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審決分類 |
審判 全部申立て 登録を維持 W18 |
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管理番号 | 1381161 |
総通号数 | 1 |
発行国 | JP |
公報種別 | 商標決定公報 |
発行日 | 2022-01-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-04-09 |
確定日 | 2021-12-09 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 登録第6342645号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 登録第6342645号商標の商標登録を維持する。 |
理由 |
1 本件商標 本件登録第6342645号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1に示すとおり、「S.mano」の文字を書してなり、令和2年7月22日に登録出願、第18類「かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,ステッキ,つえ」を指定商品として、同年12月16日に登録査定、同3年1月20日に設定登録されたものである。 2 登録異議申立人が引用する商標 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が登録異議の申立ての理由において引用する登録第4793974号商標(以下「引用商標」という。)は、別掲2のとおりの構成よりなり、平成15年12月10日に登録出願、第18類「かばん類,カード入れ,買物袋(車付きのものを含む。),キーケース,財布(貴金属製のものを除く。),信玄袋,パス入れ,名刺入れ」を指定商品として、同16年8月13日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。 3 登録異議の申立ての理由 申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同項第15号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきであると申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第51号証(なお、表記にあたっては、「甲○」(「○」部分は数字)のように省略して記載する。)を提出した。 (1) 商標法第4条第1項第15号について ア 両商標・ブランド、経緯等について (ア)引用商標を用いたブランド 引用商標は、イタリアにて1974年に創業されたガスプコム社(以下「引用商標権者」という。)のファクトリーブランドの名称である(甲3、甲4)。2004年春夏より当該ブランドがスタートし、イタリアンレザーやこだわりの生地を用いて熟練の職人が手縫いで仕上げる高品質のバッグを提供し続けている(甲3、甲4)。アドリア海に面した街で作られるバッグは、作り手のアイデンティティがにじみ出るものであり、2009年にはイタリア製造メーカー擁護機関協会という公的な機関にも認められ(甲5)、2011年にはHANDCRAFT AWARDを受賞し(甲6)、世界中で高い評価を受けている。 その名称は、創業者の次男であるステファノがクリエイティブデザイナーとして引用商標に係るブランド「STEFANOMANO」(以下「引用ブランド」という。)に参画していることから、デザイナー名「STEFANO」と、イタリア語で「手」を意味する「MANO」を組み合わせて名付けられた、デザイナーの名称と手縫いにこだわるブランドの方向性が噛み合った造語となっている。なお、「MANO」に関しては、本件商標の権利者が運営する引用ブランドの公式HP上では「手仕事」を意味して名付けられた旨が記載されている(甲3)。 引用ブランドは、本国イタリアは当然のことながら、アジア圏を中心に展開しており、中でも日本は特に市場からの評価が高く、引用商標権者にとっても重要な市場となっている。引用ブランドは、PUBS丸の内OAZO、新潟伊勢丹、東武池袋店、三越名古屋高島屋、近鉄あべの本店など日本各地の著名百貨店にも複数店舗を構え展開しており(甲7)、著名百貨店のメンズブランドのフロアに立ち寄ったことのある者であれば、誰しも目にすることがあるといえる。また、複数の著名百貨店の公式オンラインストアでも、ブランドページが用意され取扱いがなされている(甲8、甲9)。 引用ブランドは、多数の雑誌に挙げられているが、特に、2014年に「MEN’S EXll月号」、2015年「Begin5月号」、2016年「Begin3月号」、2017年「MEN’S EX6月号」等、複数回ファッション雑誌に取り上げられている(甲10〜甲28)。 (イ)本件商標の権利者と引用商標権者との関係 引用ブランドの日本展開について、その輸入代理店となっているのが、本件商標権者の株式会社ディンプルである(以下「本件商標権者」という。甲29)。本件商標権者と引用商標権者の取引関係は20年以上に及び、2007年には正式に輸入代理店としての契約を締結しており(甲30)、自社HPでも引用ブランドの情報を掲載している(甲31)。 (ウ)本件商標を用いたブランドの開始 その後、10年以上にわたり契約を更新し続けていたものの、今年2021年3月31日に突然本件商標権者は契約を終了する旨を引用商標権者に対して通知し(甲32)、同日の夜中23時に、本件商標を冠した新ブランド(以下「本件新ブランド」という。)の展開をスタートさせた(甲33、甲34)。 (エ)本件新ブランドの利用・態様、本件商標等 本件新ブランドの展開後も、本件商標権者のHP上では引用ブランドを本件新ブランドと併記しており、本件商標権者のオンラインショップを見ても、並びは必ず上下に配されている(甲35〜甲37)。本件新ブランドの説明によれば、イタリア産又はイタリアに関係のあるブランドであるかのように謳っており、かつ、商品はバッグのみであってその価格帯も引用ブランドとほぼ同価格帯(5〜10万円程度)に設定されている(甲38〜甲40)。 また、本件新ブランドのHPによると、「S.MANO」の名称の由来はイタリア語で「特別な手仕事」を意味する「Speciale Mano」の略語であるとの説明がなされている(甲33)。しかしながら、インターネットでは、イタリア語の「Mano」を「手仕事」として日本語に翻訳しているものはない(甲41、甲42)。 そのため、「Mano」をイタリア語で「手仕事」と説明することは一般的とはいえず、この意味で「Mano」を使用している例が少なくとも本件商標権者が取り扱う本件商標と引用商標の2件のブランド内で重複していることは、本件商標権者が引用商標のブランド名を意識したものと考えられる。 さらに、ファッションブランドにおいては、デザイナーの名称がブランド名称として使用されることは一般的である。そして、デザイナーの名称がイニシャルで省略されることも一般的に行われていることであり、ブランドによっては省略名称がブランドイメージとして定着し、商品化までされているものも存在する(例えば、Luis VuittonのLV、Christian DiorのCD、Dolce & GabbanaのD&Gなど)。引用商標についても、前半部「Stefano」がブランドコンセプトで人名であると説明されていることも相まって、ファッションブランドの上述の慣習上、これが「S」とイニシャルで略されたとしても、これに接する需要者等には何ら違和感や疑念は生じないのである。 イ 出所の混同(混同を生じるおそれの有無)について (ア)当該商標と他人の表示との類似性の程度 デザイナーの名前はイニシャルに省略され易いというファッションブランドの名称に関する慣習が存在している。さらにいえば、本件商標の前半部は「S.」との表記になっているが、「.」はCo.Ltd.やEx.などで良く見られるように、省略を表す記号である。引用商標の周知性や本件商標権者が20年近くにわたり引用商標の輸入代理店を務めていることからすれば、これに接した需要者及び取引関係者が「S.」は「Stefano」の略語であると容易に認識するものであることは想像に難くない。さらに、本件新ブランドと引用商標に係るブランドは上述のとおり必ず上下に並列されていることも、「S.」は「Stefano」の略語であるとの認識を強めるものである。 また、「mano」というイタリア語を用いていることから「手」やHP上に説明されている「手仕事」という意味も類似している。 したがって、本件商標から引用ブランドを想起し得るほどに類似しているということができるから、本件商標と引用商標はその類似性の程度は高いものである。 (イ)他人の表示の周知著名性、創作性の程度及び標章の性質 引用商標を用いたブランドは長年にわたって日本で展開されており、各地の著名百貨店にて売り場を構え販売を行っている。主要都市を含む各百貨店での営業をこれほどの規模で続けることは、相当な売上・人気がなければ不可能であることは想像に難くない。昨年の日本への総輸入額は約14万ユーロほど(2021年5月時点のレートで換算すれば約1,840万円程度)であり、これは卸売価格となるため実際の売上は販売価格から2倍前後と考えられる。また、昨年は新型コロナ禍にあり経済的にも混乱が生じていたことから、2019年の輸入額を参考にすると、約40万ユーロほど(2021年5月時点で約5,260万円)と、至極好調であったことがうかがえる(甲43、甲44)。 創作性の程度については、上述のとおりデザイナーの名称である「STEFANO」とイタリア語で「手」を意味する「mano」を組み合わせた造語であり、また「MANO」は「手仕事」を意味するものとしてHP上で説明がなされている。「STEFANOMANO」は「ステファノ氏の手(手仕事)」という程の意味合いを有しており、ブランドのデザイナー名とコンセプトが合致した、当該ブランドのための名称であり、創作性の程度は高い。 さらに、引用商標は、引用商標権者の主力ブランドの名称で同社を代表するものであるから、出所識別力の発揮はハウスマークと同視し得るものである。 (ウ)当該商標の指定商品等と他人の業務に係る指定商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度 本件商標の指定商品と引用商標の指定商品は、ともに「かばん類」に係る商品である。そうすると、本件商標に係る指定商品と、引用商標権者の引用商標に係る商品(以下「申立人商品」という。)との関連性の程度は極めて高い。 (エ)商品等の取引者及び需要者の共通性その他の取引の実情 a 需要者が一致していること。 引用商標は、かばん、特に紳士用のハンドバッグをメインとするイタリアのブランドの名称として使用されている(甲3、甲4)。主として20〜40代のビジネスマンを対象としているが、ビジネス以外の場面でも落ち着いた雰囲気の服装に用いられるものである。一方、本件商標は、ややカジュアルな服装も想定しているものの落ち着いた雰囲気を想定していることに変わりはなく、紳士用のハンドバッグをメインとしたブランドの名称である。また、「イタリアに根付く上質なクラフツマンシップを感じられる製法」、イタリア語に由来する「MANO」、イタリアの素材などイタリアに関係を有することがブランドの説明より示唆されている(甲33)。 価格帯についてみると、引用ブランドの取扱商品の価格帯はおよそ5万円から10万円台であり、中間にあたる7万から8万円の商品も数多く取り扱っている(甲38〜甲40)。本件新ブランドに関しては7万円前後の値段設定がなされており、価格帯は両者ともほぼ同じである。 かばんのデザインのテイストも大きく異なるものではなく、ビジネステイストで共通している。 したがって、本件新ブランドも引用ブランドも、いずれも対象とする需要者は「素材や質を重視しつつも良心的な値段に設定されていてコストパフォーマンスの良いかばんを求める、フォーマルな服装のように落ち着いた雰囲気を好む紳士」であることが想定されており、需要者は一致している。 b 取引先が一致していること。 本件商標権者は20年以上にわたって引用商標権者と取引関係を有し、引用ブランドについて20年近く日本での輸入代理を行っており、現在においてもその状態が継続されている。なお、契約では、契約の更新を行わない旨の通知は、契約の期限である2021年5月31日から3か月より前に契約の相手方に対して行わなければならないとする条項(第10条1項)が存在していたが(甲45)、それを無視して、3か月以内である同年3月31日に本件商標権者より一方的に契約終了の旨が通知されたため(甲32)、契約の有効性については保留となっている。 本件新ブランドは、引用商標に関するブランドと需要者が完全に一致しているところ、かばん等の商品を販売する者であれば既に実績のある取引先に対して新しいかばんの商談をもちかけるのが通常であるから、本件商標権者は、引用ブランドを代理するに当たって得た取引先を、本件新ブランドに対する取引先として選ぶものである。 現に、三越伊勢丹が運営するオンラインショッピングページには、引用ブランドの取扱いがあるほか、本件新ブランドの取扱いも行われている(甲46、甲47)。また「素材や質を重視しつつも良心的な値段に設定されていてコストパフォーマンスの良いかばんを求める、フォーマルな服装のように落ち着いた大人の雰囲気を好む紳士」という需要者が完全に一致しているということは、そのような需要者が好む商品を取りそろえているのが通常であるから、取り扱う業界も同一であり、どのような販路を選んだとしても小売店はある程度被らざるを得ないものである。 よって、取引先についても一致している。 c 取引先・需要者の認識 本件商標権者は20年近くも引用ブランドの輸入代理を行っており、取引関係者には本件商標権者が引用ブランドの代理店であることは、既に周知となっている。主要取引先は大規模に展開する有名どころばかりであるところ(甲7)、少なくともこれらの取引先に対しては、本件商標権者が引用ブランド窓口として知られていたことは明らかである(甲48)。そのため、本件商標権者が本件新ブランドを取引先に提案すれば、当該取引先は「引用商標権者(ガスプコム社)又は引用ブランドの姉妹ブランド(セカンドライン)である」、又は「引用商標権者(ガスプコム社)又は引用ブランドが許諾したブランドである」と認識するということも考えられる。 また、販路が共通していることから、百貨店の同じフロアの店頭で販売される可能性も有り、本件新ブランドに接した需要者は引用ブランドの方が著名であることから、本件新ブランドについて上記主要取引者と同じような混同をするか、又は価格帯やテイストが似通っていることから、単に「類似ブランド」として両者を混同して認識あるいは両者を明確に区別できないことは容易に想像し得る。 実際に、引用商標権者の元には、本件新ブランドに関し、「引用ブランドのセカンドラインであるのか」、「類似ブランドか」といった需要者からの問い合わせが届いている(甲49、甲50)。 このように、取引先や需要者の共通性から、これらの者が本件新ブランドを見ると、引用ブランドと関連性があるものと認識してしまう。 ウ 小括 創作性の程度が高く、引用商標権者の主力ブランドである引用ブランドのかばんは、主要都市を含む多数の百貨店等で長年にわたって販売されてきた。他方、本件商標権者は、本件商標から引用ブランドを想起し得るほどに類似した、イタリアと関係が深いことを強調する本件新ブランドのかばんを販売している。三越伊勢丹が両ブランドを扱っているように取引先は同じであり、対象需要者も同じである。 これらを総合考慮すると、本件商標権者が本件商標をその指定商品について使用した場合、これに接する需要者等は、その商品が引用商標権者又は同人と何らかの関係を有する者若しくは引用商標権者の許諾を受けた者の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれが高いことは明らかである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。 (2)商標法第4条第1項第7号について ア 本件商標権者の背信性 本件商標権者と引用商標権者との間では20年以上の取引関係があり、かつ、本件商標権者は20年近くにわたって輸入代理店として契約を行っていた。それにもかかわらず、本件商標権者は、契約の終了時期を無視して契約違反であることを知りながら(甲45)、本件新ブランドの開始という自社の都合のために一方的に契約終了の旨を引用商標権者に通知し(甲32)、長年にわたり協力・信頼関係を築いてきた引用商標権者に何の相談もなく、無断で、引用商標と類似の名称を用いた本件新ブランドを2021年3月31日よりスタートさせたのである(甲34)。このような行為は、引用商標権者に対する背信行為である。 なお、2020年6月1日付の同意書(甲45)に関し、本件商標権者は、本同意書に署名をしていないこと、また、在庫分を販売したにすぎないと反論することが予想される。しかし、署名に関しては、請求書(甲43)のうち、請求書番号18/2020は2020年7月13日付けであるほか、2021年3月1日付請求書番号7/2021(合計額7,347.40ユーロ)や同月24日付請求書番号8/2021(合計額5,657.50ユーロ)(甲51)が存在していること、これらの請求書の書式や内容は従前のものと変わらないことからすれば(甲43、甲44)、本件商標権者は、引用商標権者の販売代理店として、2020年6月1日以降も継続して引用ブランドを販売していたことは明らかである。 したがって、2020年6月1日付の同意書が有効に成立していたことに疑いはない。また、在庫処分の反論については、いかなる理由であろうとも販売代理店として販売している事実に変わりはないから反論の体をなさない。 イ 本件商標権者の意図 本件新ブランドの名称、つまり、本件商標は「MANO」の語の説明からも分かるとおり、「手仕事」の意味として表示することは偶然ではあり得ないから引用商標に依拠していることは明らかであって、類似の名称を作出しようとする本件商標権者の意図が読み取れる。 本件商標の前半部「S.」についても、上記ファッションブランドの慣習を踏まえれば、「S.」は「STEFANO」を意味することが容易に連想できるから、本件新ブランドの存在から本件商標権者の明らかな混同の惹起の意思ないし混同の容認の意思が看取できる。これは、本件商標権者が本件新ブランドと引用ブランドを併記していることからも、需要者に対してそのような働きかけが行われていることが見て取れる。 本件商標権者は、ブランドの紹介においても両ブランドを上下に配して関係があるかのように振る舞い、また、本件新ブランドはイタリア産かどうか不明であるにも関わらず、殊更に「ITALY」の文字や「イタリア」を主張している。つまり、本件商標権者がイタリア産のブランドである引用商標に関するブランドに対し、積極的に混同を生じさせようと意図していると評価できる。 これらの事情を踏まえれば、本件商標権者の真意は、輸入代理店としての契約を打ち切り、引用ブランドを国内から追い出した上で、20年近く積み重ねた引用商標に係る取引者及び需要者の信頼又は販路をそのまま成り代わって奪い取ろうとする点にあると考えられる。このような行為は、自由競争の範囲を逸脱するものであり、社会通念に照らしても到底看過されるべきではない。 ウ 本件商標権者の認識 甲32から読み取れるとおり、本件商標権者は株式会社ヤマニ(以下「ヤマニ社」という。)と引用商標権者間の輸入代行を行っており、ヤマニ社より、コロナ禍の現在における引用商標に関するブランドの苦境が指摘されていることから、この点について、本件商標権者は認識をしていた。そして、このような困難な状況を奇貨として、引用商標権者との契約を打ち切り、引用ブランドと類似する新ブランドを展開させることは、上記イに示した「引用商標に係る取引者及び需要者の信頼又は販路をそのまま成り代わって奪い取ろうとする意図」の裏付けに他ならない。 また、本件商標権者を通さない日本市場販売ワークは引用商標権者の判断に任せる、とのことであるが、20年間にわたり、本件商標権者が引用ブランドの輸入代行を専属で行っていたものであるから、その他の販路を引用商標権者が見つけることは一朝一夕に出来るものではなく、それについても本件商標権者は十分に認識をしているはずである。 他に抜け道があるかのような記載であるが、契約解除は実質的な「追い出し」であることは、疑いがない。 エ 本件商標登録が維持された場合の弊害 仮に本件商標の登録が維持されるのであれば、引用ブランドが構築した信用へのフリーライドを認めることになることはおろか、本件商標権者が引用商標に関するブランドの長年の輸入代理店であったという立場を利用したブランドイメージの奪取を許すこととなってしまう。 オ 小括 このような本件商標権者の背信行為及び意図、並びに登録が維持された場合の弊害は、商標法第1条に規定された「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護すること」を目的とする商標法の理念に、何ら合致しない結果を作出することとなりかねない。このような本件商標権者の一連の行為は社会的相当性を欠く行為であり、本件商標は、本件商標権者の立場、引用商標権者の立場及び引用商標の信用を不当利用するものである。 したがって、本件商標の商標登録は、公序良俗、社会一般の道徳観念、公正な取引秩序の維持を旨とする商標法の精神、さらには国際信義の観点からも認められるべきでない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。 4 当審の判断 (1)引用商標の周知性について ア 申立人の提出に係る証拠及び主張によれば、以下のとおりである。 (ア)引用商標権者及び引用商標権者の取引先等のウェブサイトによれば、引用商標権者は、イタリアにおいて1974年に創業されたバッグの製造メーカーであり、引用ブランド(STEFANOMANO)は、2004年春夏からスタートした引用商標権者のファクトリーブランドの名称であること、当該名称は、引用商標権者の創業者の次男の「ステファノ」の名前とイタリア語で「手」を意味する「マーノ」を合わせた造語であること、申立人商品は、2009年にイタリア製造メーカー擁護機関(協会)という公的な機関により、100%イタリアン・オリジナル・クオリティの資格を有するものとして認められ、その証が製品に縫い付けられていることが記載されている(甲3〜甲5)。 なお、イタリアにおける上記資格の位置付け等の詳細は不明である。 また、引用商標権者は、2011年にHANDCRAFT AWARD を受賞したとされる(甲6)が、当該賞の開催規模や開催頻度等の詳細は不明であり、かつ、2011年以降の当該賞の受賞歴に関する証拠はない。 (イ)引用商標権者のウェブサイトによれば、我が国での引用ブランドの主要取扱店舗は、PUBS丸の内OAZO、PUBS福岡空港ビル店、札幌丸井今井、札幌東急、仙台三越、新潟伊勢丹、伊勢丹新宿本店、銀座三越、日本橋三越、東武池袋店、新宿高島屋、日本橋高島屋、そごう横浜店、大丸東京店、伊勢丹羽田ストア1号店(JAL)、伊勢丹丸の内サローネ、JR名古屋高島屋、三越名古屋栄店、名鉄百貨店、JR京都伊勢丹、ルクアイーレ大阪及び近鉄あべの本店であることが記載されている(甲7)。 (ウ)三越伊勢丹及び阪急のオンラインストアにおいて、申立人商品「バ ッグ」が販売され、引用商標又は引用ブランドが表示されている(甲8、甲9)。 (エ)申立人は、引用ブランドは、多数の雑誌に挙げられている旨主張しているところ、引用商標権者の公式サイトにおいて、2015年から2018年にかけて発行された一部の雑誌に引用ブランドが掲載された旨の記載があるが、当該雑誌の表紙を一覧表にまとめたものにとどまり、その掲載内容を確認することができない(甲10)。 また、日本における申立人商品の販売企業であるヤマニ社のウェブサイトによれば、2014年ないし2017年に発行された雑誌「MEN’S EX」及び「Begin」に引用ブランドのバッグが各年1回掲載されたことがうかがえる(甲11〜甲14)。 さらに、2006年から2018年にかけて発行された雑誌「MEN’S EX」及び「Begin」又は百貨店のカタログ等に申立人商品の「バッグ」が掲載されていることがうかがえる(甲15〜甲28)。 イ 上記アによれば、引用ブランドは、2004年春夏にスタートした引用商標権者のバッグに係るファクトリーブランドの名称であって、2006年発行の雑誌の掲載記事を考慮すれば、遅くとも、同年には、我が国において、申立人商品が販売されていたことがうかがえる。 しかしながら、提出された証拠からは、引用ブランドに係るバッグを掲載した雑誌の掲載回数は少ない上に、一部の雑誌については、発行時期が確認できないものもあることから、雑誌等を通じて、引用ブランドが一般需要者にどの程度認識されていたかを把握することができない。 また、申立人商品が、2009年にイタリアの公的機関により、100%イタリアン・オリジナル・クオリティの資格を有するものとして認められたとするが、当該資格がどのような位置付けの資格であるかは不明である。 さらに、引用商標権者が2011年に受賞したとするHANDCRAFT AWARDについても、その開催規模、開催頻度等の詳細は不明であり、かつ、2011年以降の当該賞の受賞歴に関する証拠は見いだせない。 なお、上記のとおり、引用ブランドに係る申立人商品が、我が国の百貨店やウェブサイト等で販売されているとしても、申立人主張の2020年の輸入額とされる約1,800万円(申立人の2019年の輸入額に基づく試算では5,260万円相当)にしても、さほど大きな金額とはいえない上、それのみでは、販売規模を評価し得ず、また、申立人商品の売上高、市場シェアなどの具体的な販売実績並びに広告宣伝費などについては、その事実を客観的に把握することができる証拠は提出されていない。 よって、申立人提出の証拠からは、引用商標に係る引用ブランドが、我が国の一般需要者にどの程度認識されているのか把握、評価することができない。 その他、本件商標の登録出願日において、引用商標が広く知られていることを認めるに足る証拠の提出はなく、引用商標の周知性を認め得る事情は見いだせない。 してみると、提出証拠によっては、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標に係る引用ブランドが引用商標権者の業務に係る商品(バッグ)を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されていたものとは認めることはできない。 (2)商標法第4条第1項第15号該当性について ア 本件商標と引用商標の類似性の程度 (ア)本件商標は、別掲1のとおり、「S.mano」の欧文字を横書きしてなるところ、その構成文字に相応して、「エスマノ」の称呼を生じるものである。 また、当該文字は、一般の辞書等に載録のないものであり、かつ、特定の意味合いを想起させる語として知られているような事情も見いだせないものであることから、特定の語義を有しない一種の造語として認識されるというのが相当である。 そうすると、本件商標は、その構成文字に相応した「エスマノ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。 なお、申立人は、デザイナーの名前はイニシャルに省略されやすいという慣習が存在し、「.」は、省略を表す記号であること、引用商標の周知性及び商標権者が引用商標の輸入代理店を務めていたことからすれば、これに接した需要者、取引関係者が「S.」は、「Stefano」の略語であると容易に認識する、また、本件新ブランドと引用ブランドは必ず上下に並列されている、さらに、「mano」というイタリア語を用いているから、「手」やHP上に説明されている「手仕事」という意味も類似していると主張しているが、申立人提出の甲35及び甲36によれば、「イタリア語で特別の手仕事を意味するSpeciale Manoを冠したS.MANOは、・・」の記載とともに本件商標が表示されていることからすると、仮にデザイナーの名称がイニシャルに省略される場合があり、また、本件新ブランドと引用ブランドが上下に並列されているとしても、そのことをもって、本件商標の構成中の「S.」の文字部分が引用商標の構成中の「STEFANO」の略語であると理解されるとはいい難く、かつ、引用商標の構成中の「STEFANO」を「S」と表示して使用している実情も見いだせない。 (イ)引用商標は、別掲2のとおり、「STEFANOMANO」(語頭の「S」と語尾の「O」の文字が他の文字より大きく表示されている。以下同じ。)の欧文字(以下「文字部分」という。)及びその左上部に旗状の図形(以下「図形部分」という。)を配した構成からなるところ、文字部分と図形部分とは、両者の間にやや間隔を有することから、視覚上分離して看取され得るものであり、かつ、文字部分と図形部分とが一体の観念を生じるともいえない。 そして、引用商標の「STEFANOMANO」の文字部分は、辞書等に載録もなく、特定の意味合いを想起させる語として知られているような事情も見いだせないものであることから、特定の語義を有しない一種の造語として認識されるというのが相当である。 また、引用商標の図形部分からは、特段の称呼及び観念は生じない。 そうすると、引用商標は、その構成文字に相応して、「ステファノマーノ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。 (ウ)本件商標と引用商標とを比較すると、それぞれ上記のとおりの構成よりなるから、外観においては、図形の有無等の構成態様及び構成文字の相違から判然と区別できるものである。 また、称呼においては、本件商標から生じる「エスマノ」の称呼と、引用商標から生じる「ステファノマーノ」の称呼とは、構成音が明らかに異なるから、明瞭に聴別し得るものである。 さらに、観念においては、本件商標と引用商標は、いずれも特定の観念を有しないものであるから、比較することができない。 そうすると、本件商標と引用商標とは、観念において比較できないとしても、外観及び称呼において明確に異なるものであるから、これらを総合して判断すれば、互いに別異の印象を与えるもので、類似性の程度は低いものである。 イ 出所の混同について 引用商標に係る引用ブランドは、前記(1)イのとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標権者の業務に係る商品(バッグ)を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されていたとは認められないこと、及び本件商標は、上記アのとおり、引用商標とは別異の印象を与えるもので、類似性の程度も低いものであることからすれば、本件商標の指定商品に申立人の業務に係る商品(バッグ)と同一又は類似のものが含まれるとしても、本件商標の指定商品の取引者、需要者において、普通に払われる注意力を基準として総合的に判断すれば、本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する需要者が引用商標又は引用ブランドを連想又は想起することはなく、その商品が他人(引用商標権者)又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。 その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情も見いだせない。 なお、申立人は、本件商標を冠した本件新ブランドは、引用商標に関連性があるものと需要者が認識する旨主張し、引用商標権者の元に届いた問い合わせメール(甲49、甲50)を挙げているが、これらのわずか3件の問い合わせの存在によって、需要者が本件新ブランドと引用商標の関連性があるものと認識することを示したとものとはいえない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。 (3)商標法第4条第1項第7号該当性について 商標法第4条第1項第7号の規定は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は商標登録をすることができないとしているところ、同号は、商標自体の性質に着目したものとなっていること、商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については、同法第4条第1項各号に個別に不登録事由が定められていること、商標法においては、商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば、商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法第4条第1項第7号に該当するのは、その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである。(平成14年(行ケ)第616号)。 申立人は、本件商標権者の真意は、輸入代理店としての契約を打ち切り、引用商標に係るブランドを国内から追い出した上で、20年近く積み重ねた引用商標に係る取引者及び需要者の信頼及び販路をそのまま成り代わって奪い取ろうとする点にある背信行為であり、社会通念に照らしても到底看過されるべきではなく、本件商標権者の一連の行為は社会的相当性を欠く行為であり、本件商標は、本件商標権者の立場、引用商標権者の立場及び引用商標の信用を不当利用するものである旨主張している。 しかし、上記(1)イのとおり、引用商標に係る引用ブランドは、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標権者の業務に係る商品(バッグ)を表すものとして、我が国の需要者の間で広く認識されていたものと認められないものであり、上記(2)アのとおり、本件商標は、引用商標及び引用ブランドとは、別異の印象を与えるものである。 そして、本件商標が、引用商標に係る引用ブランドの持つ顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)したり、信用・名声・顧客吸引力等を毀損(希釈化)するなどの不正の目的をもって使用するものであると認めることもできない。 また、申立人の提出した証拠から、本件商標権者と引用商標権者の間で輸入代理店契約があったことは認められ、本件商標権者から引用商標権者に対して、引用ブランドの契約を終了する旨の連絡と本件新ブランドのスタートのタイミングが重なったとしても、その事実をもって、引用ブランドとは別異の商標である本件商標の出願、登録について社会的相当性を欠く行為であり、引用商標の信用を不当に利用するものとはいえず、ほかに、本件商標権者が申立人の事業を妨害し、不正の目的があることを具体的に裏付ける証拠は見いだせない。 そして、本件商標が国際信義に反し、あるいは、本件商標の登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠く等の事実は見当たらず、本件商標をその指定商品について使用することが、社会の一般道徳観念に反し、商取引の秩序を乱すものともいえない。 してみると、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標に該当しない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。 (4)まとめ 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同項第15号のいずれにも該当するものではなく、その登録は、同法第4条第1項の規定に違反してされたものとはいえないものであり、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきである。 よって、結論のとおり決定する。 |
別掲 |
別掲1(本件商標) 別掲2(引用商標) (この書面において著作物の複製をしている場合のご注意) 特許庁は、著作権法第42条第2項第1号(裁判手続等における複製)の規定により著作物の複製をしています。取扱いにあたっては、著作権侵害とならないよう十分にご注意ください。 |
異議決定日 | 2021-11-29 |
出願番号 | 2020091339 |
審決分類 |
T
1
651・
22-
Y
(W18)
|
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
中束 としえ |
特許庁審判官 |
阿曾 裕樹 小田 昌子 |
登録日 | 2021-01-20 |
登録番号 | 6342645 |
権利者 | 株式会社ディンプル |
商標の称呼 | エスマノ、マノ |
代理人 | 渡辺 三彦 |