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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2020890007 審決 商標
無効2018890005 審決 商標
無効2020890039 審決 商標
平成26行ケ10247 審決取消請求事件 判例 商標
不服202016803 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W45
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W45
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W45
管理番号 1374001 
審判番号 無効2019-890040 
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-07-18 
確定日 2021-04-26 
事件の表示 上記当事者間の登録第5710595号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5710595号商標(以下「本件商標」という。)は、「Mary Poppins」の文字を標準文字で表してなり、平成26年2月18日に登録出願、第45類「乳幼児の保育(施設において提供されるものを除く。),ベビーシッター及びこれに関する情報の提供」を指定役務として、同年9月24日に登録査定、同年10月17日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が本件審判の請求において引用する商標は、「Mary Poppins(メリーポピンズ)」の文字からなるものであり、請求人の制作に係る映画作品に係る名称として、かつ、同作品中に登場するキャラクター(主人公)の名称として、請求人が半世紀以上にもわたりその業務との関係で継続して使用し、我が国はもとより世界中で著名となっている商標であると主張するものである(以下「引用商標」ということがある。)。

第3 請求人の主張及び弁駁
請求人は、「本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その理由を審判請求書及び審判事件弁駁書において要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第170号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 利害関係について
本件商標は、パメラ・L・トラヴァース氏(以下「トラヴァース氏」という。)著作の児童文学を原作とし、同氏からその映画化権及びその事業に関わる権利を取得した請求人が、昭和39年(1964年)8月29日に一般公開した映画作品「Mary Poppins(メリーポピンズ)」(以下「映画『Mary Poppins』」という。)の名称からなるものである。
そして、映画「Mary Poppins」の周知・著名性は後述するとおりであるところ、本件商標の使用は、請求人の業務との関係で、広義の混同を生じさせるおそれが高く、また、請求人の商標の識別力希釈化するおそれが高いものである。したがって、請求人が、当該混同ないし希釈化を防除すべく、本件無効審判を請求することにつき利害関係を有している。
2 請求の理由
(1)はじめに
ア 特許庁は、平成30年4月に、商標審査便覧(以下「審査便覧」という。)を改訂し、「歴史的・文化的・伝統的価値のある標章からなる商標登録出願の取扱い」を明らかにした。それによれば、「文化的所産等を表す標章又は文化的所産等を表す標章を構成中に有する商標について、当該文化的所産を管理、所有している者以外の者が出願し、これが、当該管理者、所有者の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある場合には、商標法第4条第1項第15号に該当すると判断する」とのことであり、また、「文化的所産等には、その価値が認められ、国民や地域住民に親しまれており、その周知・著名性ゆえに強い顧客吸引力を有するものも多く存在する。そうした場合、当該文化的所産等と関係の無い第三者が、文化的所産を表す標章について剽窃的に出願し、登録を受けることは、社会公共の利益、社会の一般的道徳観念又は国際信義に反するおそれがある・・(中略)・・社会公共の利益に反するものであるとして、第4条第1項第7条に該当するものと判断する」とのことである。
当該審査便覧中、文化的所産等には「演劇、音楽、舞踊、工芸技術、行事」「家紋、小説、俳句、短歌、川柳」などが含まれるとされているところ、後述するとおり映画史に残る名作映画「Mary Poppins」もまた、世界における文化的所産である。
イ 前記審査便覧の改訂は、本件商標の登録後になされたものであるが、著名な文学作品や名作映画の名称にフリーライドする商標は、当該改訂前からあるいは本件商標の出願前から、実務上、商標法第4条第1項各号(特に、同第7号、同第15号)に該当するものと判断されてきたものであり、例えば、世界に著名な文学作品「赤毛のアン」の原題である「Anne of Green Gables」の文字からなる商標が商標法第4条第1項第7号に該当すると判断した判決(平成17年(行ケ)第10349号(平成18年9月20日判決言渡):以下「赤毛のアン判決」という。)や、同じく著名な文学・映画作品「ターザン」の文字からなる商標が商標法4条第1項第7号に該当する判断した判決(平成23年(行ケ)第10399号(平成24年6月27日判決言渡):以下「ターザン判決」という。)は、その好例といえる。
ウ 特許庁においても、前記審査便覧の改訂以前から、他人の著名な映画作品等の名称に便乗した出願商標を拒絶査定とする審査対応をしている(甲84?甲95)。つまり、前記改訂に係る審査便覧における考え方は、従前から存在した特許庁の審査対応や裁判所の判断を明文化したものということができ、本件商標の登録の無効の判断に際しても、斟酌されるべきものである。
(2)商標法第4条第1項第15号の主張
ア 請求人の使用に係る「Mary Poppins(メリーポピンズ)」の著名性
(ア)「Mary Poppins(メリーポピンズ)」は、トラヴァース氏著作の児童文学「Mary Poppins」を原作とし、同氏からその映画化権及びその事業に関わる権利(「Mary Poppins」の名称を営業上・商業上使用することも含む。)を取得した請求人が、昭和39年(1964年)8月29日に一般公開した映画作品であって(甲3?甲7)、数あるディズニー映画の中でも特に有名かつ代表的な作品として知られる(甲8:当該映画作品に係る米国著作権登録証の写し。)。
映画「Mary Poppins」は、アニメーションと俳優の実写を組み合わせるという新たな映画撮影手法を取り入れ、請求人の創業者であるウォルト・ディズニー氏(以下「ディズニー氏」という。)自らが「最高の出来」と述べたほどの作品で(甲5)、映画芸術科学アカデミー協会も、当該作品にアカデミー賞の13部門のノミネートを与え、当該作品は、主演女優賞、歌曲賞、作品賞、編集賞、特殊視覚効果賞の5つのオスカーを受賞した(甲3?甲7)。また、劇中歌「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」や「チム・チム・チェリー」などはあまりに有名であり、老若男女問わず、これらの曲を聞けば即座に映画「Mary Poppins」を想起するはずである(甲9?甲14)。
映画「Mary Poppins」には、原作者のトラヴァース氏も脚本監修を務め、またその後も同氏は、1980年代後半にまだ具体化していない続編のためにディズニーの映画脚本家と一緒に働いている(甲3)。映画「Mary Poppins」は、昭和48年(1973年)、昭和55年(1980年)に再公開され、また、昭和55年(1980年)にはビデオが、平成15年(2003年)にはDVDが発売された(甲3?6)。平成7年(1995年)にも公開30周年を記念し、再上映され(甲15、甲16)、公開40周年の2005年には、記念DVDが発売されている(甲17?甲21)。
平成16年(2004年)には、「Mary Poppins(メリーポピンズ)」は、ディズニーとキャメロン・マッキントッシュ氏によるプロデュースのもと、舞台ミュージカル化された。当該ミュージカルは、トニー賞7部門にノミネートされ、舞台デザイン賞を受賞している(甲3、甲22?甲25)。
平成25年(2013年)に、請求人は、映画「Mary Poppins」の制作秘話やディズニー氏とトラヴァース氏との交流の実話を描いた映画作品「ウォルト・ディズニーの約束」を公開し、これを通じ、映画「Mary Poppins」は改めて脚光を浴びることとなった(甲26?甲28)。
平成26年(2014年)には、映画「Mary Poppins」公開50周年を記念し、請求人は、特別版のブルーレイ・ソフトを発売した(甲29)ほか、東京ディズニーリゾートにおいても大々的にイベントを催したり関連グッズの販売の展開をしたりした(甲30、甲31)。
以上のように、映画「Mary Poppins」は、その公開以降も継続して、また、世代を超えて提供され続けており、平成28年(2016年)に請求人は、50年を経てもなお人々に愛される「Mary Poppins(メリーポピンズ)」の続編製作を行うことを発表し、国内でも大きく報道で取り上げられ、制作状況やキャストについて発表があるたびにニュースになるほど注目を受けてきた(甲32?甲35)。
平成29年(2017年)には、映画「Mary Poppins」のミュージカルが日本に初上陸することが発表され、当該ミュージカルは平成30年(2018年)に上演され歌手の平原綾香の主演のもと大成功を収めている(甲36?甲40)。
そして、平成31年(2019年)2月1日に、続編映画「Mary Poppins Returns(メリーポピンズ リターンズ)」は、封切りされ、大ヒットとなった(甲41、甲42)。当該続編の公開より前から、「Mary Poppins(メリーポピンズ)」の使用に係るおもちや、生活雑貨など多岐にわたる関連グッズが販売され(甲41)、令和元年(2019年)6月には当該続編のDVD等が発売された(甲56の2)。
(イ)「Mary Poppins(メリーポピンズ)」は、前記映画作品中の主人公の名称でもあり、ミッキー・マウスやミニー・マウスと同じように、ディズニーキャラクターとして、東京ディズニーランドの開業当時から同園内においてイベントやパレードに出演し、また、来場者とのグリーティングによる交流を持ち続けている(甲43?甲48)。同園内で毎日催されるパレードにおいても、「Mary Poppins(メリーポピンズ)」を題材とした(「フロート」と呼ばれる)乗物が頻繁に登場し、多くの来場者から好評を得ている。
東京ディズニーランドのパンフレットや書籍等においても、「Mary Poppins(メリーポピンズ)」は、東京ディズニーランドを代表するマスコットキャラクターとして紹介されている(甲49?甲53)。その人気ぶりは、例えば、Googleの画像検索で「メリーポピンズ ディズニーランド」と検索した結果画面において、非常に多くの来場者が写真撮影し、ブログ等に掲載していることからも優にうかがえる(甲54)。
東京ディズニーランドは、請求人の制作に係る映像作品をテーマとする日本で最も人気かつ有名なテーマパークであり、同園は、昭和58年(1983年)の開業年に993万人という来場者を迎えてから今日に至るまで、毎年、年間1千万人以上の来場者を誇っている(甲55)。「Mary Poppins(メリーポピンズ)」が東京ディズニーランドの開業時からの人気キャラクターであること及びこれまでのディズニーランドの来場者数(総計3億人以上)を所与とすれば、相当数の日本国民が、「Mary Poppins(メリーポピンズ)」に接した経験があり、また、これをディズニーキャラクターの一つとして認識していることは明らかである。
また、請求人は、各小売店などに頒布する業務用カタログにおいても、長年「Mary Poppins(メリーポピンズ)」をディズニーキャラクターの一つとして紹介・訴求してきた(甲74?甲77)。
(ウ)「Mary Poppins(メリーポピンズ)」は、半世紀以上前の映画であるにもかかわらず、若年層にも広く認知されている。このことは、例えば、フィギュアスケート選手として国民的人気のあった浅田真央さんが「Mary Poppins(メリーポピンズ)」の大ファンであり、平成24年ないし平成25年(2012年?2013年)にかけて、エキシビション演目に「Mary Poppins(メリーポピンズ)」の衣装に扮し、劇中歌に合わせてパフォーマンスしていたことからもうかがえる(甲56、甲57)。
(エ)以上のとおり、「Mary Poppins(メリーポピンズ)」は、老若男女問わず、ディズニー映画の代表作として世界中で愛され続けている不朽の名作であり、また、同映画作品から誕生したディズニーキャラクターの一つとして、請求人の業務を表彰するものとして日本国内はもとより世界中で著名であることは、顕著な事実である。
したがって、「Mary Poppins(メリーポピンズ)」は、これに接した需要者及び取引者が直ちに請求人を強く想起・連想するほどに、請求人の業務に係るものとして著名である。
イ 商標の類似性
本件商標は、引用商標の「Mary Poppins」と同一の構成である。
ウ 「Mary Poppins(メリーポピンズ)」の独創性
映画「Mary Poppins」は、トラヴァース氏の児童文学を原作としたものであり、同氏により創作された造語である。そして、請求人は、トラヴァース氏から取得した権利の下「Mary Poppins(メリーポピンズ)」を商業上長期にわたり使用してきたものであって、その独自性・独創性は非常に高いものである。
本件商標は、商標権者が、請求人の使用に係る「Mary Poppins(メリーポピンズ)」に依拠して出願したことは明らかである。
エ 本件商標の指定商品等と請求人の業務に係る商品等との関連性並びに取引者及び需要者の共通性
請求人は、数多くの映像作品及びテーマパークを提供すると共に、衣・食・住に関わるあらゆる商品又は役務について、ディズニープロパティをライセンスし、日本全国において販売している。請求人があらゆる商品及び役務について、ディズニープロパティの使用許諾事業を行っているという実情が広く知られている状況においては、本件商標が使用されることにより、一般の消費者は、本件商標の使用に係る役務をあたかも請求人から許諾を受けた、あるいは、請求人とのタイアップ又はコラボレーションによる役務であるかの如く誤認する蓋然性が極めて高い。
商標法第4条第1項第15号の「混同を生ずるおそれ」があるというには、「出願商標をその指定商品等に使用したときに、他人の商標に係る商品等と混同する蓋然性(抽象的なおそれ)があれば足り、現実の混同や混同の危険性は必要ではない」(高部眞規子著「実務詳説 商標関係訴訟」第250頁)。「Mary Poppins(メリーポピンズ)」が請求人の業務を表彰するものとして著名であること、また、請求人が多岐にわたる商品・役務を取り扱っていることは、本件商標の使用が混同を生じさせるおそれがあることを推認するのに十分な要因である。
フリーライド及びダイリューションの防止
(ア)「Mary Poppins(メリーポピンズ)」は、請求人の業務を表彰するものとして、日本はもとより世界中で著名なものであり、商標権者が請求人の使用に係る「Mary Poppins(メリーポピンズ)」について知らなかったということは考え難く、また、商標権者が偶然の一致で本件商標を採用したとは到底考えられない。
さらに、「Mary Poppins(メリーポピンズ)」に登場する主人公は、空から飛んできた魔法が使えるナニー(住み込みのベビーシッター兼家庭教師)という設定であるところ、「第45類 乳幼児の保育(施設において提供されるものを除く。),ベビーシッター及びこれに関する情報の提供」を指定役務として出願された本件商標は、請求人の業務上の信用や人気にただ乗りし、その顧客吸引力を利用しようと選択されたものと断ぜざるを得ない。
(イ)請求人のアニメーションキャラクター等に便乗して営利を目論む者の出現は、日本のみならず世界中であとを絶たない状況(甲58?甲73)の中、本件商標のように明らかに請求人の商標に便乗する商標の登録・使用を許せば、同じようなことを考える不正使用者や不正登録が次々と出現し請求人及びその使用権者の営業努力の成果、つまり、請求人が獲得してきた市場における信用・評価・評判等に代表される顧客吸引力が弱められるおそれに晒される。
(ウ)したがって、請求人の商標へのフリーライド及びダイリューションという観点からも、本件商標の登録は断じて許されるべきものではない。そして、トラヴァース氏はもとより、請求人とも全く関係のない商標権者が、本件商標を商標登録することは到底許容されることでない。
カ 小括
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第7号の主張
ア 文化的所産等からなる商標の取扱い
(ア)裁判所は、赤毛のアン判決において、「Anne of Green Gables」が「世界的に著名で高い文化的価値を有する作品の原題からなるものであり、我が国における商標出願の指定商品に照らすと、本件著作物、原作者又は主人公の価値、名声、評判を損うおそれがないとはいえないこと」や「本件著作物は大きな顧客吸引力を持つものであり、本件著作物の題号からなる商標の登録を原告のように本件著作物と何ら関係のない一民間企業に認め、その使用を独占させることは相当ではないこと」などを勘案した上、同号該当性を判断した。
(イ)また、改訂された審査便覧によれば、「文化的所産等には、その価値が認められ、国民や地域住民に親しまれており、その周知・著名性ゆえに強い顧客吸引力を有するものも多く存在する。そうした場合、当該文化的所産等と関係の無い第三者が、文化的所産等を表す標章について剽窃的に出願し、登録を受けることは、社会公共の利益、社会の一般的道徳観念又は国際信義に反するおそれがある・・・社会公共の利益に反するものであるとして、第4条第1項第7号に該当するものと判断する」とのことである。
イ 本件への当てはめ
(ア)「Mary Poppins」は、昭和9年(1934年)に発表されたトラヴァース氏著作の文学作品であると共に、それを原作として請求人が制作した映画史上に残る映画の名作であって、文化的所産として評価されるものである。そして、本件商標は、不正の目的すなわち請求人の使用に係る「Mary Poppins(メリーポピンズ)」の名声等に便乗するあるいはそれを稀釈化・毀損させる意図をもって出願されたことが明らかであるから、かかる商標の登録を許し又その使用を許容することは、公正な取引秩序を乱すものであって、ひいては商標法の精神に反し、商取引の秩序に反するものといわざるを得ない。
(イ)中国等において、日本の漫画やアニメーションの名称からなる商標が無関係の第三者に無断で出願される、いわゆる剽窃問題が発覚するたびに全国紙がそれを大きく報道し(甲78?甲84)、多くの日本国民がそのような行為に対して困惑し憂いている状況にある。
平成28年(2016年)3月8日付け産経新聞が「中国企業などが日本の人気キャラクターや、地域の特産品などの名称を無断で商標登録する『悪意の商標出願』に対し、特許庁は平成28年度から、取り消し訴訟を起こす中小企業への補助を行う。海外での知財裁判は費用がかさみ、日本企業が泣き寝入りになるケースもある。商標の“不法占拠”への対抗を政府が後押しし、国内のブランド価値を守る狙いだ・・・同庁幹部は『しっかり戦える費用を支援して、企業の海外展開を後押ししたい』と話している」と報道しているとおり(甲82)、特許庁も中国等における商標剽窃問題に強い姿勢で臨んでいる。
本件商標が我が国において出願されたことは、海外における商標剽窃行為と何ら変わらない行為であり、本件商標のような世界的に著名な文学・映画作品の名称を、それとは全く無関係の者が商標登録した行為が諸外国の知るところとなれば、外国民の感情を害することは明らかであり、国際信義上到底許されるべきではない。
したがって、本件商標は、公序良俗を害する商標であって、商標法第4条第1項第7号に該当するものである。
(4)商標法第4条第1項第19号の主張
本件商標は、日本国内における需要者の間に広く認識されている「Mary Poppins(メリーポピンズ)」と同一の商標であって、不正の目的をもって使用をするものであるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(5)結語
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第15号及び同第19号に該当し、その登録は、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効とされるべきである。
3 答弁に対する弁駁
(1)被請求人は、「Mary Poppins」が請求人の業務に係る表示として周知・著名ではない旨主張するが、当該映画は、トラヴァース氏から映画・興行化の権利を正当に取得してディズニー映画として制作され、ディズニーアニメーション作品の中でも最も有名な作品の一つとして、半世紀を過ぎた今でも、時代を超えた名作として人々に愛されて親しまれているものであり、このことは、ディズニー作品を紹介する刊行物において、「Mary Poppins」がディズニー映画の傑作と評されていることからも優にうかがい知ることができる(甲4?甲7、甲96?甲101)。
なお、例えば、「くまのプーさん(Winnie the Pooh)」は、もともとイギリスの劇作家アレン・アレクサンダー・ミルンが著した物語であったが、ディズニー社がこれを映画化する権利を取得したものである。近年、請求人が第三者の登録商標「I LOVE POOH」に対して請求した無効審判において、「くまのプーさん」ないし「POOH」は、請求人の業務に係る表示として周知・著名であると認定され、当該登録商標は商標法4条1項15号に該当するものとして無効審決を受けた(甲168、甲169)。
請求人が「Mary Poppins」の語を創作したものでないということは、「Mary Poppins」が請求人の業務に係る表示として周知・著名でないということの理由にはならず、被請求人が本件商標を商標登録出願したことを正当化する理由にもならない。
(2)被請求人は、東京地裁平成15年(ワ)第19435号及び知財高裁平成17年(ネ)第10013号を引用し、「請求人は、『Mary Poppins』を映画の題名として使用したにすぎず、映画の放映・配給の役務の出所表示として使用していない。一般的に、映画の放映では、映画の制作・配給会社がスクリーンに表示される。このため、映画の題名自体が出所表示として機能することはない。すなわち、映画『Mary Poppins』の放映の際に、その映画の放映及び配給会社として『The Walt Disney Company』がスクリーンに表示された場合、出所表示となるのは『Mary Poppins』ではなく、『The Walt Disney Company』である」旨述べている。
しかし当該判決は、「題名が視聴者等の間で広く知られるようになったとしても、そのことにより・・・特定の商品や営業主体が周知・著名となったと評価することはできない」ことを述べただけであり、映画の題名が特定の営業主体の出所表示になり得ることを排除しているものではない。
大作アニメーション映画などに関していえば、映画制作会社の知名度・注目度や、その会社の宣伝広告の仕方やビジネスの仕方などによって、映画の題名とその制作会社との間に強い関連性・連想性が生まれることは、よくあることであり、ディズニー社は、そのような映画制作会社の代表的な存在である。例えば、「アナと雪の女王」という題名を聞けば、誰しもがそれをディズニー社の業務に係る表示であると認識するように、ディズニー社は常にその公開作品がディズニー社の制作・出所に係るものであることを前面にして、「映画の題名=ディズニー社の業務に係る表示」という認識を、需要者に強く定着させるような宣伝広告を行っている。
映画の題名が、このように、映画制作会社の業務に係る表示として周知・著名に至ることがあることは、東宝株式会社の「ゴジラ(GODZILLA)」もその例である(甲170)。
(3)被請求人は、「請求人による映画『Mary Poppins』の公開から既に50年以上が経過している。当該映画が仮に公開時に周知であったとしても、50年以上経過した現在、人々の記憶から消えていると考えるのが相当である」旨述べているが、何の根拠もない。
「Mary Poppins」は、この半世紀の間、再上映・ビデオ販売・DVDその他メディア販売等を通じて(甲3?甲6、甲15?甲21)、ディズニー社の名作映画として多くの人々に視聴され続けており、また、多種多数販売されているディズニー作品に関する書籍・雑誌においても、「Mary Poppins」は、ディズニー社の名作映画として必ず紹介・宣伝されている(甲4?甲7、甲96?甲101)。
公開後何十年も経過したディズニーアニメーション作品の多くが、親などの大人から子供に伝えられ、時代を越えて人々に視聴され、愛されていることは顕著な事実である。ディズニー社の名作映画「Mary Poppins」に関して言えば、その劇中歌や内容が、小学校をはじめとする教育機関において、頻繁に音楽会や演劇会の演目にされており、その数は枚挙に暇がない(甲138?甲167)。このように、ディズニー社の名作映画「Mary Poppins」は、この半世紀にわたり、多くの子供たちに親しまれ、認知されている。
請求人は、東京ディズニーリゾートにおいて、「Mary Poppins」を主要キャラクターの一つとして開業以来継続して利用しており、パレードに登場させたりゲストと交流をさせたり、関連グッズの販売をしたりしている(甲43?甲55)。東京ディズニーリゾートに関する書籍や雑誌においても、「Mary Poppins」は頻繁に紹介され、同リゾート内の人気キャラクターの一つとして紹介されている(甲102?甲124、甲131?甲137)。
請求人は、2002年から「ディズニー・オン・クラシック」という全国コンサートツアーを催行しており、その中でディズニー名作映画のBGMや劇中歌などを演奏し、人気を博している。「Mary Poppins」は、その2002年の記念すべき第1回目に劇中歌が演奏され(甲130)、その後も、しばしば全国コンサートツアーで劇中歌が演奏されており、ディズニー名作映画として紹介されている(甲125?甲129)。したがって、被請求人が何の根拠をもって「人々の記憶から消えている」などと述べているのかは不明であり、主張として根拠を欠く。
(4)被請求人は、「東京ディズニーリゾートには『Mary Poppins』を用いたアトラクションは存在していない(乙2)。さらに、ディズニー社の日本法人が運営するディズニー社関連商品を扱うディズニーストアのオンラインショップのキャラクター一覧にも『Mary Poppins』は存在していない(乙3)。」旨述べているが、「Mary Poppins」が東京ディズニーランドの開業以来継続して、同園のマスコットとして人気があり、この半世紀の間子供達にも親しまれ、愛されてきたものであり、被請求人の主張には理由がない。
東京ディズニーリゾートにおける園内のパレードにおいて、「Mary Poppins」は主要キャラクターとして継続的にパレードに登場している(甲43?甲53、甲102?甲124、甲131?甲137)。
被請求人は、「東京ディズニーリゾートの管理運営は、請求人ではなく株式会社オリエンタルランドが行っている。したがって、そこで販売されるキャラクター商品は、請求人ではなく、株式会社オリエンタルランドによるものである。このことからも、キャラクター商品の販売によって『Mary Poppins』が請求人による表示として周知になることはあり得ない。」旨述べているが、東京ディズニーリゾートにおいて「Mary Poppins」の関連グッズが販売され(甲106)、株式会社オリエンタルランドは、ディズニー社からのライセンスを受けて東京ディズニーリゾートを運営し、また、関連グッズを販売している。ライセンシーである株式会社オリエンタルランドによるキャラクター商品販売が、請求人商標の周知・著名性に結びつくことは一般常識として当たり前のことであり、そのことを否定する被請求人の主張は理由がない。
(5)被請求人は、「最初に公開された映画の他、続編として公開された映画は、日本歴代興行収入のランキングベスト100及び日本歴代観客動員数ランキングベスト100のいずれにも挙がっておらず(乙4)、この点からも『Mary Poppins』が請求人の表示として周知・著名であるとは認められない。」旨述べるが、なぜ、日本歴代興行収入のランキングベスト100に入らなければ、映画として有名ではない、という説明になるのかは不明である。
(6)被請求人は、登録第1471229号商標ほかを引用して、本件商標の登録を正当化するが、いずれの商標も本来的に無効理由を有するものであり、単に請求人が無効審判を請求しなかったものであるにすぎない。
(7)被請求人は、本件商標は、被請求人の会社の名称である「株式会社メアリーポピンズ」中の「メアリーポピンズ」を英語表記しただけであって、映画「メリーポピンズ」に依拠したものではない旨主張するが、本件商標の構成は、「Mary Poppins」を標準文字で表した態様であり、映画「Mary Poppins」と同じである。被請求人は、会社の名称「株式会社メアリーポピンズ」の選出は、イギリスの児童文学作家、トラヴァース氏が1934年に発表した小説「Mary Poppins」をきっかけとしており、請求人による映画とは全く関係がない旨述べて、自ら、本件商標をトラヴァース氏の小説から冒用したことを自白している。
(8)被請求人は、「1988年から32年間にわたり、本件商標を継続的に使用している。」とか、「この間の顧客の利用件数は227,948件であり、2018年を例にすると、月間利用件数は550?680件に達する(乙12)。」などと述べ、本件商標は周知となっている旨主張しているが、32年間使用していたから当然に周知であるわけはなく、また、利用件数についても、ベビーシッターは(保育園などと異なり)1日ごとに利用することができるサービスであり、例えば、1家庭が年間200回ベビーシッターを依頼すれば、それだけで200件の利用になるのであって、そのことを考えれば32年間で227,948件という数字は少ない数字といわざるを得ない。
被請求人は、事業者と業務委託契約を締結している旨述べているが(乙16?乙18)、本件商標が、被請求人の業務の出所表示として周知といえるかは不明であり、合理的な根拠を欠いている。被請求人は、1991年に新聞社に寄稿した記事(乙19)、2001年にウェブサイトを開設した(乙20)等を挙げているが、これらだけにより、本件商標が被請求人の業務の出所表示として周知となることはなく、本件商標が被請求人の商標として需要者の間で広く認識されているというような事実は一切証明されていない。
(9)被請求人は、「著名な映画の題名(作品名)、の登録商標の例について」において、いくつか登録例を挙げ、本件商標の登録の正当性を主張しているが、著名な映画の題名(ディズニー映画に係るものを含む)を、それとは無関係の第三者が出願した多くの商標が、これまでも無効・取消にされたり、拒絶されたりしており(甲58?甲73、甲84?甲95)、こうした商標というのは、原則として、商標法4条1項各号に該当すべきものである。
(10)被請求人は、「請求人は、映画の上映・制作又は配給の他に、テーマパークの運営、キャラクター商品の販売等のいわゆるエンターテインメント事業を展開しているところ、これらの事業は被請求人の事業と、内容はもちろん、その需要者や役務の提供場所等に関して、大きく異なる」旨主張しているが、請求人は、数多くの映像作品及びテーマパークを提供すると共に、衣・食・住に関わるあらゆる商品又は役務についてディズニープロパティをライセンスし、日本全国において販売するなどして、多角経営を行っており、いずれの商品又は役務の主として一般消費者に対して提供されるものである。一方で、本件商標に係る指定役務も、一般消費者を対象に提供されるものであり、当該指定役務の需要者の中に、ディズニー社の商品・サービスの需要者が含まれることは明らかである。
(11)被請求人は、「本件商標の指定役務である乳幼児の保育等の主な需要者層は、おおよそ20歳代、30歳代が中心となる。これに対して、請求人による映画の公開は50年以上も前となる1964年であり、その存在を知っている者は、60歳代以上が中心となる。請求人の『Mary Poppins』が60歳代以上の者に知られているとしても、乳幼児の保育等の役務の需要者の年齢層は20歳代、30歳代が主であることから、これらの世代の需要者にとって、請求人の『Mary Poppins』は周知ではない」旨主張しているが、「Mary Poppins」が、この半世紀の間、親などの大人から子供へと名作として伝えられ、多くの世代に視聴され、学校の音楽会や演芸会などにおいて多くの子供たちに演じられ続けており、また、東京ディズニーリゾートにおいても人気キャラクターとして愛され続けていることからすれば、被請求人の主張は何の根拠もなく、本件商標の登録を正当化できるものではない。
(12)被請求人は、「映画については文化的所産等の例として挙げられていない。その理由は、映画の題名と営業主体の周知性とは関係がないことを考慮した結果であると認められる」旨主張しているが、そのような理由は、特許庁が公開する資料のどこにも説明がなく、審査便覧に挙げられている文化的所産等は、あくまで「例示」であって、「映画」が排除されることを意味しているものではない。一般的に、「映画」が著作物であり、また、文化的所産に該当し得ることは常識的に理解されていることであって、被請求人の主張には全く理由がない。
(13)商標審査便覧の「歴史的・文化的・伝統的価値のある標章からなる商標登録出願の取扱い」には、少なくとも「小説」が明示されており、本件商標が、トラヴァース氏の小説との関係で、商標法第4条第1項第7号に該当することは弁明の余地なく明らかであり、また、映画が文化的所産に含まれ得ることも前記のとおり一般常識として当然であるから、本件商標が、ディズニー名作映画「Mary Poppins」との関係でも商標法第4条第1項第7号に該当することも明らかである。
(14)「Mary Poppins」は、トラヴァース氏の小説作品であると同時に、請求人の業務に係る表示として全世界で周知・著名なものであり、被請求人がその「Mary Poppins」の顧客吸引力にただ乗りすることを企図して、本件商標の登録出願を行ったことは明らかであって、本件商標は、商標審査基準が述べている「日本国内で全国的に知られている商標と同一又は類似の商標について、出所の混同のおそれまではなくても出所表示機能を稀釈化させたり、その名声等を毀損させる目的をもって出願したもの」にも相当するから、商標法第4条第1項第19号に該当する。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を答弁書において、要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第32号証を提出した。
1 「Mary Poppins」が請求人の表示として周知・著名ではないこと
(1)請求人は、映画「Mary Poppins」を制作し、公開している。しかし、その映画の原作は、イギリスの児童文学作家、トラヴァース氏が1934年に発表した小説「Mary Poppins(メアリーポピンズ)」であり、この「Mary Poppins(メアリーポピンズ)」は、小説の題名及びその主人公の名前であって、請求人が創作したものではない(乙1)。トラヴァース氏は「Mary Poppins」をシリーズ化し、1988年の「Mary Poppins and the House Next Door」まで合計8作品を発表しているが、このうち、請求人により映画化されたのは、最初の「Mary Poppins」1作品のみである。
ここで、映画の題名と営業主体の周知性とに関し、東京地裁平成15年(ワ)第19435号、及び、この判決が支持された知財高裁平成17年(ネ)第10013号によれば、「映画の題名は、あくまでも著作物たる映画を特定するものであって、商品やその出所ないし放映・配給事業を行う営業主体を識別する表示として認識されるものではないから、特定の映画が人気を博し、その題名が視聴者等の間で広く知られるようになったとしても、そのことにより、当該題名により特定される著作物たる映画の存在が広く認識されるに至ったと評価することはできても、特定の商品や営業主体が周知・著名となったと評価することはできない」と判示されている。
請求人は、「Mary Poppins」を映画の題名として使用したにすぎず、映画の放映・配給の役務の出所表示として使用していない。一般的に、映画の放映では、映画の制作及び配給会社がスクリーンに表示される。このため、映画の題名自体が出所表示として機能することはない。すなわち、映画「Mary Poppins」の放映の際に、その映画の放映及び配給会社として「The Walt Disney Company」がスクリーンに表示された場合、出所表示となるのは「Mary Poppins」ではなく、「The Walt Disney Company」である。以上より、請求人は「Mary Poppins」の表示を、出所表示として使用しておらず、請求人による「Mary Poppins」の表示が、請求人の商品や営業主体として周知・著名となったと評価することはできない。
(2)請求人による映画「Mary Poppins」の公開から既に50年以上が経過している。当該映画が仮に公開時に周知であったとしても、50年以上経過した現在、人々の記憶から消えていると考えるのが相当である。これに関連して、ターザン判決では、映画「ターザン」に関して、「『ターザン』は、米国の作家エドガー・ライス・バローズの小説に登場する主人公の名前であり、ターザンを主人公とする映画が人気となり、高い知名度を有するに至ったが、その映画の日本における劇場公開は1984年(昭和59年)が最後であり、ディズニー社からターザンに関する商品・役務が提供されていることを考慮しても、ディズニー社によるアニメ映画がヒットした1999年(平成11年)から10年以上が経過した本件商標の登録査定時(平成22年7月6日)の時点において、『ターザン』の原作小説又はその派生作品やタイアップ商品等が広く人々の目に触れる機会は減少していたと認められ。・・・(中略)・・・今日における我が国の需要者においては『ターザン』がジャングルの王者という漠然としたイメージのものとして一定程度認識されているとはいえても、それが米国の作家であるバローズの著作物の題号ないしはその登場人物の名称として、あるいは請求人が管理する標章として、広く認識されていたものとまでは認めることはできない、とした認定判断に誤りがあるとはいえない。」と判示されている。
このように、著名であると誰もが認める「ターザン」でさえ、映画のヒットから10年以上が経過していたために特定の者が管理する標章として広く認識されていたと認めることはできない、と判示されていることを考慮すると、本件において、請求人による映画「Mary Poppins」は公開から50年以上が経過しており、その後、関連するキャラクター商品が提供されているとしても、限定的であり、「Mary Poppins」が請求人による表示として広く認識されていたと認めることはできない。さらに、たとえ映画「Mary Poppins」の題名を知っていたとしても、公開から50年以上が経過しており、その映画が請求人により放映されたものであることを知らない人が大半であると認められる。このため、映画「Mary Poppins」と請求人とが結びつかない需要者が多く存在する。
(3)東京ディズニーリゾートには、「Mary Poppins」を用いたアトラクションは存在していない(乙2)。ディズニー社の日本法人が運営するディズニー社関連商品を扱うディズニーストアのオンラインショップのキャラクターの一覧にも「Mary Poppins」は存在していない(乙3)。以上から、請求人が「Mary Poppins」の表示を仮に使用しているとしても、その使用は極めて限定的であり、それ故に若年/盛年層、中年層等、請求人による「Mary Poppins」の存在を知らない世代が大半であると理解できる。
映画の題名をキャラクター商品に使用していたとしても、その商品は、いわゆるキャラクターグッズといわれているものであり、この使用は、その映画に係る商品であることを表示するためのものと認識され、その商品の出所表示としての周知性を獲得するに至ったとは認められない。この点は、引用標章「ハリーポッター」による登録第4783964号商標の登録に対する異議申立ての決定で示されている。これに照らすと、請求人が「Mary Poppins」をキャラクター商品に使用していたとしても「Mary Poppins」が請求人による表示として周知・著名性を獲得するに至ったとは認められない。
東京ディズニーリゾートの管理運営は、請求人ではなく株式会社オリエンタルランドが行っている。したがって、そこで販売されるキャラクター商品は、請求人ではなく、株式会社オリエンタルランドによるものである。このことからも、キャラクター商品の販売によって「Mary Poppins」が請求人による表示として周知になることはあり得ない。
(4)映画「Mary Poppins」の続編として「Mary Poppins Returns」を題名とする映画が、2018年12月に米国で、2019年2月に日本で公開されている。しかし、最初に公開された映画の他、続編として公開された映画は、日本歴代興行収入のランキングベスト100及び日本歴代観客動員数ランキングベスト100のいずれにも挙がっておらず(乙4)、この点からも「Mary Poppins」は請求人の表示として周知・著名であるとは認められない。なお、請求人によれば、映画「Mary Poppins」はアカデミー賞のうち、映画作品自体に与えられる作品賞について受賞していると主張するが、当該映画は作品賞を受賞しておらず、事実と異なる。したがって、映画自体の周知性を示す根拠とならない(乙32)。
(5)「Mary Poppins」は、請求人の周知表示ではなく、それ故に請求人の業務に係る商品又は役務と誤認混同が生じないことは、請求人と無関係な出願人による「Mary Poppins」又は「メリーポピンズ」の商標登録が複数件について認められてきたことからも明らかである(乙5?乙9)。
2 商標法第4条第1項第15号に該当しないことについて
(1)既に説明したとおり、「Mary Poppins」は、請求人の表示として周知・著名ではない。さらに、本件商標の指定役務と、請求人の業務に係る商品等との間の関連性等について、本件商標は、被請求人により、乳幼児の保育(施設において提供されるものを除く。)、ベビーシッター及びこれに関する情報の提供、並びにこれらに関連する事業について使用されている。これに対し、請求人は、映画の上映・制作又は配給の他に、テーマパークの運営、キャラクター商品の販売等の所謂エンターテインメント事業を展開しているところ、これらの事業は被請求人の事業と、内容はもちろん、その需要者や役務の提供場所等に関して、大きく異なる。したがって、本件商標の需要者にとって、本件商標に係る役務の出所につき請求人との関連を想起することはあり得ず、被請求人が本件商標を指定役務に使用しても、請求人との出所の誤認混同は生じない。
(2)本件商標の指定役務である乳幼児の保育等の主な需要者層は、おおよそ20歳代、30歳代が中心となる。これに対して、請求人による映画の公開は50年以上も前となる1964年であり、その存在を知っている者は、60歳代以上が中心となる。請求人の「Mary Poppins」が60歳代以上の者に知られているとしても、乳幼児の保育等の役務の需要者の年齢層は20歳代、30歳代が主であることから、これらの世代の需要者にとって、請求人の「Mary Poppins」は周知ではない。そして、前記のとおり、映画の公開から50年以上が経過しており、映画「Mary Poppins」と請求人とが結びつかない者が多く存在する。したがって、請求人による「Mary Poppins」の表示が需要者の間に広く認識されているとはいえない。
(3)審査便覧において、映画は、文化的所産等の例として挙げられていない。その理由は、映画の題名と営業主体の周知性とは関係がないことを考慮した結果である。このため、題名を「Mary Poppins」とする映画が、文化的所産に該当しないことは明らかである。仮に、映画が文化的所産に該当するとしても、商標法第4条第1項第15号に該当するためには、文化的所産等を表す標章が、当該文化的所産等を管理、所有している者の商品又は役務の出所を表示する商標として使用され、需要者の間に広く認識されていることが必要である。
3 商標法第4条第1項第7号に該当しないことについて
(1)被請求人は、本件商標を、30年以上前より継続して誠実に使用しているから、請求人の名声等に便乗する意図は全く存在しない。また、これまでの被請求人による活動により、請求人の名声等を希釈化・毀損させた事実はなく、今後もそのような事実が生じるおそれもない。本件商標は、被請求人の会社の名称「株式会社メアリーポピンズ」中の「メアリーポピンズ」を英語表記しただけであって、請求人による映画「メリーポピンズ」に依拠したものではなく、これは、会社名が「株式会社メリーポピンズ」ではなく「株式会社メアリーポピンズ」であることからも明らかである。会社の名称「株式会社メアリーポピンズ」の選出は、フリーライド等の不正の目的は全く存在しない。
(2)映画「Mary Poppins」の公開は、1964年8月29日である。この公開から24年も経過した後の1988年、被請求人は会社を創立してサービス名として「メアリーポピンズ」の使用を開始し、その2年後の1990年(平成2年)に社名を株式会社メアリーポピンズとした。1980年に映画が再公開されているようであるが、それでも、被請求人による会社の創立は再公開から8年も経過した後である。1995年(平成7年)にも公開30周年として映画が再上映されているようであるが、これは、被請求人による会社の創立・設立後である。そして、被請求人は、本件商標について2014年(平成26年)2月18日に出願している。これは、映画が再上映された1995年(平成7年)から19年後であり、また、映画の続編「Mary Poppins Returns」の公開日(2019年2月1日)よりも5年前のことである。以上の点からも、被請求人による本件商標の出願は、請求人の映画等の影響を全く受けておらず、請求人の映画に依拠して出願したものではない。
(3)審査便覧において、本号に該当するか否かは、文化的所産等の知名度等の事情を総合的に考慮して判断する、とあり、さらに、知名度、つまり、文化的所産等が広く一般に知られているか否かを判断するに当たっては、例えば、世界遺産登録、世界の記憶登録、国宝指定、文化財指定等、公の機関により登録又は指定等がなされている等の事実を総合勘案する、とある。本件に当てはめると、既に説明したとおり「Mary Poppins」は周知・著名ではない。また、映画は文化的所産に該当しない。そして、被請求人には、請求人の名声等に便乗する意図は全く存在せず、請求人の名声等を希釈化・毀損させることはない。
(4)本号は、日本及び地域における公益的な問題を対象としており、公益とは無関係な私人間の権利関係を調整するための規定ではないと解される。この点を照らすと、請求人は「Mary Poppins」を映画の題名として使用したにすぎず、さらに、「Mary Poppins」は請求人の表示として周知・著名ではなく、「Mary Poppins」に公益性があるとはいえない。請求人による本件無効審判請求は、私人間の権利関係を巡る争いである。
(5)本件商標は、被請求人による永年の使用により関西圏を中心に周知となっており、業務上の信用が化体し、財産的価値が認められる。これに対して、請求人は「Mary Poppins」を本件商標に係る役務に使用していないだけでなく、今後も使用する意思があるとも思えない。このため、本件商標によって、請求人の著作権管理団体等の利用が害されるとは到底考えられない。しかも、被請求人は、本件商標を30年以上、継続的に使用しており、遅くとも2001年にはホームページ(ウェブサイト)を開設している。それにもかかわらず、請求人による映画「Mary Poppins」の公開以降、これまで、請求人やその映画等の著作権管理団体等によって、被請求人に「Mary Poppins」の表示を中止するよう要請されたことは一度もない。このような取引の実情を勘案すると、本件商標を無効にすることは、被請求人の利益を著しく害し、極めて不公平であるといわざるを得ない。このような事態は、商標法第4条第1項第7号の趣旨に反する。
(6)以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第19号に該当しないことについて
「Mary Poppins」は、請求人の表示として周知・著名であるどころか、映画「Mary Poppins」と請求人とが結びつかない者が多く存在する。そして、被請求人は、本件商標を不正の目的をもって使用していないことは明らかである。請求人(他人)の業務に係る商品又は役務を表示する周知な商標は「ディズニー」であり、「Mary Poppins」ではない。商標法第4条第1項第19号は、請求人の周知な商標である「ディズニー」と直接関係する商標に対して適用される規定であって、本件商標のような「Mary Poppins」に対して適用されることはない。
以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。

第5 当審の判断
請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係について争いがないから、本案について判断する。
1 引用商標の周知・著名性について
(1)請求人の提出した証拠及び同人の主張によれば、以下のとおりである。
ア 引用商標の構成文字である「Mary Poppins」について
引用商標である「Mary Poppins」は、1934年に発表されたトラヴァース氏作のイギリス児童文学「風にのってきたメアリー・ポピンズ」を原作とし(甲4)、請求人が昭和39年(1964年)8月29日に一般公開した映画の題名である。「Mary Poppins(メリーポピンズ)」は、この映画の題名であると共に、当該作品において、空から飛んできた魔法が使えるナニー(乳母)という設定の主人公の名称でもある(甲3?甲7)。
映画「Mary Poppins」は、いわゆるディズニー映画として、アニメーションと俳優の実写を組み合わせるという映画撮影手法を取り入れた作品であり、劇中歌として「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」や「チム・チム・チェリー」などの曲が用いられ、アカデミー賞の主演女優賞、主題歌賞、オリジナル作曲賞、特殊効果賞、編集賞、科学技術賞を受賞した(同上)。
イ 映画「Mary Poppins」における引用商標の使用について
映画「Mary Poppins」は、昭和48年(1973年)、昭和55年(1980年)に再公開され、また、昭和55年(1980年)にはビデオが、平成15年(2003年)にはDVDが発売された(甲3?甲6)。平成7年(1995年)にも、再上映され(甲15、甲16)、平成17年(2005年)には、記念DVDが発売されている(甲17?甲21)。
平成16年(2004年)には、映画「Mary Poppins」は、ディズニーとキャメロン・マッキントッシュ氏によるプロデュースの下、舞台ミュージカル化された(甲3、甲22?甲25)。
また、平成26年(2014年)には、映画「Mary Poppins」の制作秘話やディズニー氏とトラヴァース氏との交流の実話を描いた映画作品「ウォルト・ディズニーの約束」が我が国において公開された(甲26?甲28)。
さらに、平成28年(2016年)には、映画「Mary Poppins」の続編が公開されることが発表され、国内でも報道で取り上げられた(甲32?甲35)。
そして、平成29年(2017年)には、映画「Mary Poppins」のミュージカルが日本に初上陸することが発表され、当該ミュージカルは平成30年(2018年)に上演された(甲36?甲40)。
以上のとおり、引用商標は、映画「Mary Poppins」の題名を表すものとして使用されてきたことが認められる。
ウ 上記イ以外の引用商標の使用について
引用商標は、上記イに加え、以下のように使用されている。
(ア)刊行物における使用
昭和56年(1981年)ないし平成28年(2016年)にかけて発行された書籍や雑誌等の刊行物において、映画「Mary Poppins」は、ディズニーの名作映画として紹介、解説されており、その記事中に当該映画の題名を表す文字として引用商標が記載されている(甲3?甲7、甲96?甲101)。
(イ)新聞、ウェブサイトにおける使用
平成7年(1995年)ないし平成29年(2017年)にかけて、新聞記事やウェブサイト記事において、映画「Mary Poppins」の解説、批評記事中に、当該映画の題名を表す文字として引用商標が使用されている(甲9?甲25、甲29、甲33?甲35)。
(ウ)キャラクターの名称としての使用
引用商標は、映画「Mary Poppins」において、主人公である、空から飛んできた魔法が使えるナニー(乳母)の名称でもあり、当該主人公に扮し、傘を持った女性の人物は、ミッキー・マウスやミニー・マウスと同じようなキャラクターとして、昭和58年(1983年)ないし昭和63年(1988年)にかけて請求人が撮影したとされる写真画像によれば、東京ディズニーランドの園内においてイベントやパレードに出演していたことがうかがえる(甲44?甲48)。
そして、引用商標は、昭和62年(1987年)ないし平成28年(2016年)にかけて配布・発行された、東京ディズニーランドのパンフレットや書籍等の記事中において、映画「Mary Poppins」の主人公のキャラクターの名称を表すものとして記載されている(甲49?甲53、甲102?甲124、甲131?甲137)。
また、平成24年(2012年)ないし平成25年(2013年)にかけて、フィギュアスケート選手がエキシビション演目に、映画「Mary Poppins」の主人公の衣装に扮し、劇中歌に合わせてパフォーマンスしたことを紹介するウェブサイトの記事において、当該主人公のキャラクターを表すものとして、引用商標が記載されている(甲56の1、甲57)。
(エ)各種イベントにおける使用
映画「Mary Poppins」の劇中歌や内容は、小学校をはじめとする教育機関において、音楽会や演劇会の演目にされており、平成6年(1994年)ないし令和2年(2020年)にかけて、ウェブサイト記事、プログラム等において当該映画の題名や、劇中に用いられている曲名を表すものとして、引用商標が記載されている(甲138?甲167)。
また、請求人が2002年から催行しているとされるコンサートツアー「ディズニー・オン・クラシック」のウェブサイトにおいて、平成17年(2005年)ないし平成29年(2017年)にかけて、コンサートのプログラムの紹介記事中に、映画「Mary Poppins」の劇中に用いられる曲目を表すものとして引用商標が記載されている(甲125?甲130)。
(オ)関連商品・役務における使用
「【公式】ディズニーストア|映画『メリー・ポピンズ リターンズ』グッズ特集」のウェブサイト(2019年2月18日付けプリントアウト)において、「映画『メリー・ポピンズ・リターンズ』グッズ!/ポップなイラストが目を引くアイテムや、ユニベアシティのなりきりコスチュームなどが登場!」の記載の下、同映画の関連商品として「ぬいぐるみ」、「ティーセット」、「マグカップ」、「傘」等の画像の表示があるものの、これらの商品中に引用商標の表示は見当たらない(甲41)。
また、株式会社講談社発行の「ディズニーファン2012年4月号」の第33頁及び「ディズニーファン2012年5月号」の第28頁において、東京ディズニーランドの関連商品として、「Tシャツ」、「ルームフェアセット」、「ぬいぐるみ」、「マグ」、「きんちゃく」等の画像の表示があるものの、これらの商品中に引用商標の表示は見当たらない(甲105、甲106)。
なお、「ウォルト・ディズニー・エンタプライズ株式会社」発行(発行日不明)の「Disney Character MERCHANDISE CATALOG/ディズニー商品のご紹介」と題するカタログの記載中に、映画「Mary Poppins」の登場人物の画像と共に、引用商標が表示されているが、引用商標がいかなる商品・役務について使用されているのかについて、具体的な記載は見当たらず、引用商標が使用されている商品・役務は不明である(甲74?甲77)。
(2)判断
上記(1)からすれば、引用商標は、イギリス児童文学におけるトラヴァース氏の著作を原作とし、請求人が昭和39年(1964年)に制作した映画「Mary Poppins」の題名を表すものであり、当該映画は、初公開の後、アカデミー賞を受賞し、我が国において複数回にわたって再公開され、ビデオ、DVDも発売され、平成17年(2005年)には、記念DVDも発売されていること、また、東京ディズニーランド等のイベントにおいて主人公のキャラクターが利用されていること、各種イベントのプログラムに劇中の曲名として記載されていること等からすれば、引用商標は、本件商標の登録出願及び登録査定時において、映画「Mary Poppins」の題名及びその主人公のキャラクターの名称を表すものとして、我が国において一定程度知られているものといえる。
しかしながら、請求人により提出された証拠をみるに、東京ディズニーランド等において請求人の制作に係るアニメーション映画等の関連商品が販売されていることはうかがえるもの、引用商標が商品又は役務について商標として使用されていることを具体的に確認することはできないから、引用商標が請求人の業務に係る商品又は役務の出所識別標識として使用されている事実を認めることはできない。
その他、我が国及び外国において、引用商標が請求人の商品又は役務の出所を表示する商標として使用され、需要者に広く知られていることを客観的に示す証左はなく、引用商標は、我が国及び外国において、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品又は役務の出所を表示するものとして需要者の間に広く知られていたものということはできない。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)引用商標の周知・著名性について
引用商標は、上記1(2)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないものである。
(2)本件商標と引用商標との類似性の程度について
本件商標は、前記第1のとおり、「Mary Poppins」の欧文字を標準文字で表したものである。
他方、引用商標は、前記第2のとおり、「Mary Poppins(メリーポピンズ)」の文字よりなるものである。
そうすると、本件商標と引用商標とは、欧文字においてその構成文字を共通にし、称呼も「メリーポピンズ」で共通することから、両商標の類似性の程度は高いものというべきである。
(3)引用商標の独創性の程度について
引用商標は、トラヴァース氏の著作に係るイギリス児童文学の題名であり、同氏により創作された造語であるからその独創性の程度は高いものである。
(4)引用商標がハウスマークであるか否かについて
引用商標は、映画の題名であり、請求人のハウスマークではない。
(5)商品・役務の関連性、需要者の共通性について
本件商標に係る指定役務は、前記第1のとおり、第45類「乳幼児の保育(施設において提供されるものを除く。),ベビーシッター及びこれに関する情報の提供」である。
一方、甲各号証に照らせば、請求人は、アニメーションを主とする映画の制作会社であり、その業務は、「映画の制作」といい得るものであるところ、「映画の制作」と、「乳幼児の保育(施設において提供されるものを除く。),ベビーシッター及びこれに関する情報の提供」とは、それぞれの目的、手段、提供場所等が全く異なるから、両役務の関連性の程度が高いとはいえず、また、「映画の制作」に係る需要者、取引者と、「乳幼児の保育(施設において提供されるものを除く。),ベビーシッター及びこれに関する情報の提供」に係る需要者、取引者の範囲が一致するものともいえない。
(6)出所の混同のおそれについて
上記(1)ないし(5)を総合して判断するに、引用商標は、その構成文字が映画の題名として知られているとしても、請求人の業務に係る商品・役務の出所を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできず、かつ、請求人のハウスマークとはいえないものであり、また、本件商標の指定役務と請求人の業務に係る役務とは、関連性が高いということはできず、その需要者層が一致するとういうこともできない。
してみると、引用商標の独創性及び本件商標と引用商標の類似性の程度が高く、本件商標に接する取引者、需要者が、映画の題名を想起する場合があるとしても、本件商標の指定役務を請求人の業務に係る商品・役務と結びつけて請求人を想起することはないというべきであるから、本件商標は、これをその指定役務について使用しても、その役務が他人(請求人)又はこれと組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれがあるものと認めることはできない。
(7)請求人の主張について
請求人は、「引用商標は、請求人の業務を表彰するものとして、日本はもとより世界中で著名なものであり、商標権者が偶然の一致で本件商標を採用したとは到底考えられない。請求人の業務上の信用や人気にただ乗りし、その顧客吸引力を利用しようと選択されたものと断ぜざるを得ない。したがって、請求人の商標へのフリーライド及びダイリューションという観点からも、トラヴァース氏はもとより、請求人とも全く関係のない商標権者が、本件商標を商標登録することは到底許容されることでない。」旨主張している。
商標法第4条第1項第15号は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、取引者、需要者の利益を保護することを目的とするものであるから、保護されるべき商標が周知著名であることを要すると解される(知的財産高等裁判所 平成18年12月19日判決 平成18年(行ケ)第10106号)。
そして、本件については、仮に商標権者が映画「Mary Poppins」を知っていたとしても、引用商標は、上記1(2)のとおり、あくまでも映画の題名として使用され、東京ディズニーランドや学校等において、キャラクターの名称や映画で用いられる曲名を表示するものであり、請求人の業務に係る具体的な商品又は役務の出所を示すものとして、我が国において本件商標の登録出願時及び登録査定時において周知著名性を獲得していたものと認めることはできないものであり、また、上記2(6)のとおり、商標権者が、本件商標をその指定役務について使用したとしても、これに接する取引者、需要者が、請求人の業務に係る商品・役務と結びつけて認識することはないというべきであって、当該役務が申立人又は同人と経済的、組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように、その出所について混同を生じるおそれはないものであるから、かかる請求人の主張は採用できない。
(8)小括
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は商標登録を受けることができないとしているところ、同号は、商標自体の性質に着目したものとなっていること、商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については、同法第4条第1項各号に個別に不登録事由が定められていること、商標法においては、商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば、商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法第4条第1項第7号に該当するのは、その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである(平成14年(行ケ)第616号、平成19年(行ケ)第10391号等)。
(2)上記の観点から本件商標について検討するに、本件商標は、その構成態様に照らし、きょう激、卑わい若しくは差別的な文字又は図形からなるものでないことは明らかである。
さらに、引用商標は、上記1(2)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、需要者の間に広く認識されていたと認めることはできないものであり、また、本件商標に係る指定役務は、上記2(5)のとおり、請求人の業務である「映画の制作」とは全く異なる役務についての登録出願であることからすれば、仮に商標権者が映画「Mary Poppins」を知っていたとしても、本件商標の登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くとはいえないものと判断するのが相当である。
そして、請求人の主張及びその提出に係る証拠のいずれを検討しても、本件商標をその指定役務に使用することが、社会公共の利益、社会の一般的道徳観念に反するものとはいうことはできない。
(3)請求人の主張について
請求人は、「赤毛のアン判決」、「ターザン判決」、審査便覧「歴史的・文化的・伝統的価値のある標章からなる商標登録出願の取扱い」を引用して、商標法第4条第1項第7号に該当する旨主張している。
しかしながら、請求人が映画制作会社であり、他社に対して映画の登場人物のキャラクター商品等のライセンスを行っているとしても、その事実から直ちに映画「Mary Poppins」の名称が、「歴史的・文化的・伝統的価値を有し、豊かな文化の象徴となっている文化的所産」に該当するものとはいえない上、引用商標については、上記のとおり、本件商標との関係では、その業務に係る役務とは混同を生じるおそれはないものと判断すべきであり、また、請求人の提出した甲各号証の内容を検討しても、映画及びその原作である小説に係る「Mary Poppins」の名称が、イギリスや米国等において当該国の誇る重要な文化的な遺産として公的に保護され、私的機関がこれを使用することが禁じられているといったような具体的な事実や、請求人が原作トラヴァース氏の著作に係るイギリス児童文学「Mary Poppins」について、著作権を譲り受け、管理し、その商標登録やライセンス等により、その商業的な価値の維持管理に務めてきた具体的な証左は見いだせない。
そうすると、本件は、上記引用の裁判例や審査便覧の場合とは同列に判断できないものであり、かかる請求人の主張は採用できない。
(4)小括
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第19号該当性について
本号は、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)」と規定されている。
そうすると、上記1(2)のとおり、引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、他人(請求人)の業務に係る商品又は役務を表示する商標として、我が国及び外国の取引者、需要者の間に広く認識されていたものとは認められないから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号を適用するための要件を欠くものといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
5 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号、同第7号及び同第19号のいずれにも該当するものでなく、その登録は、同条第1項の規定に違反してされたものではないから、同法第46条第1項により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲

審理終結日 2020-11-19 
結審通知日 2020-11-24 
審決日 2020-12-17 
出願番号 商願2014-11620(T2014-11620) 
審決分類 T 1 11・ 222- Y (W45)
T 1 11・ 22- Y (W45)
T 1 11・ 271- Y (W45)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉本 克治 
特許庁審判長 山田 正樹
特許庁審判官 鈴木 雅也
小田 昌子
登録日 2014-10-17 
登録番号 商標登録第5710595号(T5710595) 
商標の称呼 メリーポピンズ、マリーポピンズ、メアリーポピンズ、メリー、マリー、メアリー、ポピンズ 
代理人 田中 伸一郎 
代理人 松尾 和子 
代理人 井滝 裕敬 
代理人 特許業務法人サンクレスト国際特許事務所 
代理人 藤倉 大作 
代理人 中村 稔 
代理人 苫米地 正啓 
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