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審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) W0811
管理番号 1387668 
総通号数
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-11 
確定日 2022-07-19 
異議申立件数
事件の表示 登録第6370299号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6370299号商標の商標登録を取り消す。
理由 第1 本件商標
本件登録第6370299号商標(以下「本件商標」という。)は、「SPORTES」の欧文字を標準文字で表してなり、令和2年4月24日に登録出願、第8類「手動利器(「刀剣」を除く。)」及び第11類「暖房用の焚き火台(電気式のものを除く。)」を指定商品として、同3年1月26日に登録査定、同年3月30日に設定登録されたものである。

第2 登録異議の申立ての理由
登録異議申立人(以下「申立人」という。)は、本件商標は商標法第4条第1項第7号、同項第10号及び同項第19号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第43号証を提出した。
1 申立人について
申立人は、2014年にカナダ・ケベック州で設立された法人であり、社名の「SPORTES」の語は、創業者である「Cedric Sportes」氏の姓に由来する。申立人は、本件商標と同一の「SPORTES」の語からなる商標(以下「申立人使用商標」という。)をハウスマークとして採択し、これを付したアウトドア関連商品を製造・販売している(甲3〜甲6)。
申立人が製造・販売するアウトドア関連商品には、焚火台「製品名:FIREWAALL」(甲4)、ナイフ「製品名:ULUU」(甲5)、調理用ゴトク「製品名:MITI−001」(甲6)が含まれ、いずれの商品にも、申立人使用商標が付されている。
2 本件商標権者について
本件商標権者は、COTTAGEの屋号のもと(甲7)、アウトドア関連商品の小売販売を行っている。自らを申立人の「正規輸入元」と称し(甲8)、自身のホームページ(甲9)やYahoo!ショッピング等のプラットフォームを通じて、申立人の「SPORTES」に関する商品を販売している(甲10〜甲12)。
3 本件商標の登録出願に至るまでの経緯
(1)本件商標権者は申立人に対して、2016年11月25日付の電子メールにより、申立人の調理用ゴトク「MITI STOVE(MITI−001)」を卸売価格にて輸入販売したい旨の申し入れを行った(甲13)。送信元のメールアドレスは、本件商標権者が運営する「COTTAGE」に掲載されているものと一致する(甲7)。
(2)本件商標権者からの申し入れをきっかけに、同日中に両者間で数通の電子メールが交わされたが、その中で、本件商標権者より、自身だけが申立人の「MITI−001」を独占的に輸入できる「sole importer(輸入総代理店)」契約への興味が示された(甲14)。
申立人もこれに応じ、輸入総代理店契約交渉を継続して行うこととなったが(甲15、甲16)、まずは初回の取引として、2016年12月9日に、申立人から「MITI−001」15個の輸入が行われた(甲17)。
一方、本件商標権者から、「流通価格が崩れるため、申立人が、日本の個人消費者に直接販売することは控えて欲しい」旨の要請も行われた(甲18)。
(3)輸入総代理店契約については、2017年1月12日付の電子メールにより、改めて本件商標権者から関心が示されるとともに、「輸入総代理店契約を締結した場合、数量に応じて、さらなる値引きがあるのか」との問い合わせがあり(甲19)、最少発注数量等に関してスカイプを使ったミーティングが行われた(甲20)。
その後、2017年1月28日付の本件商標権者からの電子メールで「輸入総代理店になりたいという気持ちに変わりはないが、初年度に数千個を販売することは難しい。現実的な販売数量は300個程度である。よければ、輸入総代理店契約に署名する用意がある」と回答があり、具体的な最少発注数量の問い合わせが行われた(甲21)。
しかしながら最終的には、既に他の事業者が「SPORTES」商品の販売を開始してある程度の流通価格が定まっている中、輸入総代理店契約を結んだとしても、流通価格の上代に対して6掛けで他社に卸す日本の慣行を考慮すると十分な利益が得られないこと等を理由に、2017年4月に本件商標権者は輸入総代理店契約を見送りとし、通常の輸入代理店の一つとして、取引を継続する意向を示した(甲22)。
(4)輸入総代理店契約の締結はなかったものの、本件商標権者と申立人の取引は、その後順調に進み、本件商標権者が取扱う申立人の「SPORTES」商品は、焚火台「FIREWAALL」や、ナイフ「ULUU」その他に拡大した(甲9)。両者の継続的な取引を示す資料として、申立人が本件商標権者に宛てて発行したインボイスの一部(2017年〜2019年)を提出する(甲23)。なお、当該インボイスにおいても申立人使用商標が使用されている。
(5)ところで、上述のとおり、本件商標権者と申立人との間で輸入総代理店契約が締結されることはなかったため、申立人は、本件商標権者以外の他の事業者から輸入販売の申し入れがあった場合、これに応じることも当然にあったところ、2017年5月6日付の電子メールを通じ、本件商標権者は申立人に対し「『小川商店』が、『SPORTES』商品を、アマゾンにおいて大幅に値引きして販売している。このような状況だと、貴社との取引を断念せざるを得ない。」として、これに対する不満を示した(甲24)。
本件商標権者は輸入総代理店の立場にはなく、また流通価格は各販売業者が自由に決められるべきものであるが、申立人は、本件商標権者とのこれまでの取引関係に感謝し、特別に「小川商店への販売を今後は行わない」という配慮を行った(甲25、甲26)。
(6)しばらく経った後、2019年12月5日付で、再び本件商標権者から申立人に「Bad News」と題する電子メールが送信され、本件商標権者は申立人に対し、「あなたが商品を卸している『YGKO社』に対して立腹している。アマゾンや、ヤフー、楽天において意図的に値引きを行っており、同価格で追随するとさらに値引きがされることから、私は適切な利益を得ることができない。彼らの販売価格は公正な価格ではない。まるでストーカーに遭っているようだ」と強い不満を訴え、小川商店の際と同様の対応を求めた(甲27)。
これに対し申立人は、「日本の代理店の販売やマーケティング活動は、我々がコントロールすべきものではなく、また卸売価格は全ての事業者に対して同一であり、小売価格は我々の関知するところではない。」「我々はあなたに、輸入総代理店となる機会や、より良い取引条件のための取扱数量の増加を打診したが、それをあなたは常に断ってこられた。一方で、これまでのあなたとの協業に感謝し、できるだけの値引きを提供してきた。」「現状を、ビジネスの観点からご理解いただけることを望みます。あなたが、総販売代理店契約をお持ちでないなら、我々としては、全体的な販売数量とネットワークの拡大に注力せざるを得ない」として、本件商標権者の要請に応じかねる旨を丁重に回答した(甲28)。
これに対して本件商標権者は、2019年12月7日付の電子メールにて「貴社の考えは良く分かった。どのように対応するか検討する」と返答した(甲29)。
(7)その後、特に本件商標権者から申立人への連絡はなく、2021年2月まで両者の取引はこれまでどおり続いたが(甲30)、本件商標権者は、2020年4月24日付にて、申立人使用商標と同一の文字から構成される本件商標について、申立人に無断で、登録出願を行った(甲1)。当該出願は、第8類「手動利器(「刀剣」を除く。)」、第11類「焚き火台,バーベキューグリル」を指定し、申立人の製造・販売する「SPORTES」商品に対応するものであった。
これ以外にも、本件商標権者は申立人に無断で、申立人の焚火台の製品名「FIREWAALL」に関する登録出願も、同日の2020年4月24日付に行っている(甲31)。
これら本件商標権者による登録出願行為は、上記の本件商標権者の回答(甲29)から約4ヶ月後に行われたものである。そして上記のとおり、その後も両者の取引は継続していたが(甲30)、本件商標権者は、これら出願の事実を申立人に秘匿し続けた。
(8)申立人は、2021年2月頃に、申立人の同意を得ない、本件商標権者による製品名「FIREWAALL」に関する登録出願に気が付き、これを遺憾として、2021年2月26日及び3月1日に、本件商標権者に対してその行為の説明を求めた(甲32)。
これに対して本件商標権者は、「この出願行為は、第三者からの侵害による損害から自らの商品等を守り、商品を継続的に販売できるようにするために必要な手段である。ご存じのとおり、私を標的にし、私のビジネスをつぶそうとする企業が既に存在する。将来的な攻撃から守る手段の一つとして、必要であると決断した。」「これまでどおり、『SPORTES』商品の購入を続けたい。」「第三者からの侵害から、これら商標を守る。」等として、逆に自らの行為を正当化するとともに、取引関係の継続を求めた(甲33)。
さらに、「今後どのように行動するかは、あなたの判断に応じて考えさせていただきます。」と、半ばこれを強要するような発言、加えて、本件商標権者は、申立人が本件商標権者に懸念を伝えた2021年2月26日付の連絡(甲32)の直後の2021年2月28日に、申立人が申立人使用商標とともに使用する「図形商標」に関する出願行為にまで及んだものである(甲34)。当該図形商標は、「SPORTES」商品やインボイスに必ず使用されるものであり(甲4〜甲6、甲23等)、本件商標権者が対抗措置として出願したことは明らかである。
4 商標法第4条第1項第7号について
(1)本件商標権者は、本件商標の出願時において、正規輸入代理店の地位にあった。また、それまでの継続的な取引や、自身としても「正規輸入元」を名乗っている事実があり(甲8)、本件商標権者が申立人使用商標を知悉していたことは明らかである。したがって、本件商標権者は、申立人使用商標を妨げてはならない信義則上の義務を負っていたものといえる。
そして、本件商標権者は、自らが申し入れた輸入総代理店契約を見送っておきながらも、申立人の配慮によって、申立人が個人消費者への直接販売を控えたり、他の輸入代理店による低価格での販売行為を止めさせるといったことで、申立人から輸入総代理店に等しいような待遇を受けてきたものである。
にもかかわらず本件商標権者は、2019年12月に、申立人から同様の待遇を再び得ることができないと分かると、申立人が申立人使用商標の登録出願を行っていないことを奇貨として、一輸入販売店の立場にありながら、申立人に無断で、本件商標や、製品名「FIREWAALL」に関する登録出願を2020年4月に行ったものである。そして、その後も申立人と継続的な取引を行いながら、申立人が気づくまで、その事実を秘匿し続けるだけでなく、申立人が本件商標権者の行為に気付いて懸念を伝えるやいなや、対抗措置として、申立人が「SPORTES」とともに使用する「図形商標」の登録出願行為にまで及んだものである。
このような本件商標権者の行為は、信義則上の義務に著しく反するものであることは明らかである。
(2)さらに、本件商標権者は当該登録出願行為について、「第三者からの侵害による損害から商品を守り、商品を継続的に販売できるようにするため必要である」等と説明している。本件商標権者のいう「第三者からの侵害」という表現が商標権侵害を意味するとした場合、仮にそのような事態が生じているならば申立人に注意喚起すればよいことであるし、自ら「正規輸入元」を名乗る輸入代理店であれば、そうすることが当然に期待される。
しかしながら、本件商標権者は、申立人との取引を継続していたにもかかわらず、そのような注意喚起などは行っていないし、逆に申立人に無断で本件商標に関する登録出願を行い、これを秘匿し続けた。
申立人としても、これまで申立人使用商標や「FIREWAALL」といった製品名について、第三者から侵害警告を受けるといったことは無かったし、また本件商標権者が本件商標の登録出願に至るまでの経緯を考慮すれば、本件商標の登録出願は、同業他社の低価格戦略に対抗するために行われたことが、強く推認されるものである。これは、自由競争の原理により各輸入代理店が自身の営業努力によって自由に流通価格を設定できるのは当然でありながら、商標制度を悪用することにより、自らの営業努力を尽くすことなく流通価格を吊り上げて不正な利益を得ようとする身勝手な目的に基づくものであり、決して受け入れられるものでない。
(3)一方、申立人にとっては、本件商標権者が本件商標の登録を得た場合には、一輸入代理店にすぎない本件商標権者の意向次第で、申立人と他の事業者との取引に支障をきたすことになる。さらには、本件商標権者が申立人に対し、改めて自身に有利な内容で輸入総代理店契約の締結を強要することも可能となる等、申立人は重大な営業上の不利益を受けることになる。
(4)上記のとおり、本件商標権者は、輸入代理店として、申立人の商標を尊重し、その使用を妨げてはならない信義則上の義務を負う立場にあり、また継続的な取引により申立人使用商標を知悉していながら、申立人使用商標が日本において商標登録されていないことを奇貨として、これと同一文字からなる本件商標について、申立人の同意を得ずに登録出願を行ったものである。
さらにその出願目的は、複数ある輸入代理店の一つにすぎない本件商標権者が商標権を得ることにより、同業他社との価格競争から逃れ、流通価格を高く維持することで自らの利益確保を図るものであって、不正な利益を得る目的は明らかである。
このような、本件商標の登録出願の経緯や、出願目的に鑑みれば、本件登録は、申立人との取引上の信義則や商道徳に反するだけでなく、商標制度の悪用によって公正な競業秩序や消費者の利益を阻害しようとするものであり、商標法の目的(同法第1条)にも反することは明らかである。
すなわち、その経緯に社会的相当性を欠くことは明らかであって、その登録を認めることは商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものである。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当する。
5 商標法第4条第1項第10号について
申立人使用商標が使用される製品「FIREWAAL」は、キャンプで使用される「焚火台」である。その性質上、日常生活で広く使用されるものではなく、いわばニッチ的な製品であり、主たる需要者であるアウトドア愛好家に広く知られるに至っている。
例えば、YouTubeでの紹介動画の再生回数は15万回を超えており(甲35)、またアウトドア専門情報に関するウェブサイトでも継続的に紹介されている(甲36〜甲39)。
また、楽天市場で検索すると多数の出品が確認され(甲40)、その他の各種サイトでの販売実績が確認できる(甲41〜甲43)。一般的な日用品と比較すれば、その販売台数や範囲は限られているかもしれないが、キャンプ用の「焚火台」のような非常に限られたジャンルにおいては、他に類似製品も多くなく、それに使用される申立人使用商標は、「焚火台」の分野において周知になっており、また、やはりキャンプで使用される「ナイフ」(手動用利器)の分野にも、その周知性は及んでいる。
したがって、申立人使用商標と同一又は類似の本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
6 商標法第4条第1項第19号について
申立人使用商標は、キャンプ用の「焚火台」等に関して周知となっており、また上記したとおり、本件商標の登録出願時において、本件商標権者に不正の意図があることは明らかであるから、これと同一又は類似の本件登標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。

第3 当審における取消理由
当審において、令和4年2月9日付けの取消理由通知書によって、本件商標権者に対し、本件商標はその登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、その登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないから、公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標というべきであり、商標法第4条第1項第7号に該当する旨の取消理由を通知し、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えた。

第4 本件商標権者の意見
上記第3の取消理由に対し、本件商標権者は、何ら意見を述べていない。

第5 当審の判断
1 申立人の主張及び提出された証拠によれば、以下のとおりである。
(1)申立人について
申立人は、2014年にカナダで設立された法人であり(申立人の主張)、「SPORTES」の欧文字(申立人使用商標)をハウスマークとして採択し、これを付したアウトドア関連商品を製造・販売している(甲3〜甲6)。
申立人が製造・販売するアウトドア関連商品は、焚火台(「製品名:FIREWAALL」 甲4)、ナイフ(「製品名:ULUU」 甲5)、調理用ゴトク(「製品名:MITI−001」 甲6)が含まれ、いずれの商品にも、申立人使用商標が付されている。
(2)本件商標権者について
本件商標の商標権者は、「COTTAGE」と称する販売業者の運営統括責任者である(甲7)。
そして、当該「COTTAGE」のホームページにおいて「スポルテスアウトドアツールズ日本正規輸入元」と表示し、申立人の商品を当該ホームページやオンラインショップ等を通じて販売している(甲8〜甲12)。
(3)本件商標権者と申立人との電子メール等のやりとり
ア 2016年11月25日に、本件商標権者は、申立人の「MITI−001」(本件商標権者のメールには「MITI STOVE」と表記されている。)を自身の販売店で小売りしたい旨の申入れを行い(甲13)、同日中に両者間で数通の電子メールが交わされ、その中で、本件商標権者は、日本における申立人の「MITI−001」の輸入総代理店となること、また、配送及び日本における製造などについて問い合わせをし、それらに対して、申立人は同日に回答した(甲14、甲15)。
イ 2016年12月9日に、申立人から「COTTAGE」宛に「MITI−001」15個が配送された(甲17)。
ウ 2016年12月23日に、本件商標権者は、申立人からの商品を受け取ったこと、2月か3月に販売を開始する旨を述べるとともに輸入総代理店の条件についても問い合わせたところ(甲16)、申立人は、最小発注数量、最低売上目標を持つこと等の条件を提示した(甲18)。
エ 2016年12月29日に、本件商標権者は、申立人の考えや条件について理解したこと及び申立人が日本の個人輸入者からの注文を受けないで欲しい旨の要請を行った(甲18)。
オ 2017年1月12日に、本件商標権者は、改めて、申立人のウェブサイトから日本の消費者への直接販売についての質問、輸入総代理店契約を締結した場合、数量に応じてさらなる値引きがあるのかと問い合わせ(甲19)たところ、申立人はそれらに対し回答したものの、さらに、2017年1月16日に本件商標権者は、申立人のオンラインストアを日本の個人の顧客に開放しないことを要望し、最少発注数量等に関して引き続き話し合うことを提案した(甲20)。
カ 2017年1月27日に、申立人は、本件商標権者と輸入総代理店契約を結ぶことは難しく、他者との交渉や調査を進める旨の内容を送付したところ、2017年1月28日に、本件商標権者は、輸入総代理店になりたいことに変わりはないが、初年度に数千個を販売することは難しく、300個程度であれば、輸入総代理店契約に署名する用意がある旨回答した(甲21)が、同年4月25日に、本件商標権者は、輸入総代理店契約の条件が合わないため、通常の販売代理店の一つとして、取引を継続する意向を示した(甲22)。
キ 2017年5月6日に、本件商標権者は、申立人に対し、他社(以下「A商店」という。)が、「MITI」、「FIREWAALL」を、アマゾンにおいて大幅に値引きして販売しているところ、このような状況だと、申立人商品を取り扱うのを止めざるを得ない旨連絡し(甲24)、同日に、申立人は、A商店に対して、適正価格での販売を求め、それができない場合は、商品販売を中止し取引を終了する旨を伝えた(甲25)。そして、2017年5月8日に、申立人は、本件商標権者へ感謝の意と彼らには今後商品を販売しない旨の内容を送信した(甲26)。
ク 2019年12月5日に、本件商標権者は、申立人に対し、申立人が商品を卸売しているA商店とは異なる会社が、複数のオンラインショップにおいて本件商標権者の価格より意図的に値引きして販売していることを伝え、申立人がA商店に対して行ったように強い手段で臨むように希望する旨対応を求めた(甲27)。
これに対し、同日で、申立人は、「日本の代理店の販売やマーケティング活動は、口出しやコントロールすることができないし、行うつもりはなく、また、全ての購入者に対して同一の価格を適用しており、小売価格は我々の関知するところではない。」、「あなたに対しては、過去に何度も輸入総代理店となるか、取扱量を増やす機会を提示したが、あなたは常に断ってこられた。一方で、これまでのあなたとの協業に感謝し、できるだけの値引きを提供してきた。」、「ビジネスの観点からご理解くださるよう希望する。独占販売契約を交わしていない限り、我々の関心は販売と代理店ネットワークの拡大となる。」旨回答している(甲28)。
ケ 2019年12月7日に、本件商標権者は、「貴社の考えは理解した。この件についてどう対応するか検討する。」旨返答した(甲29)。
コ 申立人は、本件商標権者による製品名「FIREWAALL」に関する登録出願に気が付き、2021年2月26日及び同年3月1日に、本件商標権者に対してその行為の説明を求めた(甲32)。
これに対し、本件商標権者は、「商標出願は、第三者の侵害から生じる損害から私の商品と私のビジネスを守り、日本での販売を続けるための手段です。」と回答するとともに、取引の継続を求めた(甲33)。
サ 申立人が本件商標権者に宛てて発行した2016年12月9日及び2017年4月ないし2019年12月のインボイス(甲17、甲23)によると、「FIREWAALL」、「ULUU」及び「MITI−001」といった商品に関する取引があり、当該インボイスには、申立人使用商標が表示されている。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標は、前記第1のとおり、「SPORTES」の欧文字を標準文字で表してなるところ、申立人使用商標は、上記1(1)のとおり、「SPORTES」の欧文字からなるものであるから、本件商標と申立人使用商標とは、その文字のつづりを同一にするものであり、両者はきわめて近似する商標というべきである。
また、本件商標の指定商品は、前記第1のとおり、「手動利器(「刀剣」を除く。)」及び「暖房用の焚き火台(電気式のものを除く。)」であって、申立人使用商標は、上記1(1)のとおり、ナイフ及びアウトドア用の焚火台等に使用するものであるから、これらの商品は、その用途、取引者及び需要者を共通にする同一又は類似の商品といえる。
そうすると、本件商標権者による本件商標の採択は、申立人により既に使用されていた申立人使用商標と偶然に一致したとみることはできないというべきである。
そして、上記1(3)のとおり、本件商標権者は、申立人に対し2016年11月25日から申立人商品について輸入総代理店となることを希望する意向を示し、輸入総代理店契約に関して条件を検討したが、契約には至らず、通常の販売代理店として申立人商品を取扱い、我が国において適正価格で販売していたところ、2019年12月5日に、本件商標権者は、申立人と取引のある他社が申立人商品を格安の価格で販売していることを知り、そのため適正価格で販売する自身が利益を得ることができないとして申立人へ対応を求めたにもかかわらず、日本の代理店の販売やマーケティング活動をコントロールできないと回答を受け、その後、本件商標権者は、申立人に無断で本件商標及び申立人の使用する製品名をそれぞれ登録出願しているものである。
加えて、申立人は、本件商標権者による上記登録出願に気が付き、本件商標権者に対してその行為の説明を求めたのに対し、本件商標権者は、自らの行為を正当化し取引の継続を求めている。
そうすると、本件商標権者は、本件商標の登録出願前から、申立人が申立人使用商標を使用していることを知っており、申立人が申立人使用商標について商標登録を得ていないことを奇貨として、これときわめて近似する本件商標を申立人に承諾を得ずに登録出願をし、登録を得たものであって、剽窃したものといわざるを得ない。
よって、本件商標は、本件商標の登録出願の経緯には、著しく社会的相当性を欠くものがあり、その商標登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないから、公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標というべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
3 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであるといわざるを得ないから、その他の登録異議の申立ての理由について論及するまでもなく、本件商標は、同法第43条の3第2項の規定により、その登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲

(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。
異議決定日 2022-06-10 
出願番号 2020059819 
審決分類 T 1 651・ 22- Z (W0811)
最終処分 06   取消
特許庁審判長 森山 啓
特許庁審判官 荻野 瑞樹
小松 里美
登録日 2021-03-30 
登録番号 6370299 
権利者 中垣 幸成
商標の称呼 スポルテス、スポーテス 
代理人 特許業務法人BORDERS IP 
代理人 福井 孝雄 
代理人 小暮 君平 

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