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審決分類 審判 査定不服 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 取り消して登録 W10
管理番号 1386250 
総通号数
発行国 JP 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-03-01 
確定日 2022-04-18 
事件の表示 商願2020− 70485拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願商標は、登録すべきものとする。
理由 第1 本願商標
本願商標は、別掲1のとおりの構成よりなり、第10類に属する願書記載の商品を指定商品として、令和2年6月8日に登録出願されたものである。
本願は、令和2年8月26日付けで拒絶理由の通知がされ、同年9月4日付け意見書により拒絶理由に対する反論がなされ、本願の指定商品は、同日提出の手続補正書により、第10類「医療用携帯用低圧持続吸引器」に補正されたが、同年11月27日付けで拒絶査定がされたものである。
これに対して、令和3年3月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 原査定の拒絶の理由の要旨
原査定は、「本願商標は、その指定商品との関係よりすれば、その商品に採用し得る一形状を表したものと認識される立体的形状のみからなるものであるから、これをその指定商品について使用しても、単に商品の形状そのものを普通に用いられる方法で表示するものというのが相当であるから、商標法第3条第1項第3号に該当し、提出された証拠を参照するも同条第2項に係る使用による識別性を獲得していると認めることはできない。」旨認定、判断し本願を拒絶したものである。

第3 当審における証拠調べ通知
当審において、本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当するか否かについて、職権に基づく証拠調べをした結果、別掲2に示すとおりの事実を発見したので、同法第56条第1項で準用する特許法第150条第5項の規定に基づき、請求人(出願人)(以下「請求人」という。)に対して、令和3年12月22日付け証拠調べ通知書によって通知し、期間を指定してこれに対する意見を求めた。

第4 証拠調べ通知に対する請求人の意見(要旨)
請求人は、上記第3の証拠調べ通知に対し、令和4年2月3日提出の意見書(以下「意見書2」という。)を提出し、要旨以下のとおりの意見を述べた。
1 証拠調べ通知書において挙げられている事例(以下、「事例1」〜「事例9」という。)はそれぞれ主として、事例1は大きな直方体と細長い同高の直方体ボトルから、事例2はペットボトルと本体部から、事例3及び事例4は円柱状ボトルと本体部から、事例5は大きさの異なる2つの円柱状ボトルと試験管状部から、事例6は円柱状ボトルと蛇腹状のポンプ部から、事例7は直方体ボトルとその上の球状部から、事例8及び事例9は2つの円柱状ボトル(及び本体部操作部)から成るものである。
なお、事例2については、その商品説明に医療用具ではない旨が言及されており、商品名、商品写真、商品説明から推察するに一般家庭において外出時等の臨時用で使用するポンプ自体であり、ペットボトル部は使用者が使用済みペットボトルを利用するものと推察し、本願商標とは需要者や使用目的・方法等を異にするものである。
2 医療用吸引器類に1個ないし2個の立体的ボトルからなる事例1ないし事例9の立体的形状が使用されていることから、本願商標に係る立体的形状も単に商品に採用し得る一形状を表したと認識される立体的形状のみからなるものであって商標法第3条第1項第3号に該当するとの指摘と思われるが、事例1ないし事例9は単に1個ないし2個の立体的ボトル(及び球状部)である一方、本願商標は自立型の背高ボトルと、上部に球体を載せた自立型の背低ボトルとを、左右にバランス良く配した構成からなるもので、証拠調べ通知書においては、「本願商標に類似する立体的形状あるいはこれに類似する立体的形状」と言及されているものの、本願商標に係る立体的形状のように2つの直方体ボトルと球状部からなる本願商標の立体的形状は他に類をみないものであり、事例1ないし事例9のいわゆる医療用吸引器類が備える形状とは大きく異なるものである。
3 本願商標は、単に商品に採用し得る一形状を表したと認識される立体的形状のみからなるものではなく、本質的に識別力を有する商標である。
また、仮に本質的に識別力を有するものではないとしても、請求人の長年にわたる使用により、本願商標に係る立体的形状は請求人の出所を表すものとして識別力を獲得するに至っている。

第5 当審の判断
1 商標法第3条第1項第3号について
(1)立体商標における商品の形状について
商標法は、商標登録を受けようとする商標が、立体的形状(文字、図形、記号若しくは色彩又はこれらの結合との結合を含む。)からなる場合についても、所定の要件を満たす限り、登録を受けることができる旨規定する(商標法第2条第1項、同法第5条第2項参照)。
しかしながら、以下の理由により、立体商標における商品等の形状は、通常、自他商品の識別機能を果たし得ず、商標法第3条第1項第3号に該当するものと解される。
ア 商品の形状は、多くの場合、商品に期待される機能をより効果的に発揮させたり、商品の美感をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって、商品の出所を表示し、自他商品を識別する標識として用いられるものは少ないといえる。このように、商品の製造者、供給者の観点からすれば、商品の形状は、多くの場合、それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの、すなわち、商標としての機能を有するものとして採用するものではないといえる。また、商品の形状を見る需要者の観点からしても、商品の形状は、文字、図形、記号等により平面的に表示される標章とは異なり、商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識し、出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。
そうすると、商品の形状は、多くの場合に、商品の機能又は美感に資することを目的として採用されるものであり、客観的に見て、そのような目的のために採用されたと認められる形状は、特段の事情のない限り、商品の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法第3条第1項第3号に該当すると解するのが相当である。
イ また、商品の具体的形状は、商品の機能又は美感に資することを目的として採用されるが、一方で、当該商品の用途、性質等に基づく制約の下で、通常は、ある程度の選択の幅があるといえる。しかし、同種の商品について、機能又は美感上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば、当該形状が特徴を有していたとしても、商品の機能又は美感に資することを目的とする形状として、商標法第3条第1項第3号に該当するものというべきである。その理由は、商品の機能又は美感に資することを目的とする形状は、同種の商品に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから、先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは、公益上の観点から必ずしも適切でないことにある。
ウ さらに、商品に、需要者において予測し得ないような斬新な形状が用いられた場合であっても、当該形状が専ら商品の機能向上の観点から選択されたものであるときには、商標法第4条第1項第18号の趣旨を勘案すれば、商標法第3条第1項第3号に該当するというべきである。その理由として、商品が同種の商品に見られない独特の形状を有する場合に、商品の機能の観点からは発明ないし考案として、商品の美感の観点からは意匠として、それぞれ特許法・実用新案法ないし意匠法の定める要件を備えれば、その限りにおいて独占権が付与されることがあり得るが、これらの法の保護の対象になり得る形状について、商標権によって保護を与えることは、商標権は存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有することができる点を踏まえると、特許法、意匠法等による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり、自由競争の不当な制限に当たり公益に反することが挙げられる。
以上、知財高裁平成18年(行ケ)第10555号同19年6月27日判決、平成19年(行ケ)第10215号同20年5月29日判決及び平成22年(行ケ)第10253号同23年6月29日判決参照のこと。
(2)本願商標の商標法第3条第1項第3号該当性について
本願商標は、別掲1のとおり、左側に上部に青色及び黄色の構成部材及びチューブを付けた青色の目盛を有する白色の直方体状の容器(以下「白色容器」という。)とその右側に上部に青色のゴム球及び下部にボルトが付いた透明の丸みを帯びた立法体状の容器よりなるところ、本願商標は、その指定商品である「医療用携帯用低圧持続吸引器」(以下「本件商品」という場合がある。)が取引される際の形状を表したものと認められる。
また、証拠調べで通知した別掲2のとおり、本願商標の立体的形状と同一とはいえないものの、本願商標の立体的形状に類似する立体的形状が、請求人以外の者(社)が取扱う「体内に留置したドレナージチューブを介し、容器に一定の陰圧を加えることで創部からの体液をスムーズに排出する機能を有する医療用吸引器」に使用されている事例があることが認められる。
そうすると、本願商標の立体的形状は、本件商品を含む医療用吸引器について、その機能に資することを目的として採用されたものと認められ、また、本件商品の立体的形状として、取引者、需要者において、機能に資することを目的とする形状と予測し得る範囲のものであるから、それを超えて、上記形状の特徴をもって、商品の出所を識別する標識として認識させるものとはいえない。
してみれば、本願商標は、これをその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、「医療用携帯用低圧持続吸引器」の立体的形状を表したものと認識するにとどまり、単に商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものと判断するのが相当である。
したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。
2 本願商標の使用による自他商品の識別性について
請求人は、原審における令和2年8月26日受付の上申書、審判請求書、当審における同3年5月6日受付の上申書、同年9月30日受付の上申書及び同年12月1日受付の上申書において、「本願商標の使用の実績等によれば、本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当するものであったとしても、かかる使用の事実を勘案すれば同条第2項の要件を充足するものである。」旨主張し、その証拠として、原審において資料1ないし資料28を、当審において、第1号証ないし第53号証(枝番号を含む。)を提出した(以下、資料1ないし第53号証をそれぞれ、甲第1号証から順に甲第81号証まで読み替え、これらを省略して表示する場合は「甲○」のように表示する。)を提出している。
なお、本願商標が商標法第3条第2項の要件を具備しているか否かの判断をするに当たり、本願商標が、同条第1項第3号に該当するものであることは、上記1(2)のとおりである。
そこで、請求人の主張及び同人が提出した証拠を参照し、以下、本願商標の使用による自他商品の識別性(本願商標の商標法第3条第2項の要件の具備)について検討する。
(1)商標法第3条第2項について
商標法第3条第2項が、同条第1項第3号等所定の商標であっても、使用をされた結果、需要者が何人かの業務に係る商品(役務)であることを認識することができるものについては、商標登録を受けることができるとする趣旨は、特定人が、当該商標を、その者の業務に係る商品(役務)の自他識別標識として、永年の間、他人に使用されることなく、独占的排他的に継続使用した実績を有する場合には、当該商品(役務)に係る取引界においては、事実上、当該商標の当該特定人による独占的使用が事実上容認されているといえるので、他の事業者にその使用の機会を開放しておく公益上の要請が乏しくなるとともに、当該商標が、自他商品(役務)識別力を獲得したことにより、商標としての機能を備えるに至ったことによるものと解される(平成19年4月10日判決言渡、平成18年(行ケ)10450号 知的財産高等裁判第4部判決参照)。
そこで、本願商標が商標法第3条第2項の要件を具備するかについて、前記判決に照らし、以下、判断する。
(2)請求人の主張及び同人が提出した証拠について
ア 請求人について
請求人の前身である日本ベークライト株式会社(以下「日本ベークライト社」という。)は1932年に設立され、その後1995年に住友化工材工業株式会社を合併し請求人企業が発足した。
日本ベークライト社は日本で初めてプラスチックの製造を行った会社でもあり、「プラスチックのパイオニア」として知られており、併せて医療機器製品にも力を入れている。
イ 本願商標の使用態様と文字要素等との関係について
本願商標は、甲第62号証に示す態様にて、長年にわたって継続的に使用している。
なお、実際の販売に係る商品は、立体的形状に文字等要素が含まれているが、これら要素を除いた立体的形状(本願商標)のみで十分に自他商品等識別機能を発揮するものであり、文字等要素の有無のみをもって本願商標が使用されていないとみるのは妥当ではない。
ウ 本願商標の使用時期と商品形態の普遍性について
本件商品は、1984年から現在に至るまで、商品の形態を変えることなく、37年もの長きにわたって請求人によって継続的、独占的に使用され、30年以上販売され続けた商品である。
請求人は、本件商品の発売当初の商品形状を示すべく、承認年月日が1954年7月9日で、厚生大臣あての医療用具製造承認申請書(以下「承認申請書」という。)及び同年12月7日付けで、厚生大臣より医療用具製造承認事項一部変更承認書(以下「承認書」という。)を提出する(甲36)。
上記承認申請書及び承認書に記載のとおり、本件商品は医療用具として、1984年7月9日付にて承認がされている。
また、甲第51号証や甲第52号証はそれぞれ1986年(初版は1984年)、1988年に発行された看護に関する書籍であるが、当該書籍に掲載されている本件商品の形態は本願商標と同じであることがみて取れる。
請求人の医療機器総合カタログを見ても、本件商品は、発行当初の2002年から最新の発行(2020年)に至るまで、文字等の付記的要素を除く商品形態について、何ら変わることなく使用され続けていることがみて取れる(甲37〜甲39)。
なお、本件商品は、医療用具である以上、使用前と使用中ではその形態に若干の差異が生じ、また、本件商品(本願商標)の形態の主な特徴は2つの自立型透明ボトルとゴム球体という3つの要素が組み合わさっている点にあることからしても、かかる若干の差異のみをもって本願商標に係る立体的形状の識別性が否定されるべきではない。
エ 本願商標の使用地域について
本願商標の使用に係る本件商品は、全国の医療現場に対して販売されている。本件商品が全国各地に広く販売されていることの一例として、全国各地を対象とする医療機器カタログである松吉医科器械株式会社の「松吉医療総合カタログ」と、同じく全国各地を対象とする医療機器カタログであるアズワン株式会社の「Navis」を提出する(甲42、甲43)。
また、日本各地へ販売を行っている大手通信販売会社の通販サイトASKULにおいても本件商品は取り扱われている(甲44)。
このように、本願商標は一地域にとどまらず全国各地で使用され、その結果、業界首位の市場シェア30%を獲得するに至っている(甲45)。
オ 本件商品の販売額、使用数量及びシェアについて
(ア)甲第45号証及び甲第46号証に示すとおり、2006年から2016年までの医療用携帯低圧持続吸引器の国内市場における請求人の数量ベースのシェアは30%から40%程度であり、請求人の形態低圧持続吸引器のうち80%ないし90%が本件商品であるので、本件商品はその市場の30%程度を占め業界首位となっている。
また、甲第47号証に示すとおり、少なくとも2019年時点まで同程度のシェアを維持している。
(イ)上記(ア)のとおり、請求人の販売する医療用携帯低圧持続吸引器のうち本件商品の比率は80%ないし90%程度であり、これを基に、販売数量及び売上額をみると、2005年度に約16万個、約8億円の売上、2009年度には18万7,000個、9億3,600万円の売上、2014年度以降は24万個、11億2,000万円以上の売上となっている(甲27、甲28、甲46〜甲48)。
医療用携帯低圧持続吸引器を取り扱う各社各製品の売上個数の総数が79万4,000個、金額にして43億6,000万円程度であることからしても、少なくとも15年もの長きにわたって年間16万個、8億円以上の売り上げを維持し、1993年度ないし2019年度までの27年間で累計405万8,000個、金額にして223億9,000万円の売上となっていることからすれば、本願商標を使用した本件商品が数量的、金額的にも、またシェア率の上でも相当なものであることがわかる。
カ 広告宣伝について
(ア)本件商品は、手術後に使用されるものであり、取引者としては医療機器の販売代理店、需要者としては実際にそれを使用する医療従事者であるところ、請求人は、販売開始当時から、需要者たる医療従事者が勤める多くの病院において本件商品のイラスト等を用いた説明商品を配布し、その機能、特徴や使用方法を説明するための説明会を積極的に開催した。
(イ)遅くとも1998年から、請求人は、医療機器の展示会等に本件商品を展示し、取引者や需要者に対して実際に本件商品を手にとってもらえる機会を設けてきた。
(ウ)本件商品が掲載されている医療機器の総合カタログについては、遅くとも2002年頃から定期的に更新しつつ取引者や需要者に数多く頒布するなど、本願商標に係る本件商品について、広く販売促進活動を行い、その周知と浸透に努めてきた(甲37、甲45)。
上記総合カタログについては、年間10,000部ないし15,000部を作成、頒布している。請求人の総合カタログ及び単品カタログの作成部数を示す資料として請求人従業員の陳述書を提出する(甲71)。
(エ)請求人は、総合カタログの他に、本件商品に係る単品カタログ(甲34、甲49)もそれぞれ3,000部ないし5,000部程度を作成、頒布している。近年はカタログを印刷、頒布することに加えてカタログ自体を請求人のウェブサイトにおいても公開したり、商品の説明を充実させたりすることに力をいれている。
2020年には、本件商品の紹介ページについて、単品カタログの発行部数を上回る約1万2千回の訪問が認められ、かかる閲覧数からすれば、実際にカタログを頒布する以上にウェブサイト上での宣伝広告も十分な宣伝効果があることや、業界における本件商品の注目度が極めて高いことがみて取れる。
本件商品のウェブサイト上の紹介ページのアクセス数を示す資料として請求人従業員の陳述書を提出する(甲71)。
(オ)医療従事者に対する説明会においては、全国各地において、本件商品を使用する医療従事者に対し、本件商品を実際に見せて手にとってもらいながら使用方法を説明している。
本件商品は手術後に使用されるものであり、その需要者は医療従事者であることから、本件商品を使用する可能性の高い外科医や手術室看護師(オペナース)を中心に20名ないし30名(病院の規模に場合によってはそれ以上)を対象とする説明会を繰り返し実施し、その周知に努めてきた。
このような説明会は、本件商品の発売当初から行われているところ、2017年4月から2020年12月までの3年9ヶ月の間に214施設、393件行われている。
請求人が実施した病院説明会の概要を示す資料として、請求人従業員の陳述書を提出する(甲72)。
(カ)本件商品は腫瘍組織の摘出などの外科手術後に用いられるものであり、個人病院を含めた全ての医療機関にて使用が想定されるものではない。
腫瘍摘出手術等を行い得る規模の病院の多くはがん診療の拠点病院としての指定を受けているところ、かかるがん診療の連携拠点病院は全国に447施設ある(甲50)。
請求人がここ数年という短い期間においてすら214の施設で393件もの説明会を実施しているというのは、需要者が勤務する医療施設の数を鑑みれば、需要者に対する周知活動として相当程度の効果を上げていることが看て取れる。
(キ)当該手術従事者向けの説明会は、対象者を絞ったコンパクトなものであるため、広いセミナー会場で単にスライド等を映し出して説明するような形式的な説明会と異なり、実際に商品を手にとってもらいながら実際の使用方法を紹介・説明するため、本件商品の特異な形状が、需要者たる医療従事者の印象に残りやすくなっている。
(ク)本件商品は、その特徴的な形態と共に、外科的なドレナージ術を行う医療従事者が教科書として使用するような重要な文献をはじめとし、数多くの書籍や雑誌等に掲載されている(甲51〜甲67)。
これら書籍等はその使用方法等を学ぶために用いられるのであって、その際に重要となるのはボトルに記載された商品名や企業名などではなく、その医療機器をどのように使うのかという点であり、また、写真やイラストと共に本件商品の説明がされていることから、これに接する者をして、その形状を自然と認識せしめるものである。
さらに、同形状が、同種商品が通常有しない特異な形状であることや、繰り返し複数の書籍でその形状が紹介されていることから、かかる「2つの自立型ボトルと球体が組み合わさった特異な形状」が請求人の販売に係る商品であることを示す商標として、看者の記憶に残りやすいものである。
キ 請求人以外の者による本願商標と同一又は類似する標章の使用の有無
「医療用携帯用低圧持続吸引器」には種々の形状を備えたものが存在するが、その大半は袋状や楕円形ボトル状であり、そもそも本願商標のように、自立する縦長ボトルから構成される形状が存在しない上に、当該縦長ボトルが2つも並んでいるという極めてユニークな形状を有してなる商品は、本願商標に係る商品以外、存在しなかった(甲29、甲30)。
そのような中で、2018年、本願商標の形態に類似する形態を備えた模倣品が販売された。当該商品の流通を放置すると、本願商標が有する自他商品識別力希釈化し、本願商標に化体されてきた請求人の信用が毀損されるおそれがあったため、請求人は不正競争防止法に基づく使用の差止を求める訴訟を速やかに提起し、当該請求は認容されるに至っている(甲32)。
そのため、請求人が本願商標の使用を開始した1984年から現在に至るまで、差止対象となった模倣品以外に、本願商標に同一又は類似する標章が他者によって使用された事実は確認できない。
ク 需要者の認識(アンケート結果)
本願商標に係る形態が請求人を出所とする識別標識として需要者に認識され機能している点については、アンケート調査の結果から看て取ることができる(甲68、甲69)。
当該アンケートは需要者である医療従事者及び取引者である医療機器の販売代理店に対して行ったアンケートであり、68人中54人(約80%)が2ボトル形態の医療機器を見て請求人を想起するとの回答をしている。
また、医療機器においては形状が商品を識別する上で重要な判断材料の一つとなっていることを示すものとして、同アンケートでは38人中32人(約84%)が製品の形状や操作方法が商品採用(購買)の動機付けとなると回答している。
これらより、本件商品の形態には文字要素等が含まれているものの、医療機器においては商品形状そのものが購買のトリガー(動機)の一つとなっていることや、文字要素を伏せてデフォルメしたイラストのみをもって請求人を想起する需要者等が大半であることから、本願商標を構成する形態そのものが十分な出所表示機能を発揮していることがわかる。
ケ 本願商標に関連する侵害訴訟について
請求人は2018年に需要者の間に広く認識されている本件商品の形態(本願商標に係る立体的形状)と類似する形態の医療機器を製造販売する者に対し、不正競争防止法第2条第1項第1号に基づく差止請求訴訟を提起し、2019年、本件商品形態の商品等表示性及び周知性を認める旨の判決を得た(甲32)。
当該判決において、本願商標の商品等表示性(識別力)に関しては、「排液ボトル及び吸引ボトルの2つの透明ボトルで構成され、直方体の排液ボトル、丸みを帯びた略立方体の吸引ボトル及びその上部に取り付けられた球体のゴム球という形状の異なる3つのパーツをまとまりよく一体化している点に特徴があり」、「他の同種の商品には認められない形態であったことが認められる」として、「他の同種の商品と識別し得る独自の特徴を有していたものと認められる」と判断されている。
また、周知性についても、34年間(不競法事件当時)にわたる継続的・独占的な使用、平成18年(2006年)から平成28年(2016年)までにおける業界首位である30%程度の市場シェア、カタログ頒布、展示会での展示、医療機関に対する説明会や個別の説明の実施、多数の医療従事者向け書籍等への本件商品の特徴等及び商品写真の掲載、医療機器の取引のプロセス及び臨床現場における原告商品の実際の使用を通じた本件商品を目にし、記憶にとどめる機会などが考慮され、「少なくとも被告商品が販売された平成30年1月頃の時点には、需要者である医療従事者の間において、特定の営業主体の商品であることの出所を示す出所識別機能を獲得するとともに、原告の出所を表示するものとして広く認識されていたものと認められる」と判断された。
コ まとめ
請求人は、本願商標の態様を変えることなく長年にわたって継続的、独占的に本願商標を本件商品に使用してきたことや、相当程度の周知・宣伝活動が行われてきたこと、長年にわたってトップシェアを維持していること、アンケートに現れている需要者等の認識、請求人による模倣品排除の努力、本件関連訴訟における知的財産高等裁判所の認定などを総合的に判断すれば、本願商標はその指定商品を取り扱う市場において十分に商品の出所識別機能を発揮しているとみるべきである。
(3)商標法第3条第2項の適用性について
上記(2)からすると、請求人は、1932年に設立された日本ベークライト社を前身とする医療機器の製造メーカーであり、本願商標を本件商品の立体的形状として、1984年から継続的に使用され、1988年に発行された書籍や請求人の医療機器総合カタログにおいて、本願商標の立体的形状の本件商品が掲載されていること、本願商標の使用地域は、全国の医療現場に広く販売されており、大手通信販売会社の通販サイトASKULにおいても本件商品は取り扱われていること、本件商品の販売数量及び売上額が、2005年度に約16万個、約8億円の売上、2009年度には18万7,000個、9億3,600万円の売上、2014年度以降は24万個、11億2,000万円以上の売上となっており、市場シェアも30%以上であり、業界首位となっていること、本件商品の機能、特徴や使用方法を説明するための説明会を開催し、1998年から、医療機器の展示会等に出展し、取引者や需要者に商品の説明等を行う機会を設けてきたこと、医療機器の総合カタログを、遅くとも2002年頃から定期的に更新し、取引者や需要者に数多く頒布していること、請求人のウェブサイトにおいて、カタログを公開し、商品の説明を広く行っていること、需要者へのアンケート調査の結果、80%の者が本件商標の立体的形状の医療機器を請求人の取扱いに係る商品であると回答していることが確認できる。
そして、本願商標に関連する侵害訴訟である「知財高裁 平成31年(ネ)第10002号 不正競争行為差止請求控訴事件」において、「原告商品の形態は、少なくとも被告商品の販売が開始された平成30年1月頃の時点には、控訴人の商品等表示として周知であったことが認められる。そして同時点以降も控訴人による原告商品の販売が継続的に行われているものと認められるから、本件口頭弁論終結時(令和元年7月16日)においてもなお、原告商品の形態は控訴人の周知の商品等表示としての出所識別機能を有しているものと認めるのが相当である。」と判示されており、本件商品に使用する本願商標の立体的形状が請求人の取り扱う商品を表示するものとして、需要者の間に広く知られていると判断していることが確認できる。
上記に挙げた点に照らせば、遅くとも審決時までには、本件商品に使用する本願商標の立体的形状は、本件商品の取引者及び需要者において、他社製品と区別する標識として認識されるに至ったものと認められるものであるから、本願商標に係る立体的形状は自他商品の識別力を獲得しているものである。
そうすると、本願商標は、その指定商品について、請求人により継続的に使用された結果、その立体的形状自体によって、取引者及び需要者が、請求人の業務に係る商品を表示する商標として認識されるに至ったものとみるのが相当である。
したがって、本願商標は、商標法第3条第2項の要件を具備するものというべきである。
3 結論
以上によれば、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当するものの、同条第2項の要件を具備するものであり、商標登録を受けることができるものであるから、原査定は取消しを免れない。
その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
別掲1(本願商標)(色彩については、原本を参照されたい。)
第1/4図


第2/4図


第3/4図


第4/4図



別掲2 本願商標の立体的形状あるいはこれに類似する立体的形状が、請求人以外の者(社)が取扱う「体内に留置したドレナージチューブを介し、容器に一定の陰圧を加えることで創部からの体液をスムーズに排出する機能を有する医療用吸引器」に使用されている事例

1 「泉工医科工業株式会社」のウェブサイトにおける「製品情報」のタイトルの下、「低圧持続吸引器」の項目の「メラアクアコンフォート」の記載の下に(1)のとおりの画像が掲載されている。
(https://www.mera.co.jp/medical/product-info/604/#)

2 「amazon.co.jp」のウェブサイトにおける「ブランド:シースター」の記載及び「乾電池式 携帯型低圧持続吸引ポンプ」の記載の左側に(2)のとおりの画像が掲載されている。
(https://www.amazon.co.jp/%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC-30002-%E4%B9%BE%E9%9B%BB%E6%B1%A0%E5%BC%8F-%E6%90%BA%E5%B8%AF%E5%9E%8B%E4%BD%8E%E5%9C%A7%E6%8C%81%E7%B6%9A%E5%90%B8%E5%BC%95%E3%83%9D%E3%83%B3%E3%83%97/dp/B06XSCMYP7/ref=sr_1_5?keywords=%E4%BD%8E%E5%9C%A7%E6%8C%81%E7%B6%9A%E5%90%B8%E5%BC%95%E5%99%A8&qid=1639013895&sr=8-5)

3 「新鋭工業株式会社」のウェブサイトにおける「新鋭工業の吸引器」のタイトルの下、「標準タイプ ミニック S−II」の記載の下に(3)のとおりの画像が掲載されている。
(https://www.shinei.me/suction/suction_mini.html#s)

4 「AXEL」のウェブサイトにおける「小池メディカル」の記載の下、「壁掛式吸引器 S−401ヨックス」の記載の下に(4)のとおりの画像が掲載されている。
(https://axel.as-1.co.jp/asone/g/NC7-5114-01/)

5 「松吉医科器械株式会社」のウェブサイトにおける「小型吸引器パワースマイル KS−700(ピンク)」の記載の左側に(5)のとおりの画像が掲載されている。
(https://www.matsuyoshi-online.jp/category/1500_03_04_20/20321001.html)

6 「AXEL」のウェブサイトにおける「ブルークロス」の記載の下、「0−291−01 足踏式吸引器(成人用) FP−300」の記載の下に(6)のとおりの画像が掲載されている。
(https://axel.as-1.co.jp/asone/d/0-291-01/?q=%E5%90%B8%E5%BC%95%E5%99%A8&cfrom=ND0070200)

7 「メディカルオンライン」のウェブサイトにおける「ポータブル低圧持続吸引器 デイボール リリアバック(本体+コネクター)」のタイトルの下、「製造販売企業:株式会社メディコン|製造企業:C,R,バード社(アメリカ)」の記載の下に(7)のとおりの画像が掲載されている。
(https://dev.medicalonline.jp/index/product/eid/16572)

8 「Medical EXPO」のウェブサイトにおける「手術関連>手術器具>電動医療用吸引器>GIMA」のタイトルの下、「電動医療用吸引器 28192」の記載、及び「販売者:GIMA」の記載の左側に(8)のとおりの画像が掲載されている。
(https://www.medicalexpo.com/ja/prod/gima/product-68597-1005909.html)

9 「Medical EXPO」のウェブサイトにおける「製品>空気圧医療用吸引器>TECNO−GAZ」のタイトルの下、「空気圧医療用吸引器 Kyri DSS」の記載、及び「販売者:TECNO−GAZ」の記載の左側に(9)のとおりの画像が掲載されている。
(https://www.medicalexpo.com/ja/prod/tecno-gaz/product-70281-846968.html)

(1)商品画像(色彩は、原本を参照されたい。)


(2)商品画像(色彩は、原本を参照されたい。)


(3)商品画像(色彩は、原本を参照されたい。)


(4)商品画像(色彩は、原本を参照されたい。)


(5)商品画像(色彩は、原本を参照されたい。)


(6)商品画像(色彩は、原本を参照されたい。)


(7)商品画像(色彩は、原本を参照されたい。)


(8)商品画像(色彩は、原本を参照されたい。)


(9)商品画像(色彩は、原本を参照されたい。)




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審決日 2022-03-31 
出願番号 2020070485 
審決分類 T 1 8・ 13- WY (W10)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 榎本 政実
特許庁審判官 豊田 純一
小俣 克巳
代理人 徳永 弥生 
代理人 清水 三沙 
代理人 服部 京子 
代理人 齊藤 整 

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