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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W25
審判 全部申立て  登録を維持 W25
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審判 全部申立て  登録を維持 W25
審判 全部申立て  登録を維持 W25
審判 全部申立て  登録を維持 W25
管理番号 1380142 
異議申立番号 異議2020-900346 
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-24 
確定日 2021-11-10 
異議申立件数
事件の表示 登録第6304400号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6304400号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第6304400号商標(以下「本件商標」という。)は、「Gapace」の欧文字を標準文字で表してなり、令和元年10月15日に登録出願、第25類「タンクトップ,靴,帽子,セーター,シャツ,革製ベルト,スカート,パジャマ,下着,パンツ,ブラジャー,マフラー,Tシャツ,靴下,ダウンコート,ダウンジャケット,チャイナドレス,子供服,サイクリング競技用衣服,水泳帽,水泳パンツ,水泳着,着物,靴の中敷き,防寒用下着,ウェディングドレス,スキー靴,ドレススーツ,ドレス,ベルト,タイツ及びタイツストッキング,ヨガ用トップ,ヨガ用ボトム(下衣),ヨガ用パンツ」を指定商品として、同2年9月10日に登録査定され、同年10月15日に設定登録されたものである。

2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する商標は次のとおりであり(以下、それらをまとめて「引用商標」という。)、いずれの商標権も現に有効に存続しているものである。
(1)登録第2237980号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の態様 GAP
指定商品 第18類及び第25類に属する商標登録原簿に記載の商品
登録出願日 昭和62年10月2日
設定登録日 平成2年6月28日
(2)登録第2584331号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の態様 GAP
指定商品 第25類に属する商標登録原簿に記載の商品
登録出願日 平成元年2月8日
設定登録日 平成5年10月29日
(3)登録第3040952号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の態様 「GAP」と「ギャップ」の文字を2段に横書きしてなるもの
指定商品 第25類に属する商標登録原簿に記載の商品
登録出願日 平成4年7月13日
設定登録日 平成7年4月28日
(4)登録第4382292号商標(以下「引用商標4」という。)
商標の態様 別掲1のとおり
指定商品 第3類、第18類及び第25類に属する商標登録原簿に記載の商品
登録出願日 平成11年8月16日
設定登録日 平成12年5月12日
(5)登録第4672474号商標(以下「引用商標5」という。)
商標の態様 GAP
指定商品及び指定役務 第25類及び第35類に属する商標登録原簿に記載の商品及び役務
登録出願日 平成14年4月8日
設定登録日 平成15年5月16日
(6)登録第4672475号商標(以下「引用商標6」という。)
商標の態様 別掲2のとおり
指定商品及び指定役務 第25類及び第35類に属する商標登録原簿に記載の商品及び役務
登録出願日 平成14年4月8日
設定登録日 平成15年5月16日
(7)登録第4751823号商標(以下「引用商標7」という。)
商標の態様 別掲3のとおり
指定商品 第25類に属する商標登録原簿に記載の商品
登録出願日 平成15年7月4日
設定登録日 平成16年2月27日
(8)登録第5227768号商標(以下「引用商標8」という。)
商標の態様 GAP(標準文字)
指定役務 第35類に属する商標登録原簿に記載の役務
登録出願日 平成19年6月27日
設定登録日 平成21年5月1日
(9)登録第5227769号商標(以下「引用商標9」という。)
商標の態様 別掲1のとおり
指定役務 第35類に属する商標登録原簿に記載の役務
登録出願日 平成19年6月27日
設定登録日 平成21年5月1日
(10)登録第6026536号商標(以下「引用商標10」という。)
商標の態様 別掲4のとおり
指定商品 第25類に属する商標登録原簿に記載の商品
登録出願日 平成29年8月9日
設定登録日 平成30年3月9日

3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第8号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号に違反して登録されたものであるから、その登録は同法第43条の3第2項によって取り消されるべきものであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第39号証(枝番号を含む。ただし、甲37は欠番。)を提出した。
(1)GAP及び引用商標の著名性について
引用商標は、「ギャップ インコーポレイテッド(Gap Incorporated)」(以下「GAP」という場合がある。)が、1969年に創設以来、衣料品類等に長年にわたり使用している著名商標である(甲22?甲24)。なお、申立人は、GAPが全世界で使用する商標を一元的に管理しているGAPの関連会社である。
引用商標に係る「GAP」は、1969年8月22日にアメリカ・サンフランシスコでドン&アリス・フィッシャー夫妻によりオープンした店が始まりである。若者たちが、個性を称え、自由や平和を求めて新たな文化や価値観を創造し、当時のアメリカが大きく変わってゆく時代の中で生まれたこの店は、「ジェネレーション・ギャップ」にちなんで「GAP」と名付けられた。これが「GAP」の第1号店である(甲12)。創業者夫妻は、「GAP」第1号店がオープンしたとき、シンプルな約束をした。それは「Do More Than Sell Clothes(洋服を売る以上のことをしよう)」。この創業者の精神と約束は、創業以来50年以上経ち、日本を含め世界中で親しまれるアメリカンカジュアルブランドとなった現在でも、ブランドのDNAとして受け継がれている。すなわち、GAPは、「GAP」ブランドに関わるすべての人の人生が幸せであるために、単なる衣料品の販売だけでなく、芸術や教育のプログラムのサポート、若者や女性への機会提供、環境に配慮した様々なサステナビリティプログラムに積極的に取り組んでいる(甲12)。
「GAP」ブランドのスタイルは、ジーンズ、カーキー、ティーシャツ、ジャケットに代表されるアメリカン・カジュアルスタイルであり、そのシンプルなデザインに加えて、手ごろな価格が消費者を引き付けてきた。そしてGAPは、自ら製品を企画し、自社製品として委託生産させ、自らのチェーン店で販売する製造小売業(SPA:specialty store retailer of private label apparel)という形態をとっており、これは、1986年にGAPが提唱した概念である(甲13)。このような独自のマーケティング形態をとることで、GAPは飛躍的に売上や販売店舗を伸ばしてきた。現在、GAPは日本を含め、米国、カナダ、ヨーロッパ諸国、インド等世界中で3,600店舗を持ち、売上高は1兆7,300億円に及び、世界の主なアパレル業界において第4位の地位を占めている(甲14、甲15)。
日本においては、1994年に日本法人「ギャップジャパン株式会社」が設立され、1995年に、東京の数寄屋橋阪急に1号店が出店されたのを皮切りに(甲13)、店舗を増やし続け、現在では北海道から沖縄に至るまで、約150店に及ぶ店舗を構えるに至っている(甲16)。特に、2011年に、日本最大級の旗艦店が銀座にオープンしたときは、メディアにおいても話題になった(甲20、甲21)。そして、上記直営第1号店出店から今日に至るまで、「GAP」の商標を使用したカジュアル衣料品等について、各種雑誌、新聞等に積極的に広告されているほか、ギャップジャパン株式会社を通して、SNSであるFacebook、Instagram、Twitterに公式アカウントを開設して最新の情報を発信し、引用商標に係る「GAP」の新作をリリースするときも、商品の写真やプロモーション動画等を配信し続けている(甲17?甲19)。2021年3月時点において、Facebookの公式アカウントの合計フォロワー数は約950万人、InstagramやTwitterの公式アカウントのフォロワー数は約10万人に昇る(甲17?甲19)。そのフォロワー数をみただけでも、各SNSを通じて、引用商標に係る「GAP」の文字やその商品が日本の多数の需要者及び取引者の目に触れることになることは明らかである。
このような引用商標に係る「GAP」の著名性については、特許庁の日本国周知・著名商標リストにおいても登録されていることや異議決定例の認定からも顕著な事実であると思料する(甲22?甲24)。
以上のことから、引用商標に係る「GAP」は、本件商標の登録出願時には、既にGAPの著名な略称であり、登録商標でもある「GAP」の文字は、GAPが自らのブランドとして「衣料品」等のファッションに関係する商品に使用する商標として、極めて広く知られるに至っていた商標であり、現在もその周知性は維持されていることは明らかである。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
本号における商標の類否に係る最高裁判決(最高裁昭和39年(行ツ)第110号、最高裁平成19年(行ヒ)第223号)及び特許庁の商標審査基準等に従い、以下、本件商標と引用商標との類否について検討する。
ア 本件商標について
(ア)本件商標は「Gap」部分が要部として取引者・需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える。
本件商標は、「Gapace」の欧文字を標準文字で書した態様からなるが、一連で特定の熟語的意味合いを持つものでなく、また構成文字である「ace」は、「最高、最上」等の語義を有する外来語として広く親しまれ(甲26)、「Super(スーパー)」等と同様に、一般にある商標に付して、その商品が優秀、一流であることを表す形容詞的な用法で用いられる語であることから(甲27、甲28)、商品の品質の誇示誇称的な語にすぎず、本件商標の指定商品との関係でみた場合には、何ら自他商品を識別する機能は有しない。したがって、本件商標の構成中「ace」の文字部分に自他商品等識別力がないうえに、著名な「Gap」の文字がそっくりそのまま含まれていることから、たとえ「Gap」と「ace」の間にスペースがなくとも、上述したとおり「Gap」部分が、GAPの業務に係る衣料品等の商品を表示するものとして、本件商標の登録出願時には、高い著名性を獲得するに至っている事実に鑑みれば、本件商標は、その構成中「Gap」部分が、取引者・需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える要部となるというべきである。
かかる判断は、審判決例(甲36の1?14)からもより一層明らかなものとなる。すなわち、二語以上からなる商標の構成部分のうち(それが、たとえスペースのない態様で表されているものであっても)、周知著名商標部分を独立して取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える要部として抽出し、他の商標との類否判断をした結果、両商標が類似するとしたものである。
このような審判決例に鑑みるならば、本件商標においても、その構成中周知著名な「Gap」部分をその要部とし、かかる要部たる「Gap」部分と引用商標との類否判断を行うべきであり、その場合、両者は共通の称呼「ギャップ」及び著名な引用商標に係る「GAP」ブランドという共通の観念を生じさせるものであるから、互いに類似することは明らかである。
なお、特許庁の審査基準上でも、「指定商品又は指定役務について需要者の間に広く認識された他人の登録商標と他の文字又は図形等と結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上のつながりがあるものを含め、原則として、その他人の登録商標と類似するものとする」とされている。
以上より、本件商標においては、要部たる「Gap」部分が他の商標との類否判断の対象となるというべきである。
(イ)本件商標の外観・称呼・観念
上記(ア)のとおり、本件商標は「Gapace」の欧文字を標準文字で書した態様よりなるが、「Gap」部分が出所表示標識として強い印象を生ずる部分であるから、「Gap」部分より「ギャップ」の称呼が生じ、かつ、引用商標に係る衣料品等の商標として著名な「GAP」の観念をも生ずる。
イ 引用商標について
引用商標1、2、5、7、8及び10は、欧文字「GAP」の構成よりなり、引用商標3は、欧文字「GAP」と片仮名「ギャップ」の上下二段の構成よりなり、引用商標4及び9は、欧文字「GAP」が紺色の正方形に白抜きで表され、引用商標6は、欧文字「gap」の構成よりなることから、いずれも「ギャップ」の称呼を生じ、かつ、GAPの著名なブランドである「ギャップ」の観念が生じる。
ウ 本件商標と引用商標の称呼・観念・外観の類否
上述したとおり、本件商標においては、「Gap」部分が要部となり、そこから「ギャップ」の称呼を生じ、GAPが衣料品等に使用して著名となった「ギャップ」との観念が生じる。したがって、本件商標と引用商標とは称呼・観念において類似するものである。
また、本件商標に係る全指定商品が、引用商標の第25類及び第35類の指定商品・役務と同一又は類似する。
エ 小括
上述のとおり、本件商標は、本件商標登録出願日前の商標登録出願に係る引用商標と類似する商標であり、引用商標に係る指定商品・役務と同一又は類似の商品について使用する商標である。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
本号に係る最高裁判決(最高裁平成10年(行ヒ)第85号)で示された基準に照らし合わせた場合、本件商標に接した取引者・需要者は、あたかもGAP又は申立人若しくはこれらと何等かの関係がある者の業務に係る商品であるかのごとく、商品の出所について混同を生ずるおそれがあることは明らかである。以下、詳述する。
ア 引用商標の著名性及び独創性
上述のとおり、引用商標は本件商標の登録出願時には、我が国の取引者・需要者の間で、著名となっている。また、引用商標の独創性の程度については、引用商標を構成する「Gap」及び「ギャップ」は、既述のとおり「ジェネレーション・ギャップ」にちなんで名付けられたものであり、本件商標の指定商品を含むファッション関連商品の品質を表示するものではないから、その独創性が高いことは明らかである。
イ 本件商標と引用商標との類似性の程度
本号の該当性の判断においては、仮に本件商標が商標法第4条第1項第11号の意味で類似しない場合であっても、直ちに同項第15号該当性が否定されるべきではない。
本号は、a)商標が同一又は類似で、商品、役務が非類似である場合のみならず、b)商標が非類似で、商品、役務が同一又は類似である場合、c)商標が非類似で商品、役務が非類似である場合の各類型においても適用され得るものであって、仮に商標法第4条第1項第11号の意味で商標が非類似であるとしても、引用商標が著名である等の理由により広義の混同のおそれがある場合に同項第15号に該当することがある(上記最高裁判決に関する「最高裁判所判例解説」法曹時報第54巻第6号187頁)。
以上を踏まえて、本件商標と引用商標との間の類似性の程度を検討すると、上述のとおり、引用商標は「ギャップ」の称呼が生じ、著名なブランドである「ギャップ」との観念が生じる。
他方、本件商標は、「Gapace」の欧文字を標準文字で表した態様よりなるが、「ace」部分は商品の品質の誇示誇称的な語にすぎず、本件商標の指定商品が、引用商標に係る著名な衣料品等との関連性が非常に高いことに鑑みれば、本件商標に接した取引者・需要者は、著名な引用商標を連想するというべきであるから、「Gap」部分から「ギャップ」の称呼が生じ、引用商標に係る著名なブランドである「ギャップ」との観念が生じる。
したがって、本件商標は、引用商標と称呼・観念において類似するというべきである。
また、仮に、本件商標が引用商標との関係において、商標法第4条第1項第11号における類似とまではいえないとしても、なお極めて強い出所識別機能を有する「Gap」の部分が共通するのであり、その類似性の程度は極めて高いというべきである。このことを前提として出所混同のおそれの存否を判断しなければならない。
ウ 本件商標の指定商品とGAPの業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性
上述のとおり、本件商標は、GAPが使用し著名性を有する引用商標に係る「衣料品」等と同一又は類似する商品について使用される商標であるから、商品の性質等及び商品の取引者及び需要者において互いに共通性が高いことは明白である。
さらに、本件商標の指定商品中「タンクトップ、セーター、シャツ」等のタグや「靴、帽子」のワンポイント、革製ベルトのバックル等に使用された場合、小さく付されることが多いこと、及び、本件商標が周知著名な引用商標に係る「Gap」の文字を含んだ商標であることから、実際の取引においても、両商標を離隔的観察した場合に、需要者等が、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。
エ 周知・著名商標をその構成中に含む商標についての異議決定・審判決例
上掲の最高裁判決以降、審判決例(甲38の1?39)においても、他人の周知著名な商標をその構成中に含む商標については、当該他人の業務に係る商品等と混同を生じるおそれがあるとして、本号に該当するとの判断が定着している。
そうであれば、本件商標と引用商標についても、本件商標中の「ace」部分は指定商品との関係で識別力を有するものではなく、本件商標の指定商品は、引用商標に係る周知著名な衣料品等のファッション関連商品との関連性が非常に高いことに鑑みれば、本件商標に接した取引者・需要者は、著名な引用商標を連想し、引用商標に係る商品であるとその出所について混同を生じるというべきである。
さらに、申立人は、引用商標に係る「GAP」だけでなく、その後のブランド展開にあたって、「GAP」を含む結合商標である「GAPFIT」「GAPGIRL」「GAPEDITION」「GAPBODY」等を商標登録しており(甲29?甲35)、実際に「GAPFIT」を本件商標の指定商品に含まれている「ヨガ用トップ、ヨガ用ボトム(下衣)、ヨガ用パンツ」といったヨガ等のエクササイズに最適な商品として「GAP」ブランドのスポーツラインとして発売している(甲25)。このことからも、「Gap」と単に「商品が優秀で一流品」であることを意味するにすぎない「ace」との組み合わせからなる本件商標は、著名な「GAP」ブランドのシリーズの一つとして需要者等において認識され得るものであり、取引上相紛らわしいものである。
したがって、このような上記異議決定・審判決例に鑑みても、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当することが明らかである。
オ 小括
以上述べたとおり、本件商標と引用商標との称呼及び観念上の類似性、引用商標が周知著名性を獲得していること、「GAP」商標の独創性の高さ、引用商標が著名性を獲得しているファッション分野に属する商品を本件商標が指定商品としている点等その他の取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断した場合、本件商標に接した取引者・需要者は、あたかもGAP又は申立人若しくはこれらと何等かの関係がある者の業務に係る商品であるかのごとく、商品の出所について混同を生ずるおそれがあることは明白である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第19号該当性について
ア 引用商標の著名性
上述したとおり、引用商標は、日本国内はもとより世界的に高い著名性を有する商標である。
イ 本件商標と引用商標の類似性
本件商標と引用商標は、上述のとおり、互いに類似する商標である。
ウ 出願人の「不正の目的
本号における「不正の目的をもって使用するもの」とは、具体的には「日本国内で全国的に著名な商標と同一又は類似の商標について、出所混同のおそれまではなくとも出所表示機能を稀釈化させ、その名声を毀損させる目的をもって商標出願する場合」や「その他日本国内又は外国で周知な商標について信義則に反する不正の目的で出願する場合」等が該当する(東京高裁平成14年(行ケ)第97号、特許庁無効2001-35149号)。
しかるところ、引用商標は、上述のように本件商標の登録出願時には、GAPの業務に係る商品に使用される商標として極めて広く知られていた著名商標であり、「GAP」といえば世界的に有名なブランドの「GAP」との観念が一義的に生じるものである。
一方、本件商標の要部は著名な引用商標と同一の称呼が生じ、指定商品は「GAP」が著名性を獲得した「衣料品」等のファッション商品と極めて密接な関連を有する商品であり、「Gap」以外の部分である「ace」は、単に商品の誇示誇称的な語にすぎないことを考えると、商標権者が著名な引用商標を知らず、偶然に著名な引用商標と同一のつづり及び同一の称呼を生じる文字からなる本件商標を出願したとは考え難く、引用商標の有する高い名声・信用・評判にフリーライドする目的で出願、使用されているものと推認される。
したがって、商標権者が本件商標を不正の目的で使用するものであることは明らかである。
エ 特許庁の審決
特許庁においても、他人の業務に係る商品を表示するものとして、需要者の間に広く認識されていた商標と同一又は類似性の高い商標を、当該広く知られていることを十分に知りながら出願し登録を受けた商標、自己の利益を得るために出願した商標は不正の目的に基づくものであると多くの審決が認定している(甲39の1?9。一例である。)。
オ 小括
以上のとおり、引用商標に係る「GAP」及び「ギャップ」は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、GAPの業務に係る衣料品等に使用されるブランドとして世界的に著名な商標となっており、本件商標は、引用商標に代表される商標「GAP」に類似するものであって、出願人が「GAP」の著名性に便乗し「GAP」の文字を含む本件商標の独占排他的使用を得ようとする不正の目的に基づいて出願し登録されたものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。

4 当審の判断
(1)引用商標の周知性について
ア 申立人提出の甲各号証及び同人の主張によれば、申立人の関連会社「ギャップ インコーポレイテッド(Gap Incorporated)」は、米国サンフランシスコに本社を置く法人であり、1969年に設立され、その後現在まで継続して、商標「GAP」「Gap」(以下、これらを併せて「使用商標」という。)を使用し衣料品などの製造販売を行っていること(甲12?甲21)、我が国においては、日本法人「ギャップジャパン株式会社」(以下、同社、申立人及びギャップ インコーポレイテッド(Gap Incorporated)を併せて「申立人等」ということがある。)が1994年に設立され、現在、全国約150の店舗において、使用商標を使用した衣料品など(以下「申立人等商品」という。)を販売していること(甲13、甲16)及びギャップジャパン株式会社は、SNSでも申立人等商品の情報を発信し、2021年3月時点におけるフォロワー数は、Facebookが945.3万人、Instagramが10.9万人、Twitterが10.6万人であったこと(甲17?甲19)が認められ、また、ギャップ インコーポレイテッド(Gap Incorporated)は世界中で3,600店舗を持ち、2020年2月期の売上高は1兆7,300億円でアパレル業界において世界第4位であったこと(甲14、甲15)がうかがえる。
しかしながら、申立人等商品の我が国における売上高、シェアなど販売実績に係る主張はなく、それを示す証左は見いだせない。
イ 上記アからすれば、申立人等は1969年以降現在まで継続して申立人等商品の製造販売などを行っており、我が国においては、申立人等商品を遅くとも1994年頃から販売し、現在は全国約150の店舗において販売していると認め得ることから、申立人等商品及びそれに使用される使用商標は、申立人等の業務に係る商品として及び申立人等の業務に係る商品を表示するものとして、我が国の需要者の間に相当程度知られていたことがうかがえるものの、申立人等商品の我が国における販売実績を示す証左は見いだせないから、本件商標の登録出願の時及び登録査定時において、我が国の需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
そして、外国における販売実績については、申立人等商品の2020年2月期における全世界での売上高が記載された証左(甲14)があるが、それが本件商標の登録出願の日(令和元年10月15日)後の売上高を含む一年限りのものといい得るものであり、また、その販売に係る商品や販売国などの具体的な販売実績の内容を確認できないものであることなどから、かかる証左によっては、申立人等商品及びそれに使用される使用商標は申立人等の業務に係る商品として及び同商品を表示するものとして、本件商標の登録出願の時及び登録査定時において、米国など外国の需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
そうすると、使用商標と同一の構成文字からなる、使用商標と「ギャップ」の文字からなる、又は、使用商標を白抜きで表してなる引用商標は、いずれも申立人等の業務に係る商品を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国又は米国など外国の需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
(2)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標について
本件商標は、上記1のとおり、「Gapace」の欧文字を標準文字で表してなるところ、当該文字は、既成の語として辞書等に載録されておらず、特定の意味合いを有するものとして一般に親しまれた語でもないから、特定の観念を生じないものである。
そして、本件商標のように特定の語義を有しない欧文字からなる商標については、我が国で広く親しまれている英語読み風又はローマ字読み風に称呼されるのが一般的といえるから、本件商標からは、「ガパセ」「ガペース」の称呼を生じるものとみるのが相当である。
したがって、本件商標は、「ガパセ」「ガペース」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
イ 引用商標について
(ア)引用商標1、2、5及び8は、上記2(1)(2)(5)及び(8)のとおり、いずれも「GAP」の文字からなり、当該文字に相応し「ギャップ」の称呼を生じ、「ギャップ、隔たり」の観念を生じるものである。
(イ)引用商標3は、上記2(3)のとおり、「GAP」と「ギャップ」の文字を2段に横書きしてなり、引用商標4及び9は、別掲1のとおり、紺色の正方形内に「GAP」の欧文字を白抜きで表してなり、引用商標6は、「gap」の文字を別掲2のとおりの態様で表してなり、引用商標7及び10は、「GAP」の文字を別掲3及び4のとおりの態様で表してなるものであるから、いずれも上記(ア)と同様に「ギャップ」の称呼、「ギャップ、隔たり」の観念を生じるものである。
ウ 本件商標と引用商標の類否について
本件商標と引用商標の類否を検討すると、まず本件商標の構成文字「Gapace」と引用商標1及び2の構成文字「GAP」との比較において、両者は語尾部の「ace」の文字の有無という差異を有し、この差異が両者の外観全体の視覚的印象に与える影響は大きく、相紛れるおそれのないものとみるのが相当である。
そうすると、本件商標と上記イのとおりの構成からなる引用商標3ないし10は、同様の理由により、外観上相紛れるおそれのないものといえる。
次に、本件商標から生じる「ガパセ」「ガペース」と引用商標から生じる「ギャップ」の称呼を比較すると、両者の語調語感は明らかに異なり、相紛れるおそれのないものである。
さらに、観念においては、本件商標が特定の観念を生じないのに対し、引用商標は「ギャップ、隔たり」の観念を生じるものであるから、相紛れるおそれのないものである。
そうすると、本件商標と引用商標は、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標というべきものである。
その他、本件商標と引用商標が類似するというべき事情は見いだせない。
エ 申立人の主張について
申立人は、本件商標の構成中「ace」の文字は自他商品識別機能を有しない、及び本件商標の構成中に著名な「Gap」の文字がそのまま含まれているから、本件商標は「Gap」の文字部分が取引者・需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える要部となるとして、本件商標と引用商標は類似する旨主張し、審判決例(甲36の1?14)を提出している。
しかしながら、仮に「ace」の文字が単独では自他商品識別標識としての機能を有しないか、極めて弱いとしても、上記(1)のとおり、引用商標はいずれも申立人等の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認められないものであること、本件商標の構成文字「Gapace」は同書同大同間隔で一体に表されていること、それから生じる「ガパセ」「ガペース」の称呼は無理なく一連に称呼し得るものであること、及び本件商標の構成文字は語頭が大文字で2文字目以降が小文字で表されていることを併せ考慮すれば、本件商標は、これに接する取引者、需要者をして、その構成中「Gap」の文字部分に着目させることなく、その構成文字全体が一体不可分のもの(1つの語)と認識させるものと判断するのが相当である。
また、申立人は過去の審判決例を挙げているが、商標の類否の判断は、査定時又は審決時における取引の実情を勘案し、その指定商品及び指定役務の取引者・需要者の認識を基準に比較される商標について個別具体的に判断されるべきものであるから、それらをもって本件の判断が左右されるものではない。
したがって、申立人のかかる主張は採用できない。
オ 小括
以上のとおり、本件商標と引用商標は非類似の商標であるから、両商標の指定商品が同一又は類似するとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第15号について
上記(1)のとおり、引用商標は、申立人等の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認められないものであり、上記(2)のとおり、本件商標と引用商標は、相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標というべきものである。
そうすると、本件商標は、商標権者がこれをその指定商品について使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、その商品が他人(申立人等)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第19号について
上記(1)のとおり、引用商標は、申立人の業務に係る商品を表示するものとして我が国又は外国の需要者の間に広く認識されているものと認められないものであり、上記(2)のとおり、本件商標と引用商標は、相紛れるおそれのない非類似の商標であり、さらに、上記(3)のとおり、本件商標は、引用商標を連想又は想起させるものでもない。
そうすると、本件商標は、引用商標の名声にただ乗りするなど不正の目的をもって使用をするものと認めることはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
(5)むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも違反してされたものとはいえないものである。
なお、申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第8号に該当する旨述べるところがあるが、その具体的理由の主張はなく、また、これを認めるに足りる事情は見いだせないから、本件商標は同号に該当するものといえない。
さらに他に、本件商標の登録が商標法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲

別掲1(引用商標4及び9:色彩については原本参照。)


別掲2(引用商標6)


別掲3(引用商標7)


別掲4(引用商標10)




異議決定日 2021-10-29 
出願番号 商願2019-132880(T2019-132880) 
審決分類 T 1 651・ 263- Y (W25)
T 1 651・ 23- Y (W25)
T 1 651・ 271- Y (W25)
T 1 651・ 222- Y (W25)
T 1 651・ 261- Y (W25)
T 1 651・ 262- Y (W25)
最終処分 維持  
前審関与審査官 福田 洋子光本 隆 
特許庁審判長 中束 としえ
特許庁審判官 黒磯 裕子
杉本 克治
登録日 2020-10-15 
登録番号 商標登録第6304400号(T6304400) 
権利者 鐘 宝怡
商標の称呼 ガパセ、ガペース、ギャップエース、ギャップ、ジイエイピイ 
代理人 廣中 健 
代理人 池田 万美 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 田中 克郎 
代理人 原田 貴史 
代理人 宮川 美津子 

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