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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W09
管理番号 1386383 
総通号数
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-05 
確定日 2022-06-10 
異議申立件数
事件の表示 国際登録第1485736号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 国際登録第1485736号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件国際登録第1485736号商標(以下「本件商標」という。)は、「MAZACAM」の欧文字を横書きしてなり、2019年(令和元年)7月19日に国際商標登録出願、第9類「Computer software for Computer−Aided Design (CAD) and Computer−Aided Manufacturing (CAM) for use by architects, civil engineers, construction managers, computer aided designers, graphics professionals, manufacturing engineers, manufacturing specialists and students of CAD/CAM software.」を指定商品として、令和2年10月12日に登録査定、同年12月18日に設定登録されたものである。
2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する商標は次のとおりであり(以下「引用商標」という。)、現に有効に存続しているものである。
登録第5998329号商標
商標の態様 別掲のとおり
指定商品及び指定役務 第7類、第9類、第37類及び第40類ないし第42類に属する商標登録原簿に記載の商品及び役務
登録出願日 平成28年11月17日
設定登録日 平成29年11月24日
3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第402号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)ヤマザキマザック株式会社について
愛知県丹羽郡に所在するヤマザキマザック株式会社(以下「マザック社」という。)は、1919年に創業した工作機械メーカーである(甲1の1)。
マザック社は数ある日本企業の中でもいち早く1960年代には海外進出を果たしたグローバル企業であり(甲1の2)、国内に限らずアメリカ、ヨーロッパ、中国、東南アジアに生産拠点を置き、ほぼ世界全土に販売網を有している。これは、経済産業省発行の2011年ものづくり白書において、工作機械事業分野の売上高が世界一であることからも十二分に裏付けることができ、当該分野において我が国の誇れるグローバルリーダーしての確固たる地位を築いている(甲2〜甲5)。
また、マザック社の商品略称でもある「MAZAK」は、マザック社の名称の一部の「YAMAZAKI」から「YA」と「I」を除き創出された造語であり、1970年代から現在に至るまで50年もの長期間にわたり継続して使用されるマザック社のハウスマークである。なお、「MAZAK」は1966年から商標権が設定登録されている(甲6の1〜3)。ちなみに、申立人である「山智興産株式会社」は、マザック社の権利管理会社であり、マザック社が使用権者の関係にある。
さらに、マザック社は1985年以降、コーポレートアイデンティティーとして、引用商標(オレンジ色に彩色されたものを含む。)を採用し、マザック社のコーポレートカラーとして特徴あるオレンジ色を一貫して使用している。
(2)引用商標の知名度について
ア カタログ・会社案内
マザック社は1975年から現在に至るまで、カタログ、会社案内等において引用商標を継続して使用している(甲7〜甲99)。これらに示すとおり、マザック社が販売する工作機械には引用商標が付されて販売されている。
イ マザック社自身による雑誌・新聞における宣伝広告
マザック社は雑誌及び新聞を通じて、引用商標を使用し積極的かつ大規模な宣伝広告を展開している(甲100〜甲278)。少なくとも20種類以上の雑誌に、遅くとも2006年以降2021年現在に至るまで、継続的又は定期的に引用商標を付したマザック社の広告を掲載しており、引用商標を使用した積極的かつ大規模な宣伝広告活動を展開している。
ウ メディア等による雑誌・新聞における紹介記事
マザック社の商品は少なくとも80種類以上のメディア媒体により、継続的に取り上げられている。引用商標が付された商品の紹介記事は多数存在し、その一部を提出する(甲279〜甲339)。
エ 看板
マザック社の工場及び営業拠点は現在38か所と日本全国にわたっている。また、世界各国にも工場及び営業所を有している(甲340)。各工場及び営業所には引用商標が大きく掲示され、それを目にする需要者が、引用商標がマザック社の商標であることを認識できることは明らかである。
引用商標を使用した看板においては、マザック社の各工場及び営業所はもとより、品川駅JR東海道新幹線下りホームの壁面や中部国際空港のコンコース、東海地方の主要駅である名古屋駅周辺のビルボードなどで、1982年から2021年現在にわたり継続して掲示されている(甲341〜甲347)。また、過去には東京ゆりかもめのトレインジャックにより、マザック社の看板がゆりかもめ全面に掲示され、静岡大学、名古屋工業大学、名古屋大学のキャンパス内においても引用商標を用いた広告を行った(甲348〜甲351)。そのため、少なくとも東京と愛知という2大都市及び主要な地方都市において、引用商標が、多くの需要者に知られている。
オ TVCM・TV番組
マザック社は、2005年ないし2009年の間にTVCMを通じて、引用商標を使用し広告宣伝を行っている。テレビCMはキー局をはじめ、各地方局でも放送されたものであって、引用商標が多くの視聴者によって知られたことが明らかである(甲352〜甲354)。
また、マザック社及びその関連施設は度々テレビ番組によって紹介されており、引用商標が2002年から2021年現在にわたり定期的に視聴者に認知されていることが分かる。
カ SNSにおける投稿
マザック社は、フェイスブック、インスタグラム、ツイッター、YouTube等の各種SNSの投稿にて、引用商標を使用している(甲355〜甲359)。
また、第三者によるYouTube、ブログにおいても、マザック社及び引用商標が紹介されている(甲360〜甲366)。これらSNSの投稿を見た需要者が引用商標を使用した投稿に対して反応し、他の需要者にシェアされることで、数多くの需要者の目に触れ、引用商標が知られたことが分かる。
キ 公益財団
マザック社は、公益財団法人マザック財団を1981年に設立し、設立以降、高度生産システムに係わる、生産技術、機械要素、情報通信技術、工作機械、ないしはロボットなど周辺機器の新技術の研究開発に取り組んでいる国内、海外の個人及び大学、各種研究機関に対して援助、助成を継続的に行っている(甲367〜甲373)。引用商標を使用した助成募集のポスターは全国各地の50以上の大学に掲載され、引用商標が多くの学生、研究者に知られたことが分かる。
ク オフィシャルサプライヤー
マザック社は、1991年よりF1マクラーレンチームのオフィシャルサプライヤーとして、ギヤボックスやサスペンションなど、最高峰の精密加工が求められるレーシングマシンの部品製造に携わっている(甲374、甲375)。そのマクラーレンチームの活躍によって、引用商標の認知度は更に向上している。
ケ その他関連施設・商品
マザック社は、他にも「ヤマザキマザック美術館」、「マザックアートプラザ」、「クレセントバレーカントリークラブ美濃加茂」、「ヤマザキマザック工作機械博物館」を保有しており、各施設のパンフレット、外観、内装等に引用商標が使用されている(甲376〜甲380)。これら施設は、一般需要者に対しても広く開放されており、工作機械業界以外の需要者に対しても引用商標が知られていることが分かる。
また、引用商標を使用したマザック社の工作機械のプラモデルが販売されている(甲381)。これは「ヤマザキマザック工作機械博物館」の限定販売品であったが、好評により一般販売が行われている。
コ 展示会
マザック社は、「日本国際工作機械見本市(JIMTOF)」、「どてらい市」、「メカトロテックジャパン(MECT)」及び「MF−TOKYO」といった日本国内で開催される工作機械に関する展示会において、定期的に引用商標を用いたブースを出展している(甲382)。これら展示会には工作機械の関係者が数多く参加し、引用商標が多くの取引者、需要者に認知されたことが分かる。
サ 第三者によるニュース記事・論文の投稿
マザック社に言及する第三者の研究論文やニュース記事は、毎年多数投稿されている(甲383〜甲387)。このように、マザック社自身の認知度が上がることにより、コーポレートアイデンティティーである引用商標の認知度もあがり、引用商標がマザック社の商標であることを十分に認識できる。
シ このような事実関係からして、引用商標は、遅くとも本件商標の国際登録時には、我が国の工作機械の分野において、マザック社の商標として広く知られおり、少なくとも工作機械の商品等を取り扱う業界における取引者及び需要者は「Mazak(ロゴ)」から直ちにマザック社を想起する。
(3)本件商標と引用商標との混同を生ずるおそれについて
ア マザック社のブランド管理について
我が国で、「MAZA」の文字を語頭に冠することで知られる工作機械関連分野におけるブランドは、マザック社の「ヤマザキマザック」以外に存在しない(甲388)。また、マザック社は自身が取り扱う商品として、「MAZATROL」シリーズ(甲9、甲28、甲32、甲34、甲44、甲46、甲53、甲58、甲65、甲70、甲71、甲75、甲90)、「MAZA−CARE」、「MAZATEC SMS」(甲23)、「MAZATECH」シリーズ(甲30、甲54、甲55、甲63、甲73、甲76、甲80、甲82、甲85〜甲89)など、「MAZA」の文字を語頭に冠する商品を数多く取り扱っている。なお、申立人は「MAZATROL」についても、商標権を取得している(甲389)。
したがって、「MAZA」の文字を語頭に用いた本件商標は、現実の取引において直ちにマザック社のハウスマークである引用商標を想起せしめ、商品の出所の混同を生ずるおそれが高い商標であるといえる。
ところで、このようにブランド戦略の一環として、商品・サービス名の語頭に周知なブランド商標又はその一部を共通して用いることは商慣行上広く活用されている。例えば、Apple社の「iPhone」、「iPad」、「iCloud」等の「i(アイ)シリーズ」や、Google社の「G−mail」「G−Suite」等の「G(ジー)シリーズ」、Panasonic社の「PanaHome」や「PanaFAX」「PanaCIM−EE」等の「Panaシリーズ」、メルカリ社の「メルカリ」、「メルペイ」等が挙げられる。
イ 本件商標構成部分「CAM」の識別力について
本件商標の構成中の「CAM」とは、コンピュータ支援製造(Computer Aided Manufacturing)の略語を意味する(甲390)。具体的には、材料を加工するために数値制御工作機械の動きを制御する加工プログラムなどの加工情報を、コンピュータを用いて作成するシステム全般を意味し、工作機械から離れたコンピュータの画面上で加工情報の作成や確認を行うために用いられるソフトウェアに使用される用語である(甲391〜甲393)。
このように、本件商標の指定商品に使用される場合、「CAM」には上記の一義的かつ直接的な意味を有することから、「CAM」部分は記述的な識別力を欠く部分と捉えられ、「MAZA」の文字部分が要部となり、より強く支配的な部分である。
ウ 本件商標の取引実情について
本件商標権者の実際の取引の場における使用態様は、甲第394号証のとおりである。
本件商標権者は、日本国内において、本件商標権者の商品を日本代理店であるシステムクリエイト株式会社(以下「SC社」という。)を通して販売しており、実際の取引では、本件商標「MAZACAM」の「AZA」部分を小文字で表し、マザック社のコーポレートカラーに似た色合いを用いて標章「MazaCAM」として商品の広告、販売を行っている。
また、SC社は、自身のフェイスブック、YouTube、インスタグラムにおいて「MazaCAM」の広告を行っている(甲395〜甲397)。特に、インスタグラムの投稿において、ハッシュタグに「#MazaCAM」と同時に「#Mazak、#mazakcnc、#マザック、#ヤマザキマザック」を使用している。
さらに、第30回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2020)のオンライン展示において、「MazaCAM」の下に「Mazakユーザー様必見」と表記し使用している(甲398)。
加えて、マザック社の営業所が、マザック社の顧客から、SC社が販売する「MAZACAM」の問合せを受けたものの、営業所として「MAZACAM」がマザック社の公認ソフトか否か判断できないといった、営業の現場における混乱が生じている(甲399)。
このように、実際の取引の場において、本件商標は、引用商標とロゴの雰囲気や色を共通にし、ハッシュタグや説明文に「MazaCAM」と「Mazak」を同時に使用することで、マザック社とマザック社の関連ブランドのような誤認を生じさせ、マザック社の提供するソフトウェアであるように出所の混同を生じさせる結果を招来している。
そのため、本件商標権者が本件商標を付した商品を販売すると、マザック社の商品との間にいわゆる親子関係や系列会社等の緊密な営業上の関係又は出所の混同を生じ、商標に化体した業務上の信用が著しく損なわれるおそれがあり、マザック社の不利益は極めて大きい。
したがって、本件商標は、マザック社を想起させる引用商標と何らかの関係性がある者の業務に係る商品であると誤認し、商品の出所につきいわゆる広義の混同を生ずるおそれが生じている。
甚だしきは、本件商標を付した商品は、マザック社の商品である数値制御装置「MAZATROL」と同様のインターフェースで、工作機械の動きを「MAZATROL」によって制御するための加工プログラムを作成、変換するソフトウェアである点である。即ち、マザック社の商品「MAZATROL」がなければ、本件商標を付した商品は存在せず、引用商標の著名性に明らかにただ乗りフリーライド)する意図の下に使用されている商標といわざるをない。
このことから、本件商標権者は、マザック社の名声に乗り、不正な利益を得る目的(不正の目的)で自社のソフトウェアをマザック社の製品にインストールしてもらうことを目的としており、「MAZA」の語頭を共通にさせて、「CAM用ソフトウェア」の一般名称「CAM」を結合することで、取引者、需要者を混同させる意図が十分あり、それには本件商標権者の戦略的意図、つまるは故意性が明らかである。
加えて、上記商品の性質から、「CAM用ソフトウェア」は「工作機械器具」等を使用するために供されるもので、「工作機械器具」の需要者と一致し、販売経路も共通する場合が多く、目的、用途、販売系統を共通し、実際の取引においても、マザック社が自身の商品として、「CAM用ソフトウェア」である「Mazak CAMWARE」(甲64、甲67)、「MAZATROL CAM」(甲400)、「MAZATROL MATRIX CAM」(甲53、甲401)、「SMOOTH CAM Ai」(甲402)等、本件商標の指定商品を含む商品も取り扱っており、取引者、需要者を共通とし、重なる販売ルートを有している事実がある。
(4)商標法第4条第1項第15号について
本件商標は、その文字構成において、「MAZACAM」の欧文字を横書きしてなり、引用商標は「Mazak」の欧文字を横書きしてなるものである。両商標は、「Maza」の文字部分が共通しており、「Maza」部分が極めて強い顕著性を有することから、マザック社又はその関係会社との関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれが高いと考えられる。
また、引用商標は造語であり、上述のような使用の結果、これらに接した取引者又は需要者が直ちにマザック社のハウスマークであることを認識し、想起する程にマザック社を示すブランドとして国内外にわたって広く認識されているものである。
さらに、上述のようにマザック社のMAZAシリーズが過去から現在において複数存在していること等からも、マザック社又はマザックの関係会社が本件商標権者と何らかの関係性を有するように捉えるのは、慣習的にも明白である。そのため、本件商標に接した取引者又は需要者は、本件商標が、マザック社に係るMAZAシリーズの語頭「MAZA」と「CAM用ソフトウェア」の一般名称「CAM」の接尾辞を付加したものであることを容易に認識し、マザック社を想起させる引用商標と何らかの関係性がある者の業務に係る商品であると誤認し、商品の出所につきいわゆる広義の混同を生ずるおそれが生じている。
加えて、本件商標は、上述のように「MAZACAM」の語頭の「MAZA」部分を引用商標と近しい態様「Maza」で使用しており、本件商標がマザック社の商品を対象とするものに使用されていることからすれば、本件商標権者が故意に引用商標と取引者、需要者を混同させる意図は十分あり、本件商標が「CAM用ソフトウェア」等に使用された場合、取引者、需要者に対してマザック社と資本関係ないしは業務提携関係にある会社の業務に係る商品であると誤認し、商品の出所について混同を生ずる可能性は十分に予想され、需要者がその出所について混同を生じることは明らかである。
したがって、本件商標はその構成から、本件商標の国際登録時において、マザック社を想起させる引用商標と何らかの関係性がある者の業務に係る商品であると誤認し、商品の出所につきいわゆる広義の混同を生ずるおそれがあり、商標法第4条第1項第15号に該当する。
なお、過去の審決及び判決においても、語頭を共通する「スバル」と「スバリスト」(無効2011−890048)、「3M」と「3Ms」(平成23年(行ケ)第10404号審決取消請求事件)が広義の混同を生ずるおそれがあるとして、商標法第4条第1項第15号に該当すると判断されている。
(5)商標法第4条第1項第11号について
本件商標「MAZACAM」は、引用商標の後願に当たるところ、その要部「MAZA」の文字部分において、称呼上、引用商標と類似する。また、本件商標の指定商品は引用商標の商品「工作機械稼動用コンピュータソフトウェア」と同一又は類似である。
したがって、本件商標は、その登録出願前の登録出願に係る他人の登録商標に類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品又はこれらに類似する商品について使用するものであるため、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(6)商標法第4条第1項第10号について
本件商標は、日本でも知られたマザック社の標章「Mazak CAMWARE」に類似であって、使用される商品「工作機械稼動用コンピュータソフトウェア」も本件商標の指定商品と同一又は類似である。
したがって、本件商標は、その国際登録時において、我が国で周知の標章「Mazak CAMWARE」と同一又は類似する商標であって、その指定商品もマザック社の業務に係る商品と同一又は類似するものであるため、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(7)商標法第4条第1項第7号について
本件商標は、広く知られた商標である引用商標の接頭語である「MAZA」の文字をそのまま要部に取り込んでおり、その指定商品である「CAM用ソフトウェア」に使用する場合には、取引者、需要者において、マザック社との関係性が直ちに想起されるものである。また、本件商標権者は、本件商標を採用するにあたり、本件商標を付した商品は、マザック社の商品「MAZATROL」に関連する商品であり、「MAZAK」の文字がマザック社の商標を表すものであることは、本件商標の国際登録時において当然認識していたと考えられる。
そうすると、本件商標権者には、マザック社の名声に便乗して不正な利益を得る目的(不正な目的)が推認され、本件商標は、本件商標権者が他人の商標を剽窃的に出願したことが明らかであり、出願の経緯に社会的妥当性を欠き、登録を認めることは公序良俗に反することは明らかであり、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(8)商標法第4条第1項第19号について
引用商標は、日本のみならず海外においても工作機械について取引者、需要者の間で広く知られたものとなっている。
また、本件商標は、実際の使用態様は「MazaCAM」のように「AZA」部分を小文字で表し、マザック社のコーポレートカラーに似た色合いを用いて、引用商標に似せた態様で使用していることを考慮すると、本件商標は、取引者、需要者に広く知られた引用商標の出所表示機能を希釈化させたり、商品に化体した信用、名声、顧客吸引力等から不正の利益を得る目的で出願されたものと考えられる。
そうすると、本件商標は、需要者の間に広く知られた引用商標と類似のマザック社に損害を与え、マザック社の事業活動を阻害するなどの不正な目的をもって出願されたものと推認されるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。
4 当審の判断
(1)引用商標及び「MAZA(Maza)」の文字の周知性について
ア 申立人提出の甲各号証及び同人の主張によれば、以下のとおりである。
申立人は、マザック社(ヤマザキマザック株式会社)の権利管理会社であるところ、本件商標の使用権者であるマザック社は、1919年に創業した工作機械メーカーであり、欧米やアジア諸国に生産拠点を有し、現在、工場及び営業拠点は国内に38か所、世界各国にも工場及び営業所を有する我が国における工作機械業界の総合大手企業のうちの1社である(甲1〜甲5、甲340)。
そして、「MAZAK」の文字は、マザック社の名称から創造された造語であって、1970年代から継続して使用されているハウスマークであり、1985年からは、引用商標の態様で使用している(申立人の主張)。
マザック社は、1975年から現在に至るまで、自社の製造する工作機械に関するカタログや会社案内等(甲7〜甲99)、2006年から雑誌や新聞(甲100〜甲339)、1982年から看板や掲示物(甲340〜甲351)、2005年ないし2009年にはTVCM(甲352〜甲354)等を通じて、「MAZAK」の文字又は引用商標を使用し広告宣伝を行っていることが認められる。
なお、申立人は、マザック社が取り扱う商品として、「MAZATROL」シリーズ(甲9等)、「MAZATEC SMS」(甲23)、「MAZATECH」シリーズ(甲30等)など、「MAZA」の文字を語頭に冠する商品を数多く取り扱っている旨主張しているが、「MAZA」又は「Maza」の文字のみからなる商標が同社の取り扱う商品について使用されている事実は確認できない。
イ 上記アによれば、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、マザック社の業務に係る商品「工作機械」を表示するものとして、工作機械を取り扱う分野の取引者、需要者の間に広く認識されているものと認めることができるものの、「MAZA」又は「Maza」の文字がマザック社の周知商標として取引者、需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
(2)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標
本件商標は、上記1のとおり、「MAZACAM」の欧文字を横書きしてなり、その構成文字は、同じ書体、同じ大きさで等間隔にまとまりよく一体に表され、これより生じる「マザカム」の証拠も、無理なく一連に称呼し得るものである。
そして、本件商標は、たとえ、その構成中「CAM」の文字が「Computer Aided Manufacturing」の略語であるとしても、上記構成及び称呼においては、看者をして、該文字部分のみを抽出し、指定商品の品質等を表示したものと認識されることはなく、「MAZACAM」の構成文字全体をもって、特定の観念を生じない一体不可分の造語を表したものとして認識し、把握されるとみるのが相当である。
さらに、本願商標は、その構成中「MAZA」の文字が取引者、需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めるに足りる事情は見いだせない。
そうすると、本件商標は、その構成文字に相応し「マザカム」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものと判断するのが相当である。
イ 引用商標
引用商標は、別掲のとおりの構成からなるものであり、近時のレタリングの手法からすれば、「Mazak」の欧文字をデザイン化したものと把握、認識されるものであって、「Mazak」の文字は、辞書類に載録がないものであるから、既成の親しまれた観念を有しない一種の造語からなるものとして認識し把握されるものである。
そうすると、本件商標は、その構成文字に相応し「マザック」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものと判断するのが相当である。
ウ 本件商標と引用商標の類否
本件商標と引用商標の類否を検討すると、本件商標と引用商標を比較すれば、両者は、構成文字のデザイン、構成文字数など構成態様が明らかに異なるから、容易に区別し得るものである。また、両者のつづりの比較においても、前半の「MAZA」と「Maza」を共通にするとしても、後半の「CAM」と「k」の文字に差異を有し、その差異が7文字又は5文字構成からなる両者の外観全体から受ける視覚的印象に与える影響は大きく、両者を離隔的に観察しても、相紛れるおそれのないものと判断するのが相当である。
次に、本件商標から生じる「マザカム」と引用商標から生じる「マザック」の称呼を比較すると、両者は語頭において「マザ」の音を同じくするものの、後半の「カム」と促音の後の「ク」の音に差異を有し、この差異が両称呼全体の語調語感に及ぼす影響は大きく、両者をそれぞれ一連に称呼しても、かれこれ聞き誤るおそれはなく、相紛れるおそれのないものと判断するのが相当である。
さらに、観念においては、いずれも特定の観念を生じるものではないから、両者は比較できない。
そうすると、本件商標と引用商標とは、観念において比較できないものであるとしても、外観及び称呼において相紛れるおそれのないものであるから、両商標が需要者に与える印象、記憶、連想等を総合的に考察してみれば、両商標は、非類似の商標であって、別異のものというのが相当である。
なお、申立人は、本件商標はその要部「MAZA」の文字部分において、称呼上、引用商標と類似すると主張するが、上記(1)のとおり、「MAZA」又は「Maza」の文字がマザック社の周知商標として取引者、需要者の間に広く認識されているとはいえないものであり、上記アのとおり、本件商標は、その構成全体をもって、一体不可分の造語を表したものとして認識し、把握されるものであるから、本件商標から「MAZA」の部分を分離抽出し、他の商標と比較検討すべきとする事情は見いだせない。
よって、申立人の係る主張はその前提において採用できない。
その他、本件商標と引用商標が類似するというべき事情は見いだせない。
エ 小括
以上のとおり、本件商標と引用商標は非類似の商標であるから、両商標の指定商品が同一又は類似するとしても、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するものといえない。
(3)商標法第4条第1項第15号について
上記(1)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、マザック社の業務に係る商品を表示するものとして、その商品の取引者、需要者の間に広く認識されているとしても、上記(2)ウのとおり、本件商標と引用商標とは非類似の商標であって、別異の商標というべきものである。
そうすると、本件商標は、本件商標権者がこれをその指定商品について使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、その商品が他人(マザック社)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものといえない。
なお、申立人は、本件商標と引用商標は、「MAZA(Maza)」の文字部分が共通しており、本件商標の指定商品との関係において、本件商標構成中の「CAM」の部分は記述的な識別力を欠く部分であって、特に、引用商標の「Maza」の部分が極めて強い顕著性を有することから、本件商標に接した取引者又は需要者がマザック社又はその関係会社との関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれが高い旨主張する。
しかしながら、上記(1)のとおり、「MAZA」又は「Maza」の文字がマザック社の周知商標として取引者、需要者の間に広く認識されているとはいえないものであり、本件商標は、上記(2)アのとおり、その構成全体をもって、一体不可分の造語を表したものとして認識し、把握されるものであるから、その構成中の「MAZA」の文字部分のみが着目され、抽出されるとはいえないものである。
そうすると、たとえ、引用商標が、マザック社の業務に係る商品を表示するものとして、その商品の取引者、需要者の間に広く認識されているとしても、本件商標に接する取引者、需要者が、本件商標の構成中にある「MAZA」の文字部分から引用商標を連想、想起することはないというべきである。
また、申立人は、マザック社は「MAZA」の文字を語頭に冠する商品を数多く取り扱っているところ、本件商標の実際の使用態様は、本件商標の語頭の「MAZA」部分を引用商標と近しい態様「Maza」で使用しており、本件商標がマザック社の商品を対象とするものに使用されていることからすれば、本件商標権者が故意に引用商標と取引者、需要者を混同させる意図は十分あり、本件商標が「CAM用ソフトウェア」等に使用された場合、取引者、需要者に対してマザック社と資本関係ないしは業務提携関係にある会社の業務に係る商品であると誤認し、商品の出所について混同を生ずる可能性は十分に予想され、需要者がその出所について混同を生じることは明らかである旨主張する。
しかしながら、本件商標は、上述のとおり、その構成中の「MAZA」の文字部分のみが着目され、抽出されるとはいえないものであって、当該文字部分から引用商標を連想、想起することのないものであるから、たとえ、マザック社が、「MAZA」の文字の後に他の文字を配してなる標章を用いた商品を派生的に展開しているとしても、そのことをもって、本件商標をその指定商品に使用した場合に、引用商標との関係において、商品の出所の混同を生ずるおそれがあるとはいえない。
してみれば、申立人による上記主張は、いずれも採用することができない。
(4)商標法第4条第1項第10号について
申立人は、本件商標は、我が国で知られたマザック社の標章「Mazak CAMWARE」に類似であって、使用される商品「工作機械稼動用コンピュータソフトウェア」も本件商標の指定商品と同一又は類似であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する旨主張する。
しかしながら、「Mazak CAMWARE」の標章は、申立人の提出した証拠(甲64、甲69)に記載されているとはいい得るものの、その証拠が当該標章の周知性に直接関係するとはいえないものであり、その他、当該標章の周知性を具体的に確認できる証拠の提出はないから、この証拠のみから、当該標章がマザック社の業務に係る商品等を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものということはできない。
そうすると、「Mazak CAMWARE」の標章が他人(マザック社)の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であることを前提とする申立人の主張は、その前提を欠くものであり、採用することができない。
したがって、本件商標は、「Mazak CAMWARE」の標章との類否について検討するまでもなく、商標法第4条第1項第10号に該当するものといえない。
(5)商標法第4条第1項第19号及び同項第7号について
上記(2)のとおり、本件商標は、引用商標と非類似の商標であって別異の商標であり、上記(3)のとおり本件商標は、引用商標を連想又は想起させるものでもない。
そして、申立人が提出した証拠からは、本件商標は、引用商標の信用、名声に便乗するものとはいえないし、かつ、引用商標の顧客吸引力を希釈化させ、その信用、名声を毀損するなどの不正の目的をもって、使用するものというべき証左は見出せない。
そうすると、上記(1)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、マザック社の業務に係る商品を表示するものとして、その商品の取引者、需要者の間に広く認識されているとしても、本件商標は、引用商標とは別異の商標であって、不正の目的をもって使用をするものと認めることもできない。
さらに、本件商標は、その構成態様に照らし、きょう激、卑わい若しくは差別的な文字又は図形からなるものでないことは明らかであるばかりでなく、公正な競争秩序を乱し、国際信義に反し、あるいは商標制度の趣旨に反するなど、公序良俗に反するものというべき事情も見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号及び同項第7号のいずれにも該当するものとはいえない。
(6)むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも違反してされたものとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲 別掲(引用商標)

異議決定日 2022-03-14 
審決分類 T 1 651・ 22- Y (W09)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 榎本 政実
特許庁審判官 小松 里美
鈴木 雅也
登録日 2019-07-19 
権利者 Basic NC Inc.
商標の称呼 マザカム、マザキャム、マザ 
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所 

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