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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W09 |
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管理番号 | 1389506 |
総通号数 | 10 |
発行国 | JP |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2022-10-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2020-05-27 |
確定日 | 2022-02-04 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第6038844号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第6038844号商標(以下「本件商標」という。)は、「EchoAMZ」の文字を標準文字で表してなり、平成29年7月19日に登録出願、第9類「警報器,計量器,測距儀,歩数計,カメラ用シャッター,録音装置,イヤホン,ワイヤレスイヤホン,テープレコーダー,ビデオカメラ,ヘッドホン,コンピュータ周辺機器,コンピュータ用マウス,スマートフォン用ケース,腕時計型ウェアラブル携帯情報端末,指輪型ウェアラブル携帯情報端末,双方向タッチスクリーン端末機」を指定商品として、同30年4月10日に登録査定、同月27日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 請求人が、本件商標の登録の無効の理由として引用する商標は、以下の2件であり(以下、これらを「引用商標」という。)、いずれも現に有効に存続しているものである。 1 登録第6072707号商標(以下「引用商標1」という。) ・商標の態様:「ECHO」(標準文字) ・指定商品及び指定役務:第9類「電気の伝導用・開閉用・変圧用・蓄電用・調整用又は制御用の機械器具,音声及び映像の記録・送信・再生用の機械器具・装置,電気通信機械器具,バーチュアルパーソナルアシスタントの機能を有するクラウドコンピューティングシステムに接続して制御を行う音声スピーカー並びにその部品及び付属品」を含む第9類,第35類,第38類,第41類及び第42類に属する商標登録原簿に記載の商品及び役務 ・登録出願日:平成27年4月10日 (優先権主張:2014年10月31日 トリニダード・トバゴ共和国) ・設定登録日:平成30年8月17日 2 登録第6114778号商標(以下「引用商標2」という。) ・商標の態様:「ECHO」(標準文字) ・指定商品:第9類「磁気記憶媒体・記録ディスク(未記録のもの),未記録のコンパクトディスク,未記録のDVD,未記録のデジタル記録媒体,データ処理装置,コンピュータ,コンピュータソフトウェア,電子応用機械器具(「ガイガー計数器・高周波ミシン・サイクロトロン・産業用X線機械器具・産業用ベータートロン・磁気探鉱機・磁気探知機・地震探鉱機械器具・水中聴音機械器具・超音波応用測深器・超音波応用探傷器・超音波応用探知機・電子応用扉自動開閉装置・電子顕微鏡」を除く。),電子管,半導体素子,電子回路(「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路」を除く。),電子計算機用プログラム,音声によって制御される情報機器用のコンピュータハードウエア及びコンピュータソフトウエア」 ・登録出願日:平成27年4月10日 (優先権主張:2014年10月31日 トリニダード・トバゴ共和国) ・設定登録日:平成31年1月18日 第3 請求人の主張 請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第60号証(枝番号を含む。以下、枝番号の全てを引用するときは、枝番号を省略して記載する。)を提出した。 1 請求の理由 本件商標は、商標法第8条第1項、同法第4条第1項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号によって、その登録は無効とされるべきである。 2 無効理由 (1)商標法第8条第1項該当性について ア 引用商標の周知著名性 (ア)AIスピーカー「ECHO」の登場 「ECHO」は、Amazon.com,Inc(以下「アマゾン社」という。)が開発した、「AIスピーカー」(甲7)の名称である。アマゾン社は、アメリカ合衆国ワシントン州シアトルを本拠地とする、世界最大級のインターネット通販サイトやインターネット事業者向けのデータセンター事業などを手掛ける世界最大手のIT企業である(甲5)。請求人は、アマゾン社の100%子会社として(甲6)、アマゾン社の知的財産を管理するとともに、我が国を含む世界中において、引用商標について多数の商標登録出願を行っている。 これまで、スマートフォンの分野においては、米アップル社が「シリ」を、米グーグル社が「グーグル・ナウ」を、それぞれ音声操作によるアシスタント機能としてスマートフォンに搭載する形で提供していたが、アマゾン社は、AIアシスタントをスピーカーに搭載するという独自の発想に基づき、AIスピーカー「ECHO」を開発した(甲8)。 アマゾン社は、2014年11月6日に、米国で招待制による「ECHO」の販売を開始し、2015年6月23日には一般販売を開始した(甲9)。「ECHO」は、無線通信によりインターネットに接続され、内蔵された音声アシスタント「アレクサ」にユーザーが声をかけることによって、スピーカーを通じて音楽やラジオ放送を聴取したり、現在地のニュースや天気予報を確認したりすることができるほか、照明やエアコン、掃除機、自動車などの外部の対応機器を接続させることによって、音声ひとつでそれらの機器を操作することが可能となる(甲10〜甲12)。画面やタッチボタン等を介した指先での操作を必要とせず、音声のみで一切の操作を可能にするという点で、単なるスピーカーを超えた、これまでにない画期的な情報通信機器として、最初の発売国である米国で爆発的なヒット商品となった(甲13〜甲15)。 米国で「ECHO」が発売された時点では、我が国における「ECHO」の発売時期等に関する具体的な予定は明らかにされていなかったにもかかわらず、米国で「ECHO」の販売予約の受付が開始されたことが、以下に示すとおり我が国の全国紙及び地方紙を通じて全国で一斉に報じられ、我が国での「ECHO」に対する注目度の高さをうかがわせるものとなった(甲16〜甲26)。 「米IT大手アマゾン・コムは23日、音声を認識する人工知能を備え、指示された音楽をかけたり質問に答えたりするスピーカー『アマゾン・エコー』の予約受け付けを米国で開始した。同社にとって新分野の商品となる。アップルやグーグルは音声を認識する人工知能をスマートフォンに組み込んでいるが、スピーカーに搭載するアマゾンの発想は独特だ。米国市場で成功すれば日本での展開も見込めそうだ。」(甲16) その後も、実際に米国で「ECHO」を購入し使用した在米の日本人ジャーナリストや知識人らが、「ECHO」の使い心地や、「ECHO」が自宅にあることによっていかに生活の利便性が向上したかについて詳細に伝える記事が、我が国の新聞・雑誌・インターネット等に掲載された(甲11、甲14、甲27、甲28)。 アマゾン社の「ECHO」は、スマートフォンが登場して以来の生活を大きく変える画期的なデジタル機器として、一躍注目される存在となった。また、そのことは、「ECHO」本体に関する報道だけでなく、「ECHO」ないし「ECHO」に内蔵された音声アシスタント「アレクサ」を用いたさまざまな製品やサービスが開発されたことが、我が国で度々報道されていることからも明らかである(甲29〜甲33)。 (イ)市場における「ECHO」の販売シェアと世界各国での発売開始 「ECHO」の米国での発売以降、複数の電機メーカーやインターネット企業が、「ECHO」と同種のAIスピーカーを相次いで発売・発表したことにより、世界におけるAIスピーカーの市場は、アマゾン社の「ECHO」が牽引する形で急速な盛り上がりを見せた(甲34〜甲36)。「ECHO」は、米国において、2014年11月の招待制による販売に続き、2015年6月に一般販売がされた結果、2016年4月までの間に累計300万台もの売上を記録した(甲8、甲15、甲34)。その後も販売台数は順調に伸び、アマゾン社は、米国で同社が2016年に販売した全商品の中で最も売れた商品が「ECHO」であると発表した(甲37)。その販売台数は、2016年だけで520万個(甲38)にのぼり、2016年末の米国における累積販売台数は、販売開始からわずか2年ほどにもかかわらず、既に1千万台を超えているとの報道もあった(甲35)。2017年5月における米国のAIスピーカーの市場シェアは、アマゾン社の「ECHO」が約71%、グーグル社の「Google Home」が約24%と、市場の先駆者であるアマゾン社が圧倒的なシェアを獲得している(甲39、甲40)。 アマゾン社は、米国での順調なシェア拡大と並行して、海外でも順次「ECHO」の販売を開始した。すなわち、2016年9月には英国及びドイツで(甲41)、2017年10月にはインドで(甲42)、同年11月には我が国において「ECHO」を発売した(甲43、甲44)。 我が国における「ECHO」の販売は、当初はアマゾン社の日本法人であるアマゾンジャパン合同会社の運営するオンラインショッピングサイト「Amazon.co.jp」での申し込みを通じた招待制による販売であったが、2018年3月30日からは同サイト上での一般販売が開始され、同年4月からは、全国1千カ所以上の家電量販店の店頭でも販売されるようになった(甲45、甲46)。 このように、米国のみならず、我が国をはじめとする世界各国でも「ECHO」の販売が開始され、その機能性及び利便性が瞬く間に一般消費者の間に浸透した結果、2017年のAIスピーカー市場における「ECHO」のシェアは6割に達し、世界での出荷台数は数千万台を超えるものとなった(甲47)。 (ウ)他国での「ECHO」の出願・登録状況 請求人は、引用商標について、イスラエル、ニュージーランド、フィリピン、ロシア、シンガポール、トルコ、ウクライナ、EU及び米国において商標権を有しており(甲48の1〜甲48の11)、米国においては出願中のものもある(甲48の12〜甲48の15)。 さらに、請求人は、引用商標をその構成中に含む商標、すなわち「AMAZON ECHO」(商標登録第5874907号:甲49の1、甲49の2)、「ECHO DOT」(商標登録第5948586号:甲49の3)、「AMAZON ECHO DOT」(商標登録第5942383号:甲49の4)、「ECHO SHOW」(商標登録第6189907号:甲49の5)、「ECHO SPOT」(商標登録第6090449号)(甲49の6)、「ECHO PLUS」(商標登録第6090452号:甲49の7)、「ECHO CONNECT」(商標登録第6090458号:甲49の8)、「ECHO ESCAPE」(商標登録第6140801号:甲49の9)、「ECHO LOOK」(商標登録第6219329号:甲49の10)、「ECHO SUB」(商標登録第6239640号:甲49の11)、「ECHO WALL CLOCK」(商標登録第6238131号:甲49の12)についても、我が国において商標権を有しているほか、広くアジア、ヨーロッパ、中東、オセアニアの各国・地域においても上記商標について商標権を有している(甲50)。 このように、請求人は、世界中で引用商標及び引用商標をその構成中に含む商標の保護に努めており、その著名性は我が国だけでなく世界中においても維持されている。 (エ)小括 以上のとおり、「ECHO」は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人及びアマゾン社の業務に係るAIスピーカーを表す商標として、全国的な周知著名性を獲得している商標である。 イ 本件商標の要部ないし本件商標と引用商標の類否 本件商標は、その構成中、語頭の1文字「E」と語尾の3文字「AMZ」がそれぞれ大文字で表され、その他の文字は小文字で表されていることにより、視覚上、前半部の「Echo」と後半部の「AMZ」が分離観察される外観を呈する。 しかして、「Echo」の文字部分と「AMZ」の文字部分は、その意味内容において、馴染まれた熟語的意味合いを有している等の密接あるいは自然な牽連性はなく、その他両者常に一体のものとして把握しなければならない格別の事情も見当たらない。むしろ、本件商標の前半部をなす「Echo」は、「こだま」、「やまびこ」などの親しまれた意味合いを有する語として我が国の需要者の間で広く親しまれた平易な英単語であることに加えて、前記アに述べたとおり、アマゾン社が開発したAIスピーカーを表すものとして、我が国を含む世界中で周知著名性を獲得している引用商標「ECHO」と文字つづりを同一にするものである。 そうすると、本件商標の構成中、「Echo」の文字部分が強く支配的な印象を有する要部であるというべきである。 本件商標の構成中、「Echo」の文字部分と、引用商標「ECHO」とを比較すると、外観においては、大文字か小文字かの違いはあるものの、両者は「ECHO(Echo)」の文字つづりを共通にするものである。 また、両者はいずれも「エコー」の称呼が生じ、観念上も、「こだま」、「やまびこ」といった意味合いを有する英単語としての一般的な観念に加え、アマゾン社が開発したAIスピーカーのブランドを表す著名表示としての「ECHO」の観念をも共通にするものであるから、称呼及び観念を共通にするものである。 以上より、「Echo」の文字部分を要部とする本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても類似する商標である。 ウ 裁判例及び特許庁の審決、決定 本件商標が「Echo」の文字部分を要部とする商標であって、引用商標に類似するとの請求人の主張は、過去の裁判例や審決等にみられる判断に照らすことでより明確になるものと考える。 すなわち、甲第51号証の裁判例及び審決、決定は、構成中に当該商品ないし役務を取り扱う分野の取引者、需要者の間に広く認識されている他人の商標を含む商標は、その他人の商標にあたる部分に強く印象付けられ、当該商品ないし役務が上記他人の商品・役務とその生産者、販売者又は提供者を同じくする商品ないし役務であると想起又は連想する場合も決して少なくないとして、当該他人の商標に類似すると判断している。 これらの先例において示された判断は、「Echo」の文字を要部とする本件商標と、我が国において周知著名性を獲得した「ECHO」の文字からなる引用商標との類否にも当てはまるものであるから、考慮されなければならない。 エ 小括 以上のとおり、本件商標は、引用商標とは、要部から生じる称呼及び観念が同一である類似商標であり、引用商標に係る指定商品と同一又は類似する商品を指定商品とするものであって、引用商標の後願に係るものであるから、商標法第8条第1項に違反して登録されたものである。 (2)商標法第4条第1項第15号該当性について 商標法第4条第1項第15号は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他商品識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものである。 一方、特許庁の商標審査基準によれば、商標法第4条第1項第15号該当性の判断において、「他人の著名な商標と他の文字又は図形等と結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものなどを含め、原則として、商品又は役務の出所の混同を生ずるおそれがあるものと推認して、取り扱うものとする」とされている(甲52の2)。 かかる基準に照らして考察すると、以下のイで説明するとおり、本件商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、これをその指定商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、請求人及びアマゾン社の「ECHO」ブランド商品を想起、連想し、本件商標を使用した商品が、あたかも請求人又はアマゾン社の業務に係る商品であるか、又は、請求人ないしアマゾン社と関係のある営業主の業務に係る商品であるかのように認識して取引にあたり、商品の出所について混同を生ずるおそれがあったというべきであり、本件商標は、他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標として、商標法第4条第1項第15号に該当するものであることは明らかである。 ア 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性 (ア)本件商標と引用商標との類似性の程度 前記(1)アにおいて説明したとおり、本件商標は、「Echo」の文字部分を要部とする商標であるから、引用商標とは、要部から生じる称呼及び観念が同一である類似商標に該当する。 したがって、本件商標と引用商標の類似性の程度は、相当程度高いものである。 他方、本件商標の後半部をなす「AMZ」は、辞書等に掲載されているような既成の語に相当するものではなく、何らかの語の文字の一部を繋げた頭文字ないし略語であるとの印象を与えるものであるところ、「AMZ」の3文字は、アマゾン社の名称の略称として、及び、アマゾン社が世界的に展開するオンラインショッピングサイトの名称として、極めて著名である「AMAZON」の語と相紛らわしいものである。 事実、アマゾン社が上場している米国NASDAQ市場におけるアマゾン社のティッカーシンボル(株式市場で上場企業や商品を識別するために付される記号)は、「AMZN」である(甲6)。 そうすると、本件商標に接した取引者、需要者は、本件商標の構成中、「AMZN」と一文字違いの「AMZ」の文字部分から、世界的に周知著名なアマゾン社の名称の略称ないしそのオンラインショッピングサイトである「AMAZON」を容易に想起、連想することになる。 さらに、アマゾン社は、AIスピーカーのブランドである「ECHO」の製品展開にあたって、「Echo」だけでなく、「Echo Dot」、「Echo Flex」、「Echo Show」、「Echo Plus」、「Echo Studio」といった、「ECHO」の文字の後に他の文字を結合させた態様からなる名称を有する、様々なバリエーションの「ECHO」シリーズの製品を我が国において販売している(甲44、甲53)。また、請求人は、我が国において、引用商標のほかに、「ECHO」と他の文字を結合させた態様の商標(甲49)についての商標登録を有している。 このような事情を考慮すると、請求人及びアマゾン社の著名な引用商標「ECHO」と文字つづりを同一にする「Echo」の文字に、アマゾン社の名称の略称及び同社の運営に係るオンラインショッピングサイトの名称として著名な「AMAZON」と相紛らわしい「AMZ」の文字を結合した態様からなる本件商標が、その指定商品に使用された場合、アマゾン社が、「ECHO」ブランドの製品として、「Echo Dot」や「Echo Plus」等の様々なバリエーションのAIスピーカーを我が国において販売しているという取引の事情とも相まって、本件商標「EchoAMZ」に接した取引者、需要者において、本件商標が使用された商品が、アマゾン社の製造・販売に係る様々な「ECHO」シリーズ製品のバリエーションの一つとして誤認される可能性は極めて高く、取引上極めて相紛らわしいものである。 (イ)引用商標の周知度 上記(1)アで詳述のとおり、引用商標「ECHO」は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人及びアマゾン社の業務に係るAIスピーカーを表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものであり、その周知性の程度は相当高いものである。 (ウ)引用商標の独創性の程度 引用商標「ECHO」は、請求人及びアマゾン社の業務に係るAIスピーカーのブランド名として採択された表示であり、当該商品が最初に米国で販売開始された2014年当時はもちろんのこと、現在に至るまで、当該商品の品質等を表示する語として一般に使用されるものではない。 したがって、引用商標は、十分な独創性を有するものである。 (エ)本件商標の指定商品と他人の業務に係る商品等との関連性の程度、需要者の共通性その他取引の実情 引用商標が周知著名性を獲得した商品は、AIスピーカーであるのに対し、本件商標は、前記第1のとおり、第9類の商品を指定商品とするものである。 本件商標の指定商品中、第9類「イヤホン、ワイヤレスイヤホン、ヘッドホン」と、引用商標が使用されるAIスピーカーは、いずれも、音声を出力することを目的とした音響機器に分類されるものであるから、その用途・目的が一致し、互いに密接な関連性がある。 また、本件商標の指定商品中、第9類「イヤホン、ワイヤレスイヤホン、ヘッドホン、コンピュータ周辺機器、コンピュータ用マウス、スマートフォン用ケース、腕時計型ウェアラブル携帯情報端末」と、引用商標が使用されるAIスピーカーは、同一の製造者又は販売者によって製造又は販売される場合がある。 例えば、米アップル社は、自社のAIスピーカー「HomePod」(甲54の1)と、本件商標の指定商品に含まれるイヤホン(甲54の2)、ワイヤレスイヤホン「AirPods Pro」(甲54の3)、ヘッドホン(甲54の4)、USBアダプター(甲54の5)、コンピュータ用マウス「Magic Mouse 2」(甲54の6)、スマートフォン用ケース(甲54の7)及び腕時計型ウェアラブル携帯情報端末「Apple Watch」(甲54の8)を、同一の公式オンラインストアにおいて販売している。 また、米グーグル社は、自社のAIスピーカー「Google Home」及び「Google Nest」製品(甲55の1)と、本件商標の指定商品に含まれるイヤホン及びワイヤレスイヤホン(甲55の2)、USBアダプター(甲55の3)並びにスマートフォン用ケース(甲55の4)を製造し、同一の公式オンラインストアにおいて販売している。 さらに、本件商標の指定商品は、いずれも「Amazon.co.jp」のような家電製品を取り扱うオンラインショッピングサイトや、家電量販店等の小売店で販売されることが一般的であるが、前述のとおり、アマゾン社のAIスピーカー「ECHO」も、「Amazon.co.jp」に加え、2018年4月からは、全国1千カ所以上の家電量販店の店頭で販売されていることからもわかるとおり(甲45、甲46)、両者の商品の販売場所は共通する場合が少なくない。 そして、これら家電製品の中心的な需要者は、一般の消費者であることからすれば、その需要者・取引者の範囲もおのずと一致するといえる。 そもそも、本件商標の指定商品である家電製品の主な需要者は、必ずしも商標やブランドについて詳細な知識を持たない、老若男女を含む一般消費者である。特に、本件商標の指定商品中、イヤホンやヘッドホン、スマートフォン用ケースといった商品は、家電量販店だけでなく、コンビニエンスストアやいわゆる100円ショップ等の小売店においても安価で販売されているものであり、需要者は、それらの店頭において、食品や日用品を購入するついでに、当該商品に付された商標を注意深く観察するまでもなく短時間のうちに購入決定することも容易に想定される。 老人から若者までを含む一般の消費者は、商品の購入に際して、メーカー名などについて常に注意深く確認するとは限らないことからすれば、商品購入時に払う注意力の程度は決して高いものではない(知的高等裁判所平成17年4月13日判決(平成17年(行ケ)第10230号、甲56)。このことは、比較的安価で販売されることの多い家電製品を含む本件指定商品の需要者にも同様に当てはまるのである。すなわち、本件指定商品の需要者である一般消費者は、商品に表示された商標構成中の覚えやすく親しみやすい印象を与える部分や、過去に宣伝広告に接した際あるいは購買した際に記憶した商標に基づいて、多数の商品の中から自己の求める商品を選択ないし購買すると考えられる。そして、引用商標は、本件商標の登録出願前より、我が国の新聞や雑誌等において多数報道がなされた結果、我が国の需要者の間に広く認識されていたことからすれば、本件商標に接する需要者は、その構成中、引用商標と同一のつづりである「Echo」の文字、及び世界的に著名なアマゾン社の名称の略称又は同社の運営に係るオンラインショッピングサイトの名称である「AMAZON」を想起させる「AMZ」の文字から、請求人及びアマゾン社の「ECHO」ブランドの商品を想起、連想する可能性が高いのである。 以上のことを勘案すると、本件商標の指定商品と、引用商標の使用商品であるAIスピーカーとは、その用途及び目的が一致し、同一の製造者又は販売者によって製造又は販売される場合があり、また商品の販売場所が一致するものであって、需要者の範囲も当然に一致するから、上記した家電製品の分野における一般的な取引の実情も踏まえると、両者は密接な関連性を有するものであることは明らかである。 以上のとおり、本件商標に係る指定商品と引用商標が周知著名性を獲得した商品とは、家電製品の分野における一般的な取引の実情に照らしても関連性が強いものであるから、本件商標と引用商標の取引者、需要者の共通性は極めて高いものである。加えて、本件指定商品に係る取引の実情において、需要者が取引にあたって払う注意力の程度は必ずしも高いものではないということがいえる。 (オ)小括 以上のとおり、本件商標と引用商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準に、商標自体の類似性の程度、引用商標の著名性の程度、商品間の関連性、取引者及び需要者の共通性、並びに実際の具体的取引の実情を勘案すると、本件商標がその指定商品に使用された場合、本件商標に接した取引者、需要者は、あたかも請求人若しくは請求人と何等かの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがあることは明らかである。 イ 裁判例及び特許庁の審決、決定 最高裁判所の平成13年7月6日第二小法廷判決(最判平成12年(行ヒ)第172号「PARM SPRINGS POLO CLUB」事件:甲57の1)は、引用商標「POLO」(著名商標)について、「本願商標は引用商標と同一の部分をその構成の一部に含む結合商標であって、その外観、称呼及び観念上、この同一の部分がその余の部分から分離して認識され得るものであることに加え、引用商標の周知著名性の程度が高く、しかも、本願商標の指定商品と引用商標の使用されている商品とが重複し、両者の取引者及び需要者も共通している。」として、「本願商標は、これに接した取引者及び需要者に対し引用商標を連想させて商品の出所につき誤認を生じさせるものであり、その商標登録を認めた場合には、引用商標の持つ顧客吸引力ヘのただ乗り(いわゆるフリーライド)やその希釈化(いわゆるダイリューション)を招くという結果を生じ兼ねないと考えられる。」と判断した。 上掲の判決に限らず、他人の周知著名な商標を一部に含む商標について、当該他人の業務に係る商品等と混同を生じるおそれがあるとして、登録拒絶又は登録無効若しくは取消しの判断をした判決は多数存在する(甲57の2〜甲57の10)。いずれの審決及び決定も、本件商標のように、他人の周知著名な商標を一部に含む商標について、当該他人の周知著名な商標と混同を生じるおそれがあると判断している。引用商標「ECHO」は、請求人及びアマゾン社の業務に係るAIスピーカーを表す商標として周知著名性を獲得している点に相違はないから、こうした先例にみられる判断は、本審判事件において考慮されなければならないものである。 ウ 小括 以上のとおり、引用商標が請求人及びアマゾン社の業務に係る「ECHO」ブランド商品を表すものとして周知著名な商標であること、本件商標は、引用商標と同一の文字つづりからなる「Echo」の文字部分を要部とする商標として、引用商標と高い類似性を有すること、引用商標「ECHO」が独創性の高い商標であること、本件商標の指定商品は、引用商標が周知著名性を獲得した商品と関連性が高いものであり、需要者の範囲も一致するものであることから、本件商標は取引者及び需要者にとって引用商標と強い関連性を持って認識されること等を総合して考慮すると、本件商標をその指定商品に使用するときは、これに接する取引者、需要者は、請求人の「ECHO」ブランド商品を想起、連想し、あたかも請求人が取り扱う業務に係る商品であるかのように認識して取引にあたると考えられるため、その出所について混同を生ずるおそれがあることは明白である。 また、過去の裁判例や特許庁の審決等にみられる判断においても、本件商標のように、その一部に他人の周知著名な商標・ブランドをその構成中に含む多くの商標が、出所の混同のおそれがある商標と認定されているのであり、特に、本件商標と引用商標にあっては、周知著名な引用商標と同一の文字つづりからなる「Echo」に結合された文字が、世界的に著名なアマゾン社の略称及び同社の運営に係るオンラインショッピングサイトの名称である「AMAZON」を想起させる「AMZ」であること、本件指定商品と引用商標が使用される商品が、いずれも音響機器や電子応用機械器具の範ちゅうに属するものであって、極めて密接関連性の高いものであることも十分に考慮されなければならない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。 (3)商標法第4条第1項第19号該当性について 本件商標は、その登録出願時及び登録査定時において、我が国をはじめとして世界的に著名であった請求人及びアマゾン社の商標「ECHO」と文字つづりを同一にする「Echo」の文字部分を要部とする商標であり、本件商標権者の不正の目的によって出願されたものであるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。 ア 引用商標の著名性 前記(1)アで説明したとおり、「ECHO」は、請求人及びアマゾン社の業務に係るAIスピーカーを表す商標として、世界的な周知著名性を獲得している商標である。 したがって、引用商標は、商標法第4条第1項第19号に規定されるとおり、他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、日本国内及び外国における需要者の間に広く認識されている商標に該当するものである。 イ 本件商標と引用商標の類似性 前記(1)イ及び前記(2)ア(ア)において説明したとおり、本件商標は、「Echo」の文字部分を要部とする商標であるから、引用商標とは、要部から生じる称呼及び観念が同一であり、外観において近似した印象を与える類似する商標に該当する。 したがって、本件商標と引用商標の類似性の程度は、相当程度高いものである。 さらに、本件商標の後半部をなす「AMZ」は、辞書等に掲載されているような既成の語に相当するものではなく、何らかの語の文字の一部を繋げた頭文字ないし略語であるとの印象を与えるものであるところ、「AMZ」の3文字は、アマゾン社の名称の略称として、並びに、アマゾン社が世界的に展開するオンラインショッピングサイトの名称として、極めて著名である「AMAZON」の語と極めて紛らわしいものであって、事実、アマゾン社のティッカーシンボルが「AMZN」であることからすれば、本件商標に接した取引者及び需要者は、本件商標の構成中、「AMZ」の文字部分から、世界的に周知著名なアマゾン社の名称の略称ないしその運営に係るオンラインショッピングサイトである「AMAZON」を容易に想起・連想することになる。 したがって、本件商標と引用商標が類似することは明らかであり、その類似性の程度は極めて高いというべきである。 ウ 本件商標権者の「不正の目的」 東京高裁平成14年10月8日(平成14年(行ケ)第97号:甲58)では、「商標法4条1項19号は、もともと只乗り(フリーライド)のみならず、稀釈化(ダイリューション)や汚染(ポリューション)の防止をも目的とする規定」であると説示しているとおり、同号における「不正の目的をもって使用するもの」とは、具体的には「日本国内で全国的に著名な商標と同一又は類似の商標について、出所混同のおそれまではなくとも出所表示機能を稀釈化させ、その名声を毀損させる目的をもって商標出願する場合」や、「その他日本国内又は外国で周知な商標について信義則に反する不正の目的で出願する場合」等が該当する。 なお、特許庁の平成15年10月30日審決(無効2001−35149:甲59)においても、「商標法第4条第1項第19号に規定する『不正の目的』とは、日本国内又は外国における需要者の間に広く認識され周知。著名となっている他人の商標について、当該商標が当該商品又は役務について登録されていないことを奇貨として、不正の利益を得る目的又は当該他人に損害を加える目的等の不正の目的と解され、それには、当該商品又は役務の分野に進出を阻むことや他人の商標に化体した信用や名声等に対してのただ乗り(フリーライド)、希釈化(ダイリューション)や汚染(ポリューション)することにより当該他人に損害を与えることとなる場合も含むものと解するのが相当である。」と説示しているところである。 引用商標は、前述のとおり請求人及びアマゾン社のAIスピーカーを表す表示として我が国及び世界中の需要者の間において広く知られ、高い名声・信用・評判を獲得するに至っているものであり、本件商標の登録出願時には、引用商標は既に請求人及びアマゾン社の業務に係る商品を表す商標として、我が国及び外国における需要者の間に極めて広く認識されていた著名商標であったことに疑いを挟む余地はない。 本件商標は、そのような請求人の著名商標である「ECHO」と文字つづりを同一にする「Echo」の文字を要部とすることに加え、アマゾン社の名称の略称及び同社の運営に係るオンラインショッピングサイトの名称である「AMAZON」と極めて相紛らわしい「AMZ」の文字と「Echo」とを組み合わせた「EchoAMZ」の文字からなる商標であることを考慮すれば、本件商標の採択にあたり、いずれも請求人及びアマゾン社の著名商標を強く連想、想起させる「Echo」と「AMZ」の文字とが偶然に組み合わされ、商標として採択されたものとは認め難い。 したがって、本件商標権者は、その登録出願時には我が国での販売は未だされていなかったとはいえ、既に我が国の新聞や雑誌等において多数報道がなされ、一般に相当程度知られていた引用商標「ECHO」と、アマゾン社及び同社の運営に係るオンラインショッピングサイトを表す「AMAZON」の著名表示を十分に知りつつ、それらが有する高い名声・信用・評判にただ乗り(フリーライド)する目的、すなわち不正の目的をもって、本件商標の登録出願をし、本件商標を使用したものと優に推認されるものである。 エ 裁判例及び特許庁の審決、決定 商標法第4条第1項第19号該当性について判断した裁判例や審決、決定は多数存在する(甲60)。いずれも、日本国内又は外国における著名商標と同一又は類似する商標を出願・登録した商標権者の不正の目的を認定している。 本件においても、請求人及びアマゾン社の引用商標「ECHO」と、アマゾン社及び同社の運営に係るオンラインショッピングサイトを表す「AMAZON」の表示が、それぞれ世界中で著名である事実を考慮すると、本件商標権者が、これらの表示の存在を知らずに、偶然に「ECHO」と同一の文字つづりからなる「Echo」の文字と、「AMAZON」と極めて相紛らわしい「AMZ」の文字とを組み合わせてなる本件商標を採択し、登録出願したとは考えられない。 そうとすれば、上記ウに示した東京高裁平成14年10月8日(平成14年(行ケ)第97号:甲58)の判決及び上記の過去の裁判例及び特許庁の審決、決定における商標権者の不正の目的の認定に至る説示は、本件商標の採択及び出願に至った本件商標権者にも当てはまるものと考える。 オ 小括 以上のとおり、本件商標は、その登録出願時及び登録査定時において、請求人及びアマゾン社の業務に係るAIスピーカーを表示する商標として我が国及び世界中の需要者の間に広く認識されている商標「ECHO」と文字つづりを同一にする「Echo」の文字と、アマゾン社の名称の略称及び同社の運営に係るオンラインショッピングサイトの名称である「AMAZON」と極めて相紛らわしい「AMZ」の文字とを結合させた、「EchoAMZ」の文字からなる商標であって、本件商標権者が、その登録出願時には我が国での販売は末だされていなかったとはいえ、米国をはじめとする諸外国において先行して発売されることにより、我が国の新聞や雑誌等でも多数報道がされ、大きな話題となっていた請求人及びアマゾン社の業務に係るAIスピーカーのブランド名である「ECHO」の世界的な著名性に便乗し、それに化体した信用や名声等に対してただ乗り(フリーライド)する目的で登録出願をしたものと優に推認されるものである。 したがって、本件商標は、他人である請求人及びアマゾン社の業務に係る商品を表示するものとして日本国及び外国における需要者の間に広く認識されている商標「ECHO」と類似する商標であり、本件商標権者の不正の目的をもって使用をするものであることは明らかであるから、本件商標は、出所混同のおそれがあるか否かにかかわらず、商標法第4条第1項第19号に該当するものとして、その登録は排除されなければならない。 第4 被請求人の主張 被請求人は、請求人の主張に対し、何ら答弁していない。 第5 当審の判断 1 引用商標の周知性について (1)請求人提出の甲各号証、同人の主張によれば、次の事実を認めることができる。 ア 請求人は、米国のIT企業「Amazon.com,Inc」(アマゾン社)の100%子会社である(甲6)。 イ アマゾン社は、「Amazon Echo(アマゾンエコー)」又は「Echo(エコー)」と称する「AIスピーカー」(以下「使用商品」という。)を、米国において、2014年(平成26年)11月から招待制による販売、2015年(平成27年)6月から一般販売を開始し、その後、2016年(平成28年)9月に英国及びドイツで、2017年(平成29年)10月にインドで販売を開始した(甲9、甲41、甲42)。 ウ 使用商品は、我が国において、2017年(平成29年)11月に招待制による販売、2018年(平成30年)3月から一般販売が開始された(甲43、甲44)。 エ 2015年(平成27年)5月以降、我が国の新聞、雑誌、ウェブサイトなどに使用商品に係る記事が掲載されているところ、その内容は、主に米国における使用商品の販売予約の開始に関するものや使用商品の機能や特徴などの紹介であり、記事の本文中、若しくは、商品画像とともに使用商品を「Echo(エコー)」又は「エコー」と表記することもあるが、「アマゾン・エコー」又は「Amazon Echo」と表記するものが多く、引用商標「ECHO」を使用している記事は見いだせない(甲10〜甲47)。 オ 使用商品は、米国における2015年(平成27年)6月の一般販売から2016年(平成28年)4月までの間に累計300万台の売上げがあった(甲8、甲15、甲34)。なお、2016年(平成28年)の使用商品の販売台数は、520万個(甲38)であり、2016年(平成28年)末までの米国における累積販売台数は1千万台を超えた(甲35)。 また、2017年(平成29年)5月における米国のAIスピーカーの市場シェアは、使用商品が約71%を占め、トップである(甲39、甲40)。 しかしながら、我が国における使用商品の販売数量、売上累計など販売実績を示す主張、立証はない。 (2)上記(1)によれば、使用商品は、本件商標の登録出願日(平成29年7月19日)前に、米国、英国及びドイツで販売されたものであって、米国における2015年(平成27年)6月から2016年(平成28年)末までの販売台数や2017年(平成29年)5月当時のAIスピーカーの市場シェアよりすれば、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標は、使用商品を表示するものとして、米国におけるその商品の需要者の間で、ある程度知られていたことがうかがえるとしても、米国をはじめとする外国における需要者の間で広く認識されていたものとは認めることができない。 一方、使用商品は、我が国で販売が開始されたのは本件商標の登録出願日後の2017年(平成29年)11月であって、2015年(平成27年)5月頃から、我が国の新聞等において使用商品に係る記事が掲載されたことを考慮しても、何より我が国における販売実績を示す証拠は見いだせないから、使用商品は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。 そうすると、使用商品に使用されている「Echo」の文字及びその大文字表記である引用商標「ECHO」は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、アマゾン社(及び請求人)の業務に係る商品(AIスピーカー)を表示するものとして、我が国及び外国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。 なお、請求人は、各国における商標「ECHO」などの商標登録の状況などを述べるとともに、その証拠を提出しているが、それらは我が国における需要者の認識に直接反映するものとは認め難く、我が国における引用商標の周知性を裏付ける根拠とはいい得ない。 2 商標法第8条第1項該当性について (1)本件商標 本件商標は、上記第1のとおり、「EchoAMZ」の文字を標準文字で表してなり、その構成態様から「Echo」の文字と「AMZ」の文字を結合したものと認識されることがあるとしても、その構成文字は同じ書体、同じ大きさ、等しい間隔をもって、まとまりよく一連一体に表されているものであり、その構成全体から生じる「エコーエイエムゼット」の称呼も、無理なく一連に称呼し得るものである。 そして、「Echo」の文字は、「こだま(やまびこ)」の意味を有する既成の英単語である一方、「AMZ」の文字は、一般の辞書類に載録されている既成の語ではなく、また、特定の意味合いを生じる語として知られているとも認められない。 そうすると、本件商標のかかる構成及び称呼において、本件商標は、その構成文字全体をもって特定の観念を生じない一体不可分の造語を表したものとして認識、把握されるとみるのが相当である。 さらに、本件商標は、その構成中「Echo」の文字部分が取引者、需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるもの、または、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認めるに足る事情は見いだせない。 したがって、本件商標は、その構成文字が一体不可分のものであって、「エコーエイエムゼット」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものといわなければならない。 (2)引用商標 引用商標は、上記第2の1及び2のとおり、いずれも「ECHO」の文字からなるものであって、その構成文字に相応し「エコー」の称呼及び「こだま(やまびこ)」の観念を生じるものである。 (3)本件商標と引用商標との類否について 本件商標と引用商標との類否を検討すると、両者は、外観において、後半部に「AMZ」の文字の有無という明らかな差異を有するから、その差異が両商標の外観全体の視覚的印象に与える影響は大きく、両者は、外観上、相紛れるおそれのないものである。 次に、本件商標から生じる「エコーエイエムゼット」の称呼と引用商標から生じる「エコー」の称呼を比較すると、両者は後半部に「エイエムゼット」の音の有無という明らかな差異を有するから、両者をそれぞれ一連に称呼しても、称呼上、互いに聞き誤るおそれのないものである。 さらに、観念においては、本件商標が特定の観念を生じないのに対し、引用商標は「こだま(やまびこ)」の観念を生じるものであるから、両者は、観念上、相紛れるおそれのないものである。 そうすると、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。 (4)本件商標の指定商品と引用商標の指定商品との類否について 本件商標の指定商品中の第9類「録音装置,イヤホン,ワイヤレスイヤホン,テープレコーダー,ビデオカメラ,ヘッドホン,コンピュータ周辺機器,コンピュータ用マウス,スマートフォン用ケース,腕時計型ウェアラブル携帯情報端末,指輪型ウェアラブル携帯情報端末,双方向タッチスクリーン端末機」と引用商標1の指定商品中の第9類「電気の伝導用・開閉用・変圧用・蓄電用・調整用又は制御用の機械器具,音声及び映像の記録・送信・再生用の機械器具・装置,電気通信機械器具,バーチュアルパーソナルアシスタントの機能を有するクラウドコンピューティングシステムに接続して制御を行う音声スピーカー並びにその部品及び付属品」及び引用商標2の指定商品とは、同一又は類似の商品である。 (5)小括 以上のとおり、本件商標と引用商標とは非類似の商標であるから、商標法第8条にいう、「同一又は類似の商品又は役務について使用する同一又は類似の商標について異なった日に2以上の商標登録出願があったとき」に該当するとはいえない。 したがって、たとえ、引用商標が先に登録出願され、両商標の指定商品が類似するとしても、本件商標は、商標法第8条第1項に該当しない。 3 商標法第4条第1項第15号該当性について 上記1のとおり、引用商標は、アマゾン社(及び請求人)の業務に係る商品を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の需要者の間に広く認識されているものと認められないものであり、上記2(3)のとおり、本件商標は、引用商標と外観、称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標であって、類似性の程度は低いというべきものである。 そうすると、本件商標の指定商品中に、アマゾン社(及び請求人)の業務に係る商品(AIスピーカー)が含まれるとしても、本件商標は、商標権者がこれをその指定商品について使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、その商品が他人(アマゾン社及び請求人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものといわなければならない。 また、請求人は、本件商標の構成中「AMZ」の3文字は、アマゾン社の名称の略称及びアマゾン社が世界的に展開するオンラインショッピングサイトの名称「AMAZON」の語と相紛らわしいものであると主張する。 しかしながら、上記主張に係る証拠は、米国NASDAQ市場におけるアマゾン社のティッカーシンボル「AMZN」に関する証拠(甲6)であって、この証拠のみをもって、「AMZ」の文字が「アマゾン社」又は同社のオンラインショッピングサイト「AMAZON」を想起・連想するというべき事情ということはいえず、他に本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情も見いだせない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。 4 商標法第4条第1項第19号該当性について 上記2(3)のとおり、本件商標と引用商標は非類似の商標である。 また、上記1のとおり、引用商標は、アマゾン社(及び請求人)の業務に係る商品を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国及び外国の需要者の間に広く認識されているものと認められないものであるから、引用商標が需要者の間に広く認識されている商標であることを前提に、本件商標は不正の利益を得る目的をもって使用されるとする請求人の主張は、その前提を欠くものである。 その他、商標権者が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的、その他不正の目的をもって本件商標を登録出願し、登録を受けたと認めるに足りる具体的事実を見いだすことができない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。 5 むすび 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号、同項第19号及び同法第8条第1項のいずれにも該当するものではなく、その登録は、同項の規定に違反してされたものとはいえないから、同法第46条第1項の規定に基づき無効にすべきでない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。 審判長 小出 浩子 出訴期間として在外者に対し90日を附加する。 |
審理終結日 | 2021-09-09 |
結審通知日 | 2021-09-13 |
審決日 | 2021-09-29 |
出願番号 | 2017096673 |
審決分類 |
T
1
11・
222-
Y
(W09)
|
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
小出 浩子 |
特許庁審判官 |
小俣 克巳 小松 里美 |
登録日 | 2018-04-27 |
登録番号 | 6038844 |
商標の称呼 | エコーエイエムゼット、エコー、エイエムゼット |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 小林 奈央 |
代理人 | 廣中 健 |
代理人 | 押野 雅史 |
代理人 | 田中 克郎 |