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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W42
管理番号 1376874 
審判番号 取消2019-300166 
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2019-03-01 
確定日 2021-07-19 
事件の表示 上記当事者間の登録第5825462号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5825462号商標の指定商品及び指定役務中、第42類「電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供」についての商標登録を取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5825462号商標(以下「本件商標」という。)は、「リップス」の文字を標準文字で表してなり、平成26年12月26日に登録出願、第42類「電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供」を含む、第3類、第8類、第21類、第35類、第41類、第42類及び第44類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同28年2月12日に設定登録がされ、現に有効に存続しているものである。
そして、本件審判の請求の登録は、平成31年3月14日であり、商標法第50条第2項に規定する「審判の請求の登録前3年以内」とは、平成28年(2016年)3月14日から同31年(2019年)3月13日までの期間(以下「要証期間」という。)である。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第7号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品及び指定役務中、第42類「電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供」(以下「請求に係る役務」という場合がある。)について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、その登録は商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)被請求人による「電子計算機用プログラムの提供」は行われていない
ア 被請求人は、本件商標をフランチャイジーであるO氏に使用許諾したことを主張するが、被請求人はフランチャイジー、すなわち通常使用権者であるO氏が第42類「電子計算機用プログラムの提供」の役務(以下「本件役務」という。)について本件商標を使用したことの主張立証をしていないから、「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが」3年以上使用していないことに対する反証となっていない。
イ 被請求人は100%子会社である株式会社リップスを通じて、本件役務を顧客に向けて提供したと主張するが、被請求人は株式会社リップスの株主構成を客観的に明らかにしておらず、当該会社が被請求人の100%子会社であることをなんら立証していない。仮に、100%子会社であると考えてみても、被請求人と株式会社リップスは別法人であるのだから、株式会社リップスによる役務の提供や商標の使用が被請求人による役務の提供や商標の使用と同視されることはない。
ウ 被請求人は、フランチャイザー(甲)である被請求人とフランチャイジー(乙)であるO氏との間の契約を定めた契約書の第4条において、ウェブサイトに掲載する記事の製作費用等はフランチャイジーが負担するとされていることを主張するが、このことは、フランチャイザーがフランチャイジーのために電子算機用プログラム又はウェブサイト(HP)の設計・作成又は保守を行っていることを示すものであって、本件役務を提供していることを示すものではない。
この点、被請求人が別件審判取消2019-300165において、フランチャイザーがフランチャイジーに「電子計算機用プログラムの設計・作成又は保守」の役務提供を行ったことの根拠として提出した請求書に「HP保守費」「HP制作費用」との項目が請求内容として明示されていることからも明らかである(甲1)。乙第6号証からもこのことは明らかである。被請求人による同一の行為が「電子計算機用プログラムの設計・作成又は保守」に該当し、かつ、「電子計算機用プログラムの提供」に該当する余地はなく、被請求人が「電子計算機用プログラムの提供」を行ったとの主張は根拠薄弱である。
エ 被請求人は、顧客がクリックして閲覧可能な美容室LIPPSのウェブサイトに「LIPPS」の文字が表示されていると主張するが、クリックして閲覧可能なウェブサイトを開設することは顧客向けに本件役務「電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供」を行ったことをなんら意味しないことは明らかである。後述のように、予約のためのアプリケーションプログラムは、被請求人ではなく、第三者によって提供されている。
付言すれば、被請求人が依拠する乙第4号証の1で示されるウェブサイトには、複数の店舗が示され、顧客がいずれの店舗を訪れるかの選択をするための情報が掲載されており、上記ウェブサイトを運営する株式会社リップスの行為は、顧客のためのヘアサロンの選択における情報の提供というべきである。
オ また、被請求人は、アンドロイド専用のアプリケーションプログラムを提供していると主張するが、乙第5号証の2、4頁及び5頁から明らかなように、当該アプリケーションプログラムはダウンロードにより提供される第9類の電子計算機用プログラムに該当し得るものであって、「電気通信回線を通じて電子計算機用プログラムを利用させる」(甲2)第42類の「電子計算機用プログラムの提供」に該当し得るものではない。
カ 被請求人は、乙第7号証の1ないし3を根拠に、被請求人がフランチャイジーのヘアサロンに本件役務を提供したと主張するが、アプリケーションプログラム「Reservia(リザービア)」は被請求人ではなく、株式会社クロスフィードが提供するものであることが乙第7号証の3から明らかである。乙第7号証の1及び2は、株式会社リップスが、各サロンによる「Reservia(リザービア)」の利用料支払いを代行等していることを示すにすぎない。
たとえば、乙第7号証の1には「予防接種代」という請求内容も記載されているところ、株式会社リップスが予防接種を行ったと考える余地はないのであって、「リザービア」と記載された請求内容についても、あくまで支払いの代行等であることが明らかである。
また、乙第7号証の4についても、第三者であるタカラベルモント株式会社がアプリケーションプログラムの提供をしていることを示すものであって、被請求人による本件役務の提供の事実をなんら立証するものではない。上述したように、被請求人は、フランチャイジーに対し、電子計算機用プログラム又はウェブサイト(HP)の設計・作成又は保守を行っているが、本件役務を提供するものではない。
実際、乙第4号証の1で示されるウェブサイトにおいて「自由が丘」店舗の「Web予約」をクリックすると「https://lipps.co.jp」から被請求人又は株式会社リップスとは無関係の「https://cs.appnt.me」のURLに画面が遷移する。甲第3号証に「https://cs.appnt.me」のURLで表示されるウェブサイトを示す。アプリケーションプログラム「Reservia(リザービア)」の提供は被請求人が行うものではないことが明白である。
キ また、被請求人は、乙第7号証の1の請求書に「株式会社リップス」の文字が表示されていることをもって、本件商標「リップス」と社会通念上同一の商標が使用されているとも主張するが、当該請求書に普通に用いられる方法で表示された「株式会社リップス」の文字は、単に商号を表すものにすぎず、自他商品役務の識別標識として付されたものではないから、被請求人の主張には理由がない。ここで、被請求人は、「株式会社リップス」が本件商標の「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれ」かであること、そして当該請求書は「頒布」されたことを主張立証していないことを念のため付言する。
乙第7号証の2については、仮にこれが真正であるとしても、被請求人が、本件審判が請求されることを知った後に作成されたものであるから(甲4)、意味を有しない。
(2)被請求人による行為は、商標法上の「役務」ではない
ア 仮に、被請求人が顧客に電子計算機用プログラムを提供していると解する余地があるとしても、当該行為は、商標法上の「役務」には該当しない。すなわち、我が国の商標法上、「役務」とは「他人のために行う労務又は便益であって、独立して商取引の目的たりうべきもの」(甲5)と解されている。被請求人の行為は、あくまでヘアサロンにおける美容の役務を受けるための予約を行うための付随的なアプリケーションプログラムの提供であって、それ自体が独立して商取引の対象となるものではない。独立して商取引の対象となるアプリケーションプログラムの提供を行っているのは、第三者である株式会社クロスフィードであり、タカラベルモント株式会社である。そして、これらの企業は、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれでもない。
イ ここで、当該予約アプリケーションプログラムの提供者が誰であるかを度外視しても、乙第4号証の2には、「以前『Reservia』に会員登録された方はこちらからお進み下さい。」「Reservia(リザービア)ご予約方法」のように複数個所に記載されており、ヘアサロンの顧客が、当該予約アプリケーションプログラムは「Reservia(リザービア)」というサービス名であると認識することに疑いを容れる余地はない。
(3)被請求人は、本件役務に関する「取引書類」を「頒布」していない
ア 被請求人は、「リップスパートナーサロン契約書」なる契約書(乙2の1)は、商標法第2条第3項第8号に定める本件役務に関する取引書類に該当し、当該取引書類はフランチャイジーであるO氏に頒布されたから、被請求人は、本件役務について、本件商標を使用したと主張する。しかしながら、同号は、「・・・役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して・・・頒布・・・する行為」であるところ、ここで「頒布」とは、「広告等が一般に閲覧可能な状態になっていること」を意味すると解される(甲6)。また、「頒布」とは、「広くゆきわたるように分かちくばること」(甲7)を意味する語である。被請求人が同号の「取引書類」に該当すると主張する前記契約書は、被請求人が、極めて限られた数のフランチャイジーとの契約において契約相手であるフランチャイジーに示したものにすぎないから、同号に定める「頒布」の対象となったものではない。実際、被請求人は、乙第2号証の1において、いくつかのマスキングをしており、明らかに「一般に閲覧可能な状態」ではない。また、前記契約書では、フランチャイジーは、契約終了後も含めてフランチャイザーから受領した情報について守秘義務を負っており、これを「一般に閲覧可能な状態」とすることは許されない。
イ フランチャイザーである被請求人は、フランチャイジーと一体となってフランチャイズシステムないしフランチャイズグループを形成しているのであり、当該フランチャイズシステムないしフランチャイズグループ内でのみ行われる書類の受け渡しは、到底「頒布」と評価し得るものではない。
ウ 仮に、被請求人が顧客に電子計算機用プログラムの提供を行っていると解する余地があるとしても、当該行為は、商標法上の「役務」には 該当しないのであるから、前記契約書は、本件役務との関係において、商標法第2条第3項第8号規定の「役務に関する・・・取引書類」に該当する余地はない。
(4)被請求人は、本件商標と実質的同一の商標を使用していない
ア 被請求人は、乙第2号証の1の契約書の1頁に「リップスパートナーサロン契約書」の文字が付されていることをもって、本件商標と社会通念上同一の商標が使用されていると主張するが、「リップスパートナーサロン契約書」の文字のうち「パートナーサロン契約書」の文字を捨象して「リップス」の文字のみが出所識別標識として機能するから、これは「リップス」と社会通念上同一であるとする被請求人の主張にはなんら理由がない。
「リップスパートナーサロン契約書」の文字において、「契約書」の部分については、当該文字が契約書に付されているという取引実情に鑑みれば、これが出所識別標識として需要者に強い印象を与えるものではないと考え得るものの、称呼において淀みなく発音され、外観において片仮名でまとまりよく構成された「リップスパートナーサロン」の文字は、いずれかの部分のみが強く支配的な印象を与えるものではなく、その構成文字全体をもって需要者ないし取引者に認識される。
イ フランチャイズ契約を「パートナーサロン契約」と呼称することが一般的であるわけでもなく、被請求人自身、乙第2号証の1、2頁冒頭において「以下のとおりフランチャイズ契約(通称、『リップスパートナーサロン契約』、以下、『本契約』という)を締結する」と記載し、被請求人独自の呼称として「リップスパートナーサロン契約」の語を用いている。このような語を「リップス」と社会通念上同一と評価する理由はない。
ウ さらに、前記契約書に「リップスパートナーサロン契約書」と記載されているとおり、当該書類が契約書であることは、それを目にしたフランチャイジーにおいて明らかであり、「リップスパートナーサロン契約書」の文字はそのタイトルを単に示すものとして用いられているにすぎず、自他役務の識別標識たる商標として用いられているものではない。
(5)結語
以上のとおり、被請求人は、本件役務の提供の事実、本件商標の使用の事実などを主張するものの、被請求人の主張する各行為は、本件役務との関係における商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかによる本件商標の使用には該当しないことから、本件商標は、その登録の取り消しを免れない。
なお、被請求人は、乙第2号証の2(覚書)が乙第2号証の1(契約書)の第1条第1項の「別紙」に当たる旨主張するところ、当該契約書と覚書は、同一の締結日であるにも関わらず、フランチャイジーである乙の印影が異なり、被請求人の主張には、その全体において重大な疑義があることを付言する。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第10号証(枝番号を含む。なお、枝番号を有する証拠において、枝番号の全てを引用する場合は、枝番号の記載を省略する。)を提出した。
1 答弁の理由
(1)商標権者は、以下のとおり、要証期間内に、本件商標を、請求に係る役務である第42類「電子計算機用プログラムの提供」について使用している。
(2)商標権者は、ヘアサロンに関するフランチャイズシステムを運営しているところ、フランチャイザーとして、フランチャイジーであるヘアサロン「LIPPS美容室」のウェブサイトやアプリに関する「電子計算機用プログラムの提供」を行っている。乙第2号証の1は、そのフランチャイズ契約書の写しである。また、乙第2号証の2は、乙第2号証の1のフランチャイズ契約書第1条第1項の別紙に当たる覚書の写しであり、本件商標も使用許諾した商標に含まれている。
そして、乙第2号証の1の契約書の第4条には、フランチャイジーであるヘアサロンの乙は、本件店舗に関し、ヘアサロンの営業、化粧品等商品の販売についての広告宣伝は、ウェブサイトやアプリに関するものを含め、フランチャイザーである甲の定める様式に従うこととされ、加えて、ウェブサイトに掲載する本件店舗に関する記事の製作費用や情報掲載費用などは乙が負担するとされている。
(3)この契約に基づき、商標権者は、100%子会社の株式会社リップス(乙3)を通じ、Webによる予約やクーポンを発行することができるアプリケーションプログラムを搭載した各フランチャイジーのサロンを掲載する美容室LIPPSのウェブサイト等を立ち上げて、運営している。すなわち、商標権者は、フランチャイジーの各サロンの依頼に基づき、顧客向けに、Webによる予約やクーポンを発行することができるアプリケーションプログラムを提供しているのである。
乙第4号証の1は、美容室LIPPSのウェブサイトであり、その2枚目の「自由が丘」の店舗の「Web予約」をクリックすると乙第4号証の2が登場し、さらに、その乙第4号証の2の「クーポンを確認する」をクリックすると乙第4号証の3が登場する。そして、乙第4号証の2及び3には、「LIPPS」の文字とともに、本件商標と社会通念上同一の「リップス」の商標が表示されている。なお、乙第4号証の4及び5は、インターネットアーカイブのウェイバックマシンで表示したものであるところ、要証期間内にも、本件商標と社会通念上同一の「リップス」の商標が同様に表示されていたことは明らかである。
同じく、商標権者は、アンドロイド専用のアプリケーションプログラムも立ち上げ、同様にWebによる予約やクーポンを発行することができるアプリケーションプログラムを提供している。乙第5号証の1は、美容室LIPPSのウェブサイトにおけるアンドロイド専用の公式アプリをリリースした旨の2018年11月1日付のニュースの写しである。乙第5号証の2は、そのアプリ上の表示であり、やはり、予約やクーポンを発行することができる旨、2018年10月25日がリリース日とされており、「LIPPS」の文字とともに、本件商標と社会通念上同一の「リップス」の商標が表示されている。
(4)被請求人は、これら商標権者とフランチャイジーのヘアサロンとの上記のような役務の商取引があったことを証する証拠として、乙第6号証及び乙第7号証を提出する。乙第6号証の1ないし3は、商標権者からO氏又は株式会社YETに宛てた2018年5月31日付、2018年11月30日付、2019年1月31日付の請求書の写しであり、その請求内容の欄に「HP保守費」が含まれている。なお、O氏は乙第2号証の1の契約書における乙、すなわち、フランチャイザーであり、株式会社YETはその乙第2号証の1の契約書における乙の権利義務を承継した者である。被請求人は、それを証するため、乙第6号証の4として、権利義務の承継を定めた覚書の写しを提出する。
さらに、乙第7号証の1及び2も、商標権者から株式会社YETに宛てた2018年11月30日付と2019年2月28日付の請求書の写しであり、その請求内容の欄の「リザービア(月額)」と「リザービア(サロンポス接続料)」は、ヘアサロンの予約アプリの使用料を指している。美容室LIPPSのウェブサイトにおけるアプリケーションプログラムにおいては、サロンの予約に株式会社クロスフィードの「Reservia(リザービア)」というアプリ(乙7の3)、さらに、売上管理などの「SALONPOS LinQ2」というアプリ(乙7の4)と連結して提供するように設計されているため、それらの使用料の請求書である。そして、乙第6号証の1及び2と乙第7号証の1の請求書の日付は、要証期間内のものである。
しかも、乙第6号証又は乙第7号証の請求書には、「LIPPS」の文字又は「株式会社リップス」の文字が表示されているところ、そのうちの「株式会社」の文字部分は、会社法によって義務付けられている会社の種類を表している文字のため、役務の出所識別標識としては何ら機能し得ない部分であって、社会通念上、役務の出所識別標識として捉えられるのは「リップス」の文字部分にあるといえるから、これらは本件商標とは、社会通念上同一の商標ということができる。
また、本件商標の「リップス」は、そのうちの「LIPPS」の文字を片仮名表記したものといえるから、やはり、本件商標と「LIPPS」とは社会通念上同一の商標ということができる。
そうすると、これら請求書をみても、商標権者は、要証期間内に、フランチャイジーの各サロンの依頼に基づき、顧客向けに、Webによる予約やクーポンを発行することができるアプリケーションプログラムを提供しているのは明らかであり、乙第6号証の1の請求書における表示は、商標法第2条第3項第8号に該当し、商標権者は、要証期間内に、本件商標と社会通念上同一の商標を「電子計算機用プログラムの提供」について使用していたこと明らかである。
(5)加えて、フランチャイザーである商標権者は、乙第2号証の1のフランチャイズ契約に基づき、フランチャイジーであるヘアサロンに対して、上述のとおり、「電子計算機用プログラムの提供」の役務を提供しているのであり、その契約を定めた契約書は商標法第2条第3項第8号に定める役務に関する取引書類に該当する。
そして、その契約書の1頁に「リップスパートナーサロン契約書」として、「リップス」の商標が使用されている。「パートナーサロン契約書」の文字を伴ってはいるが、該文字部分が、ヘアサロンに関するフランチャイズ契約との関係においては出所識別標識としては全く機能しない部分であって、出所識別標識としての使用に係る商標は「リップス」の文字部分といえる。そうすると、その使用に係る本件商標とは、社会通念上同一の商標ということができる。
また、同契約書の末尾には「甲、乙及び丙は上記のとおり合意したので、本契約に署名、捺印をなし、3通作成のうえ、各自1通宛保有する。」とあり、契約日として「平成29年4月5日」と記載されている。
そうすると、契約日である「平成29年4月5日」は要証期間内であり、しかも、同契約書は要証期間内にフランチャイジーであるヘアサロンの乙に頒布されたこと明らかといえるから、商標権者は、要証期間内に、本件商標と社会通念上同一の商標を本件役務について商標法第2条第3項第8号に定める使用をしていたということもできる。
(6)以上のとおり、本件商標は、要証期間内に、日本国内において、商標権者又は使用権者により、本件審判請求に係る指定役務である第42類「電子計算機用プログラムの提供」の役務について使用されていたことが明らかであるから、本件審判請求は成り立たない。
2 審尋に対する回答及び弁駁に対する主張(令和3年2月15日付け回答書)
(1)被請求人が電子計算機用プログラムを自由が丘店に提供した事実、提供の方法等と、自由が丘店が当該電子計算機用プログラムを利用した事実、利用の方法について
被請求人及び自由が丘店を含む各店舗のやり取りについてはビジネスチャットツールを通じてアプリと割引クーポンの説明をしている通信記録を提出する(乙8)。
このチャットのやり取りで、アンドロイドアプリが各店舗に提供されることが明らかだが、当該アプリは被請求人の通常使用権者である株式会社リップスがアプリ制作会社に依頼して制作したものであり(乙9)、それが株式会社YETに提供されたこと(乙10)が明らかである。乙第7号証の2の請求書にある「リザービア」は予約サービスのアプリであり(乙7の3)、「LINE WORKS」はSNSのアプリであるが、株式会社リップスが、それらをカスタマイズして、各店舗に提供しているものである。
「自由が丘店」は、被請求人「株式会社レスプリ」と「リップスパートナーサロン契約」を締結している「O氏」が代表を務める「株式会社YET」が運営する各地の店舗である。「株式会社YET」がフランチャイジーであることは、乙第6号証の4から確認できる。
(2)乙第7号証の金額の合計の計算について
乙第7号証の請求書については、マイナス記号がマスキングで隠れていたために合計金額の下三桁の計算が合わなかったので、マスキングしなおしたものを新たに提出する(乙10)。
(3)以上のとおり、本件商標が本件役務の取引書類(契約書)について要証期間内に使用されていたことは明らかであり、商標法第2条第3項第8号の使用に該当する。

第4 当審の判断
1 被請求人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、以下の事実が認められる。
(1)被請求人は、ヘアサロンに関するフランチャイズシステムを運営しており、「LIPPS自由が丘店」は、平成29年4月5日付けの被請求人との「リップスパートナーサロン契約書」と称するフランチャイズ契約書(以下「本件契約書」という。)に基づいて、O氏によって運営される契約が交わされた店舗である(乙2の1)。
(2)本件契約書の第4条第1項に「乙(フランチャイジー)は、本件店舗(LIPPS自由が丘店)に関し、独自に宣伝広告を行ってはならず、ヘアサロンの営業、化粧品等商品の販売についての広告宣伝は甲(フランチャイザー)の定める様式に従うものとする。」(審決注:括弧内の記載は合議体が付加。)、同条第2項に「甲が、本件店舗のために次の費用を支出したときは、乙は、甲に対し、その広告宣伝費用を負担する。」として、「〈1〉甲のウェブサイトに掲載する本件店舗に関する記事の製作費用」や「〈2〉甲のウェブサイトへの本件店舗の情報掲載費用」(審決注:〈1〉、〈2〉は、○の中に1又は2の数字。以下、同契約書からの引用において同じ。)が挙げられている(乙2の1)。
(3)ア 乙第4号証は、美容室LIPPSのウェブサイトとみられるところ、2017年9月26日(乙4の5)及び2018年12月3日(乙4の4)時点において、自由が丘店を含む各店舗が紹介されており、また、ウェブサイトを通じて、自由が丘店を含む各店舗の予約ができること、クーポンが利用できる旨の記載がある。
また、乙第5号証によると、2018年11月1日に美容室LIPPSの公式アプリがリリースされた旨の記事が認められ、アプリからも予約が可能であること、アプリ限定のクーポン情報が得られることがうかがえる。
イ 乙第6号証の1ないし3は、商標権者からO氏又は株式会社YET宛の2018年5月31日付、2018年11月30日付、2019年1月31日付の請求書の写しであり、その請求内容の欄に「HP保守費」と記載がある。なお、乙第6号証の4によると、株式会社YETは、O氏の本件契約書における権利義務を承継した者である。
当該請求書においては、「HP保守費」が請求されていることは確認できるものの、「電子計算機プログラムの提供」に係る費用が請求されたことは確認できない。
ウ 乙第7号証の1及び2並びに乙第10号証は、商標権者から株式会社YETに宛てた2018年11月30日付と2019年2月28日付の請求書の写しであり、その請求内容の欄に「リザービア(月額)」と「リザービア(サロンポス接続料)」の記載がある。
乙第7号証の3によると、「美容サロン向けWEB予約システムReservia(リザービア)」なるアプリを提供している会社があり、5頁目の「導入店舗一覧」の中に「LIPPS Group」の記載がある。
乙第7号証の4は、タカラベルモント株式会社が提供する「SALONPOS LinQ2に標準装備されている機能・サービス」を紹介するウェブページとみられ、キャッシャー、予約・受付台帳、売上管理等の各種機能が説明されている。
被請求人の前記第3の1(4)の主張によると、当該請求書における「リザービア(月額)」と「リザービア(サロンポス接続料)」の記載は、乙第7号証の3及び4のアプリを連結して提供するように設計されたアンドロイドアプリの使用料であり、前記第3の2(1)によると、その設計(開発)費用が、平成30年(2018年)10月31日付けの株式会社Gungnirから株式会社リップス宛に請求されており(乙9)、「品名」の欄に「Androidアプリ開発」の記載がある。
エ 乙第8号証によると、「LINE WORKS」というアプリを用いて、自由が丘店を含む各店舗の従業員間で会話がなされたことが確認でき、被請求人の前記第3の2(1)の主張によると、当該アプリは、SNSのアプリであり、株式会社リップスが、それらをカスタマイズして、各店舗に提供しているものである。
また、乙第10号証は、2018年(平成30年)11月30日付けの株式会社リップスから株式会社YET宛の請求書であり、「請求内容」の欄に「LINE WORKS」の記載がある。
2 請求に係る役務についての登録商標の使用が行われたか否かについて
(1)判断
商標法上の役務とは、他人のために行う労務又は便益であって、独立して商取引の目的たりうべきものであるところ、本件役務「電子計算機用プログラムの提供」とは、他人のために、電気通信回線を通じて、電子計算機用プログラムを提供する役務と解される。
そこで前記1で認定した事実に基づいて判断すると、乙第2号証の1における、「〈1〉甲のウェブサイトに掲載する本件店舗に関する記事の製作費用」や「〈2〉甲のウェブサイトへの本件店舗の情報掲載費用」の記載に基づき、商標権者から株式会社YETに請求された「HP保守費」の記載(乙6)は、HPの保守に該当するとみられることはあっても、「電子計算機用プログラムの提供」とみることは困難である。
乙第4号証及び乙第5号証からは、美容室LIPPSのウェブサイトにおいて顧客が予約やクーポンが利用できること、美容室LIPPSのアプリが開発され各店舗がこれを使用すること、顧客がアプリを通じても予約等を行うことができることが確認されるものの、役務の提供を受ける者が「顧客」であるとの前提に立った場合、これらを提供することを通じて、顧客に美容室の予約を行わせることは、美容の役務の提供に付随するものと考えられ、本件役務の提供であるとはいい難い。
また、役務の提供を受ける者が「フランチャイジー」であるとの前提に立った場合、乙第7号証によると、株式会社リップスは、フランチャイジーである株式会社YETに、アプリの使用料を請求していることがうかがえるものの、乙第7号証の3及び乙第7号証の4の内容及び当該請求書における「リザービア(月額)」や「リザービア(サロンポス接続料)」の記載を考慮すると、電子計算機用プログラムを開発して提供しているのは、被請求人ではなく、「リザービア」を提供している会社(乙7の3)及び「サロンポス」を提供しているタカラベルモント株式会社(乙7の4)であると判断するのが相当であり、株式会社リップスがこれらの会社へ支払うべき月額使用料や接続料をフランチャイジーから徴収しているにすぎないものというべきである。
同様に、「LINE WORKS」なるアプリについては、被請求人は、カスタマイズしたものを株式会社リップスが各店舗に提供していると主張しているが、これについては立証されていない。そして、乙第10号証の請求書における「LINE WORKS」の記載があることからすると、当該アプリを提供しているのは、「LINE WORKS」を提供する会社であると推認され、被請求人であるとはいい難い。加えて、一般的にアプリはダウンロードして使用する商品と理解されるものであるから、これをフランチャイジーである自由が丘店を含むLIPPS各店舗の連絡ツールとして使用していること(乙8)をもって、被請求人が商標法上の役務としての「電子計算機用プログラムの提供」を行っているとみることは困難である。
したがって、被請求人が、本件役務を提供していることを認めることはできない。
(2)被請求人の主張について
被請求人は、本件商標が本件役務の取引書類(契約書)について要証期間内に使用されていたことは明らかであり、商標法第2条第3項第8号の使用に該当すると主張している。
しかしながら、本件契約書における「〈1〉甲のウェブサイトに掲載する本件店舗に関する記事の製作費用」や「〈2〉甲のウェブサイトへの本件店舗の情報掲載費用」の記載(乙2の1)に基づき、商標権者から株式会社YETに請求された「HP保守費」の記載(乙6)を「電子計算機用プログラムの提供」とみることは困難であること、乙第4号証及び乙第5号証の美容室LIPPSのウェブサイト及び乙第7号証及び乙第9号証の請求書をあわせてみても、被請求人が「電子計算機用プログラムの提供」を行っているとは認めがたいこと及び乙第8号証で示されるアプリをフランチャイジーである自由が丘店を含むLIPPS各店舗の連絡ツールとして使用していることと株式会社リップスがこれをカスタマイズして提供しているとの主張のみをもって被請求人が商標法上の役務としての「電子計算機用プログラムの提供」を行っているとみることは困難であることは前記(1)のとおりである。
したがって、被請求人の上記主張は、採用することができない。
3 まとめ
以上のとおり、被請求人が、請求に係る役務についての本件商標の使用をしていることを証明したとはいえないから、商標法第50条第2項に規定されているその他の使用の要件について論及するまでもなく、被請求人の提出に係る証拠によっては、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが請求に係る役務についての本件商標(本件商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。)の使用をしていることを被請求人が証明したとはいえない。
また、当該使用をしていないことについて正当な理由があることを明らかにしたともいえない。
したがって、本件商標の登録は、その指定商品及び指定役務中、請求に係る役務について、商標法第50条の規定により、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

別掲
審理終結日 2021-05-13 
結審通知日 2021-05-18 
審決日 2021-06-10 
出願番号 商願2014-110409(T2014-110409) 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (W42)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉田 聡一 
特許庁審判長 森山 啓
特許庁審判官 綾 郁奈子
板谷 玲子
登録日 2016-02-12 
登録番号 商標登録第5825462号(T5825462) 
商標の称呼 リップス 
代理人 大谷 寛 
代理人 特許業務法人大島・西村・宮永商標特許事務所 

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