該当しない。

4 当審の判断
(1)請求人適格について
請求人が本件審判を請求するにつき,利害関係を有する者であることについては,当事者間に争いがないので,本案に入って審理する。
(2)本件商標
本件商標は,別掲1のとおり,赤色のアラビア文字を図案化したとおぼしき文字並びに「SAKURA」及び「さくら」の文字を三段に横書きし,その下に同じく赤色の鳥居様の図形(背景には桜とおぼしき花をつけた木の枝が重なるように表されている。)を配し,さらにその下に同じく赤色の「至高のまぐろ」の文字を横書きしてなるものである。
(3)事実認定
請求人提出の甲各号証及び被請求人提出の乙各号証並びに両人の主張によれば次の事実が認められる。
ア 請求人
(ア)請求人(アルカナー トレーディング コーポレーション)は,サウジアラビアの食品消費部門の企業であり(甲3),サウジアラビア,イエメン及びアラブ首長国連邦で,2018年ないし2019年に,本件商標と近似した構成からなる商標の商標登録を受け(甲4〜甲6),日本では2019年8月27日に本件商標と同一の構成からなる商標を第29類「まぐろの缶詰」を指定商品として登録出願している(商願2019−114232,乙3)。
(イ)請求人は,サウジアラビアにおいて,「SAKURA」及び「さくら」の文字等を付した「ツナ缶」(「Japanese Sakura Tuna(White Albacore) with Olive Oil」等)や,「サバ缶」(「Japanese minced Abu Madkhanah mackerel Tuna」)を販売広告し(甲7),2018年4月25日ないし2021年2月24日の期間に,「Sakura Tuna」なる「ツナ缶」(「Sakura Japanese Tuna with Olive Oil」等)を同国のスーパーマーケット等に合計9,213カートン(1カートン当たり24缶)売り上げたことがうかがえる(甲8)。
イ 被請求人
被請求人(三菱商事)は,三菱グループの大手総合商社であり(甲9),英国内での「ツナ缶」トップシェアの食品会社プリンシズを完全子会社化している(甲14)。また,2014年に米国内で「ツナ缶」を手掛けるバンブル・ビー・シーフーズの買収に名乗り出た(甲15)。さらに,2018年4月にアラブ首長国連邦の冷凍食品メーカーであるアルイスラミ・フーズの少数株を取得したことが発表された(甲16)。なお,三菱グループ各社は,1968年に原則として三菱マークを三菱商事名義で登録することを決めている(甲17)。
ウ 被請求人の登録商標
(ア)被請求人は,日本において,上記1のとおり,「まぐろを使用した加工水産物(但し、「まぐろの缶詰,まぐろの油漬け缶詰」を除く。),まぐろを使用した食用油脂,まぐろを使用したカレー・シチュー又はスープのもと」について本件商標の登録を受けた(出願日:平成30年(2018年)1月19日,設定登録日:同年9月14日)。
(イ)また,被請求人は,第29類「まぐろの缶詰,まぐろの油漬け缶詰」について,本件商標と同一の構成からなり,出願日も同じである商標の登録を受けた(商標登録第6034368号:以下「本件同一商標」という。)。
(ウ)さらに,被請求人は,第29類「食用魚介類(生きているものを除く。),冷凍野菜,加工水産物」等について,「MADKHANAH」の文字からなる登録商標も所有している(甲10:商標登録第2264869号)。
エ 請求人と被請求人との関係について
請求人と被請求人の関係は,「輸入/販売業者」と「卸売業者」であり,請求人は,2018年5月から2019年5月にかけて,被請求人から「“SAKURA”BRAND」の「びんちょう鮪缶詰」(「JAPANESE CANNED ALBACORE SOLID IN OLIVE “SAKURA BRAND”」等)を購入し(2018年5月27日に3260カートン+2束,2019年4月23日に3260カートン,2019年5月31日に3264パッケージ購入。:甲12),サウジアラビアで販売した(両当事者の主張)。
オ メール通信記録
「メール通信記録及び翻訳文」(甲13)は,2017年12月13日ないし同月18日にかけて,T氏,H氏,A氏間での以下のやり取りが記録されている。
(ア)2017年12月13日付けで,T氏からA氏に宛てて,「缶デザイン」のファイルを「東京オフィス」(our TOK office」)に送り,受領を確認したこと,缶デザイナーに確認し,追加の要求があれば知らせること。
(イ)2017年12月13日付けで,T氏からA氏に宛てて,「空管会社」(empty can company)から追加要求として「皿上のマグロのイメージデータ(写真)」(image data(photo)・・・tuna soild on dish」を取得できるかについて問い合わせたこと。
(ウ)2017年12月13日付けで,A氏からT氏に宛てて,イメージデータ(Tona with dish design PSD&png format)を送付したこと。
(エ)2017年12月14日付けで,T氏からH氏に宛てて,缶サプライヤーが修正した添付ファイルを送信し,当該ファイルの内容の確認を依頼したこと。
(オ)2017年12月14日付けで,T氏からH氏に宛てて,A氏がファイルを開いており,それをH氏の承認のために送信すること。
(カ)2017年12月17日付けで,H氏からT氏に宛てて,承認する旨の返信があったこと。
(キ)2017年12月17日付けで,T氏からH氏に宛てて,承認に感謝し,東京(TOK)は,印刷された缶のアートワークとブランド登録の手配を開始すること。
(ク)2017年12月18日付けで,T氏からH氏に宛てて,MC/TOK(三菱商事/東京)は,日本における「SAKURA」ブランドの登録に必要な手続が本日から開始されることを確認したこと,時間を節約するために,KSA(サウジアラビア)でのブランド「SAKURA」の登録手続を同時に始めることを勧めること,KSA(サウジアラビア)での登録を開始するための弁護士の割当てを確認依頼すること。
(ケ)2017年12月18日付けで,H氏からT氏に宛てて,KSA(サウジアラビア)で登録手続を開始するが,その間,日本での登録は「Alkanaah Corporation」ではなく「Alkanaah Trading Company」の名称で行われることに注意し,それまでの間,Alkanaah名でのみ登録されることを確認すること。
(コ)2017年12月18日付けで,T氏からH氏に宛てて,ブランド名「SAKURA」はALK名のみで登録されるだろうことは確実であり,そして,三菱はALKに代わって日本で当該ブランドを登録し,登録費用もALKが負担すること(「For sure the brand name“SAKURA”will be registered under ALK name only and Mitsubishi will register the brand in Japan on behalf of ALK and the cost of resgistration also bear by ALK・・・」),安全のため,MC/TOK(三菱商事/東京)に「ALKANAAH CORPORATION」ではなく「ALKANAAH TRADING COMPANY」の名称で商標登録するよう通知すること。
カ 早期審査に関する事情説明書(乙1)
被請求人が本件同一商標の審査の過程で提出した「早期審査に関する事情説明書」(平成30年2月16日付け:乙1)には,「1.商標の使用予定者 出願人(審決注:「三菱商事」)/2.商標の使用の準備を進めている商品名 まぐろの缶詰 まぐろの油漬け缶詰/3.商標の使用開始予定時期 平成30年3月から使用開始予定/4.商標の使用予定場所/東京都千代田区丸の内の本社生鮮品本部内」の記載とともに,「5.商標の使用の準備を進めている事実を示す書類」として,(ア)「缶詰の胴部及び蓋部に印刷するラベル」(別掲2),(イ)「売主及び買主の捺印済み売買契約書(平成30年1月30日)」が添付されている。
(ア)「缶詰の胴部及び蓋部に印刷するラベル見本」(乙1の1様目)には,別掲2のとおり,「SAKURA 至高のまぐろ(綿実油)」,「2017.12.17/PDF校正(1回目)」等の記載の下,缶詰の側面とおぼしき横長長方形中に本件商標と同一の商標,皿の上に盛り付けられたツナ(ツナ缶の中身)の写真等の表示があり,「同底合わせ位置」として当該横長長方形から伸びた線の先には,円図形中に本件商標と同一商標の表示がある。
(イ)「売主及び買主の捺印済み売買契約書(平成30年1月30日)」(乙1の2様目,3葉目)には,「売買契約書」及び「平成30年1月30日」の記載の下,売主の記名(○○株式会社/取締役/業務部部長,審決注:○○の部分はマスキングされている。)及び押印,買主の記名(三菱商事 生鮮品本部 水産部/水産缶詰チームリーダー)及び押印とともに,「・・・下記の通り,魚介類缶詰の売買契約をいたしました。」の記載がある。
そして,契約内容の表中に,「締結日」として「平成30年1月30日」の記載,「品種・■型」(審決注:■の文字は不明瞭)として「びん長鮪缶詰オリーブ油漬」及び「びん長鮪缶詰綿実油漬」の記載,「BRAND」として「※ブランド “SAKURA”ブランド」,「※製造月 2018年2月〜2018年3月」及び「※有効期限:2年」の記載がある(なお,その他「契約書番号」,「数量」,「単価(1ケース当たり」,「支払条件」等の内容は,不明瞭ないしマスキングにより不明。)。
キ 被請求人の決裁書類(乙2)
「本件商標の日本における登録出願に係る被請求人の決裁書類」(乙2)は,「『SAKURA』新規商標出願の件」と題する書面(2018年1月18日付け)であって,「水産部長」から「法務部長」に宛てたものであり(内容の一部はマスキングにより不明。),その内容は,サウジアラビア在Alkanaah Trading Corporation(「本件取引先」)向けに,新製品として国産のビン長鮪缶詰(オリーブ油漬・綿実油漬)を輸出する見込みとなったので,同製品に本件商標と同一の構成からなる「SAKURA」というブランドを付すこと,また,日本において本件商標を,(ア)第29類「まぐろの缶詰,まぐろの油漬け缶詰」及び(イ)第29類「まぐろを使用した加工水産物(但し、「まぐろの缶詰,まぐろの油漬け缶詰」を除く。)」,「まぐろを使用した食用油脂」,「まぐろを使用したカレー・シチュー又はスープのもと」について商標登録出願することについて法務部長の意見を聴取し伺手続を取るものである。なお,(イ)については,「現時点では具体的使用は予定していないが,将来における使用可能性を踏まえ,第三者による先行取得・使用を防ぐもの。」の記載があり,また,出願対象国の項には「日本(なお,サウジアラビアにおいては本件取引先が商標出願を実施)。」の記載がある。
(4)商標法第3条第1項柱書違反該当性について
ア 商標法第3条第1項柱書の趣旨について
商標法第3条第1項柱書は,商標登録要件として,「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」であることを規定するところ,「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」とは,少なくとも登録査定時において,現に自己の業務に係る商品又は役務に使用をしている商標,あるいは将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思のある商標と解される(知財高裁平成24年(行ケ)第10019号同年5月31日判決参照)。以下,これを踏まえて本件について判断する。
イ 上記(3)の認定事実によれば,以下のとおりである。
(ア)サウジアラビアの食品会社である請求人と,日本の総合商社である被請求人は,「ツナ缶」等の製品について,「輸入/販売業者」と「卸売業者」の関係であって,2018年から2021年にかけて,請求人は被請求人から「ツナ缶」を日本からサウジアラビアに輸入してサウジアラビア国内のスーパーマーケットで販売していたことがうかがえる(甲3,甲8,甲9,甲12)。
(イ)被請求人が本件同一商標の出願の過程で提出した「早期審査に関する事情説明書」の添付書類によれば,被請求人は,2017年12月17日付けで,「SAKURA 至高のまぐろ(綿実油)」について,本件商標と同一の商標が表示された缶詰デザインの見本を有しており,また,平成30年(2018年)1月30日付けで,被請求人は他社との間で,納期を2018年3月として「“SAKURA”ブランド」の下,「びん長鮪缶詰オリーブ油漬」及び「びん長鮪缶詰綿実油漬」の売買契約を締結している(乙1)。
(ウ)被請求人は,2018年1月に,サウジアラビア在の取引先(請求人)向けに,国産のビン長鮪缶詰(オリーブ油漬・綿実油漬)を輸出するために,日本における本件商標の登録出願について社内手続を行った(乙2)。
(エ)本件商標の指定商品である第29類「まぐろを使用した加工水産物(但し、「まぐろの缶詰,まぐろの油漬け缶詰」を除く。)」,「まぐろを使用した食用油脂」,「まぐろを使用したカレー・シチュー又はスープのもと」については,「将来における使用可能性を踏まえ,第三者による先行取得・使用を防ぐ」ために商標登録出願したものである(乙2)。
(オ)上記(ア)ないし(エ)により,被請求人は,本件商標を付した「ツナ缶」を請求人に輸出するに当たり,将来における使用可能性を踏まえ,第三者による先行取得・使用を防ぐために本件商標を登録出願したものといい得るから,本件商標は,その登録日から3年以内に使用されたか否かにかかわらず,少なくとも登録査定時(平成30年8月20日)において,将来自己の業務に係る商品に使用する意思のある商標であったというのが相当である。
ウ 小括
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項柱書に違反するということはできない。
(5)商標法第4条第1項第7号該当性について
ア 商標法第4条第1項第7号の趣旨について
商標法第4条第1項第7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は,商標登録を受けることができないと規定している。ここでいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には,(1)その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合,(2)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも,指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反する場合,(3)他の法律によって,当該商標の使用等が禁止されている場合,(4)特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合,(5)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合,などが含まれるというべきである(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号参照)。以下,これを踏まえて本件について判断する。
イ 上記(3)の認定事実及び上記(4)によれば,以下のとおりである。
(ア)請求人と被請求人は,2017年12月に,両人の関係者を通じて「SAKURAブランド」の「ツナ缶」のデザインを検討し,両人の協議の上,缶のデザインに「皿の上のツナ」のイメージデータを追加することを決めた(甲13)。
(イ)「SAKURAブランド」の商標出願について,請求人側関係者は,「日本での登録は・・・『Alkanaah Trading Company』の名称で行われる」としているのに対し,被請求人側関係者も「ALK名のみで登録されるだろうことは確実である」としているが,同時に,被請求人側関係者は「三菱はALKに代わって日本で当該ブランドを登録し,登録費用もALKが負担する」とし,また,「MC/TOK(三菱商事/東京)に・・・『ALKANAAH TRADING COMPANY』の名称で商標登録するよう通知する」とするにとどまっている(甲13)。
(ウ)被請求人は,特許庁に提出した「早期審査に関する事情説明書」の添付書類として,2017年12月17日付けで,「SAKURA 至高のまぐろ(綿実油)」について,本件商標と同一の商標,皿の上に盛り付けられたツナ(ツナ缶の中身)の写真等が表示された缶詰デザインの見本を有していたところ,当該見本のデザインは,上記(ア)で「缶のデザインに『皿の上のツナ』のイメージデータ追加の内容を裏付けるものである(乙2)。
(エ)上記(4)のとおり,被請求人は,請求人に本件商標を付した「ツナ缶」を輸出するに当たり,将来における使用可能性を踏まえ,第三者による先行取得・使用を防ぐために本件商標を登録出願したものといえる。
(オ)上記(ア)ないし(エ)により,請求人側関係者は,「SAKURAブランド」の日本での商標出願は請求人名義で行うとしたのに対し,被請求人側関係者も「ALK名のみで登録されるだろうことは確実である」としたものの,「三菱はALKに代わって日本で当該ブランドを登録する」と解釈できるような記載をした上で,三菱商事の東京事務所に「『ALKANAAH TRADING COMPANY』の名称で商標登録するよう通知」したにとどまるから,これらのメールのやり取りに基づいて「SAKURAブランド」の日本における商標登録出願について,請求人と被請求人との間で,請求人名義で「SAKURAブランド」の商標登録することについて明確な合意が形成されたとはいい難いばかりか,当該「SAKURAブランド」が,本件商標と同一の構成であるかについても,明確な取決め等は見いだせない。
本件商標は,請求人に本件商標を付した「ツナ缶」を輸出するに当たり,将来における使用可能性を踏まえ,第三者による先行取得・使用を防ぐために登録出願されたものであるから,当該登録出願が,直ちに被請求人により不正の目的をもってされたものとはいえず,むしろ,請求人と被請求人は,一定期間継続して被請求人が日本から輸出した「ツナ缶」を請求人がサウジアラビアに輸入し販売したものであり,さらに,両人は関係者を介して「ツナ缶」のデザインの決定に協力していたという事情の下では,出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも,当事者同士の私的な問題として解決すべきというのが相当であって,本件商標の登録出願が請求人の事前の同意なし行われたものであるとしても,「公の秩序や善良な風俗を害する」場合に該当するとはいい難いものである。
その他,本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に該当すると認めるべき事実は見いだせない。
さらに,本件商標は,上記(2)とおりの構成からなるところ,その構成自体が非道徳的,きょう激,卑わい,差別的又は他人に不快な印象を与えるようなものではなく,その構成自体がそのようなものではなくとも,それを指定商品に使用することが社会公共の利益に反し社会の一般的道徳観念に反するものともいえない。
そして,本件商標は,他の法律によって,その商標の使用等が禁止されているものではないし,特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反するものでない。
してみると,本件商標は,その登録を維持することが商標法の予定する秩序に反し,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標に該当するとまではいえない。
ウ 小括
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。
(6)まとめ
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第3条第1項柱書及び同法第4条第1項第7号に違反してされたものではないから,同法第46条第1項の規定に基づき,その登録を無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
別掲1(本件商標。色彩は原本参照。)


別掲2(「缶詰の胴部及び蓋部に印刷するラベル」部分:乙1。色彩は原本参照。)


(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは,この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は,その日数を附加します。)以内に,この審決に係る相手方当事者を被告として,提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は,著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては,著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。

審判長 半田 正人
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
審理終結日 2021-11-16 
結審通知日 2021-11-18 
審決日 2021-12-14 
出願番号 2018006010 
審決分類 T 1 11・ 18- Y (W29)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 半田 正人
特許庁審判官 平澤 芳行
鈴木 雅也
登録日 2018-09-14 
登録番号 6080962 
商標の称呼 サクラ、シコーノマグロ、シコーノ、シコー 
代理人 高田 泰彦 
代理人 宮嶋 学 
代理人 ▲吉▼川 俊雄 
代理人 本宮 照久 
代理人 中村 行孝 
代理人 柏 延之 

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