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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W30
管理番号 1375055 
審判番号 取消2018-300421 
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2018-06-13 
確定日 2021-01-25 
事件の表示 上記当事者間の登録第5624288号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5624288号商標の指定商品、第30類「菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ」についての商標登録を取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5624288号商標(以下「本件商標」という。)は、「てんし」の文字を縦書きしてなり、平成25年6月17日に登録出願、第5類、第29類、第30類及び第32類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同年10月18日に設定登録され、その後、商標登録の取消審判(2018-300418、2018-300419、2018-300420、2018-300422)により、第30類「茶,コーヒー,ココア,氷,コーヒー豆,穀物の加工品」並びに第5類、第29類及び第32類の全ての指定商品について、取り消すべき旨の審決がされ、同30年12月28日、令和2年10月8日、同月15日及び同年11月12日に、その確定審決の登録がされた。その結果、本件商標は、第30類「菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ」を指定商品として、現に有効に存続しているものである。
なお、本件審判の請求の登録日は、平成30年6月28日であり、本件審判の請求の登録前3年以内の期間である同27年6月28日から同30年6月27日までを、以下「要証期間」という場合がある。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第4号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品中、第30類「菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ」について、継続して3年以上日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用をしていないものであるから、その登録は商標法第50条第1項の規定により取消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
被請求人は、本件商標は、その指定商品中「菓子」について要証期間内に日本国内において、本件商標権者により使用されている旨主張しているが、以下のとおり、商標法第50条第2項で定める登録商標の使用を証明するに十分なものではないから、本件商標の登録は取り消しを免れないものである。
(1)被請求人のウェブサイト画面について
ア 被請求人のウェブサイト画面(乙6ないし乙10)(以下、乙6ないし乙10をまとめていうときは、「本件ウェブサイト」という。)について、被請求人はこれが広告であることを意図しているのかもしれないが、広告ならば、それが商標法上の「使用」というためには、標章を付して展示、頒布等をしなければならない(商標法第2条第3項第8号)にもかかわらず、被請求人は、その広告を展示、頒布等をしていることを証明してはいない。
また、商標の使用があるとするためには、当該商標が、必ずしも指定商品そのものに付されて使用されていることは必要でないが、その商品との具体的関係において使用されていることを必要とする(最高裁昭和42年(行ツ)第32号)と解される。すなわち、広告に使用される標章が、その広告中において商品との具体的関係において使用されていなければ、商品についての標章の使用があるとはいえない。
上記の解釈を本件に当てはめるに、本件ウェブサイトに示される「※『天使』は森永製菓株式会社の登録商標です。」の記載は、「天使」という語が本件商標権者の登録商標であるとの事実を記述的に示したものであって、商標の本質的機能である自他商品の識別標識としての機能を果たすものとは認識し得ず、商品との具体的関係において使用されているともいえない。
イ 本件ウェブサイトには、被請求人が取り扱っていると思しき商品写真が掲載されているものの、具体的な商品の内容・品質についての紹介や、商品の金額、販売場所等といった商品に関する情報が何ら記載されていない。すなわち、本件ウェブサイトの内容は、インターネットを介して被請求人が需要者に飲食料品のレシピ情報を提供するサービスであって、このような役務は、甲第1号証に示されるような第43類に属する「インターネットによる料理のレシピに関する情報の提供」等の役務であって、本件審判の請求に係る指定商品の範ちゅうに属する商品又は役務ではない。
ウ 本件ウェブサイトは、「森永天使のお菓子レシピ」として「天使」の語を含む表示があるが、その態様は「天使のお菓子レシピ」の語の前後に羽を模した図形を配置し、「の」の文字の上にコック帽の図形を配するなど「天使のお菓子レシピ」としての一体的な態様を有するものであって、「天使」を除く「お菓子レシピ」の語も本件商標に係る指定商品との関係において記述的な表示とはいえず、社会通念上同一のものと認められる商標ということはできない。さらには、後述するように「天使」の語についても、本件商標「てんし」とは社会通念上の同一による商標とはいえない。
エ 以上のとおり、本件ウェブサイトは、要証期間内にその広告を展示、頒布等をしていることが証明されておらず、また、これらの画面に記載されている「※『天使』は森永製菓株式会社の登録商標です。」は記述的に表示された説明文章であり、さらに「天使のお菓子レシピ」の表示は、本件審判の請求に係る指定商品の範ちゅうに属する商品の使用とはいえず、仮にこれらの商品の使用であったとしても本件商標とは社会通念上同一の商標とはいえないことから、いずれも本件商標を請求に係る商品に使用したことを客観的に証明したとはいえない。
したがって、本件ウェブサイトは、商標法第50条第2項で定める登録商標の使用を証明するに十分なものということはできない。
(2)被請求人の商品「エンゼルパイ」のパッケージについて
商標法第2条第3項第1号における商標の「使用」といい得るためには、要証期間内に本件審判の請求に係る商品のパッケージ(包装用箱)として使用(譲渡等)された事実を客観的に証明する必要があるところ、乙第13号証は、被請求人の商品パッケージの展開図の写しが示されているのみであって、具体的に商品に包装されて使用されていることを客観的に証明していない。
また、被請求人が主張する「エンゼルをトレードマークとする森永製菓は、10月4日を“森永天使の日”『天=テン(10)使=シ(4)』に制定。日本記念日協会に登録されております。」の表示及び「※『天使』は森永製菓の登録商標です。」の記載は、いずれも「天使」の語を含むものであるが、前者は「天使の日」が記念日に制定されていることを説明した記述的記載であり、後者は「天使」の語が商標登録されている事実を説明した記述的記載であって、これらの記載が、当該商品との具体的な関係において使用される自他商品識別機能を果たしたものと認識し得ず、商品との具体的な関係において使用されているともいえない。
そうすると、乙第13号証で表示されている「天使」を含む記載が、商標の使用に該当するということもできない。
以上のとおり、乙第13号証において示されている包装用箱は、本件審判の請求に係る指定商品のいずれかについての商標の使用を証明したということはできない。
(3)被請求人のカタログ及びSNSサイト上の広告について
被請求人のカタログ及びウェブサイトのオンラインショップ(乙15ないし乙18)に示されている「天使のお菓子箱」については、各文字が四角の枠内にまとまり良く表示され、その文字の上には「お愛用者様から喜びのお声続々!」の記載があり、下には「-森永商品詰め合わせセット-」の記載が表示される等、全体がまとまり良く配置された構成となっており、また、その他の商品説明等においては、「天使のお菓子箱」の文字が鍵括弧などでくくられて一体不可分に表示されている等、取引上においても一体不可分の表示として認識されるように表示されている。さらに、具体的な構成においても「天使」と「お菓子箱」の間に接続詞「の」によって接続された一連の語であって「お菓子箱」についても商品の内容を直接表示する語ではなく、両語が相まって「天使が提供するお菓子の箱」といった一体的な意味合いを想起させるものとなっており、両語が分離して認識されることはないことから、乙第15号証ないし乙第18号証に示されている「天使のお菓子箱」についても、本件商標とは社会通念上同一と認められる商標ということはできない。
(4)本件商標と本件使用商標の同一性について
被請求人は、本件商標である平仮名「てんし」と「天使」(以下「本件使用商標」という場合がある。)の語は、称呼及び観念を同一とする場合の平仮名及び平仮名と漢字の相互間の使用であって、登録商標の使用に当たると主張する。
ア 被請求人が示した判決及び審決例(乙19ないし乙22)は、出所表示機能を有さない態様において商品及び役務に付された商標について、商標の使用を認めた判断例であって、「天使」と他の語が一体的に表示された表示について認めた事案ではなく、商標法第50条第2項で定める登録商標の使用を証明する根拠となるということはできない。
イ 商標法第50条第1項における「社会通念上の同一」の商標については、審判便覧(甲2)の基準を本件に照らしてみると「てんし」の語から別異の観念を生じる漢字が存在する場合は、商標法第50条第1項における社会通念上の同一とは認められないところ、「てんし」の語からは以下に示すような別異の漢字が存在している(甲3、甲4)。
・「天子」:(意味)天帝の子の意、天皇のこと。
・「天枝」:(意味)天子・天皇の子孫
・「天姿」:(意味)生まれつきの容姿
・「天資」:(意味)生まれつきの資質
・「天賜」:(意味)天からの贈り物、天使から賜ったもの
・「点紙」:(意味)礼紙(書状を出す時、本文を書いた紙に儀礼的に添える白紙)に同じ
・「展翅」:(意味)標本にするための昆虫のはねを広げ、固定すること
・「てん詞」(審決注:「てん」は「土」偏に「眞」の漢字):中国の歌曲の一体
・「転子」:(意味)脊椎動物の大腿骨の上部にある突起
このように本件商標と被請求人が主張する本件使用商標は,社会通念上同一と認められる商標ということはできない。
「社会通念上の同一と認められる商標」については、審決等(乙23ないし乙35)において比較的緩やかに解されているとしても、前述の審判便覧に示されるように、同一の称呼を生ずる場合があって、平仮名及び片仮名と漢字のいずれかに別異の観念が含まれるときは、もはや社会通念上同一の商標ということはできないのであって、平仮名「てんし」と漢字「天使」の関係において、「テンシ」の称呼が生じる「天使」以外の別異の観念を生じる
漢字が存在するのであるから、社会通念上同一と認められる商標ということはできない。
ウ 以上のとおり、判決及び審決例(乙19ないし乙35)の基準に照らしてみても、本件ウェブサイト、被請求人の商品「エンゼルパイ」のパッケージ(乙13)並びに被請求人のカタログ及びSNSサイト上の広告(乙15ないし乙18)で示されている各表示は、商標法第50条第2項で定める登録商標の使用を証明するに十分なものということはできない。
(5)まとめ
以上述べたとおり、被請求人によって提出された答弁書及びその証拠書類によっては、本件商標権者又はその使用権者が、本件商標を要証期間内に、その請求に係る指定商品のいずれかについて使用していたということはできない。
よって、被請求人は、商標法第50条第2項で定める登録商標の使用を証明していないから、本件商標の上記請求に係る指定商品についての商標登録は取り消されるべきである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第56号証(枝番号を含む。)を提出した。
なお、乙第26号証ないし乙35号証(枝番号を含む。)については、被請求人の提出に係る答弁書及び回答書において、それぞれに添付された別個の証拠に同じ乙号証の番号を使用しているものであるから、以下、これらを区別するために「答乙○」又は「回乙○」のように記載する。
1 答弁の要旨
本件商標は、商標権者によって、本件審判の請求に係る指定商品中の「菓子」に使用されている。
(1)被請求人等について
被請求人は、日本有数の菓子・食品の製造・販売を業とする会社であり、「天使(エンゼル)」を創業の精神を体現するシンボルとして、天使図形からなる標章を採用し、明治38年(1905年)以来1世紀以上の長きにわたって自社製品に使用し続けている。これは、裁判所においても認められており(乙1)、特許庁における審判事件においても、天使図形のみならず、「天使」、「てんし\天使」、又は「てんし\天使\テンシ」等の語からなる商標については、強い出所識別能力を有していることが認定されている(乙2ないし乙5)。
(2)本件商標の使用について
被請求人は、「天使」の語からなる商標を、以下のとおり、「菓子」(以下「本件商品」という。)について、要証期間内に使用している。
ア 被請求人のウェブサイト画面
(ア)乙第6号証は、被請求人が提供している「森永 天使のお菓子レシピ」の画面(以下「本件レシピ画面」という。)の写しである。本件レシピ画面は、自社商品を宣伝するとともに、自社商品を使用した菓子、副菜等のレシピを紹介することによって、商品の拡販を目的とするものである。本件レシピ画面では、被請求人の商品である「ビスケット」や「チョコレート」等の宣伝広告がなされており、その下には、「※『天使』は森永製菓株式会社の登録商標です。」と表示されている。これらの行為は、商標法第2条第3項第8号の「商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」に当たる。
(イ)乙第7号証ないし乙第10号証は、ウエイバック機能を使用して入手した、平成27年(2015年)11月4日、同28年(2016年)5月2日、同29年(2017年)5月30日、同30年(2018年)5月29日時点の本件レシピ画面である。これらの広告は、いずれも要証期間内になされており、被請求人の商品の宣伝広告に加えて「※『天使』は森永製菓株式会社の登録商標です。」の表示があり、表示中の「天使」の文字部分は、括弧で他の文字と分けて記載されていることから、需要者にも視覚的に分離して看取され、独立して自他商品の識別機能を果たしている。また、この記載に関するブログもある(乙11)。
イ 被請求人の商品「エンゼルパイ」のパッケージ
被請求人の商品である「エンゼルパイ」の裏面にも、「エンゼルをトレードマークとする森永製菓は10月4日を“森永・天使の日”『天=テン(10)使=シ(4)』に制定。日本記念日協会に登録されています。」という語とともに、「『天使』は森永製菓の登録商標です」と表示されており(乙13)、被請求人によるかかる行為は、商標法第2条第3項第1号の「商品又は商品の包装に標章を付する行為」に当たる。
そして、当該表示中の「天使」の部分も、鍵括弧でくくられており、視覚的に分離して看取され、独立して自他商品の識別機能を果たしている。また、このエンゼルパイが菓子商品であることも明らかであり、当該商品の賞味期限は、平成30年12月6日であるが、その賞味期間は6か月であるから(乙14)、同一ロットの商品は、遅くとも平成30年6月6日には製造、出荷されたものであり、要証期間内である。
ウ 被請求人のカタログ及びSNSサイト上の広告
被請求人は、取引者、需要者に、年6回の頻度で、広く商品カタログ(乙15ないし乙17:以下、これらをまとめていうときは、「本件カタログ」という。)を配布しており、本件カタログは、紙媒体の他FacebookやInstagramでも配信されている(乙18)。
本件カタログ中には、「天使の\お菓子箱」というページが常設され、菓子商品の詰め合わせセットの広告を行っており、かかる商標の使用も本件商品に関する広告又は本件商品を内容とする情報ということができ、そこに表示された「天使の\お菓子箱」の標章も、被請求人の菓子商品との具体的関係において使用されている。
(3)上記(2)の使用態様と第50条第1項に基づく審判における登録商標の使用について
本件使用商標は、上記のとおり、本件商品の宣伝広告として、又は商品に直接付して使用されている。
したがって、本件商標がそのまま本件商品の名称でなかったとしても、商標法第50条第1項に基づく登録商標の使用に当たることは、乙第19号証ないし乙第22号証の審決及び判決事件においても、同様に判断されている。
(4)本件商標と本件使用商標の同一性
ア 本件商標「てんし」と本件レシピ画面及び商品「エンゼルパイ」に使用されている商標「天使」とは、「称呼及び観念の同一とする場合の平仮名及び片仮名と漢字の相互間の使用」に該当するから、登録商標の使用である。
イ 本件カタログに使用している「天使の\お菓子箱」の商標は、「天使」の他に、「の」及び「お菓子箱」の語が付記されている点で、本件商標とは態様が異なるが、「の」は単なる格助詞であり、「お菓子箱」は、使用商品である「菓子商品の詰合せセット(箱)」を直接的に意味することから、その要部は、「天使」の部分にあり、本件商標と社会通念上同一というべきである。
すなわち、上記表示に接した需要者は、「『天使』印のお菓子」を容易に認識し、また、表示方法についても、天使図形を配し、文字部分も「天使の」の部分を上段にして、さらに「お菓子箱」とは色彩も変えて表示していることから、需要者は「天使」の部分を強く認識する。
商標法第50条における使用証明については、登録商標と使用商標との完全同一までは要求されていないことはいうまでもなく、「社会通念上同一と認められる商標」については、判決及び審決(乙23ないし乙25及び答乙26ないし答乙35)のとおり、従前より比較的緩やかに解されてきた特許庁の審理実績に鑑みても、本件カタログに使用している本件使用商標は、本件商標の使用と認められるべきである。
2 審尋に対する被請求人の意見
(1)被請求人の意見
特許庁の審判便覧において、「同一の称呼を生ずる場合があって、平仮名及び片仮名と漢字のいずれかに別異の観念が含まれるときの相互間の使用」は社会通念上同一と認められない商標として例示されていることは被請求人も認める。しかしながら、「登録商標の使用に当たるか否かの認定に当たっては、登録商標に係る指定商品及び指定役務の属する産業分野における取引の実情を十分に考慮し、個々具体的な事例に基づいて判断すべきものである」という原則も同時に明記されている(甲2)。
文字商標は、全くの造語商標を除けば、当該文字に即した観念を有するし、その観念がただ一つという場合は少ない。本件においても「てんし」の語に接した需要者が、「天使」を連想することは明らかで、かつ、永年「天使」の標章を、企業理念を体現するシンボルとして使用し続けてきた被請求人の「取引の実情を十分に考慮」すべきである。
ア 「てんし」の語からは「天使」が認識される
一般的な需要者にとって「てんし」の語からは、「天使」が認識される。換言すれば、現在使用されていない、あるいは、一部の業界又は学会でしか使用されていないような特殊な語義もあることをもって、社会通念上(観念上)の同一性を否定するのは妥当でない。上記のとおり、観念が1つしかない語というのは少なく、特許庁の審決でも、柔軟に判断されて同一性が認められている(回乙26ないし回乙35及び乙36ないし乙40)。また、日常使用されていないような語や、需要者が想起できないような語にも転換できることをもって、社会通念上(観念上)の同一性を否定するのは妥当でなく、かかる趣旨の主張は、多くの特許庁の審決において排斥されている。
イ 被請求人の属する産業分野における取引の実情
既述のとおり、被請求人は、日本有数の菓子・食品の製造・販売を業とする会社であり、「天使(エンゼル)」を創業の精神を体現するシンボルとして、天使図形からなる標章を採用し、明治38年(1905年)以来1世紀以上の永きにわたって自社製品に使用し続けており、裁判所においても、特許庁における審判事件においても、認定されている(乙1ないし乙5)。
本件商標についても、これらの認定と別異になされるべき理由はないと考える。
(2)弁駁書の主張に対する被請求人の意見
ア 乙第6号証ないし乙第10号証について
(ア)被請求人の広告及び配布行為
a 乙第6号証及び乙第10号証
請求人は、乙第6号証及び乙第10号証について、単に掲示されただけであるから、広告としての使用に当たらないと主張する。
しかしながら、乙第6号証ないし乙第10号証は、ウェブサイトを通じて自社製品を広告することを目的としており、充分、本件商標の「使用」に該当する(商標法第2条第3項第8号)。
b 乙第15号証ないし乙第17号証等
請求人は、乙第15号証ないし乙第17号証について、「その広告が掲示されていることをのみを示すものの、展示、頒布等をしていることを証明していない」と主張するので、新たに、商品カタログ(乙41、乙44、乙46、乙48)を提出する。なお、乙第15号証ないし乙第17号証については、欠落部分があったので、再度提出する(乙41、乙44、乙46)。
被請求人の発行・配布に係る2017年11・12月号のカタログ(乙41)、2018年1・2月号のカタログ(乙44)、2018年3・4月号のカタログ(乙46)及び2018年5・6月号のカタログ(乙48)は、いずれも株式会社ゼネラルアサヒに発注され、25万部ないし27万部が制作され、被請求人の契約する株式会社ダイワコーポレーションの倉庫に納入され、被請求人の指示により、通販商品に同梱して配布されている(乙42、乙45、乙47、乙49ないし乙53)。
(イ)「※『天使カタログ』は森永製菓株式会社の登録商標です。」の記載
請求人は、「※『天使』は森永製菓株式会社の登録商標です。」の記載は、「天使」という語が被請求人の登録商標であるとの事実を記述的に示したものであるから、「商標の本質的機能である自他商品の識別標識としての機能を果たすものとは認識し得ず、商品との具体的関係において使用されているともいえない」と主張する。
しかしながら、乙第19号証ないし乙第22号証の審決・判決に明らかなように、商標がその指定商品について何らかの態様で使用されておれば十分であって、識別標識としての使用、すなわち、商品の彼これ識別など商標の本質的機能を果たす態様の使用に限定しなければならぬ理由は、全く考えられない。
被請求人は、「天使」の部分を鍵括弧で、他の文章から目立つように表示しており、かつ、文字どおり「天使」が、被請求人の登録商標であることも、明確に表示している。
(ウ)インターネットを通じた広告
請求人は、乙第6号証ないし乙第10号証の広告は、「インターネットを介して被請求人が需要者に飲食料品のレシピ情報を提供する」役務に当たり、商品の広告には当たらないと主張するようである。
しかしながら、乙第6号証ないし乙第10号証は、専らウェブサイトを通じて自社製品を広告することを目的としており、レシピの提供は、同画面に紹介された商品を使用してできる飲食料品を合わせて紹介しているにすぎない。
乙第6号証ないし乙第10号証のウェブサイトは、菓子等の商品を使用したレシピを提供するにとどまらず、「被請求人商品を宣伝する目的で配信され」、「商品カタログ等のページにおいて商品写真や説明を閲覧することができ」、「顧客に被請求人商品を認知させ理解を深め、いわば、電子情報によるチラシとして、被請求人商品の宣伝媒体としての役割を果たしているものということができる」から、「本件商標と社会通念上同一と認められる商標を付し、これを電磁的方法により提供したものであ(り)・・・被請求人の上記行為は、商標法第2条第3項第8号に該当する。」という審決(乙12)の説示が本件についても妥当する。
乙第6号証ないし乙第10号証の被請求人のウェブサイトは、これを通じて、被請求人の主たる扱い商品の関連情報にアクセスすることができるし、それらに関する詳細情報も得ることができる(乙54ないし乙56)。
(エ)本件商標と本件使用商標との社会通念上の同一性
請求人は、被請求人の商品に表された「『天使』は森永製菓株式会社の登録商標です。」等の表示や、被請求人のカタログやSNSサイト等の「天使のお菓子箱」といった表示は、いずれも、本件商標と社会通念上の同一性が認められないと主張する。
しかしながら、これらの表示は、いずれも「菓子」について使用され、また、商標態様の同一性については、上記(1)で詳述したとおりである。
イ 以上より、本件商標と本件使用商標との社会通念上の同一性は肯定されるべきであり、本件商標の「菓子」についての要証期間内における使用も証明されている。

第4 当審の判断
被請求人は、本件商標権者が、要証期間に、日本国内において、本件審判の請求に係る指定商品中の「菓子」について、本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用していると主張しているので、以下検討する。
1 被請求人提出証拠等における使用商標
被請求人の主張及び同人の提出に係る証拠によれば、以下のとおりである。
(1)乙第6号証ないし乙第10号証及び乙第54号証は、本件商標権者のウェブサイト画面の写しであるところ、いずれも表題を「森永天使のお菓子レシピ」とし、「条件検索」の項に列挙された商品の中には、パッケージに「チョコレート」及び「チョコフレーク」等の写真が掲載されているが、当該商品は小さく不鮮明であり、「チョコレート」に表示されている「Morinaga」等の文字は確認できるものの、「てんし」の文字の使用は確認できない。
また、当該ウェブサイト画面には「※『天使』は森永製菓株式会社の登録商標です。」の記載があるが、この記載と上記掲載商品との関係は不明である。
(2)乙第13号証は、本件商標権者の商品パッケージの裏面であるところ、これには「エンゼルパイTM」(「TM」の文字は小さく書されている。)と表示されており、また、「エンゼルをトレードマークとする森永製菓は10月4日を“森永・天使の日”『天=テン(10)使=シ(4)』に制定。日本記念日協会に登録されています。」という記載とともに、「『天使』は森永製菓の登録商標です」の記載があるが、この記載と上記商品との関係は不明である。
(3)乙第41号証、乙第44号証、乙第46号証及び乙第48号証は、それぞれ、表紙に「2017年11・12月号」、「2018年1・2月号」、「2018年3・4月号」及び「2018年5・6月号」の表示がある本件商標権者の商品カタログ(抜粋)であるところ、これらには、いずれも「天使のお菓子箱」の表示の下、商品「菓子」の詰め合わせセットの広告が掲載されている。
2 本件商標と使用商標との社会通念上同一性
(1)本件商標について
本件商標は「てんし」の文字を縦書きで表してなるところ、これより、「テンシ」の称呼を生じること明らかであり、また、「てんし」の文字は、「天使(天子の使。エンゼル)」、「天子(天皇のこと。)」及び「天姿(生まれつきの容姿)」(甲4の1、甲4の3、広辞苑第七版)等といった様々な意味を有する語を平仮名表記したものと認められるから、「てんし」の文字からは、それぞれの語に相応した複数の観念を生じるといわなければならない
(2)使用商標について
ア 本件商標権者の商品カタログ(乙41、乙44、乙46及び乙48)に表示された「天使のお菓子箱」の文字(以下「使用商標1」という。)は、上記1(3)より、本件商標権者の取り扱いに係る商品「菓子」に使用されていることが認められる。
そして、使用商標1の構成中の「お菓子箱」の文字は、「菓子の詰め合わせ」といった意味合いを理解させるものと認められるから、当該文字部分は、本件審判の請求に係る指定商品中の「菓子」との関係では識別標識として機能しないか、又は極めて弱いというべきである。
そうすると、使用商標1の構成中、自他商品を識別する標識として機能する部分は「天使」の文字部分にあるというべきであるから、これより、「テンシ」の称呼を生じ、「天使(天子の使。エンゼル)」の観念を生じるものである。
イ 上記1(2)によれば、菓子に「エンゼルパイ」の文字(以下「使用商標2」という。)が使用されており、その構成中の「パイ」の文字部分は、商品との関係において、識別力を有しないものといえ、使用商標2の構成中、自他商品を識別する標識として機能する部分は「エンゼル」の文字部分にあるというべきであるから、これより、「エンゼル」の称呼を生じ、「天使(天子の使。エンゼル)」の観念を生じるものである。
ウ 以下、使用商標1及び使用商標2をまとめて「使用商標」という。
(3)本件商標と使用商標とが社会通念上同一であるかについて
上記(1)及び(2)アのとおり、本件商標と使用商標1の要部とは、「テンシ」の称呼を同一にするものの、本件商標からは、「天皇のこと。(天子)」、「天子の使。エンゼル。(天使)」及び「生まれつきの容姿。(天姿)」等の複数の観念が生じるのに対し、使用商標1の要部である「天使」の文字から生じる観念は「天子の使。エンゼル。」のみである。
そうすると、本件商標と使用商標1は、同一の称呼を生ずるものの観念においては、常に同一であるとは認められない。
また、本件商標と使用商標2の要部とは、称呼が異なり観念においては、常に同一であるとは認められない。
したがって、使用商標は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標ということはできない。
(4)なお、本件商標権者の当該ウェブサイト画面(乙6ないし乙10及び乙54)及び商品パッケージの裏面(乙13)には「※『天使』は森永製菓(株式会社)の登録商標です。」の表示があるところ、被請求人は、当該表示中の「天使」の部分は、括弧で他の文字と分けて記載されていることから、需要者にも視覚的に分離して看取され、独立して自他商品の識別機能を果たしており、この「天使」の部分も商標の使用に該当する旨主張する。
しかしながら、「※『天使』は森永製菓(株式会社)の登録商標です。」の表示は、「天使」の文字からなる商標が本件商標権者の所有する商標であることを記述したにすぎないものであり、また、この表示とウェブサイト画面(乙6ないし乙10及び乙54)及び商品パッケージの商品との関係は明らかではなく、上記表示のうちの「天使」の部分が当該商品の出所を表示する商標として使用されたものと認めることはできない。かつ、「天使」の文字からなる商標が本件商標と社会通念上同一と認められないものであることは上記のとおりである。
したがって、上記被請求人の主張は認められない。
(5)その他、被請求人が提出した証拠から、本件商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。)の使用があったことを認めるに足る事実を見いだせない。
3 被請求人の主張について
被請求人は、文字商標は、当該文字に即した観念を有するし、その観念がただ一つという場合は少なく、本件商標「てんし」に接した需要者が、「天使」を連想することは明らかで、かつ、長年「天使」の標章をシンボルとして使用し続けてきた被請求人の「取引の実情を十分に考慮」すべきである旨主張する。
しかしながら、本件商標権者が、長年「天使」の標章を使用していることは認められるとしても、前記2(1)のとおり、「てんし」の文字は、同音異義語の平仮名表記である上に、「てんし」の文字が「天使」以外の意味を有する語を認識させないとする事情は見当たらないことに加えて、請求に係る指定商品の分野において、「てんし」の文字が直ちに「天使」を連想させるような取引の実情も見当たらないことからすれば、被請求人が主張する取引の実情を考慮したとしても、上記判断は左右されないといわなければならない。
したがって、被請求人の主張は、採用することはできない。
4 まとめ
以上のとおり、被請求人が提出した証拠から認定できる使用商標は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標ということはできず、ほかに被請求人が本件審判の請求の登録前3年以内に本件審判請求に係る指定商品について、本件商標を使用していることを証明するものはない。
したがって、被請求人は、本件審判の請求前3年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品のいずれかについての本件商標(社会通念上同一のものを含む。)の使用をしていることを証明したものということはできず、又は使用をしていないことについて正当な理由があることを明らかにしていないから、本件商標の登録は、「結論掲記の商品」について、商標法第50条の規定により登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2020-11-25 
結審通知日 2020-12-01 
審決日 2020-12-14 
出願番号 商願2013-46361(T2013-46361) 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (W30)
最終処分 成立 
特許庁審判長 木村 一弘
特許庁審判官 山田 啓之
中束 としえ
登録日 2013-10-18 
登録番号 商標登録第5624288号(T5624288) 
商標の称呼 テンシ 
代理人 小林 彰治 
代理人 廣中 健 
代理人 小野寺 隆 
代理人 鳥海 哲郎 
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