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審決分類 審判 全部取消 商53条の2正当な権利者以外の代理人又は代表者による登録の取消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W2930
管理番号 1378863 
審判番号 取消2020-300811 
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2020-11-05 
確定日 2021-09-21 
事件の表示 上記当事者間の登録第6107920号商標の登録取消審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第6107920号商標の商標登録を取り消す。 審判費用は,被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第6107920号商標(以下「本件商標」という。)は,「Terravita」の文字を標準文字で表してなり,平成30年3月16日に登録出願,第29類「チョコレートを含有した乳製品,チョコレート風味の乳飲料,チョコレートナッツ油脂,乳製品,加工野菜及び加工果実」及び第30類「チョコレート,チョコレートを使用した菓子及びパン,チョコレート飲料,チョコレートの風味を有するコーヒー,チョコレート飲料製造用のチョコレート粉末,生チョコレートを加味したココア,チョコレートを加味したパイ生地,チョコレートを加味したパン生地,チョコレートを加味してなる穀物の加工品,チョコレートを主原料としたスプレッド,チョコレートシロップ,チョコレートを使用したラビオリ,チョコレートを使用する即席菓子のもと,チョコレートの風味を有する即席菓子のもと,コーヒー,ココア,菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ,穀物の加工品,チョコレートスプレッド,ぎょうざ,しゅうまい,すし,たこ焼き,弁当,ラビオリ,即席菓子のもと」を指定商品として,同年12月21日に設定登録されたものである。
なお,本件商標の登録出願時(平成30年3月16日)の出願人は,神戸市中央区所在の「株式会社春日商会」(以下「春日商会」といい,「本件出願人」ということがある。)であり,登録査定後,平成30年11月22日受付の出願人名義変更届により,その名義が春日商会から「株式会社モンドクラブ」(以下「モンドクラブ」といい,「前商標権者」ということがある。)に変更された。
そして,本件商標の商標権者は,商標登録原簿の記載によれば,令和2年12月16日受付の特定承継による本権の移転の登録がされた結果,設定登録時のモンドクラブから,「株式会社ブルーレモン」(以下「ブルーレモン」といい,「現商標権者」ということがある。)となった。

第2 請求人の主張
請求人は,商標法第53条の2の規定により,結論同旨の審決を求めると申し立て,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第19号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求人に係る商標権について
(1)請求人テラヴィータ エスペー ゾオ(以下「テラヴィータ社」という。)は,下記2件の欧州連合商標登録を有している(以下,これらをまとめて「引用商標」という)。
なお,請求人名称は,原語で「TERRAVITA Sp.z o.o.」であるところ,「Sp.z o.o.」はポーランドで「有限責任会社」を意味する略称である。
ア 欧州連合商標登録第17999401号(甲4:以下「引用商標1」という。)
商標:別掲1のとおりの構成で「terravita」の文字を表してなるもの
登録出願日:2018年12月13日
設定登録日:2019年5月6日
指定商品:第30類「Chocolate, Candy, Pralines, Caramels. Chocolate bars, Chocolate cream, Chocolate hazelnut cream. Sweetmeats[candy], Bakery goods, Chocolate-coated crackers, Cookies, Confectionery, Sweets for Christmas trees, Coatings, Compound chocolate, Chocolates.」
イ 欧州連合商標登録第4261079号(甲5:以下「引用商標2」という。)
商標:別掲2のとおり「TERRAVITA」の文字を含む立体的形状からなるもの
登録出願日:2005年2月28日
設定登録日:2011年3月29日
指定商品:第30類「Chocolate confectionery.」
(2)商標について
ア 引用商標1は,欧文字「terravita」を特徴のある書体で横書きした商標であり(甲4),各文字の線が太く構成され,全体として力強くインパクトのある外観を有し,その構成文字より自然に「テラヴィタ」又は「テラヴィータ」の称呼を生じる。また,前半の「terra」はラテン語で「大地」や「地球」,後半の「vita」もラテン語で「生命」を意味するものの,商標全体として請求人の造語であって,特定の具体的な意味を有しないと理解される。
引用商標2は,ウサギ形状の立体商標であり,ウサギの体部分に欧文字「terravita」が表されている(甲5)。欧州ではウサギ形状のみからなる立体商標(ウサギ型のチョコレートを金色のアルミ箔で包み,その上にウサギの絵をプリントし首にリボン等をあしらったいわゆる「イースターバニー」)は,チョコレート及びチョコレート商品について一般的に使用されており,顕著性が認められないとした判決がある(欧州司法裁判所,ケースC-98/11 P判決,2012年5月24日。)。同判決に照らすと,引用商標2はその文字部分により識別力が認められ,登録されたものと理解される。そして,この商標からは,該文字部分より「テラヴィタ」又は「テラヴィータ」の称呼が生じる。参考として,請求人による引用商標2に係るものと同種のウサギ(イースターバニー)型チョコレートの写真を提出する(甲6)。
イ 一方,本件商標は,標準文字にて欧文字「Terravita」を書したものであり,その構成文字より「テラヴィタ」又は「テラヴィータ」の称呼を生じる。
ウ 本件商標と引用商標を比較すると,標準文字商標であるため外観については比較し難いものの,構成する文字は共通しており,また,称呼において同一又は類似である。したがって,本件商標は引用商標に類似する。
(3)指定商品について
引用商標1の指定商品は,ほとんどが類似群30A01(「類似商品・役務審査基準」参照。以下同じ。)に属する。また,「Chocolate cream, Chocolate hazelnut cream」は「チョコレートスプレッド」の範囲の商品である。
引用商標2の指定商品「Chocolate confectionery.」は,「チョコレート菓子」に相当し,類似群30A01に属する。
本件商標の指定商品のうち,第30類「チョコレート,チョコレートを使用した菓子及びパン,チョコレートシロップ,菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ」は,引用商標の類似群30A01に属する指定商品と同一又は類似である。また,本件商標の指定商品のうち,第29類「チョコレートナッツ油脂,加工野菜及び加工果実」及び第30類「チョコレートを主原料としたスプレッド,チョコレートスプレッド」は引用商標1の類似群32F04に属する指定商品と類似する。
したがって,本件商標は,引用商標に係る指定商品又はこれらに類似する商品を指定商品とするものである。
2 本件商標の登録出願について
(1)請求人と本件商標に係る権利者との関係について
請求人は,ポーランド西部の都市ポズナンに所在し,チョコレート商品などの製造と卸売販売を行う企業である(甲7)。同社の商品ラインナップは,チョコレートバー(板状チョコレート,いわゆる「板チョコ」),チョコレートスティック(細い棒状のチョコレート),一口サイズのチョコレート(プラリネ),人や動物などをかたどったチョコレート,チョコレートクリーム,チョコレートナッツクリーム,トッピング用チョコレート等のチョコレート商品を主力商品としつつ,クッキー等の焼菓子,キャンディー,プラリーヌ,クリスマスツリー装飾用菓子,その他の菓子類まで及んでいる。
一方,本件商標の登録出願当初の出願人は,兵庫県神戸市に所在する商社である春日商会である(甲3)。春日商会は請求人のチョコレート商品の日本における輸入販売業者であり,請求人と同社の継続的な取引に照らして,本件商標の登録出願日前から,請求人の日本におけるメインの取引先であり販売業者であった。
商標法第53条の2における「代理人」は,同法において明確な定義が示されていないところ,「商標所有者からなんらかの代理権を授与されたものを指す」との限定的な解釈もあるものの,より広く,「当該輸入商品の販売等を行うすべての者を含む」,「代理店,特約店,委託販売業者,など広く商標権者の商品を輸入し販売する者を指す」など,輸入販売業者を「代理人」に含めるとする解釈が一般的である(甲8)。したがって,本件商標の登録出願当初の出願人である春日商会は,同条にいう「代理人」に当たる。
また,本件商標の前商標権者であるモンドクラブは,春日商会の説明によれば,輸入商品の販売を行う同社の関連会社である(甲13,2019年2月5日付けメール)。本件商標に係る登録出願は,その登録査定の直後に春日商会からモンドクラブに譲渡されている。
請求人と春日商会の取引は,2016年冬開催のISMケルン国際菓子専門見本市でのコンタクトに始まっている。なお,同見本市はドイツのケルンで毎年開かれる世界最大規模の菓子見本市であり(甲9),請求人が継続的に参加(商品を出品)している。世界中から出展企業やビジター(バイヤー等)が集まる見本市であり,取扱分野は焼菓子からチョコレート,ジェラートから煎餅にまで及び,原材料・包装材・菓子製造機も展示される。開催者の発表によると,2018年には世界73か国から1,656の出展企業,世界144か国から37,500人のビジターの参加があった。
最初のコンタクトを経て2016年4月より,請求人は,同社の各種チョコレート商品を,春日商会を通じて日本への販売を開始した。その後請求人から春日商会に卸売販売された同社商品の販売額は,次のとおりである。
2016年 約1,699万9,792円
2017年 約1,571万7,888円
2018年 約2,981万1,959円
両者の取引は,上記2016年4月の最初の小口注文から始まり,請求人は同年8月と9月に3注文について納品している。2017年には5注文を受けており,そのうち3つについて10月と11月に納品,残りの2つは翌2018年の3月に納品している。2018年には4注文を受けており,そのうち3つについて8月と9月に,残り1注文を2回に分けて翌2019年1月と11月に納品している(甲10)。この11月の納品は春日商会の関連会社である株式会社かもめタクシー(兵庫県神戸市兵庫区)宛てになされた(甲11)。なお,その後については,本件商標登録後の2019年には注文がなく,2020年になって春日商会の関連会社であるブルーレモン(大阪府大阪市中央区)より,株式会社かもめタクシーに納品するようにとの内容の注文を受けている(甲12)。
メール(甲10)について確認すると,例えば,2016年4月14日付けの春日商会によるメールでは,「添付のとおり,貴社に小口の注文をいたします。この注文の目的は輸入食品のテストです」との記載が見られ,具体的な取引が始まったことが示されている。また,2018年6月15日付けの春日商会によるメールでは,請求人の商品が「TERRAVITAs」(TERRAVITA商品)と表現されている。
さらに,2018年7月5日付けの春日商会によるメール及びその直前の請求人によるメールでは,2018年の6月29日に春日商会のO氏がテラヴィータ社を訪問し,取引についてミーティングが行われたことが示されている。
したがって,本件商標の出願人である春日商会は,該出願日の2年ほど前から,継続的な取引関係の下に請求人の商品を日本へ輸入販売していたものであって,商標法第53条の2にいう「代理人」に当たる。
(2)本件出願が正当な理由がないのに請求人の承諾を得ないでされたことについて
本件商標は,請求人の「承諾を得ないで」出願されたものである。2018年3月16日に登録出願され,同年11月1日に登録査定が出された後,同年12月21日に設定登録されているところ,請求人は,出願当初の出願人である春日商会より本件出願前に出願について承諾を求められることもなく,また,出願から設定登録の間の時期においても該出願について知らされることはなかった。例えば,出願から約3か月後の2018年6月15日付けのメールでは春日商会より請求人宛てに新規注文がなされているものの,特に商標登録出願に関連するような言及はない(甲10)。また,2018年6月29日には,春日商会のO氏がテラヴィータ社を訪れてミーティングを行っているものの,日本において商標登録出願を行った旨の報告などはなされていない(甲10)。
その後,請求人にとっての本件商標の登録出願に関する最初の情報は,2019年1月22日付けの春日商会によるメールによりもたらされた(甲13)。この2019年1月22日は,本件出願に係る登録公報の発行日である。
このメールにおいて春日商会は,「弊社は日本において貴社の製品『TERRAVITA』を商標登録として登録したことをお知らせいたします。これは,弊社の行動が貴社との取引関係を強化するために貴社製品の販売を重視していることを証明するものです。商標登録は弊社の関連会社である『株式会社モンドクラブ』を通じて登録されています。もし貴社の製品が日本において他の日本企業によって販売されるとしたら,それはとても大きな問題であることをご理解ください。」と述べている。
これに対して,請求人は,2019年1月27日付けで「日本での弊社製品の登録についてです。春日(商会)とモンドクラブの関係を説明いただけますか。弊社は貴社に,弊社商標の登録名義人をモンドクラブからテラヴィータに変更することを依頼したいです。可能でしょうか。」と反応しており,この時点で初耳であって,本件出願の前に該出願やその予定について知らされておらず,そのため同意もしていなかったことが明らかである(甲13)。
なお,2019年2月5日付けの春日商会によるメールには「2?3年前にこの件についてお知らせしたように,弊社は貴社のブランドである『TERRAVITA』を登録商標として登録しました。」と述べられている(甲13)ものの,どのような内容の「お知らせ」であったか,請求人の承諾を具体的に求める内容であったかなどは不明である。
本件出願の動機について春日商会は,上記の2月5日付けメールにおいて「弊社が登録をした理由は,日本における商品価値と価格の低下を避けたいからです。もし,他のメーカーのように商品を数多くの輸入業者に販売するとしたら,輸入業者は(日本)国内市場で,商品を異なる価格で販売します。」,「弊社は貴社の製品を日本のチョコレート市場において価値ある商品として確立したいと思っており,またさらには,大きなシェアを占め,貴社に沢山の注文をすることで,大きな利益を得たいのです。」と述べている。
同社による商標登録の事実について請求人は,2019年2月6日付けメールで,「貴社の状況と日本でTERRAVITAブランドを保護したいという意欲は理解しました。TERRAVITAブランドが弊社の登録商標であるという事実を考慮しますと,この商標が株式会社モンドクラブによって登録されることには同意できません。貴社を守るために,弊社としては,TERRAVITAブランドの登録がモンドクラブからテラヴィータに変更された後に,TERRAVITAブランドの製品について独占権を保証することができます。」と反応している(甲13)。
ここで,商標法第53条の2にいう「正当な理由」について,審判決例では,「請求人が被請求人に対し,日本において請求人商標の権利を取得することを放棄した,又は取得する関心がないことを信じさせた場合」や,代理人等の側が当該商標に関して多大な費用と労力をかけてgoodwillを形成した場合に「正当な理由」が認められるとされているようである。しかし,本件商標の登録後のやり取りでも明らかなとおり,請求人は日本における自己の商標の登録に関心があり,本件出願の前に「取得することを放棄した,又は取得する関心がないことを信じさせた」ことはあり得ない。ちなみに,請求人は現在に至るまで,春日商会を含めたいずれの者に対しても商標「Terravita」を登録出願し,登録をすることを許諾したことはない。一方,本件商標の登録出願時において,春日商会と同社の関連会社による販売・広告宣伝活動を通じて本件商標について既にgoodwillが形成されていたということもない。よって,本件出願に「正当な理由」はない。
本件商標の登録の結果,上述のとおり,請求人は同登録の譲渡と引換えに春日商会に独占販売契約を結んでも良い,という提案をするに至っているが,メールでのやり取りから伺い知れるように,この提案は請求人が積極的に選択したい方策ではなく,解決策としてやむを得ず又は妥協案として出したものである。
一方の春日商会は,請求人とのメールのやり取りにおいて,日本での独占的販売と他社の参入阻止という思惑を見せており,同社の釈明はどうあれ,本件商標の登録は結局のところ,独占販売契約の締結の強制へとつながった。
しかしながら,請求人より2019年2月20日付けで提示された独占販売契約書案(甲13)は,署名されないままとなっており,2020年7月に春日商会の関連会社(ブルーレモン)に対して改めて契約書案に関する回答を促すも返事はなく,そのため本件商標登録の請求人への移転の目途も立っていない(甲13)。
3 請求人について
(1)請求人とその事業について
請求人は,ポーランド西部の都市ポズナンに所在し,チョコレート商品を中心とした菓子類の製造と卸売販売を行う企業である。25年ほど前に創業し,本国ポーランドで成功した後,現在では周辺の国々のみならず世界各国に商品を輸出するに至っている。請求人は,引用商標1や商標「TERRAVITA」を同社の商品や取引書類等に広くハウスマークとして用いており,また,個別のチョコレート商品のシリーズ名としても用いている(甲14)。
本件商標が登録出願された2018年には,請求人は,日本のほか,アルバニア,ボスニアヘルツェゴヴィナ,ブルガリア,クロアチア,モンテネグロ,チェコ,エストニア,ギリシャ,ジョージア,アイルランド,イスラエル,カナダ,コソボ,リトアニア,ラトビア,マケドニア,モルドヴア,ドイツ,ニュージーランド,ポルトガル,ロシア,南アフリカ共和国,ルーマニア,セルビア,スロバキア,スロベニア,台湾,トルコ,ウクライナ,米国,ハンガリーに商品の輸出を行っている。
(2)ポーランド及び欧州連合における登録商標と請求人について
商標「Terravita」については,引用商標の他に,TERRAVITA HOLDING ESTABLISHMENT(テラヴィータ ホールディング エスタブリッシュメント,以下「テラヴィータ ホールディング社」という。)による,ポーランド商標登録第R73112号商標(以下「ポーランド登録商標」という。)と欧州連合商標登録第3827763号商標(以下「欧州連合登録商標」という。)がある(甲15,甲16)。両登録商標の権利者テラヴィータ ホールディング社は,リヒテンシュタイン公国に所在する企業であって,請求人の関連会社であり,請求人の一部株式を所有している。
請求人は,テラヴィータ ホールディング社との間のライセンス契約(甲17)に基づいてポーランド登録商標を使用している。また,欧州連合登録商標についても,ライセンス契約に係る付属書類(甲18)に基づいて,請求人に使用許諾がなされている。
請求人は,ポーランド登録商標について一定の管理を任されており,商標権者の代わりに,ポーランド特許庁に対して更新料納付を伴う更新申請手続を行っており(甲19),上記ライセンス契約の内容(第2条,第4条)にも鑑みると,請求人は,ポーランド登録商標と欧州連合登録商標についても,商標法第53条の2にいう「商標に関する権利」として主張できる。
4 むすび
本件商標は,パリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有する者の当該権利に係る商標又はこれに類似する商標であって,当該権利に係る商品又はこれらに類似する商品を指定商品とするものであり,かつ,その商標登録出願が,正当な理由がないのに,その商標に関する者の承諾を得ないでその代理人によってされたものである。
したがって,本件商標の登録は,取り消されるべきものである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は,請求人の主張に対して何ら答弁していない。

第4 当審の判断
1 商標法第53条の2は,「登録商標がパリ条約の同盟国,世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締結国において商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)を有する者の当該権利に係る商標又はこれに類似する商標であって,当該権利に係る商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務を指定商品又は指定役務とするものであり,かつ,その商標登録出願が,正当な理由がないのに,その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでその代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前一年以内に代理人若しくは代表者であった者によってされたものであるときは,その商標に関する権利を有する者は,当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定し,パリ条約第6条の7の規定を実施するため,すなわち,他の同盟国等で商標に関する権利を有する者の保護を強化し,公正な国際的取引を確保するために設けられた規定と解される。
そして,商標法第53条の2が,他の同盟国等で商標に関する権利を有する者の代理人若しくは代表者又は代理人若しくは代表者であった者がその権利者との間に存する信頼関係に違背して正当な理由がないのに同一又は類似の商標登録をした場合にその取消について審判を請求できる旨の規定であることに鑑みれば,同条項に規定する「代理人若しくは代表者」は,必ずしも他の同盟国等の商標権者と代理店契約を締結した者など契約上特別な関係,あるいは,法的関係にある者に限定されることなく,広く他の同盟国等の商標権者の商品を継続的に輸入し販売する又は販売していた者など,継続的な取引により慣行上の信頼関係が形成されていた関係にあった者をも指すと解される。
かかる観点から,本件商標の登録出願が商標法第53条の2の要件を満たすものであるか否かについて検討する。
2 請求人が提出した証拠及び主張によれば,以下の事実を認めることができる。
(1)請求人及び引用商標について
ア ポーランドがパリ条約の同盟国であることは当庁において顕著な事実であるから,請求人は,パリ条約の同盟国であるポーランドに所在する法人と認められる(甲4,甲5)。
イ 引用商標1は,別掲1のとおり「terravita」の文字を表してなるが,その登録出願日(2018年(平成30年)12月13日)は,本件商標の登録出願日(平成30年3月16日)より後である(甲4)。
一方,引用商標2は,別掲2に示すとおりの態様で,金色等で表されたウサギをかたどった立体的形状の体部分に「TERRAVITA」の欧文字を赤色で横書きしてなる立体商標であり,欧州連合知的財産庁(EUIPO)において,本件商標の登録出願日より前の,2005年2月28日に登録出願,第30類「Chocolate confectionery.」を指定商品として,2011年3月29日に登録され,現に有効に存続しているものである(甲5)。
(2)請求人と本件出願人との間の取引について
ア 本件出願人(春日商会)が2016年4月14日から2018年7月5日に請求人(テラヴィータ社)に送信したメール及び添付の注文書(甲10)によれば,請求人と本件出願人との間で,請求人の業務に係るチョコレート商品である「TERRAVITA CHOCOLATE」を2016年4月14日から2018年7月5日まで,計12回にわたり,12,586ケース(約176t),約577,090ユーロ(約7,214万円:1ユーロ125円で計算。)取引したことが認められる。
イ 請求人ExportManagerから本件出願人のF氏に宛てた2018年7月5日より前のメール(甲10)には,「弊社は6月29日の金曜日,滞りなくOさん(審決注:本件出願人の代表取締役と思われる。)とミーティングを行いました。Oさんはこの新規注文を確認されましたので,正式な注文書を私にお送り下さい。」,「弊社は,これら4注文の支払条件を50%前払い,船積日より60日後に50%の支払いをするということでOさんに同意しました。Oさんは8月初めに,8月に船積みされる3コンテナ(2コンテナは2018年8月15日に船積み,1コンテナは2018年8月31日に船積み)の前払い(50%)をすることを約束しました。」,「Oさんは新商品のサンプルを受けとっており,また,貴社から弊社に新規注文をする見込みがあるとのことでした。」との記載がある。
ウ 本件出願人から請求人に宛てた2019年1月22日付けのメール(甲13)には,「弊社は日本において貴社の製品『TERRAVITA』を商標登録として登録したことをお知らせいたします。これは,弊社の行動が貴社との取引関係を強化するために貴社製品の販売を重視していることを証明するものです。商標登録は弊社の関連会社である『株式会社モンドクラブ』を通じて登録されています。」との記載がある。
エ 請求人から本件出願人に宛てた2019年1月27日付けのメール(甲13)には,「日本での弊社製品の登録についてです。春日(商会)とモンドクラブの関係を説明いただけますか。弊社は貴社に,弊社商標の登録名義人をモンドクラブからテラヴィータに変更することを依頼したいです。可能でしょうか。」との記載がある。
オ 本件出願人から請求人に宛てた2019年2月5日付けのメール(甲13)には,「2?3年前にこの件についてお知らせしたように,弊社は貴社のブランドである『TERRAVITA』を登録商標として登録しました。弊社が登録をした理由は,日本における商品価値と価格の低下を避けたいからです。もし他のメーカーのように,商品を数多くの輸入業者に販売するとしたら,輸入業者は(日本)国内市場で,商品を異なる価格で販売します。弊社は,この商標登録はお互いの利益につながるものと考えます。弊社は,貴社のブランド名(TERRAVITA)を日本の市場で確立したいのです。何回かお知らせしたように,弊社は貴社の製品を日本のチョコレート市場において価値ある商品として確立したいと思っており,またさらには,大きなシェアを占め,貴社に沢山の注文をすることで大きな利益を得たいのです。」との記載があり,また,「株式会社モンドクラブは,弊社の関連会社です。菓子の輸入業者は,春日商会株式会社です。モンドクラブは,弊社の輸入する製品の小売店です。そのため,弊社は,モンドクラブ名義でTERRAVITAの名の商標として登録をしました。」との記載がある。
カ 請求人から本件出願人に宛てた2019年2月6日付けのメール(甲13)には,「TERRAVITAブランドが弊社の登録商標であるという事実を考慮しますと,この商標が株式会社モンドクラブによって登録されることには同意できません。貴社を守るために,弊社としては,TERRAVITAブランドの登録がモンドクラブからテラヴィータに変更された後に,TERRAVITAブランドの製品について独占権を保証することができます。弊社は貴社に,TERRAVITAブランドの登録をモンドクラブからテラヴィータに変更する申請を2週間以内,2019年2月20日までに,提出するよう要請したく存じます。これと引換えに,弊社は,少なくとも年間取引高300,000ユーロ(約3700万円)を条件として,延長の可能性のある今後5年間のTERRAVITAブランド製品に関する独占契約を提供します。」との記載がある。
キ 本件出願人から請求人に宛てた2019年2月12日付けのメール(甲13)には,「TERRAVITAブランドの製品に関する独占権を保証する契約書をお送り頂けますか?同書をチェックしましてお互いの取引関係のために契約を結びたいと思います。」との記載がある。
ク 本件出願人から請求人に宛てた2019年2月18日付けのメール(甲13)には,「TERRAVITAブランド製品の独占権を保証する貴社の同意書を貴社より受領できるのを未だ待っています。」との記載がある。
ケ 請求人から本件出願人に宛てた2019年2月20日付けのメール(甲13)には,「添付にて,署名入り(独占)契約書案を送ります。弊社提案が受け入れられると良いのですが。」との記載がある。
コ 本件出願人から請求人に宛てた2019年2月25日付けのメール(甲13)には,「契約書ありがとうございます。翻訳しまして,Oさんに回しました。Oさんは3月1日から3月24日まで,中国,米国などに出張するそうです。その間,彼は日本に居ません。そのため,契約日を2019年3月31日まで延長してください。」との記載がある。
サ 請求人から株式会社かもめタクシーに宛てた2019年10月25日付け「PACKING LIST」及び同年11月6日付け「INVOICE」には,「Terravita Milk chocolate」及び「Terravita Dark chocolate」について,それぞれ「4348,80kg」及び「3700,80kg」等の記載がある(甲11)。
シ 請求人から現商標権者であるブルーレモンに宛てた2020年7月9日付けのメール(甲13)には,「TERRAVITA商標の登録と私たちの契約書の提案の話に戻りたいのですが・・・。ご存知の通り,あなた方は私たちに知らせずに,私たちの承認や同意無しに,TERRAVITA商標を日本で登録しました。私たちは,あなた方が『TERRAVITA』商標権を私たちに譲渡するという条件で,あなた方にTERRAVITA製品についての独占権を提示しました。残念なことに,今に至るまでこの件についてのあなた方の回答はありません。」との記載がある。
ス 被請求人は,請求人の主張に対して何ら答弁しておらず,上記アないしシの事実について争っていない。
3 上記2で認定した事実によれば,以下のとおり判断するのが相当である。
(1)本件商標がパリ条約の同盟国,世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締結国において商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)を有する者の当該権利に係る商標又はこれに類似する商標であって,当該権利に係る商品又はこれらに類似する商品を指定商品とするものであるか否かについて
ア 請求人は,上記2(1)のとおり,パリ条約の同盟国において引用商標に関する権利を有する者である。
イ 本件商標と引用商標2について
(ア)本件商標は,前記第1のとおり,「Terravita」の欧文字を標準文字で表してなるところ,その構成文字に相応して「テラビータ」の称呼を生じ,また,当該文字は,我が国において特定の意味合いを生じる成語とはいえないから,特定の意味を有しない造語として理解,認識されるとみるのが相当であり,本件商標は,特定の観念を生じないものである。
(イ)一方,引用商標2は,別掲2のとおり,ウサギをかたどった立体的形状の体部分に「TERRAVITA」の欧文字を赤色で横書きしてなるところ,その構成中の立体的形状は指定商品との関係からすれば商品(の包装)の形状と認識されるものとみるのが自然であって,商品の出所識別標識としての機能は弱いものといえるから,当該「TERRAVITA」の欧文字部分を要部として抽出し,他の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。
したがって,引用商標2は,その要部たり得る「TERRAVITA」の文字に相応して,上記(ア)と同様に,「テラビータ」の称呼を生じ,特定の観念を生じないものである。
(ウ)本件商標と引用商標2を比較すると,両商標は,立体的形状の有無,色彩や書体等に差異があるものの,要部の構成文字が共通することにより外観において近似した印象を与え,また,称呼において「テラビータ」の称呼が同一であることからすれば,観念上の比較ができないとしても,外観及び称呼において相紛れるおそれのある類似の商標というのが相当である。
(エ)本件商標の指定商品は,前記第1のとおりの第29類及び第30類に属する商品であり,引用商標2の指定商品は前記第2,1(1)イのとおり,第30類「Chocolate confectionery.」であるところ,本件商標の指定商品中「チョコレート,チョコレートを使用した菓子及びパン,チョコレートシロップ,菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ」は,引用商標2の指定商品「Chocolate confectionery.」と生産部門,販売部門,原材料,用途,需要者の範囲を共通にする同一又は類似の商品である。
(オ)したがって,本件商標と引用商標2とは,相紛れるおそれのある類似の商標であり,かつ,本件商標の指定商品は,引用商標2の指定商品と同一又は類似する商品である。
ウ 小括
以上より,本件商標は,パリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有する者の当該権利に係る引用商標2と類似する商標であって,その指定商品は当該権利に係る商品と同一又は類似の商品であるといえる。
(2)本件商標の登録出願が,正当な理由がないのに,その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでその代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前一年以内に代理人若しくは代表者であった者によってされたものであるか否かについて
ア 本件商標の出願人は,商標法第53条の2にいう「代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前一年以内に代理人若しくは代表者であった者」に該当するか否かについて
本件出願人である春日商会は,上記2(2)アのとおり,請求人であるテラヴィータ社に対し,その業務に係るチョコレートについて,2016年4月14日から2018年7月5日にかけて,計12回注文を行い,その合計は,12,586ケース(約176t),約577,090ユーロ(約7,214万円:1ユーロ125円で計算。)に上る。
また,本件出願人のO氏は,2018年6月29日にポーランド在の請求人を訪問して請求人の業務に係るチョコレート商品である「TERRAVITA CHOCOLATE」に関するミーティングを行い,そのミーティングにおいて,4つの新規注文が確認され,その支払条件を50%前払い,船積日より60日後に50%の支払をするということが合意され,また,新商品のサンプルを受け取った上,さらなる新規注文の見込みがあることも確認されている(甲10)。
そして,上記2(2)サのとおり,請求人発行の「INVOICE」等により,2019年11月に,請求人の「Terravita chocolate」の一部が本件出願人の関連会社とされる株式会社かもめタクシー(兵庫県神戸市)に納品されたことがうかがえる(甲11)。
そうすると,本件出願人は,本件商標の登録出願日(2018年(平成30年)3月16日)の2年ほど前である2016年4月から,本件商標の登録出願日後である2019年11月にかけて,請求人との継続的な取引関係の下に請求人の業務に係る商品「チョコレート」を日本へ輸入し販売していたものといえ,同社のO氏自らが直接請求人を訪問して新規注文の取引条件等を協議していたことも踏まえれば,請求人との間には,継続的な取引により慣行上の信頼関係が形成されていたというのが相当である。
したがって,本件出願人は,本件商標の登録出願時において,商標法第53条の2にいう「代理人若しくは代表者」であった者に該当するというべきである。
イ 本件商標の登録出願が,正当な理由がないのに,その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでされたものであるか否かについて
(ア)本件出願人からの「日本において貴社の製品『TERRAVITA』を商標登録として登録したこと」を知らせるメール(上記2(2)ウ)に対し,請求人は「登録名義人をモンドクラブからテラヴィータに変更することを依頼したい」(同エ),「TERRAVITAブランドが弊社の登録商標であるという事実を考慮すると,この商標が株式会社モンドクラブによって登録されることには同意できない」(同カ)等,一貫して本件商標が本件出願人及びその関係者によって商標登録されることには同意できない旨述べている。
また,本件出願人は,「2?3年前にこの件についてお知らせしたように,弊社は貴社のブランドである『TERRAVITA』を登録商標として登録しました」(同オ)と述べているものの,この「お知らせ」が請求人の承諾を具体的に求める内容であったかは不明である。
そして,他に本件商標権者が本件商標の登録出願について,請求人の承諾を得たことをうかがわせるような証拠は見いだせない。
(イ)さらに,本件出願人は,本件商標の商標登録の理由について,「日本における商品価値と価格の低下を避けたいからです。もし他のメーカーのように商品を数多くの輸入業者に販売するとしたら,輸入業者は国内市場で商品を異なる価格で販売します。弊社はこの商標登録はお互いの利益につながるものと考えます。弊社は貴社のブランド名(TERRAVITA)を日本の市場で確立したい」(同オ)等と述べているが,本件出願人あるいはモンドクラブ等の関連会社が本件商標に関して多大な費用と労力をかけて販売・広告宣伝活動が行ったとするような事情は見いだせないばかりか,請求人が解決策として提示した「TERRAVITAブランドの登録をモンドクラブからテラヴィータに変更する申請・・・と引換え,・・・少なくとも年間取引高300,000ユーロを条件として,延長の可能性のある今後5年間のTERRAVITAブランド製品に関する独占契約を提供」するという提案(同カ)について,当該提案から相当期間が経過するも本件出願人及び現商標権者であるブルーレモンは,請求人に対し,実質的な回答を行っていない(同キ?コ,シ)ことも考慮すれば,本件出願人による登録出願に「正当な理由」があったとは認め難い。
また,上記2(2)で認定した請求人と本件出願人との間の取引の内容に照らして,請求人が本件出願人に対し,日本において引用商標の権利を取得することを放棄した,又は取得する関心がないことを信じさせたというような事情に相当する具体的な事実も認められない。
したがって,本件出願人の本件商標の登録出願をする行為は,正当な理由があったものと認めることはできない。
ウ 小括
上記によれば,本件商標の登録出願が,正当な理由がないのに,請求人の承諾を得ないで「代理人若しくは代表者」であった者によってされたものと認めることができる。
4 むすび
以上のとおり,本件商標は,パリ条約の同盟国において商標に関する権利を有する者の当該権利に係る商標と類似する商標であって,当該権利に係る商品又はこれに類似する商品を指定商品とするものであり,かつ,正当な理由もないのに当該権利を有する者の承諾を得ないでその代理人又は代表者であった者によって登録出願されたものと認めざるを得ないから,本件商標の登録は,商標法第53条の2に規定する要件をすべて満たしているものと認められ,同規定により,取り消すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
別掲1(引用商標1:色彩は甲4参照)


別掲2(引用商標2:色彩は甲5参照)


審理終結日 2021-07-06 
結審通知日 2021-07-08 
審決日 2021-08-10 
出願番号 商願2018-31477(T2018-31477) 
審決分類 T 1 31・ 6- Z (W2930)
最終処分 成立  
前審関与審査官 駒井 芳子押阪 彩音 
特許庁審判長 平澤 芳行
特許庁審判官 鈴木 雅也
佐藤 松江
登録日 2018-12-21 
登録番号 商標登録第6107920号(T6107920) 
商標の称呼 テラビータ、テラバイタ、テラビタ、テラ、ビータ、バイタ、ビタ 
代理人 行田 朋弘 
代理人 小暮 理恵子 
代理人 柳野 嘉秀 

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