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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W44
審判 全部申立て  登録を維持 W44
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審判 全部申立て  登録を維持 W44
審判 全部申立て  登録を維持 W44
管理番号 1380124 
異議申立番号 異議2021-900043 
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-01 
確定日 2021-11-06 
異議申立件数
事件の表示 登録第6315437号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6315437号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第6315437号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、令和2年6月15日に登録出願、第44類「医療情報の提供,医療用機械器具の貸与,栄養の指導,歯科医業,美容,セラピー,健康管理に関する指導及び助言」を指定役務として、同年11月2日に登録査定され、同月11日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、登録異議申立ての理由として引用する商標は、以下の8件の商標であり、1を除き、いずれも現在有効に存続しているものである。
1 申立人の使用に係る商標(以下「使用商標」という。)は、別掲2のとおりの構成からなり、申立人が、1976年の創業以来、ハウスマークとして継続して使用しているというものである。
2 登録第5714458号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲3のとおりの構成からなり、平成26年1月15日に登録出願、第12類、第20類、第24類、第26類、第35類、第43類及び第44類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同年10月31日に設定登録されたものである。
3 登録第2173459号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲4のとおりの構成からなり、昭和60年6月6日に登録出願、第11類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、平成元年9月29日に設定登録され、その後、同11年5月18日、同21年7月7日及び同31年4月23日に商標権の存続期間の更新登録がされたものである。そして、その指定商品については、同22年3月24日に、第7類、第9類及び第17類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品とする書換登録がされたものである。
4 登録第4696655号商標(以下「引用商標3」という。)は、別掲5のとおりの構成からなり、平成14年3月27日に登録出願、第9類及び第38類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同15年8月1日に設定登録され、その後、同25年3月5日に商標権の存続期間の更新登録がされたものである。そして、その指定商品中第9類「レコード,映写フィルム,録画済みビデオディスク及びビデオテープ」については、同15年11月10日に一部放棄による本権の登録の一部抹消の登録がされたものである。
5 登録第5054551号商標(以下「引用商標4」という。)は、別掲6のとおりの構成からなり、平成18年7月31日に登録出願、第9類、第16類及び第37類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同19年6月15日に設定登録され、その後、同29年1月31日に商標権の存続期間の更新登録がされたものである。
6 登録第5137030号商標(以下「引用商標5」という。)は、別掲7のとおりの構成からなり、平成19年4月13日に登録出願、第35類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務を指定役務として、同20年6月6日に設定登録され、その後、同30年5月29日に商標権の存続期間の更新登録がされたものである。
7 登録第6084697号商標(以下「引用商標6」という。)は、別掲8のとおりの構成からなり、2017年(平成29年)3月30日にジャマイカにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、同29年10月2日に登録出願、第9類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同30年9月28日に設定登録されたものである。
8 国際登録第1014459号商標(以下「引用商標7」という。)は、別掲9のとおりの構成からなり、2009年(平成21年)1月13日にUnited States of Americaにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、同年4月29日に国際商標登録出願、第9類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同22年7月2日に設定登録され、その後、令和元年5月21日に商標権の存続期間の更新登録がされたものである。
上記、使用商標及び引用商標1ないし引用商標7の林檎の図形に係る商標を以下、便宜上「林檎の図形」といい、各商標をまとめていうときは、「引用商標」という。

第3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号又は同第19号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、取り消されるべきものであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第27号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 申立人について
米国カリフォルニア州に本社を置く申立人は、GAFAと称されるデジタル市場の巨大企業の4つのうちの一社であり、「MacBook」、「iMac」等のパーソナルコンピュータ、スマートフォン「iPhone」、タブレット型コンピュータ「iPad」、腕時計型コンピュータ「AppleWatch」等を製造販売し、音楽・映像配信サービス「AppleMusic」、映画・動画配信サービス「AppleTV」、データ保管サービス「iCloud」等を提供する法人である。同社は、「世界の最も価値あるブランドランキング」で首位を獲得するなど、高い知名度を誇り、当該ランキングにおいては、2011年から9年連続で首位の座を維持し、ブランド価値が2000億ドルを超えた唯一の企業と評価されている(甲9)。また、インターブランドジャパン社が発表したブランド価値評価ランキング「Best Global Brands 2020」(BGB2020)においても、同社は8年連続で第1位を獲得し、そのブランド価値は3230億ドルと評価されている(甲10)。
申立人は、コンピュータ、スマートフォン等の電子機器の分野において世界のリーディングカンパニーであることは周知の事実であるが、医療及びヘルスケアの分野においても注力している。
申立人は、2007年にスマートフォン「iPhone」を、2010年にタブレット型コンピュータ「iPad」を発売し、その後iPhone及びiPadで使用するヘルスケアに関するアプリケーションの開発を積極的に行ってきた。例えば、iPhoneに搭載されているアプリケーション「ヘルスケア」は、歩数や睡眠を自動で計測し、ユーザーの健康管理に寄与している(甲11)。
また、申立人が開発したアプリケーションのフレームワーク「リサーチキット」は、被験者がiPhoneやiPadでいつでもどこでも調査に参加することを可能にし、データの収集率を飛躍的に向上させた。同様に、「ケアキット」は、患者自身のケアを目的としたフレームワークであり、本フレームワークを使用することで、医師の治療計画を反映した患者向けのアプリを簡単に構築することができ、患者自身で日々の服薬や症状を記録することを可能とした(甲12)。
加えて、申立人は、2015年に腕時計型携帯情報端末であるアップルウォッチを発売した。アップルウォッチは、ユーザーが直接手首を通して体内の酸素のレベルや心電図を測定し、記録することを可能とした世界で初めての腕時計型携帯情報端末であり、睡眠時間や睡眠のパターンも記録することができるのである(甲13)。
アップルウォッチは、店頭で購入できる心電図のモニタリング装置として初めてアメリカ食品医薬品局に承認されたものでもあり、日本においても、医療機器として厚生労働省に認定されている(甲14)。
2 引用商標の周知著名性について
引用商標は、林檎の図形を装飾化した構成からなり、申立人は、1976年の創業以来、引用商標をハウスマークとして継続して使用している。
(1)日本の店舗表示及び販売状況
申立人は、公式ウェブサイトの他、店舗の看板に引用商標を使用している(甲15の1)。現在、申立人が運営する店舗(アップルストア)は都市圏にて10店舗あり(甲15の2)、コンピュータやOA機器を販売する大手家電量販店、携帯電話販売店でも申立人の製品は販売されている(甲16の1?6)。このように申立人の商品は直営店以外にも多くの他社店舗で販売されており、そこにおいても引用商標に係る看板が掲げられ又は引用商標が付された製品が販売されている。また、引用商標は、申立人の製品、サービス、広告、販売促進資材等と常に併せて使用されている(甲17の1?10)。
(2)広告宣伝
申立人は、広告宣伝費については公表していないが、申立人の商品はテレビ及びネットのコマーシャルで頻繁に放送されていることは周知の事実である。
例えば、民間会社が行った2017年3月から2018年2月までの「テレビCM出稿金額が大きいトップ100ブランドランキング」の企業順では65位にランクされている(甲18)。
(3)申立人の売上
申立人の財務報告書によると、日本での純売上は以下のとおりである(甲20)。
2016年16,928,000,000米ドル(約1兆8千万円)
2015年15,706,000,000米ドル(約1兆7千万円)
2014年15,314,000,000米ドル(約1兆6千万円)
2019年21,506,000,000米ドル(約2兆4千万円)
2018年21,733,000,000米ドル(約2兆3千万円)
2017年17,733,000,000米ドル(約1兆9千万円)
(4)審決例
引用商標は、特許庁においても周知著名商標と認定されている(甲21の1?4)。
(5)小括
上記に示したとおり、引用商標は、申立人の製品・サービスの利用者であれば必ず目にすることのある商標であって、申立人を表す商標として需要者の間において極めて広く知られているものである。申立人の引用商標は、トヨタ、マクドナルド、アディダス等と並ぶ有名ロゴとして理解され、記事にされている(甲22?甲23)。
以上のとおり、引用商標は、我が国及び世界各国における申立人の長年の販売及び販売促進活動の努力により、本件商標の出願時以前より、申立人の莫大な業務上の信用が化体した著名商標となっていたことは明らかである。
3 本件商標が無効とされるべき理由について
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標の要部
本件商標は、林檎の図形を表した構成からなるところ、当該林檎の図形は、上から濃い赤色、赤色、オレンジ色、黄色と思しき四色の色彩で彩られており、林檎の図形の中心部には白色の十字が施されている。そして、「HAYAMA DENTAL CLINIC」の欧文字を当該林檎の図形の周囲に配した構成よりなる。
まず、欧文字の「HAYAMA DENTAL CLINIC」中「HAYAMA」の文字部分は、神奈川県三浦郡に位置する町「葉山町」の名称をアルファベットで表したものであり、「DENTAL CLINIC」は、歯医者の意味を表す一般需要者が誰でも理解できる平易な英単語である。
そうすると、当該欧文字部分は、全体として「神奈川県三浦郡に位置する葉山町にある歯医者」程の観念を生じさせるものであり、本件商標の指定役務「歯科医業」の質を表示するものである。
したがって、当該欧文字部分は、自他役務の出所識別標識としての称呼、観念が生じないものである。
次に、白地に赤色の十字マークは、赤十字マークと呼ばれ、世界各地で人道的活動を行っている各国の赤十字社によって、病院、血液センター、献血ルーム等の医療関連の施設で使用されている。赤十字マークは、我が国においては、日本赤十字社によって、同社が運営する日本全国の病院、医療センター、血液センター等に使用されている。
加えて、白色の十字マークは、障害や疾患などがあることが外見からは分からない人が、支援や配慮を必要としていることを周囲に知らせるためのヘルプマークや、オストメイト(人工肛門・人工膀胱を造設した方)を示すマークとして使用されている実情がある(甲24の1?2)。
このように、十字を施した図形は、病院や医療等を象徴する標識として認知されている実情がある。事実、白色の十字は、医療関連の商品、サービスに一般に使用されている(甲25の1?8)。
したがって、本件商標の林檎の図形中に配された白抜きの十字は、病院や医療関係の役務の提供において一般に使用されているものであり、本件商標の指定役務との関係では、自他役務の識別力を有しないものである。
よって、本件商標中、自他役務の出所識別標識として機能する部分は、林檎の図形部分のみであり、当該林檎の図形部分が本件商標の要部となる。
イ 本件商標と引用商標の類否
上記アで述べたとおり、本件商標の要部は林檎の図形部分である。
これに対し、引用商標は別掲に示したとおりの構成からなる。
引用商標と本件商標の要部を考察すると、両者は、(ア)右側に、(イ)一口かじられた跡、(ウ)一枚の葉を有する(エ)林檎を表した図形からなる点で共通する。
これらの要素を個別に見ると、まず、林檎の実部分については、全体的な形状に加え、底部の凹みの形状及び上部の膨らみの程度が類似している。
かじられた跡についてはいずれも右部分に位置する点で共通している。引用商標はこのかじられた跡を有する点が一般的に描かれる林檎の図形とは一線を画す非常に特徴的な点といえ、同特徴を備えている林檎の図形は申立人を想起させるといっても過言ではない。
したがって、かじられた跡を有するという共通要素を持つという事実は引用商標と本件商標の類否に大きく影響する部分である。
葉についても、林檎の果肉部分と接着させず、右側に一枚配している点で共通している。
本件商標中の林檎の図形は、4色の色彩が施されているが、独立して注意を惹く要素は、当該林檎の形状であり、本件商標中の林檎の図形は、引用商標が有する4つの特徴を全て備えており、看者に外観上酷似した印象を与えるものである。
さらに、観念についてみると、引用商標からは、その著名性ゆえに即座に「アップル インコーポレイテッド」を想起させる。
一方、本件商標の要部である林檎の図形は、それを構成する林檎の実、かじられた跡、一枚の葉という特徴及び各構成要素の本件商標との類似度から、やはり「アップル インコーポレイテッド」をイメージさせるものである。
したがって、両者は観念においても類似するものである。
上述のとおり、引用商標は、申立人又は申立人の製品・サービスを表す商標として我が国において広く知られている実情及び近年、申立人が医療関連の商品・役務に力を注いでいる実情を考慮すると、本件商標が指定役務又はこれに類似する役務に使用された場合、需要者は、本件商標が使用されている役務と申立人の商品・役務と誤解する可能性が高いことは明らかである。
以上より、本件商標と引用商標は、時と所を異にして隔離的に観察した場合、両者は、互いに相紛れるおそれがある類似の商標と解されるべきものである。
ウ 役務の類否
本件商標と引用商標1は、ともに第44類中、類似群「42C01 42V01 42V02 42V03 42X09」の範疇に属する役務を指定しており、両者の指定役務が同一又は類似であることは明白である。
以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第15号について
上記2のとおり、引用商標は、申立人のハウスマークとして長年にわたって使用され、申立人を表示するものとして著名な商標である。
しかして、本件商標は、前述のとおり、引用商標と類似するものであって、万一類似しないとしても、申立人の著名商標である引用商標の構成をモチーフとしたものと解されるものである。
したがって、本件商標が、本件指定役務について使用された場合には、その役務は、申立人又は関連する企業の役務と誤認されるおそれがある。
ア 出願商標とその他人の標章との類似性の程度
本件商標と引用商標の類似性が高いことは、上記(1)イで述べたとおりである。
イ その他人の標章の周知度
申立人の引用商標が非常に高い著名性を有することは、上記2で述べたとおりであり、また、引用商標が、「申立人のロゴマーク」として、取引者、需要者の間に広く認識されていたことは、異議決定において認定されたとおりである(甲21の1)。
ウ その他人の標章が造語よりなるものであるか、又は構成上顕著な特徴を有するものであるか
申立人の引用商標は、申立人による創造商標であり、ピクトグラムのように果物を極めて単純な図で表したものであって、「かじられた林檎」をモチーフとした点が独創的である。
したがって、この独創的な点が共通する本件商標は引用商標を意識させるに十分な図形である。
エ その他人の標章がハウスマークであるか
引用商標が申立人のハウスマーク(会社ロゴ)である。
オ 企業における多角経営の可能性
申立人は、コンピュータ、スマートフォンの分野以外にも様々な事業分野で商品・役務を展開している。例えば、音楽配信サービス「AppleMusic」、映像のストリーミングサービス「AppleTV」の他、中古の申立人製品の下取りサービスを行っている。
これらに加えて、申立人が、医療及びヘルスケアの分野において、申立人の技術を利用した製品・サービスを提供していることは、上記1で述べたとおりである。
したがって、多角経営の可能性は十分に認められる。
カ 商品間、役務間又は商品と役務間の関連性
役務の関連性があることは、本件指定役務と引用商標の抵触関係から明らかである。加えて、申立人が、申立人製品又はアプリケーションを用いて、役務「医療情報の提供,健康管理に関する指導及び助言」等を行っていることは、上記1で述べたとおりである(甲11?甲13)。
したがって、役務等間の関連性は高い。
キ 商品等の需要者の共通性その他取引の実情
上記のとおり、本件商標の指定役務は、引用商標1の指定役務と同一又は類似のものを含むため、共通の需要者が存在することは当然に認められる。
また、近年、申立人の製品であるタブレット型コンピュータiPadを利用して、医療サービスの提供が行われている(甲26の1?4)。
したがって、需要者の共通性は認められる。
以上のとおり、本件商標がその指定役務に使用されると、かかる指定役務分野における需要者は、それらの役務が申立人の業務に係る商品・役務ないし申立人と何等かの関係がある者の業務にかかる商品・役務であると誤認し、出所について混同を生ずるおそれがあることは明らかである。
加えて、特許庁審査基準では、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」について、下記のとおり、説明されている。
その他人の業務に係る商品又は役務(以下「商品等」という)であると誤認し、その商品等の需要者が商品等の出所について混同するおそれがある場合のみならず、その他人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品等であると誤認し、その商品等の需要者が商品等の出所について混同するおそれがある場合をもいう(商標審査基準[改訂第15版]第3十三第4条第1項第15号)。
そうすると、申立人及び引用商標の著名性並びに役務等間の関連性を考慮すると、本件商標が、本件商標の指定役務「医療情報の提供,健康管理に関する指導及び助言」等に使用された場合、本件商標に接する取引者・需要者は、申立人を想起するだけでなく、当該役務の提供が、申立人と経済的又は組織的に何等かの関係がある本件商標権者によって行われていると誤認し、その出所について混同を生じさせるおそれが極めて高いというべきである。
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第19号について
一般的に、林檎の図形のなかでも、あえて、右側部分に一口かじられた跡を有する林檎の図形を、本件指定役務の商標として採用しなければならない必然性ないし必要性は全くない。
したがって、本件商標権者は、申立人の著名商標である引用商標の存在を当然に知りながら、本件商標を採択し登録出願したものと優に推認できる。
上記の事実及び引用商標が、極めて大きな顧客吸引力を有する事実を考慮すれば、本件商標は、引用商標のもつ強大な顧客吸引力・名声への只乗りによって不正の利益を得る目的を有するか、引用商標の有する強い識別力・表示力・顧客吸引力を希釈化することによって申立人に損害を加える目的を有するかのいずれかの不正の目的をもって使用するものと解さざるを得ないものである。
また、特許庁審査基準掲載の要件に沿って考察すると、(ア)引用商標が日本及び外国における需要者の間に広く認識されている商標であり、本件商標が引用商標に類似することは、上記のとおりである。加えて、(イ)引用商標は、申立人による創造商標である。「かじられた林檎」をモチーフとして、ピクトグラムのように果物を極めて単純な図で表した点で、構成上顕著な特徴を有するものである。
したがって、上記(ア)及び(イ)の要件をともに満たすのであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
4 むすび
以上、述べたとおり本件商標は商標法第4条第1項第11号、同第15号又は同第19号に該当し、商標登録を受けることができないものであるから、本件商標登録は同法第43条の2第1号の規定により取り消されるべきである。

第4 当審の判断
1 引用商標の周知・著名性について
(1)申立人の提出した証拠及び同人の主張によれば、次のとおりである。
ア 米国カリフォルニア州に本社を置く申立人は、GAFAと称されるデジタル市場の巨大企業の4つのうちの一社であり、「MacBook」、「iMac」等のパーソナルコンピュータ、スマートフォン「iPhone」、タブレット型コンピュータ「iPod」、腕時計型コンピュータ「Apple Watch」等を製造販売し、音楽・映像配信サービス「Apple Music」、映画・動画配信サービス「Apple TV」、データ保管サービス「iCloud」等を提供する法人である。
イ 申立人は、「世界の最も価値あるブランドランキング」で首位を獲得し、当該ランキングにおいては、2011年から9年連続で首位の座を維持している(甲9)。また、インターブランドジャパン社が発表したブランド価値評価ランキング「Best Global Brands 2020」(BGB2020)においても、申立人は、8年連続で第1位を獲得し、そのブランド価値は3230億ドルと評価されている(甲10)。
ウ 申立人は、公式ウェブサイトの他、店舗の看板に引用商標を使用している(甲15の1)。現在、申立人が運営する店舗(アップルストア)は都市圏にて10店舗あり(甲15の2)、コンピュータやOA機器を販売する大手家電量販店、携帯電話販売店でも申立人の製品は販売されている(甲16の1?6)。また、林檎の図形は、申立人の製品、サービス、広告、販売促進資材等と常に併せて使用されている(甲17の1?10)。
エ 申立人の商品はテレビ及びネットのコマーシャルで頻繁に放送されており、民間会社が行った2017年3月から2018年2月までの「テレビCM出稿金額が大きいトップ100ブランドランキング」の企業順では65位にランクされている(甲18)。
オ 申立人の財務報告書によると、2016年から2017年の日本での年毎の純売上は、約2兆円前後であることがうかがえる(甲20)。
(2)引用商標の周知・著名性の判断
上記(1)を総合的に判断すれば、申立人は、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、デジタルオーディオプレーヤー、タブレット型コンピュータ、腕時計型携帯情報端末等の製造、販売などを主な業務とする米国の企業であって、林檎の図形は、スマートフォン、パーソナルコンピュータ関連商品及びそれにまつわる小売等役務(以下「申立人の業務に係る商品又は役務」という。)の分野において使用され、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認めることができる。
しかしながら、申立人は、申立人の業務に係る商品又は役務以外の商品又は役務の分野における、商標の使用の態様、商品の販売又は役務の提供の実績、広告実績(範囲、回数等)といった、著名性を判断する客観的な事実を証明する資料を提出していないことから、林檎の図形は、申立人の業務に係る商品又は役務以外の商品又は役務を表示するものとして、取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
してみれば、林檎の図形からなる使用商標及び引用商標2ないし引用商標7は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、取引者、需要者の間に広く認識されていたものではあるが、それ以外の商品及び役務についてまで、広く認識されていたものと認めることはできず、また、引用商標1は、申立人の業務に係る商品又は役務を含んでいないことから、取引者、需要者の間に広く認識されていたと認めることもできない。
2 本件商標と引用商標の類否について
(1)本件商標について
本件商標は、別掲1のとおり、赤色、オレンジ色、黄色の階層的なグラデーションで着色され、右側が円弧状に大きく削られ、中心部が十字に白抜きされた林檎の図形と、その図形の外周に沿って、左上方から反時計回りに「HAYAMA DENTAL CLINIC」の欧文字を配した構成よりなるところ、その構成は、外観上まとまりよく一体的に表わされていると看取されるものである。
そして、当該「HAYAMA DENTAL CLINIC」の文字部分からは、「ハヤマデンタルクリニック」の称呼を生じ、特定の観念は生じないものである。また、図形部分からは、特定の称呼及び観念は生じない。
そうすると、本件商標からは、「ハヤマデンタルクリニック」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
(2)引用商標について
引用商標は、別掲2ないし別掲9のとおりの構成からなり、いずれも右上方にかじられたような切り欠きのある簡略化された林檎の図形よりなるところ、これより特定の称呼は生じない。また、引用商標から「かじられた林檎」ほどの観念を生じるほか、使用商標及び引用商標2ないし引用商標7は、上記1(2)のとおり、申立人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして広く認識されていたものであるから、申立人の業務に係る商品又は役務の分野を限度として「申立人のブランド」ほどの観念をも生じるとみるのが自然である。
(3)本件商標と引用商標との類否について
本件商標と引用商標の外観を比較してみるに、本件商標と引用商標の構成はそれぞれ上記(1)及び(2)のとおりであり、林檎図形内の十字の白抜きや文字の有無に差異を有するものであるから、両者の外観は、明らかに異なり、外観において相紛れるおそれはない。
次に、称呼については、上記(1)及び(2)のとおり、本件商標からは「ハヤマデンタルクリニック」の称呼を生じるのに対し、引用商標からは特定の称呼を生じないものであり、また、観念については、上記(1)及び(2)のとおり、本件商標からは特定の観念を生じないのに対し、引用商標からは「申立人のブランド」又は「かじられた林檎」ほどの観念を生じるものであるから、両商標は、称呼及び観念において、相紛れるおそれはない。
してみれば、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標である。
3 商標法第4条第1項第11号について
申立人は、本件商標と引用商標は、時と所を異にして離隔的に観察した場合、両者は、互いに相紛れるおそれがある類似の商標である旨、そして、本件商標と引用商標1の指定役務が同一又は類似である旨主張しているところ、これよりは、本件商標が引用商標1との関係で商標法第4条第1項第11号に該当する旨主張しているものと思われる。
しかしながら、本件商標と引用商標は、上記2のとおり、外観、称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、本件商標と引用商標1についても非類似の商標であること明らかである。
したがって、本件商標は、その指定役務中に引用商標1の指定役務と同一又は類似の役務が含まれているとしても、引用商標1とは非類似の商標であるから、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第15号について
(1)本件商標と引用商標の類似性の程度について
本件商標と引用商標とは、上記2のとおり、非類似の商標であって、別異の商標というべきものである。
(2)本件商標の指定役務と引用商標に係る(指定)商品又は(指定)役務の性質、用途又は目的における関連性の程度について
本件商標の指定役務に係る専門性の高い医業等の医療サービスと引用商標1の指定役務とは一部関連する部分があるとしても、それ以外の引用商標に係る(指定)商品及び(指定)役務とは、品質(質)や用途、流通経路、提供の方法が全く異なる無関係な事業分野であるから、関連性の程度は低いというべきである。
(3)本件商標の指定役務と引用商標に係る(指定)商品 又は(指定)役務の取引者及び需要者の共通性について
本件商標の指定役務と、引用商標に係る(指定)商品又は(指定)役務との関連性は、上記(2)のとおりであるから、両者の商品又は役務の取引者及び需要者は、一部共通にする場合があるとしても、それ以外は異なるものであるから、共通性は低いというべきである。
(4)出所の混同のおそれについて
上記1のとおり、使用商標及び引用商標2ないし引用商標7は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、取引者、需要者の間に広く認識されていたものではあるが、それ以外の商品及び役務についてまで、広く認識されていたものと認めることはできず、また、引用商標1は、申立人の業務に係る商品又は役務を含んでいないことから、取引者、需要者の間に広く認識されていたと認めることもできない。
そして、上記(1)のとおり、本件商標と引用商標とは、非類似の商標であって別異の商標である上に、上記(2)及び(3)のとおり、本件商標の指定役務と引用商標に係る(指定)商品 又は(指定)役務の関連性の程度は低く、その取引者、需要者の共通性も低いものである。
以上、これらを踏まえて本件商標の指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断すれば、本件商標は、商標権者がこれをその指定役務について使用しても、これに接する取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、その役務が申立人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その役務の出所について混同を生ずるおそれはないものと判断するのが相当である。
なお、申立人は、「近年、申立人の製品であるタブレット型コンピュータiPadを利用して、医療サービスの提供が行われている」旨主張している(甲11)。
しかしながら、本件商標と引用商標とが出所の混同を生ずるおそれがないことは、上記のとおり、引用商標の周知・著名性、本件商標と引用商標の類似性の程度等を、総合的に判断した結果であるから、申立人が医療サービスの提供を行っているとしても、それにより、上記判断は左右されないというべきである。
このほかに、申立人のいずれの主張を検討しても、本件商標が引用商標と出所の混同を生ずるおそれがあるとみるべき事情は見いだせない。
(5)小括
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第19号について
本号は、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもって使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)」と規定されている。
そして、上記1のとおり、使用商標及び引用商標2ないし引用商標7は、申立人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、取引者、需要者の間に広く認識されていたと認められるとしても、上記2(3)のとおり、本件商標はそれらの商標とは非類似の商標である。また、申立人が提出した証拠からは、本件商標権者が、本件商標を不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用するものと認めるに足りる具体的事実は見いだせない。
そうすると、本件商標は、商標法第4条第1項第19号を適用するための要件を欠くものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
6 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号及び同第19号のいずれにも違反して登録されたものではなく、他にその登録が同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲
別掲1
本件商標(色彩は原本参照)


別掲2
使用商標(未登録)(色違いを含む。)


別掲3
引用商標1(登録第5714458号商標)


別掲4
引用商標2(登録第2173459号商標)


別掲5
引用商標3(登録第4696655号商標)


別掲6
引用商標4(登録第5054551号商標)


別掲7
引用商標5(登録第5137030号商標)


別掲8
引用商標6(登録第6084697号商標)


別掲9
引用商標7(国際登録第1014459号商標)



異議決定日 2021-10-28 
出願番号 商願2020-73889(T2020-73889) 
審決分類 T 1 651・ 222- Y (W44)
T 1 651・ 261- Y (W44)
T 1 651・ 271- Y (W44)
T 1 651・ 262- Y (W44)
T 1 651・ 263- Y (W44)
最終処分 維持  
前審関与審査官 駒井 芳子河島 紀乃 
特許庁審判長 齋藤 貴博
特許庁審判官 岩崎 安子
板谷 玲子
登録日 2020-11-11 
登録番号 商標登録第6315437号(T6315437) 
権利者 上田 晃裕
商標の称呼 ハヤマデンタルクリニック、ハヤマ 
代理人 特許業務法人大島・西村・宮永商標特許事務所 

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