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審決分類 審判 一部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない W01
審判 一部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない W01
審判 一部無効 観念類似 無効としない W01
審判 一部無効 外観類似 無効としない W01
審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W01
審判 一部無効 称呼類似 無効としない W01
管理番号 1377976 
審判番号 無効2019-890080 
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-12-10 
確定日 2021-09-08 
事件の表示 上記当事者間の登録第6114906号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第6114906号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1に示すとおりの構成からなり,平成30年4月5日に登録出願,第1類「工業用除菌剤,食品添加物として用いられる化学品及びその他の化学品,工業用のり及び接着剤,塗装用パテ」並びに第3類及び第5類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として,同年12月12日に登録査定,同31年1月18日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する商標は,以下の1ないし5に示すとおりであり,その商標権は,いずれも現に有効に存続しているものである。
1 登録第2375293号商標(以下「引用商標1」という。)は,別掲2に示すとおり,「Shell」の欧文字を横書きした構成からなり,平成元年4月7日に登録出願,第1類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として,同4年1月31日に設定登録され,その後,同14年6月19日に指定商品を第1類「化学品,のり及び接着剤(事務用又は家庭用のものを除く。)」,第2類「松根油,媒染剤,マスチック,木材保存剤」,第3類「家庭用脱脂剤,さび除去剤,染み抜きベンジン」,第4類「固形潤滑剤」,第5類「医療用油紙」,第16類「事務用又は家庭用ののり及び接着剤」及び第19類「タール類及びピッチ類」とする指定商品の書換登録がされたものである。
2 登録第2375294号商標(以下「引用商標2」という。)は,別掲3に示すとおり,「シェル」の片仮名を横書きした構成からなり,平成元年4月7日に登録出願,第1類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として,同4年1月31日に設定登録され,その後,同14年6月19日に指定商品を第1類「化学品,のり及び接着剤(事務用又は家庭用のものを除く。)」,第2類「松根油,媒染剤,マスチック,木材保存剤」,第3類「家庭用脱脂剤,さび除去剤,染み抜きベンジン」,第4類「固形潤滑剤」,第5類「医療用油紙」,第16類「事務用又は家庭用ののり及び接着剤」及び第19類「タール類及びピッチ類」とする指定商品の書換登録がされたものである。
3 国際登録第977610号商標(以下「引用商標3」という。)は,別掲4に示すとおりの構成からなり,2008年3月11日にSwitzerlandにおいてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張して,同年(平成20年)5月14日に国際商標登録出願され,第4類「Industrial oils and greases; lubricants; dust absorbing, wetting and binding agents; fuels (including motor spirit) and illuminants; candles and wicks for lighting.」並びに第1類,第6類,第8類,第9類,第11類,第14類,第16類,第18類,第19類,第21類,第24類ないし第28類及び第37類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として,平成22年3月19日に設定登録され,その後,指定商品及び指定役務については,2018年(平成30年)5月4日付けで国際登録原簿に記録された取消の通報があった結果,第1類,第11類,第19類,第26類及び第27類に属する指定商品を取り消す旨の本権の登録の一部抹消の登録がされたものである。
4 登録第468792号商標(以下「引用商標4」という。)は,別掲5に示すとおりの構成からなり,昭和25年11月25日に登録出願,第2類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として,同30年8月6日に設定登録され,その後,平成20年7月23日に指定商品を第2類「染料,油絵の具,水彩絵の具,日本絵の具,朱,丹,緑青,群青,洋じょう,鉛白,胡粉,藤黄,媒染剤,塗料(色はく・切り粉・地の粉・砥の粉を除く。)」とする指定商品の書換登録がされたものである。
5 国際登録第1172758号商標(以下「引用商標5」という。)は,別掲6に示すとおり,「SHELL」の欧文字を横書きした構成からなり,2013年(平成25年)5月21日に国際商標登録出願され,第1類「Chemicals used in industry; agricultural chemicals, except fungicides, weedkillers, herbicides, insecticides and parasiticides; chemicals for forestry and horticulture, except fungicides, herbicides, insecticides and parasiticides; chemical preparations for scientific purposes (other than for medical or veterinary use); chemical preparations for use in photography; compositions for extinguishers, substances for the heat treatment of metals, chemicals for preserving foods, tanning substances, adhesive substances used in industry; refrigerants, ice-removal fluids, chemicals for lowering the freezing point of water and other liquids, chemicals for cleaning cooling systems of automobiles and other vehicles, chemical additives for liquid lubricants and fuels; solvents.」,第4類「Burnable oils in liquid [fuel]; burnable oil gas [fuel]; solid fuel made of burnable fats; mineral oils, waxes, lubricants, petroleum and lighting fuel; tapers; candles and wicks.」,第19類「Building materials (non-metallic); materials for making roads (not of metal); asphalt, pitch and bitumen.」並びに第35類,第37類,第40類,第42類及び第43類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として,平成28年3月4日に設定登録されたものである。
以下,これらをまとめていうときは「引用商標」という。

第3 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録は,その指定商品中,第1類「工業用除菌剤,食品添加物として用いられる化学品及びその他の化学品,工業用のり及び接着剤,塗装用パテ」について無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第539号証(枝番号を含む。)を提出した。以下,証拠の記載については,甲1,甲2のように表記する。
1 請求の理由
(1)無効とされるべき理由
本件商標は,その指定商品中,第1類「工業用除菌剤,食品添加物として用いられる化学品及びその他の化学品,工業用のり及び接着剤,塗装用パテ」について,商標法第4条第1項第11号,同項第10号,同項第15号及び同項第8号に該当するにもかかわらず,誤って登録されたものであるから,その登録は同法第46条第1項第1号の規定により無効とされるべきものである。
(2)「Shell(シェル)」商標の著名性
ア シェル・グループについて
「Shell」及び「シェル」が「ロイヤル・ダッチ・シェル社(Royal Dutch Shell plc)」及び同社を中核とする石油エネルギー・化学関連企業グループ「ロイヤル・ダッチ・シェル・グループ」(以下「シェル・グループ」という。)の略称並びに同グループの石油・化学製品の代表的出所標識(いわゆるハウスマーク)として,本件商標の出願日前から,日本国内はもとより世界中で広く知られている商標であることは,既に「日本国周知・著名商標検索」において掲載されていることや(甲530,甲531),他の無効審判において「本件商標の指定商品である商品『化学品』を取り扱う業界においては,『シェル』の文字は,遅くとも本件商標の登録査定時までには,該商品に関し,シェル・グループの製造,販売に係る商品を示すものとして,取引者,需要者の間で広く認識されていたことが認められる。」と特許庁により認定されていること(甲532,甲533)からも顕著な事実であるが,以下改めて説明する。
シェル・グループは,100を超える国々において活動する多数の企業で構成されており(甲5〔18頁〕),本件審判の請求人「シェル ブランズ インターナショナル アクチェンゲゼルシャフト(Shell Brands International AG)」(以下「請求人」という。)は,同グループの一員として「Shell(シェル)」商標を管理する役割を担っている。
シェル・グループは,主として石油・ガスの探鉱から精製までを手がけるエネルギー事業活動を世界各国で行い,また,石油・ガスを利用した世界屈指の規模の化学事業活動を行っている。シェル・グループ全体の事業規模は,世界最大級であり,「Shell(シェル)」商標は,エネルギー事業については100年以上,化学事業についても90年使用され続けてきたものであるから,両分野において,世界で最も著名な商標の一つと評されるものである。
イ 「Shell(シェル)」の歴史
(ア)世界における「Shell(シェル)」
「Shell(シェル)」商標の起源は,1833年に,マーカス・サミュエルが,ロンドンで古美術品や東洋産の貝殻を扱う商店を開業した時に遡る(甲2〔シェルの歴史 1901?‘10〕,甲136,甲515〔315頁〕,甲516〔28頁〕ほか)。この商店が人気を得て,サミュエルはサミュエル商会を設立し,ボルネオの油田開発に成功したのを機に,1897年にシェル・トランスポート&トレーディング社を設立した(甲2〔シェルの歴史 1901?‘10〕,甲136,甲515〔315頁〕,甲516〔29頁〕ほか)。
1907年,シェル・トランスポート&トレーディング社は,ボルネオの石油開発を手がけていたオランダのロイヤル・ダッチ・ペトロリアム社(1890年設立)と,原油生産から石油製品販売までの一貫操業に関する協約を結び,「ロイヤル・ダッチ・シェル・グループ」が誕生した(甲5〔18頁〕,甲516〔31頁〕ほか)。
20世紀に入り石油が世界の主要エネルギーになるに伴い,シェル・グループはエネルギー事業で実績を上げ,エクソン社,モービル社,BP社などとともに,世界の主要石油会社7社「セブン・シスターズ(7人の魔女)」の一角となった(甲517〔22頁〕)。その後は,石油の探鉱・開発・輸送・精製・販売すべてを世界的規模で一貫操業する超大手の石油会社,いわゆるスーパーメジャーの一つとして(甲523),エネルギー事業において世界的に揺るぎない地位と名声を獲得するに至っている。
現在,石油の小売では,「Shell(シェル)」のガソリン・スタンドが世界に4万箇所以上もあり,一日2000万人が利用しているといわれ(甲3),「Shell(シェル)」は,どの国どの町にもある,世界中の人々にとって最も身近で有名な商標の一つとなっている。
アメリカ有力経済誌「Fortune」の統計によれば,シェル・グループは,1987年に世界全企業の中で総合2位の業績(売上高783億ドル)を上げ(甲516〔13頁〕),それ以降も常に上位,2007年に3位(売上高3188億ドル/甲509),2010・2011年に2位(売上高2851億ドル及び3781億ドル/甲510,甲511),そして2012年にはついに世界1位(売上高4844億ドル/約38兆円)の座を獲得した(甲512)。翌2013年も世界1位(売上高4817億ドル),2014年には世界2位(売上高4595億ドル)となり(甲513,甲514),2019年も世界3位の業績を堅持している(甲528)。また,「Shell(シェル)」ブランドは,「Global 500 2019」における「Top 500 most valuable brands」のランキングでも世界第29位(審決注:「26位」の誤記と認める。)の高順位に位置している(甲529)。つまり,シェル・グループは,現在,世界全ての業種・分野の中で最大級の売上業績を誇る,世界で最も有名な企業の一つであって,そのハウスマーク「Shell(シェル)」が業種・分野を超え,世界で最も著名な商標の一つであることは疑いない。
(イ)日本国内における「Shell(シェル)」
日本国内に目を移すと,サミュエル商会は,1876年(明治33年)には既に横浜で貿易業を開始しており(甲2〔シェルの歴史 1901?‘10〕),1900年には石油部門を独立させ,ライジングサン石油株式会社を設立している。甲2〔シェルの歴史 1911?‘20〕〔シェルの歴史 1921?‘30〕に示されるように,シェル・グループは,この頃から既に日本国内で,石油缶や自動車用ガソリンのラベルに「SHELL」「SHELL MINERAL TURPENTINE」「SHELL POWER OIL」「SHELL MOTOR SPIRIT」などの商標を使用しており,大正期には早くも「SHELL」商標の下で,ガソリン・スタンドを展開している。このように,シェル・グループの日本における事業は,明治・大正期という極めて早い時期から始まっていた。
1948年,ライジングサン石油株式会社は,その商号をシェル石油株式会社に変更し,1980年代,シェル石油株式会社は国内石油業で売上高6位にまで成長した(甲36ほか)。1985年,シェル石油株式会社は,シェル・グループと資本関係を有していた昭和石油株式会社と合併して,昭和シェル石油株式会社となり,そして2019年には出光興産株式会社と経営統合し,出光昭和シェルとして現在に至っている(甲2)。出光昭和シェルは,引き続き「Shell(シェル)」ブランドを使って,日本全国の消費者にガソリン・灯油等の販売を行っている(甲30)。
旧・昭和シェル石油株式会社は,例えば2018年時点で国内石油業2位の販売シェアを誇り(甲34),また,日本国内の旧・昭和シェル・グループの連結売上高は,2007年に3兆800億円,2008年に3兆2728億円,2009年に2兆225億円,2010年に2兆3460億円,2018年に2兆459億円と,毎年2ないし3兆円という甚大な数字である(甲26〔44頁〕,甲34)。
日本全国のガソリン・スタンドはもとより,旧・昭和シェル石油株式会社の会社案内・サービスパンフレットその他様々な媒体には,「Shell(シェル)」商標が使用され(甲25,甲26?甲29ほか),そして,出光昭和シェルとなった現在においても「She11(シェル)」は継続して使用されており(甲30),同商標が日本において長年需要者に親しまれてきたものであることは多言を要しない。
旧・昭和シェル石油株式会社が,日本国内におけるシェル・グループのエネルギー事業につき主導的役割を果たしてきた一方で,同グループのもう一つの柱である化学事業や天然ガス事業については後記のとおりシェルジャパン株式会社やシェルケミカルズジャパン株式会社が,それぞれ担ってきた(甲6)。
ウ シェル・グループの化学事業
(ア)世界屈指の化学企業「Shell Chemicals(シェルケミカルズ)」について
シェル・グループは,石油製品の製造・販売のみならず,世界屈指の規模で化学事業活動を行っている(甲35)。シェル・グループの化学事業は,今から90年前の1929年に米国でシェル・ケミカル社が設立された時に始まり(甲236,甲515ほか),当然ながらその歴史は,日本のどの化学品メーカーよりも長い。
プラスチック基礎原料などに代表されるように,現代における石油由来の化学品の取引量は極めて多く,石油産業と化学品産業とは切っても切り離せないほど密接な関係にある(甲517,甲519〔54頁,156頁〕)。そして,シェル・グループ,エクソンモービル,シェブロン及びBP社いわゆるスーパーメジャーといわれる石油会社は,その石油資源及び石油事業で培われた技術力をして,いずれも巨大な石油化学部門をもっていることで知られている(甲519〔156頁〕)。
シェル・グループが提供している化学品及び化学製品は主に,溶剤,芳香族,プロピレン,洗剤原料(洗剤製造用化学品),高級オレフィン,プロパンジオール,エチレンオキサイド,エチレングリコール,誘導体,スチレンモノマー,プロピレンオキサイド,触媒,アセトン,フェノール類,アルコール,ファインケミカルなどであり(甲4,甲5,甲8,甲167,甲176,甲228,甲408?甲507ほか),シェル・グループの化学事業は現在,グループ全体の売上高の10%程度を占めており,長きにわたって石油・ガスと並ぶグループの3本柱の一つに位置づけられている(甲516)。しかして,シェル・グループの化学事業部門の業績は,常に,世界屈指の規模であり,1984年には,化学部門の売上高だけで日本円換算1兆8000億円に達し,当時我が国最大の化学工業メーカーであった三菱化成の2倍以上の実績を上げている(甲516〔19頁〕)。また,2000年の世界化学企業ランキングでは,150億ドルの売上高で世界8位に(甲519〔129頁〕),2005年には349億ドルの売上高で3位(甲522),2007年も459億ドルの売上高で世界3位(甲519〔128頁〕,甲520〔117頁〕),2012年は352億ドルの売上高で世界5位となるなど(甲521〔18頁〕),シェル・グループの化学事業部門いわゆるシェルケミカルズ(Shell Chemicals)は毎年のように世界化学企業の上位に名を連ねている。
なお付言すると,2007年の世界化学企業ランキングにおける日本企業の最高位は三菱ケミカルの12位であったが(甲519〔128頁〕),同社の売上高はシェル・グループの化学部門の半分にも満たない。当該事実に照らせば,シェル・グループの化学事業がどれほど巨大なものであるかは歴然としている。
上記のことは例えば,シェル・グループの化学事業部門が,日本国内の主要化学専門紙の中で,次のように評されていることからも優にうかがうことができる。
「シェルは世界最大のベンゼンメーカー(甲171)」
「石油化学製品市場を上回る成長率を維持し,目標を達成する。シェルの製品群は『市場で第一位から第三位までの地位にある・・・』(甲176)」
「石油化学ではBASF,BPケミカル,シェルケミカルズ,エクソンモービルケミカルといった巨大企業(甲229)」
「シェルケミカルズが化学事業をスタートして七十五周年を迎えた。エネルギーと石油化学で世界のリーダーのポジションを得ることを目指すシェル・グループにとって,化学事業はこれまでの七十五年がそうであったように,将来の成長に向けて石油事業とともに車の両輪だ(甲236)」
「石油化学事業は『シェルグループにとってコア事業のひとつ』(甲259)」
「エクソンモービルやシェルケミカルズなど大手石油化学企業(甲263)」
「シェルの事業は原油・天然ガスの開発・掘削,これをベースにした石油精製,石油製品の販売や化学事業の二つに大別できます(甲294)」
「シェルケミカルズジャパンは,石油精製から高級アルコールまで一貫生産でき,ニーズに合わせた炭素数の高級アルコール製品が製造できる強みを生かした市場展開を図る・・・シェルケミカルズは,合成系の高級アルコールプラントを米,英2カ国に保有し,世界最大の年産54万トンの設備能力を持つ(甲340)」
「シェルケミカルズは合成系高級アルコールの世界最大手(甲385)」
また,世界の化学史を簡潔に示した年表には,シェル・グループの誕生や動向が化学史上の主要・重大な出来事として明記されているなど(甲526),当該証拠からも,シェル・グループが化学産業にとって欠かせぬ存在であることをうかがい知ることができる。
(イ)日本国内における化学事業について
シェル・グループの日本国内における化学事業についてみても,その歴史は長く,シェル・グループの化学事業部門シェルケミカルズは,日本の石油化学産業の成長に大きく貢献してきた。シェルケミカルズは,第二次世界大戦後いち早く,炭化水素系溶剤,アセトン,メチルエチルケトン(ケトン類)など,現代の工業・産業に欠かすことのできない多数の化学品を日本の市場に紹介し,1949年には業務用洗剤「ティーポール」,エポキシ樹脂「エピコート」を導入し,また,現在の国内トップ化学メーカーである三菱化学に対して戦後から石油化学の技術供与や化学品の供給を行い,その発展を支えるなどして,日本の戦後の化学産業の興隆に多大な貢献をしてきた(甲5〔5頁〕,甲236,甲525)。
また,シェル・グループは,1963年に化学事業を主体とする日本法人としてシェル化学製品販売株式会社を,1967年にはシェル化学株式会社を,それぞれ設立した(甲5[4頁],甲236ほか)。その後,両社は合併し,シェル興産株式会社(1968年),シェルジャパン株式会社(1991年)への商号変更を経て,2001年に昭石化成株式会社(昭和シェル・グループの化学事業を行っていた企業)を統合することによりシェルケミカルズジャパンが誕生し(甲6,甲236ほか),主として,シェル・グループが製造する化学品すなわち溶剤,芳香族,プロピレン,洗剤原料(洗剤製造用化学品),高級オレフィン,エチレンオキサイド,エチレングリコール,誘導体,スチレンモノマー,プロピレンオキサイド,触媒,アセトン,フェノール類,アルコール,ファインケミカルなどを日本国内において販売してきた(甲180,甲408?甲507ほか)。これら化学品の供給先は,化学・繊維・電機・自動車・建設・医薬・塗料・洗剤・情報機器など広範囲の産業分野に及び(甲5[5頁],甲8ほか),例えば主要化学専門紙の中でも「シェルケミカルズジャパンは,日本におけるシェル・グループの中で化学品事業を展開する唯一の企業である。売り上げは二千億円に近付きつつあり,市場におけるポジションは強固だ(甲291)」「シェルケミカルズジャパンの業績は着実に成長し,07年は化学事業が6年連続で増収益を達成する見通しだ。芳香族,溶剤,フェノールなどが好業績を支え,売上高は2000億円を突破する(甲314)」等と評されている。
上記のほかにも,シェル・グループは,1979年に三菱油化株式会社(後の三菱化学株式会社)との合弁で油化シェルエポキシ株式会社を,1987年には日本合成ゴム株式会社との合弁でジェイエスアールシェルエラストマー株式会社を設立するなどして(甲5[19頁〕),化学品の取扱範囲を広げ,また,茨城県鹿島臨海工業地帯に工場用地を取得し,1994年に発泡ポリスチレン(EPS)工場を完成させ,1995年から商業生産を開始するなど,日本国内における化学品製造にも力を入れてきた(甲5〔5頁〕)。以上の事実に照らせば,日本国内の化学産業において,シェル・グループが極めて主要かつ重要な地位にあることは明らかである。
(ウ)化学品及び化学製品についての「Shell(シェル)」商標の使用実績・状況
シェル・グループは,各種化学品及び化学製品の包装のラベルに「Shell Chemicals」のロゴマーク等の表示を使用し(甲408?甲473),それらの説明書・取扱書等のヘッダー部分にも必ず「Shell Chemicals」のロゴマークを使用してきた(甲474?甲508)。また,会社案内・カタログ等(甲4,甲5ほか)はもちろんのこと,レターヘッド・封筒・請求書などの取引書類等にも常に「Shell Chemicals」のロゴマークを使用し続けてきた(甲11?甲24)。なお,「Chemicals」は「化学品」を意味する英単語であり,「Shell Chemicals(シェルケミカルズ)」が化学品及び化学製品の分野においてシェル・グループの化学事業部門として広く知られていることを所与とすれば,その構成中,「Shell」の部分が専ら出所識別標識として機能していることは明らかである。
また,シェル・グループが過去現在にわたって販売してきた化学品や石油製品の商品名には「シェルゾール」「シェルブライトソル」「シェルフレックス」「SHELLVIS」「SHELLSWIM」「シェルバボナ」など,「シェル」の語を冠しているものが少なくなく(甲8,甲27,甲408,甲461ほか),個別の商品名についても「Shell(シェル)」商標を使用している。
さらに,シェル・グループの事業活動については,全国紙,化学専門紙の中で日常的に記事にされており,当該記事等への露出を通じても「Shell(シェル)」商標は,石油製品及び化学製品の著名ブランドとして,広く日本国民に認知されている。シェル・グループに関する新聞・雑誌の記事のうち甲36ないし甲158は主としてシェル石油及び昭和シェル石油に関する記事であり,甲159ないし甲407は主としてシェルケミカルズ及びシェルケミカルズジャパンに関する記事である。なお,甲159ないし甲407には「化学工業日報」の記事が多く含まれているところ,創刊70年以上の同紙は,現在13万人の読者を有する化学工業に関する業界唯一の日刊専門誌であり,化学分野のリーディングペーパーといわれ,多くの企業ないし化学品専門取引者・需要者が日々購読しているものである(甲524)。同紙では,シェル・グループの化学関連の動向が,相当高い頻度で記事にされており,時にはシェル・グループの概要や歴史が紙面を大きく割いて紹介されたり(甲236ほか),シェルケミカルズジャパンの人事異動だけでも記事にされたりするほどである(甲164,甲177,甲209ほか)。これら記事は,「Shell(シェル)」ブランドに係る事業が化学産業界においてどれ程主要な存在であるのかを端的に示す証拠といえる。
以上詳述してきたシェル・グループの化学部門の世界的規模,日本国内におけるシェル・グループの化学事業の実績及び歴史,並びに「Shell(シェル)」商標の使用実績・状況等に照らせば,本件商標の出願日前から「Shell(シェル)」商標が,シェル・グループの製造・販売に係る化学品及び化学製品の出所を示すハウスマークとして,日本国内の化学品及び化学製品関連の専門取引者及び需要者に対し極めて高い著名性を有していることは明らかである。
エ シェル・グループによる広告・社会貢献活動
(ア)シェル・グループが,その企業活動ないしスポンサー活動として力を入れているものの一つに,「F1(Formula One)」(Formula One Licensing BVの商標)がある(甲31)。F1は,オリンピック,FIFAワールドカップと共に「世界三大スポーツイベント」の一つと称されるほど,世界的に人気の高いモータースポーツである。
F1グランプリにおける常勝チームといえば「フェラーリ(Ferrari)」が有名であるが,シェル・グループは,フェラーリ・チームの一員として,燃料とオイルの面からチームをサポートしている。シェル・グループでは,フェラーリのために日々燃料とオイルの研究開発をし,チームの勝利に貢献している。毎年鈴鹿で行われているF1日本グランプリをはじめ,年間20回近く開催されるF1グランプリの度に「Shell(シェル)」商標は大々的に会場に掲示されており(甲31),F1グランプリでの広告活動を通じても全世界・日本あまねく認知されている。
(イ)シェル・グループは時代を担う若手作家を発掘することを目的として,1956年?1981年まで「シェル美術賞」の名称で,1996年?2001年まで「昭和シェル現代美術賞」の名称で,コンテストを開催しており,これらは「画壇の登竜門」として評価され,芸術界に大きな影響を与えてきた。2003年からは,再び「シェル美術賞」の名称で,毎年コンテストを開催している(甲32)。
また,社会貢献活動の一つとして,環境フォト・コンテストも毎年開催されている(甲33)。「Shell(シェル)」商標は,こうした社会貢献活動を通じても広く認知されている。
オ 小括
以上のとおり,シェル・グループが長年にわたり使用してきた「Shell」商標及び「シェル」商標が,本件商標の出願日前から,エネルギー事業及び化学事業の両業界の専門取引者及び需要者に熟知されており,また,一般の消費者においてもガソリン・スタンドや広告・社会貢献活動などを通じ,全国的に広く認識されるに至っていることは明白である。
(3)商標法第4条第1項第11号の該当性
本件商標は,請求人が所有する先行登録商標と類似するものであって,それら商標に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用するものであるから,商標法第4条第1項第11号に該当する。
ア 類否の判断基準
最高裁判所は,いわゆる氷山事件(昭和37年(行ナ)第201号,昭和43年2月27日判決)において,商標の類否につき以下のように判示し,その判断基準を明らかにしている。
「商標の類否は,対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにしうる限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。」
よって,当該基準に基づき,本件商標と引用商標との類似性について以下考察する。
イ 商標の類似性
本件商標の構成中「Shell/シェル」の文字は,化学品及び化学製品の分野においてシェル・グループの略称ないしハウスマークとして著名な「Shell」商標及び「シェル」商標と,称呼・観念及び外観いずれについても同一又は類似であり,とりわけシェル・グループが長年にわたり日本国内及び世界中で販売している「化学品」との関係では,即座にシェル・グループを想起させることが明らかである。
他方,同構成中「Coat/コート」は,化学品及び化学製品の分野においては「コーティング,コーティング剤」の意で一般的に使用・認識されている語であり,例えば,特許庁の過去の審査においても「化学品」を指定して出願した「一般名称+コート」という構成の結合商標識別力欠如を理由として多数拒絶されている事実にみても(甲534),「Coat/コート」の語が化学品の分野において「コーティング,コーティング剤」程度の一般名称(品質等表示)として認識される程度のものであることは明らかである。
よって,本件商標は,化学品及び化学製品について使用される場合には,著名商標「Shell/シェル」と一般名称「Coat/コート」の結合商標であると容易かつ直ちに把握されることが明らかである。
ところで,商標審査基準は「指定商品又は指定役務について需要者の間に広く認識された他人の登録商標と他の文字又は図形等と結合した商標は,その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め,原則として,その他人の登録商標と類似するものとする」と示している。「Coat/コート」の語が化学品及び化学製品について単なる一般名称(品質等表示)でしかないことを所与とすれば,本件商標の構成中,著名商標「Shell(シェル)」と同一・類似である「Shell/シェル」の部分が,専門取引者及び需要者の注意を特に強くひくことは明らかである。よって,化学品及び化学製品の専門取引者及び需要者が,本件商標の付された商品を,シェル・グループの出所に係るものであると誤信してしまう可能性は極めて高いといわざるを得ない。
ウ 商品の類似性
本件商標は,第1類「工業用除菌剤,食品添加物として用いられる化学品及びその他の化学品,工業用のり及び接着剤,塗装用パテ」を指定して登録されている。
一方,引用商標は,第1類「化学品」,第2類「媒染剤」,及び第1類「のり及び接着剤(事務用又は家庭用のものを除く。)」,第2類「塗料(色はく・切り粉・地の粉・砥の粉を除く。)」を指定して,それぞれ登録されているものである。
したがって,本件商標の指定商品と,引用商標の指定商品は同一又は類似であることが明らかである。
エ 取引の実情
氷山事件最高裁判決の中で挙げられる「取引の実情」には,引用商標(先行商標)の周知著名性も含まれるとされ,過去多くの判決でもそのように解されている。
本件についてみると,「Shell(シェル)」商標は,化学品について90年(日本国内でも半世紀以上)使用されてきたものであり,また,シェル・グループが本件商標の登録査定時には世界化学企業ランキングで上位に位置づけられていたことなどの事情を踏まえれば,「Shell(シェル)」商標は貝という一般的意味を凌駕するに十分なほど,シェル・グループを表示する商標として極めて著名となっているとみるのが相当であり,当該取引の実情に照らせば,本件商標は,その構成中「Shell/シェル」が支配的な印象を与える部分として捉えられ,引用商標と称呼・観念及び外観上類似することが明らかというべきである。
オ 小括
以上より,本件商標は,取引の実情(特に「Shell(シェル)」商標の化学分野における著名性)を斟酌すれば,引用商標と同一又は類似であって,それら商標に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用するものであるから,その指定商品中,第1類「工業用除菌剤,食品添加物として用いられる化学品及びその他の化学品,工業用のり及び接着剤,塗装用パテ」について,商標法第4条第1項第11号に該当するものといわなければならない。
(4)商標法第4条第1項第10号の該当性
本件商標は,前記のとおり,「化学品」の関連需要者の間で広く知られている著名商標「Shell(シェル)」と類似するものであって,「化学品など」について登録されているものである。
請求人の「Shell(シェル)」商標の著名性に照らせば,本件商標は,その指定商品のうち少なくとも「化学品」に属する「工業用除菌剤,食品添加物として用いられる化学品及びその他の化学品」について,商標法第4条第1項第10号に該当することが明らかである。
(5)商標法第4条第1項第15号の該当性
本件商標は,商標法第4条第1項第15号に規定される「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当し,商標登録を受けることができないものである。以下,「混同を生ずるおそれがある商標」について論じた最高裁判決平成12年7月11日(平成10年(行ヒ)第85号)(レールデュタン事件)の判示に従いながら,本件商標が,同号に該当することを論ずる。
ア 「混同を生ずるおそれ」には広義の混同を含むこと
上記最高裁判決は,「混同を生ずるおそれ」がいわゆる「狭義の混同を生ずるおそれ」のみならず,「広義の混同を生ずるおそれ」まで含むことについて,「商標法第4条第1項第15号にいう『他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標』には,当該商標をその指定商品又は指定役務・・・に使用したときに,当該商品等が他人の商品又は役務・・・に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品等が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ・・・がある商標を含むものと解するのが相当である」と判示している。
イ 「混同を生ずるおそれ」の判断基準
次いで,上記最高裁判決は,「広義の混同のおそれ」の有無の具体的判断基準として,「『混同を生ずるおそれ』の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである」と判示している。
当該最高裁判決の判示を前提として,本件商標が指定商品に使用された場合,「他人」すなわちシェル・グループの商品との間で「広義の混同のおそれ」が生じることについて,以下論じる。
ウ あてはめ
(ア)当該商標と他人の表示との類似性
本件商標と請求人が引用する商標「Shell」及び「シェル」との類似性については,商標法第4条第1項第11号の主張の中で既に考察したとおりであり,「Shell(シェル)」商標の著名性に照らせば,両商標は出所混同のおそれが認められ,外観,称呼及び観念において類似するものである。
(イ)他人の表示の周知著名性
既に詳述してきたとおり,「Shell」及び「シェル」は,シェル・グループが製造・販売する化学品及び化学製品又はシェル・グループの営業を示すものとして,日本国内及び全世界において著名である。
(ウ)他人の表示の独創性
「Shell(シェル)」商標は,「貝」を意味する言葉であるが,もともとはマーカス・サミュエル氏がロンドンにおいて東洋の貝殻を扱う商店を開業したことに由来するものであって,石油製品や化学品とりわけシェル・グループが取り扱う「芳香族,エチレンその他の脂肪族,アルコール類,フェノール類,エーテル類,アセトンその他のアルデヒド類及びケトン類,石油由来の触媒剤,石油由来の溶剤,その他の石油由来の化学品」と「貝」とはもともと全く関係がなく,何ら商品の品質等を表すものでもない。したがって,「Shell(シェル)」商標の独自性・独創性は高いというべきである。
また,「Shell(シェル)」商標は,特定の商品のみに使用されているペットネームではなく,営業主自体を表示するいわゆるハウスマークとして100年以上使用され続けてきたものであり,その混同を生じる範囲は一般的に広いものと解されるべきである。これに関して,小野昌延編『注解商標法(上巻)新版』395頁〔工藤=樋口〕においても,「商標の性格・種類及び商標の構成の独創性(造語商標等)とも関係する。例えば,独創性のある著名商標が企業のハウスマークであれば,混同を生ずるおそれのある範囲は広いといえよう」と解されており,ハウスマークの混同の生ずるおそれの範囲を広く捉えている。
(エ)当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性並びに商品等の取引者及び需要者の共通性
シェル・グループが,エネルギー事業のみならず,それと双璧をなす事業として化学事業を手がけており,その化学事業の規模が常に世界で上位にあることは既に前述したとおりである。そして,本件商標の第1類の指定商品はシェル・グループが長年にわたり世界中で扱っている化学品そのもの又はそれと密接な関連を有する化学製品であるから,シェル・グループの業務と,取引者及び需要者層・流通経路等について高い共通性を有していることは明らかである。
(オ)その他取引の実情
既に述べたとおり,シェル・グループは,「シェルゾール」「シェルブライトソル」「シェルフレックス」「SHELLVIS」「SHELLSWIM」「シェルバボナ」など,「シェル」の語を冠する商品名の製品を過去現在にわたって販売してきたという実情が存在している(甲8,甲27ほか)。当該実情は,仮に「Shell Coat/シェルコート」が化学品及び化学製品について使用された場合に,これがあたかもシェル・グループの製造・販売に係る化学品名・化学製品名であるかのごとく誤信される可能性を増幅させる事情ということができる。
フリーライド及びダイリューション
商標法第4条第1項第15号の規定は,周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の稀釈化(いわゆるダイリューション)を防止し,商標の自他識別機能を保護することによって,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り,需要者の利益を保護することを目的とするものである。
しかして,前述してきたとおり,シェル・グループのハウスマーク「Shell(シェル)」は世界中で長年著名なものであり,とりわけシェル・グループが世界屈指のメーカーとして位置する化学品及び化学製品の分野においては,シェル・グループの出所識別標識として直ちに認識されるものである。
万が一,本件商標が登録を維持され,請求人の業務そのものである化学品及び化学製品について使用される事態が生じれば,著名商標「Shell(シェル)」の有する自他識別機能は稀釈化(ダイリューション)の危機にさらされることとなる。一度稀釈化された信用や識別力を回復することは極めて困難であり,その結果,請求人を含むシェル・グループの営業・広告努力の成果,つまり,著名商標「Shell(シェル)」が獲得した顧客吸引力は著しく弱められてしまうことは火を見るより明らかである。
そのような事態は,前記最高裁の認定の趣旨に反する,つまり,商標法第4条第1項第15号の規定趣旨を完全に没却するものであり,ひいては,「商標の使用をする者の業務上の信用の維持」そして「需要者の利益を保護する」という商標法目的に明らかに反するものである。当該観点からも,本件商標の登録は許されるものではない。
オ 小括
以上のとおり,本件商標は,その指定商品のうち少なくとも,第1類「工業用除菌剤,食品添加物として用いられる化学品及びその他の化学品,工業用のり及び接着剤,塗装用パテ」について,著名商標「Shell(シェル)」との関係において,商標法第4条第1項第15号に該当することが明らかである。
(6)商標法第4条第1項第8号の該当性
本件商標は,他人すなわち請求人の著名な略称を含む商標であるから,商標法第4条第1項第8号に該当するものである。
商標法第4条第1項第8号の該当性について論じた最高裁判決平成17年7月22日(平成16年(行ヒ)第343号)(国際自由学園事件)は,「他人の肖像又は他人の氏名,名称,著名な略称等を含む商標は,その他人の承諾を得ているものを除き,商標登録を受けることができないと規定した趣旨は,人(法人等の団体を含む。以下同じ。)の肖像,氏名,名称等に対する人格的利益を保護することにある・・・略称についても,一般に氏名,名称と同様に本人を指し示すものとして受け入れられている場合には,本人の氏名,名称と同様に保護に値すると考えられる。そうすると,人の名称等の略称が8号にいう『著名な略称』に該当するか否かを判断するについても,常に,問題とされた商標の指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とすることは相当ではなく,その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断されるべきものということができる」と説示している。
前述してきたとおり,本件商標の構成中「Shell/シェル」の文字は,石油・化学両事業を手がけてきたシェル・グループ又はその多数の子会社の略称として100年以上使用され,一般に受け入れられているものであって,本件商標の出願日前から現在にかけて,我が国において著名であったことは既に述べてきたとおりである。そして,本件商標は,「Shell/シェル」と「Coat/コート」の結合から成るものであることが明らかであるところ,他人すなわち請求人又はそのグループの名称の著名な略称を含む商標であり,請求人が本件商標権者に対して「Shell/シェル」を含む本件商標の登録ないし使用について承諾したという事実はない。したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第8号に該当する。
(7)結語
以上のとおり,本件商標は,その指定商品のうち,第1類「工業用除菌剤,食品添加物として用いられる化学品及びその他の化学品,工業用のり及び接着剤,塗装用パテ」について,商標法第4条第1項第11号,同項第10号,同項第15号及び同項第8号の規定に該当するものであるから,誤って登録されたものであり,その登録は,同法第46条第1項の規定により無効とされるべきである。

第4 被請求人の主張
1 答弁の趣旨
被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第6号証を提出した。以下,証拠の記載については,乙1,乙2のように表記する。
2 答弁の理由(要旨)
(1)商標法第4条第1項第11号に該当しないこと。
ア 本件商標について
本件商標は,「Shell Coat」という欧文字を同一書体かつ横一連に記載すると共に,その真下中央寄りに小さな片仮名の「シェルコート」を横一連等間隔に同一書体で記載した上下二段に横書きしたものであり,上段の「Shell Coat」の各文字はすべて輪郭が細い黒色の線で縁取りされて描かれ,しかも各文字の内部にはすべて手描きによる斜線模様が描かれている。「Shell Coat」の全部の文字が同一デザインで構成されていて,外観上の統一感があり,さらに「Shell Coat」全体から生ずる「シェルコート」の称呼もまとまりよく,冗長でないことから,「Shell Coat」の構成文字全体をもって,一体的に認識され,「シェルコート」との称呼が生じるものである。下段の片仮名の「シェルコート」は,上段の欧文字の「Shell Coat」の自然な日本語読みを表現すると認識されるものであり,「シェルコート」の書体は,同一書体,等間隔にて記載されているから,これよりは「シェルコート」として一体性を有し,本件商標の上段の「Shell Coat」の発音を表示したものと認識されるものであり,商標全体としても「シェルコート」の称呼のみが生ずるものである。そして,「ShellCoat/シェルコート」は,特定の意味を持たない造語である。
イ 請求人は,特許庁の過去の審査において,「化学品」を指定して出願した「一般名称+コート」という構成の結合商標識別力欠如を理由として拒絶されているから,「Coat/コー卜」は化学品の分野において「コーティング,コーティング剤」の一般名称として認識されるものである旨主張する。
しかし,特許庁の過去の審査においては,「○○+コート」という構成の商標であっても,「コーティング,コーティング剤」を指定商品とせず,「コーティング,コーティング剤」以外の商品を指定して,多数の登録査定を受けている(乙1?乙5)。
仮に請求人が主張するように「Coat/コート」が化学品の分野において「コーティング,コーティング剤」の一般名称であるならば,上記のような商標の出願は,商標法第4条第1項第16号(商品の品質又は役務の質の誤認)に抵触して,拒絶されてしかるべきであるが,そのような拒絶はなされていない。
さらに,特許情報プラットフォームで商品・役務名に「コート」を入力し,第1区分で検索すると,検索結果は0件であり(乙6),「コート」の語が第1類の商品を表す一般名称として使用されているとはいえない。
以上に鑑みれば,「Coat/コート」が化学品の分野において「コーティング,コーティング剤」の一般名称として使用されているとはいえないことは明らかである。
ウ 小括
本件商標は,上段の「Shell Coat」と下段の「シェルコート」とが密接な関連を有する商標であると認識するのが相当であり,「シェルコート」との称呼のみが生じるものであるから,「シェル」との称呼のみ生ずる引用商標とは,称呼において明確に異なる。
また,本件商標は,9文字の斜線を施した特有の欧文字及び5文字の片仮名から構成されるのに対し,引用商標は,ゴシック体の欧文字4文字あるいはゴシック体の片仮名3文字からなるもので,外観上明らかに区別し得る。
さらに,上記のとおり,本件商標は特定の意味を持たないから,引用商標とは,観念上類似しない。
したがって,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれの点においても互いに相紛れるおそれのない非類似の商標であるから,商標法第4条第1項第11号には該当しない。
(2)商標法第4条第1項第10号,同項第15号及び同項第8号に該当しないこと
ア 商標法第4条第1項第10号該当性について
上記のように,本件商標は,構成文字全体をもって一体不可分であるから,請求人が使用している商標「Shell(シェル)」とは,外観,称呼及び観念のいずれの点においても互いに相紛れるおそれのない非類似の商標である。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。
イ 商標法第4条第1項第15号該当性について
請求人は商標「Shell(シェル)」が著名であると主張するが,請求人提出の証拠により,商標の使用態様を検討すると,「昭和シェル石油」「シェルケミカルズ」「Shell Chemicals」もしくは「シェルケミカルズジャパン」と表記して使用されている例が相当多く,単なる「Shell(シェル)」の使用例に勝り,「Shell(シェル)」が著名である根拠にならない。
日本においては「昭和シェル石油」「シェルケミカルズ」「Shell Chemicals」「シェルケミカルズジャパン」などの多くの商標が使用されており,「Shell(シェル)」という商標が単独で統一的に使用されている訳ではなく,むしろ「昭和シェル石油」「シェルケミカルズ」「Shell Chemicals」「シェルケミカルズジャパン」と認識されているというべきである。
これに対して,本件商標は,「シェルコート」との称呼のみが生じるから,商品の出所について混同を生ずるおそれはない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。
ウ 商標法第4条第1項第8号該当性について
上記のように,本件商標は,外観,称呼及び観念のいずれからみても,構成文字全体をもって一体不可分であるから,本件商標から「Shell/シェル」の文字部分のみを分離・抽出して判断されるべきではなく,これらの部分のみを分離・抽出して,本件商標が引用商標を含むものであるとの請求人の主張は,商標法第4条第1項第8号の適用の前提を欠くものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第8号に該当しない。
3 総括
以上より,本件商標は,商標法第4条第1項第11号,同項第10号,同項第15号及び同項第8号の規定に違反して登録されたものではなく,商標法第46条第1項の規定に該当しないものである。

第5 当審の判断
1 引用商標の周知著名性について
(1)請求人の提出した証拠及び同人の主張によれば,以下のとおりである。
ア シェル・グループについて
シェル・グループは,100を超える国々において活動する多数の企業で構成され,石油の探鉱・開発,輸送,精製,販売をはじめ,化学製品の製造・販売,天然ガス,石炭などの事業や研究開発を行っており(甲5),請求人は,同グループの一員として「Shell(シェル)」商標を管理する役割を担っている(請求人の主張)。
1907年,イギリスのシェル・トランスポート&トレーディング社とオランダのロイヤル・ダッチ・ペトロリアム社は,原油生産から石油製品販売まで一貫操業する協約を結び,ロイヤル・ダッチ・シェル・グループが誕生した(甲5,甲516)。
そして,20世紀に入り石油は,自動車や航空機の燃料として用いられ,世界の主要エネルギーになるに伴い,シェル・グループはエネルギー事業で実績を上げ,エクソン社,モービル社,BP社などとともに,世界の主要石油会社7社の一角となった(甲517)。
また,アメリカの有力経済誌「Fortune」の統計によれば,シェル・グループは,1987年に世界全企業の中で総合2位の業績(売上高783億ドル)を上げ(甲516),それ以降も,2007年に3位(売上高3188億ドル/甲509),2010・2011年に2位(売上高2851億ドル及び3781億ドル/甲510,甲511),2012年には世界1位(売上高4844億ドル/約38兆円)となり(甲512),2013年も世界1位(売上高4817億ドル),2014年には世界2位(売上高4595億ドル)となっていることがうかがえる(甲513,甲514)。
なお,請求人は,2019年も世界3位の業績を堅持しているとして甲第528号証を提出し,また,「Shell(シェル)」ブランドが,「Global 500 2019」における「Top 500 most valuable brands」のランキングで世界第29位(審決注:「26位」の誤記と認める。)に位置しているとして甲第529号証を提出しているが,当該証左は,いずれも外国語で表示されており,翻訳文の提出もないため,これについての立証内容は不明である。
イ 日本国内における「Shell(シェル)」
1900年にサミュエル商会から石油部門を独立させたライジングサン石油株式会社が設立され(甲2),その後,1948年,ライジングサン石油株式会社は,その商号をシェル石油株式会社に変更し,1980年代,シェル石油株式会社は国内石油業で売上高6位にまで成長した(甲36ほか)。1985年,シェル石油株式会社は,シェル・グループと資本関係を有していた昭和石油株式会社と合併して,昭和シェル石油株式会社となり,そして2019年には出光興産株式会社と経営統合し,出光昭和シェルとして現在に至っている(甲2)。
旧・昭和シェル石油株式会社は,例えば2018年時点で国内石油業2位の販売シェアを誇り(甲34),また,日本国内の旧・昭和シェル・グループの連結売上高は,2007年に3兆800億円,2008年に3兆2728億円,2009年に2兆225億円,2010年に2兆3460億円,2018年に2兆459億円と,毎年2ないし3兆円となっている(甲26,甲34)。
旧・昭和シェル石油株式会社が,日本国内におけるシェル・グループのエネルギー事業につき主導的役割を果たしてきた一方で,同グループのもう一つの柱である化学事業や天然ガス事業については,シェルジャパン株式会社やシェルケミカルズジャパン株式会社が,それぞれ担ってきた(甲6,請求人の主張)。
ウ シェル・グループの化学事業
(ア)化学企業「Shell Chemicals(シェルケミカルズ)」について
シェル・グループは,石油製品の製造・販売のみならず,化学事業活動も行っており(甲35),シェル・グループの化学事業は,今から90年前の1929年に米国でシェル・ケミカル社が設立された時に始まる(甲236,甲515ほか)。
そして,シェル・グループ,エクソンモービル,シェブロン及びBP社いわゆるスーパーメジャーといわれる石油会社は,いずれも石油化学部門をもっている(甲519)。
シェル・グループの化学事業部門の業績は,1984年には,化学部門の売上高だけで日本円換算1兆8000億円に達し,当時我が国最大の化学工業メーカーであった三菱化成の2倍以上の実績を上げている(甲516)。
また,2000年の世界化学企業ランキングでは,150億ドルの売上高で世界8位に(甲519),2005年には349億ドルの売上高で世界3位(甲522),2007年も459億ドルの売上高で世界3位(甲519,甲520),2010年は352億ドルの売上高で世界5位となるなど(甲521),シェル・グループの化学事業部門いわゆるシェルケミカルズ(Shell Chemicals)は毎年のように世界化学企業の上位に名を連ねている。
(イ)日本国内における化学事業について
シェル・グループは,1963年に化学事業を主体とする日本法人としてシェル化学製品販売株式会社を,1967年にはシェル化学株式会社を,それぞれ設立した(甲5,甲236ほか)。その後,両社は合併し,シェル興産株式会社(1968年),シェルジャパン株式会社(1991年)への商号変更を経て,2001年に昭石化成株式会社(昭和シェル・グループの化学事業を行っていた企業)を統合することによりシェルケミカルズジャパン株式会社が誕生し(甲6,甲236ほか),主として,シェル・グループが製造する化学品すなわち溶剤,芳香族,プロピレン,洗剤原料(洗剤製造用化学品),高級オレフィン,エチレンオキサイド,エチレングリコール,誘導体,スチレンモノマー,プロピレンオキサイド,触媒,アセトン,フェノール類,アルコール,ファインケミカルなどを日本国内において販売してきた(甲180,甲408?甲507ほか)。
(ウ)化学品及び化学製品についての「Shell(シェル)」商標の使用実績・状況
シェル・グループは,各種化学品及び化学製品の包装のラベルに「Shell Chemicals」のロゴマーク等の表示を使用し(甲408?甲473),それらの説明書・取扱書等のヘッダー部分(甲474?甲508)や,会社案内・カタログ等(甲4,甲5ほか),レターヘッド・封筒・請求書などの取引書類等にも「Shell Chemicals」のロゴマークを使用してきたことがうかがえる(甲11,甲22?甲24)が,「Shell」及び「シェル」のみで使用されている例は見いだせない。
また,シェル・グループが販売してきた化学品や石油製品の商品名には,「シェルゾール」「シェルブライトソル」「シェルフレックス」「SHELLVIS」「SHELLSWIM」「シェルバボナ」など,「シェル」の語を冠しているものが少なくなく(甲8,甲27,甲408,甲461ほか),「SHELL」,「Shell」及び「シェル」のみで使用されている例は見いだせない。
請求人提出のシェル・グループに関する新聞・雑誌の記事中,甲第36号証ないし甲第158号証は主としてシェル石油及び昭和シェル石油に関する記事であり,甲第159号証ないし甲第407号証は主としてシェルケミカルズ及びシェルケミカルズジャパンに関する記事である。
エ シェル・グループによる「Shell(シェル)」商標の使用について
(ア)「Shell」の使用
「Shell」単独での使用は,出光昭和シェルのウェブサイト(甲2),昭和シェル石油株式会社のサステイナビリティ・レポート2011(甲25),昭和シェル石油株式会社のアニュアルレポート2010(甲26),日経業界地図2019年版(甲34),製品案内(甲508)等の一部に見られるが,これら以外のほとんどは,「Shell」が単独ではなく,「Shell Chemicals」,「Shell Japan」,「Royal Dutch Shell」のように,他の文字と結合し一体となって使用されているものである。
また,上記ウェブページの閲覧件数や,レポート,製品案内等の作成部数,配布部数,配布先等は,客観性をもって具体的に示されていない。
(イ)「シェル」の使用
「シェル」単独での使用は,シェルジャパン株式会社のウェブページ(甲6),出光昭和シェルのウェブサイト(甲30),新聞記事(甲39,甲160,甲162,甲167,甲169,甲170,甲172,甲176,甲178,甲179,甲182,甲185,甲188,甲189,甲192,甲196,甲202,甲210,甲212,甲214?甲219,甲222,甲230,甲232,甲236,甲245,甲253,甲255,甲256,甲259,甲266,甲267,甲272,甲277,甲282,甲294,甲303,甲305,甲307?甲309,甲326,甲327,甲332,甲346,甲350,甲356?甲359,甲363,甲368,甲371,甲373,甲375,甲376,甲387,甲391,甲393,甲395,甲403,甲405,甲406),書籍(甲516,甲517)中に見られるが,ほとんどは,「シェル」が単独ではなく,「昭和シェル石油株式会社」,「シェルケミカルズジャパン株式会社」,「シェルジャパン株式会社」のように企業の名称の一部に使用されるか,あるいは,「出光昭和シェル」,「昭和シェル石油」,「ロイヤル・ダッチ・シェル」,「シェルグループ」,「シェルエナジージャパン」,「シェル化学」,「シェル石油」,「シェルケミカルズ」,「シェルケミカルズジャパン」等のように,他の文字と結合し一体となって使用されているものである。
また,上記ウェブページの閲覧件数や,書籍の発行部数等は,客観性をもって具体的に示されていない。
(2)判断
上記のとおり,「Shell」及び「シェル」の文字は,出光昭和シェルやシェルジャパン株式会社等のウェブページ,レポート,製品案内,会社案内,新聞記事,書籍等において記載されていることが認められるが,「Shell」及び「シェル」の文字が単独で記載されているものは極めて少ない。
また,新聞,書籍の見出しやその記事中において,「シェル」の記載が認められるとしても,それが,シェル・グループないし特定の者等を指し示す表示(略称)であると認め得るような表現は見いだせない。
そして,上記レポート,製品案内,会社案内についての作成部数,配布部数,配布先等や書籍の発行部数やウェブページの閲覧件数等を具体的に示す資料は提出されておらず,請求人の提出にかかる証拠から,シェル・グループ等の売上高を把握することができるとしても,引用商標を付した商品の具体的な取引の状況や宣伝広告の回数,費用,内容等は明らかではない。
その他,「Shell(シェル)」の使用状況や周知著名性を客観的に把握することができる証拠は見いだせない。
してみれば,「Shell(シェル)」は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人を一員とするシェル・グループの業務に係る商品を表示するものとして,我が国における需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。また,「Shell(シェル)」が,請求人を一員とするシェル・グループないし特定の者を指し示す略称として認知され,広く知られるようになっていたと認めることもできない。
なお,請求人は,「シェル・グループは,現在,世界全ての業種・分野の中で最大級の売上業績を誇る,世界で最も有名な企業の一つであって,そのハウスマーク「Shell(シェル)」が業種・分野を超え,世界で最も著名な商標の一つである。」旨主張している。
確かに,新聞や書籍等において,「Shell」,「シェル」の記載を認めることができるが,その表示は,シェル・グループないし特定の者の略称を指し示す表示とまでは認められず,しかも,それらは他の文字と結合し一体となっているものがほとんどであるから,「Shell(シェル)」が,シェル・グループないし特定の者の略称又はシェル・グループ等の業務に係る商品を表示するものとして本件商標の登録出願時及び登録査定時において需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。
したがって,かかる請求人の主張は採用できない。
2 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標
本件商標は,「Shell Coat」の欧文字(各文字の内部には斜線模様が描かれている。)を筆記体風に横書きし,その下に「シェルコート」の片仮名を小さく横書きした構成からなるところ,下段の片仮名部分は,上段の欧文字部分の表音と認められるものであり,これより生ずる「シェルコート」の称呼も,無理なく一連に称呼し得るものである。
また,上段の「Shell Coat」部分については,「Shell」と「Coat」との間に半文字程度の間隔が設けられているものの,2つの間隔は共に英単語を区切るスペース程度のものであって,「Shell」と「Coat」に分けて観察される態様とはなっておらず,全体としてまとまりよく配されているものである。
そして,本件商標を構成する各文字は,それぞれ「貝殻」,「(外出・防寒用の)コート,皮,殻,膜,めっき」等の意味を有する平易な外来語であって,特別の印象をもつものでもなく,下段の「シェルコート」部分は全体が一体として表記されていることからすると,本件商標に接した需要者は,「Shell Coat」部分と「シェルコート」部分をそれぞれ一体のものとして認識するものと判断するのが相当である。
なお,本件商標を構成する「Shell Coat」の文字は,一般的な辞書等には載録がなく,また,特定の意味合いを有する語として知られているとも認められないものであって,たとえ,その構成中「Coat」の文字が,「コーティング」の意味合いを想起させる場合があるとしても,当該文字は,「(外出・防寒用の)コート,皮,殻,膜,めっき」等の意味を有する多義的なものであり,かかる構成において,これに接する取引者,需要者が,当該文字から「コーティング剤」を直ちに理解するとはいい難いから,その構成全体をもって一体不可分の造語として認識されるものとみるのが自然である。
そうすると,本件商標は,「シェルコート」の称呼のみを生じ,特定の観念を生じないものである。
(2)引用商標
引用商標は,別掲2ないし別掲6に示したとおり,それぞれ「Shell」,「シェル」若しくは「SHELL」の文字又は貝殻の図形と「SHELL」の文字との結合からなるものであるから,いずれも,その構成全体に相応して,「シェル」の称呼及び「貝殻」の観念を生ずるものである。
(3)本件商標と引用商標との類否について
本件商標は,「Shell Coat」及び「シェルコート」の文字からなるのに対し,引用商標は,「Shell」「シェル」若しくは「SHELL」の文字又は貝殻の図形と「SHELL」の文字との結合からなるものであるから,両商標は,構成文字及び構成態様が異なり,外観において,判然と区別できるものである。
また,称呼においては,本件商標から生ずる「シェルコート」の称呼と引用商標から生ずる「シェル」の称呼とは,その音構成及び構成音数において明らかな差異があるものであるから,それぞれを一連に称呼するときは,互いに聴き誤るおそれはない。
さらに,観念においては,本件商標からは,特定の観念を生じないものであるのに対し,引用商標からは「貝殻」の観念を生ずるものであるから,観念上,相紛れるおそれのないものである。
そうすると,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのないものであるから,これらを総合して考察すれば,両商標は,商品の出所について誤認混同を生ずるおそれのない,互いに非類似の商標というのが相当である。
(4)商標法第4条第1項第11号該当性に関する請求人の主張について
請求人は,「Shell(シェル)」商標は,化学品について90年(日本国内でも半世紀以上)使用されてきたものであり,また,シェル・グループが本件商標の登録査定時には世界化学企業ランキングで上位に位置づけられていたことなどの事情を踏まえれば,「Shell(シェル)」商標は貝という一般的意味を凌駕するに十分なほど,シェル・グループを表示する商標として極めて著名となっているとみるのが相当であり,当該取引の実情に照らせば,本件商標は,その構成中「Shell/シェル」が支配的な印象を与える部分として捉えられ,引用商標と称呼・観念及び外観上類似する旨主張している。
しかしながら,「Shell」及び「シェル」の文字は,上記1のとおり,請求人を一員とするシェル・グループの業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないものであって,「Shell」のつづりを同じくする「SHELL」の文字についても同様であり,本件商標は,構成全体をもって一体不可分の商標と捉えるのが相当であるから,請求人の主張は採用することができない。
(5)小括
したがって,本件商標と引用商標とは非類似の商標であるから,両者の指定商品が互いに同一又は類似するものとしても,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第10号及び同項第15号該当性について
(1)「Shell(シェル)」の周知著名性について
「Shell(シェル)」については,上記1のとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,他人(請求人を一員とするシェル・グループ)の業務に係る商品を表示するものとして,需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
(2)本件商標と「Shell(シェル)」商標との類似性の程度について
上記2のとおり,本件商標と引用商標とは,非類似の商標というべきものであり,引用商標と同一又は類似する「Shell(シェル)」商標もまた,本件商標とは非類似の商標であって別異の商標であるから,その類似性の程度は高いとはいえない。
(3)「Shell(シェル)」の独創性の程度について
請求人は,「Shell(シェル)」商標は,「貝」を意味する言葉であるが,もともとはマーカス・サミュエル氏がロンドンにおいて東洋の貝殻を扱う商店を開業したことに由来するものであって,石油製品や化学品と「貝」とはもともと全く関係がなく,何ら商品の品質等を表すものでもないから,「Shell(シェル)」商標の独自性・独創性は高いというべきである旨主張している。
しかし,「Shell(シェル)」は,我が国の一般的な辞書に載録された既成語として親しまれているものであるから,造語よりなる商標と異なり,その独創性の程度は高いとまではいえない。
(4)本件商標の指定商品と請求人の業務に係る商品との関連性並びに取引者及び需要者の共通性について
本件商標の指定商品中「工業用除菌剤,食品添加物として用いられる化学品及びその他の化学品」と,シェル・グループの主な業務である化学事業「化学品及び化学製品」とは,生産・販売部門,用途,需要者を同じくする同一又は類似の商品であり,その関連性は高いといえるとともに,取引者及び需要者の範囲も一致する。
(5)出所の混同のおそれについて
上記(1)ないし(4)を総合的にみれば,本件商標に係る指定商品中,第1類「工業用除菌剤,食品添加物として用いられる化学品及びその他の化学品」と請求人の業務に係る商品の関連性が高く,その需要者の範囲を共通にする場合があるとしても,引用商標は,請求人を一員とするシェル・グループの業務に係る商品を表示するものとして,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,我が国の取引者・需要者の間に広く認識されていたものとは認めることができず,その独創性も,さほど高いとはいえないものであって,かつ,本件商標と引用商標とは,類似性の程度が高いとはいえないものである。
してみれば,本件商標権者が本件商標をその指定商品について使用しても,取引者,需要者は,引用商標を連想又は想起することはなく,その商品が他人(請求人を一員とするシェル・グループ)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように,商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
(6)小括
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号及び同項第15号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第8号該当性について
請求人は,本件商標は,「Shell/シェル」と「Coat/コート」の結合から成るものであることが明らかであるところ,他人,すなわち請求人又はそのグループの名称の著名な略称を含む商標であり,請求人が本件商標権者に対して「Shell/シェル」を含む本件商標の登録ないし使用について承諾したという事実はないから,本件商標は,商標法第4条第1項第8号に該当する旨主張している。
しかし,上記1(2)のとおり,「Shell」及び「シェル」の文字が,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人を一員とするシェル・グループの業務に係る商標表示として,需要者の間に広く認識されていたと認めることはできないものであり,また,シェル・グループの略称として広く認識されていたものということもできないものである。
そして,上記2(1)のとおり,本件商標は,構成全体をもって一体不可分のものとして認識されるものである。
したがって,本件商標は,たとえ,その構成中に「Shell」の文字を有するものであっても,他人の著名な略称を含む商標とはいえず,商標法第4条第1項第8号に該当しない。
5 むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,請求に係る指定商品について,商標法第4条第1項第8号,同項第10号,同項第11号及び同項第15号のいずれにも違反してされたものとはいえないから,同法第46条第1項の規定により,その登録を無効とすべきでない。
よって,結論のとおり審決する。

別掲1
本件商標



別掲2
引用商標1(登録第2375293号商標)



別掲3
引用商標2(登録第2375294号商標)



別掲4
引用商標3(国際登録第977610号商標)



別掲5
引用商標4(登録第468792号商標)



別掲6
引用商標5(国際登録第1172758号商標)





別掲

審理終結日 2021-04-06 
結審通知日 2021-04-15 
審決日 2021-04-27 
出願番号 商願2018-42894(T2018-42894) 
審決分類 T 1 12・ 261- Y (W01)
T 1 12・ 23- Y (W01)
T 1 12・ 25- Y (W01)
T 1 12・ 262- Y (W01)
T 1 12・ 263- Y (W01)
T 1 12・ 271- Y (W01)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早川 真規子 
特許庁審判長 半田 正人
特許庁審判官 佐藤 松江
平澤 芳行
登録日 2019-01-18 
登録番号 商標登録第6114906号(T6114906) 
商標の称呼 シェルコート、シェル 
代理人 松尾 和子 
代理人 福島 三雄 
代理人 田中 伸一郎 
代理人 藤倉 大作 
代理人 中村 稔 
代理人 苫米地 正啓 
代理人 井滝 裕敬 
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