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審決分類 審判 一部申立て  登録を維持 W09
管理番号 1386382 
総通号数
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-09-23 
確定日 2022-01-26 
異議申立件数
事件の表示 登録第6264161号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6264161号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第6264161号商標(以下「本件商標」という。)は、「LAIKA」の文字を標準文字で表してなり、令和元年6月12日に登録出願、第9類「データ処理装置,コンピュータプログラム(記憶されたもの),コンピュータ用プログラム(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの)」を含む第9類及び第21類に属する商標登録原簿に記載の商品を指定商品として、同2年6月15日に登録査定され、同月29日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
1 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用する商標は、次の(1)ないし(4)のとおりであり、いずれの商標権も現に有効に存続しているものである。
(1)登録第673825号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の態様:別掲1のとおり
登録出願日:昭和35年12月31日
設定登録日:昭和40年4月20日
書換登録日:平成18年10月4日
指定商品:第9類「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」
(2)登録第2381286号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の態様:別掲2のとおり
登録出願日:昭和63年7月22日
優先権主張日:1988年3月22日 ドイツ連邦共和国
設定登録日:平成4年2月28日
書換登録日:平成14年8月21日
指定商品:第9類「電気磁気測定器,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」
(3)登録第2263997号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の態様:別掲3のとおり
登録出願日:昭和62年12月21日
優先権主張日:1987年10月1日 ドイツ連邦共和国
設定登録日:平成2年9月21日
書換登録日:平成23年3月30日
指定商品:第9類「電気磁気測定器,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」
(4)登録第2703668号商標(以下「引用商標4」という。)
商標の態様:別掲4のとおり
登録出願日:平成3年8月13日
優先権主張日:1991年2月14日 オランダ王国
設定登録日:平成7年2月28日
書換登録日:平成18年4月12日
指定商品:第9類「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」 なお、以下、引用商標1ないし引用商標4をまとめていう場合は、「11号引用商標」という。
2 申立人が、本件商標は、本件申立商品との関係において、商標法第4条第1項第15号に該当するとして引用する商標は、11号引用商標及び「ライカ」の文字からなる商標(以下「使用商標1」という。)、「LEICA」の文字からなる商標(以下「使用商標2」という。)、「Leica」の文字からなる商標(以下「使用商標3」という。)、別掲3のとおりの構成からなる商標(以下「使用商標4」という。)並びに別掲4のとおりの構成からなる商標(以下「使用商標5」という。)であり、申立人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、また、申立人の顕微鏡事業及び申立人が商標権を管理するカメラ事業を表示するものとして、取引者・需要者の間に広く認識されてきた周知著名な商標と主張するものである。
なお、以下、使用商標1ないし使用商標5をまとめていう場合は、「使用商標」といい、11号引用商標と使用商標をまとめていう場合は、「引用商標」という。

第3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は、その指定商品中、第9類「データ処理装置,コンピュータプログラム(記憶されたもの),コンピュータ用プログラム(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの)」(以下「本件申立商品」という場合がある。)について、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するにもかかわらず登録されたものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第16号証(枝番号を含む。以下、枝番号の全てを引用するときは、枝番号を省略して記載する。)を提出した。
1 申立人の「Leica」ブランドの周知著名性と独創性
申立人の歴史は1849年に遡り、(甲3の1・2)、1870年に初の実用顕微鏡を世に送り出し、1913年頃、エルンスト・ライツ社(ライカの当時の社名)の光学技術者が、顕微鏡レンズの技術を応用して小型カメラの開発に成功し、これが後のライカカメラ誕生へと繋がっていった(甲3の3)。創立以来170年、申立人は、創業者の言葉「ユーザーと共に、ユーザーのために」を企業理念として掲げ(甲3の1)、「Leica」ブランドを、世界中で支持されるブランドヘと発展させていった。
「Leica(ライカ)」という語は、申立人の前身であるエルンスト・ライツ(Leitz)社が開発したカメラの名称、すなわち「Leitz(ライツ)」と「Camera(カメラ)」の2語を結合させた唯一無二の造語として生まれた(甲4の1〜3)。
つまり、引用商標は、唯一申立人に係る標章というべきものであり、その独創性の程度は相当に高いものである。
現在、ライカカメラAG(以下「ライカカメラ社」という。)と申立人は、カメラ及び顕微鏡業界で、「ライカ」に脈々と受け継がれてきた「世界最高品質レンズ」へのこだわりを守り続けている(甲3の3)。
申立人は、ライカブランドが強みとする高精度の精密レンズを軸に、光学機密機器、画像解析システム、ソフトウェアを開発・販売し、また、カメラを含む「Leica」ブランドに係る商標を、世界各国で保有し管理している。
その一部を示す証拠として、我が国とWIPOでの商標リストを提出する(甲5の1〜3)。
ライカの商標及びライカのロゴ商標の所有権は、申立人が保有・管理しており、申立人が、ライカカメラ社をはじめ、他のグループ会社にライカの商標及びライカのロゴ商標の使用権を保証し、厳重なる商標管理のもとで、ライカブランドを守り続けている(甲3の2)。
カメラのライカブランドは、小型サイズの35mmカメラを発明して以来、1925年に生産された市販一号機のカメラの「ライカI型」、次いで1930年頃には「ライカII型」など、数々の卓越したカメラを世に送り続け(甲5の4・5)、その革新的かつ高い技術と品質で、カメラとしてのライカブランドの名声は不動のものとなった。
1954年には、現在でも名機と称えられる「ライカM3」が生まれたが、この頃まで日本のカメラメーカーは、「ライカ」を目標にして小型カメラの開発を行っていたといわれる(甲4の3)。
エルンスト・ライツ社は、従来から特別な製造番号の顕微鏡を科学者に贈答し、それはノーベル賞と比較されるほどの名誉であると認識されていた。そして、有名な探検家、政治家、写真家などには特別な製造番号のカメラが贈答された(甲4の3)
高精度の精密レンズ及びその加工技術は、近年の革新的な画像認識・画像処理技術を支える重要な存在である(甲6)。
つまり、画像処理を行うためには、精度の高いレンズが必要不可欠であり、そのレンズの分野において、申立人は顕微鏡・カメラ事業で培った高い技術とノウハウを有している。
精密レンズの用途は、スマートフォンやカメラといった一般的な電子機器等が一般的に知られているが、その用途は広く、申立人の事業においては、顕微鏡・電子顕微鏡・電子顕微鏡資料作成装置その他の理化学機器ソリューション、ライフサイエンス宇宙実験のライブイメージングシステム、光学顕微鏡法による洗浄度検査とコンタミ解析装置など、医療や試験研究、宇宙科学、測量等の専門分野で用いられる高精度・高性能の電子機器類まで多岐に及ぶ(甲7の1〜3)。
申立人は、精密レンズに加えて、最先端の超解像システムを実現する多種多様なソフトウェアも開発している(甲8) 。
申立人は、それらの画像解析やデジタル技術等に関して、個人ユーザーや研究者向けのセミナー・ワークショップを積極的に開催し、2017年から今日に至るまでのセミナー・ワークショップの開催数は、100回以上にのぼり、日本においては、東京の他、大阪、名古屋、福岡に日本支店を展開し、さらには仙台デスクや横浜の物流センターで、日本全国の顧客ニーズに応えている(甲9)。
我が国において「Leica(ライカ)」が広く知られていることは、国立国会図書館のウェブサイトで片仮名「ライカ」で文献検索すると、相当数の文献が検出されることからも明らかである。
最初の200件の検索結果もほぼ全てがライカブランドに関するものであり、Googleの検索エンジンにて「ライカ」で検索した最初の100件についても、ほぼ全て(95件)が申立人の「Leica (ライカ)」ブランドに関する記事である(甲10)。
また、日本におけるライカカメラの直営店の数は、「11」にのぼり、本国ドイツの「12」の数に次いで2番目に多いことからも、日本における「ライカ」の高い人気と顧客ニーズの高さがうかがえる(甲11)。
さらに、同ブランドの起源でもある「顕微鏡」は、申立人がそのビジネスを承継し、現在も「世界4大メーカー」の一つとして数えられており、このうち、手術用顕微鏡の世界市場は、申立人が3割程度を占めている(甲12の1〜3)。
つまり、申立人は手術顕微鏡分野においても世界のリーディングカンパニーとしての地位を築いている。
申立人が商標権を保有し管理する「Leica (ライカ)」ブランドは、顕微鏡を軸とした光学機械器具の発展のみならず、写真の歴史を大きく変えると同時にフォトジャーナリズムという新しい文化の到来をも実現させたブランドである(甲12の4)。
これらの事実に鑑みれば、日本における「Leica (ライカ)」ブランドは、唯一無二の存在として、1930年頃に日本のカメラメーカーが「ライカ」を目指して技術開発にしのぎを削った頃から現在も変わることなく、顕微鏡を軸とした高い技術と品質を誇るブランドとして、確固たる地位を築いていることは明らかである(甲3〜甲12の3) 。
ライカの名称は、単に自他商品・自他役務を識別する識別標識ではない。 「ライカを手にすることは将来への投資」という言葉にも端的に表現されているとおり(甲4の1)、「Leica (ライカ)」に係る商標には、申立人が長年にわたり築き上げてきた業務上の信用・信頼・名声・評判が十分に化体されていることは疑う余地がない。
2 商標法第4条第1条第11号該当性
本件商標は、11号引用商標と類似であり、かつ、本件申立商品は11号引用商標の指定商品と抵触するから、本件商標は11号引用商標との関係において商標法第4条第1項第11号に該当する。
(1)11号引用商標が本件商標より先に登録出願された他人の登録商標であること
11号引用商標は、本件商標よりも先に登録出願されたことは明らかであり、申立人からは他人の関係にある。
(2)本件商標と11号引用商標の類似性
ア 称呼
本件商標は、「LAIKA」の欧文字からなるところ、該文字は、特定の意味を有する成語とは認められないものであるから、これを称呼する場合には、我が国において一般的に親しまれているローマ字読みの発音に倣って「ライカ」の称呼が生じる。
11号引用商標は、「LEICA」又は「Leica」の欧文字からなるところ、これらの語は、世界的に周知・著名なライカブランドとして知られるものであるから、その欧文字からは自然と「ライカ」の称呼が生じる。
よって、本件商標と11号引用商標は、いずれも「ライカ」の称呼を生じるものであるから、称呼上、同一である。
イ 外観
本件商標「LAIKA」と11号引用商標「LEICA」又は「Leica」は、ともに横書きの「L」から始まり「A」で終る欧文字5文字からなり、単語構成の要となる1文字目、3文字目及び5文字目の「L」、「I(i)」、「A(a)」の3文字をそれぞれ共通にする。
商標の識別上最も重要な語頭が同一であること、また、中間の「I」と語末の「A」において同一であり、これらの3文字に挟まれた2文字目及び4文字目にのみに差異がある構成は、商標全体の外観上極めて近似した印象を与える。簡易迅速を旨とする取引の経験則に照らせば、共通する3文字に挟まれた2文字の欧文字の相違を、英語や西洋語を母国語としない我が国の需要者・取引者が、都度確認することは一般的であるとはいえず、称呼が完全に同一であることも相まって、時と所を異にして本件商標と11号引用商標に接した際に、通常の需要者・取引者が外観上明確に区別できるとはいい難いものである。
よって、本件商標と11号引用商標は、外観上、相紛らわしいものである。
ウ 観念
本件商標は、特定の意味を有する語として英和辞典や一般の辞書等に掲載されていないものであるから造語と認められ、特定の観念は生じないものである。
一方、11号引用商標からは、周知・著名な申立人のブランド「Leica(ライカ)」が自然と想起されるから、ライカブランドの観念が生じる。 エ 小括
以上を総合すると、本件商標と11号引用商標とは、たとえ観念上比較し得ないとしても、称呼において同一であり、外観も互いに相紛らわしいものであるから、本件商標と11号引用商標は、類似する商標である。
オ 審決例
実際、本件と同様に、3音からなる称呼が互いに同一又は類似することをもって、商標が類似と判断された審決例が多数存在する(甲14)。
これらのような審決がなされているにもかかわらず、本件商標だけが、11号引用商標には類似しないという合理的理由も見つけることができない。
(3)本件申立商品と11号引用商標の指定商品の同一又は類似性
本件申立商品は、11号引用商標の指定商品のうち「電子応用機械器具及びその部品」に包含されるものである。
したがって、本件申立商品が、11号引用商標の指定商品と類似する商品であることは明らかである。
(4)商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれがあること
ア 商標及び商品の類似
本件商標と11号引用商標の称呼は同一であり、商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれのある類似の商標である。「Leica」が、極めて高い独創性を持つ造話であることは上述のとおりである。「Leica」からなる語は、一般の語学辞典等には掲載されていないものであり、かつ、我が国の需要者・取引者の間で、「ライカ」の称呼で親しまれてきた長い歴史に鑑みれば、本件申立商品の市場において、需要者・取引者がその称呼を頼りに取引に当たると考えるのは極めて自然なことである。
審決例(甲14の1)で、「加えて、実際の取引においては、(中略)称呼を記憶し、その称呼を頼りに取引にあたることが少なくないというのが相当であり、そのような商標の類否判断においては、称呼が重要な役割を果たすといえる。(中略)してみれば、商標の類否判断において重要な役割を果たす称呼を同一又は類似とするものであるから、両商標は、商品の出所について、誤認混同を生じさせるおそれのある、類似の商標といえる」のように判断されているにもかかわらず、本件において異なる判断をすべき合理的な理由は見当たらない。
本件申立商品は、11号引用商標の指定商品に包含されるものであり、本件商標が本件申立商品に指定された場合に、その商品の出所につき混同が生じる可能性が極めて高いといわざるを得ない。
イ 取引の実情
申立人の「Leica (ライカ)」ブランドに係る11号引用商標は、100年以上の歴史を誇る世界的に周知・著名な商標である。申立人は既に、顕微鏡類の画像解析や画像処理に必要不可欠なアプリケーシンソフトウェアの事業を展開している(甲8)。
本件申立商品の需要者・取引者は、データ処理装置やコンピュータや電子情報端末を利用する企業や個人ユーザーであるから、需要者の範囲が重なる。
また、申立人のオフィスが日本に複数存在すること(甲9の2)や、ライカカメラ社の直営店も複数存在すること(甲11)、さらには申立人が積極的に個人ユーザーや企業向けのセミナーやワークショップを開催していること(甲9の1)から、申立人が使用する11号引用商標の指定商品が、口頭では一切取引されていないと判断することはできない。
本件申立商品についても、電話等の口頭による商取引が全く行われていないという特殊な取引の実情も見当たらない。
また、商標の称呼よりも、むしろ外観や観念を重視して取引されるべき特殊な事情も見当たらない。
そうすると、称呼が同一であることを理由に本件商標が類似すると判断することは決して不合理ではない。
ここで、本件申立商品と11号引用商標の指定商品は安価な商品ではないため、商品を購入する際にその需要者・取引者が相当の注意を払うだろうから、本件商標と11号引用商標との間で商品の出所につき混同が生じるおそれはない、との反論が予想されるので、この点について予め申し述べる。
たとえ、本件申立商品に接する取引者・需要者が高度な識別能力を有すると仮定しても、商品を購入する際に、電話等の口頭での取引でその商品を特定する場合が無いとはいえないばかりでなく、時と所を異にして取引を行うのが通常であることをも併せ考慮すれば、11号引用商標と同一の「ライカ」の称呼が生じる本件商標が、本件申立商品に使用された場合に、出所の混同を生じるおそれがあると考えるのは極めて自然である。
このような判断は、審決例(甲14の7)においても示されている。
(5)小括
以上より、本件商標は、11号引用商標に類似する商標として商標法第4条第1項第11号に該当するものであり、その指定商品中「データ処理装置,コンピュータプログラム(記憶されたもの),コンピュータ用プログラム(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの)」について取り消されるべきものである。
3 商標法第4条第1項第15号該当性
(1)使用商標の周知著名性
申立人が、「Leica (ライカ)」ブランドについて使用している使用商標は、片仮名からなる「ライカ」、欧文字からなる「LEICA」と「Leica」、及び筆記体の欧文字からなる「Leica」やロゴの5種類がある(甲15)。
「Leica(ライカ)」ブランドには、前記1でも述べたとおり、1849年から170年以上続く顕微鏡事業、1920年代に35mmフィルムを用いた世界初のコンパクトカメラを開発して世界的に周知・著名となったカメラ事業がある。その高い品質と積極的なブランディング戦略により、今日に至るまで、申立人の顕微鏡事業及び申立人が商標権を管理するカメラ事業は、世界中で支持される周知・著名なブランドの地位を守り続けている(甲3〜甲12) 。
したがって、「Leica (ライカ)」ブランドに係る使用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時においても、需要者の間で周知・著名であったことは明らかである。
(2)商標の類似性
本件商標は「ライカ」のみの称呼を生じる。
この称呼は、申立人の「Leica(ライカ)」ブランドを示すものとして、日本の市場において頻繁に使用される片仮名の申立人使用商標「ライカ」の称呼と同一である。
そして、「ライカ」は、辞書にはない造語であり、かつ、申立人の周知・著名なブランド「Leica(ライカ)」を観念させるものであるから、本件商標と片仮名の申立人使用商標「ライカ」は互いに類似する商標である。
また、本件商標は、欧文字の使用商標「LEICA」、「Leica」及び筆記体の「Leica」とも、外観上、互いに極めて近似した印象を与える類似の商標である。
称呼も「ライカ」において同一である。
したがって、本件商標と使用商標とは、互いに相紛らわしい類似の商標というべきである。
(3)使用商標の独創性
使用商標は、造語の程度が非常に高く、唯一、申立人の事業に係る独創的な標章である。
(4)取引者・需要者の共通性、商品間の関連性
使用商標が使用されている「顕微鏡類」や「カメラ」のうち、特に「カメラ」は、一般需要者が購入する製品であり、家電量販店やカメラ店、オンラインショップ等の小売店で一般的に販売されている商品である。
そして、本件申立商品中、「コンピュータプログラム(記憶されたもの),コンピュータ用プログラム(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの)」も一般需要者が購入するものであり、インターネット回線を介して利用者の電子情報端末にダウンロードすることにより流通し、又は記録媒体に記憶させた商品として家電量販店等の小売店で販売されている。
よって、本件申立商品と使用商標が使用されている商品の販売場所や需要者層は一致する。
さらに、本件申立商品中、「データ処理装置」は、「データ(画像や情報)」を「処理(検索・加工・修正・複製・解析・収集等)」するための「装置」であるところ、顕微鏡類やカメラで撮影した画像を解析したり、データを処理(編集・加工等)するためには、それらのデータを取り込むパソコンなどの処理装置や、専用のコンピュータープログラムが必要不可欠である。 そうすると、使用商標が使用されている「顕微鏡類」や「カメラ」と、本件申立商品は、互いに極めて強い関連性を有する商品であるといわざるを得ない。
(5)本件申立商品の特徴
今日の高度にデジタル化した社会において、本件申立商品の「データ処理装置」や「コンピュータープログラム」は、一般消費者向けの商品のみならず、あらゆる産業分野における専門的な商品まで、極めて幅広く展開される汎用性の高い商品である。
そうすると、少なくとも、「Leica (ライカ)」ブランドがすでに展開している分野において、使用商標と同一の称呼「ライカ」を生じる本件商標が本件申立商品に使用された場合、商品の出所の混同を引き起こすことは必至である。加えて、「Leica(ライカ)」ブランドの周知・著名性に鑑みれば、本件商標の称呼に接する取引者・需要者が、申立人の業務に係る商標を連想、想起する可能性が極めて高い。
(6)取引の実情
申立人が商標権を保有し管理するカメラ事業において、ライカカメラ社は、ライカのカメラに使用するためのコンピューター用プログラムを、インターネット回線を通じて需要者に提供している(甲16)。
申立人も、画像処理を含む各種ソフトウェアを販売している(甲8)。
(7)使用商標に化体した信用を害されるおそれ
申立人は、使用商標のブランドイメージを維持し、より一層発展させるために、顕微鏡事業及びカメラ事業のブランド管理を行っている。使用商標は、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、日本を含む世界中において、需要者の間に広く認識されている周知・著名商標であり、申立人の提供する商品・サービスに絶大な信用が化体した重要な財産である。
したがって、万が一にも、本件商標の登録が維持されると、申立人と何ら関係のない者により、申立人の意図とは無関係に、申立人が現にその商標を付して使用している商品とその取引者層・需要者層を共通にする関連性の高い商品について、使用商標と類似の商標、すなわち本件商標が自由に使用されてしまうことになる。
その結果として、本件商標の称呼「ライカ」に接する需要者・取引者が、たとえ、申立人の業務に係る商品であると認識しなくても、申立人と経済的又は組織的に何らかの関係がある関連会社の業務に係る商品であると誤認し、商品の出所について混同を生ずるおそれがある。
このような事態が生じた場合、申立人が長年にわたり多大なる企業努力を費やして築き上げた、申立人使用商標に化体したライカブランドのイメージと、申立人が170年以上の年月を重ねて獲得した業務上の信用及び既得の利益が著しく毀損されることは明白である。
また、このような事態が生じた場合、需要者の利益をも保護する商標法第1条の立法趣旨に反する結果となることも明白である。
さらに、本件商標の使用は、需要者・取引者に対し申立人の周知・著名な「Leica(ライカ)」ブランドを連想させて、「あっ、このソフトウェアは、ライカのカメラの用の新しいアプリかな。」などと、その商品の出所につき誤認を生じさせるものである。
よって、本件商標の商標登録を維持すると、申立人の長年の企業努力により高い顧客吸引力と信用を有するに至った表示と、それを継続的に使用してきた申立人との強い結びつきを薄める希釈化をも引き起こしかねない。
したがって、かかる見地からも本件商標の登録は維持されるべきではない。
(8)混同を生じるおそれ
以上のとおり、使用商標の周知・著名性及び独創性、使用商標と本件商標との類似性、両商標に係る商品の密接な関連性、取引者・需要者の共通性、本件申立商品の汎用性の高さ、及び取引の実情を考慮すれば、本件商標の商標権者(以下「本件商標権者」という。)が本件商標を本件申立商品に使用した場合、それがあたかも、申立人の業務に係る商品であるかのごとく認識され、あるいは申立人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく誤認され、その出所について混同を生じるおそれがあることは明らかである。
すなわち、本件商標を本件申立商品に使用した場合、これに接する取引者・需要者が、あたかも申立人がその周知・著名な商標を使用して提供している商品であるかのごとく混同するおそれがある。
また、本件商標権者と申立人は無関係であるにも関わらず、申立人の子会社、系列会社、資本又は業務提携をしている会社等(経済的又は組織的に申立人と何等かの関係がある者)が申立人の商標と称呼上同一の商標を使用して提供している商品であると誤認するおそれもある。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。

第4 当審の判断
1 引用商標の周知著名性
(1)申立人提出の甲各号証、同人の主張及び職権調査(インターネット情報、新聞記事情報など)によれば、申立人(前身及び「ライカカメラ社」を含む。)は、1849年に設立された「顕微鏡、カメラ、レンズ」などの製造販売を行う法人であり、1914年頃にコンパクトカメラを開発し、1925年頃に引用商標を使用したカメラ(以下「申立人商品」という。)を一般向けに発表したこと(甲3、甲4、甲12の4)、その後、現在まで継続して申立人商品の製造販売を行っていること(甲3〜甲5、職権調査)、東京、大阪、名古屋などに11の申立人商品の直営店を有すること(甲11)及び「Leica(ライカ)」という語は「Leitz(ライツ)」と「Camera(カメラ)」の2語を結合させた造語であること(甲4)が認められる。
また、我が国において、1990年に日本法人「ライカ株式会社」、2005年に同じく「ライカカメラジャパン株式会社」が設立されたこと(甲3の2、甲4の3)及び1900年前半から2005年まで日本代理店が存在していたこと(甲4の3)がうかがえる。
しかしながら、申立人商品の売上高、市場占有率(シェア)など販売実績を示す主張はなく、その証左は見いだせない。
(2)上記(1)のとおり、申立人は1925年頃から現在まで申立人商品の製造販売を行っていること、東京、大阪、名古屋などに11の申立人商品の直営店を有することが認められ、申立人商品は我が国において1900年代前半から現在まで継続して販売されていることがうかがえるものの、申立人商品の販売実績が確認できない。
そうすると、申立人商品に使用される引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人商品を表示するものとして、カメラの需要者の間においては、相当程度知られているといい得るとしても、本件申立商品の需要者の間で広く認識されていると認めることはできない。
2 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標について
本件商標は、上記第1のとおり、「LAIKA」の文字を標準文字で表してなるものであるから、その構成文字に相応して、「ライカ」の称呼を生じるものであり、また、「LAIKA」は、辞書等に載録されている成語とは認められないことから、特定の観念を生じないものである。
(2)11号引用商標について
ア 引用商標1について
引用商標1は、別掲1のとおり、「Leica」の欧文字を横書きにしてなるところ、当該文字は、「(商標)ライカ:ドイツ製のカメラ」(小学館ランダムハウス英和大辞典第2版)を意味する英語であり、「ライカ」と称呼される語であることから、「ライカ」の称呼を生じ、「カメラのブランドとしてのライカ」の観念を生じるものである。
イ 引用商標2について
引用商標2は、別掲2のとおり、「LEICA」の欧文字を横書きにしてなるものであるから、上記アのとおり、「ライカ」の称呼を生じ、「カメラのブランドとしてのライカ」の観念を生じるものである。
ウ 引用商標3について
引用商標3は、別掲3のとおり、黒丸図形内に、筆記体風に書された「Leica」の欧文字からなるところ、引用商標3の構成中の黒丸は、ありふれた図形であり、黒丸から、特定の称呼及び観念を生じるとする特段の事情は存在しないことから、引用商標3は、その構成中の「Leica」の欧文字部分が商品の出所識別標識としての機能を有する部分である認められることから、上記アのとおり、「Leica」の文字から、「ライカ」の称呼を生じ、「カメラのブランドとしてのライカ」の観念を生じるものである。
エ 引用商標4について
引用商標4は、別掲4のとおり、筆記体風に書された「Leica」の欧文字からなるものであるから、「ライカ」の称呼を生じ、「カメラのブランドとしてのライカ」の観念を生じるものである。
(3)本件商標と11号引用商標の類否について
ア 外観について
本件商標「LAIKA」と引用商標1「Leica」とは、語頭の「L」の文字、3文字目の「I(i)」の文字及び語尾の「A(a)」の文字が配されている点において、共通性を有するとしても、2字目の「A」の文字と「e」の文字及び4文字目の「K」の文字と「c」の文字が相違することから、これらを、一体として観察した場合、これらの構成文字の相違が、両者の外観において及ぼす影響は決して小さいものとはいえないことから、本件商標と引用商標1を離隔的に観察しても、外観上、相紛れない。
本件商標「LAIKA」と引用商標2「LEICA」とは、引用商標1と同様に、語頭の「L」の文字、3文字目の「I」の文字及び語尾の「A」の文字が配されている点において、共通性を有するとしても、2字目の「A」の文字と「E」の文字及び4文字目の「K」の文字と「C」の文字が相違することから、これらを、一体として観察した場合、これらの構成文字の相違が、両者の外観において及ぼす影響は決して小さいものとはいえないことから、本件商標と引用商標2を離隔的に観察しても、外観上、相紛れない。
本件商標「LAIKA」と引用商標3とは、黒丸図形の有無という点において外観上明らかに相違し、また、「LAIKA」の欧文字と筆記体風に書された「Leica」の欧文字とは、2字目の「A」の文字と「e」の文字及び4文字目の「K」の文字と「c」の文字が相違することから、これらの差異が、両者の外観において及ぼす影響は決して小さいものとはいえないことから、本件商標と引用商標3を離隔的に観察しても、外観上、相紛れない。
本件商標「LAIKA」と引用商標4の筆記体風に書された「Leica」の欧文字とは、2字目の「A」の文字と「e」の文字及び4文字目の「K」の文字と「c」の文字が相違することから、これらの構成文字の相違が、両者の外観において及ぼす影響は決して小さいものとはいえないことから、本件商標と引用商標4を離隔的に観察しても、外観上、相紛れない。
イ 称呼について
本件商標から生じる「ライカ」の称呼と11号引用商標から生じる「ライカ」の称呼は、同一である。
ウ 観念について
本件商標は、特定の観念を生じないものであり、11号引用商標は、「カメラのブランドとしてのライカ」の観念を生じるものであるから、本件商標と11号引用商標とは、観念において相紛れるおそれはないものである。
エ 本件商標と11号引用商標の類否について
以上からすると、本件商標と11号引用商標とは、「ライカ」の称呼を共通にするとしても、外観及び観念の点において相紛れるおそれのないものであるから、両者の外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標というべきものである。
(4)小括
以上のとおり、本件商標と11号引用商標とは非類似の商標であるから、両商標の指定商品が同一又は類似するとしても、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)引用商標の周知著名性について
上記1のとおり、申立人商品に使用される引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人商品を表示するものとして、カメラの需要者の間においては、相当程度知られているといい得るとしても、本件申立商品の需要者の間で広く認識されていると認めることはできない。
(2)本件商標と引用商標との類似性の程度
上記2のとおり、本件商標と11号引用商標は、非類似の商標であって、別異の商標というべきものである。
また、本件商標と「ライカ」の文字、「LEICA」の文字、「Leica」の文字、筆記体風の「Leica」の文字及び構成中に筆記体風の「Leica」の欧文字を有する使用商標とは、上記2の11号引用商標と同様に、「ライカ」の称呼を共通にするとしても、外観及び観念の点において相紛れるおそれのないものであるから、両者の外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標というべきものである。
したがって、本件商標と引用商標との類似性の程度は、低いものといえる。
(3)引用商標の独創性について
引用商標を構成する「LEICA」の文字及び「Leica」の文字は、「Leitz(ライツ)」と「Camera(カメラ)」の2語を結合させた造語であると認められることから、引用商標の独創性の程度は高いものである。
(4)本件申立商品と引用商標が使用される商品「スマートフォン」との関連性、需要者の共通性について
ア 本件申立商品と11号引用商標の指定商品は、同一又は類似の商品であるから、密接な関連性を有するものであり、需要者の範囲を共通にするものである。
イ 本件申立商品は、「データ処理装置,コンピュータプログラム(記憶されたもの),コンピュータ用プログラム(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの)」であり、使用商標が使用される商品は、「顕微鏡」及び「カメラ」であるところ、これらの商品の需要者、生産者や販売場所等は必ずしも一致するとはいえないことから、密接な関連性を有するとはいえない。
(5)出所の混同のおそれについて
上記(3)のとおり、引用商標の独創性の程度は高いものであり、上記(4)アのとおり、本件申立商品と11号引用商標の指定商品は、同一又は類似の商品であるから、密接な関連性を有するものであるとしても、上記(1)のとおり、申立人商品に使用される引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人商品を表示するものとして、カメラの需要者の間においては、相当程度知られているといい得るとしても、本件申立商品の需要者の間で広く認識されていると認めることはできず、上記(2)のとおり、本件商標と引用商標とは、相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標というべきものであり、類似性の程度は、低いものといえるものであり、上記(4)イのとおり、本件申立商品と使用商標が使用される商品「顕微鏡,カメラ」とは、これらの商品の需要者、生産者や販売場所等は必ずしも一致するとはいえないことから、密接な関連性を有するとはいえないとすると、本件商標は、これに接する取引者、需要者して、引用商標又は申立人を連想又は想起させることのないものと判断するのが相当である。
してみれば、本件商標は、本件商標権者がこれを本件申立商品について使用しても、取引者及び需要者をして引用商標又は申立人を連想又は想起させることはなく、本件申立商品が申立人あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものとはいえない。
4 むすび
以上のとおり、本件商標の指定商品中、本件申立商品についての登録は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に違反してされたものとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲
別掲1(引用商標1)


別掲2(引用商標2)


別掲3(引用商標3、使用商標4)


別掲4(引用商標4、使用商標5)



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異議決定日 2021-10-18 
出願番号 2019083331 
審決分類 T 1 652・ 261- Y (W09)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 小松 里美
特許庁審判官 豊田 純一
小俣 克巳
登録日 2020-06-29 
登録番号 6264161 
権利者 深▲せん▼市莱伊▲か▼科技有限責任公司
商標の称呼 ライカ 
代理人 中山 真理子 
代理人 山頭 めぐみ 
代理人 竹中 陽輔 
代理人 達野 大輔 

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