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審決分類 |
審判 全部申立て 登録を維持 W25 |
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管理番号 | 1387671 |
総通号数 | 8 |
発行国 | JP |
公報種別 | 商標決定公報 |
発行日 | 2022-08-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-07-14 |
確定日 | 2022-08-08 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 登録第6379268号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 登録第6379268号商標の商標登録を維持する。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第6379268号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成よりなり、令和2年6月16日に登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服」を指定商品として、同3年2月22日に登録査定、同年4月19日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標に係る登録異議申立ての理由において、引用する商標は、以下1ないし10のとおり(以下、これらをまとめていう場合は、「引用商標」という。)であり、いずれの商標権も現に有効に存続しているものである。 1 登録第2237980号商標(以下「引用商標1」という。) 商標の態様:「GAP」 指定商品:第18類「かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ」及び第25類「ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト」 登録出願日:昭和62年10月2日 設定登録日:平成2年6月28日 2 登録第2584331号商標(以下「引用商標2」という。) 商標の態様:「GAP」 指定商品:第25類「被服」 登録出願日:平成元年2月8日 設定登録日:平成5年10月29日 3 登録第3040952号商標(以下「引用商標3」という。) 商標の態様:別掲2のとおり 指定商品:第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,運動用特殊衣服」 登録出願日:平成4年7月13日 設定登録日:平成7年4月28日 4 登録第4382292号商標(以下「引用商標4」という。) 商標の態様:別掲3のとおり 指定商品:第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」並びに第3類及び第18類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品 登録出願日:平成11年8月16日 設定登録日:平成12年5月12日 5 登録第4672474号商標(以下「引用商標5」という。) 商標の態様:「GAP」 指定商品及び指定役務:第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」及び第35類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務 登録出願日:平成14年4月8日 設定登録日:平成15年5月16日 6 登録第4672475号商標(以下「引用商標6」という。) 商標の態様:別掲4のとおり 指定商品及び指定役務:第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」及び第35類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務 登録出願日:平成14年4月8日 設定登録日:平成15年5月16日 7 登録第4751823号商標(以下「引用商標7」という。) 商標の態様:別掲5のとおり 指定商品:第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」 登録出願日:平成15年7月4日 設定登録日:平成16年2月27日 8 登録第5227768号商標(以下「引用商標8」という。) 商標の態様:「GAP」(標準文字) 指定役務:第35類「織物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,履物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,身の回り品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,時計及び眼鏡の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」 登録出願日:平成19年6月27日 設定登録日:平成21年5月1日 9 登録第5227769号商標(以下「引用商標9」という。) 商標の態様:別掲3のとおり 指定役務:第35類「織物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,履物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,身の回り品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,時計及び眼鏡の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」 登録出願日:平成19年6月27日 設定登録日:平成21年5月1日 10 登録第6026536号商標(以下「引用商標10」という。) 商標の態様:別掲6のとおり 指定商品:第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊靴,運動用特殊衣服」 登録出願日:平成29年8月9日 設定登録日:平成30年3月9日 第3 登録異議の申立ての理由 申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第8号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号に違反して登録されたものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第75号証(枝番号を含む。)を提出した。 1 令和3年10月18日付け商標登録異議申立理由補充書による主張 (1)GAP及び引用商標の著名性 引用商標は、ギャップインコーポレイテッド(以下「GAP社」という。)が、1969年創設以来、衣料品類等に長年にわたり使用している著名商標である(甲22〜甲24)。 なお、申立人は、GAP社が全世界で使用する商標を一元的に管理している関連会社である。 引用商標に係るGAPは、1969年8月22日にアメリカ・サンフランシスコにあるオーシャンアベニューでドン&アリス・フィッシャー夫妻がオープンした店が始まりである。若者たちが、個性を称え、自由や平和を求めて新たな文化や価値観を創造し、当時のアメリカが大きく変わってゆく時代の中で生まれたこの店は、「ジェネレーション・ギャップ」にちなんで「GAP」と名付けられた。これが「GAP」の第1号店である(甲12)。創業者は、「GAP」第1号店がオープンしたとき、シンプルな約束をした。それは「Do More Than Sell Clothes(洋服を売る以上のことをしよう)」であり、この精神は1969年の創業以来50年以上経過し、我が国を含む世界中で親しまれるアメリカンカジュアルブランドとなった現在でも、この創業者の精神と約束はブランドのDNAとして受け継がれている。 すなわち、GAP社は、「GAP」ブランドに関わるすべての人の人生が幸せであるために、単なる衣料品の販売だけでなく、芸術や教育のプログラムのサポート、若者や女性への機会提供、環境に配慮した様々なサステナビリテイプログラムに積極的に取り組んでいる(甲12)。 「GAP」ブランドのスタイルは、ジーンズ、カーキー、ティーシャツ及びジャケットに代表されるアメリカン・カジュアルスタイルであり、そのシンプルなデザインに加えて、手ごろな価格が消費者を引き付けてきた。 そしてGAP社は、自ら製品を企画し、自社製品として委託生産させ、自らのチェーン店で販売する製造小売業という形態をとっており、これは、1986年にGAP社が提唱した概念である(甲13)。 このような独自のマーケティング形態をとることで、GAP社は飛躍的に売上や販売店舗を伸ばしてきた。現在、GAP社は我が国を含め、米国、カナダ、ヨーロッパ諸国及びインド等世界中で3,600店舗を持ち、売上高は1兆7,300億円に及び、世界の主なアパレル業界において第4位の地位を占めている(甲14、甲15)。 我が国においては、1994年に「ギャップジャパン株式会社」(以下「ギャップジャパン社」という。)が設立され、1995年に、東京の数寄屋橋阪急に1号店が出店されたのを皮切りに(甲13)、GAP社は店舗を増やし続け、25年経った現在では、北海道から沖縄に至るまで、約150店に及ぶ店舗を構えるに至っている(甲16)。 特に、2011年に、 国内最大級の旗艦店が銀座にオープンしたときは、メディアにおいても話題になった(甲20、甲21)。そして、上記直営第1号店出店から今日に至るまで、GAPの商標を使用したカジュアル衣料品等について、各種雑誌、新聞等に積極的に広告されているほか、ギャップジャパン社を通して、FacebookやInstagram、Twitterに公式アカウントを開設して最新の情報を発信し、引用商標に係る「GAP」の新作をリリースするときも、商品の写真やプロモーション動画等を配信し続けている(甲17〜甲19)。2021年3月時点において、Facebookの公式アカウントの合計フォロワー数は約950万人、InstagramやTwitterの公式アカウントのフォロワー数は約10万人に昇る(甲17〜甲19)。そのフォロワー数をみただけでも、各SNSを通じて、引用商標に係るGAPの文字やその商品が我が国の多数の需要者及び取引者の目に触れることになることは明らかである。 このような引用商標に係るGAPの著名性については、日本国周知・著名商標リストにおいて登録されていることや(甲22)、異議決定例において認定されていることから、顕著な事実であると思料する(甲23、甲24)。 また、ギャップジャパン社によるプレスリリース・新聞記事報道(甲31〜甲73)、国内の店舗の看板等による使用(甲62〜甲72)、テレビ情報番組における報道(甲68・甲69)、インターネット上でのブランドコマーシャル動画の配信(甲70)及びテレビによるコマーシャル動画の放映(甲71)等がされていることから、引用商標は、本件商標の登録出願時には、すでにGAP社の著名な略称であり、自らのブランドとして「衣料品」等のファッションに関係する商品に使用する商標として、広く知られるに至っていた商標であり、それは、現在も維持されている。 (2)商標法第4条第1項第11号該当性について ア 本件商標は、上段に「PERK GAPS」の欧文字を、下段に「パークギャップス」の片仮名を、両者の間に水平方向に引かれた横線を隔てて、2段に書してなるが、全体で特定の熟語的意味合いを持つものではない。 欧文字部分は、「PERK」と「GAPS」の部分とに外観上明らかに分離されており、「PERK」の語には、「元気を回復する、快活になる」といった意味合いがあるが(甲25)、かかる英単語は、我が国の需要者の間で日常的に使用されるような語ではなく、そのような意味を直ちに感得する需要者、取引者は多くはないと考えられる。 そうすると、本件商標は、全体としてまとまった観念が生じるものとはいえず、本件商標の構成中、著名な「GAP」の文字が含まれていることから、「GAP」の部分が、GAP社の業務に係る衣料品等の商品を表示するものとして、本件商標の登録出願時には、高い著名性を獲得するに至っている事実に鑑みれば、その構成中「GAP」の部分が、取引者、需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える要部となるというべきである。 また、本件商標においては、「GAP」に「S」が続き、「GAPS」と表示されるが、末尾の「S」(ス)は、視覚及び聴覚上強い印象を残すものではない。 以上より、本件商標は、要部たる「GAP」の部分が他の商標との類否判断の対象となるというべきである。 よって、本件商標は、その構成中の「GAP」の部分が出所表示標識として強い印象を生ずる部分であるから、当該文字部分から「ギャップ」の称呼を生じ、かつ、引用商標に係る衣料品等の商標として著名な「GAP」の観念をも生ずる。 イ 引用商標1、引用商標2、引用商標5、引用商標7、引用商標8及び引用商標10は、欧文字「GAP」の構成よりなり、引用商標3は、欧文字「GAP」と片仮名「ギャップ」の2段の構成よりなり、引用商標4及び引用商標9は、欧文字「GAP」が紺色の正方形に白抜きで表され、引用商標6は、欧文字「gap」の構成よりなることから、いずれも「ギャップ」の称呼を生じ、かつ、GAPの著名なブランドである「ギャップ」の観念が生じる。 ウ 本件商標は、「GAP」の部分が要部となり、当該文字から「ギャップ」の称呼を生じ、GAP社が衣料品等に使用して著名となった「ギャップ」の観念が生じるから、本件商標と引用商標とは、称呼、観念において類似し、また、本件商標の指定商品は引用商標の第25類の指定商品及び第35類の指定役務と同一又は類似する。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。 (3)商標法第4条第1項第15号該当性について ア 引用商標の著名性及び独創性 引用商標は、GAP社が衣料品等に使用する商標として1969年以降継続して使用され、本件商標の登録出願時である2020年6月16日までには、我が国の取引者、需要者の間で著名となっている。 また、引用商標の独創性の程度については、引用商標を構成する「GAP」、「gap」及び「ギャップ」は、GAP社の創業者が、「ジェネレーション・ギャップ」にちなんで名付けたものであり、本件商標の指定商品を含むファッション関連商品の品質を表示するものではないから、その独創性が高いことは明らかである。 イ 本件商標と引用商標との類似性の程度 引用商標は、「GAP」、「gap」又は「ギャップ」の文字からなるため、その構成文字に相応して「ギャップ」の称呼が生じ、GAP社が引用商標を「衣料品」等について使用する著名なブランドである「ギャップ」との観念が生じる。 他方、本件商標は、上段に「PERK GAPS」の欧文字を、下段に「パークギャップス」の片仮名を、両者の間に水平方向に引かれた横線を隔てて、2段に書してなるが、「GAP」の部分が出所表示標識として強い印象を生ずる部分であるから,「GAP」の部分より「ギャップ」の称呼が生じ、かつ、引用商標に係る衣料品等の商標として著名な「GAP」の観念をも生ずる。本件商標においては「GAP」に「S」が続き、「GAPS」と表示されるが、末尾の「S」(ス)は視覚及び聴覚上強い印象を残すものではない。 したがって、本件商標は、引用商標と称呼及び観念において類似するというべきである。 仮に、本件商標が引用商標との関係において、商標法第4条第1項第11号における類似とまではいえないとしても、極めて強い出所識別機能を有する「GAP」の部分が共通するのであり、その類似性の程度は極めて高いというべきである。 ウ 本件商標の指定商品とGAP社の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引社及び需要者の共通性 本件商標は,GAP社が使用し著名性を有する引用商標に係る「衣料品」等と同一又は類似する「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服」について使用される商標であるから、商品の性質等及び商品の取引者及び需要者において互いに共通性が高いことは明白である。 エ 周知著名商標をその構成中に含む商標についての異議決定・審判決例 異議決定・審決例(甲29)のとおり、結合された語が全く識別力を有しないとまではいえないようなケースであっても、周知著名な商標が強く支配的な印象を生じるがゆえに、出所の混同を生じるおそれがあるとの判断がなされている。 オ 小括 以上のとおり、本件商標と引用商標との称呼及び観念上の類似性、引用商標が周知著名性を獲得していること、「GAP」商標の独創性の高さ、引用商標が著名性を獲得しているファッション分野に属する商品を本件商標が指定商品としている点、その他の取引の実情等に照らし、本件商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断した場合、本件商標に接した取引者、需要者は、あたかもGAP社又は申立人若しくはこれらと何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように商品の出所について混同を生ずるおそれがある。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。 (4)商標法第4条第1項第19号該当性について ア 引用商標の著名性 引用商標は、GAP社の業務に係るファッション商品等について使用された結果、「GAP」のつづり及び「ギャップ」の称呼のもと、国内はもとより世界的に高い著名性を有する商標であるから、引用商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標に該当する。 イ 本件商標と引用商標の類似性 本件商標と引用商標とは、称呼及び観念において類似する。 ウ 本件商標の権利者の「不正の目的」 引用商標は、GAP社による長年にわたる努力の積み重ねの結果、取引者・需要者間において広く知られ、高い名声・信用・評判を獲得するに至っており、本件商標の登録出願時には、引用商標はすでにGAP社の業務に係る商品に使用される商標として広く知られていた著名商標であり、「GAP」といえば、GAP社が製造販売する世界的に有名なブランドの「GAP」との観念が一義的に生じるものである。 一方、本件商標の要部は、かかる著名な引用商標の「GAP」と同一の称呼が生じ、指定商品は「GAP」が著名性を獲得した「衣料品」等のファッション商品と極めて密接な関連を有する商品であり、本件商標の権利者(以下「本件商標権者」という。)が著名な引用商標の存在を知らずに、偶然に著名な引用商標と同一のつづり及び同一の称呼を生じる文字を含む本件商標を登録出願したとは考え難く、引用商標が有する高い名声・信用・評判にフリーライドする目的で登録出願、使用されているものと推認される。 したがって、本件商標権者が本件商標を不正の目的で使用するものであること明らかである。 エ 小括 以上のとおり、引用商標に係る「GAP」及び「ギャップ」は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、GAP社の業務に係る衣料品等に使用されるブランドとして世界的に著名な商標となっており、本件商標は、引用商標に代表される「GAP」に類似するものであって、本件商標権者が「GAP」の著名性に便乗し、「GAP」の文字を含む本件商標の独占排他的使用を得ようとする不正の目的に基づいて出願し登録されたものとみるのが相当である。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。 2 令和4年3月14日付け上申書による主張 今般、本件商標の商標権者が中国で登録出願した同一の商標(甲74)に対して申立人が行った商標登録異議申立て事件において、中国の国家知識産権局により本件商標が「異議申立人が一定の知名度を有する引用商標の顕著な文字「GAP」を含み、引用商標とは明らかに区別できる意味を形成していない。それで、双方の商標は類似する商品に使用された類似商標に該当し、市場に併存使用されたら、消費者にそれらが同一主体に属し、または両者の間に特定の関係があると誤認させやすく、さらに製品の出所についての混同を生じさせる」ものであると判断し、本件商標の登録出願を棄却した。 これは外国での決定例ではあるが、申立人の商標が国境をまたいで世界的に周知著名な商標であることを考慮すると、中国において本件商標が申立人の周知著名なブランド「GAP」との間で出所混同のおそれがあるとの判断がされた事実は、本件においても考慮に値すると考え、当該異議決定書の原文及びその訳文を提出する(甲75)。 第4 当審の判断 1 引用商標及び使用商標の著名性 申立人の提出に係る証拠及び申立人の主張によれば、以下のとおりである。 (1)GAP社は、米国カリフォルニアにて1969年に創業し、別掲3の構成よりなる商標を中心に、「GAP」の文字(以下「使用商標」という、)などを使用し衣料品などの製造販売を行っている(甲12〜甲21)。 申立人は、GAP社が全世界で使用する商標を一元的に管理している関連会社である。 (2)我が国においては、1994年にギャップジャパン社が設立され、1995年に、第1号店を東京の数寄屋橋阪急内に開店し、25年経った現在では、国内で約150の店舗を有し(甲16)、使用商標を使用した衣料品などを販売している(甲13、甲16)。特に、2011年に、国内最大の旗艦店が銀座にオープンしたときは、メディアにおいても報道された(甲20、甲21)。 (3)2016年4月19日のギャップジャパン社のプレスリリースによるとGAP社の2015年度の売上は158億ドルであり、同社は、約3,300の直営店舗と400を超えるフランチャイズ店舗及びオンライン販売を通じ、世界90カ国以上で商品の提供を行っている(甲31)。 (4)ギャップジャパン社は、雑誌や新聞記事及びプレスリリース、ちらし、店舗の看板、テレビ番組やテレビ広告、インターネット動画等(甲32〜甲73)により、使用商標に係るカジュアル衣料品やその事業活動についての広報活動又は宣伝広告を行っている。 また、GAP社は、ギャップジャパン社を通じて、SNSに公式にアカウントを開設し最新の情報を発信しており、2021年3月時点において、Facebookの公式アカウントの合計フォロワー数は約950万人、InstaguramやTwitterの公式アカウントのフォロワー数は約10万人に昇っている(甲17〜甲19)。 (5)上記(1)ないし(4)からすると、「GAP」の文字からなる使用商標は、本件商標の登録出願時には、すでにGAP社及びギャップジャパン社の業務に係る「衣料品」を表示する商標として、我が国の取引者、需要者間に広く認識されていたものということができ、その状態は現在においても継続しているといえる。 2 商標法第4条第1項第11号該当性について (1)本件商標 ア 本件商標は、別掲1のとおり、「PERK GAPS」の欧文字を横書きし、その下に、水平方向に引かれた横線を配し、横線の下に、「パークギャップス」の片仮名を横書きしてなるところ、上段の「PERK GAPS」の欧文字と下段の「パークギャップス」の片仮名は、上下にまとまりよく配置されており、また、「パークギャップス」の片仮名は、「PERK GAPS」の欧文字の読みを特定したものと看取されるものであることからすると、本件商標は、「PERK GAPS」の欧文字と「パークギャップス」の片仮名との間に横線を有するとしても、「PERK GAPS」の欧文字と「パークギャップス」の片仮名とが分離して看取されるとはいい難いものである。 また、本件商標の構成文字から生じる「パークギャップス」の称呼も、無理なく一連に称呼し得るものである。 そして、「PERK GAPS」の欧文字及び「パークギャップス」の片仮名は、一般的な辞書等に載録されている語ではないから、特定の観念は生じない。 したがって、本件商標は、その構成文字に相応して、「パークギャップス」の称呼を生じ、特定の観念は生じない。 イ 申立人は、本件商標においては、「GAP」に「S」が続き、「GAPS」と表示されるが、末尾の「S」(ス)は、視覚及び聴覚上強い印象を残すものではないから本件商標は、要部たる「GAP」の部分が他の商標との類否判断の対象となるというべきである旨主張する。 しかしながら、本願商標の構成中の「PERK GAPS」の欧文字において、「PERK」と「GAPS」の間に1文字程の空白を有するとしても、その下段の「パークギャップス」の片仮名は、当該欧文字の読みを特定したものと看取されることも相まって、「GAPS」の文字部分、さらには、殊更に「S」の文字を捨象して、「GAP」の文字のみに着目するとはいい難い。 したがって、申立人のかかる主張は採用することができない。 (2)引用商標 引用商標1、引用商標2、引用商標5、引用商標7、引用商標8及び引用商標10は、いずれも「GAP」の欧文字よりなり、引用商標3は、「GAP」の欧文字と「ギャップ」の片仮名を2段に横書きしてなり、引用商標4及び引用商標9は、紺色の正方形内に白抜きの「GAP」の欧文字を横書きしてなり、引用商標6は、「gap」の欧文字よりなるところ、「gap」の欧文字は「すき間。空白。」(「ジーニアス英和辞典 第5版」大修館書店)の意味を有する英語である。 そうすると、引用商標は、それぞれの構成文字に相応して、「ギャップ」の称呼を生じ、「すき間。空白。」の観念又は「衣料品等に使用されている著名なブランド」を想起させる。 (3)本件商標と引用商標の比較 ア 外観について 本件商標と引用商標とは、「PERK」及び「パーク」の文字の有無、「GAP」の文字に次ぐ「S」の有無等に差異を有するため、互いに異なる語を表してなるもので外観上、相紛れるおそれはない。 イ 称呼について 本件商標から生じる「パークギャップス」の称呼と、引用商標から生じる「ギャップ」の称呼とは、語頭の3音(パーク)の有無及び語尾の1音(ス)の有無により、構成音及びその音数が明らかに相違するため、それぞれを一連に称呼した場合は、語調語感が相違するもので、称呼上、互いに紛れるおそれはない。 ウ 観念について 本件商標は、特定の観念を生じないが、引用商標は、「すき間。空白」の観念又は「衣料品等に使用されている著名なブランド」を想起させるから、観念において紛れるおそれはない。 エ 小括 そうすると、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても、互いに紛れるおそれのない別異の商標であるから、非類似の商標である。 その他、本件商標と引用商標とが類似するというべき特段の事情は見いだせない。 (4)まとめ 以上から、本件商標は、引用商標と類似するものでないから、その指定商品について比較するまでもなく、商標法第4条第1項第11号に該当しない。 3 商標法第4条第1項第15号該当性について (1)引用商標及び使用商標の周知性 上記1のとおり、「GAP」の文字からなる使用商標は、本件商標の登録出願時には、すでにGAP社及びギャップジャパン社の業務に係る「衣料品」を表示する商標として、我が国の取引者、需要者間に広く認識されていたものと認められる。 (2)本件商標と引用商標及び使用商標の類似性の程度について 本件商標と「GAP」の文字からなる使用商標とは、その構成文字を共通にする引用商標と同様に、別異の商標である。 そうすると、本件商標と使用商標とは、相紛れるおそれのない別異の商標であって、類似性の程度は極めて低い。 (3)本件商標の指定商品と使用商標に係る商品(衣料品)の関連性、需要者の共通性について 本件商標の指定商品と使用商標に係る商品(衣料品)とは同一又は類似する商品であるから、これらの商品は密接な関連性を有するものと認められ、これらの需要者は共通する。 (4)出所の混同のおそれについて 上記(1)のとおり、使用商標は、本件商標の登録出願時には、すでにGAP社及びギャップジャパン社の業務に係る「衣料品」を表示する商標として、我が国の取引者、需要者間に広く認識されていたものと認められ、上記(3)のとおり、本件商標の指定商品と使用商標に係る商品(衣料品)とは同一又は類似する商品であり、これらの商品は密接な関連性を有し、これらの需要者は共通するものであるとしても、本件商標と使用商標とは、極めて類似性の程度が低い別異のものである。 そうすると、本件商標は、本件商標権者がこれをその指定商品について使用しても、取引者、需要者が、使用商標との関連を連想又は想起するとは考えにくく、その商品がGAP社及びギャップジャパン社又は申立人、あるいはこれらの者と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないというべきである。 その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情も見いだせない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。 4 商標法第4条第1項第19号該当性について 上記3(2)のとおり、本件商標と使用商標とは、相紛れるおそれのない別異の商標であって、類似するものではない。 また、申立人が提出した証拠によっては、商標権者が引用商標及び使用商標を認識し、引用商標及び使用商標の著名性に便乗する等、不正の目的をもって本件商標を使用するものと認めることはできない。 その他、商標権者が、本件商標を不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用するものと認めるに足りる具体的事実は見いだせない。 したがって、本件商標は、その他の要件について言及するまでもなく、商標法第4条第1項第19号に該当しない。 5 商標法第4条第1項第8号該当性について 申立人は、令和3年10月18日付け商標登録異議申立理由補充書における「5 申立の理由」の「(1)申立の理由の要約」に「1.」として、「商標法第4条第1項第8号(商標法第43条の2第1号)」と記載しているが、「(2)申立の根拠」以下、本件商標が商標法第4条第1項第8号に該当することについて何らの言及もしておらず、「GAP」が、GAP社の略称として使用され、認識されていることについて、何らの証拠も提出していない。 そして、本件商標は、その構成中に「GAP」の文字を有するとしても、「GAP」の文字が、GAP社及びギャップジャパン社又は申立人の略称として使用され、認識されていることについて、何らの証拠も提出しておらず、また、「GAP」の文字が、GAP社及びギャップジャパン社又は申立人の略称を表示するものとして著名であるとは認めるに足る事実はない。 そうすると、本件商標は、他人の著名な略称を含むものとは認められないものである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当しない。 6 むすび 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録は維持すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
別掲 |
別掲1(本件商標) 別掲2(引用商標3) 別掲3(引用商標4、引用商標9:色彩について原本を参照されたい。) 別掲4(引用商標6) 別掲5(引用商標7) 別掲6(引用商標10) (この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。 |
異議決定日 | 2022-07-29 |
出願番号 | 2020073970 |
審決分類 |
T
1
651・
23-
Y
(W25)
|
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
矢澤 一幸 |
特許庁審判官 |
豊田 純一 阿曾 裕樹 |
登録日 | 2021-04-19 |
登録番号 | 6379268 |
権利者 | 株式会社三高 |
商標の称呼 | パークギャップス、パーク、ギャップス |
代理人 | 池田 万美 |
代理人 | 松浦 恵治 |
代理人 | 田中 克郎 |
代理人 | 廣中 健 |
代理人 | 宮川 美津子 |
代理人 | 稲葉 良幸 |