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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない W21
管理番号 1376831 
審判番号 取消2019-300160 
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2019-03-01 
確定日 2021-07-19 
事件の表示 上記当事者間の登録第5825462号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5825462号商標(以下「本件商標」という。)は、「リップス」の文字を標準文字で表してなり、平成26年12月26日に登録出願、第21類「化粧用具(「電気ハブラシ」を除く。)」を含む、第3類、第8類、第21類、第35類、第41類、第42類及び第44類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同28年2月12日に設定登録がされ、現に有効に存続しているものである。
そして、本件審判の請求の登録は、平成31年3月14日であり、商標法第50条第2項に規定する「審判の請求の登録前3年以内」とは、平成28年(2016年)3月14日から同31年(2019年)3月13日までの期間(以下「要証期間」という。)である。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の指定商品及び指定役務中、第21類「化粧用具(「電気ハブラシ」を除く。)」についての登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁等を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第4号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品及び指定役務中、第21類「化粧用具(「電気ハブラシ」を除く。)」(以下「請求に係る商品」という場合がある。)について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、その登録は商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)被請求人による商品の販売や商標の使用は行われていない
ア 被請求人は、乙第2号証及び乙第3号証を根拠に、商標権者である被請求人の100%子会社で、美容室LIPPSの展開に係る会社である株式会社リップスが本件商標を商品「くし」に使用したと主張するが、被請求人は株式会社リップスの株主構成を客観的に明らかにしておらず、当該会社が被請求人の100%子会社であることをなんら立証していない。仮に、100%子会社であると考えてみても、被請求人と株式会社リップスは別法人であるのだから、株式会社リップスによる商品の販売や商標の使用が被請求人による商品の販売や商標の使用と同視されることはない。
イ 乙第3号証には「2018.05.07」の表示があるものの、ウェブサイトの記載は如何様にも改変容易であるから、乙第3号証は、要証期間内に商品「くし」の広告に本件商標が使用されていたことの客観的な論拠とはならない。
実際、乙第3号証で示されるウェブサイトのソースコードをみれば、これが改変ないし捏造されたものであることが強くうかがわれる。すなわち、乙第3号証は「https://lipps.co.jp/news/321」というURLで表示されるウェブページであり、ニュースページであることから、連番又は連番に近いかたちで記事が掲載されると考えるのが自然である。甲第1号証に、「284」ないし「286」の連番で2018年5月9日から2018年5月17日までに掲載された記事を示す。甲第2号証に示すように、乙第3号証の前の記事は「321」から突如「283」となり、乙第3号証の次の記事は「321」から突如「284」となり、乙第3号証の記事に不自然に「321」の番号が振られていることが分かる。これは、被請求人が説得的な説明をなし得ない限り、「283」「284」「285」「286」と連番で番号を振られて掲載されてきた記事の間に被請求人が、本件審判が請求されることを知った後に「321」の番号で記事を改変ないし捏造したことの動かぬ証左である。
ウ 被請求人は、乙第4号証ないし乙第7号証を根拠に、本件商標を商品「くし」に使用したと主張するが、乙第4号証は、表参道店が掲載している動画であり、表参道店が商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかであることは主張立証されていないから、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが本件商標を使用したことの根拠とならない。
また、使用されている商標は「LIPPS」であって、本件商標「リップス」とは称呼を同一とし得るのみであって観念を異にするものであるから、これらは社会通念上同一ではない。
エ 乙第5号証については、原宿店が商品「くし」について本件商標を含む「リップスオリジナルコーム」の文字を使用しているように見受けられるところ、原宿店が商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかであることは主張立証されていないから、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが本件商標を使用したことの根拠とならず、また、使用されている文字「リップスオリジナルコーム」は、称呼において淀みなく発音され、外観において片仮名でまとまりよく構成されたものであって、いずれかの部分のみが強く支配的な印象を与えるものではなく、その構成文字全体をもって需要者ないし取引者に認識されるというべきであるから、本件商標又はこれと社会通念上同一の商標の使用には当たらない。乙第6号証及び乙第7号証においても、使用されている商標は「LIPPS」であって、本件商標「リップス」とは称呼を同一とし得るのみであって観念を異にするものであるから、これらは社会通念上同一ではない。
なお、乙第7号証の1と乙第7号証の2において「LIPPSコーム」の単価が異なり、乙第7号証も恣意的に改変等されているおそれがある。
オ 被請求人は、本件商標をフランチャイジーであるO氏に使用許諾したことを主張するが、被請求人はフランチャイジー、すなわち通常使用権者であるO氏が第21類「化粧用具(「電気ハブラシ」を除く。)」の商品(以下「本件商品」という。)について本件商標を使用したことの主張立証をしていないから、「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが」3年以上使用していないことに対する反証とはなっていない。
(2)被請求人は、本件商品に関する「取引書類」を「頒布」していない
ア 被請求人は、フランチャイザーである被請求人とフランチャイジーであるO氏との間の契約を定めた契約書は、商標法第2条第3項第8号に定める本件商品に関する取引書類に該当し、当該取引書類はフランチャイジーに頒布されたから、被請求人は、本件商品について、本件商標を使用したと主張する。しかしながら、同号は、「商品・・・に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して・・・頒布・・・する行為」であるところ、ここで「頒布」とは、「広告等が一般に閲覧可能な状態になっていること」を意味すると解される(甲3)。また、「頒布」とは、「広くゆきわたるように分かちくばること」(甲4)を意味する語である。被請求人が同号の「取引書類」に該当すると主張する乙第8号証の1の契約書は、被請求人が、極めて限られた数のフランチャイジーとの契約において契約相手であるフランチャイジーに示したものにすぎないから、同号に定める「頒布」の対象となったものではない。実際、被請求人は、乙第8号証の1において、いくつかのマスキングをしており、明らかに「一般に閲覧可能な状態」ではない。また、前記契約書では、フランチャイジーは、契約終了後も含めてフランチャイザーから受領した情報について守秘義務を負っており、これを「一般に閲覧可能な状態」とすることは許されない。
イ フランチャイザーである被請求人は、フランチャイジーと一体となってフランチャイズシステムないしフランチャイズグループを形成しているのであり、当該フランチャイズシステムないしフランチャイズグループ内でのみ行われる書類の受け渡しは、到底「頒布」と評価し得るものではない。
ウ そもそも、乙第8号証の1は、フランチャイズ契約のための契約書であって、商品「くし」の販売の取引書類ではない。乙第8号証の1には、被請求人が本件商標と社会通念上同一の商標を使用したと主張する商品「くし」はおろか、商品「化粧用具」への言及すらない。かかる書類が商標法第2条第3項第8号規定の「商品・・・に関する・・・取引書類」に該当する余地はない。
(3)被請求人は、本件商標と実質的同一の商標を使用していない
ア 被請求人は、乙第8号証の1の契約書の1頁に「リップスパートナーサロン契約書」の文字が付されていることをもって、本件商標「リップス」と社会通念上同一の商標が使用されていると主張するが、「リップスパートナーサロン契約書」の文字のうち「パートナーサロン契約書」の文字を捨象して「リップス」の文字のみが出所識別標識として機能するから、これは「リップス」と社会通念上同一であるとする被請求人の主張にはなんら理由がない。
「リップスパートナーサロン契約書」の文字において、「契約書」の部分については、当該文字が契約書に付されているという取引実情に鑑みれば、これが出所識別標識として需要者に強い印象を与えるものではないと考え得るものの、称呼において淀みなく発音され、外観において片仮名でまとまりよく構成された「リップスパートナーサロン」の文字は、いずれかの部分のみが強く支配的な印象を与えるものではなく、その構成文字全体をもって需要者ないし取引者に認識される。
イ フランチャイズ契約を「パートナーサロン契約」と呼称することが一般的であるわけでもなく、被請求人自身、乙第8号証の1、2頁冒頭において「以下のとおりフランチャイズ契約(通称、『リップスパートナーサロン契約』、以下、『本契約』という)を締結する」と記載し、被請求人独自の呼称として「リップスパートナーサロン契約」の語を用いている。このような語を「リップス」と社会通念上同一と評価する理由はない。
ウ 「リップスパートナーサロン契約書」と記載されているとおり、乙第8号証の1の書類が契約書であることはそれを目にしたフランチャイジーにおいて明らかであり、「リップスパートナーサロン契約書」の文字はそのタイトルを単に示すものとして用いられているにすぎず、自他商品役務の識別標識たる商標として用いられているものではない。
なお、被請求人は、乙第8号証の2(覚書)が乙第8号証の1(契約書)の第1条第1項の「別紙」に当たる旨主張するところ、当該契約書と覚書は同一の締結日であるにも関わらず、フランチャイジーである乙の印影が異なり、被請求人の主張には、その全体において重大な疑義がある。
3 被請求人の回答書に対する上申(令和3年4月30日付け上申書)
被請求人から新たに提出された乙第11号証には重大な疑義があり、その他の乙号証と同様に改変等されているおそれが高い。
乙第11号証は、美容室LIPPSの自由が丘店における商品「くし」の販売立証をその趣旨とするが、自由が丘店が商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかであることはなんら立証されていないことはおいて、同証拠が示すように分刻みで商品「くし」だけが美容室において売れるという事実は、特段の事情がない限り、社会通念に反する。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第11号証(枝番号を含む。なお、枝番号を有する証拠において、枝番号の全てを引用する場合は、枝番号の記載を省略する。)を提出した。
1 答弁の理由
(1)商標権者は、以下のとおり、要証期間内に、本件商標を、請求に係る商品である第21類「化粧用具(「電気ハブラシ」を除く。)」の範ちゅうの商品である「くし」について使用している。
(2)乙第2号証に示すとおり、商標権者の100%子会社で、美容室LIPPSの展開に係る会社として株式会社リップスが存するところ、乙第3号証は同社が運営するウェブサイトに掲載されている広告の写しであり、そこには、「2018.05.07 リップス オリジナルコーム 新発売」の見出しの下に、「くし」の写真と「リップス、オリジナルコームを5月12日(土)より美容室LIPPSの店舗限定で発売いたします。ヘアスタイリングのクオリティをより高く再現が出来るオリジナルのコームになります。」の記事が掲載されている。
そのうちの「オリジナルコーム」の文字が「オリジナルのくし」の意味合いを表し、商品の一般名称であるから、「リップス」の文字が当該商品「くし」の出所識別標識として商標となる。
(3)加えて、オリジナルコームの新発売は、YouTube上でも広告(乙4)が掲載されており、美容室LIPPSの店舗の一つである「リップス表参道店」の表示の下に、乙第3号証と同じ「くし」の動画とともに、「ヘアスタイリングのクオリティを更に高く『LIPPS スタイリングコーム』新発売」との記述があり、「2018/05/07に公開」と記載されている。
また、オリジナルコームの新発売は、ブログ上でも広告(乙5)が掲載されており、乙第3号証と同じ「くし」の写真とともに、「数量限定のリップスオリジナルコーム。残りが店舗に残っているだけになりました。早い者勝ちです。」と記述されている。
(4)乙第6号証は、乙第3号証ないし乙第5号証にも掲載されていた「くし」の写真であるところ、その2枚目には、当該「くし」の包装に「発売元」として商標権者の名称と住所が記載されている。また、当該「くし」は、化粧品の「ワックス」とセットにしても販売されており、3枚目は、その「くし」と「ワックス」をセットにした商品の写真である。乙第7号証は、当該「くし」の発売元の商標権者から消費者に販売する美容室などに宛てた請求書の写しであり、その商品名の欄には、平成30(2018)年5月11日、同月15日、同月18日に「LIPPSコーム」の記載があり、商標権者から消費者に販売する美容室などに当該商品が販売されていたことが明らかである。
(5)加えて、商標権者は、ヘアサロンに関するフランチャイズシステムを運営しているところ、乙第8号証の1は、そのフランチャイズ契約書の写しであり、また、乙第8号証の2は、乙第2号証の1の同契約書第1条第1項の別紙に当たる覚書の写しであり、本件商標も使用許諾した商標に含まれている。同契約書の下では、フランチャイジーはヘアサロンで使用する化粧品、器具、備品等についてフランチャイザーである商標権者に従わなければならないこととなっており、商標権者は、フランチャイザーとして、フランチャイジーであるヘアサロンに対して、同契約書に基づき、ヘアサロンにおける施術に使用する化粧品や、種々の化粧用具などを販売しており、第5条第10項によれば、その費用はフランチャイジーが負担することになっている。このことは、乙第7号証の商標権者からの請求書の商品名の欄に、化粧品や、種々の化粧用具が含まれていることからも明らかであり、請求に係る商品も、美容を行うフランチャイジーの店舗にとって、ヘアサロンの業務遂行にあたって当然使用する器具、備品、材料の一つといえる。
そして、フランチャイザーである商標権者は、同契約書に基づき、フランチャイジーに商品の販売をしているのであり、同契約書は商標法第2条第3項第8号に定める商品に関する取引書類に該当する。
しかも、同契約書の1頁に「リップスパートナーサロン契約書」として、「リップス」の商標が使用されている。「パートナーサロン契約書」の文字部分が、ヘアサロンに関するフランチャイズ契約との関係においては出所識別標識としては全く機能しない部分であって、出所識別標識としての使用に係る商標は「リップス」の文字部分といえる。そうすると、その使用に係る商標と本件商標とは、社会通念上同一の商標ということができる。
さらに、同契約書の末尾には「甲、乙及び丙は上述のとおり合意したので、本契約に署名、捺印をなし、3通作成のうえ、各自1通宛保有する。」とあり、契約日として「平成29年4月5日」と記載されている。「平成29年4月5日」は要証期間内であり、同日にフランチャイジーが契約書を手にしたことは明らかであるから、商標法第2条第3項第8号に定める商品に関する取引書類である同契約書は要証期間内にフランチャイジーであるヘアサロンの乙に頒布されたといえる。
したがって、かかる観点からも、本件商標は、要証期間内に商標権者によって使用されていたといえる。
(6)以上のとおり、本件商標は、要証期間内に、日本国内において、商標権者又は通常使用権者により、請求に係る商品である第21類「化粧用具(「電気ハブラシ」を除く。)」の範ちゅうの商品である「くし」について使用していることが明らかであるから、本件審判請求は成り立たない。
2 審尋に対する回答(令和3年2月15日付け回答書)
(1)各店舗との関係について
「株式会社リップス」は被請求人の100%子会社である。現在もその関係に変わりないが、要証期間においても同様であったことを証明するために、乙第9号証を新たに提出する。法人名「株式会社リップス」の記載と、判定基準となる株主(社員)及び同族関係者」に被請求人「株式会社レスプリ」の記載が確認できる。
次に、「美容室LIPPS」は特定の店舗を示すものではないが、「表参道店」「原宿店」「梅田店」は、「株式会社リップス」が運営する各地の店舗であり、「二子玉川店」及び「自由が丘店」は、被請求人と「リップスパートナーサロン契約」を締結している「O氏」が代表を務める「株式会社YET」が運営する各地の店舗である。このうち、被請求人と「リップスパートナーサロン契約」を締結している自由が丘店のものが提出済みである(乙第8号証の1)。
自由が丘店での「商品売上月報(2018年5月12日分)」と領収書(販売された「くし」に関するもの)を新たに提出するため(乙10、乙11)、これによって要証期間に使用していることが証明できることから、他店舗との関係についての契約書等の提出は省略する。
なお、当該契約には商標の使用許諾も含まれており、乙第8号証の2の覚書中、「(1)商標権」の項の上から二番目に本件審判に係る登録第5825462号も記載されている。
よって、当該証拠から「美容室LIPPS」の自由が丘店は、被請求人の通常使用権者であることが理解できる。
(2)「くし」の販売事実、広告事実
通常使用権者である「美容室LIPPS自由が丘店」において、「くし」が販売されたことを以下に証明する。
商品画像は乙第6号証に提出したものと共通している。乙第6号証の1枚目には「LIPPS STYLING COMB」の文字が記載されていることが確認できる。そして、新たに提出する乙第10号証は「美容室LIPPS自由が丘店」における要証期間内の商品売上月報である。「メニュー名」の項目、上から3段目の「リップススタイリングコーム」が上述の「LIPPS STYLING COMB」の片仮名表記であると理解できる。
また、同じく乙第10号証の「度数」の項目に「8」とあるように、売り上げた8点の領収書を乙第11号証として提出する。
以上のとおり、被請求人に係る通常使用権者によって「くし」が販売された事実が確認できる。「リップススタイリングコーム」のうち、「スタイリングコーム」は普通名称であるので、「リップス」の部分が出所表示機能を発揮する態様で取引書類に使用されていたことが明らかである。
(3)乙第6号証に関して
乙第6号証は「撮影日:2019年4月22日」「撮影者:N氏(株式会社レスプリ社員)」「撮影場所:株式会社レスプリ オフィス」である。当該証拠はウェブページ等では確認できない商品の裏側に記載された被請求人の名称と住所を明らかにするために、撮影されたものである。当該審判請求を受けて用意した資料であるので、要証期間の撮影ではないが、乙第6号証の写真は乙第3号証ないし乙第5号証に掲載された商品と同一の「くし」であることが明確であるため、撮影日が要証期間外であることは主張に影響しない。

第4 当審の判断
1 被請求人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、以下の事実が認められる。
(1)株式会社リップスは、本件商標権者(被請求人)の100%子会社であり、美容業を展開している(乙2、乙9)。
また、被請求人は、ヘアサロンに関するフランチャイズシステムを運営しており、「LIPPS自由が丘店」は、平成29年4月5日付けの被請求人との「リップスパートナーサロン契約書」と称するフランチャイズ契約書に基づいて、O氏によって運営されている店舗である(乙8の1)。
(2)ア 株式会社リップスが運営するとみられるウェブサイトに、「2018.05.07」、「リップス オリジナルコーム 新発売!」の見出しの下、「くし」(以下「使用商品」という。)の写真と、「リップス、オリジナルコームを5月12日(土)より美容室LIPPSの店舗限定で発売」する旨の記事が掲載されている(乙3)。
同記事には、「繊細な束感、細かいディテール.自由自在に再現!」、「折りたたみ式で持ち運びに便利!」、「ヘアスタイリングのクオリティをより高く再現が出来るオリジナルのコームになります。」などの記述がある(乙3)。
イ YouTube上で、前記アと同日付けの公開として、使用商品(乙3)と同じとみられる「くし」の画像とともに、「LIPPS表参道店」、「ヘアスタイリングのクオリティを更に高く!! 【LIPPSスタイリングコーム】新発売!!」、【美容室LIPPS】の記述がある(乙4)。
ウ 株式会社リップスが開設したとみられるブログ上で、使用商品(乙3)と同じとみられる「くし」の写真とともに、「LIPPSコームが誕生」、「数量限定のリップスオリジナルコーム。残りが店舗に残っているだけになりました。早い者勝ちです!」の記述があり、掲載日は明らかではないが、「LIPPSコームが誕生」の記載からすれば、当該商品が新発売された時期であると推認される(乙5)。
(3)ア 被請求人から株式会社リップス宛の「平成30年5月31日締切分」の「請求明細書」によると、「株式会社リップス(原宿店)」が、平成30年5月11日、同15日及び同18日に、被請求人から「LIPPSコーム」を、それぞれ50個、100個及び50個購入した事実がうかがえ、上記「LIPPSコーム」の商品コードとして「4580374260461」が記載されている(乙7の1)。
イ なお、要証期間外に撮影された商品写真ではあるが、被請求人の従業員が、平成31年(2019年)4月22日に撮影したとされる「くし」の写真は、乙第3号証ないし乙第5号証に掲載されていた「くし」と同じとみて差し支えないものであり、当該写真の「くし」に「LIPPS」の表示、包装ケースに「LIPPS STYLING COMB」の表示がある。また、当該ケースの裏面には、発売元として被請求人の名称及び住所並びに前記アの商品コードと一致する「4580374260461」の数字の記載がある(乙6)。
2 前記1において認定した事実によれば、以下のとおり判断できる。
(1)使用商品について
前記1(2)のとおり、使用商品は、「くし」であるところ、これは、請求に係る商品(化粧用具(「電気ハブラシ」を除く。))の範ちゅうに属する商品と認められる。
(2)使用商標について
本件商標は、前記第1のとおり、「リップス」の文字を標準文字で表してなるものである。
他方、使用に係る商標は、前記1(2)の認定事実からすれば、「リップス オリジナルコーム」の文字を表してなるものである(以下「使用商標」という。)。
そして、使用商標は、その構成中「オリジナルコーム」の文字が、「オリジナルのくし」であるという使用商品の品質を表示する語と理解させるものであることに加え、外観上も、「リップス」と「オリジナルコーム」の各文字がそれぞれ独立して把握されることから、出所識別標識として機能する部分(要部)は「リップス」の文字であるといえる。
そうすると、本件商標と使用商標の要部とは、書体のみに変更を加えた同一の文字からなるものといえるから、使用商標は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標である。
(3)使用時期について
前記1(2)の認定事実からすれば、乙第3号証と乙第4号証、乙第5号証及び乙第7号証の1とを併せてみれば、少なくとも要証期間内である平成30年(2018年)5月7日時点において、株式会社リップスのウェブサイトに、使用商標を付した使用商品に関する広告が掲載されていたということができる。
(4)使用者について
前記1(1)によれば、株式会社リップスは、被請求人の100%子会社であって、両者は緊密な関係にあるものと認められる。そして、被請求人は、株式会社リップスによって本件商標が使用されていることを認識できているにもかかわらず、それに対する異議を述べていない。
そうすると、被請求人は、株式会社リップスに本件商標を使用する黙示の許諾を与えていたものと認められる。
したがって、株式会社リップスは、本件商標の通常使用権者であるといえる。
(5)小括
以上によれば、本件商標の通常使用権者が、要証期間内である平成30年5月7日に、請求に係る商品に含まれる使用商品「くし」に関する広告を、本件商標と社会通念上同一と認められる使用商標を付してウェブサイトに掲載したと認めることができる。
そして、この行為は、商標法第2条第3項第8号にいう「商品・・に関する広告・・を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」に該当する。
3 請求人の主張について
請求人は、乙第3号証の記事における日付が、そのURLに示された数字から不自然であること、乙第7号証の1(株式会社リップス宛の請求書)と乙第7号証の2(O氏宛の請求明細書)において「LIPPSコーム」の単価が異なること、乙第8号証の1(契約書)と乙第8号証の2(覚書)におけるフランチャイジーの印影が異なることを挙げ、被請求人の主張には、その全体において重大な疑義があると主張する。
確かに、請求人の示す証拠(甲1、甲2)によれば、乙第3号証のURLに示された数字が連番ではないものの、前記2(3)のとおり、乙第3号証と乙第4号証、乙第5号証及び乙第7号証の1とを併せてみれば、使用商標が平成30年5月7日に株式会社リップスのウェブサイトで広告されていたものとみるのが自然である。
また、乙第7号証に関し、株式会社リップスは被請求人の100%子会社であり、O氏は被請求人のフランチャイジーであるから、被請求人との関係性は異なるものであり、両者に対し異なる単価で商品を譲渡したとしても何ら不自然ではない。
さらに、乙第8号証の契約書と覚書の印影が異なるとしても、契約書(乙8の1)それ自体には不自然な点はないから、両書面の印影が異なることのみをもって、直ちに被請求人の主張の全体において重大な疑義があるとまではいえない。
したがって、請求人の上記主張は採用することができない。
4 まとめ
以上のとおり、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、通常使用権者が、本件審判の請求に係る指定商品に含まれる商品について、本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用をしていることを証明したということができる。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。

別掲
審理終結日 2021-05-13 
結審通知日 2021-05-18 
審決日 2021-06-10 
出願番号 商願2014-110409(T2014-110409) 
審決分類 T 1 32・ 1- Y (W21)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 聡一 
特許庁審判長 森山 啓
特許庁審判官 綾 郁奈子
板谷 玲子
登録日 2016-02-12 
登録番号 商標登録第5825462号(T5825462) 
商標の称呼 リップス 
代理人 特許業務法人大島・西村・宮永商標特許事務所 
代理人 大谷 寛 

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