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審決分類 審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効としない W10
審判 全部無効 商3条1項1号 普通名称 無効としない W10
管理番号 1374025 
審判番号 無効2020-890009 
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-01-31 
確定日 2020-08-03 
事件の表示 上記当事者間の登録第5738219号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5738219号商標(以下「本件商標」という。)は,「ZIRCONIA BAR」の欧文字と「ジルコニアバー」の片仮名を2段に書してなり,平成26年8月12日に登録出願,第10類「医療用機械器具(「歩行補助器・松葉づえ」を除く。)」を指定商品として,同年12月1日に登録査定され,同27年2月6日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第5号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,商標法第3条第1項第1号及び同項第3号に該当するものであるから,同法第46条第1項第1号により,その登録は無効とすべきである。
2 具体的な理由
(1)商標法第3条第1項第1号
商標法第3条第1項第1号は,「その商品又は役務の普通名称普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」について,商標登録を受けることができないことを定めており,特許庁商標審査基準においては,「取引者において,その商品又は役務の一般的な名称(略称及び俗称等を含む。)であると認識されるに至っている場合には,『商品又は役務の普通名称』に該当すると判断する。」との記載がある(甲1)。
本件商標構成中の「ジルコニアバー」は,英語で「zirconia bar」に相当するものである(併記されていることから明らかである)ところ,「ジルコニア」(zirconia)は,原子番号40のジルコニウム(Zr)が酸化した二酸化ジルコニウム(ZrO2)(審決注:「2」は「O」の文字の右下に小さく表されている。)の通称を意味する(甲2,甲3)。また,「バー」(bar)は,棒,棒状のものを意味する(甲3)。
「ジルコニアバー」(zirconia bar)は,それぞれ普通名称である単語の結合語であることを容易に理解することができるもので,取引者間においてもジルコニアという材質が使用された棒状のものという意味を有することは明らかである。
そして,特許庁における商標審査の実務上も,以下のとおり,普通名称を2つ併記しただけの結合語は,商標として無効とされてきた(甲4の1)。
ア 昭和40年4月28日 昭和37年審判308号 商標「ナイトライト」
イ 昭和45年8月1日 昭和42年審判第4000号 商標「チクラン・CYCLAN」
ウ 昭和52年4月8日 昭和41年審判第2830号 商標「ヨークレシチン」
したがって,本件商標は,商品の普通名称普通に用いられる方法で表示したにすぎない標章のみからなる商標であり,商標法第3条第1項第1号に該当する。
(2)商標法第3条第1項第3号
商標法第3条第1項第3号は,「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,形状(包装の形状を含む。第26条第1項第2号及び第3号において同じ。),生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,態様,提供の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」について,商標登録を受けることができないことを定めており,特許庁商標審査基準においては,「商標が,その指定商品又は指定役務に使用されたときに,取引者又は需要者が商品又は役務の特徴等を表示するものと一般に認識する場合,本号に該当すると判断する。一般に認識する場合とは,商標が商品又は役務の特徴等を表示するものとして,現実に用いられていることを要するものではない。」との記載がある(甲1)。
本件商標は,ジルコニアを意味する「ジルコニア」(zirconia)と棒状のものを意味する「バー」(bar)との結合語である。
このような,単にその商品の原材料,形状を示すものについては,これを特定人に独占させると適切ではないため,特許庁における商標審査の実務上も,以下のとおり,商標として無効とされてきた(甲4の2)。
ア 平成12年6月13日 東京高平成11年(行ケ)第410号 商標「TOURMALINE SOAP・トルマリンソープ」(本件商標と同様,欧文字と片仮名が2段に記載された商標である。)
イ 平成14年10月31日 東京高平成13年(行ケ)第574号 商標「サラシア」
また,被請求人に「ジルコニアバー」を独占させると,ジルコニアを原材料とする棒状のものについて,原材料を示すものとして用いられるべき標章の使用が制限されてしまうことになるから,特定人に独占させることも適切でない。実際,歯科技工業界において切削に用いられる棒状器具については,その原材料と,棒状のものを意味する「バー」という単語を組み合わせて表現されるのが通常であり,インターネットで検索した限りですら,他社においてもそのような表現をしているものが確認できる。例えば,原材料がスチール(steel,鋼を意味する。)のものはスチールバー,原材料がダイヤモンド(diamond,炭素同位体の一種を意味する。)のものはダイヤバーないしダイヤモンドバー,原材料がカーバイド(carbide,炭化物を意味する。)のものはカーバイドバーと表現される(甲5)。
したがって,本件商標は,その商品の原材籵,形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり,商標法第3条第1項第3号に該当する。

第3 被請求人の答弁
被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第9号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 商標法第3条第1項第1号について
(1)「ジルコニアバー」は,取引者において,技工用切削,研磨用品の一般的な名称,略称,俗称とは認識されるに至っていない。
ジルコニアでできた棒状のものである技工用切削,研磨用品という認識にもならない。
(2)請求人は,「取引者間において,ジルコニアという材質が使用された棒状のものである,と認識出来る場合には,普通名称の結合語となる」ということを前提としているように思えるが,商標法第3条第1項第1号はそのような趣旨ではない。
たとえば,東京高判昭和46年9月3日(商標「正露丸」)において,商標法第3条第1項第1号の適用にあたり,特定の医薬品の名称として,なんら出所表示力のない,一般的な名称として国民の間に広く認識されたか否かという点を問題にしているということからも,同号の適用については,対象となる商品の一般的な名称であるか否か,という点が問題となることは明らかである。
そして,本件商標構成中の「ジルコニアバー」については,技工用切削,研磨用品の一般的な名称,略称,俗称とは認識されるに至っていない。
(3)よって,請求人の「ジルコニアバーは,ジルコニア材質が使用された棒状のものという意味を有することは明らかであり」との理由で,本件商標が無効であるとの主張は失当である。
2 商標法第3条第1項第3号について
(1)歯科技工業界においても,単純に「切削器具」「研磨器具」という名称を利用することができ,「ジルコニア製切削器具」などという表示も可能であるから,被請求人が,ジルコニアを原材料とする切削,研磨器具の名称を独占していることにはならない。たとえば,被請求人商品及び請求人商品と同様の切削,研磨器具について「スマートシェイピングバー」などという名称を使用している者も存在する(乙1)。また,指定商品は医療用機械器具であり,歯科の切削器具,研磨器具のみに限定されていない。
医療用機械器具には多種多様なものが存在する以上,「ジルコニアバー」という言葉を用いたときに,医療用機械器具の形状を表示しているとまではいえない。
(2)「ジルコニア」という名称について,一般取引者をもって,「ジルコニア」が「ジルコニウムが酸化した二酸化ジルコニウムの通称である」と判断できるものではない。一般人が「ジルコニア」という言葉に接した時点で,直ちに,このように認識できるものではないことからも,「ジルコニアバー」が単に商品の品質を表示するものとはいえない。
この点について,たとえば,東京高判平成12年10月25日(商標「紅豆杉」)からも,単に原材料を用いていれば,本号に該当するわけではないことは明らかである。
(3)本件においても,いまだ,「ジルコニアバー」という表示をもって,原材料を表示するものと取引者,需要者に広く認識されていたとまではいえないことから,商標法第3条第1項第3号に該当する旨の請求人の主張は失当である。
3 商標法第3条第1項第1号及び同項第3号について
(1)商標法第3条第1項第1号及び同項第3号が,同各号に該当するものを商標として登録することを否定した趣旨は,請求人の主張する審判例においても述べられているとおり,自他商品を区別する標識としての機能を果たすことができないからである。
(2)医療用器具業界において,本件商標が登録された当時,「ジルコニアバー」が,切削,研磨器具を意味する用語として広く認識され,使用されていたものと認められるに足りる証拠は存在しない。だからこそ,特許庁は「ジルコニアバー」を商標として登録することを認めたのである。
なお,同様の医療用切削,研磨器具の名称としては「○○カッター」「○○バー」「○○ポリッシャー」などの名称が使用されており,全てにおいて「バー」という言葉が使用されているわけではない(乙2)。
また,二酸化ジルコニウムを材質とする切削,研磨器具であっても,「スマートシェイピングバー」(乙3),「コメットMIセラバー」(乙4)などの名称も存在しており,販売元によって,非常に様々な名称が存在している。
以上のことから,本件商標に自他識別力がないということはできず,請求人の主張には理由がない。
(3)請求人は,ジルコニアバーが他の商品にも使用されている証拠を提出するが,それらは,いずれも本件商標が登録された後のものにすぎず,請求人の主張・立証は的を射た主張となっていない。
(4)さらに,指定商品は異なるものの「ジルコニア」という商標が登録されている例もある(乙5)。このことからすれば,過去に特許庁として「ジルコニア」自体に自他識別力があると判断していることは明らかである。
加えて,指定商品も同様の「ジルコニアメタルバー」「ブラックバー」「ホワイトバー」「ダイヤバー」という商標も登録されている(乙6?乙9)。これらも請求人の主張からすれば,自他識別力がないものとして商標登録がされてはならないはずである。しかし,これだけ多くの商標が登録されているという事実からして,医療用切削,研磨器具の業界において,「材質や色など」+「バー」という名称が普通名称にはなっていないことの証左といえる。
以上のとおり,本件商標は普通名称ではなく,識別力のある「ジルコニア」と「バー」とが一連一体となった造語であり,それ自体で自他識別力があるものであるから,請求人の主張には理由がない。

第4 当審の判断
請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては,当事者間に争いがなく,また,当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。
以下,本案に入って審理する。
1 「ZIRCONIA BAR(zirconia bar)」及び「ジルコニアバー」の文字(語)について
請求人及び被請求人提出の各号証によれば,「zirconia」及び「ジルコニア」の文字が「(二)酸化ジルコニウム」の意味を,「bar」及び「バー」の文字が「棒,棒状のもの」を意味すること(甲2,甲3),及び「スチールバー」「ダイヤバー」「カーバイドバー」などの文字が歯科用切削・研磨材(器具)などに用いられていること(甲5,乙1,乙2)は認められるものの,「ZIRCONIA BAR(zirconia bar)」及び「ジルコニアバー」が,本件商標の登録査定時(登録査定日 平成26年12月1日)において,本件商標の指定商品中のいずれかの商品について用いられている事実,すなわち,同商品の普通名称(略称,俗称を含む。以下同じ。)又は品質,原材料,形状などを表示するものとして用いられている事実は確認できない。
さらに,「ZIRCONIA BAR(zirconia bar)」及び「ジルコニアバー」が,本件商標の登録査定時において,本件商標の指定商品に係る取引者,需要者(以下「取引者,需要者」という。)をして,本件商標の指定商品中のいずれかの商品の品質,原材料,形状などを表示したものと認識させるというべき事情も見いだせない。
2 商標法第3条第1項第1号該当性について
本件商標は,上記第1のとおり「ZIRCONIA BAR」の欧文字と「ジルコニアバー」の片仮名を2段に書してなるものである。
そして,本件商標の構成中の欧文字部分が「ZIRCONIA」と「BAR」,片仮名部分が「ジルコニア」と「バー」の文字(語)を結合したものといえるとしても,上記1のとおり「ZIRCONIA BAR」及び「ジルコニアバー」の文字が,本件商標の登録査定時において本件商標の指定商品について用いられている事実は確認できないから,本件商標は,その登録査定時において,取引者,需要者をしてその指定商品中のいずれかの商品の普通名称を表示するものと認識されることはないものというべきである。
さらに,他に,本件商標がその指定商品中のいずれかの商品の普通名称を表示するものと認識されるというべき事情は見いだせない。
そうすると,本件商標は,これをその指定商品について使用しても商品の普通名称を表示したものということはできないから,商標法第3条第1項第1号に該当するものといえない。
3 商標法第3条第1項第3号該当性について
本件商標は,上記第1のとおり「ZIRCONIA BAR」の欧文字と「ジルコニアバー」の片仮名を2段に書してなるものである。
そして,本件商標が「(二)酸化ジルコニウム」の意味を有する「ZIRCONIA」「ジルコニア」の文字と,「棒,棒状のもの」を意味する「bar」「バー」の文字を結合したものといえるとしても,それらを一連に表した「ZIRCONIA BAR」及び「ジルコニアバー」の文字は,上記1のとおり,本件商標の登録査定時において,本件商標の指定商品中のいずれかの商品の品質,原材料,形状などを表示するものとして用いられている事実は確認できず,また,取引者,需要者をして,同商品の品質,原材料,形状などを表示したものと認識させるというべき事情も見いだせない。
そうすると,本件商標は,これをその指定商品について使用しても商品の品質,原材料,形状などを表示したものということはできない。
さらに,他に本件商標がその指定商品について自他商品識別標識としての機能を果たし得ない,及びこれを特定人に独占させることが適当でないというべき事情は見いだせない。
してみれば,本件商標は,これをその指定商品に使用しても,商品の品質,原材料,形状などを表示するものでなく,自他商品識別標識としての機能を果たし得るものといわなければならない。
したがって,本件商標は商標法第3条第1項第3号に該当するものといえない。
4 請求人が挙げる審判決について
請求人は過去の審決例を挙げているが,いずれも本件商標と商標の構成態様が異なるなど事案を異にするものであり,何より商標の識別力の有無に係る判断は,査定時における取引の実情を勘案し,その指定商品の取引者,需要者の認識を基準に個別具体的に判断されるべきものであるから,それらをもって本件の判断が左右されるものでもない。
5 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第3条第1項第1号及び同項第3号のいずれにも該当するものではなく,その登録は同法第3条の規定に違反してされたものとはいえないから,同法第46条第1項の規定に基づき,その登録を無効にすべきでない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2020-06-08 
結審通知日 2020-06-10 
審決日 2020-06-24 
出願番号 商願2014-67951(T2014-67951) 
審決分類 T 1 11・ 13- Y (W10)
T 1 11・ 11- Y (W10)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 斎 
特許庁審判長 齋藤 貴博
特許庁審判官 薩摩 純一
小松 里美
登録日 2015-02-06 
登録番号 商標登録第5738219号(T5738219) 
商標の称呼 ジルコニアバー、ジルコニア 
代理人 小野 俊介 
代理人 大塚 和成 
代理人 葛西 悠吾 
代理人 彌田 晋介 
代理人 榎木 智浩 
代理人 塩路 涼 

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