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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W09
管理番号 1378952 
審判番号 取消2018-670034 
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2018-09-12 
確定日 2021-07-30 
事件の表示 上記当事者間の国際登録第1210107号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 国際登録第1210107号商標の指定商品及び指定役務中、第9類「Computer hardware and computer software;computer games software;downloadable software for mobile phones and tablet computers;mobile telephones;mobile data communications and telecommunications apparatus;computer hardware and software for controlling the operation of digital electronic devices and for the reproduction,processing and streaming of audio,video and multimedia content;computer programs for playing games;programs for handheld games;magnetic discs,optical discs,optical magnetic discs,magnetic tapes,ROM cards,ROM cartridges,CD-ROMs,DVD-ROMs and other storage media storing programs;sound,video and data recording and reproducing instruments and apparatus;downloadable computer programs and computer games programs;audio-visual teaching apparatus;electronic books and publications;parts and fittings for all the aforesaid goods.」についての商標登録を取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件国際登録第1210107号商標(以下「本件商標」という。)は、「QURATE」の欧文字を横書きしてなり,2013年(平成25年)1月23日にEUIPOにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、同年7月18日に国際商標登録出願、第9類「Computer hardware and computer software;computer games software;downloadable software for mobile phones and tablet computers;mobile telephones;mobile data communications and telecommunications apparatus;computer hardware and software for controlling the operation of digital electronic devices and for the reproduction,processing and streaming of audio,video and multimedia content;computer programs for playing games;programs for handheld games;magnetic discs,optical discs,optical magnetic discs,magnetic tapes,ROM cards,ROM cartridges,CD-ROMs,DVD-ROMs and other storage media storing programs;sound,video and data recording and reproducing instruments and apparatus;downloadable computer programs and computer games programs;audio-visual teaching apparatus;electronic books and publications;parts and fittings for all the aforesaid goods.」(以下「本件取消請求に係る指定商品」という。)、第38類、第41類及び第42類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載の商品及び役務を指定商品及び指定役務として、2015年(平成27年)9月11日に設定登録されたものである。
なお、本件審判の請求の登録は、2018年(平成30年)9月21日にされたものであり、この登録前3年以内の期間を、以下「要証期間」という。
第2 請求人の主張の要点
請求人は、結論同旨の審決を求め、審判請求書、平成31年1月7日付け審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)に対する同年3月8日付け審判事件弁駁書(以下「弁駁書」という。)にて、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、審判請求書で甲第1号証及び甲第2号証を、弁駁書で甲第3号証及び甲第4号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、本件取消請求に係る指定商品について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者(以下「商標権者又は使用権者」という場合がある。)のいずれによっても使用された事実がないから、その登録は商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 弁駁書の要旨
被請求人は、答弁書にて、本件商標を、本件取消請求に係る指定商品中「Computer hardware and computer software;downloadable software for mobile phones and tablet computers;downloadable computer programs and computer games programs;」(以下「本件使用商品」という。)に使用しているとして、乙第1号証ないし乙第10号証を提出しているが、被請求人の提出した証拠には、通常使用権者であると主張するところの「株式会社Qurate」(以下「Qurate社」という。)の商号及びその要部が表示されているものの、本件商標が使用されていることは示されていないし、本件取消請求に係る指定商品のいずれかについて、日本国内で要証期間に使用されていたことも証明されていない。
(1)各争点についての総論
ア 本件商標の商標権者とQurate社の関係について
被請求人は、本件商標の商標権者(以下「本件商標権者」という。)が代表取締役を務めるQurate社に黙示の通常使用権を許諾している旨主張するが、その真偽は確認できない。
イ 被請求人が商標の使用であると主張する表示について
被請求人は、乙第3号証ないし乙第7号証に本件商標が表示されていると主張するが、被請求人が指摘する表示はいずれもQurate社の商号の要部を記載したものであって、自他の商品を識別するための商標の使用には該当しない。
具体的な商品、役務に関して用いられているのは「Que」などであって、「Qurate」が何らかの具体的な商品、役務に関して使用されている事実は示されておらず、専ら商号の一部または要部として表示されているにとどまる。
ウ 使用に係る商品・役務について
(ア)被請求人によれば、商標「Que」が用いられている対象はアプリケーションソフトウェア(アプリ)であるとし、スマートフォンに無料でダウンロードできるとされている。
商品は有償で販売されることが原則であり、無償で提供されるものは商品でないというべきであるが、この点を別にしても、商標「Que」に係る本件商標権者等の事業はウェブサイトのホスティングであって、このホスティング事業について対価を得ているのであって、無料でダウンロードされるソフトウェアは、ホスティングすべきウェブサイトを顧客に作成させるための道具にすぎない。
(イ)これを商標法の条文に則していえば、Qurate社等が商標「Que」を用いて行っていることは、商標法第2条第3項第3号の「役務(ホスティング)の提供に当たりその提供を受ける者(顧客)の利用に供する物(ソフトウェア)に標章を付する行為」、同項第4号「役務(ホスティング)の提供に当たりその提供を受ける者(顧客)の利用に供する物(ソフトウェア)に標章を付したものを用いて役務を提供する行為」、及び同項第8号「役務(ホスティング)に関する広告に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報(ウェブサイト)に標章を付して電磁的方法により提供する行為」である。
したがって、本件商標はおろか、商標「Que」にしてさえ、第9類の指定商品について使用されている事実はない。
(ウ)なお、付言すれば、被請求人は「Computer hardware」や「computer games programs」についての使用に関して何ら主張するところがない。
しかし、指定商品の記載は「Computer hardware and computer software;downloadable computer programs and computer games programs」であって、セミコロンで区分された各商品が「and」で結合されている。
これは、コンピュータハードウェアとソフトウェアの双方、コンピュータプログラムとコンピュータゲームプログラムの双方、を含んで一つの商品と解すべきであって、「and」の前後がそれぞれ独立した指定商品ではない。独立した指定商品はセミコロンで区分された部分である。
したがって、「Computer hardware and computer software:downloadable computer programs and computer games programs」については使用の証明がなされていない。
エ 使用地域について
本件商標が付されていると被請求人が主張する乙第4号証と乙第5号証は英語のみであり、日本語は用いられていない。
乙第6号証は日本語の頁と英語の頁があるが、完全に一致しているわけではなく、料金プランは英語の頁のみに記載されており、日本語の頁には存在しない。
これらの事実、並びに被請求人である本件商標権者が英語を母国語とすることを勘案すると、商標「Que」を用いたホスティングサービスは日本国内向けではなく、専ら外国(特に英語圏)向けに展開されているものと考えられる。
そうとすると、Qurate社が日本国内に所在するとしても、本件商標はおろか、「Que」でさえ実質的に日本国内で使用されていないのではないかと推測される。少なくとも、日本国内に顧客が存在することの証明なしに、本件商標が国内で使用されたことを肯定することはできない。
オ 使用時期について
乙第3号証の1枚目には「最終更新日:2016年8月10日」と記載されているが、本号証の2枚目と3枚目には日付が見当たらない。
これらの頁が要証期間に存在していたことは証明されていない。
乙第4号証は、各頁の右下端に「2018/12/28」と表示されていることから、2018年(平成30年)12月28日にコンピュータから印刷されたものであると考えられるところ、これは要証期間外であるから、要証期間に本号証と同じ画面を有するウェブサイトが存在していたことは証明されていない。
乙第5号証は、被請求人によれば印刷物による広告であり、2018年(平成30年)12月14日に印刷したとされているから、要証期間に頒布されていないことは明らかである。
乙第6号証は、二つのウェブサイトの画面を印刷して組み合わせたものと考えられるところ、本号証の1枚目には日付が表示されておらず、2枚目以降は右下端に「2018/12/20」とあることから、2018年(平成30年)12月20日に印刷したものと考えられるが、これは要証期間外であるから、要証期間に本号証と同じ画面を有するウェブサイトが存在していたことは証明されていない。
乙第7号証の1頁には「2016年2月22日」と記載され、同日に作成された広告物であるとされている。
しかし、印刷した広告物により使用を証明しようとする場合、印刷会社など第三者からの証明書や納品伝票などが客観的な証拠となるのであって、単に広告物の写しを提出するだけでは足りない。
乙第7号証が、コンピュータを用いてQurate社等が自ら作成したものであるとすれば、日付はいかようにでも記載することができるのであるし、どの程度の分量が作成されたのかも不明である。
さらに、乙第7号証がどのように頒布されたのかも説明がなく、そもそも広告物として頒布されたのかさえ不明である。
したがって、上記の各証拠が要証期間に存在していたり頒布された事実は証明されておらず、これらの証拠をもって本件商標が要証期間に使用されたとすることはできない。
カ 乙第8号証ないし乙第10号証
これらの証拠に本件商標は見当たらないから、使用に関する直接的な証拠にはなり得ない。
(2)各証拠についての詳論
ア 乙第3号証について
乙第3号証は、経済産業省九州経済産業局のウェブサイトであって、官庁がその所管地域の状況について告知するためのものである。
そこで、Qurate社等が取り上げられているとしても、事実の紹介にとどまるものであって、同社等の事業について需要者に訴求するためではないから、「広告」には該当しない。官公庁が、一民間企業のためにその商品や役務について広告を行うことはない。よって、本号証の2葉目と3葉目の右上端に「Qurate」の文字が表示されているとしても、商標法第2条第3項に列挙するいずれの行為にも該当せず、本件取消請求に係る指定商品との関係を論ずるまでもなく、本件商標の使用を証するものではない。
なお、乙第3号証に表示されている「Qurate」は、具体的な商品、役務との関係で表示されているものではなく、本文中に登場する「Qurate」と同様に、「株式会社Qurate」の商号の略称を表示したにとどまると見るべきである。
イ 乙第4号証について
被請求人が本件商標の使用であると主張しているのは、「Company」と題する項目で赤線が付された表示と思われるところ、乙第4号証の3頁目に表示された「Qurate Inc.」は、Qurate社の商号を英文で表記したものであることが明らかであって、商標ではない。本号証の1頁目には「Qurate」がやや大きく表されているが、具体的な商品や役務との関係で用いられているものではないから、商号の略称と認識されることが自然である。このことは、米国で一般的な登録表示が付されていることで変わるものではない。
そもそも、乙第4号証(訳文を含む)を読んでも、Qurate社等がどのような商品や役務を提供しているのかが定かでない。本号証のウェブサイトは、国内ではなく英語圏の需要者をターゲットにしていることを示唆している。
ウ 乙第5号証について
乙第5号証は、要証期間後に作成された広告物であるから、使用を示す証拠となり得ないものであり、本号証を平均的な日本人が読んでもQurate社がどのような商品や役務を提供しているのかは理解できない。
乙第5号証に、乙第4号証のウェブサイトのアドレスを記載するだけで、当該ウェブサイトの内容を乙第5号証の一部とすることはできない。
エ 乙第6号証について
(ア)請求人が乙第4号証のウェブサイトを訪問し、「Company」の項目に移動すると、乙第6号証の1枚目と同様な画面が表示された。
そして、下段に表示された「Que」をクリックすると、乙第6号証のうちの英語頁に移動した。英語頁の1枚目の右肩にある「日本語」をクリックすると、乙第6号証の日本語頁に移動した。
すなわち、乙第6号証は、乙第4号証のウェブサイトの一部と、それとは別のウェブサイトを印刷して組み合わせ、かつ、英語頁と日本語頁の順序を入れ替えたものである。
(イ)乙第6号証には、被請求人が第9類の商品であると主張するソフトウェア(アプリ)の説明が記載されている。このソフトウェアを用いることでウェブサイトを容易に作成することができるもののようであるが、ソフトウェアの標章は「Que」であって、本件商標ではない。被請求人は乙第6号証に本件商標が記載されていると主張するが、明らかにミスリードである。
当該ウェブサイトにはどこにも「Qurate」が表示されていない。英語頁の中には「Powered by Qurate」や「Que is brought to you by Qurate,see what else we make at Qurate.com」との記載がある。
しかしながら、「Qurate」で特定される具体的な商品や役務が存在しない以上、これらの記載における「Qurate」は商号の略称と理解されるのが自然である。
「Powered by ◯◯」は比較的最近になって目にするようになった用法であるが、「その会社のテクノロジーを使っている、その会社がサービスのインフラを支えている」との意味合いのようである(甲3)。
したがって、乙第6号証のウェブサイトにおいて「Powered by Qurate」に気付いた者は、当該ウェブサイトにQurate社の技術が用いられているといった意味合いに理解するのであって、「Qurate」を商号の略称と認識するにとどまる。
付言すれば、「Powered by Qurate」が本件商標と社会通念上同一の標章といえないことは明らかである。
(ウ)被請求人は、本件商標を商品「Que」に使用したと主張しているが、当該ソフトウェアの標章は「Que」に他ならず、なにゆえに本件商標が当該ソフトウェアに使用されたことになるのか、被請求人は何ら主張するところがない。
(エ)「Que」は第9類の商品であるソフトウェアに使用されている、というのが被請求人の主張である。当該ソフトウェアはAppStoreからダウンロードできるから、外観上は「downloadable software for mobile phones and tablet computers」に該当するようにも見える。
しかしながら、ダウンロードに際して課金はなされず、無料でインストールすることができる。無料で配布されるノベルティは商品でないことは、一般に認められているところであるが、無料であることから直ちに商品性を否定することはできないとの立場に立ったとしても、本件でQurate社等が行っている事業は、「Que」を用いてユーザが作成したウェブサイトをホスティングするという役務であって、ソフトウェア「Que」は当該「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」に他ならない。
a 「Que」を用いれば簡単にウェブサイトが作成できるとされており、具体的にはQurate社等が用意した「カード」を組み合わせることでウェブサイトを作成するようであるが、乙第7号証の13頁に表示された画面の上端に「TemplateEditor」なる記載があることから、この「カード」なるものはワードプロセッサなどで広く普及しているテンプレートと同等のものと思われる。
作成されたウェブサイトは、インターネットに接続されたサーバに格納されなければならないところ、「Que」を利用した場合は自動的にQurate社等が管理するサーバ(レンタルサーバの記憶領域の一部である可能性が高い)に格納されると考えられる。
けだし、そうでなければ作成したウェブサイトを閲覧したり、公開することができないからである。乙第6号証の8枚目(4 Make it low costの見出しがある)の第2段落に「ウェブサイトを作り、一般公開する前に、友達とそのサイトをシェアして閲覧することも可能です。一般公開を決めた時点で、無料プランか有料プランを選んで下さい。」と記載されているが、これは「Que」を用いて作成されたウェブサイトが自動的にサーバに格納されることを前提としている。そして、そのサーバはQurate社等が管理するサーバ以外には考えられない。
乙第7号証に「ドメイン.que.tm」と記載されているのが、その証である。
b 乙第6号証の19枚目(末尾から2枚目)には料金プランが掲載されている。「LITEPLAN」は無料、「YEARLYPLAN」は月額にして6.67ドル(79.99ドルの一括払い)、「MONTHLYPLAN」は9.99ドルの月払いとある。商品としてのソフトウェアの対価であれば、使用期間に拘わらず同じ料金が設定されるべきところ、Qurate社等のプランでは期間に応じた料金が課されている。この料金が何であるかといえば、ユーザが「Que」を用いて作成したウェブサイトを管理、維持するための費用であり、まさにホスティングの対価に他ならない。無料プランは、Qurate社等のホスティングサービスを普及させるための手段であって、役務の提供促進策である。
c したがって、独立した収支計算の下に行われるQurate社等の事業はウェブサイトのホスティングであって、商標「Que」はこの役務について用いられているとすることが、実態に合致している。ソフトウェアは、この役務を提供するのに付随してダウンロードされるにすぎず、独立して商取引の対象となる商品ではない。商標法の規定に則していえば、Qurate社等の提供に係るソフトウェアは、「役務(ホスティング)の提供に当たりその提供を受ける者(顧客)の利用に供する物(ソフトウェア)」であるから、「Que」が第9類の商品に使用される商標でない以上、本件商標が第9類の指定裔品について使用されているとの被請求人の主張は、根拠を欠くものである。
(オ)乙第6号証の日本語頁には、英語頁にある料金プランに相当する記載がない。英語頁の料金プランがドル建てであることも勘案すると、「Que」は専ら外国向けに提供されるホスティングサービスであって、国内向けではないと見ることが自然である。とすれば、ホスティングサービス並びにそれに付随するソフトウェアのダウンロードも日本国内では行われておらず、役務の提供の申し出も専ら外国向けと考えられる。日本語頁が存在するのは、日本国内での名目的な使用ではないかと推測される。
(カ)以上のとおり、乙第6号証又はこれとその他の証拠を組み合わせても、Qurate社等が本件商標を本件取消請求に係る指定商品に使用した事実は見当たらない。
オ 乙第7号証について
(ア)被請求人によれば、乙第7号証は商品「Que」の印刷物による広告であるとされている。そうであれば、これがいつ、どこで、どれだけの分量が、どのようにして頒布されたのかを明らかにすべきである。
(イ)乙第7号証の1枚目の下段には「Media Info」と記載されている。これがどのような意味合いなのか、辞書類に掲載がなく、インターネットで検索しても定かでないが、「Info」は「Information」の略語として用いられる例が多いことからすれば「メディア向けの情報」と理解することができる。すなわち、メディア向けに配付した資料であり、いわゆるプレスリリースの類ではないかと推測される。
このことは乙第7号証の15枚目に「株式会社Qurate(キュレイト)は、Que(キュー)の提供を開始したことを正式に発表致します。」と記載され、18枚目に「取材・広報に関するお問い合わせ」として広報担当者の氏名や連絡先が記載されていることからも、十分に首肯されるところである。
さらに、乙第7号証の19枚目(末尾から2枚目)には「会社概要」が記載されているが、一般に商品や役務の広告物に会社概要を記載するようなことはない。
(ウ)広告物であれば、商品や役務の見込み顧客を対象に頒布されるべきであるところ、メディア向けのプレスリリースは、メディアに商品や役務を取り上げて貰うことを目的として、限られた一部の者だけに配布されるものであるから、それ自体はそもそも広告に該当しないと見るべきである。
加えて、学説では、「頒布」とは、広告等が一般に閲覧可能な状態となっていることを意味すると解されている(甲4)。
また、裁判例では、広告が掲載された情報誌を小売店に発送しただけでは「頒布」に当たらず、外国人である商標権者が、その完全子会社及び独占的輸入業者に対して、これらの者の使用のみに供するために作成されたカタログを配布することは「頒布」に当たらないと判断されている(甲4)。
したがって、仮に乙第7号証を広告と見る余地があるとしても、メディア向けのプレスリリースである限り、「頒布」には該当しない。
(エ)乙第7号証の16枚目には「価格」が掲載されており、「サービスの公式価格は、アメリカドルで設定しております。」と記載されているが、このことは、Qurate社等が自ら、「Que」がサービス(ホスティングサービス)であると認識していることを示している。
また、日本円の価格も併記されているものの、日本のメディア向けであるから名目的に日本円を併記しているにすぎない。真に国内の顧客に向けて営業活動をするのであれば、ウェブサイト(乙6)に価格を掲載するはずであるし、「その他の主要な通貨」として、米ドル以外の通貨での料金プランが記載されていたり、「サポート(現在英語のみ)」とあるのも、「Que」のホスティングサービスが専ら国外向けであるからである。
なお、ソフトウェアは無料でダウンロードできるものであり、月又は年単位で課金されるのは、継続的なホスティングサービスが提供されるからである。
(オ)乙第7号証の「会社概要」の頁には、その中段に「Qurate」がやや大きな文字で表されている。被請求人はこれをもって本件商標の指定商品についての使用であると主張するが、乙第7号証が広告に当たらず、頒布もされていないことからすれば、商標の使用に該当しないことは明らかである。
さらに付言すれば、ここに表された「Qurate」は具体的な商品や役務と無関係に表示されており、商号の略称と認識されるにとどまる。
(カ)仮に、乙第7号証が要証期間にいくつかのメディア向けに送付され、そこに何らかの商標の使用があったとしても、名目的な使用にすぎない。
カ 乙第8号証について
乙第8号証は、被請求人によれば、米国のインターネットメディアに掲載された「Que」の紹介記事とのことである。その内容から推測すると、Qurate社等が同メディアに提供した資料に基づいているものであるが、米国のメディア向けに資料を提供しているのは、米国市場が主たるターゲットであるからと推測できる。この証拠に本件商標は一切表れておらず、仮に2016年(平成28年)2月12日に「Que」のホスティングサービスが存在していたことがうかがわれるとしても、本件商標の使用とは何ら関係がない。
キ 乙第9号証について
乙第9号証はインターネット上のニュースリリース用ウェブサイトに掲載された「Que」の紹介記事とのことであるが、本件商標は一切表れていない。2016年(平成28年)2月に「Que」のサービスが開始されたとしても、本件商標の使用に繋がらないことは上述のとおりである。
ク 乙第10号証について
乙第10号証に本件商標は表されておらず、乙第10号証の1枚目の左肩に表示された「Qurate Inc.」は英文の商号と理解されることが明らかである。
なお、被請求人は「Que」を譲渡していると主張するが、ダウンロードは無料であって販売ではない。AppStoreにおける「Que」の表示は、「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為」(商標法第2条第3項第5号)に当たるものである。
(3)結び
以上のとおり、被請求人が提出した証拠によっては、本件商標が本件取消請求に係る指定商品のいずれかにつき、日本国内で、要証期間に、使用された事実が何ら証明されていない。
第3 被請求人の主張の要点
被請求人は、本審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、答弁書において、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第10号証を提出した。
1 本件商標の使用事実
(1)商標の使用者
乙第1号証は、本件商標の商標登録原簿であり、本件商標権者「ThomasBrooke」は、自己が代表取締役を務めるQrate社に対して、本件商標の通常使用権を黙示的に許諾している。
乙第2号証は、Qurate社の履歴事項全部証明書であり、本件商標権者は居所を「福岡市中央区黒門3番22-201号」として、平成26年(2014年)2月4日付けで同住所にQurate社を設立し、同社の代表取締役を務めている。Qurate社の履歴事項全部証明書(乙2)の目的の欄には、同社の目的として、「1.メディアコンテンツの企画、デザイン、開発、導入支援、販売、マーケティング及びメンテナンス」、「2.コンピュータアプリケーションの企画、デザイン、開発、導入支援、販売、マーケティング及びメンテナンス」、「3.ウェブアプリケーションの企画、デザイン、開発、導入支援、販売、マーケティング及びメンテナンス」、「4.企業イメージの構築支援及び企業ブランディング」、「5.ハードウェアと統合するアプリケーション、ウェブサイト及びシステム(IoT)の企画、デザイン、開発、導入支援、販売、マーケティング及びメンテナンス」、「6.前号に付帯関連する一切の事業」と記載されており、同社は当該目的に沿った事業を日本国内で行っている。
乙第3号証は、Qurate社を紹介する記事であり、経済産業省九州経済産業局のウェブサイトにおける「九州の主な外資系企業・外国人による創業の事例に掲載されている。Qurate社を紹介する記事(乙3)には、本件商標が記載されるとともに、同社の代表取締役を本件商標権者が務めている旨、同社の事業内容、同社が本件商標を使用したシステムを開発した旨、本件商標を使用したシステムのメリット等が記載されていることから、乙第3号証は、同社の広告に相当する。Qurate社を紹介する記事(乙3)に記載した住所は、履歴事項全部証明書(乙2)の本店の欄に記載された同社の旧住所「福岡県福岡市中央区大名1丁目14番28第一松村ビル402号室」と同一であるから、同社は本件商標を使用している。
乙第4号証は、Qurate社のウェブサイトによる広告であり、同社が自己の業務を紹介するために制作して開設し、維持及び管理するものである。
Qurate社のウェブサイトによる広告(乙4)中の「Company」の項目には、本件商標を記載しており、同社の住所は、履歴事項全部証明書(乙2)の本店の欄に記載された住所と同一である。
したがって、Qurate社は本件商標を使用している。
また、Qurate社は、同社のウェブサイトによる広告(乙4)中の「OurTeam」の項目において、同社のCEO(最高経営責任者)として、本件商標権者を記載して紹介している。
乙第5号証は、Qurate社の印刷物による広告であり、同社が自己の業務を紹介するために制作して配布したものである。
Qurate社は、当該資料に本件商標を記載するとともに、自己の事業を紹介するウェブサイトのアドレス「qurate.com」を記載することにより、当該資料の閲覧者を同社のウェブサイトによる広告(乙4)へ誘導して、同社の事業の内容及び連絡先を紹介している。
したがって、Qurate社は本件商標を使用している。
乙第6号証は、商品「Que」のウェブサイトによる広告であり、Qurate社が開発して譲渡する商品「Que」を紹介及び宣伝のために、同社が開設したウェブサイトである。
乙第6号証のウェブサイトへのリンクは、乙第4号証のQurate社のウェブサイトによる広告内の「Company」の項目内に設けられており、乙第6号証のウェブサイト中の「Company」の項目には、本件商標を記載し、使用権者の住所を記載しており、この住所は、「履歴事項全部証明書」(乙2)の本店の欄に記載されたQurate社の住所と同一である。
したがって、Qurate社は本件商標を使用している。
乙第7号証は、商品「Que」の印刷物による広告であり、「株式会社Qurate(キュレイト)は、Que(キュウ)の登場をお知らせできることに、とてもわくわくしています。」、また、「株式会社Qurate(キュレイト)は、Queの提供を開始したことを正式に発表いたします。」と記載して、Qurate社が商品「Que」を開発して譲渡することを明らかにしている。
そして、「会社概要」の頁には、本件商標を記載するとともに、Qurate社の名称及び住所を記載しており、この住所は、「履歴事項全部証明書」(乙2)の本店の欄に記載されたQurate社の旧住所と同一である。
したがって、Qurate社は本件商標を使用している。
乙第9号証は、PRTIMESによる商品「Que」の紹介記事であり、当該記事には、「システム&ソフトウェア開発業を行う株式会社Qurate(本社:福岡県福岡市中央区 代表:Tom Brooke)は、スマートフォンやタブレット等のモバイルデバイス、またはデスクトップ、パソコン等を使って、誰もが簡単に全デバイス対応ウェブサイトを作成することができるアプリ『Que』を開発し、2016年2月10日より全世界で配信を開始いたしました。」と記載されている。
この記事により、Qurate社の代表が本件商標権者であること、乙第6号証及び乙第7号証に関して、Qurate社が商品「Que」の開発及び譲渡を行い、本件商標を使用したことが明かになる。
(2)使用に係る商品
Qurate社は、本件商標を商品「Que」に使用したことにより、本件商標を第9類の指定商品中の本件使用商品に使用した。
商品「Que」のウェブサイトによる広告(乙6)には、商品「Que」の説明を記載しており、Qurate社は、商品「Que」の説明として、「誰もが簡単にウェブサイトを作ることができるアプリは、現在まで、存在していませんでした。Que(キュウ)は、それを可能にするアプリです。」と記載し、「もし、あなたがスマートフォンかコンピューターを操作できるのなら、Queを使って、今すぐ簡単にウェブサイトを作ることができます。」と記載していることから、商品「Que」は、スマートフォンやコンピューターでウェブサイトを作成するアプリであることが明かである。
ここで、「アプリ」の語は「アプリケーションソフトウェア」の語を省略した語であり、一般的に、「アプリケーションソフトウェア」は「ソフトウェア」に包含される商品であるから、商品「Que」は、本件商標の第9類の指定商品中「Computer hardware and computer software」に該当する商品である。
商品「Que」のウェブサイトによる広告(乙6)には、「もし、あなたがスマートフォンかコンピューターを操作できるのなら、Queを使って、今すぐ簡単にウェブサイトを作ることができます。」及び、「Queは、無料でiOSアプリのダウンロードと、ブラウザー上でのウェブアプリへのサインアップ(メンバー登録)ができます。」と記載して、「AppStoreからダウンロード」と記載したボタンを設けている。このボタンをクリックすると、乙第10号証に表した商品「Que」をダウンロード可能なアップル社が提供するアップルストアのウェブサイトに転送される。
需要者は、アップルストアのウェブサイト中の「入手」のボタンをクリックすることにより、自己のデスクトップ型コンピューター、ノートブック型コンピューター、タブレット型コンピューター、スマートフォン(携帯電話)の端末に商品「Que」をダウンロードして使用できる。
したがって、商品「Que」は、第9類の指定商品中「downloadable software for mobile phones and tablet computers」に該当する商品である。
さらに、一般的に、「プログラム」は「アプリケーションソフトウェア」を包含する商品であることから、商品「Que」は、本件商標の第9類の指定商品中「downloadable computer programs and computer games programs」に該当する商品である。
商品「Que」の印刷物による広告(乙7)には、「『Que(キュウ)』は、全てのデバイス上で素晴らしく見映えのする美しいウェブサイトを最もシンプルに、最も早く作るためのアプリです。」と記載していることから、商品「Que」は、ウェブサイトの作成に用いるアプリケーションソフトウェアであることが明らかである。
一般的に、「アプリケーションソフトウェア」は「ソフトウェア」に包含される商品である。
したがって、商品「Que」は、本件商標の第9類の指定商品中「Computer hardware and computer software」に該当する商品である。
商品「Que」の印刷物による広告(乙7)には、「もし、あなたがスマートフォンかコンピューターを操作することさえできるのならば、今すぐ簡単にウェブサイトを作ることができます。」と記載し、「QueのiOSバージョンは、AppStoreよりダウンロードすることができます。このアプリは、iOS8以上に対応した、iPad、iPadPro、iPhone、iPadtouchの全デバイスでご利用いただけます。」と記載していることから、商品「Que」は、デスクトップ型コンピューター、ノートブック型コンピューター、タブレット型コンピューター、スマートフォン(携帯電話)において、ダウンロードにより利用可能なアプリケーションソフトウェアである。
一般的に、「アプリケーションソフトウェア」は「ソフトウェア」に包含される商品である。
したがって、商品「Que」は、第9類の指定商品中「downloadable software for mobile phones and tablet computers」に該当する商品である。
さらに、一般的に「プログラム」は「アプリケーションソフトウェア」を包含する商品であることから、商品「Que」は、本願商標の第9類の指定商品中「downloadable computer programs and computer games programs」に該当する商品である。
乙第8号証は、NewsWatchTVによる商品「Que」の紹介記事であり、当該記事には、商品「Que」の説明とスマートフォン(携帯電話)における商品「Que」の使用状況を記録した動画が記載されている。
乙第8号証の記事において、商品「Que」は、「あらゆるデバイス上で、見栄えのする素晴らしいウェブサイトを制作するための、シンプルかつ高速なアプリ」と紹介され、かつ「AppStoreで今日のうちにダウンロードするか、あるいはQue.tmのウェブサイトに立ち寄ってください。」と記載されていることから、商品「Que」は、ダウンロード可能なアプリケーションソフトウェアであることが明らかである。
したがって、商品「Que」は、本件商標の第9類の指定商品中「Computer hardware and computer software;downloadable software for mobile phones and tablet computers;downloadable computer programs and computer games programs」に該当する商品である。
乙第9号証のPRTIMESによる商品「Que」の紹介記事には、商品「Que」を、「スマートフォンやタブレット等のモバイルデバイス、またはデスクトップ、パソコン等を使って、誰もが簡単に全デバイス対応ウェブサイトを作成することができるアプリ」、「今すぐウェブサイトを作ることができるアプリです。」と記載されている。
そして、「AppStoreにてアプリをダウンロード後、端末にインストールしてご利用ください。」、「無料版のWebappを利用する場合、以下のURLをブラウザー上で入力してご利用ください。」と記載されていることから、商品「Que」は、ダウンロード可能なアプリケーションソフトウェアであることが明らかである。
したがって、商品「Que」は、本件商標の第9類の指定商品中「Computer hardware and computer software;downloadable software for mobile phones and tablet computers;downloadable computer programs and computer games programs」に該当する商品である。
乙第10号証は、アップル社がウェブサイト上で提供する、アップルストアにおいて商品「Que」をダウンロードする際に表示される画面である。
Qurate社は、アップルストアにおいて商品「Que」を譲渡している。需要者はデスクトップ型コンピューター、ノートブック型コンピューター、タブレット型コンピューター、スマートフォン(携帯電話)等の端末からアップルストアにアクセスして、ウェブサイト内に設けられた「入手」のボタンをクリックすることにより、端末に商品「Que」をダウンロードして利用可能である。アップルストアでは、商品「Que」の説明として、「Queは、あらゆるデバイス上で見栄えの良い美しいウェブサイトを制作するための、もっともシンプルで高速なアプリです。スマートフォンをご使用の場合、自身のiPhone、iPad、又はiPodtouchを使用して、自分自身のウェブサイトをすぐに作ることができます。」と記載されていることから、商品「Que」は、ダウンロード可能なアプリケーションソフトウェアであることが明らかである。
したがって、商品「Que」は、本件商標の第9類の指定商品中「Computer hardware and computer software;downloadable software for mobile phones and tablet computers;downloadable computer programs and computer games programs」に該当する商品である。
乙第3号証のQurate社を紹介する記事は、本件商標を記載するとともに、Qurate社の代表取締役を本件商標権者が務めていること、事業内容、Qurate社が本件商標を使用したシステムを開発した旨、本件商標を使用したシステムのメリット等が記載されている。
したがって、乙第3号証は、本件商標の第9類の指定商品中「Computer hardware and computer software;downloadable software for mobile phones and tablet computers;downloadable computer programs and computer games programs」の広告に相当するものである。
乙第4号証のQurate社のウェブサイトによる広告、及び、乙第5号証の使用権者の印刷物による広告、乙第6号証の商品「Que」のウェブサイトによる広告、乙第7号証の商品「Que」の印刷物による広告には、何れも本件商標が記載されていることから、本件商標の第9類の指定商品中「Computer hardware and computer software;downloadable software for mobile phones and tablet computers;downloadable computer programs and computer games programs」の広告にあたる。
(3)使用に係る商標
乙第3号証のQurate社を紹介する資料には、本件商標が記載されている。
乙第4号証のQurate社のウェブサイトによる広告には、本件商標が記載されている。
乙第5号証の印刷物による広告には、本件商標が記載されている。
乙第6号証の商品「Que」のウェブサイトによる広告には、本件商標が記載されている。
乙第7号証の商品「Que」の印刷物による広告には、本件商標が記載されている。
乙第3号証ないし乙第7号証に記載された商標は、いずれも本件商標の書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標であることから、本件商標の使用と認められるべきものである。
エ 使用時期
乙第1号証の国際登録第1210107号の商標登録原簿によると、本件審判請求登録の日は、平成30年(2018年)9月21日である。
したがって、要証期間は、同27年(2015年)9月21日から同30年(2018年)9月20日である。
乙第3号証のQurate社を紹介する記事には、最終更新日付として、2016年(平成28年)8月10日と記載されている。
したがって、乙第3号証は、要証期間である平成28年(2016年)8月10日に、本件商標が使用されたことを明らかにするものである。
乙第7号証の商品「Que」の印刷物による広告には、2016年(平成28年)2月22日と記載されている。
したがって、乙第7号証は、要証期間である平成28年(2016年)2月22日に、本件商標が使用されたことを明らかにするものである。
乙第7号証の商品「Que」の印刷物による広告には、「2016年2月10日、QueアプリのウェブバージョンとiOSバージョンの両方が一般に向けて利用可能となりました。」と記載されている。
したがって、乙第7号証は、商品「Que」の譲渡が開始されたことに伴って、要証期間である平成28年(2016年)2月10日に、乙第4号証のQurate社のウェブサイトによる広告、及び、乙第6号証の商品「Que」のウェブサイトによる広告において、本件商標の使用が開始されたことを明かにするものである。
乙第8号証のNewsWatchTVによる商品「Que」の紹介記事は、平成28年(2016年)2月12日にウェブサイトで閲覧可能になったと推察できる。
乙第8号証には、商品「Que」について、「AppStoreで今日のうちにダウンロードするか、あるいはQue.tmのウェブサイトに立ち寄ってください。」と記載されていることから、遅くとも、平成28年(2016年)2月12日に商品「Que」はダウンロード可能であったと推察できる。
したがって、乙第8号証は、商品「Que」の譲渡が開始されたことに伴って、要証期間である平成28年(2016年)2月12日に、乙第4号証のQurate社のウェブサイトによる広告、及び、乙第6号証の商品「Que」のウェブサイトによる広告において、本件商標の使用が開始されたことを推察させるものである。
乙第9号証のPRTIMESによる商品「Que」の紹介記事には、「誰もが簡単に全デバイス対応ウェブサイトを作成することができるアプリ『Que』を開発し、2016年2月10日より全世界で配信を開始いたしました。」と記載されている。
したがって、乙第9号証は、商品「Que」の譲渡が開始されたことに伴って、要証期間である平成28年(2016年)2月10日に、乙第4号証のQurate社のウェブサイトによる広告、及び、乙第6号証の商品「Que」のウェブサイトによる広告において、本件商標の使用が開始されたことを明かにするものである。
乙第10号証のアップルストアにおいて商品「Que」をダウンロードする際に表示される画面には、掲載日として、「2016年2月10日」と記載されている。
したがって、乙第10号証は、商品「Que」の譲渡が開始されたことに伴って、平成28年(2016年)2月10日に本件商標が使用されたことを明かにするものである。
2 結び
以上のとおり、要証期間に日本国内において、商標権者及び使用権者が,本件商標の第9類の指定商品中「Computer hardware and computer software;downloadable software for mobile phones and tablet computers;downloadable computer programs and computer game programs」について、本件商標を使用している。
第4 当審においてした審尋
合議体は、令和2年9月17日付け審尋において、被請求人に対し、被請求人が提出した証拠によっては、被請求人は、商標権者又は使用権者のいずれかが、本件商標又は本件商標と社会通念上同一の商標を、本件取消請求に係る指定商品のいずれかについて、要証期間に日本国内において、商標法第2条第3項各号のいずれかに該当する使用行為を行ったことを証明していない旨の合議体の暫定的見解及び弁駁書に対する回答を求めた。
被請求人は、上記内容の審尋に対し何らの応答もしていない。
第5 当審の判断
1 被請求人の立証責任
商標法第50条による商標登録の取消審判の請求があったときは、同条第2項の規定により、被請求人において、その請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを証明し、又は使用をしていないことについて正当な理由があることを明らかにしない限り、その登録の取消しを免れない。
すなわち、本件商標の使用をしていることを証明するには、商標法第50条第2項に規定されているとおり、被請求人は、ア 要証期間に、イ 日本国内において、ウ 商標権者又は使用権者のいずれかが、エ 本件取消請求に係る指定商品のいずれかについての、オ 本件商標又は本件商標と社会通念上同一の商標の使用(商標法第2条第3項各号のいずれかに該当する使用行為)をしていることをすべて証明する必要がある。
2 被請求人の主張及び被請求人の提出に係る証拠によれば、以下のとおりである。
被請求人は、本件商標権者から本件商標の通常使用権を黙示的に許諾されたQurate社が、要証期間に日本国内において、本件取消請求に係る指定商品中の本件使用商品について、本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用している旨を主張し、乙第1号証ないし乙第10号証を提出した。
そこで、被請求人の提出に係る答弁の全趣旨及び上記乙各号証について、以下検討する。
(1)本件商標の使用者について
被請求人は、本件商標権者は、自己が代表取締役を務めるQurate社に対して、本件商標の通常使用権を黙示的に許諾している旨を主張するが、本件商標の国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿(乙1)によると、本件商標権者は、United Kingdam在であり、Qurate社の履歴事項全部証明書(乙2)の「役員に関する事項」の欄に記載された「代表取締役」の住所は、「福岡市中央区」であることから、本件商標権者とQurate社の代表取締役が同一人であることが確認できない。
その他、被請求人は、Qurate社が、本件商標の通常使用権者であることを立証する証拠を提出していない。
(2)使用に係る商品について
被請求人は、Qurate社が、本件商標を、本件使用商品に該当する「ウェブサイトの作成アプリ」(商品「Que」)に使用した旨を主張するところ、確かに、「ウェブサイトの作成アプリ」自体は、本件使用商品に含まれるが、乙第7号証の16葉目の価格の項目に、「月額プラン」や「年額プラン」の記載があることからすると、被請求人が「Que」と称する「ウェブサイトの作成アプリ」は、商品として譲渡又は引渡しされるものではなく、Qurate社が、ウェブサイトのホスティングサービスを行うために、当該アプリを無償で提供するものと考えられるものである。
また、被請求人が提出した乙各号証を確認しても、当該アプリが、Qurate社から需要者に、商品として譲渡又は引渡しを行ったことを証明する証拠は提出されていない。
3 上記2によれば、当審の判断は、以下のとおりである。
(1)本件商標の使用者について
本件商標権者とQurate社との関係が明らかではなく、また、本件商標権者とQurate社との間で、本件商標の通常使用権を許諾する契約が締結されていたことも確認できない。
そうすると、Qurate社が、本件商標の通常使用権者であるとは認められない。
また、被請求人は、本件商標権者が、本件商標又は本件商標と社会通念上同一の商標を、本件取消請求に係る指定商品のいずれかについて、日本国内で要証期間に使用していることを証明していない。
したがって、本件商標の使用者は、本件商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかであることが特定することができない。
(2)使用に係る商品について
被請求人が、「Que」と称する「ウェブサイトの作成アプリ」は、Qurate社が、国際分類第42類に属する役務であるウェブサイトのホスティングサービスを行うために無償で提供するものである。
また、Qurate社が、当該アプリを商品として、需要者に譲渡又は引渡しを行ったことは確認できない。
そうすると、当該アプリ自体は、本件使用商品に含まれるとしても、これが、商品として取引されるものではないため、当該アプリに、本件商標又は本件商標と社会通念上同一の商標が付されていたとしても、本件取消請求に係る指定商品に使用されたとはいえない。
その他、被請求人は、商標権者又は使用権者のいずれかが、本件商標又は本件商標と社会通念上同一の商標を、本件取消請求に係る指定商品のいずれかについて、日本国内で要証期間に、使用したことを立証していない。
(3)まとめ
以上のとおり、本件商標の使用者が、商標権者又は使用権者のいずれかについて特定することができない。
また、被請求人が、本件使用商品に含まれると主張する、「Que」と称する「ウェブサイトの作成アプリ」は、商品として取引されるものではなく、国際分類第42類に属する役務であるウェブサイトのホスティングサービスを提供するために提供されるものであるから、本件使用商品を含む本件取消請求に係る指定商品の範ちゅうに含まれない。
また、被請求人が提出した全証拠によっても、商標権者又は使用権者のいずれかが、本件商標又は本件商標と社会通念上同一の商標を、本件取消請求に係る指定商品のいずれかについて、日本国内で要証期間に、使用したとは認められない。
4 被請求人の主張について
被請求人は、本件商標権者から本件商標の通常使用権の黙示の許諾を受けたQurate社が、本件商標を要証期間に日本国内において、本件使用商品について使用している旨を主張する。
しかしながら、Qurate社が、本件商標の通常使用権者であるとは認められないものであり、かつ、被請求人が、本件取消請求に係る指定商品に含まれると主張する「ウェブサイトの作成アプリ」は、ウェブサイトのホスティングサービスを行うために無償で提供されるものであり、本件取消請求に係る指定商品の範ちゅうに含まれない。
また、被請求人が提出した全証拠を総合してみても、商標権者又は使用権者のいずれかが、要証期間に本件商標又は本件商標と社会通念上同一の商標を本件取消請求に係る指定商品に、使用していることを証明するものは見いだすことができない。
したがって、被請求人の上記主張は、採用できない。
5 むすび
以上のとおり、被請求人が提出した全証拠によっては、被請求人は、要証期間に、日本国内において、商標権者又は使用権者のいずれかが、本件商標又は本件商標と社会通念上同一と認められる商標を、本件取消請求に係る指定商品のいずれかについて、商標法第2条第3号各号に規定する使用行為を行ったことを証明していない。
また、被請求人は、本件商標を使用していないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって、本件商標は、商標法第50条の規定により、その指定商品及び指定役務中の「結論同旨の指定商品」についての登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2020-11-27 
結審通知日 2020-12-03 
審決日 2021-03-29 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (W09)
最終処分 成立  
特許庁審判長 齋藤 貴博
特許庁審判官 小俣 克巳
豊田 純一
登録日 2013-07-18 
商標の称呼 クレート、クラテ 
代理人 特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所 
代理人 一色国際特許業務法人 

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