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審決分類 審判 一部申立て  登録を維持 W43
審判 一部申立て  登録を維持 W43
審判 一部申立て  登録を維持 W43
審判 一部申立て  登録を維持 W43
審判 一部申立て  登録を維持 W43
管理番号 1378965 
異議申立番号 異議2021-900050 
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-09 
確定日 2021-09-30 
異議申立件数
事件の表示 登録第6322208号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6322208号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第6322208号商標(以下「本件商標」という。)は、「NOT A HOTEL」の文字を標準文字で表してなり、令和2年6月2日に登録出願、第43類「宿泊施設の提供,飲食物の提供」を含む、第36類及び第43類に属する商標登録原簿に記載の役務を指定役務として、同年11月6日に登録査定され、同月27日に設定登録されたものである。

2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する商標は次のとおりであり(以下、それらをまとめて「引用商標」という。)、いずれの商標権も現に有効に存続しているものである。
(1)登録第6141297号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の態様 Knot(標準文字)
指定役務 第43類に属する商標登録原簿に記載の役務
登録出願日 平成30年6月27日
設定登録日 平成31年4月26日
(2)登録第5990652号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の態様 HOTEL THE KNOT(標準文字)
指定商品及び指定役務 第24類及び第43類に属する商標登録原簿に記載の商品及び役務
登録出願日 平成29年5月9日
設定登録日 平成29年10月20日
(3)登録第6009442号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の態様 THE KNOT(標準文字)
指定役務 第43類に属する商標登録原簿に記載の役務
登録出願日 平成29年5月9日
設定登録日 平成30年1月5日

3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標はその指定役務中、第43類「宿泊施設の提供,飲食物の提供」(以下「申立役務」という。)について、商標法第4条第1項第11号、同項第10号及び同項第15号に違反して登録されたものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第22号証を提出した。
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標と引用商標1との対比
(ア)本件商標は、「NOT A HOTEL」の文字を標準文字で表したものであり、その構成中「A HOTEL」は、冠詞「A」と名詞「HOTEL」からなり、冠詞「A」は、日本語訳ではわざわざ表現しないことが多い語であって続く名詞と一体に認識される語であるから、「A」には自他役務識別力はないか、極めて弱く、また「HOTEL」の語は、申立役務の内容あるいは提供場所を表すにすぎない部分であると認識されることは明らかである。
そうすると、本件商標の構成中、需要者、取引者にとって自他役務識別力を発揮し得る要部は「NOT」の部分であることになり、「NOT」の部分からは「ノット」の称呼を生じる。
他方、引用商標1「Knot」は、その構成から「ノット」の称呼を生じるものであるから、両商標は称呼を共通にする類似の商標である。
(イ)また、ホテルを表す場合に、ヒルトンホテルをヒルトン、インターコンチネンタルホテルズグループをインターコンチネンタル、ホテルオークラをオークラなどと「ホテル」の部分を省略して呼ばれることもよく知られ、あるいはその逆もあり、多くの需要者、取引者は、役務を提供するホテルの正式な商標として、「ホテル」の語が含まれているかどうかには頓着しないというのが実情といえる。
そうすると、本件商標「NOT A HOTEL」に関しても、需要者がわざわざ「ノット ア ホテル」と記憶したり称呼するよりも、ホテルを表す商標として特徴のある部分である「NOT」の文字部分を記憶し、ホテル名として「ノット」と略称することが多いことが容易に想像できる。
(ウ)特に近年の、店名や人名やタイトルなどあらゆるものを短く省略することが好んで多用されている傾向に鑑みると、役務の内容が「ホテル」であることがわかっている状況で、冠詞「A」まで含めてわざわざ正確に「ノット ア ホテル」と再現して称呼することは少ないと考えられ、むしろ本件商標に接する多くの需要者、取引者は、自他役務識別力の最も強い部分である「NOT」やその称呼である片仮名「ノット」で記憶し再現する可能性が非常に高いと考えられる。
(エ)さらに、多くの我が国の需要者、取引者にとっては、英語のつづりや発音などのわずらわしさもあって、欧文字表記よりも日本語の片仮名表記の方が、読み、記憶、再現などいずれの場合にも、はるかに容易であるから、正式に使用されている商標が欧文字であっても、需要者、取引者は、他者との情報の交換やインターネット検索などの際には、片仮名表示の方を好んで多く利用すると考えるのが実情に合致しており、そうであるとすると、本件商標の要部「NOT」も引用商標1「Knot」も、片仮名表示は全く同一の「ノット」となる。
(オ)しかも、本件商標の「NOT」の文字部分から生じる称呼「ノット」と、引用商標1「Knot」から生じる称呼「ノット」とは、我が国における日本語としての発声が同一であるだけでなく、英語でも発音記号が同じ「同音」の英単語であるから、日本人の需要者、取引者ばかりでなく、例えば旅行で来日する外国人の需要者にとっても、聞き分けることの困難な極めて紛らわしい称呼であり、このことは、外国からの観光客を需要者とするホテルなど宿泊施設の提供や飲食物の提供などの指定役務において、重大な弊害であるから看過することはできない。
(カ)そうすると、例えば、需要者、取引者が、インターネットにより本件商標「NOT A HOTEL」のホテルにアクセスしようとする際には、商標として最も自他役務識別力が強く記憶に残る部分「NOT」の称呼である片仮名「ノット」の語と、商標の一部でもあるとともに求める役務(サービス)を特定するためでもある片仮名「ホテル」の語とにより、検索する可能性が極めて高いといえる。
他方、引用商標1も「ノット」の称呼を生じるから、需要者、取引者がインターネットにより申立人のホテルにアクセスしようとすれば、上記と全く同様に、「ノット」の語と「ホテル」の語とを片仮名で入力して検索することとなり、申立人のホテルを求める需要者、取引者が本件商標のホテルに誘導される、あるいはその逆など、混同を生じるおそれが極めて高いことは明白であり、需要者、取引者にとっても弊害が生じる可能性が高く、両商標は類似の商標であるといえる。
(キ)さらに、我が国における個人のインターネット利用率は約9割であって(甲5)、インターネット上に様々な旅館、ホテルの予約サイトが存在しており、昨今の我が国の旅館、ホテル市場においては、ホテル予約の大半がインターネット検索又は予約サイト経由であるといえるところ、例えば予約サイトでは、サイト運営者などの判断により、我が国の需要者の使い易さに対応するため、正式には欧文字表示のホテル名であっても、片仮名表記によって掲載されていることが多く、検索も片仮名検索に適したものになっている(甲6)。
(ク)以上のような取引界の状況であるから、本件商標の指定役務であるホテル業の商標については、欧文字商標の類否判断において、欧文字よりもその商標の称呼の片仮名による表示の方が、頻繁に取引の場面で使用され、多くの需要者、取引者が多く接しているという特殊な事情が考慮されて判断されるべきであり、本件商標の指定役務における類否判断においては、称呼の共通性、称呼の紛らわしさこそが極めて重要であり、需要者、取引者の出所の混同に直結するといっても過言ではない。
(ケ)してみれば、本件商標と引用商標1は、指定役務「宿泊施設の提供,飲食物の提供」が同一又は類似であって、両商標ともに要部が「ノット」の称呼を生じるから、取引の実情を考慮して、類似の商標であると認定されるべきである。
(コ)以上に対し、「Not」は否定を意味する助動詞の英単語であるのに対し、「Knot」は結び目を意味する英単語であることから、意味合いとつづりは相違するといえる。
しかしながら、英単語「Knot」は我が国における英単語としては英検準1級、2級以上、高校3年以上の水準の英単語(甲7)とされているように、需要者、取引者の誰もが意味合いまで認識しているとはいい難い英単語であり、多くの需要者、取引者が直ちに特定の観念を生じるとは考えられない。
したがって、引用商標1「Knot」に接する需要者、取引者は、特定の観念ではなく、「ノットという宿泊施設(ホテル)」程度に認識するものと思われる。
他方、本件商標「NOT A HOTEL」について、「ホテルではない」との意味合いを認識する可能性も否定はできないが、現実にホテルである場所や役務について使用される商標であることに鑑みれば、需要者、取引者が直ちにわざわざ「ホテルではない」と認識することは稀有なことといわざるを得ず、通常はその音から「ノットというホテル」程度に認識すると考えるのが自然である。
そうすると、両商標は、観念において比較することができず、「ノットという宿泊施設(ホテル)」程度に認識される点において共通する商標であるといえる。
(サ)上述のとおり、本件商標は片仮名「ノット ア ホテル」で表される機会も多く、要部は「ノット」となり、他方、引用商標1も片仮名「ノット」で表されることも多いといえ、需要者、取引者の多くが両商標を片仮名「ノット」により認識し記憶する可能性が高いと考えられ、片仮名「ノット」が両商標において自他役務識別力を発揮するといえる。
そのため、需要者、取引者が両商標の欧文字のつづりを認識する機会は多いとはいえず、欧文字商標としての意味合いやつづりの相違は、需要者、取引者にはほとんど考慮されないこととなり、自他役務識別力の面では、片仮名で認識される称呼「ノット」の共通性が極めて重要で、欧文字の観念や外観の相違を凌駕していると考えられる。
(シ)以上のとおりであるから、本件商標と引用商標1とは、観念において比較することができず、外観において相違はあるものの、称呼が共通して発音も全く同一であり、指定役務において、称呼「ノット」によって印象付けられ記憶されると考えるのが自然であるから、極めて紛らわしく明らかに類似する商標である。
そして、本件商標と引用商標1の指定役務は、同一又は類似のものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。
イ 本件商標と引用商標2との対比
(ア)本件商標「NOT A HOTEL」と引用商標2「HOTEL THE KNOT」は、いずれも大文字の標準文字からなる商標であって、全体が3語からなるとともに、中央に冠詞が存在し、その冠詞の両側に、左右の相違はあるが、一側に「ノット」の称呼を生じる「NOT」又は「KNOT」の語が、他側にはいずれも「HOTEL」の語が配置された構成となっており、商標全体の構成は外観上も称呼上も非常に似通ったものとなっている。
(イ)しかも、3語の中央に位置する冠詞は、「A」と「THE」であるという相違はあるものの、称呼「ア」と「ザ」は、いずれも短く1音で発声する語であって、母音が共通するため、3語からなる商標全体の称呼にとってはその違いは小さく、前後の語の間に何か短い語が存在するという程度の印象であるから、この冠詞部分の称呼の厳密な相違が認識されるよりも、むしろ語と語との間のこの短い冠詞の存在により、商標全体の称呼上のリズムの共通性の方が印象的であって、より紛らわしくなる効果を有している。
(ウ)また、英文における定冠詞「THE」や不定冠詞「A」は、和訳の際に特別の意味合いに訳されないことも多い語であって、我が国において、両語の意味合いや使い方の相違について多くの需要者、取引者が明確に区別して認識しているとは思われず(甲8)、商標に接する需要者、取引者が、直ちに「THE」と「A」の相違に着目し、その意味合いの相違を認識するとは到底考えられない。
(エ)さらに、両商標の称呼は「ノット ア ホテル」と「ホテル ザ ノット」であって、母音が共通する短い1音の「ア」と「ザ」を中心として、いずれも「ホテル」の音と「ノット」の音との組み合わせであり、語順が左右逆であるという相違だけであり、需要者、取引者の記憶には、「ホテル」と「ノット」の組み合わせであったことは残る可能性が高いが、どちらが先かについては不確定になることも多いことは日常生活の記憶においてもよく経験することであるから、称呼上きわめて紛らわしく、両商標は類似の商標であると考えられる。
(オ)そして、両商標全体の観念を比較すれば、引用商標2「HOTEL THE KNOT」の「KNOT」は、上述のとおり、多くの需要者が直ちに意味合いまで認識できる語とはいい難く、また定冠詞「THE」からも特別の意味合いを認識するとは思われないから、引用商標2は特定の観念を生じる商標とはいえない。
他方、本件商標は、上述のとおり、「ホテルではない」との意味合いを認識させる可能性も否定はできないが、現実にホテルである場所や役務について使用される商標であることに鑑みれば、需要者、取引者がわざわざ「ホテルではない」と理解することは極めて稀有なことといわざるを得ない。
そうすると、両商標はそれぞれの特定の観念を比較することはできない商標であり、漠然と「ノットというホテル」程度の認識を生じさせる点では共通する商標であるといえる。
(カ)以上のとおり、両商標は観念においては比較できないものの、称呼において相紛らわしい類似の商標であり、「ノットというホテル」程度の認識を生じさせる点でも共通しており、また、指定役務は同一又は類似のものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。
ウ 本件商標と引用商標3との対比
引用商標3「THE KNOT」は、その構成中の定冠詞「THE」は、上述のとおり、日本語ではわざわざ訳されることが少ない語であって、名詞と一体に認識され、発音したとしても極めて短い1音であるので、自他役務識別力はないか極めて弱く、自他役務識別力を発揮する要部は「KNOT」となり、「ノット」の称呼を生じる。
他方、本件商標も、上述のとおり、要部「NOT」の称呼は「ノット」であるから、両商標は要部の称呼が共通するため類似する商標であって、その指定役務も同一又は類似のものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。
(2)商標法第4条第1項第10号又は同項第15号について
ア 引用商標は申立人の役務を表示する商標として広く認識されている
(ア)申立人は、多数のグループ会社を擁し、総合的な不動産サービス事業やホテル業、太陽光発電を中心としたクリーンエネルギー事業、農業など幅広い事業や社会貢献活動に取り組んでいる資本金約260億円の東証一部上場企業である(甲9)。
申立人は、ホテル事業として、引用商標2及び引用商標3を使用する「いちごデザインホテル」として、2017年12月に神奈川県横浜市でホテル「HOTEL THE KNOT YOKOHAMA」を、2018年8月に東京都新宿区でホテル「THE KNOT TOKYO Shinjuku」を、2020年8月に北海道札幌市でホテル「THE KNOT SAPPORO」及び広島県広島市にホテル「THE KNOT HIROSHIMA」を開業させてサービスの提供を行ってきており、申立人のホームページで紹介する(甲10?甲16)ほか、Web上の多数の予約サイトや旅行業者によって紹介され、全国の需要者に利用されている(甲17?甲19)。
そして、申立人にとってホテル事業は重要な事業の一環であり、今後も全国的に展開させることを予定している。
また、申立人は、上記のホテルをまとめて表す場合にも引用商標2を使用している(甲20)。
(イ)申立人は、上述のホテル群が、旅、街、人などを“結ぶ”ことをコンセプトとしており、ブランドの中心が結び目を意味する「KNOT」の語であるとして引用商標1「KNOT」(決定注:引用商標1は「Knot」であって「KNOT」ではない。)を広告等で紹介しており(甲20)、「KNOT」は申立人のブランド構築にとって中心ともいえる重要な商標である。
(ウ)以上のように、申立人は、全国に展開するホテルブランドの商標として、引用商標を2017年より全国的に使用しているから、これら商標が申立人の役務を示す商標として需要者、取引者に広く認識されていることは明らかである。
イ 出所の混同を生ずるおそれがある状況
(ア)本件商標と引用商標とは、指定役務に関する取引社会における商標の使用のされ方の業界における特別な事情によっても、極めて出所の混同を生ずるおそれが強い商標であるといえる。
(イ)本件商標及び引用商標は、欧文字による登録商標であるが、上述のとおり、我が国におけるホテル業の市場においては、商標権者が意図する、しないに関わらず、インターネット上の予約サイトや紹介記事などに、欧文字商標の称呼である片仮名表示によって掲載されたり紹介されることの方が多いといえる取引の実情があり、また需要者、取引者が記憶した称呼を片仮名によって再現表示して情報交換やインターネット検索に使用することも頻繁に行われているので、引用商標1及び引用商標2も、実際の取引社会において片仮名表示である「ノット」、「ザ ノット」及び「ホテル ザ ノット」により頻繁に使用されている。
その結果、2021年3月に片仮名の「ノット」と「ホテル」の語順及び「ホテル」と「ノット」の語順でgoogle検索したところ、いずれも上位30件以上全てが申立人のホテルに関する記事となっており(甲21、甲22)、このことからも、ホテルの分野において片仮名「ノット」あるいは「ノット」と「ホテル」の組み合わせが、申立人の役務を表す商標の称呼として広く知られていることは疑いようのない事実である。
(ウ)このような状況の中で、本件商標が、その指定役務について使用されることとなれば、実際の取引社会においては、その称呼「ノット ア ホテル」が片仮名表示によって頻繁に使用されることになるから、例え欧文字による外観や観念に相違が認められる商標であるとしても、現実の取引社会における、本件商標と引用商標との紛らわしさ、混同を生じるおそれは明白であって、申立人が築いてきた「KNOT」ブランドにとって、まさに致命的であるといえる。
すなわち、上述のとおり、本件商標と引用商標は、指定役務が共通するホテル業であり、「ノット」の称呼は共通するから、需要者、取引者が本件商標や引用商標1及び引用商標2のサービスを求める際には、インターネット検索において、「ホテル」と「ノット」の語とを片仮名で入力して検索する可能性が極めて高いといえ、全く同じキーワードで検索を行うことになり、混同を生じるおそれがあることは、極めて明白である。
(エ)本件商標と引用商標とが混同を生じることになれば、需要者、取引者に不測の損害を与えるのみならず、申立人がこれまで全国でホテルを開業させ、良好なサービスの提供によって人気を獲得し、蓄積してきた信用や、営業や広告によってブランドの名を広めてきたブランド構築のためのあらゆる企業努力が瞬く間に棄損され、さらにはこれまで蓄積された申立人の信用やブランド力が利用されてしまうおそれすらあり得るといえる。
(オ)また申立人は、「KNOT」ブランドの構築と保護のために、2017年より、引用商標の他にも多数の商標を登録出願し、登録しており(商標登録第5990651号、商標登録第6002154号、商標登録第6055779号)、費用も投じて、商標登録制度による自社ブランドの保護のために可能な限りの努力をしている。
しかし、自社ブランドと紛らわしいと思われるあらゆる商標を前もって防衛的に登録することは現実的に不可能であるから、そのような紛らわしい商標は、拒絶されることを期待するものである。
しかるに、本件商標のように、現実の取引社会において使用されれば明らかに申立人の商標と混同を生じるおそれのある紛らわしい商標が登録されることは、申立人の事業にとって死活問題といえるほどの打撃であり到底容認することはできない。
ウ 小括
以上のとおり、引用商標は、申立人の役務を表示する商標として需要者、取引者の間で広く認識されており、本件商標がその指定役務に使用された場合、需要者が申立人に係る役務と出所について混同するおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号又は同項第15号に違反して登録されたものである。

4 当審の判断
(1)引用商標の周知性について
ア 申立人提出の甲各号証、同人の主張及び職権調査(インターネット情報、新聞記事情報など)によれば、申立人はホテル事業などを営む法人であり、2017年(平成29年)12月に横浜市に「HOTEL THE KNOT YOKOHAMA」、2018年(平成30年)8月に東京都新宿区に「THE KNOT TOKYO Shinjuku」、2020年(令和2年)8月に札幌市に「THE KNOT SAPPORO」及び広島市に「THE KNOT HIROSHIMA」という名称のホテルを開業し、現在も営業していること(甲6、甲9?甲19、職権調査)、申立人は前記ホテルにおける「宿泊施設の提供」について引用商標2及び引用商標3を使用し、自己のウェブページで紹介等していること(甲9?甲13)、及び前記ホテルはインターネット上の複数の予約サイトで紹介されていること(甲6、甲17?甲19)が認められる。
しかしながら、前記ホテルの宿泊者数、売上額など役務の提供実績、すなわち引用商標2及び引用商標3を使用する宿泊施設の提供実績に関する主張や、その実績を具体的に把握し得る証左は見いだせない。
イ 上記アのとおり、申立人は引用商標2及び引用商標3を「宿泊施設の提供」について平成29年から現在まで継続して使用し、自己のウェブページで紹介等していること、引用商標2及び引用商標3を使用するホテルがインターネット上の複数の予約サイトで紹介されていることが認められるものの、引用商標2及び引用商標3を使用する宿泊施設の提供実績を示す証左は見いだせないから、引用商標2及び引用商標3は、申立人の業務に係る役務(宿泊施設の提供)を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
また、引用商標1は、それが「宿泊施設の提供」について使用されていると認めるに足りる証左は見いだせない。
したがって、引用商標は、いずれも申立人の業務に係る役務(宿泊施設の提供)を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
(2)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標
本件商標は、上記1のとおり「NOT A HOTEL」の文字を標準文字で表してなり、該文字に相応して「ノットアホテル」の称呼を生じるものである。
そして、観念については、該文字は「ホテルではない」の意味合いを想起させるものの、特定の観念を生じさせるとまではいえないと判断するのが相当である。
イ 引用商標
引用商標1は、上記2(1)のとおり「Knot」の文字を標準文字で表してなり、該文字に相応して「ノット」の称呼を生じるものである。
そして、観念については、該文字が「結び目」を意味する英単語として比較的知られている語であるから、「結び目」の観念を生じるものである。
引用商標2は、上記2(2)のとおり「HOTEL THE KNOT」の文字を標準文字で表してなり、該文字に相応して「ホテルザノット」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものと判断するのが相当である。
引用商標3は、上記2(3)のとおり「THE KNOT」の文字を標準文字で表してなり、該文字に相応して「ザノット」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものと判断するのが相当である。
ウ 本件商標と引用商標の類否
本件商標と引用商標の類否を検討すると、まず、外観においては、本件商標「NOT A HOTEL」と引用商標1「Knot」、引用商標2「HOTEL THE KNOT」及び引用商標3「THE KNOT」とは、両者の構成文字はいずれも明らかに異なり、外観上、相紛れるおそれのないものと判断するのが相当である。
次に、称呼においては、本件商標から生じる「ノットアホテル」の称呼と引用商標から生じる「ノット」、「ホテルザノット」及び「ザノット」の称呼を比較すると、両者の構成音及び構成音数はいずれも明らかに異なり、称呼上、相紛れるおそれのないものと判断するのが相当である。
さらに、観念においては、特定の観念を生じない本件商標と「結び目」の観念を生じる引用商標1とは、相紛れるおそれはなく、また、本件商標と引用商標2及び引用商標3とは、いずれも特定の観念を生じないものであるから、比較することができない。
そうすると、本件商標と引用商標1は、外観、称呼、観念のいずれにおいても相紛れるおそれがなく、本件商標と引用商標2及び引用商標3とは、観念において比較できないものの、外観、称呼において相紛れるおそれのないものであるから、本件商標と引用商標の外観、称呼、観念等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標というべきものである。
その他、本件商標と引用商標が類似するというべき事情は見いだせない。
エ 申立人の主張について
申立人は、本件商標の構成中「A」及び「HOTEL」は、申立役務との関係において自他役務識別力がないか極めて弱い、ホテルを表す場合に「ホテル」の文字部分が省略して呼ばれるなどから、本件商標の要部は「NOT」の文字部分である、及び、本件商標は「ノット」と略称及び記憶されるなどとして、本件商標と引用商標は類似する旨主張している。
しかしながら、本件商標の構成中「A」及び「HOTEL」の文字は、いずれも単独では自他役務識別力がないか極めて弱いといえるとしても、本件商標の構成文字「NOT A HOTEL」は同書、同大でまとまりよく一体的に表され、その称呼「ノットアホテル」は無理なく一連に称呼し得るものであり、かつ、その構成文字全体から「ホテルではない」程の意味合いを想起させるものであるから、本件商標は、これに接する取引者、需要者をして、その構成文字全体が一体不可分のものとして認識、把握させるものと判断するのが相当である。
また、本件商標が「ノット」と略称及び記憶されると認めるに足りる証左は見いだせず、さらに、本件商標はその構成中「NOT」の文字部分を分離抽出し他の商標と比較検討すべきとする事情も見いだせない。
したがって、申立人のかかる主張は、その前提において採用できない。
オ 小括
以上のとおり、本件商標と引用商標は非類似の商標であるから、本件商標の指定役務中、申立役務と引用商標の指定役務が同一又は類似するとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものといえない。
(3)商標法第4条第1項第10号及び同項第15号について
上記(1)のとおり引用商標は、申立人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認められないものであり、上記(2)のとおり本件商標は、引用商標と相紛れるおそれのない非類似の商標であって別異の商標というべきものである。
そうすると、本件商標は、商標権者がこれを申立役務について使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、その役務が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その役務の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同項第15号のいずれにも該当するものといえない。
(4)むすび
以上のとおり、本件商標の指定役務中、登録異議の申立てに係る指定役務(申立役務)についての登録は、商標法第4条第1項第10号、同項第11号及び同項第15号のいずれにも違反してされたものとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲
異議決定日 2021-09-21 
出願番号 商願2020-67887(T2020-67887) 
審決分類 T 1 652・ 263- Y (W43)
T 1 652・ 271- Y (W43)
T 1 652・ 25- Y (W43)
T 1 652・ 261- Y (W43)
T 1 652・ 262- Y (W43)
最終処分 維持  
前審関与審査官 堀内 真一 
特許庁審判長 榎本 政実
特許庁審判官 小松 里美
豊田 純一
登録日 2020-11-27 
登録番号 商標登録第6322208号(T6322208) 
権利者 NOT A HOTEL株式会社
商標の称呼 ノットアホテル、ノットア 
代理人 橋本 克彦 
代理人 橋本 京子 

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