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審決分類 審判 査定不服 商3条2項 使用による自他商品の識別力 登録しない W10
審判 査定不服 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 登録しない W10
管理番号 1378818 
審判番号 不服2018-13216 
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-03 
確定日 2021-09-30 
事件の表示 商願2016-93605拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。
理由 第1 本願商標
本願商標は,別掲のとおりの構成よりなり,第10類「医療用機械器具」を指定商品として,平成28年8月26日に立体商標として登録出願され,その後,指定商品については,原審における同29年2月28日付け手続補正書により,第10類「円皮鍼」と補正されたものである。

第2 原査定の拒絶の理由(要点)
原査定は,「本願商標は,黄色が付された横長長方形の板状のプラスチック製収納容器であり,その中央は凹状に成形された立体的形状からなるところ,たとえ,底面が独特な形をなしていても,その特徴は,商品の機能を効果的に際立たせるための範囲のものであるというべきであり,全体的にみれば,円皮鍼を収める包装容器の一形態を表したものと認識,理解させる立体的形状よりなるものと認められる。したがって,本願商標は,商品の形状等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であって,商標法第3条第1項第3号に該当する。また,提出された証拠を総合的に考慮しても,本願商標が,その使用の結果,需要者に何人かの業務に係る商品であることを認識させるに至ったものとは認められず,本願商標は,商標法第3条第2項の要件を具備するものとはいえない。」旨認定,判断し,本願を拒絶したものである。

第3 当審の判断
1 商標法第3条第1項第3号について
(1)立体商標における商品等の形状について
商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美観をより優れたものとする等の目的で選択されるものであって,直ちに商品の出所を表示し,自他商品を識別する標識として用いられるものではない。このように,商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は,多くの場合,それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの,すなわち,商標としての機能を果たすものとして採用するものとはいえない。また,商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美観を際立たせるために選択されたものと認識するのであって,商品等の出所を表示し,自他商品を識別するために選択されたものと認識する場合は多くない。
そうすると,客観的に見て,商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されると認められる商品等の形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法第3条第1項第3号に該当することになる。
また,商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定人に独占使用を認めることは,公益上適当でない。
よって,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,同種の商品等について,機能又は美観に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,同号に該当するものというべきである。
(知財高裁平成29年(行ケ)第10155号,同30年1月15日判決参照)
(2)本願商標の商標法第3条第1項第3号該当性について
ア 円皮鍼について
本願商標の指定商品である「円皮鍼」は,テープに短い鍼が付いた身体に貼るタイプの鍼であり,肩こりや腰痛などの治療用の医療機器(「管理医療機器」に含まれる「滅菌済み鍼」)であるため(甲21,甲23,甲24,甲34等),鍼が折れたりさびたりせず,衛生的かつ簡単に貼れるよう安全性や操作性を考慮して設計された製品である(甲33の3・4等)。
イ 本願商標の立体的形状及び色彩について
(ア)本願商標は,別掲のとおり,黄色で着色された板状の横長長方形(左上と左下の2つの角には略三角形状の孔がある。)であり,その中央に頭を90度右に傾けただるま形状のくぼみを有するプラスチック製容器(カートリッジ)の立体的形状よりなるところ,当該容器のくぼみの中心には更に小さな円形状のくぼみがあり,また,容器の底面側から見た小さな円形状の突部のすぐ右側にスリット状の溝が縦に配されている(以下,黄色で着色された本願商標の立体的形状を「本願容器」という場合がある。)。
(イ)本願容器は,上記(ア)のような形状及び色彩からなるところ,請求人の製品カタログや販売代理店のカタログ等には,「独自の包装形態により,指が粘着面に触れることなく貼付することが可能です。」(甲10の2・3),「針先,絆創膏の粘着面が指先に触れることなく,簡便に貼ることができます。」(甲4の1),「鍼先,テープの粘着面が指先に触れることなく,衛生的に貼ることができます。」(甲4の3・5,甲10の11・13・15等),「カートリッジを山折りにし指ではさみ,テープとともに剥離紙(扇形部)をつまみあげます。」(甲10の10?13・15・24・27),「製品は一つ一つが滅菌されて個別に包装されています。」(甲33の2),「☆安全設計 個別包装され開封まで無菌維持された商品です。」(甲33の3・4),「☆衛生的 指が絆創膏の粘着面にふれることがないよう,独自の工夫を施しましたので衛生的にご使用できます。」(甲33の3・4)等の記載がある。
加えて,医療関連雑誌等にも,「個別包装され開封まで無菌維持された商品です。」(甲9の18?29・37・39・44),「カートリッジを山折りにし指ではさみ,テープとともに剥離紙(扇形部)をつまみあげます。」(甲9の19?29・37・39・44),「指がテープの粘着面に触れることがないよう,独自の工夫を施しましたので,衛生的にご使用いただけます。」(甲9の19?29・37・39・44)等の記載がある。
(ウ)本願容器の色彩については,「針長(鍼長)はカラーコードで容易に識別できます。」,「カラーコード イエロー」,「針長(鍼長)(mm)0.6」(甲4の1・3・5)等の記載がある。
ウ 一般的な円皮鍼の収納容器の立体的形状について
一般的な「円皮鍼」は,シート又は板状の固定材へ貼り付けたり,鍼を刺して固定したり(甲2のNo.2,4,5,8,10?14),個体ごとに収納するための円形状のくぼみを有する収納容器(甲2のNo.9),簡易な収納容器(甲2のNo.3,6,7)等に収納して販売されている。
上記のうち,4つの収納容器(甲2のNo.3,6,7,9)は,鍼を保護するための小さな円形状のくぼみ又は孔を有しており,加えて,シート又は板状の固定材へ貼り付けるタイプの収納容器においても鍼を保護するための小さな円形状のくぼみ又は孔を有しているものが見受けられる(甲2のNo.8,10,12,13)。
エ 以上のとおり,請求人が提出した証拠及び請求人の主張から総合して判断すると,本願商標に係る立体的形状が,同種の収納容器に見られないやや独特の形状であるとしても,個別包装は,医療機器である円皮鍼を開封まで無菌維持し,衛生的,安全に使用するために採用された包装形態であること,本願容器のくぼみ及びその中心の更に小さなくぼみは,鍼を保護しつつ個体ごとに収納する容器の基本的な形状であって,他人の円皮鍼の収納容器の中にも個体ごとに収納するための円形状のくぼみを有する収納容器や鍼を保護するための小さな円形状のくぼみ又は孔を有している収納容器が見受けられること,底面側に設けられた薄肉に形成されたスリット状の溝(薄肉に形成されたヒンジにあたるもの)及びだるま形状(くぼみの形状)は,本願容器を山折りにし指ではさみ,鍼先,テープの粘着面が指先に触れることなく衛生的かつ簡便に貼るために選択された形状と理解されることから,本願商標の立体的形状は,円皮鍼の収納容器としての機能に資することを目的として採用されたものといわざるを得ない。
また,2つの角に配置された略三角形状の孔は,商品の収納容器に通常採択し得る範囲での美観を高めるためのデザインの一種と認識されるにとどまるといえるし,黄色については,装飾としての色彩の一種として,または,鍼のサイズ(長さ)を識別するという機能性の観点から着色されたものといえる。
そうすると,本願商標の立体的形状及び色彩は,医療機器である円皮鍼を衛生的,安全かつ簡単に使用するという機能又は美観に資することを目的として採用されたものと認められ,また,円皮鍼の収納容器の形状として需要者において,機能又は美観に資することを目的とする形状と予測し得る範囲のものであって,通常採用される範囲を大きく超えるものとまではいえないものである。
オ 小括
以上からすると,本願商標を,その指定商品「円皮鍼」に使用しても,本願商標に接する取引者及び需要者は,これを商品の収納容器の機能(安全性,操作性等)又は美観に資することを目的とする形状及び特徴(色彩)を表したものと認識するにとどまり,自他商品の識別標識とは認識し得ないものと判断するのが相当であるから,商品の収納容器の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標といわざるを得ない。
したがって,本願商標は,商標法第3条第1項第3号に該当する。
2 商標法第3条第2項該当性について
(1)請求人は,本願商標が使用による識別力,いわゆる商標法第3条第2項の要件を具備していることを主張し,証拠として,甲第1号証ないし甲第34号証(枝番号を含む。)を提出しているところ,当該証拠及び同人の主張によれば,以下の事実が認められる(なお,請求人の申出により,甲9の30?34・36・38・43,甲12の16・19,甲13の17は削除されている。)。
ア 請求人及び使用開始時期
請求人は,鍼灸針を製造販売する企業であり,2004年(平成16年)から現在に至るまで「PYONEX」(パイオネックス)と称される円皮鍼を製造,販売している(甲4の2,甲34)。
請求人は,上記円皮鍼(以下「請求人製品」という場合がある。)を,個体ごとに収納できるよう凹状に成形された黄色のプラスチック製容器(以下「使用容器」という。)に収納し(甲1の2),さらにその使用容器を請求人名(SEIRIN)の文字及び請求人製品の商品名(Pyonex)の文字が記載されたシール紙で包装して販売している(甲10の12,甲13の14・16等)。
イ 販売実績
(ア)請求人製品を販売する6社の証明書
請求人製品を販売する医療機械器具販売業者6社が請求人からの依頼により作成した請求人製品の取扱い数量の証明書(甲11)には,「下記事項をご証明下さいますようお願い申し上げます。」,「セイリン株式会社(以下『請求人』という。)と取引関係にある期間は,以下の通りである。」,「2008年1月から12月までの当社の円皮鍼の総販売数量のうち,請求人の商品である円皮鍼の販売数量の割合は,以下の通りである。」といった文章(2010年,2014年に関しても同様の文章。)があらかじめ印刷され,各証明者により円皮鍼の取引開始期間,販売数量の割合(%),日付,氏名等が記載され,押印されている。
(イ)取引者及び需要者からの使用による識別力の証明書
請求人は,日本各地の取引者及び需要者から,全141通(鍼灸師会,鍼灸マッサージ師会等から26通,鍼灸専門学校,医療専門学校等から52通,鍼灸院,針灸治療院等から26通,販売店等から37通)の使用による識別力の証明書を提出している(甲14?甲17)。
そして,これらの証明書には,本願商標の写真(別掲のとおり,正面図等5つの角度から撮った5枚の写真)の上に,「・・・このような形状は,円皮鍼の製造・販売業者はもちろんのこと,鍼灸師においては,下記形状の円皮鍼の収納容器を見れば直ちにそれがセイリン株式会社の円皮鍼の収納容器であると認識する程によく知られた特徴的な形状であると思います。」といった文章があらかじめ印刷され,末尾には日付,住所,本店・店名,所属・氏名が各証明者により記載され,押印されている。
(ウ)注文書
請求人は,円皮鍼を取り扱う医療関連商品の卸売企業である株式会社サンポー及び株式会社カナケンからの「注文書」(2006年(平成18年)?2015年(平成27年)の各年の9月分)を提出している(甲19)。
(エ)市場占有率
請求人が提出した証拠(甲34)には,「2017年の時点では,円皮鍼市場のシェアは8割を占めています。(下記円グラフは当社調べ)」の記載とともに「パイオネックス80%」と示された円グラフが掲載されている。
ウ 広告宣伝
(ア)広告宣伝費
請求人は,2003年(平成15年)から2017年(平成29年)までの請求人製品に関するチラシ,リーフレット,ポスター等の作成代を含む広告宣伝費を示した上で(甲8:ただし,2005年(平成17年)と2006年(平成18年)の2年間は金額不明のため累計外),特に2003年(平成15年)ないし2014年(平成26年)までの広告宣伝費を平均すると,年間約130万円の金額を支出した旨主張している。
(イ)製品カタログ等
請求人は,請求人名(セイリン,SEIRIN)の文字,請求人製品の商品名(パイオネックス,PYONEX)の文字とともに使用容器の画像等が掲載された4つの製品カタログ(甲4の1・3?5)及び2つの会社案内(甲4の2・6)を提出しているが,発行年月日を確認できる証拠は2004年(平成16年),2008年(平成20年)及び2012年(平成24年)の製品カタログのみである(甲4の1・3・5)。
(ウ)雑誌等
鍼灸・手技療法の専門誌である「医道の日本」の2004年(平成16年)5月号ないし2005年(平成17年)9月号(甲9の1?17)には,請求人名(セイリン)の文字,請求人製品の商品名(パイオネックス,PYONEX)の文字が掲載されているが,使用容器の画像はとても小さく不鮮明で使用容器の全体形状を明確に表示するものとはいえない。
加えて,当該専門誌の2015年(平成27年)12月号(甲9の35),2016年(平成28年)1月号,3月号及び5月号(甲9の40?42)に使用容器の画像が表示されており,その色彩(黄色)は認識できるが,その全体形状を明確に表示するものとはいえないし,2017年(平成29年)2月号(甲9の45)に,使用容器の画像は確認できない。
また,他の業界雑誌(例えば「鍼灸OSAKA」に2回(2007年(平成19年)通巻87号及び2009年(平成21年)通巻95号:甲9の18・19),「日本鍼灸新報」に7回(2012年(平成24年)4月・10月,2013年(平成25年)2月,2014年(平成26年)1月・4月(甲9の25?29),2015年(平成27年)1月(甲9の37)及び2016年(平成28年)1・2月合併号(甲9の44))の合計9回に,請求人名(セイリン,SEIRIN)の文字,請求人製品の商品名(パイオネックス,PYONEX)の文字とともに使用容器の画像が掲載されているものの,その画像は全て白黒で使用容器の全体形状が明確に表示されていないものもある(甲9の18)。
さらに,研究会の冊子,大学の卒業名簿,専門学校同窓会の冊子等(甲9の20?24・39)においても,請求人名(セイリン,SEIRIN)の文字,請求人製品の商品名(パイオネックス,PYONEX)の文字とともに使用容器の画像が掲載されているものの,その中には,使用容器の全体形状が明確に表示されていないものもある(甲9の22)。
(エ)販売代理店のカタログ,論文及び学会等への出展
請求人製品は,「はり治療用はり」を販売する販売代理店のカタログに,請求人名(セイリン)の文字,請求人製品の商品名(パイオネックス,PYONEX)の文字とともに掲載されており(甲10の1?29),使用容器の色彩(黄色)は認識できるとしても,使用容器の全体形状が明確に表示されていないものもある(甲10の2・3・5?8・10・14・17?19・21?26・29)。
また,請求人は,円皮鍼に関する114件の論文の一覧表(甲7の1)及びその中から6件の論文(甲7の2?7)を提出しており,当該6件の論文中に請求人名(セイリン)の文字,請求人製品の商品名(パイオネックス,PYONEX)の文字の記載はあるものの,いずれにも使用容器の画像は確認できず,また,上記6件以外の論文について,上記一覧表に文献名,報告者等は記載されているが,実際に使用容器の画像が紹介されたか否かは確認できない。
さらに,「学会等参加状況一覧」と題する証拠資料(甲10の30)には,請求人が出展した46の学会等の名称,開催地,開催期間,会場,参加者数,PYサンプル配布数等が記載されているが,当該資料は,請求人が作成したものであり,提出された配布資料「第13回痛みの治療研究会?痛みに漢方?」(甲10の31)及び「パイオネックス臨床応用講座」(甲10の32)に使用容器の画像は確認できない。
エ アンケート調査
請求人は,調査会社(株式会社インテージ)を通じて,調査会社が保有する日本全国の医療・福祉関係者に係るデータから抽出した「はり師」324人のうち,鍼の施術経験がある182人を調査対象として,2018年(平成30年)8月29日から同月31日にかけて,インターネットにより円皮鍼の収納容器に関するアンケート調査(以下「本件アンケート調査」という。)を実施した。なお,「医師」及び「医療機器等の卸業者」はスクリーニング調査の段階で,調査結果の適切な分析に必要とされる数に満たなかったため本件アンケート調査から除外されている(甲20)。
本件アンケート調査では,調査対象者182人に,請求人及び競合2社の円皮鍼の収納容器の正面図及び斜視図の2枚の写真を表示される順番が異なる方法で見せた上で,「画像は円皮鍼の収納容器です。どこのメーカーの収納容器かおわかりになりますか。思いつくメーカー名をご記入ください。」との質問を行い,139人が回答したところ,請求人の収納容器2枚の写真から請求人名を回答した者は,114人(認知率約82%)となっている(甲20)。
オ 需要者の範囲
請求人は,以下の法令等を示して,本願商標の指定商品「円皮鍼」の需要者は,はり師を含む医療関係者であり,一般の消費者は需要者に含まれない旨主張している。
円皮鍼は,「医療機器」の分類中「管理医療機器」に含まれる「滅菌済み鍼」に該当する商品であるところ(甲21,甲22),「滅菌済み鍼」は,「厚生労働大臣が基準を定めて指定する医療機器」(平成17年厚生労働省告示第112号)の別表「1 成人用肺機能分析装置」の「番号138」に「滅菌済み鍼」,「鍼治療に使用すること。」の記載があり(甲23),また,別表第3の138の「基本要件適合性チェックリスト」によると第16条(一般使用者が使用することを意図した医療機器に対する配慮)は不適用であり,「一般使用者が使用することを意図した機器ではない。」との記載がある(甲24)。
また,「円皮鍼」の広告宣伝の対象は,医師もしくは鍼灸師等の医療関係者に限定されている(甲31,甲33)。
カ その他
鍼灸師又は鍼灸院等のブログにおいて,使用容器の画像が請求人名(セイリン)の文字又は請求人製品の商品名(パイオネックス,PYONEX)の文字とともに紹介されているが(甲12の1?6・8・9・11?14・17・18・20),使用容器の画像が小さく不鮮明でその使用容器の全体形状を明確に表示するものとはいえないものもある(甲12の1・4・6・9・11)。
(2)判断
上記(1)で認定した事実を総合すれば,以下のとおり判断できる。
ア 本願容器と使用容器
上記(1)アによれば,請求人は,本願容器と同一性を損なわないものと認められる使用容器に収納された「PYONEX」(パイオネックス)と称される円皮鍼を2004年(平成16年)から製造販売していることが認められる。
そして,実際の取引においては,必ず請求人名「SEIRIN」の文字及び請求人製品の商品名「Pyonex」の文字が記載されたシール紙で包装して販売していることが認められる。
イ 販売実績
(ア)請求人は,上記(1)イ(ア)の販売業者6社における請求人製品の取扱い数量の割合等についての証明書を示した上で,当該6社における請求人製品が占める販売数量の割合の平均は,2008年(平成20年)が約76%,2010年(平成22年)は約85%,2014年(平成26年)は約85%であり,当該6社の円皮鍼の販売の売上が,円皮鍼全体の販売において,相当の比重を占めることに鑑みれば,請求人が,円皮鍼の分野において圧倒的なシェアを持っていることは明らかである旨主張している。
しかしながら,そもそも,当該6社による請求人製品の販売数量の割合を裏付ける証拠の提出はなく,また,各企業が円皮鍼を取り扱う取引業者全体の売上においてどの程度を占めているか明らかではないため,これをもって,円皮鍼全体の市場における請求人製品の市場占有率も同様とまで認めることはできない。
(イ)上記(1)イ(イ)の取引者及び需要者からの使用による識別力の証明書には,あらかじめ同一の文章が印刷されており,各証明者が,日付,住所,店名,氏名等を記載し,押印する形式がとられていることからすると,請求人が画一的に作成した文章を各証明者に示して単に確認をとる方法で作成されたものであることが推察される。一般には,このようにして作成された証明書においては,作成を依頼した者からの誘導に沿う方向で確認が行われ,その記載の細部についてまでは吟味が行われないこともあり得ること,また,証明者による説明の記載もなく,証明者がいかなる具体的事実に基づき証明しているかも不明であることから,当該証明書は信ぴょう性に欠けるといわざるを得ない。
また,当該証明書141通のうち,鍼灸院,鍼灸治療院等から提出されたものは26通であるが,全国各地にある鍼灸院及び鍼灸治療院等の数から想定すると,26通が全国47都道府県の鍼灸院及び鍼灸治療院等の中で占める割合はごく僅かといわざるを得ない。
(ウ)請求人は,上記(1)イ(ウ)のとおり,卸売企業2社からの注文書を提出しているが,円皮鍼を取り扱う卸売業者全体の販売数に占める当該2社の割合は不明であるから,定期的に注文を受けているとしても,請求人製品が継続的に広範囲の需要者に販売されているかどうか当該証拠からは判断することはできない。
(エ)円皮鍼市場のシェアとして提出された証拠(甲34)には,「パイオネックス80%」と示された円グラフが掲載されているが,これは,請求人による調査であって当該市場シェアを客観的に裏付ける証拠の提出はない。
ウ 広告宣伝
(ア)上記(1)ウ(ア)によると,2003年(平成15年)ないし2014年(平成26年)までの広告宣伝費の年間平均額は約130万円と認められるが,円皮鍼の他のメーカーの広告宣伝費や円皮鍼を取り扱う業界全体の広告宣伝費が不明であることから,年間約130万円の広告宣伝費の多寡を判断することはできない。
(イ)上記(1)ウ(イ)によると,発行年月日を確認することができる製品カタログ等は,提出された6つのうち3つしかなく,また,それらの製品カタログ等の頒布時期,頒布方法,頒布地域,頒布部数等は不明である。
(ウ)上記(1)ウ(ウ)によると,鍼灸・手技療法の専門誌「医道の日本」に請求人製品に関する広告宣伝が22回掲載されたことは認められるが,掲載された使用容器の画像から,その色彩は認識できるとしても,使用容器の全体形状を明確に表示するものとはいえない。
加えて,上記雑誌は,2005年(平成17年)9月以降,2015年(平成27年)12月まで約10年間掲載されていない時期が認められるため,継続的な広告宣伝をしているとはいえない。
また,「鍼灸OSAKA」及び「日本鍼灸新報」において,使用容器の画像が掲載されてはいるものの,それらの画像は白黒で使用容器の全体形状が明確に表示されていないものがあることに加え,その掲載回数は2007年(平成19年)ないし2016年(平成28年)の10年間のうち9回と限定的で,継続的な広告宣伝をしているとはいえない。
(エ)上記(1)ウ(エ)によると,販売代理店のカタログ,一部の論文,学会等での配布資料に請求人製品が掲載されたことは認められるが,その中には,使用容器の画像が確認できないものや全体形状が明確に表示されていないものがあり,また,販売代理店のカタログの頒布時期,頒布方法,頒布地域,頒布部数等は不明である。
そして,上記(1)ウのとおり,請求人の製品カタログ,雑誌等,販売代理店のカタログ,一部の論文,学会等での配布資料には,必ず,請求人名(セイリン)の文字,請求人製品の商品名(パイオネックス,PYONEX)の文字が掲載されていることに加えて,使用容器の全体形状の画像は明確に表示されているものが限られていることからすると,使用容器のみが需要者の目につきやすく,強い印象を与える態様で使用されているとまでは認めることはできない。
エ アンケート調査
上記(1)エによると,本願商標の指定商品「円皮鍼」の需要者は,全国のはり師を含む医療関係者とされるところ,本件アンケート調査の調査対象から「医師」及び「医療機器等の卸業者」が分析に必要とされる数に満たなかったため除外されたとしても,はり師(324人)の中から施術経験がある者(182人)のみに絞られていることからすると,対象者は円皮鍼の需要者の一部に限定されており,需要者の認識を客観的に示すものとはいえない。
オ 本願容器及び本願容器に類似した他人の収納容器等の存否
本願容器と一般的な円皮鍼の収納容器の立体的形状とを比較すると,上記1(2)ウのとおり,他人の円皮鍼の収納容器の中にも,個体ごとに収納するための円形状のくぼみを有する収納容器や鍼を保護するための小さな円形状のくぼみ又は孔を有している容器が見受けられる。
また,たとえ,本願容器が,同種の収納容器に見られないやや独特の形状であるとしても,上記1(2)エのとおり,個別包装は,医療機器である円皮鍼を開封まで無菌維持し,衛生的,安全に使用するために採用された包装形態であり,また,底面側に設けられた薄肉に形成されたスリット状の溝及びだるま形状(くぼみの形状)は,本願容器を山折りにし指ではさみ,鍼先,テープの粘着面が指先に触れることなく衛生的かつ簡便に貼るために選択された形状と理解される。
そして,2つの角に配置された略三角形状の孔は,商品の収納容器に通常採択し得る範囲での美観を高めるためのデザインの一種と認識されるにとどまるといえるし,黄色については,装飾としての色彩の一種として,または,鍼のサイズ(長さ)を識別するという機能性の観点から着色されたものといえる。
そうすると,本願容器は,医療機器である円皮鍼を衛生的,安全かつ簡単に使用するために採用された収納容器として,機能性又は美観上の理由による立体的形状及び色彩と予測し得る範囲のものであって,通常採用されている範囲を大きく超えるものとまではいえないものである。
(3)小括
以上を踏まえると,請求人製品は,約16年間販売されており,自社の製品カタログ,販売代理店のカタログ,雑誌等に掲載されていることが認められる。
しかしながら,実際の取引においては,請求人製品のシール紙に請求人名「SEIRIN」の文字及び請求人製品の商品名「Pyonex」の文字が表示されていること,医療機械器具販売業者6社の証明書,取引者及び需要者の使用による識別力の証明書等によっても請求人製品の販売実績及び市場占有率が客観的に示されているとはいえないこと,請求人の製品カタログ等の頒布時期,頒布方法,頒布地域,頒布部数等は明らかではないこと,業界雑誌等において継続的な広告宣伝が行われていたとはいえないこと,請求人の製品カタログ,雑誌等,販売代理店のカタログ,一部の論文,学会等での配布資料など各種の広告宣伝の際には,必ず,請求人名(セイリン)の文字,請求人製品の商品名(パイオネックス,PYONEX)の文字が掲載されていることに加え,使用容器の全体形状の画像は明確に表示されているものが限られていることからすると,使用容器のみが,他社製品と区別する指標として,需要者の目につきやすく強い印象を与える態様で使用されているとまで認めることができないこと,本件アンケート調査の結果は,需要者の認識を客観的に示すものとはいえないこと,本願容器が,同種の収納容器に見られないやや独特の形状であるとしても,円皮鍼を衛生的,安全かつ簡単に使用するために採用された収納容器として,機能性又は美観上の理由による立体的形状及び色彩と予測し得る範囲のものであること等を総合的に判断すると,本願商標に係る立体的形状が,請求人の円皮鍼の収納容器の機能や美観から独立して,その商品の需要者の間で全国的に広く知られているとまでは認めることはできない。
したがって,本願商標は,その指定商品である「円皮鍼」に使用された結果,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものとはいえず,商標法第3条第2項の要件を具備するとはいえない。
3 請求人の主張について
請求人は,請求人の内部資料に基づいて,我が国での円皮鍼の総販売数,請求人の販売数量,請求人の市場占有率について,2008年度(平成20年度)が,約2700万本中,約1700万本で,市場占有率は約60%,2009年度(平成21年度)は,約3100万本中,約2100万本で,市場占有率は約71%,2010年度(平成22年度)は,約3400万本中,約2600万本で,市場占有率は約77%である旨主張している。
しかしながら,仮に,2008年度(平成20年度)から2010年度(平成22年度)において,請求人製品の市場占有率が一定の割合を有していたとしても,客観的な裏付けとなる証拠や算出根拠が確認できず,また,2011年度(平成23年度)以降,現在においても高い市場占有率を維持しているのか具体的な証拠の提出はない。
したがって,請求人の上記主張は採用することができない。
4 まとめ
以上のとおり,本願商標は,商標法第3条第1項第3号に該当するものであって,かつ,同条第2項に規定する要件を具備するものではないから,登録することができない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
別掲 本願商標(色彩は原本参照。)

審理終結日 2020-07-22 
結審通知日 2020-07-28 
審決日 2020-08-19 
出願番号 商願2016-93605(T2016-93605) 
審決分類 T 1 8・ 13- Z (W10)
T 1 8・ 17- Z (W10)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 日向野 浩志 
特許庁審判長 榎本 政実
特許庁審判官 浜岸 愛
平澤 芳行
代理人 高橋 菜穂恵 
代理人 有原 幸一 
代理人 松島 鉄男 
代理人 奥山 尚一 

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