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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない W09
管理番号 1389571 
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2022-10-28 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2021-03-11 
確定日 2022-02-21 
事件の表示 上記当事者間の登録第5519752号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5519752号商標(以下「本件商標」という。)は、「DOSRAM」の欧文字を標準文字で表してなり、平成24年3月26日に登録出願、第9類「理化学機械器具及びその部品並びに付属品,電気泳動装置,測定機械器具及びその部品並びに付属品,半導体集積回路検査装置,配電用又は制御用の機械器具,電気制御用機械器具,回路計,電気磁気測定器及びその付属品,液晶表示装置,有機EL表示装置,電気泳動素子を利用した表示装置,ナビゲーション装置,携帯電話機,電気通信機械器具,電子出版物表示用携帯端末,電子出版物表示用端末,コンピュータ及びコンピュータ周辺機器,ノートブック型コンピュータ,ラップトップ型コンピュータ,パーソナルコンピュータ,マイクロコンピューター,その他のコンピュータ,コンピュータ用マザーボード,コンピュータ用モニター,半導体素子,半導体素子を搭載した電子応用機械器具,その他の電子応用機械器具,電子タグ,ICカード又は磁気カード読み取り装置,ICカード又は磁気カード書き込み装置,無線通信用送信機・受信機,デジタルデータ記憶装置,半導体メモリ,コンピューター用チップ,集積回路,CPUを含む半導体集積回路,マイクロプロセッサ」、並びに第40類及び第42類に属する商標登録原簿記載の役務を指定商品及び指定役務として、同年8月15日に登録査定、同年9月7日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
なお、本件審判の請求の登録は、令和3年3月24日であり、本件審判の請求の登録前3年以内の平成30年3月24日から令和3年3月23日までを以下「要証期間」という。

第2 請求人の主張
請求人は、「商標法第50条第1項の規定により、登録第5519752号商標の指定商品及び指定役務中、第9類『理化学機械器具及びその部品並びに付属品,電気泳動装置,測定機械器具及びその部品並びに付属品,半導体集積回路検査装置,配電用又は制御用の機械器具,電気制御用機械器具,回路計,電気磁気測定器及びその付属品,液晶表示装置,有機EL表示装置,電気泳動素子を利用した表示装置,ナビゲーション装置,携帯電話機,電気通信機械器具,電子出版物表示用携帯端末,電子出版物表示用端末,コンピュータ及びコンピュータ周辺機器,ノートブック型コンピュータ,ラップトップ型コンピュータ,パーソナルコンピュータ,マイクロコンピューター,その他のコンピュータ,コンピュータ用マザーボード,コンピュータ用モニター,半導体素子,半導体素子を搭載した電子応用機械器具,その他の電子応用機械器具,電子タグ,ICカード又は磁気カード読み取り装置,ICカード又は磁気カード書き込み装置,無線通信用送信機・受信機,デジタルデータ記憶装置,半導体メモリ,コンピューター用チップ,集積回路,CPUを含む半導体集積回路,マイクロプロセッサ』(以下「請求に係る指定商品」という。)についての登録を取り消す。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第3号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品及び指定役務中、請求に係る指定商品について、継続して3年以上日本国内において本件商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないことから、その登録は商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)要証期間における使用がないこと
本件商標の存在が確認できる証拠は、乙第1号証の2、同第9号証ないし同第12号証のみである。
乙第1号証の2の左上部分に「2021/5/6」と記載があることから明らかなように、これは、2021年5月6日当時の被請求人ウェブページの内容を示すものにすぎない。よって、乙第1号証の2は、要証期間における本件商標の使用を証明するものではない。
乙第9号証には「2019」と記載がある以外は日付に関する記載がなく、いつ作成されたものか不明であるほか、それがいつ展示、頒布等されたものかについても、乙第9号証自体からは全く不明というほかない。
被請求人は、乙第9号証を他の証拠と組み合わせることで、乙第9号証と同じ内容のものが、要証期間中の2019年4月3日から5日に開催されたEXPOにて掲示されていたなどと主張しているようにも見える。しかし、乙第10号証ないし同第12号証では、確かに本件商標の存在が確認できるものの、それ以上の内容は把握できず、乙第10号証ないし同第12号証に掲示のものが、乙第9号証と同じものであるかは不明である。もとより、乙第10号証ないし同第12号証が、要証期間中の様子を撮影したものか否かも明らかでない。よって、乙第9号証と同じ内容のものが、要証期間中のEXPOで掲示されていたことを証明する証拠は存在しない。
なお、被請求人は、乙第14号証を指摘しながら、要証期間中に、乙第9号証と同じ内容のものが、電磁的方法により提供されていた旨の主張も展開するが、乙第14号証のどこをみても、乙第9号証らしきものは見当たらず、この主張は明らかに失当である。
以上より、乙第9号証は、それ自体では、要証期間中における本件商標の使用を証明するものではないほか、他の証拠と組み合わせてみても、要証期間中に乙第9号証と同じ態様での使用があったことは証明されていないといわざるを得ない。
次に、乙第10号証ないし同第12号証について検討するに、これらが要証期間中の様子を撮影した写真であるか否かは、この証拠自体から不明であるほか、要証期間中の様子であることを証明する他の証拠も存在しない。ちなみに乙第8号証の2の内容自体を信用することはできず、これと乙第8号証の1との間の関連性も不明というほかなく、したがって、乙第8号証の1が要証期間中の様子を撮影した写真であることを裏付ける客観的証拠はない。そうすると、いかに乙第8号証の1と組み合わせて乙第10号証ないし同第12号証をみたところで、要証期間中の様子を撮影した写真であることの証明は一切ない。
結局、被請求人が提出した証拠によっては、本件商標が、要証期間中に使用されていたことの証明はないことに帰する。
(2)請求に係る指定商品への使用がないこと
商標法上の「商品」とは、「市場において独立して商取引の対象として流通に供される物」をいい(平成16年(行ケ)337号)、請求に係る指定商品もそうした性質を有するものと証拠上評価できるものでなければならない。そして、「商取引」とは、「商業上の取引行為」をいい(甲2)、「取引」とは、「商人と商人、または商人と顧客との間の売買行為。営利のためになす経済行為。相互の利益になるような交換条件で事を処理すること。」をいう(甲3)。
そうすると、請求に係る指定商品への使用があったというためには、証拠上、請求に係る指定商品に関わる、半導体メモリについての記載があるだけでは足らず、それに関する交換条件(価格等)の記載など、それが商取引の対象となっていることまで明らかにされる必要がある。
これを乙第9号証についてみると、「DRAM」という記載はあるものの、その価格等に関する記載が全くない。また、同証拠には、「DRAM」の性能に関する記載があるのみで、それが、どういったビジネスに関わり、どのような仕組みで収益をもたらすものかが不明である。
したがって、乙第9号証に記載の「DRAM」は、半導体メモリを意味する語句であるとしても、商標法上の「商品」ということができず、結局、乙第9号証は請求に係る指定商品についての記載を欠くものである。なお、被請求人は、本件商標の第40類及び第42類の全指定役務を対象とした不使用取消審判(取消2021−300180)においても、乙第9号証と同じものを証拠として提出したうえで、同証拠は、第40類及び第42類の指定役務への使用の存在を示すものであるなどと主張するが、このこと自体、乙第9号証に具体的な商品・役務に関する記載がないことから、商品及び役務のいずれでも主張を展開できるたぐいの証拠であって、乙第9号証が本来的に説得力を欠くものに過ぎないことを端的に示している。
したがって、乙第9号証では、請求に係る指定商品への使用を証明できないというほかない。よって、いくら乙第9号証と同じ内容のものが、要証期間中のEXPOなどで掲示されていたと主張してみたところで、結局のところ請求に係る指定商品への使用が認められないことに変わりはない。
さらに言えば、乙第9号証とは離れるが、被請求人が、請求に係る指定商品の価格を提示しつつ広告していることを示す証拠は一切ない。
このほか、請求に係る指定商品に関する取引が実際に存在したのであれば、それに伴う様々な(対価等の記載を含む)取引書類が存在してしかるべきであり、被請求人はこうした書類を容易に証拠提出できるはずである。そうであるにもかかわらず、被請求人は、このような書類を一切提出しておらず、こうした被請求人の証拠提出に関する態度も、同人による請求に係る指定商品への本件商標の使用が存在しなかったことを示している。
(3)結語
以上のとおり、被請求人が提出した証拠によっては、要証期間中に日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者により請求に係る指定商品に本件商標が使用されたことが明らかになっていない。よって、本件商標は、請求に係る指定商品について、商標法第50条第1項により、その登録が取り消されるべきである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、答弁において、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第15号証(枝番を含む。)を提出した。
1 被請求人について
被請求人である株式会社半導体エネルギー研究所は1980年に設立され、主に以下を事業内容とする会社である(乙1の1)。
<下記分野における研究開発>
・結晶性酸化物半導体を用いたトランジスタや集積回路、及びそれらを統合した半導体デバイス
・バッテリーの各材料、及びそれらを統合したデバイス
・液晶・有機ELの材料や素子、及びそれらを統合したディスプレイデバイス
<結晶性酸化物半導体を用いたデバイスの量産試作>
<研究開発成果の特許取得、権利活用>
被請求人社名の英語表記は、Semiconductor Energy Laboratory Co.,Ltd.であり、頭文字を取った「SEL」の略称や会社ロゴも被請求人の出所表示として併用している(乙1の1)。
2 商標の使用の事実
(1)乙第1号証の2は被請求人ウェブサイトからの写しであり、被請求人が研究開発した半導体関連の成果物につき本件商標を用いて紹介されている。被請求人は本件商標を自社のウェブサイトを含め、現在に至るまで継続的に使用しているが、2019年に国内で使用していた例として、「第3回AI・人工知能EXPO」を説明する。
(2)ここで「AI・人工知能EXPO」とは、リードエグジビションジャパン株式会社が主催する、AI・人工知能に特化した我が国最大級の専門展であり、2017年の第1回を皮切りに毎年開催されている(乙2)。2022年5月には第6回の開催が予定されている(乙3)。なお、2020年より毎10月に「AI・人工知能EXPO」の秋展も開催されており、従前から続く「AI・人工知能EXPO」を春展として開催回数のカウントは別となっている(乙2)。
「AI・人工知能EXPO」では各社によって最先端のAI技術が展示され、AIを導入している企業・開発者などが多数来場し、出展社と来場者による商談が活発に行われている。実際、「AI・人工知能EXPO」のウェブサイトには「本展は商談のための展示会です」のように、「AI・人工知能EXPO」が単なる技術見本市ではなく、商取引を目的とした展示会であることが強調して謳われている(乙4、乙5)。
商談においては、新製品の受発注や技術ライセンスの供与交渉のみならず、乙第1号証にいう量産試作にあたる新規技術を用いた製品の試作・製作、同製品の加工・製造又は組立等に関する情報の提供、同製品の設計に関するコンサルティング・試験・検査・研究といったことが顧客の求めに応じて行われている。試作・製作に関しより具体的には、バイヤーからの求めに応じ被請求人が試作品たる商品を提供し、その先は被請求人が当該商品を卸すかたち、バイヤーと共に販売するかたち、技術を引き継いだバイヤーが販売するかたちが想定される。
(3)被請求人は、2019年の「第3回AI・人工知能EXPO」(以下、「AI EXPO2019」という。)に出展して本件商標を使用した。「AI EXPO2019」は東京都江東区に所在する東京ビッグサイト(東京国際展示場)で2019年4月3日から5日にかけて開催された(乙6)。
乙第7号証は「AI EXPO2019」の会場案内図であり、左下にピンク色のマーカーで図示するとおり被請求人がブースを設けて出展していた事実が分かる。
乙第8号証の1は「AI EXPO2019」の初日となる4月3日に撮影された写真であり(乙8の2)、キーエンス社のブースを背にして被請求人ブースを見たとき、左奥にSOLIZE社のブースが視認できる。このことからも、被請求人が確かにブースを設けて「AI EXPO2019」に出展していた事実が分かる。
(4)「AI EXPO2019」において、被請求人は本件商標を付したポスター(以下、「被請求人ポスター」という。)を自社ブースの壁面に展示していた(乙9〜乙11)。乙第12号証は乙第8号証の1の略右半分を拡大したものであり、壁面に展示されている被請求人ポスターのタイトルを見ると左から順に「DOSRAM」「信頼性と特性ばらつき」「移動度・遮断周波数」と並んでいる。これは乙第10号証で壁面に展示されている被請求人ポスターの並び順と合致するから、被請求人が確かにブースで被請求人ポスターを展示していた事実が分かる。
被請求人ポスターの左最下部には被請求人の出所表示たる会社ロゴが表され、右最下部には「第3回AI・人工知能EXPO」の文字が表されているから(乙9)、被請求人ポスターは「AI EXPO2019」において被請求人が用いたものであることが分かる。
(5)加えて、被請求人ポスターは被請求人のブースにおける展示のみならず、ブースを訪問した来場者がポスターの内容を後から参照できるよう、電子データとしても頒布していた。その頒布方法は、ブースを訪問した来場者に名刺大のカードを手渡し(乙13)、カードを受け取った者はそこに印字されたQRコードをスマートフォン等で読み取る、又はQRコード下部のURLを入力することによって専用サイトヘアクセス可能となり、「AI EXPO2019」における一連の被請求人ポスターをPDF形式の電子データで取得することができる、というものであった(乙14)。
(6)そして、被請求人ポスターの最上部には本件商標と同じ「DOSRAM」の文字が大きく表されており、その右肩には被請求人の登録商標であることを示す「R(Rマーク)」(審決注:「R」は、○の中にRの文字。)も付されている(乙9)。
本件商標の下には「動作周波数200MHz、1時間保持を達成したDRAM」と記載されているところ(乙9)、「DRAM(ディーラム)」とはコンピュータなどに使用される半導体メモリの一種であるDynamic Random Access Memory(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)の略語として一般に知られている(乙15)。本件商標は、被請求人の開発した半導体メモリの商品名として使用されているものである。この「DOSRAM」と名付けられた半導体メモリは顧客の求めに応じて試作・量産化等を行うものであるから、商取引の目的たり得るものである。
3 商標法第50条第2項の要件を充足すること
上記2で述べた被請求人による本件商標の使用の事実を、商標法第50条第2項の要件にあてはめて以下検討する。
(1)審判の請求の登録前3年以内
「AI EXPO2019」は2019年4月3日から5日にかけて開催されたものであるから、要証期間内の展示会である。
(2)日本国内において
「AI EXPO2019」は東京都江東区に所在する東京ビッグサイトで開催されたものであるから、日本国内における展示会である。
(3)商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが
「AI EXPO2019」でブースを出展したのは被請求人であり、同ブースに展示された被請求人ポスターには被請求人の出所表示たる会社ロゴが表されているから、「AI EXPO2019」において本件商標を使用したのは商標権者たる被請求人である。
(4)請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかに
被請求人ポスターは被請求人の開発した商品であるDRAMに関する広告物であり、DRAMは半導体メモリの一種である。この半導体メモリは商取引の目的たり得るものであったから、本件商標が指定商品・役務中、第9類「半導体メモリ」について使用されたことは明らかである。
(5)登録商標を
被請求人ポスターの最上部には、黒色のゴシック体で「DOSRAM」の文字が大きく表されている。これは本件商標、すなわち被請求人の登録商標と同一視できるものである。
(6)使用した
被請求人ポスターは被請求人の開発した商品たる半導体メモリに関する広告物であり、被請求人はこれに本件商標を付して被請求人ブースにおいて展示していたから、商標法第2条第3項第8号に規定する商標の広告的使用に該当する。
加えて、被請求人は「AI EXPO2019」において、来場者に被請求人ポスターをPDF形式の電子データで取得させており、ネットワークを通じて商品の広告物を頒布したといえる。この行為についても商標法第2条第3項第8号に規定する商標の広告的使用に該当する。
4 むすび
以上、本件商標は、被請求人により、本件審判の請求の登録前3年以内に、日本国内において、本件審判の請求に係る指定商品について使用されていることが明らかである。
したがって、本件商標は請求人主張の取消理由(商標法第50条第1項)に該当するものではなく、本件審判請求は成り立たない。

第4 当審の判断
1 事実認定
被請求人の提出した証拠及び当事者の主張によれば、以下の事実を認めることができる。
(1)被請求人は、1980年に設立され、結晶性酸化物半導体を用いたトランジスタや集積回路及びそれらを統合した半導体デバイスの研究開発、結晶性酸化物半導体を用いたデバイスの量産試作等を主な事業内容とする株式会社である(乙1の1)。
被請求人社名の英語表記は、Semiconductor Energy Laboratory Co.,Ltd.(略称「SEL」)であり、会社ロゴは別掲のとおりである(乙1の1)。
(2)「AI・人工知能EXPO」は、リードエグジビションジャパン株式会社が主催する、AI・人工知能に特化した我が国最大級の専門展であり、2017年の第1回以降、毎年開催されている(乙2、乙3、乙5等)。「AI・人工知能EXPO」は、「商談のための展示会」(乙4、乙5)であり、各社によって最先端のAI技術が展示され、AIを導入している企業・開発者などが来場し、出展社と来場者による商談が行われている(乙4等)。
(3)被請求人は、東京都江東区に所在する東京ビッグサイト(東京国際展示場)で2019年(平成31年)4月3日から5日にかけて開催された「AI EXPO2019」(「第3回AI・人工知能EXPO」)にブースを設けて出展した(乙5〜乙8の1)。
(4)被請求人ポスター(乙9)には、中央最上部に「DOSRAM」の文字が太字のゴシック体の書体で大きく表され、当該文字の下には「動作周波数200MHz、1時間保持を達成したDRAM」と記載され、「DOSRAMについて」、「単体FET特性によるDOSRAM動作周波数見積り」及び「DOSRAMモジュール」の各項目について説明がなされており、また、左最下部には被請求人の会社ロゴが表され、右最下部には「第3回AI・人工知能EXPO」の文字が表されている。そして、「DRAM(ディーラム)」とはコンピュータなどに使用される半導体メモリの一種であるDynamic Random Access Memory(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)の略語(乙15)であることから、「DOSRAM」は、被請求人が開発した半導体メモリの商品名として使用されているものである。
(5)乙第8号証の1、乙第10号証ないし乙第12号証の写真は、ブースの壁面に展示されているポスターの文字等に一部読みづらい点はあるものの、タイトルを見ると左から順に「DOSRAM」「信頼性と特性ばらつき」「移動度・遮断周波数」と並んでいること、各ポスターの図表の位置や表し方が概ね合致していること、「導体エネルギー研究所」(「半」の文字は柱に隠れているものと認められる。)の看板が表示されていること、被請求人の会社ロゴを背中側に表示した被服を着用した者がブース来場者に応対していること、被請求人と「SOLIZE」のブースの位置関係(乙8の1)が「第3回AI・人工知能EXPO」の会場案内図(乙7)と合致すること等から、いずれの写真も「AI EXPO2019」(「第3回AI・人工知能EXPO」)における被請求人のブースの様子を撮影したものと認められる。
(6)そして、乙第10号証ないし乙第12号証の各写真において、被請求人のブースの壁面に展示された青色を基調としたポスターの左から2つ目のポスターにおける「DOSRAM」の文字の位置、図表の位置や表し方等が、色彩も含め、被請求人ポスター(乙9)と概ね合致していること、被請求人ポスター(乙9)の右最下部に「第3回AI・人工知能EXPO」の文字が表されていること等から、被請求人ポスター(乙9)は、「AI EXPO2019」における被請求人のブースにおいて展示されていたものと認められる。
2 判断
上記1で認定した事実によれば、以下のとおり判断できる。
(1)使用商標
被請求人ポスター(乙9)に表示された「DOSRAM」の欧文字は、太字のゴシック体の書体で表してなる商標(以下「使用商標」という。)であるのに対し、本件商標は、「DOSRAM」の欧文字を標準文字で表してなる商標であるから、本件商標と使用商標とは、書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標であり、使用商標は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標である。
(2)使用商品
本件商標の使用に係る商品は、「半導体メモリ」(乙9、乙15)であるところ、当該商品は、請求に係る指定商品中、第9類「半導体メモリ」に該当するものである。
(3)使用時期
被請求人ポスターが展示された「AI EXPO2019」は、2019年(平成31年)4月3日から5日にかけて開催(乙5〜乙8の1)されたものであるから、要証期間内の展示である。
(4)使用場所
被請求人ポスターが展示された「AI EXPO2019」は、東京都江東区に所在する東京ビッグサイト(東京国際展示場)で開催(乙5〜乙8の1)されたものであるから、日本国内での使用である。
(5)使用者
被請求人ポスター(乙9)には、被請求人の会社ロゴが表示されており、同ポスターが展示された「AI EXPO2019」における展示ブースは、被請求人のブースであることから、被請求人、すなわち商標権者が本件商標の使用者である。
(6)使用行為
展示会におけるポスターでの使用商標の使用(乙1)は、「広告に標章を付して展示する行為」(商標法第2条第3項第8号)が行われたものと認められる。
(7)小括
上記(1)ないし(6)で判断したとおり、本件商標の商標権者は、要証期間に日本国内において、請求に係る指定商品中、第9類「半導体メモリ」に関する広告(ポスター)に本件商標と社会通念上同一の商標を付して展示する行為(商標法第2条第3項第8号)をしていたことが認められる。
3 請求人の主張について
(1)請求人は、被請求人ポスター(乙9)は、それ自体からは、いつ展示等されたものであるか不明であり、また、乙第10号証ないし同第12号証の写真に写されたポスターが、乙第9号証と同じものであるかも不明であり、かつ、乙第10号証ないし同第12号証が、要証期間中の「AI EXPO2019」における展示ブースの様子を撮影した写真であるかも不明であるから、被請求人ポスター(乙9)が、要証期間中の「AI EXPO2019」におけるブースで展示されていたことの証明はない旨主張している。
しかしながら、乙第8号証の1、乙第10号証ないし乙第12号証の写真は、いずれも「AI EXPO2019」における被請求人のブースの様子を撮影したものと認められ、かつ、乙第10号証ないし乙第12号証の各写真において、ブースの壁面に展示された青色を基調としたポスターの左から2つ目のポスターは、被請求人ポスター(乙9)と同一のものと認められるから、被請求人ポスター(乙9)は、「AI EXPO2019」における被請求人のブースにおいて展示されていたものと認められること、上記1(5)及び(6)のとおりである。
したがって、請求人の主張は採用することができない。
(2)また、請求人は、商標法上の「商品」とは、「市場において独立して商取引の対象として流通に供される物」(平成16年(行ケ)337号)をいうから、請求に係る指定商品について商標の使用があったというためには、単に商品についての記載があるだけでは足らず、商品に関する交換条件(価格等)の記載など、その商品が商取引の対象となっていることまで明らかにされる必要があるところ、被請求人ポスター(乙9)には、半導体メモリを意味する「DRAM」の記載はあるものの、その価格等に関する記載が全くないから、商標法上の「商品」ということができず、結局、請求に係る指定商品についての本件商標の使用を証明できない旨主張している。
しかしながら、商標法上の「商品」といえるためには、商取引の対象であって、出所表示機能を保護する必要のあるものでなければならないと解される(平成19年(行ケ)10008号)ところ、「AI EXPO2019」は、出展者と来場者による商談が行われる、商談のための展示会であって、被請求人は、当該展示会にブースを設けて出展し、被請求人が開発した半導体メモリ「DOSRAM」のポスター(乙9)を展示したのであるから、当該商品は、商取引の対象であって、その商品の出所表示機能を果たす「DOSRAM」は保護する必要のあるものと認められる。そうすると、「DOSRAM」が使用されている半導体メモリは、商標法上の商品ということができ、当該ポスターに価格等がないとしても、そのことが上記判断を左右する理由にはならない。
したがって、請求人の主張は採用することができない。
(3)さらに、請求人は、請求に係る指定商品に関する取引が実際に存在したのであれば、それに伴う様々な取引書類が存在してしかるべきところ、こうした書類が一切提出されていないことからも、請求に係る指定商品についての本件商標の使用が存在しなかったことを示している旨主張している。
しかしながら、商標法上、広告による使用があれば、不使用取消しを免れることとなるのは明らかであり、本件商標の商標権者は、要証期間に日本国内において、請求に係る指定商品中、第9類「半導体メモリ」に関する広告(ポスター)に本件商標と社会通念上同一の商標を付して展示する行為(商標法第2条第3項第8号)をしていたことが認められること、上記2(7)のとおりである。
したがって、請求人の主張は採用することができない。
4 まとめ
以上のとおり、被請求人は、本件商標の商標権者が、要証期間に日本国内において、請求に係る指定商品中、第9類「半導体メモリ」について、本件商標と社会通念上同一の商標の使用をしていたことを証明したと認められる。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、取り消すべき限りではない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲

別掲(被請求人の会社ロゴ)(色彩は原本参照)



(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。

審判長 岩崎 安子
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
審理終結日 2021-08-26 
結審通知日 2021-08-31 
審決日 2021-10-14 
出願番号 2012022925 
審決分類 T 1 32・ 1- Y (W09)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 岩崎 安子
特許庁審判官 板谷 玲子
森山 啓
登録日 2012-09-07 
登録番号 5519752 
商標の称呼 ドスラム 
代理人 山本 健策 
代理人 牧野 知彦 
代理人 石川 大輔 
代理人 古城 春実 
代理人 山本 秀策 
代理人 井▲高▼ 将斗 
代理人 特許業務法人不二商標綜合事務所 
代理人 飯田 貴敏 

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